無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
そんなこんなで第三話です。
※人物名を訂正しました。
「………」
「…お嬢様」
「チェルシー、わたくしは言いました。あの男は見つかったのですか?」
「……」
昨日、言われた通り護衛の部下二人には悪いが街で見張りをしてもらった。街を聞きまわり鉱員の人間が立ち寄りそうな場所にあたりをつけて三日は粘った。だが、まだ成果は
「いえ、今のところは成果なしです。というか、鉱員は山にこもっているはずで、またこの街に来ているとは限らないじゃないですか。」
「……そう、ですわね。はぁ、せっかくチャンスだといいますのに」
「そう悲観しないでください。このさい、鉱山に赴けば何かしら見つかるかもしれませんよ。気長に、向こうの準備が終わるまで待ちましょう。」
「…ですが」
ヨハン・ガレからは未だに入山許可は出ていない。視察のために作業を中断できない、一般人が立ち入れるように安全の確保ができていない、など…理由をつけて先延ばしになっている。それに、こちらも視察は鉱山だけではない。有力者の相手をするだけでも密なスケジュールだ。故に、今日のように時間の空いた日は休息に当てるべき、少なくとも主人思いのチェルシーはそう考えているが
「……ですが、このまま何もできないのは」
「あまりそう自分を追い詰めないでくださいませ。とにかく、今日ぐらいは仕事を忘れて「いましたわ…」……私も一緒にって……へっ?」
車を止める。向かって右の方向に、誰かを中心に人だかりができていた。
その人物は
「義足と義手……」
〇
「あらぁ、ダリルじゃないって…あなたずいぶん疲れてるわね。どうしたのぉ」
「いえ、その」
鼻の根元を抑えて頭が痛い素振りをしている。連日のどんちゃん騒ぎでアルコールの毒気が抜けていないせいだ。
「あら、飲みすぎかしら、若いんだから程々にしなきゃ嫌よぉ」
「いや、俺はそんなに飲むつもりは、とういかあいつらがおかしいんですよ。蒸留酒をあんなにばかすか飲んで、その癖に日が明けたら普通に働いて。」
フィッシャーなんてバカルディをストレートで二本も開けていた。なのに翌日になってもゲロの一滴すら吐かない。内臓まで機械なのだろうかと本気で疑ってしまう。
「というわけで、また酒の買い出しです。たまには店の酒が…」
その時、ダリルの後方で大きな衝突音が響く
「!!」
咄嗟に振り向き視界に入ったのは二台の車。一方はトラックでもう一方は軽自動車。トラックに潰されるようにひしゃげたエンジンからはプスプスト黒い煙が湧き、一気に火の手が昇る。
「やだ、大変!…」
「……人が、まだ」
周りの住民たちは何とかドアを開けようとしている。だが、火の手が回ってドアに触れられない。しかも悪いことに中の人間は老人で窓を割って引っ張り出すのは困難なようだ。
「くそ、ドアを…うがぁっ!!」
「ばか!…燃えてんだぞ、クソ誰か、消防を…!!」
気が付けば、俺は足を踏み出していた。軍人としての生業なのか、市民の命を守るという行為に体が勝手に動いてしまう。
「はなれてくれ!!」
「おい、何を…」
駆けつけたダリルは火の回ったドアノブに手をかける。義手の樹脂部分が溶けるにおいが鼻を突く。だが、痛覚のない機械の腕は火の熱にやられることは無い。車体を義足で踏み、引き抜くようにひしゃげたドアをこじ開ける。
「隙間ができた。早く棒を!!」
そこからはスムーズに事が進む。てこの原理でこじ開けて中のご老人を無事に救出する。
その後、無事駆け付けた消防で火は鎮火された。人々が沸き立つ。救助に関わった者たちに思い思いの言葉をかけようと。
「…おっと」
人の波に押され気が付けば円の外に出ていた。もとより勝利者インタビューを受けるつもりはさらさらない。面倒ごとは勘弁だ。
何事もないようにその場を去ろうとした。だが、その時
「お待ちください。」
そこには黒塗りのベンツを背景にスーツ服の女性がいた。年は自分よりも2~3若いぐらいの、茶色い毛のショートロングでかなりの美人である。
…イギリス人?
