無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
就活もろもろであれですが、無理ない範囲で続けていきます。
鉄の味
騒々しい一夜は嘘のように、日は喧騒を置き去りにただ過ぎていく。
陰謀渦巻く闇に飲み込まれ、シャルロット・ローラン改め、シャルロット・デュノアは実の父親の元へとその身をさらわれた。
そして、そんな彼女は今
「………」
…何もない、暇
朝食を食べ、用意された本を読み、さほど興味もないニュース番組で時間をつぶしている。
「……はぁ」
体を預けるソファはどこまでも沈むような柔らかさで、市販でいつける人を駄目にする、そんな謳い文句を頭に浮かぶ。けど、やはり次元が違うのだろう、高級品であるそれは別次元の質だ。
手元に持つリモコンでテレビをザッピングしながら、シャルはソファの上にだらしなく寝そべる。
…黙っても食べる物も着る物も与えられる。これがニートってやつなのかな
少し解釈違いの考えを浮かべる。ただ、過不足の無い環境という点ではその通りだ。
ただし、決定的に欠ける物がある。
「……あの、すみません」
シャルが呼びかける先、硬く閉じたドアでも、小窓すらない壁でもなく、それは部屋の四隅につけられた無粋な監視者にであった。
「すみません、いい加減出してくれませんか!たまには外の空気吸いたいんだけど!!」
決して狭すぎもせず、広すぎもない一人部屋、自分の声がむなしく響くだけ。
声をからすのも無意味、せめても同情を引ければと繰り返す懇願
まるで、というか今の自分は限りなく囚人のそれだ。
「……あぁ」
…出してくれない。脱走しようにも、扉は開かないし
あるのは監視カメラの一方的な視線、ここに来るとき、最低限のものは用意すると言われ、そして気が付けば二日経った。
あの日、実の父親に連れていかれ、その果てにたどり着いたのがこの場所だった。
ヘリを降りる前に目隠しをされ、どこかに降りたり進んだりしていたら、こんな場所に連れられてしまった。
撃ちっぱなしのコンクリート四方の部屋に、申し訳程度の絨毯、ベッド、家具、家電、そして監視カメラ
「……もう、うんざり」
用意されたこぎれいなワンピースを脱ぎ捨て、ラフなキャミソールと下着だけの姿になり、シャルは勢い良くベッドに飛び込む。
…帰りたい、早く、こんな場所
だが、その願いはかなわない。
結果として、こうなることは自分が望んだ結果だ。身を預け、自分はあの男のモノになった。しかし、肝心のあいつは、アルベールはここではないどこかに。
脳裏に残るのは、あの男が去り際に残した言葉
『二週間後、お前の母親に合わせてやる』
二日経った。あと12日、その先に何があるか、その言葉をそのままに受け取るなら
……お母さんの、イリス・ローランの遺産、IS
テストパイロットにでもなれというのだろうか、奇しくも、それは彼と出会う前に思い描いていた絵図だった。
財閥の令嬢にされて、そのあげく汚らしい男のつがいにされたりとか、そういう気配はまだない。というか、大事にされているのか、監視されているのか、まあたぶんそれは後者なんだろうけど
このまま、流れるままに身を任せて、安穏と金持ちライフを過ごすのも、実は案外悪くなかったり
「…………何考えてるんだろ、私」
いいはずがない、そうだ。
どうしてわたしはあきらめているんだろうか。
…なんか、腹立ってきた
押しこめるだけ押し込めて、やはりあの男は父親じゃない。求める本当のつながりなんて、あの男の下では一生得られない。
あきらめてたまるか。まだ、私は終わってない。
……脱走、してやる
いつか映画で見たように、何か月、何十年かかってもいい、あの男の元から離れるためなら何でもやってやる。
表面上は粛々としても、裏の顔ではキバを向ける。シャルの中ではいかに父親と決別をつけることしか頭にない。
「………」
ただ、ただ一つ、このつながりに、惜しむことがあるなら。
