無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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 一日遅れですがぶじとうこうです、そして新章です。いつまで続くんだと思った読者ニキ、安心してください、完結までのプロットは既に完成しています。

 この話を含め8話から9話で完結、これにてフランス編は無事完結へ向かいます。

 物語は解決編へ、全ての謎を解き明かし、最後の戦いへと移行していきます。なのでどうかお付き合いください。

 長々と喋りました、それではどうぞ


第二章・後編 リターン・オブ・サンダーボルト
苦渋の転進


~断章・グレンレポート~

 

 

 ある男がいた、その男は平凡な家庭で一般的な教養を身につけ、何でもないサラリーマンとなり所帯を持ったごく普通の男だった。そして偶然の事故で妻を含めた家族を失った、たいそう不幸な人間だった。

 

 周りから同情を受け、感情を捨てて平常を演じ続ける無為な日々、ただ仕事をこなし、年を意味なく重ねて数年。

 

男は職を追いやられ、そして新しい職を身に着けた。

  

 食っていくために選んだのは市の介護保健師。福祉活動を生業にしたのは特に理由があったわけではない、ただそれが自分にもできる割のいい仕事だったからだ。だが言い換えれば、自分に出来ること、食い扶持になることがそれぐらいしかなかったからだ。

 

 そして、今日も男は食うために、無為な時間の延長を伸ばす作業を行う。はずだったのだが

 

 

 

 

 

 

 

―19〇〇年、某所―

 

 

「おや、お待ちしておりました。ミスター・グレン」

 

「……」

 

 簡単なあいさつを交わし、男、グレン・ローランは目的の場所へと足を運ぶ。辺境の修道院、そこにある孤児院が男の目的地であった。

 

 案内のシスターに質問を重ね、これから面倒を看る少女の情報を集める。資料は既に熟読しているが、ここで伺うのは必要な処置だ。

 

 だが、質問を重ねても、シスターは

 

「……あの子の、ことですね。……しかし、役立つ知識も何も」

 

「?」

 

 シスターの女性は顔をしかめ、そして足を止めた。部屋は鍵付きで重く大きな扉に閉じられていて、それは子供を守るためか、それとも出さないためか 

 

「……あの子は、正直手に余ります。いえ、なにも暴れるということでもないのですが、どうにも」

 

「?……いったい、何が「では、お願いします」……ッ」

 

 腰が折れんばかりに、初老のシスターは足早にこの場を立ち去った。骨のような手足で、何とも速く走れるものだと感心した。

 

「……あれでシスターか。この修道院がダメなのか、それとも……この子が」

 

 扉を前に、グレンは一枚のファイルを取り出す。役所から借りた、この扉の先にいる少女の詳細を記したもの。

 

 少女の名はイリス、フォンテーヌ教会の修道院にて預けられた孤児、その少女は健全な肉体を持ち合わせていない、いわゆる世間一般で言うところの身体障害者というものだ。

 

 そんな彼女こそが後に世界に名を売り、未来に争いの種をもたらす運命を抱いた。戦争の母胎、毒婦と、数々の忌み名を有したイリス・ローランとなる前の記録

 

 まだ、そんな未来を知る由もなく、男は少女と出会う。

 

 

「……ここか」

 

 重い扉を開けて、まず目にしたのは冷たい瞳だった。

 

 クォーツを思わせるアイオライトの瞳、だが肝心の光があまりにも冷たい。

 

 すぐに俯いてその目は髪に隠れたが、妙にその眼光、ただむなしく不気味な乏しい光を放つ眼光は、きっと見る者には恐ろしいものに見えるのだろう。

 

 

……この子が、イリス

 

 

 資料には目を通した。対象の子は11歳の少女、経歴はなんとも度し難く、はっきり言ってその少女は障害者であり、被虐待児であり、そして天涯孤独な孤児だ。

 

 この少女には生まれた時の名前が無い、イリスとはこの孤児院に預けられる名無しの女の子につける仮の名前、少女は仮の名前のまま11年を生きてきたのだ。

 

 そう、この少女は親に捨てられた。この修道院に拾われ、一度は身元が引き受けられたが、そこでは名を与えられることもなく、ただ使い勝手の言い道具として消費された。虐待を受けてまたここに戻って来たのだ。

 

 

……難しいな、この子の人生には苦行しかないのだな

 

 

 目の前でベッドに腰掛ける、と言うよりはただそこにいるだけ。

 

 ベルトで支えられて、ベッド一体の机に置いた本を先端にゴムの付いた棒でめくる。そう、少女には腕が無い。そして、今はブランケットに隠れているその下半身にも同じことが言える。

 

 

 先天性四肢欠損、それがこの子の不幸の元凶だ。

 

 

 

 

 

 

―アイミア市、地下ステーション中央ジャンクション―

 

 

 いくつもの列車をしまうガレージ倉庫の一つ、そこにある一つの区画だけは用途が違う。

 

 その路線を行くのはとある列車のみ、誰も知り得ない、とある地下施設へと繋がる直行便、そこから戻ってきた列車が今人知れずシャッターに閉ざされて人目を避けている。

 

 急ピッチで行われる作業、列車の倉庫から運ばれていくのは身長に放送された宝の数々、それらが今ひときわ大きな貨物車両へと積み込まれていく。

 

