無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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 これまでのあらすじ

 イギリスへ向かう旅路の中、ダリルは偶然の事件から一人の少女と出会う。名をシャルロット・ローラン、友好を深めまるで兄妹同然に接する日々を送る。しかし、その裏ではシャルをめぐりあるISを狙った騒動が動き出してしまっていた。
 ファントム・タスクのミラージュ、セシリア排斥を目論んだカンパニーの上役のモーレス、そしてシャルの実の父親のアルベールデュノア、彼らの狙いは聖剣起動のピースとして、聖剣を生み出した科学者、イリス・ローランの娘であるシャルロットの身柄の拿捕であった。結果、ダリルはシャルの奪還は叶わず、シャルはアルベールたちの元へ監禁され、ダリルは宿敵の興によりその身を谷底へと落とされた。
 しかし、ここで物語は終わらない。陰謀を妨げるために暗躍するセシリア達の合流により、ダリルの反撃は始まった。誓いを果たすべく、ダリルは仲間と共に再起を果たすのだった。
 
 陰謀の中心、聖剣を産み出したイリス・ローランの手記を手がかりにし、ダリルたちはとある研究施設へと至る。そこで知った聖剣の実態、イリスが産み出したのは未来の兵器システム、ダリルがかつて操縦したモビルスーツ、サイコザクに搭載されていたリユースPデバイスそのものであったことを知る。
 救出タイムリミットの最終日、アルベールデュノアによって監禁されたシャルロットを救出するべく、ダリル達含めたセシリア一行は作戦を決起する。ルーブル美術館の地下で行われた競売ショーに乗じて電撃作戦を展開、結果首謀者の一人であるモーレスを確保し、そしてダリルもシャルと聖剣の奪還に成功した。
 しかし、宿敵ミラージュの配下、スマイルの駆るEOSとの激戦に会い、ダリルの機体は大破。無防備な身でとどめを指されようかとしたそのとき、その場に現れダリルを助けたのは聖剣を纏うシャルロット。しかしその中身は本人ではなく、なんとシャルの母親、イリス・ローラン本人を名乗ったのであった。




久々の投稿です。終わりも近いのでこれまでの旅路のあらすじをまとめました。


胎動、終局の舞台

―首都ロンドンー

 

 

 イギリスの金融街、通称シティと呼ばれるそこは現代的な建造物ひしめく未来を魅せる町並みだ。

 

 高層ビルもさながら、とあるそのビルは中でも奇抜さで目を引く。円柱の形状なら珍しくもない、言うならばそれはキュウリであり、チーズおろし器でもある。ふざけた例えだが、実際に目にすればその言葉が的を得ていると誰もが納得するであろう。

 

 サーティーセントメリーアクス、格子状のなだらかな形状の先、ビルの頂点は360度パノラマのバーが設営されている。オープンハウスの時期でもない今、そこは社用の者しか立ち入ることが許されない絶対の領域である。夜を見下ろす充足感も、贅を極めた酒気の苦みも、選ばれたものしか知ることは無い。

 

 資格が必要だ。資産も、器も、それに値するものだけが、その席に座ることを許される。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。マッカラン、ロックでございます」

 

「……ごくろう」

 

「……」

 

 ウェイターが酒を渡すと静かに席を去る。酒を受け取った男はまずグラスの色を目で楽しんだ。

 

 スコットランド産の蒸留酒、濃い褐色が窓から注ぐ黄昏の光を吸い取り、グラスの酒は優艶な宝玉の輝きを帯びる。

 

「おい、目で味わうのもいいが……飲まんと俺が飲んじまうぞ」

 

「……わかっている。それにそう急かさないでくれ、私と君の仲だろ」

 

「ん、ふは、ははは……」

 

 かすかな談笑が場を和ます。席に座る男は二人で、一人はオルコットカンパニーの次席、セシリアの叔父であるロバート・オルコット。

 

 そして、相対するのは同じくロバートと同じ、組織の頂に並ぶ上役の一人、現在のこのビルの持ち主であり、その実態はイギリスの金融産業の3割を占める存在。

 

 貴族特権の土地運用を元に始まったオルコットカンパニーの不動産業、そこから転じたファイナンス業を一手に指揮してきた人物。ロバートの盟友であり、古参としてカンパニーの席に座り続けた彼の名はカルバン・グラスゴー。今年で齢50になる、生粋のバンカーであり、トレーダーであり、そして腕利きの情報屋でもある。