「……えっと、俺に何か?」
「いえ、私ではなく……私の主にです。お時間は取らせません、それに」
…おい、さっきの義手の男は
…そうよ、あの人はどこに行ったの。
「今はここから立ち去るほうが、貴方にも都合が良いのでは…?」
「……わかった。じゃあ、少しだけなら」
言われたまま俺は後部の席に乗った。スモークガラスで見えなかったが、中にいたのはやはりというか
「……やっぱり、この街でこんな小奇麗な車に乗っている人物、君は…」
座ったまま、スカートの端を持ち貴族的な礼儀のこもったお辞儀をする。金髪と碧眼、人形のように清廉された顔立ち、その人は
「あら、察しがよろしいのですね。…はじめまして。わたくしの名はセシリア・オルコットと申します。よければ、あなたの名前もお聞かせいただけませんこと…?」
〇
中央街、上流層の人間が立ち寄る摩天楼ひしめく近代の都市、そこのビルのオフィスの一部屋、小さな談話室で俺は今セシリア・オルコット嬢と対談している。彼女は有名人で、しかも本物の貴族だ。宇宙世紀にも貴族的な血統主義はあるが、今目の前にいるのはそう言った厭味ったらしい建前ではない、本当に住む世界が違うような気品すら感じてしまう。
そう感じてしまう。だが、それはもしかすると、彼女のこの可憐さがそう見させるかもしれない。
「?……紅茶はいかがですか。本国から取り寄せましたのよ、アールグレイの一等品ですわ」
「…はい、いただきます」
気品のある味わい…なのだろうか。正直うまいことはわかるがどうにも落ち着かない。
年齢的には妹と大差ないだろう。だが、位の違いとなるとどうにも身構えてしまう。正直、ダリルは目の前の彼女に緊張していた。ジオン公国の軍人なら、そうなってしまうのは仕方ないはず。そう頭の中で言い訳を付けている真っ最中だ。
「……あの」
「はい!…えっ…オルコットさん いや、オルコット 様」
我ながら情けなく振舞ったものだ。呼びかけに戸惑い、そんな俺の様子に彼女は柔和な微笑を浮かべる。
「ふふ ダリルさん」
「は、はい…」
「そんなに緊張しなくてもよろしいですわ。わたくしはまだ13の若輩者です。貴族という立場もありますが、ここではそんなに気になさらないでください。気軽にセシリアで構いませんことよ。お年もダリルさんの方が上でございますから。」
「……」
彼女は丁寧に、自分に対して気兼ねをしなくていいと言ってくれている。一応俺は横にいるメイド、チェルシーさんに目配せをする。
「…お嬢様のお言葉です。その通りに」
「……わかったよ、セシリア。正直、こっちのほうが気楽でいい。よろしく」
「!…はい、よろしくですわ、ダリルさん」
パアーッと明るい笑みを浮かべ、この時ばかり彼女は年相応の少女に見えた。
「ああ、こちらこそ。で、話っていうのはいったい何なんだい。俺は君とは初対面だし」
「ああ、そうですわね。えっと…お話というのは、その」
「その……?」
「………ちょっとお暇を」
チェルシー、こっち!と彼女を引き連れセシリアは部屋の外に出た。
耳を澄ますと、二人の会話が聞こえる。
…お嬢様、いったいどうして
…だって、殿方の人と話すのって、どうすれば
…昨日さんざん有力者の殿方と話しされてたじゃないですか、仕事と割り切ってください。
…だ、だってぇ セシリアって呼んでくれたし。その、どうせならお友達みたいに
………じゃあそう思って砕けて話せば
…で、でも!そうなるとですね。わたくし、殿方のお友達なんて、しかも年上のお兄さんですし…まずは趣味の話とか
…お見合いでもするつもりですか?鉱山の話をきくだけ「お、お見合い!! わ、私はそんなつもりは…確かに、人助けの姿はとてもりりしく見えましたが でも、そんな 初対面で…あわわわ」
「………ん」
ひとまず、今の話は聞かなかったことにしておいてあげよう。とりあえず、今後彼女を相手に緊張することはもうないだろう。
〇
「……はあ、えっと…すみません。少々時間を取らせました」
「いや、別に構わない。」
背後のチェルシーさんがすごく疲れた顔をしている。気苦労の多い主人なのだろう。
「その…聞きたいのはですね、ダリルさんの環境について……」
「……環境、俺の」
…どう答えていいものか。鉱山の皆のことを思えば余計なことを言わない方がいい。だが、この子が本気で取り組むなら、決してマイナスにはならない気がする。けど…
「……」
「……ダリルさん?」
「君は……それを聞いてどうしたいんだ」
「えっ…それは、その」
「俺はひと月前にあそこで働くようになった。鉱山の仕事は過酷だし、辛いことも多い。けど、収入だって食うに困らない程度には足りている。それに」
袖と裾をまくり、義肢を見せつけるように晒す。
