無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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はやくIS出したい。


ボーイミーツガール?

 

 

 アフリカ大陸、南部の位置に有する小地域、鉱山資源といくつかの一次産業で成り立つ小国家、そこがダリルの現在位置であった。

 

 街中には黒人から白人まで多種多様な人種が多く、もともとイギリスの植民地政策の名残なのか文化が入り混じった交差点のような気風があり、実際ダリルが接する人物のどれもが多様であった。そのあたりは、人種も言語も入り混じる宇宙世紀の文化圏で生きたダリルには肌になじむ空気がある。

 

 この地で目を覚まし、フィッシャー(そっくりさん、というには似すぎている)と懇意になり、気が付けばすでに時はひと月ほどたっていた。

 

 いまではすっかりこの土地柄に染まり、初任給で買った私服をまとい、修理依頼したラジオの受け取りのために街を訪れている。もろもろと雑多な用事を済ませ、今は馴染みのカフェでアフターヌーンティーに心を落ち着かせている。

 

 

 

「……うまい」

 

「だろ、ずっと粉塵と汗臭さにうんざりしている俺らにはちょっとしたガス抜きだ。」

 

「確かに……」

 

 鉱山の業務は中々に過酷である。ダリルたちが所属する会社、イギリスに本部を置くオルコットカンパニーが出資する鉱山経営会社、そこで主な業務として重機作業、EOSというパワードスーツを使った運搬、切削作業が主だ。

 

「……仕事は良い。EOSの操縦は苦じゃないし、性に合ってる。だけど」

 

 ディーゼルエンジンの熱気、質の悪いオイルを焚く悪臭、しまいには鉱山での粉塵やガスから守る防護スーツ、その構造故に肺をやられる前に血液が沸騰して人体発火しそうなほどの熱気

 

……いくらなんでも設備が劣悪だ。これなら安物の宇宙服の方が快適だ。

 

「まあ、それは言っても仕方ねえ。所詮俺らは現場職員でしかねえ、食っていくには妥協と適応だ。ダリル、冗談でも陳情なんざやめておけよ。ここで食っていくなら俺たちは高望みしちゃあいけねえ」

 

「……ああ、わかっている。」

 

 義手に力が入る。今ダリルが付けているのは五指が備わった精巧な電動義手である。バッテリーの交換手間と重さに目をつぶればそれなりに高価な代物だ。サイコザク搭乗用の義肢では当然歩くことも掴むこともできない。故にダリルはローンを組み、一切を会社に任せることになった。

 

 鉱山会社にはダリルやフィッシャーと同じ境遇、つまりは義足や義手、曰く付きの労働者が多い。親元の会社系列にメディカルテクノロジーの会社があるためか、途上国にもかかわらず試験用で高性能な義肢が手に入るのだ。

 

 だが、もちろんそこには金銭という重いくさびが埋め込まれている。少なくとも、ダリルが組んだローンはざっと先進国の中流層の人間の年収程は余裕で達している。物価の低い小国では到底返せない代物だ。

 

「しかし、お前さんの腕、やけにいい奴じゃねえか。肘から先があるならもっと安い奴があっただろうに」

 

「……しかたないよ。前の義肢を繋ぐためにそう言う手術をしたんだ。むしろ、神経系の接合部がちゃんと機能したことは幸運だった。義肢の為に再手術なんて勘弁だよ。あの会社の医療施設、あそこは葬儀場と共同経営でもしているのか?」

 

 衛生観念の欠如、麻酔は当然なし、代わりに頭が気持ちよくなるお薬を少々、しかもそこの医者もつねに意識が火星に飛んでいる。野戦病院がVIP待遇並みに思えるほどである。

 

「ギャハハ、そうだな!まともな神経ならあそこで金は使わねえ。自分の棺桶を値踏みするみてえなもんだ!!」

 

「…少なくとも、何度も拾われた命なんだ。精一杯大事にするよ。じゃあそろそろ行こう、買い出しでダラダラしすぎたらまた班長にどやされる」

 

「あ? たく、まじめだねえ。おいちょっと待てって…!!」

 

