無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
反撃の円舞曲はやや速く、アレグレットからさらに加速していきます。
涙もながし続ければいつかは枯れる。
深い悲しみにえづきつづけるうちに、体のほうが流すことをやめてしまった。
希望という言葉を捨ててしまってから数日、与えられた食事を体に流しいれ、言われた作業を言われたままにこなす。そんな単調な日々はあっという間に、そして最後の日は嘘のように早く回ってきた。
舞台はこの上、研究施設の上にあるという非合法の劇場で、あの男の用意した演目通りに、そうつまりは、明日この手足がなくなってしまう。
救いはない。
誰も助けに来ない。
私はもう人じゃなくなる。手足を失ってあの男の傀儡になる、自由を文字通り奪われるのだ。
だから、もう希望にすがるのは辛いから、考えるのをやめた。でも、それなのに
……ママ、いかないでママ
「…………ッ」
見てしまった。時刻を示す針はまだ深夜、うなされて目覚めるのはこれで何度目か
夢は目覚めれば記憶に残らない。だけど、この記憶は、あの時の映像が、ずっと粘着質に張り付いて消えない。
……なんで、またあの夢を
あの日、あのISに触れてからこればっかりだ。もう希望なんてないのに、まだ自分はあの女にすがろうとしている。
自分と同じような顔で、なんの疑いもなく純真に寄り添おうとする姿が、どうしても認められない。
すがって、スカートの布に顔をうずめて、そんな過去の自分に決まってあの女はこういうのだ
……ごめんね、ママは少し出かけないと……でも安心して、ちゃんとあなたのことを
「嘘だ!」
幻想に向けて枕を放り投げる。床にグラスが落ちて割れる音が耳を突く。
こればっかりだ、どうしてまだ自分は
「やめろ、期待しちゃダメなんだッ」
……信じて
「私には何もない、あるのは生まれの呪いだけ……何もないッ」
……私は、ずっとあなたのことを
「嫌いだ! 世界も何もかも、私を否定するすべてが大っ嫌いだッ」
……愛している、私のかわいいシャル
「!?」
落ちた破片を握る。その切っ先を、左の手の甲に何度も
消えろ
消えろ消えろ
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ
「ーーーーッ!?」
吹き出す血が幻想を上書きする。
……消えたい、消させてッ
ぼやけた意識の中で、自分が誰かに組みふされるのを感じた。抵抗をしてみるがむなしく、針で何かを打ち込まれると残った意識も消えていく。
「……ッ」
誰も助けない、救いのない理不尽な人生なんてだれも望まない。
願わくば、この消えゆく意識とともに
……もう、いらない
シャルロット・ローランも、デュノアも、すべて消えさればいい。
〇
―当日―
……お前とイリスには感謝している、お前たちがいなければ、私はここまで来れなかった。世界に冠たるデュノアが、今宵ここで始まるのだからな
「……」
心にもない、どこまでも独善的な発言、否定する気も反応する気も起きない。今となっては、それがきっと、あの男との最後の会話だろう。
ステージの上、観衆の視線にさらされ、思うのは自分自身の終わり。
あと数分、この男の語りが終われば、あのISに手足が食われる。そうなれば
……ガゴン!