「……義肢だから、他に行く当てがないということ、ですか」
「ああ、ぼくらには事情がある。だから、皆望んであそこで働いている。」
「それは……そうですが、でも…今より良い労働環境を望むのは悪くありません。はっきり言います、わたくしはそのためにここに来ました。」
「………残念だけど、俺の一存ではできない」
「……ですが、わたくしは必ず」
「……少なくとも、フィッシャーたちは…鉱山の皆はそう望んでいなかったよ」
「!!」
俺は話した。鉱山の皆がどう思っているのか。現状を最善とし、変化のリスクを恐れていると。
以前にも聞かされた。ヨハン・ガレより以前、二度オルコットカンパニーに陳情をした。表面上では何事もないように見えたが、最初に変わって来た男はひどく差別主義で、不当な解雇や金銭の無心はそれはひどいものであった。
故に、現在の社長は悪い面もあるが、最低限の良心は残っている。小物ではあるが、それなりにうまくいく関係性がそこにはあるのだ。
だから変化はいらない、それが彼らの結論だ。そのことを言える限り伝えたが、終わるころにはセシリアの表情は曇っている。
……遠まわしに関わるなといい捨てたようなものだ、少し悪いことをしたかもしれない。
「……なあ、セシリア」
「…はい」
「聞かせてくれないか?君はなぜそうしたい、こんな俺を呼び出してまで、一体何がそうさせるんだ?」
「……それは」
言いよどむ。これがもし同情とかの慈善なら論外だ。だが、そんな軽い事を言うはずがない、そう信じたい。
「………。」
「お嬢様……私から「いえ、チェルシー」……。」
「……ダリルさん」
気を引き締めたのか、しっかりとした様子で今一度向き合いなおす。強い目の色にダリルも思わず身構えてしまうほどに
「ダリルさんの言う通りです。わたくしがここまで必死なのは打算ありきなのです。今回、視察に来たのは…いわば、権力のための土台づくりです。」
「……続けてくれ」
「鉱山経営の支出と収入、そこの計算にはどうしてもつり合いが合わない部分があります。はっきり言って着服や賄賂がまかり通っているはずです。そう思い、今回の視察で証拠の一端を掴めれば、それはきっと有用なカードになります。」
「……なあ、素人考えかもしれないが、なんでわざわざこんなことまでして、内密に調べるなり、正式な手段で時間をかけて行えばいいはずだと思う。君はトップなんだろう、なんでそんなに結果を急ぐんだ。」
「……急いでいる、そう見えても仕方ないですわね。ですが」
無意識にか、膝に置いた手で強くスカートを握る、強い感情の漏れが、その振る舞いから感じる。
「その結果が、今はとにかく必要なのです。敵対派閥の牽制のため、不正を暴いてそこから通ずる者たちをあぶりだす。これはそのための戦いです。その戦いを強いられています。」
「…お嬢様は、今でこそ当主として矢面に立っていますが、そもそもは先代がお隠れになったことによる急な代替えです。一年たった今でもその座をすげかえようとする輩は多いのです。」
「……敵対派閥がいるのか?」
「ええ、亡き父を支えた父の弟の副社長、ロバート・オルコットを立てようと一部の上役が動いているのです。」
「辛いな、その年で」
「いえ、ロバート叔父様はむしろ味方です。わたくしが当主になってからも親身に相談に乗ってくれました。本来ならあの方が受け継ぐ席なのに、それでもあの人はわたくしに席を譲りました。父の跡取りである私こそがふさわしいと、そう言って……ですから」
「……期待に応えたい、そうなんだな。」
「ええ…。ですが、そのための手段に、わたくしは貴方たちを利用しようとしています。ですが……」
セシリアは俺の手を掴み真っ直ぐとこちらを見つめる。触覚のない義手でなければ、正直顔を赤らめていたかもしれない。
「……ッ!?」
「此度の視察、成功するためには必ずあなたたちの利益は必要です。前任者のように半端なことは致しません。互いの利益のために、協力していただけないでしょうか……!」
「………。」
強い目だ。13の少女とは思えない、この娘には絶対に成し遂げるという凄みがある。
「君の言いたいことはわかった。確かに、君なら物事をいい結果に運んでくれそうだ」
「なら!「けど、これは俺の一存では決められない。フィッシャーや班長、他の皆とも話をしないと」
そうだ、彼女ならみんなも納得するはずだ。だから
「なあセシリア、君が良ければ鉱山に来ないか?」
「……鉱山に、本当ですか!?」
「ああ、俺が裏から手引きをする。鉱山のみんなも、君が変えてくれるなら 君という人となりを皆が知れば 彼らは話を打ち明けられる。」
「…チェルシー!」
「はい、二日後の夕方であれば時間を取れます。ですがそのためには……」