 

 車に乗り町はずれの鉱山に向かう。いつもの日課、帰るべき場所、これがダリルの得た新しい環境であり、そして行き詰まりでもあった。

 

 

 

 

 

 

「おい、新入り!!」

 

「え、はい」

 

 汚い怒声を浴びせたのはこの鉱山の経営主任ヨハン・ガレ、社長という立場に胡坐をかいた見るからにの狸おやじだ。

 

 

 

「なんですか社長」

 

「おめえ、今からどこ行くんだ。」

 

「えっ…班長に言われた買い出しに、EOSの修理パーツを「んなもん誰が許した!?」

 

 ずかずかと近寄り自分の胸ぐらをつかむ。圧をかけているつもりなのだろうが体躯の小ささから少し情けない絵面だ。

 

「んなムダ金使う余裕はうちにはねえ! 手前もさっさと作業に戻れ!!

 

「いや、でもこれは班長の私財で」

 

「そんな金があるなら足のローンに使えってんだ。おいお前ら!!」

 

他に持ったメガホンで当たりの作業員全員に声をかける。

 

「当面はずっとだ。おれが良いというまでこの山から誰も降りるんじゃねえ!!納期にまにあうよう死に物狂いで働け!!いいな、かってに仕事から抜けた野郎は問答無用でぶっ殺す!!わかったかあッ!!!」

 

 音にして数発、懐から取り出した粗末な拳銃で空に発砲する。鉱山で働く男なら腰を抜かすことも委縮することもないが、どうにも社長のその振る舞いには疑問を感じずにはいられない。

 

現場から立ち去る社長をしり目に皆が思い思いに口ずさむ。

 

 

 

…社長の野郎、急にヒス起こしてなんだってんだ。

 

…大方、上から無理な納期引き受けて真っ青になってるとか

 

…くそ、今更だが仕方ねえ。お前ら、ケツ蹴られねえ程度には働くぞ……!

 

 

「……ッ」

 

「はぁ~あ。面倒だがしゃあねえ、ダリル、お前さんは初めてだよな」

 

 横からぬっとあらわれたのは自分の上司、一番の古株でEOSのエンジニアリングを引き受ける頼れる人材だ。白髪としゃがれた声に腿から下まで伸びる電動の義足、ボロボロの作業服が年季を感じさせる。

 

 

「班長、社長はいったい何を…というか、みんなあまり動じていないっていうか」

 

「あー、この時期になったらこういうのがあんだよ。町の方でよ、お偉いさんが視察に来んだよ。だから俺らはこうして山に閉じ込められる。」

 

「それって、不正を…」

 

「ああ、あいつ…俺らの上りも袖に入れてやがるし、この義肢だっていくつかマージンを取ってやがる。たたけばいくらでも埃は出てくらぁ」

 

「じゃあ、告発とかしないんですか?」

 

「いやな、昔それで経営者が変わったんだがよ。…変わった上であいつなんだ。つまりは無駄ってことさ、むしろ今がいい方だ。社長のガレは小心者の欲張りだが、せしめちゃあいるがそれも本社にばれないように微々たるもんだ。」

 

「……はあ」

 

「しかもあいつ、俺らが本気で反抗してこないよう着服する量も2割から3割、あいつがいつも銃を持ってんのは俺らを従わせるためじゃねえ。リンチに遭うとき、楽に死ねるように自決用だって噂もあるぐらいだ。そう思えばむしろ可愛げすら感じらぁ。」

 

「……だいたい、わかりました。皆さん、ほんとによくこんな所で」

 

「おいおい、同じ立場の癖に同情はなしだぜ、ここにいんのは全員傷痍軍人、ただでさえ働き口が狭いこの世の中だ。ハンディキャップがある俺らが毎日肉と野菜が食えて酒が飲めるのはここのおかげだ。」

 

「……すみません、いらないことを聞きましたね」

 

「まあ気にすんな。お前さんは心根が優しんだな。それよか、ほれ」

 

ポケットから出したモノ放り投げ、義手で器用に受け取る。

 

「キー、でも外には…」

 

