無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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ハメの鯖落ちがやっと終わりました。最新話、今回の話は全開よりも少し長めです

サンボル関係なしオリキャラだけの過去編ですが、そこはご愛敬で


イリスレポート1

……幼いころの記憶、初めて自我を得て最初に心に浮かべた感情、それは無力感だった。

 

 

 

 

 

 手足の無い私は両親の顔を知らない。気づけばそこは修道院のベッドの上で、ただ生かされる日々が、ただ生存し続けていることが私の全てだった。

 

 穴の空いたベッドの上で食事と排泄を繰り返す日々、それ以外に与えられたものは衣類と世話役のシスターの説法じみた教え、価値のあるものはラジオぐらいか。隣の部屋から流れてくるラジオの音声、聞こえるのは難しいニュースや冗漫なトークの応酬、知らない世界の知らない人達の話だったが、世話役のシスターの子供扱いよりもその無限に情報を与えてくれるそのラジオこそが、この単純な日々に潤いを与えてくれる唯一の刺激だった。

 

 私は生まれながら高い知性を有していた。学校に通わずとも社会の仕組み、世間の常識は5歳の頃に十分理解していたし、聖書のお陰で字の理解も済んだ。6歳の頃には固定式のベルトで座る態勢になり、丸一日ヨハネ伝を熟読しその内容を完全に暗記さえもしていたが、誰もそんな私を評することもなく、ただいっそうに大人たちは不気味がっていくばかりだった。

 

……不満足な肉体、そして心までも他人と異なる。私は須らく一人だった

 

 無為な学習で時間をつぶし続けて数年、9歳を迎えた折に私の引き取り手は見つかった。厄介払いとばかりにシスターたちは男の身辺をろくに調べもせず私を引き渡した。初めて修道院の外へと飛び出し、そしてまた私は閉じこめられた。

 

 初めてできた家族、だがそれは世間一般の言う親愛とは程遠い、車に揺られ人里離れた山奥の家に連れてこられたころには、男の一部は異様なほどに醜悪さを放っていた。

 

 抵抗するな、叫ぶな、自分に従え、愛想を振りまけ、開始一番に言われた言葉はその四つ。頷いたり、拒絶する間もなく男は私を汚した。

 

 衣類を剥がれ、体の内側を乱暴に傷つけられて、そして気が付く頃には私は知らない部屋で朝を迎えた。部屋には小さな窓と扉、窓は格子で閉ざされ、扉も頑丈な電子錠で閉ざされていた。今思えば、手足もないのによくそんな厳重に閉ざそうとしたものだと、男の用心深さに感心した。

 

 この時、私は初めて感情で涙を流した。無為な日々で静かに閉ざした心は、最悪の形で感情を解き放ってしまった。逃げたくても逃げられない、死にたくてもこの手足では首を吊れない。

 

 そうして、男と過ごした日々の中で私は現実をより理解してしまった。この辛い現実はなぜあるのか、どうして男は、いや私以外を取り巻くこの世界は理不尽な苦痛で締め付けてくるのか。

 

 ラジオで知る世界は平穏で、普通に生きるには何も問題はない。実際、大抵の人間は平穏を生きている。誰しもが苦労などとどこかのコメンテーターが宣っていたが、結局の所程度だ。そして私は、最も底辺の星の下に生まれてしまったのだ。

 

 確かに世界には優しさを謳い、差別を侮蔑し、他者への慈しみで世界が回っていることを信じて疑わない偽善が回っている。だけど、私が知る世界は私を見ない。救う対象に私は当てはまらない、根本から救いようがないからだ。

 

  

 

……私は、不自由だ

 

 

……手足が欲しい、誰よりも自由で、何者にも縛られない

 

 

……望む場所ならどこへでも行ける足が、失わないようにずっと掴み続けられる手が

 

 

 そうだ、確かこの時だった。私が本物の手足を欲しいと感じたのは。

 

 私は義肢を求めた。男の唯一良い所は、奉仕に対して報酬を払うことだった。だから私は男の都合のいい道具を演じきった。汚れを受け止め、男の好むメディアコンテンツの愛らしい子供から、男の望む愛想とうものも演じてみせた。