重厚な機械音。暗闇の空間が徐々にまぶしい明りで照らされる。
せりあがる足場、椅子に拘束された自分が現れたのはこれまた壮大な劇場。
「さあ、ご覧ください! 彼女こそ、イリス・ローランの実の娘! 天才が作り出した稀代の発明、新型ユニットを搭載した新世代のIS,リュミアーレ・ラ・デュランダルの被験者でございます!!」
「……ッ」
沸き立つ観衆。顔を隠す仮面舞踏会のマスクをつけた大勢が、自分の姿を見ている。ここがオペラハウス並みの劇場であると知ったが、これでは処刑場の広場と同じだ。
「同じ、どうせ私は……くッ!」
『シャル、勝手な発言はするな』
全身にかける鈍い痛み。バチっと音が鳴る首輪が意識を覚まさせる。
照明の光に慣れ、ようやくあたりがはっきりと見えるようになって、すぐそばにいるアルベールと目が合った。
しかし、アルベールは一瞥もくれず、そのまま足取りを中央へ、壇上の最前線の中央でマイクを持つアルベールが群衆に語り掛ける。
一方的に聞かされる大演説、その内容が終われば、私はもう
「……皆様、長らくお待たせしました。今宵見せる最後の商品を、イリスの残したIS,その秘密について明かしましょう」
沸き立つ群衆、皆がその一字一句に耳を貸す。
「今のISが支配する世界に、われらフランスが諸外国に優勢であれるのはなぜか、それはすべて第二世代機ラファールの圧倒的なシェア率のおかげです。しかし、それがあと何年、世界は常に動いている。経済における停滞は死だ!」
「今、このフランスにはそんな死が迫りくるというのに、政治家どもはどうした、何をしてみせた! 将来を見ず、現状の数字で浅はかな判断を下す! 愚かだ!私たちを泥船に乗せ、頭の先まで沈み切ってもなお、奴らは盲目に平然と笑う、違うか!」
轟々と、同調する叫びは空間を揺るがす。そんな民意をくみ取り、アルベールはさらに畳みかける。
「欧州の覇権はデュノアが握るッ、われらが聖剣で世界の覇をとる、それこそがッ、イリス・ローランが見いだした未来!そしてそれは、この私が創る未来でもあるッ!!」
叫ぶ。その姿はまさに独裁者の誕生。その場にいる誰もが、男の示す未来を、自分たちが追おうとする道に疑いを持たないでいる。
ただ、一人を……否、二人を除いて
「……これより、皆に見せるは未知の証明。イリスが創りしシステム、リユース・
アルベールの背後、透明な四方の壁がシャルを囲むようにせりあがる。縦横に20mもの大きさ、同時に現れるのは一機のラファール
……バチンッ
「……」
拘束のバンドが外れる。ISスーツ姿の自分に、そのラファールの搭乗者は一振りの剣を渡す。
「……シャルちゃん、でいいかしら」
「!」
声を掛けられる、小声で、その容姿には見覚えがあった。
……あの時の、お兄さんを捕まえた
「……ぁ、あなた……ぐっ!」
「もう、無理に喋らせないようにって。女の子にひどいわね」
「……」
「でも、本当にひどいのはどっちかしらね。その手足を奪おうとするIS?それともそれを生み出した母親?もしくは」
……あなたを救えなかった、ボロボロのヒーロー君かしら?
「!」
「落ち着きなさい、いずれにせよ、もう」
ミラージュが示す、舞台から除く観衆はまさにヒートアップ、アルベールの声にこたえ、まるで奴隷同士の試合を臨むコロシアムの観客のように
「さあ、論より証拠だ。実戦を経験しているパイロットを相手に、世代を超えるスペックを示めしてみせよう」
「……ッ」
「もう、考える暇はないわ……さあ」
ラファールをまとうミラージュは日本のブレッドスライサーを抜く。とっさに、シャルもてにもつ剣を両手で握る。
「……あぁ」
使えば、手は、腕は、文字通り消えてしまう。
技術者に聞かされた。自動的に肉体の分解と再構成、痛みはなくただ静かに体がそがれていくと
『さあ、何を迷う……使え』
「……ッ!」
首輪から聞こえる無線の声、ふさぎたくても骨伝導で強制的に聞かされる。
アルベールの命令、もはや拒むことは
「…………ハハ」
光る、明け色の灯が焔のごとく、シャルを包み込むように輝きは増していく。
あきらめをくみ取り、抵抗の意思が消えた隙間に、この聖剣は入り込んできた。
世界は白紙に、不思議と悪くない気分だ。
……おかしい
こんなにも、現実は残酷なのに、どうしてこの光は
……暖かい、懐かしい