「一人ぐらい抜けてもバレやしねえ。裏の搬入口から回り道してぬけでりゃあいい。そんで皆の分の酒と食い物をしこたま買ってこい。」

 

「でも、良いんですか。食べ物はまだしも酒なんて」

 

「いったろ、小心者だってな。ここから出なけりゃあいつは余計なことはしねえ。それに、せっかくだから今日はお前さんの歓迎会もしたい。一か月まともに働いたお祝いさ、せいぜい酔ってベッドに連れ込まれねえよう気を付けな」

 

「はい、その日は部屋に鍵を閉める予定なので、安心してください。」

 

「…言うねぇ、ガハハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでリストは全部。あとは…」

 

「あら~ダリルじゃない!」

 

「…マダム、こんなところで奇遇ですね」

 

「いやぁあんもう、キャサリンでいいわよ。あたし、あなたに会えるのいつも楽しみにしているんだから。」

 

 ずかずかと体重に見合った足音を鳴らして自分に近寄る。覚えていないが、街中で自分を見つけたのがこの御仁らしい。ときおり、この人の酒場に飲みに連れていかれるが、たいていこのようにじっとりと近寄ってくる。どうにも、僕らのような傷痍軍人の鉱員という屈強で武骨な人間が大の好みらしい。正直苦手なのだが、恩があるため中々に行為を無下にできないのだ。

 

「あら、お酒にお肉に、こんなに買って……ああ、毎年恒例のあれね、謹慎中のお楽しみでしょ」

 

「ええ、いまから買い出しの戻りで、そろそろ行かないと」

 

「もう、いけずね…ちょっとぐらいお茶に付き合ってもいいじゃない。ほら、こっちにいいお店あるから。」

 

 結局、そのまま無理やり手を引かれ、荷物を抱えたまま大通りに向かう。だが、そこには

 

「…あら、やけに人が多いわね。」

 

 街を埋め尽くす人並み、特に気になるのはちらちらと混じる報道関係と思しき人達、がんカメラを構えて何かを待ち受けているようだ。

 

 

「こんなに人が、まさか視察に大物女優でも来るのか」

 

「あら、いい線いってるわ。半分当たりよ、ほらあそこ」

 

マダムの指さす先、そこにいるのは…

 

「少女……あれは」

 

「ええ、オルコットカンパニー次期代表取締、セシリア・オルコット。イギリスの名門貴族のお嬢様でしかも代表候補生、こんな偏狭な場所に来るにしてはかなりの大物ね」

 

「代表候補生……それって」

 

「あら、知らないの…それはもちろんISの搭乗パイロットよ」

 

「アイエス……あれが、それの」

 

 

 この世界に来て、ダリルは色々と世界情勢について調べまわった。元の世界に帰る方法、その手掛かりになるかはわからないが、とにかくやみくもにこの時代の知識を調べ上げた。

 

 そして、その中でも特に…むしろ異質ともいえる概念がそこにはあった。

 

 極東の地域で開発されたパワードスーツ。だが、その性能たるやダリルの時代にある機械文明に匹敵するほどの超のつくテクノロジーがそこにはあった。

 

 単独で音速の飛行、物質の量子変換技術、搭乗者を守る絶対防御など、ダリルから見て中世ともいえるこの時代に見るにはあまりにも異質であった。

 

 さらに、この世界における軍事バランスはこのISが握るに等しい、その構図は未来におけるMSのようなものを感じさせる。だが、決定的に違う点が二つ、それはISという兵器の有限性、稼働に必要なコアの個数が限られている点、そして

 

 

「女にしか乗れない欠陥兵器、軍人からしたら考えられないですよ」

 

「あらあら、そんなことどっかの国でいってみなさい。ひどい目に遭うわよ。」

 

「?」

 

「おかしい話だけど、今の世の中あのISのせいで勘違いしてる人が多いのよ。女尊男卑だって、まあこの街じゃ無縁だけどね。男と女違いこそあれどっちが上なんてのはない。そんなのは当人次第よ。まあ私はあなたになら上になられてもいいわよ」

 

