無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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過去編続きます。次回で最後の予定


イリスレポート3

 電動義肢の開発、それはすなはち人と機械の融合を意味する。

 

 私の開発したものには単に精巧な義肢だけでなく、義肢と肉体の親和性を高めるために、一種のナノマシーンの研究も行っていた。

 

 人体と異物を繋ぎ合わせる緩衝材。私が編み出した研究の仮定は、我が子の為に役に立つ代物だった。

 

 ブラックマーケットを頼りに、手に入れた誰かの四肢。私自ら繋ぎ合わせ、自らの子供に機械の細胞を施した。異なる体と体の融合。そんな禁忌ともいえる洗濯を選んだのにも、あの子の身かかる不幸が由来していた。

 シャルの体は、他者の細胞に対して過剰に拒絶反応を起こしやすく、通常の輸血ですら困難な体質だ。奇しくも、私が移植手術を受けられない理由と同じ、私の重荷を背負ってしまった。

  

 だが、諦める選択肢は選べない。タブーに触れていることは重々承知でも、私はあの子を救いたい。自分と同じ闇に触れることを、あの子には背負わせたくなかった。

 

 祖父の反対を押し切り、私は秘密裏に施術を依頼。古巣であるデュノアの知人を頼りに、シャルに自由を取り戻させた。 

 

 

 

 

 

 五年の月日が経った。その合間に起きたことは、私の立場の失墜だった。

 

 アルベールがシャルの存在を知った。シャルを助けるためには、デュノアで気づいたコネクションを使わざるを得なかったためだ。

 

 事情を話し、聞いたうえで彼は私に条件を提示した。私が非合法な行為に手を出したことを明かさない代わりに、今後デュノアに対する一切の干渉をしないこと。そんな脅しの契約を私に課してきたのだった。

 

 彼は威圧的にそれらを指示したが、私は抵抗せずすべてを受け入れた。もとより、社会的な立場には何の躊躇いもない。今あるこの小さな命が、全てを差し置いて優先するべきものだった。

 

 デュノアでの地位は失墜した。だが、その代わりに私は手に入れたのだ。

 

 

 

「お母さん!!」

 

 

 声がした。何度も聞きなれた声、されど飽きることの無い求める声。私が産んだ、もう一つの光

 

 

「……シャル」

 

 庭を走り、何もない青草で転んでは立ち上がりまた走る。

 

 何も支障はなく、娘の手足は生きていた。生きた、確かな支えとなって、シャルを健全に生かしていた。

 

「!」

 

「お母さん、お母さん! どんぐり、拾ったの」

 

 抱き着く。無邪気に笑い、汚れた体で私の服や、取り込む最中のシーツに泥が付いた。それらも全て、この元気な手足が成せる結果。

 

 シャルは、誰がどう見ても健全な子供だ

 

 

「……お母さん?」

 

 

「ぁ……あぁ、そうだな」

 

 思考を戻す。現状を再認識、本来は怒るべきこの事態を、イリスは指摘して叱責する最適なタイミングをつかみ損ねた。

 

 しかし、かといって流してはいけない。親として、懸命に正しい躾をしなければ

 

 

 

「……シャル、駄目。……また汚して、どうしてこんなことを」

 

「でも、どんぐりだよ」

 

「理由が不可解ね」

 

 子どもの言葉をまっすぐに噛み砕き、飲み込み、真面目に受け取ってしまう。ちなみに、本人は無自覚である。

 

「どんぐり、リスさんが食べてた……シャルね、シャルもリスさん好き。リスさんになるから、どんぐり食べる!お母さん料理して!」

 

「……そのドングリは可食に向いてないわ。豚が食べるならまだしも、人間には適さない。そうね、穀物の種類の勉強をしましょうか。5時間もあればどれが可食に適しているかも覚えられるでしょう。近隣一体の分布情報、まずは千種ぐらいから……あら、どこに」

 

 天災ゆえに少しずれた接し方、シャルは一目散に逃げ、イリスはまた家事に戻る。

 

 

 

 

「どんぐり、不思議ね……どうして気になるのかしら。香料、それとも形状に心理学的な作用が」

 

 研究者肌故に、しかしどこかずれた思考で子供の行動を真に受ける。

 

 だが、それでもイリスは母親だった。

 

 

 

……子供は、不可解だ。

 

 

 非合理的なことに懸命になるし、意味の無い行為に想像力だけで娯楽を見出す。

 

 だが

 

「……ふふ」

 

 私も、楽しんでしまっている

 

「あぁ、お母さん笑ってる! ずるい、何してるの!何か食べたでしょ!」

 

「さあ、どうでしょうね……あら、その涙目は」

 

「おじいちゃんに怒られた!! 靴の中にドングリいれたの、そしたら悪戯だって怒られたの!!」

 

「ええ、まさにそのとおりね」

 

「悔しい! 絶対リスのせいだって思うはずだったのに……さくせんしっぱいした!慰めて!」

 

「……」

 

 少し考える。人より少し抜けたところのあるイリス、しばし考えて、そして

 

 

 

……ぎゅうぅ

 

