無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
いつの時代も、社会の闇というものは大抵地下に潜むもの
それはここも例外ではなく、このルーブル美術館の地下にはひそかに作られた商談の場がある。取引のタネは多種多様に、汚れた金を洗浄する金銀財宝芸術至宝、なんでもござれだ。
表の世界は知りえない、彼の国際的に名高い文明の保管庫の下に、非道にまみれた欲望深き坩堝があることを。そして今宵も、今日という日は闇の世界で最も晴れやかな悪行に染まる。
人身売買のオークション、そして最後にはかの兵器開発の名士、イリス・ローランの作り出した最新器、そのお披露目とあれば我先にとVIP達は座席を奪い合う。
× × ×
満員の観客席、オペラハウスを思わせるその広大で厳かな内装とは反対に、そこで行われる光景はどこまでも醜い。
きらびやかに飾られる少年少女、けれどもその顔には悲壮さか、どこまでも深く陥った絶望のみ
「さあさあ! こちらのインド系のティーンエイジャー、3000以上の方は……ない!ハンマープライスです。では、次の商品を……」
「……ぁ、いぁ……助けッ」
壇上の上では、煌びやかなドレスと重く武骨な鎖を身に着けた少女たち。自分を買った男の醜悪な顔立ちに耐え兼ね、少女は正気を戻し意味の無い抵抗を叫び散らす。
散らして、けれども空しいままに連れていかれ、そして次の商品が並ぶ。
観客たちにとって、その一部始終すべてが享楽のタネであり、ぎらつく宝石を収めた手を掲げ、この狂った狂宴に心酔していく。
下卑た男達の歓声、上に立つ醜い強者たちの群れ
……くだらん、所詮は家柄だけの無能共か
バックヤード裏、表の文化的な意匠を凝らした区画とは違う、味気の無い人工的な区画、その中の一室、VIPルームともいえるその場所、アルベール個人の執務室にあっても漏れ聞こえる歓声は耳にざらつく。
「こればっかりはどうにもならん。地下ゆえに空調の作りがな、どうしても音を拾ってしまう」
「……」
「会話すら、する気もおきんか。まあいい、従順にしておけ、お前の披露目はもっと先だ」
目の前で、談話用のソファーで拘束されたまま静かに座る13の少女、実の娘であるシャルロット・デュノアを前に、アルベールはただ冷ややかに言葉を贈る。
「……ふん」
打って変わって物静かになった娘の態度がどこか面白みに欠ける。アルベールは手持ちの端末で今宵の催しの予定に目を通す。
今、劇場で行われている売買の場も、このアルベールが企画して始めたもの。だが、始めたきりその仕事は部下に押し付け、関心はない。
この場にいるのも、アルベールにおいて慰め物の奴隷を売りさばくよりもずっと、この機械を披露することに重きがある。
「……もうじきか」
ルーブル地下、その地かの全貌は来客用の劇場スペース、そしてそれより下が研究施設と、表ざたになればどれほどのスキャンダルか、一国の首都にこれだけ大規模の非合法の施設が建てられてるのだから、だが現に明るみに出ないのも全て、この男の手腕とも言える。
そして、その地下の最奥で今、今宵披露する物の最終調整が行われている。
あと、時間にして一時間、時が来れば彼の少女に期待を纏わせ、模擬戦を披露する。
リユースサイコデバイスがもたらすISのさらなる進化、イリスの編み出した悪魔の開発の全貌が今、闇の世界で広まる。
そして、その過程で少女の手足も
「……シャル」
返事はない。しかしアルベールは続ける。
まるで、これが実の娘との今際の会話のように。
「……感謝する。お前と、お前を生んだ母親に」
〇
……二十万ドル、二十万ドル以上の方は!