 

「……ッ、くは……うまい酒だが、やはり固っ苦しいな。」

 

「こんなビルを買い取ってそれを言うのかい。君は」

 

「言うな、俺だってこのビルを好きで買ったわけじゃない」

 

 酒を煽りながら口をこぼす。本来、正しき世界線であれば、このビルはスイスに本部を置く法人の所有物、証券取引所であったのだが、現在は完全に個人の資産。このイギリス人が買収し自らのものとしたのだ。

 

「あぁ、馴染みのヘルスでホラ吹きすぎてな、そうせんと締りが付かんくなっただけだ。このビルの形は俺のナニでかたどって作ったとか、そろそろお前の引っ越し先の部屋を選ばないけねえなって、あの店の女ども冗談を本気にしやがってよ……言いふらされて引くに引けんくなったんだ」

 

「……あなたは変わらないな。本当に、昔から……色遊びのついでにイギリス社会を騒がすのは君ぐらいなものだ。歳は離れているが、私は君よりも自分が老けているように思えてくるよ」

 

「おいおい、そんな悲観的になってくれるな。おれは独身貴族でまだ優雅なだけさ、所帯を持ってないが、お前には娘がいる。俺だって娘の一人や二人もできればすぐに…………止めよう、この話は」

 

「はは、また結婚の話かい?」

 

「……グビ」

 

 酒で濁す、そうだ、この男はいつも遊びどまり。この年になるまで過去の恋をずっと抱えているのだ。

 

「……なあ、もう所帯は持つ気はないのか。独り身はつらいだろ」

 

「いい女が居たらな。それこそ、ミリアのような……あぁ、本当にいい女だったよ、お前の嫁は」

 

「本人に言うかい。まあ、そうだね……僕もそれはよく知っている」

 

「け、のろけかよ」

 

「……」

 

 和やかな空気、過去を紐解きながら男たちは語り合う。

 

 いつしか黄昏時は雲に隠れ、空が紫雲に染まっていく。暗くなるバーの席に、柔らかい間接照明の光が徐々に灯る。

 

「……あの子のこと」

 

「……」

 

 変わる空気に合わせ、カルバンは切り出した。声色が少し低く、どこか感情が冷えて

 

 冷えていく感情が、少しずつ別の熱を重ねていく。それは朱い、触れてしまえば傷を覆う、怒りの色だ。  

 

 

「……く、ぷはッ……セシリアは、ミリアの娘は立派に育ってくれた。まだ尻を拭く必要はあるが、それでもご立派だ。で、どうなんだ、今はその可愛い娘に旅をさせているらしいが」

 

「……気づいていたか」

 

「当然だ、金の流れは情報のピースだ。お前の所の技術研から出る金、優秀なボディーガードまでつけて観光とは笑える。笑いすぎて酒が進んでしまう」

 

「……」

 

「だが、な…………ロバート、貴様はッ」

 

 

 

『――――――ッ!!!』

 

 

 

 掴んだグラス、まだ中身が残るそれをガラスに叩きつけた。黄昏の夕日に結晶が舞い散る。ウェイターやマスターの視線を集めながら、カルバンはロバートの胸ぐらをつかんだ。

 

「……怒っているのかい」

 

「当たり前だ。あの子はミリアの宝で、そして俺たちの宝だ。なのに、国の馬鹿どもを唆し、国家を巻き込む問題の当事者に、あの子を仕立て上げてまで何をさせるつもりだ!」

 

「……」

 

「アルベールの馬鹿と、モーレスのクソ狸がやっていることは俺も知った。諜報員のガルシアが持ってきた情報は確かにでかい山だ。イリス・ローランの遺産、IS産業を利用した軍事バランスの崩壊、会議と相談しかできない馬鹿どもに任せるより、俺たちの手で解決することは確かに有用だ。だが、あの子である必要がどこにある!!」

 

「……理由か、そんなもの、あるに決まっているとも」

 

「!」

 

 激怒で掴みかかる手をそっと下させる。静かに、冷静に、ただロバートは外を見据えた。

 

 視線の先、見るものはこの場の誰とも重ならない。慢心も下心もない、静かな炎さえ感じさせる目の圧に、カルバンは言葉を抑えた。

 

「大人が若者の道に立っては害にしかならない。あの子は自分の道を選んだんだ、貴族の血を、親譲りのノブレスオブリージュを引っ提げて、あの子は前に進もうとしている。」

 

