無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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久しぶりの投稿です。やっとサイコザクが登場するクライマックスですが、まだ過去編を続けます。

長く待たせてしまい申し訳ございません。シャルル編の完結まで、もう少しお付き合いください。


イリスレポート2

 駆動音が等間隔で鳴り響く。体にかかるG、地下と地上の気圧差か耳の奥が揺らぐ感覚に見舞う。

 

 時間にして数分、この作戦を始めて地下に突入し、そしてことを終えるまで、長く地底の空気を吸っていたものだが、ようやく俺は外の空気が吸える。

 

「!」 

 

 そしてドアは開き、外の世界と久しぶりの対面。だが、再開した世界は静かで、そこはどこかの廃工場の中。 長く這いずった地下から出て、最初に見た空は錆びれた天上と宙を舞うほこり。

 

 薄汚く重い空気だが、ようやく感じる地上の空気だ。贅沢は言えない

 

 

 

 

「……ここが外、出たんだよな、俺たちは」

 

「ええ、ここはパリ市にある一時保管庫。」

 

「……」

 

「急いで荷物を積み込みましょ」

 

「……あぁ」

 

 少し高い視点で見下ろす彼女、俺の知るシャルロット・ローランではなく、その中身は実の母親

 

 稀代の科学者、イリス・ローラン本人、今更だがどういう原理なのか、あまりオカルト的なことは思いたくない。

 

「……ダリル、積み込み作業はお願い」

 

「あぁ、わかっている……っと」

 

 時間は急いている。今だ居る搬入用のエレベーター中、レールに乗せた各種コンテナを

 

 

「……作業用、本当にあって助かった」

 

 

 アーム内のレバー、ホイールスイッチを操作、機体を操作しダリルはコンテナを外へ運び出す。

 

 地下で見つけたベルサーガタイプの機体。アッガイを乗り捨て、今再び乗り合わせた機体。イリスの協力が無ければ、ダリルは不自由な手足で武器もなしに取り残されていた。その事実を、改めて認識する。

 

 

……そして、これもか

 

 

 資材を一か所に、次に見るは、工場内に置かれた異様な乗り物。

 

 ジェットエンジンとレシプロのような装置も付いた、まるで正方形の箱を無理やり跳べるようにした見た目の乗り物。

 奇しくも、その形状をした輸送機をダリルは知っている。規模の違いはあるが、その形はまさにファットアンクル、ジオンが地上にて利用したMS搬送用の輸送機だ。

 

 

……あれは子孫、これが先祖か。なんだかんだ、似通うのはここが過去だからか

 

 

 ふと、慣れ親しんだ物を見るとつい院長が緩んでしまう。切り替え、ダリルは資材を機体に詰め込み、一方でイリスは、登場席に座り

 

 

「……操縦、できるのか」

 

「ええ、得意とは言わないけど、設計に携わっているもの。戦うならまだしも、飛ばすだけなら問題ないわ」

 

「さすが、デュノアで技術主任をやっていただけはあるんだな」

 

「……なに、さっきの話の続きでも聴きたいの」

 

 続き、それは地下の道中で語った、過去の話こと。

 

「……さあな」

 

 興味が無いと言えばウソになる。だが、少なくとも幼少期の生い立ちで十分に、イリスの内心は理解できたつもりだ。

 悪人ではない。そして自分と同じ、いやそれ以上に傷を負っている。だから、これ以上は傷になると思い、ダリルは気を使ってしまった。

 

 

……けど

 

 

 今、こうして話ができるのが奇跡なら、この奇跡はどれだけ続くか。それに加えて、あの子のためにも

 

 

「いいのか、あの子に伝えなくて。俺を通じて、シャルに言わなくていいのか?」

 

「……知らなければ、傷にならないこともあるわ」

 

「傷? そんなもの、とっくにあるだろ。シャルにとって、どんな理由があろうと、親がいなくなったことは傷だ。」

 

「……それは」

 

「自分の知らない理由で、その上勝手に死んでいるんだ。もう、どうしようもない傷だろ、それは」

 

 けど、今ここで知ることは

 

 シャルは知らないまま、傷の場所を知らずに生きていく。ならば、例え傷を消すために新たな傷を負っても、そのきずがどこに負ったのかを知ることができれば、少しはましだ。傷と向き合えるからだ