 ここ、アイミアの地下ステーションもまた裏の世界の為に使われる為に違法なものをため込んでいる。

 

 軍事用に開発された偽装貨物列車、それこそが新の箱船であり、ガレ達一行を無事イギリスまで安全に届ける母艦であり、そして脱出艇だ。

 

 

  ×  ×  ×

 

 

―客室区画―

 

『あぁ……アア! もしもし。もしもぉしッ!』

 

「……」

 

 客室の個室で席に響くアナウンス。車内が防音なことをいいことにあのガレ社長は大声で続く。

 

 

『全員、報告である。地上の街の報道、フランス軍の動き、そしてデュノア本社も含めてだが、まだこちらの動きを掴んでいない。大方、EMPのショックでルーブル美術館が停電したもんだからな、泥棒探しで躍起になっているのだろう。つまり、我らは無事ルーブル地下から脱出に成功した。あと少し、あと数時間もしないうちにわし達はイギリスに到着だ!』

 

 

「……」

 

『喜べ、お前たち! あのにっくきアルベールのクソを出し抜き、わし達は勝ち組になったのだッ……まあ、犠牲は少しあったが、これも全ては勝利の……』

 

「!」

 

「お気を立てずに、起きてしまいますので……ビリー少尉」

 

「……へいへい」

 

 向かう席に座る二人、ビリーが立ち上がり放送のスイッチを切る。それでもどこからともなく聞こえるガレのアナウンスは耳障りだが、これで幾分かはましだろう。

 

 ビリーが座りなおす。個室の席には四人、ビリーとセバスチャンに、そしてチェルシーと……セシリアが

 

 

「……ありがとうございます。今は、この子を休ませないといけませんから」

 

 

 そう言い、チェルシーはそっと膝の上に置いた頭を撫でる。綺麗な金髪、地下の埃で煤が付いていても、それはなおも輝きを保つ。自分が使える大切な主の髪、いつもなら和やかな気持ちで撫でている物だが、今はそうもいられない。

 

 セシリアは叫び、泣き続け、声を血で枯らして今気を失うように眠りに落ちた。原因は明解、それはこの場にいない彼の人が理由だ。

 

 自分たちは目的を成し遂げた。結果として、彼が救おうとしたものも最終的には対処される。デュノアを出し抜き、自らの汚点も拭い去ったセシリアは大きく功を上げたのだ。

 

 だが、どんなに賛美を浴びようと、この欠落だけはぬぐえない。少女の大切な隣人は、かの地の深い底に置き去りにされたままだ。

 

 

「セバスさん、ビリーさん……私たちは」

 

「お気持ち察します。ですが、意味の無いifを並べても解決はしません。我々大人だけでも、割り切らねば」

 

「……そう言うと、思いましたよ」

 

「恨みますか?」

 

「いえ逆です、冷静になりました」

 

 

「……ふん」

 

「少尉、どこに」

 

「辛気臭いからな、外の空気を吸って来るだけだ」

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 

 

「……」

 

 煙を吹かす。ビリーは列車の外に出たが、そこは未だ外ではなく地下で、日の光の届かない場所である。振るい白熱電球で照らされたガレージの中、乗り換えの特別な列車に次々と積み込み作業をこなしているガレ一行たち。彼らもまた目的を達した者。割り切ってしまえば、あとはもう過去の記録に過ぎない。

 

 ビリーは立場上国に仕える軍人である。国益のために、オルコットカンパニーの配下になり、上の命令通りにボディーガードを済ませて来た。

 

 命令通り、セシリアを無事に連れて帰る。例え、心に傷を負っていたとしても、その体に傷をつけずに帰ればいいだけの仕事。そう割り切って、職務に準じることができるのが自分の芯だったはず。

 

 だが、この感情は何だというのか

 

 

「……クソ、煙草がまずい」

 

 

 吸いかけで、半分以上も残っているのに口から離す。ニコチンのいがらっぽさを、これほどに不快に思ったことはない。

 

 理由は明確だ。この場にいない、あの男のことだ。この地で出会った不思議な男、あのお嬢様が心を許す男、そこだけ切り取れば聞き覚えの良いものではないが、実際に見え聞いて見ればなるほどうなずける。

 

「……重いな、あの年で、二度も想い人を失うのは」

 

 記録にある事件、かつてセシリアの両親は列車事故で命を落とした。失ってなお健気に生きる彼女が出会えた大切な相手、しかも今度の死は事故でもは無く、明確な悔恨が残る別れだ。

 

 自分たちを守るために戦い、犠牲になった死だ。そして見方を変えれば、救えるのに救えなかった命の喪失、そんな死でもある。

 

 深く傷ついた心は果たして癒えるか。それはまだわからない。とにもかくにも、自分にできるのは対象の保護、彼女を五体満足で連れ帰ることだけだ。

 

 

「クソ、重いもん背負わせやがって……ダリル、意思は引き継いでやる。国の為でもねえ、手前の男に免じて、今度は俺が命を懸けよう」 

 

 だから、安らかに眠れと

 

 煙草を宙に投げ、弧を描き地面に火花を咲かせた。

 

 

 

 

 

次回に続く

 




今回はここまで、出だしなので短めに

次回、イリスレポート1
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