『シャル……やっと、あなたに』
「!」
世界は変わった。そこはどこか知らない場所で、目に映る光景は少し背の低い視点
……なに、これ
むき出しの体、まるで幼いころに帰ったような
「!」
けど、自分の変化よりも、今は
『シャル、私はあなたを……』
「……おかあ、さん」
白衣を纏う、自分と同じ髪色の女性、違うのは目の色ぐらいか
複雑な機械を前に、さらにその奥のものに目を向け、どこか物悲しい目で眺めている。
「なんで、今更こんなもの!」
母親の過去、それを見せられてどうしろというのだ。私にはもう、あなたの愛は虚構だと知ったのに
たとえそれが、自分とおじいさんとともに映る写真を前に、泣き叫びえづく光景だったとしても。
『……わからない』
「私はあなたを……ずっと」
『愛なんてないッ、あなたからもらったものなんて、全部』
「嘘じゃなかった、あなたへの想いは……全部、本物だからッ」
『信じない、私はあなたを』
「必ず、私は……ッ」
……あなたを、救ってみせるから
「!?」
「あぁ、シャル! 私のシャル!!」
包まれる。優しい暖かさ。
記憶の映像から脱して、そこは真っ白な世界。幼い私をどこまでも優しく包み込んでくれる誰か
覚えている。だって、いつもしてくれたから
畑で転んでけがをした時も、怖い夜に眠れないときにも
「ぁ……あぁ、なんで……なんでなのッ」
「……」
振り返る。そこには、忘れもしない優しい笑顔があった。
枯れた涙腺からとめどなく涙が零れ落ちる。
「できない、忘れるなんてできない! お母さんは、私のお母さんはッ、狂ってなんかいない!ひどいことなんてしない!! 生まれたときからずっと愛してくれてた!!」
優しい胸の中で、心が裂けるほどに感情を吐露する。そんな私を、この人はただ優しく受け止めてくれる。
これが虚像だとしても、私には
「大好きだった、今も、この想いは変わらない! 私は、イリス・ローランの娘、シャルロット・ローランだからッ」
「……シャル」
「!」
目が合う。優しい笑みに、今だけは曇った表情が乗る。つらく、悲しい目で、語る前からその思いが感じ取れてしまう。
そこに確かな感情が、子が親に示す確固たる覚悟を感じた。
愛し、育み、守っていく覚悟を……嘘はない、この人はずっと、私のことを
「……ッ」
知りたい。私が知らない、お母さんの真実を
「……教えて、全部」
アルベールが示した手記も、抱いた絶望はすべて捨て去る。
世界は私を否定しない、まだ何も終わっていない。
「……知りたい、今なら全部受け止められる」
希望はついえない。まだ私の未来は断たれていない。
〇
……おい、何も起こらないぞ
……静かに、アルベール殿に限って、そんなことは
……だが、これはどうみても
「……くっ」
いらだちを隠しきれず、アルベールは手元に握るスイッチを押し込む。
首輪を介してささやき、同時に仕置きを兼ねた電流を流す。囲いの中で、直立不動でたたずむ娘は、されども反応を示さない。
……どういうことだ、ISは起動したはずだ
起動シークエンスは確認した。だが、その過程でなぜか止まってしまった。別室で待機する研究班からも、理解できないだのとの無能な返事しか来ず、さしものアルベールもいらだちを隠せないでいる。
「シャル、動け……ショーを台無しにする気か!」
返答はない。がやつく観衆の視線に耐え兼ね、アルベールは直接ガラスを叩く。
「ここまできて、何を拒む! お前の道は一つだ、私のためにその手足を差し出せ! 祖国のために、デュノアの、この私の未来のためにッ」
『……未来、それがお前の答えか』
「!?」
『御大層なことを、企業のトップのくせに、まるで総帥のように……だがお前はそんな器じゃない。ただの、欲におぼれた、咎人だッ』
劇場に響く機械音、壁や天井に埋め込まれた全スピーカーから、その声は届いてくる。
「何者だ、どこに……どうしてここに!」
理解できないと、アルベールは考えた。なぜなら、ここは国家の厳重な守りの下、だれからも隠されたアンダーグラウンド
忍び寄る者などいない。だがしかし、現にこの声は
「……理由か、あるならそれはただ一つ」
「!……上か、ミラージュッ」
「ええ、」
アルベールの叫び、同時に天井の一部が砕け、瓦礫に紛れ何かが飛び降りる。
「……ッ」
……ガギンッ!!