 

「……イリス、お前に聞く。なぜ、シャルの元から離れた、何故その理由を教えることを躊躇った。手記に残して、まどろっこしいやり方をして」

 

 悩む理由もあるのだろう、耐えがたい苦渋の決断も経験したのだろう。

 

 だが、例えそうでも  

 

 シャルの為にも、勝手に二元論にされては困る。

 

 

 

……知るべきだ。答えは、一つだ

 

 

 

 イリスに問う、時間も無い中、こんな問答をすること自体ナンセンスだろうが

 

 だとしても、わずかに暇があるのなら、せめて、その理由だけは 

 

「……あの子の為、かしら」

 

「ためだと、どんな理由だ」

 

「……辛い理由よ。だから、あの子にすべて話すかどうか、それは少し考えて頂戴。私はあくまであの子に手足を与えたかった。だから、それ以外を与えたい訳じゃない」

 

 

 

『私はあの子に、復讐なんて重いもの、背負わせたくはないの』

 

 

 

 

 

 

 

 

~10年前~

 

 

 修道院を出た、そして年月が経った。

 

 リュミアーレの村で暮らす日々は快適の一言だった。街の住人は私の目を最初は奇異で見はするけど、でもそれは最初だけ

 

 私がグレンの娘と知るや、誰もが私を受け入れて、歓迎してくれた。

 

 少女の間の日々は、どこを切り取っても甘いパイのような日々で、今でもあの時間程悩みも葛藤も無く、宝石のような時間を過ごしていたと思えたことはない。自由に学び、時には学び、抱いた夢の為の研鑽も欠かすことなく、私は前へと進み続けていた。 

 

 そして、そんな日々に転機は訪れた。

 

 デュノア社グループの技研へのスカウト、私の書いた論文を評価され、私は辺境の町からの大出世を果たしたのだった

 

 リュミアーレの村を出た日、お義父さんはとても心配して、同世代の友達も涙を流していた。そんな別れを経て、時間は過ぎて数年と数か月

 

 都会暮らしも随分と慣れてきた。

 

 

……といっても、私は

 

 

「……ふぅ」

 

 タンッ!……キーボードのエンターを強く叩く音、今日のノルマ分を終えたことを告げる響き。仕事を終えた達成感から大きく息を吐く。

 

 長時間のデスクワークの疲れ。椅子を後ろに、体を斜めにまっすぐ伸ばす。

 

「……神経、疲れた、なッ」

 

 ボスンっと、そのまま転げるように椅子から仮眠用のソファーに倒れた。

 

 

……ゴン、パリンッ

 

 

「……」

 

 傍の机から花瓶が落ちた。あの人が渡したのを生けた花瓶、見過ごせずに重い体を持ち上げ私は掃除を始める。

 

 かがんで行う細かい作業。膝下が義足でも、今はもう電動の高性能義足。私が開発した試作品だからこそできる。

 

「……花瓶、買わないと」

 

 ガラス片を一枚一枚拾う。尖った角も気にせず、次々にコンビニ袋へ入れていく。

 

 精密な五指の義手、義足も義手も神経接続、十分に細かい作業を行えるもの

 

 全て、自分がこの会社で作り上げたモノ。気づいた理論をもとに組み立てさせたもの

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 ボフンっと、また私はソファーに倒れた。すでに二時間もタイピング作業で神経をすり減らした、やっとの休憩と思えたのに出来てしまった追加作業。

 

 長時間の労働は不可能。たとえどんなに精巧な義手を作っても、それを使う本体が耐えられないのでは意味がない。

 

 

「疲れた、寝る…………エアコン、19℃」

 

 

 音声認識で部屋の家電を動かす。初夏の晴天、うだる暑さから逃れて締め切った個室に文明の雪風に身も心も涼ませる。

  

 窓から見える外観は一面この国の首都の建物たち。しかし数か月も経てばキャンパスの緑も恋しくなる。エッフェル塔だって何度爆破してやろうかなど、ふざけた妄想も何度重ねたことか。

 

 

「……ふぅ、ん」

 

 手足を伸ばす。研究用の白衣越しに、そのご自慢なふくらみが前に張り出る。自慢のプロポーションも、こんな自分では不釣り合いでしかなく

 

 

……邪魔、ただの脂肪なんだから痩せて落ちればいいのに

 