「……素敵な提案ですが、遠慮しておきます。今度、班長にでも言ってあげてください。」

 

 そんな冗談めかしたやり取りをしたのち、僕らは大通りを後にした。振り向き、遠めに眺めるセシリア・オルコット、その大衆に振りまく毅然とした振る舞いに違和感を覚える。

 

 その後、ダリルは帰路に着く。車に乗りながら、ふと頭の中ではあの少女が思い浮かぶ。

 

 金髪碧眼、貴族らしい振る舞いのそれはまさに住む世界が違っていた。けれど、それにしたって彼女はまだ乙女だ。ジュニアスクールに通うような年頃で、会社やらISやらと、あまりに背負うものが大きすぎる。

 

 

「……あの子、笑えていないよな」

 

 近しい誰かと重ねたわけじゃない。ただ、あのくらいの年なら普通に同年代と笑いあって、明日のテストや恋愛ごとに一喜一憂する方が、形式ばったドレスよりもそんな平凡を送る制服姿の方がどんなに似合うことだろうか。

 

「……」

 

 IS――あの手足があれば、自分もまたあの時のように自由になれるのだろうか。

 

 リュース・サイコデバイス、四肢の神経系を直接MSと接続させ、ゼロコンマの狂いもない完全な操作が可能になる。文字通り、MSと一体化する究極のマシン

 

…できるなら知りたい。無理とはわかっているが、あれに乗って見える景色を、俺は見てみたい。

 

 

たとえそれが、もう一度戦いの世界に身を置くと知ってでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 中央街、高級ホテルの最上階

 

 

「ふぅ…」

 

「お嬢様、湯を済ませたのならバスローブを」

 

「…はいはい、ちょっとぐらい涼んでもよろしくてはなくって」

 

「いけません。当主がプライベートでは裸族で風邪をひいてしまったなど、そんな言い訳をわたくしたちにさせないでください。」

 

「……わかりましたわ。…しっかし、安物ですね」

 

 クラシックなメイド服をまとった女性からバスローブを受け取り、発展途上なその体を覆い隠す。ソファーに座り、濡れた髪をメイドがタオルで包む。

 

「んっ、チェルシー……飲み物」

 

「はいはい、お嬢様」

 

 髪の手入れをしながら器用に主のもとにストローを近づける。乾かし、髪をすいて、されるがままになりながらセシリアは女性誌をペラペラとめくる。

 

 

「……今日もお疲れさまです。よく、がんばりになられましたね。」

 

「ええ、本当に……海外の視察がここまで疲れるとは、というより、関係各所のあいさつ回りだけでまだあるなんて」

 

「それだけ、先代の人柄がすばらしきものだということです。だから、お嬢様にはここに来てもらう必要がありました。副社長も、それが狙いだと」

 

「……ええ、オルコットの力、その全容を知るためにも、ここのレアメタル産業は重要です。こうした辺境にも赴く積極的な姿勢、未だ現当主を認めない輩にわたくしの行動力を、ひいては現当主セシリア・オルコットの威光を示さなければならない。よく……よく、わかっていますわ」

 

「……お嬢様」

 

「そして、そのためにもこの視察中に鉱山の実態を暴きます。不正を許さない徹底した姿勢、それを示すことで内部の引き締めを果たします。寝首を掻くやからを牽制するためにも、今回の視察は成功させなければなりません」

 

 幼い少女から出る言葉にしてはあまりにも重く、理路整然と語るその有り様はまさしく貴族然とした、先代の意思を受けついだそのすがたはノブレスオブリージュそのものだった。

 

「……とにかく、視察の期間中に鉱山の実態を把握しないといけませんわ。チェルシー、ヨハン・ガレからはどのように」

 

「はい、視察の申請はしているのですが、未だに先伸ばしで、視察場所も街の方にある本社のビルだけとの一点張りです。」

 

「……それでは意味が無いのです。やはり、無理やりにでも立ち入るほうが」

 

「いえ、それでは監査と警戒されて口裏を合わせられます。それに、曲がりなりにもここは他国です。一民間の企業である我々にはできることが限られています。」

 