その後、僕らは話の段取りをつけ、二日後の夕方に迎えに行くと約束を付けた。その後は余った時間でたわいもない雑談に興じ、気づけば、すでに日が暮れていた。
「……」
車を回し。買ってきた酒を積んで帰路に着く。夜風を感じながら、ふと思い出すの彼女のことばかりだ。
あの話のあと、俺は話の見返りとばかりに彼女に色々と話をうかがった。特に、前々から気になっていたISについて、当人から深い話を聞けたのは一番の収穫だった。
…PIC、絶対防御、どれも宇宙世紀にあってもそん色ない技術レベルだよな。MSには応用できるのだろうか。
この世界にサイコ・ザクはない。けど、あのISが使えればまた自由に空を駆け回れるのだろうかと、俺は楽観的に考えてしまう。
「イギリスか…いつかは、いけるといいな」
元の世界のことは忘れない。けど、今この世界にいるあいだぐらい、俺はこの世界でしかできないことを模索したい。
…学びなおしか、イギリスのスクールでISについて学ぶ、それも悪くないな。
〇
オルコットカンパニー所有の鉱山、その敷地の一角にあるプレハブの小屋に男はいた。
「あの……それはつまり」
ヨハン・ガレ、いつもは鉱員達に尊大な態度で虚勢をはる男だが、今回ばかりは腰を低くし、なんとも情けのない姿を晒している。
「い、いえ……逆らうなど、滅相も……はい、はい!わかりました三日後ですね、はい…!」
電話の相手に対し、何度も頭を下げる。電話口の相手は伝言を言い渡し、一方的に通話を切った。
「……クソ!?」
ガレは固定電話を床に叩き落とす。うっぷんを晴らすように何度も踏みつけ電話の原型が無くなっていく。
「ああ、なんだってわしがこんなことに……。これもあの新当主のせいだ!なんでわざわざこんなところにまで……!!」
「ヨハン……」
「ま、マツナガ!!…お前、いつから」
ずかずかと近づき、マツナガはヨハンのもとに近づく。身長差はゆうに40cmはあり、子供を見下ろすように圧をかける。
「……社長が頭を下げていた時からですよ。これ、今月分の納品表でさぁ。経理から直接渡してほしいと」
「……あ、ああ、そうか。わかった、受けとったからな、もう帰っていいぞ……!」
「……」
「な、なんだ!早くいけ!!わしは忙しいんだ!!!」
「では、これで……」
踵を返す。ドアに差し掛かったところでピタッと足を止める。
「社長、さっきの電話相手はいったい…」
「な、なんでもない……!下っ端のお前は知らんでいい事だ。は、早くいけ……!」
「……まあ、それならいいんですがね。」
社長室を去る。だがその足取りは少し重く、その眼は軍人の頃のように鋭く何かを見据えていた。
……何も起こらなければいいが、いや、何か起こるんだろうな…。
グランツ・マツナガ、この鉱山で最も古株であり、前職である軍人としても優秀な男であった。青年将校として名を上げるそのさなかに、彼は権力争いに巻き込まれ、爆破テロに見せかけた暗殺の余波で右足をなくすことになった。
そんな彼にしかわからない。あの日、右足をなくした日から数日前、あの時にも妙な胸騒ぎがしていた。そして、今も
「……」
「お、班長…こんなところで何してるんですかい?」
「…フィッシャーか、お前こそ何を」
「いえ、ちょっとダリルの奴がいねえかと。」
「……あいつなら買い出しから戻ってるはずだぞ」
「いやあ、それがまだいねえんすよ。たく、仕事押し付けやがって、班長は知らねえですかい」
「いや、俺は知らんな……」
「さいですか……たくっ、あの野郎」
「………」
ダリル・ローレンツ、ひと月前にフィッシャーが連れてきた若者だ。両手両足が義肢のあいつは自らを傷痍軍人と称し、そっせんしてEOSの作業に買って出た。実際、操縦もうまいしよく働く。人あたりも良く、気づけばこの職場にすっかりなじんでいた。
問題のない。俺達と変わらないただの鉱員、だが、あいつは何かが違う。
一緒に働いていて、あいつの見ているものは少し違うのだ。
「……ダリル」
前に一度だけ、あいつが外で星を見ている姿を見た。
星を見ている、そう言ってしまえばそれまでだが、あいつはどうにもそれが違うように思えた。
星の先、まるでそこに何かがあるように、例えるなら…そう、そこに帰るべき場所があるように見据えていた。
「………」
まあしかし、だからといって何かを言及するつもりは無い。ただ、あいつがここに来たのはきっと何か理由があってのことだと考えてしまう。その理由が何かまではわからない、あいつが何を求めて、何を目指しているのか、それは宴席の語りだけではきっと解き明かせないものなのだろう。
「ダリル、お前さんはいったい……」
今回はここまでで、ちょっと説明が多いんで退屈だったかもしれません。
次回からはちょっと荒れます。