 

 世の異性全てを敵に回す発言。インドアで研究一本、禄に運動もしないのにどうしてか肉は胸にばかりついてそれ以外は痩せてほっそりとしたまま。

 

 かつて、自分をものにしようとした男はある意味、先見の明があったのだろうと、自虐的に脳内で独り言ちる。

 

 

 

 

 

 

「……イリス、良くないな」

 

「?」

 

「ロックをかけずに昼寝とは、危ういな」

 

 部屋に入ったスーツ服の男、金色の髪とアメジストの瞳。奇しくも、その容姿は非常に整っているという他ない。

 

「あら、アルベールじゃない。」

 

 体は起こさず、イリスはソファに伏せたまま男に答える。相手はスーツ姿、そしてその名札にはしっかりと常務という肩書が書かれている。

 

 彼はこのデュノア本社に勤める社員であり、そしてイリスがいるこのフロア全体の統括者でもある。

 

「……」

 

 私を起用し、この研究室を与えてくれた本人。一応私はまだ学生の身分で、ここへは研修という立場でまだ雇用あつかいではない。

 

 だが、彼にして言うなれば、彼は私の直の雇用者

 

「やあ、イリス……宿題は出来たかな?」

 

「……」

 

 昼間から、ソファーで寝転び仮眠をとることには何も指摘しない。いつものように、彼は私に隔たりの無い距離感で接する。

 

 しかし声の抑揚はずっと機械的で、その顔もユーモアとは程遠い。感情の機微が人間らしくない点は、互いに同じだ。

 

「……宿題、それってあのファイルのこと」

 

「あぁ、ドイツの作ったベルサーガ、あれの解析を依頼したのはちょうど一週間前だ。率直に聞くが、もう終わっているのかい?」

 

「……」

 

 他国のEOSの解析、さらっと言っているが、やっていることは間違いなく黒。

 

「……まだ、って言ったらあなたはどうするのかしら」

 

「確か、今日の最高気温は30度を超えるか。宿題の残りはやってもらうよ、気持ちのいい晴天の下で」

 

「……冗談、出来てるわよ」

 

 細腕から投じられた一本のUSB、受け取ったものを懐にしまい、アルベールはイリスの近くで坐した。

 

「……居座る気」

 

「休憩だ。君のご機嫌取りに私は1時間までと指定された。コーヒーを貰えるか、一服もしたいから灰皿も頼むよ」

 

「……迷惑」

 

 そうぼやきながらも、イリスは慣れたようにいつものコーヒーを、彼用のカップにそそぎ、そして彼が使うための灰皿を渡した。

 

「助かる、ありがとうイリス」

 

「……口だけね」

 

「なら、口だけじゃなければいいのか」

 

「……情熱的ね」 

 

 

 変わったこと、研究室で機械的な時間を過ごすだけでなく、私にはもう一つ変化も起きた。

 

 村を出て、仕事を得て、そして自身の研究にも没頭する、そんな日々を過ごしているうちに、私はどうやら異性としても平凡な日々を過ごすようになっていた。

 

 グレンには相談もしていない。初めて故に好奇心もあって流れるままにしていたらこうなってしまった

 

 初めてのボーイフレンド。彼の名はアルベール・ロレンツォ

 

 のちに、私の旦那となる、最初で最後の男だ。

 

 

 

  

 

 

 

 時が経って変わったことは多い。

 

 私は私が作る最上の義肢を手に入れ、そして自由に一人で世界に立ち歩くことが叶った。研究に没頭し続けた成果、上の奴らからは予算の使いすぎだと文句を垂れられるが、そんな私に味方をしたのはいつもアルベールだった。

 

 技研の常務である彼は自分の思想を理解して、その上で社の中で弱い立場にならないように、風よけとなってくれた。

 

 信頼は愛情に代わる、その流れは実に早かった。

 

 互いに成人した男女、この関係には何も問題はない。私はそう考えていた。

 

 いつかグレンにも顔を合わせ、老後は皆であの村でブドウを収穫する、そんな日々が来ると思うのは、何も間違ってはいないはずだ。

 

 そう、思い続けたかった。

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 いつもの研究室、彼と一緒にいる時間

 

 その一言が、全てを地に叩き落とした。

 

 

「……中絶、本気なの?」

 