 

 ラジオで聞いた娼婦と言う言葉、その意味を正しく理解したのも、確かこの時だった。私は男に尽くして、痛みも不快感も絶えて、恥ずかしいものも目の前で臆面なくさらして見せた。結果、男が与えたのは義肢だった。だが、それは義肢と言うにはあまりにも粗末で、だがそれは手に入る物でもっとも良いものだという、およそ嘘とは感じない調子で男は言っていた。

 

 手に入れるしかないと、ここで私は誓った。不自由から抜け出すためにも、この先の望む未来のためにも、私は私の手足が欲しい。

 

 他の誰よりもすぐれた、本物を超える手足を。本物を殺す、真に超越した贋作を

 

 

……そうだ、私の呪いはここから始まった。終わらない願望、結局最後までたどり着かなかった空しい夢

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 11歳の誕生日、私は男のもとを去った。

 

 奉仕に次ぐ奉仕で油断した男の隙を突き、私は男の拘束を解いて外の世界へと脱した。都心部から離れた山奥の家、そこから脱するにはただ出るだけではダメだった。

 

 だから、私は男の命を奪った。手足もなく、力も乏しい私にできたのは毒を仕込むことだった。

 

 用意した毒はイチイの毒、部屋に飾りが欲しいと、あの窓から見える枝を折って欲しいと、言葉巧みに私は男に媚びて見せた。

 

 寝静まる夜、飾りの木に付いた実を密かに口に含み、種だけをベッドに隠して溜め続けた。イチイの種は強力な毒があることをラジオのニュースで知った。だから、あとは行為の際に男に誤飲させ、中毒で葬ることだけだった。それは想定したよりも簡単に、驚くほどにあっさりと成功してしまった。

 

 ピロートークもなく夜を過ごし朝を迎え、私は一人だけになった男の家の中で行動を起こした。

 

 部屋から出さないようにしている電子錠も、男に媚びて個人情報を聞き出すうちに特定は完了済みだった。おぼつかない義足と義手で身支度を済ませ、私は家を出て公道へ向かった。理不尽な2年間に終止符を打ち、私は私の人生を歩み出したのだ。

 

 その後、無事に保護を受けた私は当然というべきか、大々的に報道で取り上げられる中私は世間から同情よりも奇妙な眼を向けられることになったのだった。その点は今思えば無理もないと思える。泣きじゃくり同情を引くわけでもなく、ただ冷静に淡々と振舞う私の姿は異様に見えただろうし、なによりこの体の生々しさが報道の過熱化を避けたのだろう。

 

 結局、私は引き取り手もないままに保護施設を点々とし、そしてまた元の教会へと戻された。

 

 また閉じられた世界に戻ったが、それも気にすることもなかった。書物を読めば教養は身につく、ラジオがあれば世界を知れる。私には、もうそれだけあれば十分だった。

 

 だから、あとは知識を生かしてしかるべき学業の成績を残し、何不自由なく夢を終える場所へと行けばいい。それだけの自身を裏付ける、自分の天性の才は自覚していた。他者に頼る必要はない、この体も、不幸な運命も自分だけの問題だ。だから、冷めた勘定ですべては個人的な問題だと割り切れた。

 

 傷つく痛みも、孤独の渇きも見ないままに、私は不自由な手足に理由を置いて努力を重ねた。

 

 何もいらない、一人でいい、閉ざした世界は私から願ったものだった。

 

 扉を開けられることはあっても、私から開けることはない。4m四方の牢獄で完結した世界、そう考えていた、はず

 

 

 

……でも

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてだね、私が誰だか聞かされているかな」

 

「……」

 

 ページをめくる義手が止まる。長く無造作に伸びた前髪越しに、その男の姿をイリスは見た。

 

 

……確か、院長が言っていた

 

 

 自分の面倒を看る大人、通信の学校側から派遣された存在。必要はないといったが、それでもと通された。建前的な役目、制度上の義務から仕方なく派遣されたところだろうと、イリスは判断した。

 

 適当に振舞って、平坦なままに接していれば勝手に消えていく。カウンセラーも、ボランティアも、これまで来た全員がそうだったように

 