司会が叫ぶ、劇場で手を上げる者は自分以外誰もいなく、すぐに落札の鎚の音が響く。
残りの商品には興味はないとばかりに、その落札者はVIP席から離れる。その男こそオルコットカンパニーの上役にして、アルベールとの共犯者の古狸、モーレス・ガルディーその人だ。
傍に立つ部下の男に告げる。モーレス・ガルディーは劇場を離れ、向かう先はレストルーム。
豪壮なフロアのとある区画、そこには一流ホテルにも匹敵する部屋が設けられ、だがその用途は宿泊ではなく、いうなればお試し部屋というべきか
「……下がれ、終わるまで誰も入れるな」
黒服数名がモーレスの声で姿を消す。この場において護衛は不作法、なぜなら
「久々の楽しみだ……なあ、お嬢さん」
「……ッ」
キングサイズのベッドの上で、目隠しと猿轡を付けられた女性が怯え佇んでいる。発育の良さを思わせる若い果実、プラチナブロンドの挑発は彼の人物を、モーレスが忌み嫌う現当主の小娘を思わせる。
似た姿、肉付きがいささかよすぎるが、まあこれはこれでいいと。あの目障りな当主の花を手折るなら、このぐらいが食べ頃だと、下卑た思考にふける。
「アルベールめ、なにが色遊びは控えろだ……ここまで来て、何が備えろだ」
敵が動いている、最後まで油断するなと、だがそんなことは知ったことかと
「誰も止めやしないさ、ならもういいだろう、私は我慢が嫌いなんだ。……なあ、お嬢ちゃん」
外国に来て、本国の人間に付きまとわれ、しかしようやくここまで来た。表上の立場は芸術振興の文化人、その名士として挨拶回りだの、その合間に彼の計画を指導したりと、ここまでとかく余裕のない日々であった。
もはや、自分たちの企てに手を出せる者はいない。この場にいる限り、誰も手は出せない。
あと数分もすればことは終える。あの娘は真の傀儡として完成し、アルベールは真にこのフランス国を牛耳る存在に変わる。
そうなれば後は簡単だ。自分はここフランスにいたまま
亡命を申告し、手土産にイギリスのBTの技術を盛大に漏洩させる。
イギリスを出し抜くこの工作を功績にし、あとは悠々とセレブ暮らしに骨を休めるだけ。そして今行うのは、その前祝いというべきか
「――ッ」
「騒いでも無駄だ、買われたのなら大人しくしなさい。なに、悪いようにはしない」
取り出したるは革製の躾鞭。モーレスの脳内は己の嗜虐で泣き叫ぶ少女の悲鳴と嬌声にまみれている。
わざわざ選んだプラチナブロンドで碧眼の少女、うがった欲望をぶつけ、いつかあれ本人をいたぶりたいと夢に見る。
「セシリア・オルコットめ、お前は最後だ。落ちぶれたが最後、手を指し伸ばして、ゆくゆくはお前を飼いならしてやるッ」
「!」
ベッドに飛び乗り、少女の服を引き裂く。煌びやかなドレスは無残に、艶やかな肌と扇情的な下着のみの姿。
「んんッ!」
「はは、いいぞ……さあ、目隠しを取ってやる」
タオルの結び目をほどき、露わになった目元はぐっしょりと涙で張れて、その目つきは怯えと怒りが半々に満ちている。
モーレス好みのシチュエーション、昂ぶりは醜く、全裸の体の一部はグロテスクな変化を魅せる。
「脱ぎなさい、自分で……ほら、はやくなさい」
「……ッ」
抵抗空しく、女性は観念したかのように、その下着に手をかける。肩ひもおろし、その形のいい乳房を今
「見ないで、お願いッ」
「……ふざけるな」
「!!」
強引にブラをはぎ取り、モーレスは女性を押し倒した。馬乗りになり、四つん這いで覆いかぶさる姿はまさに獣
「調教がいるようだ、いつもは時間をかけて汚してやるのだかたまには良かろう、その花、今ここで私が手折ってやろうッ!!」
生意気な娘を強引に犯す、強行、強姦
欲のたぎりをぶつけ、徹底的に壊さんとする。故に、モーレスは気づかない。下のショーツを剥ぎ取ろうとしているすきに、彼女の谷間から覗く小さな銃口が、自分を定めていることを。
「……愚かな人」
「!」
勢いよく、空気が抜ける音が数発
胸部に走る痛み、自分の胸板に何か、針のようなものが数本刺さっている。
「ただの麻酔針です、ご安心を……モーレス様」