「……お母さんの、IS」
あれだけの大人が躍起になって、犯罪まがいのことをしてこだわる物だ。それが、実の母親が、自分を放り捨ててまで夢中になったものだ。
気にならないわけがない。
知りたいのだ。その上で、真実を明らかにもしたい。
何故母親が自分のもとを去ったのか、母は、一体どういう人間だったのか。
父親はもうだめだ、どうあがいても、あの男に救いはない。
だがもし、ただ一つ、母親の秘密に、なにか希望的なものがあるなら、私はすがりたい。血のつながった本当のつながり、せめて、母親ぐらいには
「………ッ」
希望が欲しい。理由が欲しい。証が欲しい。
自分がこの世界に生まれ出でて、そこに願いがあらんことを。自分の存在が、望まれたものであることを
〇
「監視に怠りはないか」
「はい、依然問題はありませんが。」
「ならいい、引き続き、あの子の機嫌を取り続けるんだ。」
「はい、わかりま……」
……プツンッ
「…経過はどうだ、解析は」
通話を閉じ、男は目の前の男に語り掛ける。
「ええ、当時の関係者も集めて、ようやく作業に入れています。ですが」
「……なんだ」
「期日の二週間、さすがに今のペースだと」
「言い訳は聞かん。君たちは言われたことを忠実にこなせ、足りないなら人員を増やせ。できるな、モーレス」
「……わかりました、わかりましたよ、アルベール殿」
履き捨てるように、不満を隠しきれていないこの男、モーレス・ガルディー、彼が対峙するのは自分よりも20も年下の男、アルベールデュノア。
片や私営にして国内シェア一位の軍事総合カンパニーの社長、そもう片方はイギリスの大会社の幹部にして、疑惑の目から針の筵に合っている子悪党
彼らがここに在するのはとある目的のため、目指す目的のために、選ぶ手段には非合法もくそもない。
ガラス張りの先に見えるのは多種多様な機械溢れる実験施設、その中央にそびえ立つ空っぽの鎧、剣をさせに中央にひざまずく姿には神聖さすらある。
「ロックの解除、調整も含めると、まずギリギリです。そちらの事情とはいえ、私もあなた方デュノアの行く末は安泰であって欲しいですから、やるだけのことはしますよ。それよりも」
「…あの子のことか」
「ええ、ISというのは扱いづらいものです。あれは求めるものの願いにこたえる特別なマシーンだ。だから、あの子娘には望んで乗ってもらわなければなりません。たとえ、そのために何を失おうと」
「……ええ、十分承知ですよ。だから、そのために、あの子には行き着くところまで落ちてもらう」
「……父親の、言動とは言えませんな」
取り出した葉巻に火をくべる。さらに一本取りだしたモーレスは、アルベールに向ける。
「葉巻か、趣味ではないが、たまには悪くないでしょう」
受け取り火をくべる。
眼前に移る宿主なき鎧を前に、二人は白煙と共に言葉を吐き出す。
「罪悪感なんてものはいりません。そんなものがあるから、人は止まってしまう。……我々は止まってはいけない。ただ、進み続ければいい」
「……そのお言葉、まるで失ったことがある人の言い分に聞こえますが」
「さあ、そうかもしれんし、違うかもしれません」
煙と共に吐き出す者は何もない。
彼らは既にすべてを切り捨て、自らの益の為に進む獣だ。
止められない、遮る物には容赦なく牙を立てる。
「……そう言えば、聞きましたよ。あの女、なにやら興味深い男を拾ったとか」
「あぁ、確かダリルなんとかの、手足の無い軍人崩れですね。ええ、まだ、覚えていますよ」
「ミラージュから聞きました。あの男がイレギュラーになって、暗殺は失敗になったとか、言ってくれればこちらで処分しますよ。」
「なら、もう済んだことだ。」
葉巻の先が落ちる。すいかけの半端なまま、アルベールは灰受け皿に葉巻を捨てる。
「……処分は通達した。あとは、あの女が処理した事実を信じればいいだけです。」
「信じれば、とは」
「遺体が見つからないみたいで」