「えっと、イリスさんだね。初めまして、私はグレン・ローランだ」

 

「……」

 

 頷く。すると男はまたわざとらしく、閉じた目で笑みを浮かべた。

 

「……イリスでいい、さん付けはいりません」

 

「そうか、ではイリス……私は君の世話役を任されたものだ。本来は、私のような男が行くことは問題なのだが、まあ安心しておくれ。ただのしがない元サラリーマンだよ。今は、こういう人助けの仕事をしている……ね」

 

 妙に饒舌ぶって、気さくな振る舞いがうさん臭くもあり、そしてどこか頼りない。

 

 何かがずれている。イリスにはそう感じ取れてしまった。これまで見てきた度の大人よりも、この男は初見で掴める物が少ない。

 

「えっと、取り合えず座っていいかな。もう50になると、足腰が、はは」

 

「……」

 

「よっと、じゃあまず……軽い世間話でもするべきだが」

 

「…………ッ」

 

 変わらない対応、マニュアル通りのそれについ嫌気で反応してしまった。

 

 したくもない話で、無理に合わせれば気味が悪いだのと、心を覗かれているみたいで吐き気がするだのと、あとになって口にする。だからそれだけの話、男はすぐに去る。

 

「……えっと、良いかな」

 

「気にしない、本読んでるから……好きにすれば」

 

「おぉ、そうか……じゃあ」

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 また男が来た。柔和な笑みで、最近に起こったことを随分と誇張して吹聴していた。

 

 ジョークのセンスは感じない、付き合ってやる気はないから本を読み続けた。

 

 

~一週間後~

 

 

 

 毎日通い始めて一週間、今日は食べ物を買ってきた。昨日、たまたまラジオで特集されていたお菓子で、態々頼んでもいないのに並んでまで買ってきた。

 

 貸しを作るみたいで拒みたかったが、修道院の食事にはない不健康なまでの糖質と脂質、仕方なく口にした。悔しいことに、後を引いた

 

 

 

~三週間後~

 

 

 今日もまたお菓子を持ってきた。最近は菓子を買うのが日課になっている。義手で食べるのを考慮して、切り分けて食べやすかったり、型こぼれしづらかったりするものだ。

 

 たまには柔らかい、それこそしっとりとしたものも食べたい。でも、それにはこの男に食べさせてもらう必要があった。そう気づいてすぐ自分に嫌気がさした。なぜ、私はこの男の施しに応じようとしているのか

 

 馬鹿げている。こんなの、何の意味もないはずなのに

 

 

~ニヶ月と半月~

 

 

 珍しく、男が愚痴をこぼした。なんでも、私に対して何もしてないから、上から仕事をしてないのかと言及されたらしい。

 

 どうやら、男の仕事は私を修道院から出し、市の運営している寮生の学校へ通わすこと。設備もバリアフリーもないこの場所に私が留まることに、どうやら世間体が良くないとか、そんな理屈から私を表に引き出したいらしい

 

 

……大人は勝手だ、でも期待はしていないのはこっちも同じ……でも

 

 

 

~半年~

 

 

 

「あなたはなにがしたいの?」

 

「……」

 

 男はたいそう驚いた顔をしている。そう言えば、こうして能動的に話しかけるのは初めてかもしれない。

 

「私の世話とか言って、結局は何もしていない。田舎の畑の話なんかはただの故郷の自慢、あなたが話したいことをずっと聞かされて……この時間の意味は何?」

 

「……意味、か」

 

「ええ、お菓子を与えて懐かせようとしているのかと思えば、それは貴方が単に甘党だっただけ。医者からは控えろって言われている癖に、やっぱり大人は、いえあなたは不可解……」

 

「はは、不可解か……そんな、たいそうなことじゃないと思うけどね。ほら、今日は私の故郷のシードルだ」

 

「……」

 

 ベッドに備え付けた机に置かれた瓶、ストローでちょうど飲みやすい位置に置かれたそれに、私はほぼ無意識に口を付けた。そう言えば、出されたものは頂かないといけない、そんな風に今は思ってしまっている。

 

……おかしい、何かが

 