「ロバートッ……いや、セシリアがそう願っているのは私だって承知だ。二人の死があるからこそ、あの子は強くあらんと、健気であることは私でも知っているのだ。だが、それでも言わせてくれ。」

 

「私が爵位を継いでしまえと、君はそう言いたいのだろ」

 

「そうだ、そうともだッ!」

 

「……爵位、か」

 

 爵位の世襲、貴族制度のそれは過去のものではなく、現在にも受け継がれてきた限イギリス社会の確かな営み。

 

 オルコットは由緒ある英国貴族の系統であり、王室から賜った土地は各所に点在し、そのどれもが膨大な産業基盤となり莫大な利潤を生みだし続けている。

 

 貴族とは土地財産の管理者であり、現代においてもその価値は垂涎ものだ。利権の塊、争いの元、故に今この時代においても爵位の相続はいざこざを生む。

 

 そして、今オルコットの頭首はセシリアではあるが、正式には違う。世襲権は嫡子であるセシリアと同時に、先代の弟にあたるロバートオルコット。彼もまた爵位を相続する権利がある。

 

 公的に言えば、嫡子が相続するのが常、しかしセシリアは当然未成年であり、故に身元引受人としてロバートはセシリアを抱えて将来的に爵位を相続させることを確約した。その代わりに、領地経営の代行者としての立場を貫いている。

 

 しかし、それも全てはひっくり返る。

 

 ロバートは正式に爵位の相続権を放棄していない。放棄を公言しているだけで、現在も継承権は持ち合わせている。現在の貴族制度、法制度、全てを考慮しても、ロバートには爵位を得る道は堂々とあるのだ。そして、未成年であるセシリアに、それを止める手段は無い。

 

「そうだね、僕がしようとすれば、あの子から貴族を取り上げることは、可能だ」

 

「ああそのとおりだ、だからもうあの子を舞台から下ろせ。お前が爵位を継いで領地を引きつげば、カンパニーは依然変わりなく平穏だ。セシリアはただのセシリアになれる、解放されるんだ! あの子には普通の暮らしを、そうだいっそ日本に送ってしまえばいい。IS学園で自分の人生を見つければ、それが幸せになる道だ。違うか?」

 

「……違う」

 

「なにがだ!」

 

「全部だ、何もかもが違うんだ。あの子の意思を曲げて得させるものよりも、今の道の先にある物の方が正しい。セシリアは成し遂げるさ、この旅が終われば一回り二回りと、立派なレディーに生まれ変わっていることだ…………それに、今は頼もしいナイトが傍にいる」

 

「騎士、なんの話だ……私がいいたいのは」

 

「まあ聞いてくれ、君も聞けば興味をそそられるはずだ。彼はきっとセシリアを救う、セシリアの道行きを寄り添ってくれる、将来有望な若者だ」

 

「……ッ」

 

 呆れかえってか、カルバンは荒々しく席を立ちそのまま出口へ向かう。

 

 一人、静かにロバートはグラスの酒を煽り、空になったそれにを静かに掲げた。

 

「……言葉足らずが過ぎたか、私の悪い癖だな」

 

 空が晴れる。天候が変わり、紫雲は散らばってまた黄昏の日が灯る。グラスの中の氷に映るトワイライト。火は決して絶えない、日はまた灯る。昼と夜の合間に輝く光の中で、静かにロバートは願いを唱えた。

 

 

「だが問題は無い、あの子が無事に帰ればすべて杞憂になる。そのためにも、ナイト君には勇ましく戦ってもらわねば。こういう時に言う言葉は……そうだな」

 

 記憶の奥底で、ロバートはふさわしい言葉をくみ取る。彼の人物にのみに伝わるであろう、そんな言葉を

 

 

 

「ダリル・ローレンツ、君に……勝利の栄光があらんことを…………そして」

 

 

 

 

 

……ジーク、ジオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い眠り、淡く薄らかに意識が冴えていく。脳に血が巡ればシナプスを繋げて四肢に意思が宿る。

 

 偽りの四肢、だが今の俺にその感覚が通じるのはおかしい。

 

 そうだ、俺は敵と戦って、相打ち覚悟の賭けに出た。その結果、両腕を

 

 

……腕が、ついている。指先の感覚、間違いない

 

 

「……ぁ、ぐぁ……あつッ!」

 

 目を覚まして、まず感じたのは痛み

 