「…癒着、ですわね。せめて、鉱員の人に話を」

 

 だが、そうしようにもあの社長はこの時期には社員を山から出さない。一人や二人ならこっそりと抜け出しているかもしれないが、行動を限られる立場でいるかいないのかもわからない人物を探し出すのは非効率だ。

 

「…はあ、せめて一人ぐらい話を聞きたいものですわね」

 

 映像なり記録なり、誰か一人でも証言が出れば不正は明るみになるはず。一人が立ち上がれば、後に続くものもあらわれる。とにかく今はきっかけが欲しい

 

「せめて、せめて一人ぐらい……」

 

「一人、ですか……」

 

「ええ……」

 

「……あてになるかわかりませんが」

 

 小型の端末を取り出す。往来での遊歩の際に、ふと警戒用の全周囲カメラに残った映像

 

「……お嬢様、これを」

 

「……これは」

 

「あの時、人込みの中で見えたのですがこの男」

 

「この男がどうし……義手? まさか」

 

「はい、おそらくは」

 

「これは…うちの系列で卸している義手、ですわね。」

 

「ええ、つまりは…この男性は間違いなく」

 

 写真に映る義手の男、この街でこのような高価な代物を付けているなら、それは間違いなく。

 

「…チェルシー、命令です。視察中にこの男と接触がしたいですわ」

 

「しかし、また来るのですか?」

 

「それは……ですが、手がかりになるのは確かです。この男の持つ袋、確か」

 

 画像情報を切り取り、検索にかける。そしてすぐに情報が出る。この地域に唯一あるスーパーマーケットで使っている袋。ロゴマークからそれがわかる。

 

「でましたわ。ここに通っているなら待ち伏せできます。」

 

「……お嬢様、言った手前の私が言うのもなんですが、本当に」

 

「ええ、部下を数人、この場所で待機させてくださいませ。見つけたらすぐに確保ですわ!」

 

「………お嬢様、それは」

 

「いいですこと、ぜっっったいにしくじりませんことよね。では、私はそろそろ床に就きますわ。おやすみなさい、チェルシー」

 

バタン!…と、お嬢様は部屋にこもってしまった。

 

「………」

 

確保、ですか…

 

 見知らぬ他人に待ち伏せされ、当人の意思なく連行される行為、人はそれを拉致と呼称する。

 

「……はぁ」

 

…はっきり言おう、あのお嬢様は見た目も麗しく器量もいい。ただときおりこうした突飛なことを言ってしかもそれを間違っていると疑わない、性格も基本はいい子だが若干めんどくさいところがありよく誤解される。まあ、それもまとめて一つの愛嬌という奴だ。

 

 

 

 そういうわけで、いかに命令とはいえ拉致の強硬はいささかやりすぎだ。しかし、現状これ以上の手はないのも確かである。一応、見かければ交渉程度にとどめるが、最悪逃走されれば強硬手段も辞さない。

 

「…仕方ないですね。これもお嬢様のため」

 

…一年前、事の始まりは去年の事故で先代当主とその夫人が命を落としたこと。そこから始まった。

 

 オルコットカンパニー、先代当主の跡をわずか13歳で襲名したその長女セシリア・オルコット、貴族特権の領地経営から名をはせ、代々受け継いできたカンパニーはいくつもの企業と人員が入り混じり、中にはセシリアを面白く見ないものもあれば、若き当主に取り入りその財産に手を出そうとする輩がそころかしこに溢れていた。

 

 しかし、そんな境遇にありながらもセシリアはめげずに戦い続けている。代表候補生と当主としての務めという二足のわらじを履きながらもここまでこぎつけていたのだ。

 

 この視察に成功すれば少なくとも敵を減らせる。それはオルコットの名を守り、またセシリア自身の自由にもつながる。

 

 

…一人では無理、だから味方が必要なのだ。

 

 

 心から信頼できる味方を、あの人を…あの娘を孤独にしない本当の親友を

 




今回はここまでです。セシリアのバックボーンはとりあえずwikiで調べても特になかったんでだいぶ捏造する予定です。次回からダリルとセシリアの会合です。
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