 さっきも、いざ話しかけてみれば急に饒舌で、言葉に抑揚が、感情が乗り出した。

 

 親しみを抱いた覚えはない。他者に頼ることはできない、しようがない。この男に私の絶望は理解されない。せいぜい、同情から自己満足を煽るだけだ。

 

 そんなものはいらない。だから、このあたりでもう

 

 

……もう、この人には付き合えない

 

 

「……あなたが」

 

「?」

 

「あなたが私の面倒を看る理由、それがあなたの無くなった奥さんの、その奥さんのお腹にいた赤ちゃんを重ねたなら……それは余計なお世話」

 

「……イリス」

 

 男のトーンが下がる。触れられたのがよほどキたのだろう。

 

「私は哀れな子、でも同情なんて求めない。ましてや、誰かの傷を埋めるための代わりになることができない。そんなの、ただ空しいだけ」

 

 そうだ、否定して、突き放して

 

「だから、あなたはもう……私に構わないで、もっと」

 

 

……違う

 

 

「もっと、別の所に……だから」

 

 

 

……違う、何が違う

 

 

 

 突き放す言葉が喉の奥で詰まる。私の本音が、頭で浮かべる答えと重ならない。

 

 

 

「だから、だからッ!」

 

「……イリス」

 

「!」

 

 気づけば、男の手が私の顔に触れていた。理解できなかった、触れられるおぞましさも、嫌悪感もない。

 

 何故か、理由は明解だった。

 

 男は、私の痛みを、その手で癒してくれていた。

 

 

「……初めて見たよ、君の涙を」

 

「!……ち、違う、これは」

 

「いや、違わないさ。それが、君の本音だ」

 

 ハンカチでそっと拭われる。大粒の涙でぼやけた視界が晴れる。こんなことも、私は一人で出来やしない

 

 自分で流した涙もぬぐえない私に、この人は

 

「……私は、わたしはッ」

 

「イリス、良いじゃないか。他人に頼っても、君はまだ子供だ……それは、君たちに与えられた、大人よりも優れた特権だ」

 

「……ッ」

 

 涙が止まらない。泣きたいなんて思ってもいないのに、どうして私は感情を抑えられないのか。

 

 知能が下がっているみたいで嫌だ。情けなくて、恥ずかし目を受けているみたいで嫌だ。

 

 

 

「イリス、あぁイリス」

 

「……ッ」

 

 どうして、こんなことが起こる。

 

 まるで、世界が違う。

 

 これでは、私が救われる。優しい男に拾われ、不幸な少女が幸せな日々を送る。そんな物語の主役に私がなったというのか。

 

 そんなはずがない、世界のやさしさは私には届かない。持たないものを、この世界は救わない

 

「――――ッ」

 

 ありえない、あり得るはずがない。だから自分で変えようと決意した、私が望む世界を、私が自由でいられる世界を

 

「……イリス」

 

「もういい、帰って。私は寮に行く、そうすれば全部解決よね……だから、あなたの仕事は」

 

「仕事なんて、私はもう放棄している……それよりも」

 

「……何を」

 

 男が取り出したのはいちまいの書類、書いてある文面をざっと目を通すと、そこに書いてあるのは

 

 

……養夫、養子縁組

 

 

「!!」

 

 

「君が望むなら、全ては君の決断にゆだねる」

 

 

 判は押されている。代筆を認める書類も、全ては用意されている。

 

「……何のつもり、私を引き取って、そんな意味の無い事」

 

「意味か、君はずいぶんと細かくこだわるのだな。そんなこと、私がそうしたいと思ったから、それだけだ。それだけで、私はこんなことをしてしまえるんだよ。イリス」

 

「……ッ」

 

「確かに、亡くなった妻と子を想う気持ちはある。重ねていないと言われても、全ては否定できない。」

 

「……だから、だから私なんかに」

 

「だからこそだ。そんな私を想って、これ以上傷つかないように配慮する君の気持ち、私が決意したのはそんな君のやさしさからだ……そんな君だから、私は家族になりたいと思えた」

 

「――――ッ」

 