 全身に重くのし掛かる徒労感を押して体を起こそうとするけども、ぎしぎしと全身がきしむような痛みで悲鳴を上げてしまう。

 

 

……動かない、どこだ、ここはまだ地下なのか

 

 

「……動かないでもらるかしら」

 

 

 

「!」

 

 声の方向へ振り向く。そこにいたのは

 

 

……シャル、いや違う……あれはッ

 

 

 シャルだった、姿は間違いなくシャルロット・ローランだ。ISスーツは煽情的な姿、こちらに背を向けたまま壁一面の液晶画面を光らせ、コンソールを操作しているが何をしているかはわからない。

 

 いつのまにシステムが復旧したのか、数字とローマ字表記、記号を織り交ぜたシステム用語がタイピングで羅列されていく。あのシャルが、フィクションの天才プログラマーやハッカーのようなことをして見せているのだ。

 少女の細い腕で、画面を見たままノールックでキーボードをたたき続ける。そんな能力、これまでに一変たりとも見せたこともない。

 

「君は、誰だ……それに、ぐッ」

 

「……無理をしてはいけないわ」

 

「…みたいだな」

 

 座って、態勢を整えるまでに痛みで体が震えた。全身の骨にひびが入っているといわれても信じられそうだ。 

 

「施術は終わったばかりよ、無理に動かせば肉が割けるわ」

 

「……ッ」 

 

 声の主、聞き覚えはある。その声はやはりシャルの声だけど、この喋り方は

 

 

「あんた、シャルじゃないよな」

 

「そう言ったはずよ、私はイリス……イリス・ローランよ」

 

「……そうか、やはり」

 

 記憶は完全に冴えている。ダリルはベルサーガ・ナハトとの戦いの最後、自分を助けたシャルの、否

 

 イリス・ローランであることの発覚を、今完全に思い出している。

 

 

……やはり、この女はそうだ。落ち着いた振る舞い、口調、どこをどう取ってもシャルの物ではない。

 

 

「どうして、何がどうなっている、お前は……いや、あんたは」

 

 前に施設の奥深くで見たイリスの遺体、霊安室で眠る乾いた体は本物の人間のそれだ。だが現にこうして、その魂は娘の体を通して現れている。これをどう見るか

 

 まさかシャルにネクロマンサーの才能が開花したとか、そういう迷信じみた理由なわけがない。知らない技術、科学的な根拠、とはいうもののその理屈はSF作品じみている

 

 

……残留思念、もしくはコピー

 

「……そのISか、それが原因か」

 

「あら、察しがいいわね」

 

「そうでもないと説明がつかないからな」 

 

 根拠も何もない、それこそフィクション的な考えから導いた仮定だ。腰に挿してるあの剣が、ISがことの原因、今はそう思うしかない。

 

 とにかく、今大事なのはシャルが無事という事実。きっと、その意識もいずれは戻る。

 

 次に、イリス・ローランだが

 

 

……おそらく、イリスに問題はない。この手足の施術、信用奥には十分な材料だ。

 

 

 助けられた、まずはその事実で信用を置く。思考と行動はそこからだ。

 

 

「……ここは、どこだ」

 

「その質問、必要かしら」

 

「……」

 

 当然というべきか、未だここはルーブル地下。改めて、自分が今いる部屋を見渡す。電力が復旧したのか、微かに点滅する街灯からEMPの効果が収束していると考える。狭いが、どうやら研究ラボのようだ。

 

「そうだな、あんたの旦那が使っていた場所だ。イリス・ローランの秘密の研究所、ここはもともとそういう場所だったんだよな」

 

「ええ、よく知っているわね」

 

 

 

 全ては事前情報で明らかになったことだ。モーレスがかつてイリスに研究支援を行ったこと、都市と郊外にいくつもの施設を用意し、点々と場所を移し替えながら研究を続けていたことも

 

「あんたの秘密を暴こうと、今この国では大勢が右往左往していたんだ。そのISの起動実験を行おうとするなら、それはあんたに関わりのある場所である方が都合がいい、そうじゃないのか

 

「……でも随分変わり果てたわね。地下の区画なんてこんなに掘り進めてなかったのに、御大層に秘密基地みたいにして、あの人らしいわね」

 

「……あの人」

 

「大方、あれを商売の足しにしようとしたのでしょうけど、本当に愚かな人。笑っていいわ、愚かな元旦那も、その伴侶であった私も」

 

「……」

 