どさりと、巨漢の退場を押しのけ、その下から這い出るように女性は抜け出す。
……わかっていたとはいえ、嫌な役です。
愚痴を漏らしながらも、行動は続ける。もはや不要のカツラを捨て、千切れたブラはその場のドレスの切れ端で代用。上からバスローブを纏い、ひとまずの着替えを追える。
「……はぁ」
……臭い、あの男の体臭ですね。
今すぐにでも体を清めたい、そんな欲求を押し込め、チェルシーは次の行動に入る。
「ビリ―様、セバス様、状況はクリア、お入りになってください」
閉じられた戸が開く。速やかに部屋に入った二人の男、特殊作戦用のスーツを纏う二人。入ってすぐ、二人は申し訳なさそうに目を逸らす。傍に転がる汚らしい裸体の男を見て、だいたいのことを想像してしまったのだろう。
「同情は結構です。すぐに行動を、そちらの収穫は」
「……もちろん、全部コピー済みだ、セバス」
「ええ、ここの名簿、それと会話記録から何まで、証拠となる物は片っ端から収めました。そこのモーレスと合わせて本国に持ち帰れば、さぞ外交官はお喜びになるでしょうな」
取り出したのは一枚のディスク、その一見小さな成果にひとまず安堵を覚える。
作戦の第一目的の達成。これでモーレスの反旗は未然に潰した。
しかし、目的は未だ残る。
モーレスともう一人、此度の件も、遡ってあの子を死に貶めようとした。イリス・ローランの遺産を用いて、己が娘に非道の轍を刻ませようとする咎人
「……動きましょう。私たちは予定通り、このまま脱出ルートで彼と」
「あぁ、上手くやってくれるといいんだがな」
「ビリー中尉」
「本国からすれば、この作戦はこれで及第点だ。チェルシー嬢、最悪のケースは考えてください。ダリル・ローレンツと、あのイリスの落とし子を捨てる場合も」
冷たく、無情なまでの発言
しかし、ビリーの発言もまた真実だ。すべては国益のため、彼らは本来そのための組織、軍人なのだから。
「ええ、承知しております」
「なら「ですが、それは杞憂かと」
すべては動き出した。サンダーボルト地帯、南米鉱山で見せた彼の奇跡を
セシリア・オルコットを救い、そして今もまた一人の少女を理不尽から救おうと、その偽りの手足で駆け抜け掴もうとしている。
……あのお方であれば、きっと成して見せます。
「ふん、楽観でないことを、俺も祈るよ」
「ええ、そうしてくださいませ」
× × ×
「……くしっ」
『ダリルさん?』
無線に走ってしまった不快音、通信越しとはいえ鼻音を聞かせてしまった
「……すまない、誰か噂でもしたのかな」
『かもしれませんわね、今頃チェルシー達は』
「ああ、予定通りなら」
状況を再確認、機体は万全であり、第二段階の目標にも動きを観測。
……ガレ社長の情報通り、これで全てがうまくいく
あの日、助けると誓って、ついに来たエックスデー。入念な準備、身に纏う手足はなんとも頼もしい。
「アルベール、お前の描く未来は来ない。俺が、俺達が潰してやるッ」
ここまで隠密に、見事なまでにオーシャンズをこなしてきた。だか、俺たちはクールにことは運ばない。
このフランスに来て、幾多の物語を経てきた。心地の良い時間も、凄まじいまでの辛酸も、何もかもを経てきた。
これが最後であるなら、その結末は生半可じゃ満たされない。
「……派手に行こう、セシリア」
今だけ、戦場でハードセッションを求める心境を理解できる。
だが、外連味のあるジャズよりも、もっとハートを熱くする爆発が、今の俺達には欲しい。
『選曲、お任せしますわ……私も、同じ心で、ダリルさんと同じ心を』
「ああ、ならこれがいい」
古い曲、この時代で言えばごく最近のロック。激情的な歌詞が、今ほど刺さる時はない。
……暗闇のなかでハートを燃やせ!
……お前の炎がさまよう友を照らすだろう
「……掴んだ手は離さない」
『友に駆ける戦禍の轍、果てに見るのは勝利の頂』
……ハートを燃やせ、ハートを燃やせ
「さあいくぞ、俺達のハートを……!」
『ええ、燃やしてみせますッ、燃やせ、燃やせ!!』
「燃やせ!」
『燃やせ!』
今回はここまで、次回は明日に、ハートを燃やせ!