「私は不幸な人間だ。だが、この不幸を乗り越えたいと思っている。誰かに哀れとされるのも、気を使われる日々に甘んじているつもりはない。支えられた分を、私は返したい。自分が不幸だからこそ、誰かのために生きる人でありたい……それが、私がこの仕事を選んだ動機だ」

 

「……そんなの、言われたって」

 

「まあ、これも実は最近になって気づいたことなんだ。それもイリス、君と一緒に過ごしていくうちに、私は自分の願いに気づけたんだ」

 

「だから、家族になれと……でも、でも」

 

「……急には無理だろうな。まあ、それもいい」

 

「!」

 

 席を立った。男は、グレン・ローランは去ろうとしている。

 

 

……いいの、本当に

 

 

 また来ると、グレンはそう言って背中を見せた。

 

 机に残るのは養子縁組の書類。そこにある空欄の名前。記せば、私はイリスから、イリス・ローランとなる。この狭い部屋から脱して、この男ともう一度外の世界へ

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 あの時、私にとって世界は恐怖でしかなかった。それもまた大人の男の手で引っ張り上げようというのだから、あの人はその手の職としてどうかというものだ。まったくもって不合理で、理屈にそぐわない

 

 だが、そんな人だから気づかされた。不幸を抱えて投げやりになり、自ら孤独に走っていた自分と違って、あの人はその上でなお外の世界を見たのだ。不幸になったからこそ、誰かのために生きたい、そんな人間を直に見たのは後にも先にもこれが初めてで、最後だ。私には忘れられない、あの時のことを

 

 

……そうだ、私は願いを抱いていた。それも独りよがりの願い

 

 

 でも、あの人と出会えたから、この願いは孤独ではなくなった。誰かのために、そんな澄み切った願いを抱いたあの時、私の世界は澄み切った色を見せたのだ。

 

 

 

 

 

「まって、待ってグレン!!」

 

「い、イリス……おぁッ」

 

 ベッドから落ちそうになるところを、間一髪で受け止められた。私はグレンさんの腕に抱かれた。そうだ、こんなに温かい抱擁も、生まれて初めてだ。

 

 私の世界が変わる。絶望に縛られた世界から抜け出す、金づちで殴られたかのような衝撃が私の脳をかき回す。

 

「……しは、……い」

 

「イリス……」

 

 そうだ、言ってしまえ。叫んで、全てをぶちまけてしまえ

 

 私は、私の世界を壊すんだ。

 

 

「わたし、わたしはッ……欲しい、あなたの性を、ローランの名前が欲しいッ……だから、お願いしますッ!……私を、イリス・ローランにしてくださいッ!!!」

 

 

「……」

 

 

吐き出した、感情のままに、自分らしくもない振る舞いで。私は全てを吐き出して見せたのだ。

 

どうなるか分かったモノじゃない。こんなことをしては、もう私は私に戻れない

 

「……イリスッ」

 

「!」

 

 抱きしめられる。抑え込んだものを全部吐き出しながら、私は必死に短い腕でこの人に、お義父さんにすがった。

 

 暖かい、他人の熱がこんなにも心地いいなんて、私は知らなかった。

 

 

「いいとも、あぁいいとも……君はイリスだ。私の娘、イリス・ローランとなるんだ」 

 

「……おとう、さん」

 

 救われた、この時の私は間違いなく救われたのだ。私の父、グレン・ローランによって救われたのだ。

 

 涙におぼれながら、私はひそかに誓った。この人のようになりたい、父のように清い願いを抱きたい。

 

 世界は依然不平等で、私の絶望は未だに付きまとう。だからかつて願ったこの誓い、でも今はその使い方を改めたい。

 

 私の願いは、この先の無い手足に本物を超える義肢を繋げること。呪った世界に抗うために、おのれの為だけに抱いた願い、でも、今は

 

 

 

……私は創る。手足が無くても差別をされない世界を。生まれたままの手足も義肢も区別なく扱われる世界を

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 




次回の投稿は金曜に、バイト戦士しないとガチャの爆死で冬が越せませんので

感想、評価の方もよろしくお願いします


・追記

活動報告でも述べたのですが、しばらく二次創作を休止することにしました。せっかく書き出した新章からのクライマックスですが、続きはまたしばらく先になります。
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