 随分と、この人はまともなことを口にする。旦那とは違い、人当たりがまるで反対だ。

 

 イリス・ローラン、アルベールとの関係を持ち、シャルを生んだ母親。だが娘を捨て、その果てにとんでもない研究に身を染めた。それは、本当のことだ、否定しようがない事実だ。

 

 

……けど、そうじゃない。やはり、予想通り

 

 

 

「……なあ、一ついいか」

 

「何かしら、早くここから出たいのだけど……貴方たち、この子を助けに来たのでしょ。なら、早く追いつかないといけないわね」

 

「聞いてくれ、大事なことだ」

 

「……」

 

 聞くこと、それこそシャルの気持ちを代弁すれば一日では足りない。

 

 けれど、その前に、現実問題として問わねばならない

 

 

「変な質問だが、真面目に答えてくれ」

 

 

 あの時、イリスはISを起動した。なのに、その体には変化が無かった。資料にあった、生体部分のフォーマット、生の肉体を分解してISに取り込ませ、新たに偽りの四肢を与える。それがオルランドの手記に記された設計書の内容だ。

 

「リユースサイコデバイスの同調、そのための処置としての対価、あれに書かれていたものは嘘か。それとも、想定にそぐわない何かが起こったか」

 

「……」

 

「他の皆には言ってないことだ。俺にはあんたに対してもう一つの可能性を感じている。」

 

「……」

 

 無言、返答を待たずに続けて畳み掛ける。

 

「なあ、答えてくれ。あのISがシャルの手足を食わなかったのは偶然の産物か、それとも……あんたの意思なのか」

 

 机から飛び降り、イリスを壁際に追い込む。冷たい目、感情の無い目だ

 

 薄っぺらい虚偽はきっとしないはず、であれば真摯に向き合えばいい。向き合って、その真贋を精査する。 

 

「答えろ、イリス……あんたは、シャルをどうしたかったんだ。あの聖剣は、いったい何の目的で作られたんだ。リユースサイコデバイスをこの世界に持ち出して、あんたはいったい何をしたかったんだ」

 

「……その言い方、まるで未来人みたいね」

 

「ああそうだ、俺はあのシステムを知っている。あれは、俺の世界の技術だ、ここじゃない遠い彼方で、実際に使われた戦争の道具だ。俺の、大切な人が作った……あれはそういうものだ」

 

「……ッ」

 

 イリスの表情が変わる。当然、こんなことを言われては正気を疑うだろう。

 

 だが、ここまで来てためらう必要もない。どう考えても、あのシステムがこの世界で先んじて生まれたなんてありえない。それはきっと、何者かに意図してもたらされたものだ。

 

 

「打ち明けろ、イリス。ここで、全部を……ッ」

 

「!……動かないで、まだ傷が」

 

「構うもんか、それより……くっ」

 

「動かないで、静かにしていなさい……貴方に死なれたら困るわ」

 

「それは、シャルを想ってか」

 

「ええ、そうよ」

 

「!」

 

「ええその通りよ、私はあの子のことを想っている。それは今も、亡霊になっても変わらないッ」

 

 手際よく、包帯を締め付けなおし応急処置を施す。医術の知識もあるのか、やけに処理の手際がいい

 

「死なれたら困るの、娘のボーイフレンドまで失ったら、報われないにも程があるわ」

 

「……」

 

「私の願いは、今も変わらない。私は、あの子を救いたかった……だから、必要だった。あの、悪魔の装置が……」

 

「救うといったな、それは何からだ」

 

「……絶望、私と同じ、世界を呪う絶望から」

 

「……ッ」

 

 

……やはり、お祖父さんの言う通りか

 

 

 記憶を呼び覚ます。この旅路の中で、ただ一人、自分だけが知りえたある情報。

 

 

……確かめる必要がある。真実を、ローランでも、狂ったオルランドでもない、イリスという本人の心からの唄を

 

「……他に手段は無かったのか。娘を救う、別れの道以外に」

 

「?」

 

「こっちだって何も無知というわけではない。あなたの養父、グレンさんから聞いた。セシリアたち、俺の仲間にはまだ言ってなかったが、俺には確証があった。そのISは、シャルの手足を食う化け物ではない、その可能性もあると」

 

「……ッ」

 

 表情が変わる、予想外の言葉に、イリスも態度を変える。

 

「……聞かせては、くれないかしら」

 

 表情に生気が戻る。どこか機械的で、世に外れたような空気感すら感じさせる彼女が、今だけは一人の女性として、当たり前の顔を見せた。

 