「!?……それは、まずいのでは」
「なに、場所は山中で、何もせずとも干からびて死ぬでしょう。ですが、まあそうですね」
もし、万一があるなら
あんな無様な姿の男が、再度私のもとに現れるというのなら。
「もし、そんな事態が来るなら、それは天の意思以外の何物でもないでしょう」
故に、あるはずが無いと、そう高をくくる。
彼らにとって、ここは自国で、邪魔だてするものは何もない。
成功を疑わず、おごりと余裕で思考が支配される。
だから、これは彼らの想定外
ただ一人、意図して行ったかの兵士を除き、誰も彼の生還を夢に見ない。
しかし、現実は
〇
「お嬢様」
「!」
呼びかける声、とっさに振り向く少女は身だしなみを直し、さも何もなかったかのように振舞う。
「な、何かしらチェルシー!」
「…はぁ、またどさくさに紛れてキスでもするおつもりでしたか?」
視線の先、二段ベッドの下で死んだように眠る一人の男性、そしてそのそばに膝まづき寄り添う少女に目を配らせる。
「寝こみを好きにしたいのはわかりますが、さすがに状況を踏まえて「違うったら!!わたくしは不埒なことなんて、ただ心配で……もうッ!!!」
……まあ、そんな甲斐性があれば、今まで苦労もしなかったはずですが
「ええ、承知でございますよ。こちら、食事を置いておきます。お嬢様も何かお口にしてください」
「……ええ」
チェルシーと称される少女、見る物が見れば誰と疑うような私服姿の彼女は部屋を後にする。
残された少女セシリアも、彼女が置いた食事をとろうと足に力を入れるが、すぐにその考えは消える・
……今は、まだ
視線の先、傷だらけの顔には絆創膏を張り、額には包帯を巻きつけた様はまさに重症の患者だ。
「こんな形で再開だなんて、あなたというお方は」
指先が伸びる。頬を撫でるように触れると、その感触は武骨でじっとりと、女の自分とは全く違う。
泥だらけで、所々火傷で傷つき、本当にどんな目に合っていたのか。
「本当に、心配ばかりかけなさるお人です」
どんなトラブルに巻き込まれたのか、聞くことは山ほどある。
だから、早く目覚めて欲しい。願いは、ただそれだけ
「起きてください、ダリルさん。セシリアは、ずっとあなたにお会いしたかったのです。」
膝立ちで、少し顔を彼の方へ寄せる。
こんなに近づいて、起きている時なら絶対できない。ましてや、それが心を許せる殿方で、そしてなにより
「……す、す……な、人」
自分を救い出したヒーロー、どんなにボロボロであろうと、そのかっこいい姿に陰りは見えない。
「…素敵、ですよね……わたくしの見初めたお方ですもの。あなたは、最高の」
…ぱっちり
「とのが………た?」
言葉が詰まる。突然開いた視線に掴まったように、セシリアはその場で動けない。
「………ッ」
これ、起きてますよね。いや、でも反応が
「………せ」
「!」
…まさか、これ
「セシリア!!!」
「!?」
ガツンッ!!!?!?
「…痛っ!?」
「―――――ッ!!!?!?」
……あれ、今セシリアが……というか、なんだこの覚えのある痛み
「また、またですのぉ……ッ!!なんで、こんなあぁあああぁああ」
「?」
床でのたうち、悶絶している少女の悲鳴も上の空に、ダリルはぼやけた意識で現状を確認する。
生きている、でもここは
視線を左へ右へ、どうやらここは宿舎のような場所で、そして自分は今
…包帯、治療されたのか
体を起こそうにも、上手く先に力が入らない。
「………」
次第に、未だつもり消えきらない疲労に負け、ダリルはまた瞼を下ろす。
その後、痛みから復活した少女にたたき起こされるまで、ダリルはまた静かな眠りにふける。
「……ひぐっ、鉄の……鉄の味がしますわぁ……なんで、三回も、ぐすんっ……チェルシー、チェルシー」
次回に続く
今回はここまで、新章というにはあまり進んでない気がしますが、とりあえずここで切ります。次回、もしくは次々回、展開が大きく動く予定ですので