重厚な金属同士の衝突音。煙がはけ、照明に照らされるのはミラージュのラファール、そして
「あら、やっぱり来てたのね……ダリル・ローレンツ!」
「……あぁ、当然だ」
シャルロットをかばい、片腕のバックルでブレードを受け止める謎のEOSがそこにいた。
× × ×
「助けに来たぞ、シャル」
抱き寄せる。意識がないのか、腕に抱えたままぐったりとしている。
……予想通りか、やはりイリスは、イリスの真意は、手記の中にはなかった。
「……随分と、格好いい登場じゃない」
「!」
ミラージュの腕が動く。もう一振り、左に握る刃がガードの隙間を狙う。
「……ッ」
「さあ、いったいどうするのかしらね」
抱えたシャルはいまだ気絶。大事そうに、その手に握る聖剣だけは離さない。
シャルは無事だ。あとはここから去るだけ、しかしどうやってか
その答えは、見るからに不可能とこの場の誰もが抱いている。
「……ダリル・ローレンツ、認めようじゃないか。君の執念を、その覚悟を、だがね」
手を高々と掲げた、その合図に、いたるところからEOSが、タイプ・ベルサーガの機体が姿を現す。
逃げ惑う観客たち、劇場はまさにパニック、今まさに撃鉄が起こされ、流れ弾が飛び交ってもおかしくない状況。
「……当然か」
「不要よ、私一人にやらせなさい」
「ミラージュ、これは遊びではない、契約通り貴様も言うとおりに「残念だが、お前たちと交えるつもりはない」
さえぎる言葉、しかしすぐ呆れた顔を示す。
しだいに、それは周囲の兵士も交えた嘲笑を生む。
「……あんた、何を」
しかし一人だけ、ただミラージュは警戒を緩めず、その手の刃を構える。
……あぁ、やはりお前は優れた兵士だ。
だが、だとしても遅い
「……お前たちは、シャルにかまわず俺ごと引き金を引くべきだった」
「!……お前たち、今すぐそいつを」
『いえ、すでに遅いですわ』
× × ×
少し、時間を戻す。
それは、ダリルが舞台に降りる前、別行動を取るセシリアは既に準備を終えていた。
ダリルの無線に呼応、すでにタイミングは秒読み、ラストカウントは目前。
劇場のある区画からその下の施設を過ぎて、そこから更に下、ルーブル美術館の秘匿地下エリアの最底辺、その場所に彼女は立つ。
ジェネレーター加速、ビームコンデンサーの内圧上昇……
「コアエネルギー、開放」
地下の連絡通路、誰もいない地の底で、蒼い天使は姿をさらす。
「外装展開、ナイトストリクス」
そして今、その清廉な蒼きドレスの上から黒灰色の翼が身を包む。
バイザーで表情すら隠れ、もはや全身装甲に近いブルーティアーズの特殊装備。天高くから、400フィートからの正確な暗視すら可能に、ハイレベルな情報収集能力を有した兵装
だが、その運用はディアーズのビット兵器を排してようやく拡張領域に収まるというデメリットもあり、
ナイトストリクスはあくまでアシスト、最悪の場合は逃走が優先される。
が、しかし
「ここで使うなら、地上への影響は最小限で済みますわね
」
ここは言わば堅牢な地下シェルター、外部の壁面は固く厳重に守られていても、しかしその内部は脆弱。故に、全ての条件は満たされている。
ナイトストリクスには確かに兵装を持たず、唯一あるのはガンカメラを装着した試作型スターライト狙撃銃のみ。だがしかし、たった一度限りのみ使える最大の自衛手段がこの機体には備わっている。
それは最悪を想定しての奥の手、市街地ではまず使えない、逃げのための最終手段
「ナイトストリクス、星夜の空に翼を掲げなさい。
光なき夜にふくろうが舞う。光を飲み、闇を作り出す。その闇のはてに反撃の戸口は続いていく。
今回はここまで、前回よりはかなり長文で、より濃い内容になった気がします。
しかし、戦いはまだ終わっていません。因縁の決戦、隠された真実、クライマックスはまだまだ続きます。どうぞお楽しみに