 グレンの名前を出した時、その表情には歓喜と悲哀が入り混じっていた。

 

 心がある、他人に対する関心も、共感も

 

 

……予想は当たっていた、イリス、あんたは

 

 

「あんたは、俺たちが思っていたほどの悪人ではない、違うか?」

 

「……さあ、それは」

 

「まあでも、娘に対して少し情が無さ過ぎる気もするが、まずは話だ……聞かせてくれ、あんたそのISを作って何を成したかった」

 

 娘を捨て、その生涯を潰えてまで

 

 彼女が成したかった事、残したかったもの

 

 愛する娘を置いて、養父にだけは連絡を残した。イリスは誓った、グレンさんは故に、シャルに語らず、その言葉を信じて待った。

 

 娘を救うため、自分と同じ絶望を見させないために

 

 狂った旅路へと轍を刻んだ、その真相

 

「……時間」

 

「?」

 

「話すのはいい。でも今は時間も惜しい、あなたたちには、まだ成し遂げてもらわないといけないことがある」

 

 席を立つ、すぐそばのコンソールを操作しだすイリス、しかしすぐその理由は明らかになる。

 

「!」

 

 画面に映る映像、そこに映るのは一機のIS、人一人を抱えて通路を当直線上に移動している。途中、動きを追うカメラに気づいたのかハンドガンでカメラを破壊し映像が途切れたが、振り向き見えたその顔は忘れようがない。間違いなく、あの女だ、ミラージュだ

 

「……彼女、確かファントムタスクの一員ね」 

 

「知っているのか、奴を」

 

「ファントム・タスクの動きは生前から知っていた……それに、眠っている私を起こしたのはあの女よ。それに情報は常に新しく更新されていく、そして今これが一番新しい情報」

 

「……これは、まさか!」

 

 タンッ!と、子気味いい音が響き渡る。移る映像は簡略化されたフランスのマップ。路線が記す道行は間違いなく想定していた脱出ルートだ。

 

「どうしてこの情報が、何故漏れている」 

 

「いえ、あなた達の計画が漏れているというよりかは、これは賭けね。闘争コースにあたる場所、傍受する通信情報の到達地点の場所……その場所に網を張っているようね」

 

「……ッ」

 

「追いつくにせよ、あなたが合流する頃には衝突は間違いないわ。」

 

「させないさ、俺も出て……」

 

「……駄目、行かせない。」

 

「無理だ、今行かないと「聞きなさい、あなた一人では行かせないと、私は言いたいのよ」

 

「!……何を、ぐッ」

 

 掴まれた腕に、突然拳で叩いたと思いきや、針の感触が皮膚を貫いた。

 

 圧迫注射器、突然のことで踊りたが、けど妙に体が軽くなる。痛みが、全身にからみつく感覚が消えていく。

 

「カンフルを打ったわ。これでしばらくは動ける、立てるかしら」

 

「……あ、あぁ」

 

「ついてきて、すぐに準備がいる」

 

「準備、なにを」

 

「決まってるわ、この戦いにケリをつける……貴方の武器よ」

 

「……ッ」

 

 問答無用で、イリスは俺の手を引いて歩きだした。

 

 手術台から転びそうになって、それでも義足で踏ん張って部屋の外へ向かう。向かう先、どこへ行くのか、何をするつもりなのか、それすら聞く暇もないままにイリスは歩み出した。

 

 

「先の計算で編み出した時間は一時間、それまでに、いえ30分もあれば準備は完了する。」

 

「だから、何をさせるつもりだ。EOSの装備でも、そんな時間は……おい、イリス!」

 

「……」

 

「クソ、シャルの強情さは親譲りか、どうりで強い子だ」

 

 

 イリスとダリルは動き出した。向かう先は格納スペースの一つ

 

 そこにあるのはダリルの言ったようにEOSの保管庫、だが本当の狙いは別のもの。ダリル・ローレンツ、そしてリユースサイコデバイスと聖剣、ピースすでに十分なほどにそろっている。

 

 物語の最後を飾る、戦士の姿は傷物では物足りない。

 

 戦士のたどる道に違いはない、因果の波に手繰り寄せられ、運命はまた同じ位置へと修正されていく。

 

 

 死神のもとへ、今再び雷鳴が轟こうとするのである。

 

 

 




今回はここまで、次回から第二章後編へと移行します。

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