「あぁ、冗談のつもりでこんなことは言わない。わかって欲しいんだ、イリス」

 

 

 

 

 

 だから、私は盲目だった

 

 幸せの絶頂にいたからこそ、何も見えていなかった。

 

 

 

 

 

「まってよ、ねえ……どうして、アルベール」

 

「……決まったんだよ、養子縁組が」

 

「!」

 

「そうだよ、デュノア一族との養子縁組が、向こうの用意した女と結婚する。だから」

 

 煙草を一服、吐き捨てた煙がいやったらしく頬を撫でる

 

 膨らんではいないが、すでに命を宿したお腹。イリスは半歩後ろに下がる。そんなイリスに目配せもせず、あるべーるはつらつらと言葉を吐き続ける。

 

 

 

「君の子は、私にとって邪魔だ。」

 

 

 

「――――ッ」

 

 

 その先の言葉は入ってこなかった。

 

 アルベールが抱く夢、野望、そのための人生設計、身勝手な理屈を大いに振りかざし、それが当然とばかりに投げつける。

 

 理解させられた。自分の存在は、ただデュノアにとって金の卵でしかなく、この関係は、そんな自分を有効に使うための、ただの作りものだと。

 

 またしても、世界は冷たく、そして無情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都会の喧騒は既にはるか遠く、私の居場所はまたここに戻った

  

 デュノア社には療養と嘘ぶいて、私はお養父さんの家へと逃げるように帰って来た。まだ大きくもなっていないお腹、都会らしいファッションに身を包んだ我が娘を見て、お義父さんは全てを悟った。悟ることができてしまった。

 

 お義父さんは何も言わずに、そっと膝をついて抱きしめた 

 

 

「!」

 

 

 悔しかった。情けなかった。

 

 まだ、自分の人生は成し遂げていない、夢を見る続きのまま、どうしようも出来ない理不尽にまた心を痛めてしまった。

 

 けれど、それでもこの人は

 

「イリス、お帰り……よく、帰って来てくれた」

 

「!」

 

 その言葉にすべてが救われた。

 

 夢は半ば、けど今はそれでいい。そう、妥協が出来てしまった。

 

 未だ重く、完ぺきな手足とは言えない電動義肢、それで抱える子供は、本当に幸せになれるのか。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 アルベールは憎い、自分に傷を負わせた二人目の男、しかし

 

 例えそうだとしても、夢半ばに社会のステータスも失い、完ぺきな義肢の世界は諦めのゴミ箱に捨てざるを得ない、そんな境地にあっても、私には拠り所があった。

 

 養父グレン、そして、生まれてくる新しい命。夢を絶たれたこと、会社を負われたこと、そうした諸々がどうでもよくなるほどに、この重さが愛おしく、だからこそ中絶というあの言葉が許せなかった。

 

 

 やり直そう。もう一度一から、この村で

 

 

 そう決めた。そうするべきと二人で納得した。

 

 そして、月日は経ち、エコーを通して私は初めて自分の子供を見た。

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

「イリス!!」

 

「――――ッ」

 

 父が私を抱きしめた。これ以上見るなと、その画面から私の顔を隠した。

 

 理解ができない、自分の聡明さを自覚していても、この現実だけは何万と時が立とうと狂できるとは思えなかった。

 

 同情する医者、私がショックで倒れまいと、背中を支え、口々に何かを言い放つナースたち

 

 生まれてくる胎児を映したそのレントゲンの画像、そこには確かに私の子供がいた。

 

 

 

 

 だが、その子供には手足が無かった。

 

 

 

 

「――――ッ!!!」

 

 

 

 サリドマイド薬害、のちにそう診断が下された。

 

 原因も経緯も不明、何らかの事故か、真相は何もわからないまま、ついに出産の時を迎えた。

 

 第一子、名をシャルロット・ローラン、私の娘は身体障害者としてこの世に生を受けた。

 

 先天性四肢欠損、私の苦しみは、私の子供にまで繰り返されてしまったのだ。

 

 

 

 




今回はここまで、久しぶりの投稿で思いっきり重い内容でなんだか申し訳ない。しかし、これが必要な行程。作品を通して重要な要素もこの過去編、イリスとの接触で明らかにする予定でしたので

あともう少し、お付き合いください。次の話は調整が済み次第すぐ投稿します。
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