 

 

 十分に、娘の悪戯を理解した教育の時間に移った。

 

「いひゃい! いひゃいよおかあさん!!」

 

 

 

「……お仕置きよ、私の可愛いスウィーティ」

 

 

 

 

 普通になっていく、そんな自覚があった。思考が止まり、ただ子供のことを想うだけで、ふと時間が過ぎていく。 

 

 軽くなった、私はもう自分が夢を追っていたことを忘れかけてさえいる。

 

 思うのはシャルのことばかり、シャルが真っ当に人生を送ることだけを、ただ私は願った。

 

 でも、そんな日に陰りが見えるのは早かった。

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 とある日の夜、重い空気の中、先に口火を切ったのは私から

 

 父は頭を低く、祈るように嘆いてみせた。あの子に起きた不幸は、どう逃れようと振り払えない呪いだと、今この時をもって理解してしまったからだ。

 

「イリス、それは本当か?本当に、あの子の手足は」

 

「……えぇ、事実よ」

 

 とある夜、シャルを寝かしつけ、グレンとイリスが二人宅を囲み神妙に口を開く。

 

 卓上に置かれたのは数枚の文書。密かに、自分の知る徹を頼りイリスは娘の血液サンプルを調べた。

 

 調べた動機、それは、とある日のシャルの擦り傷。すぐに癒えるはずの怪我が妙に長く時間を要したこと、私は直感的に危機感を抱いてすぐに研究を始めた。手元に残る器具で行ったものだが、結果は十分に明快。採取した組織の一部で、壊死に近い悪化が見られた。すぐに抗生物質の投与、ナノマシンの治療を施した。だが、それでは根本的な解決には至らない。

 

 シャルの手足は、緩やかに壊死を遂げる。肉体の拒絶反応は未だに続き、これは今の技術では到底止められないものだった。

 

 

 

「何年だ、あとどれだけ時間はある」

 

 グレンが問う、その年月とは、あとどれだけ孫の体は健全でいられるか

 

「……多分、あの子が15歳になる頃。それからは、もう避けられない」

 

 15を期に、四肢の拒絶反応は日に日に増していく。手の施しようは、無い。

 

「……ッ」

 

 5歳と数か月、あの子の手足が持つのはあと十年以内。その最後には無残に朽ちていく末路しかない。書類にはそれらを肯定する要綱がいくつも記されている。確率は99%

 

 理不尽は、どこまで行っても自分たちを苦しめる。

 

 

……ふざけるな、そんなことがあっていいはずがないッ

 

 

 救いが欲しい。無力な自分はどうなってもいい、この身に罪があるというなら、それはもう私だけでいい。

 

 デュノアに加担して戦争兵器を作ったこと、娘を助けるために社会のタブーに手を伸ばしたこと。だが、それでも理不尽は依然目の前で、苦しい現実を与えてくる。逃れるために手を汚すのが罪なら、もう私には手段はなかった。

 

 希望はない。お義父さんですら、その運命を受けれて、せめて今を大事にせんと、シャルとの時間を選んだ。  

 対して、私はまた自分の研究にのめり込むようになった。精巧な義肢、肉体と機械の垣根をとっぱらい、義肢を纏おうと差別されない世の中をつくる。そんな叶うはずの無い夢を、現実逃避のように私は傾倒していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 部屋に閉じこもる時間が増えた。最低限、あの子との過ごす時間はあるけど、すぐに私は自室にこもりPCで仮想の実験を繰り返すばかり

 

 実験はナノマシーンの発展。今ある技術を飛躍させるため、私はあるモノに注目していた。

 

 

……インフィニッ・トストラトス

 

 

 白騎士事件、極東で起きた世紀の出来事の渦中にある代物、現在世界中にそのコアが散らばめられ、各国は一心にその兵器の開発研究にいそしむ。イリスも、そうした者達と並び、本来なら研究に手を伸ばせるはずであった。だが、デュノアと決別した今、自分にはISに対しての干渉は不可能に近い。

 

「くっ……」

 

 持論は立てた、研究は確かだ。しかし、これを受け取る者はいない。試すためのものを私は有していない。

 

 ISコアの演算機能を、肉体に投じたナノマシーンに及ばせることで人体の構造を意図的に変える。人間の設計図に手を加えるともいえる代物、それこそがイリスの導いた仮想の答えだった。答えはあるが、真に実証するためのコアは、全てデュノアの手の内。当然というべきか、落ちぶれて排斥された一研究者の声を、彼らは耳にしない。聞く耳すら見せてはくれないのだ。

 

 シャルを助けるためには、シャルの手足を健常に帰るためには、ISのコアが必要になる。だが、どんなに望もうともそれは手に入らない。この地にいる限り

 

 

……覚悟を、決めるしかないッ

 

 

 残された手段、それは自分自身を他国に売ること。デュノア社時代に交流のあったオルコットカンパニーの上役、モーレス・ガルディ。BT社ともコネクションもある彼には、自分の頭脳を求めるに違いない。

 

 国家に弓を引き、裏から銃口で狙われることを前提にした選択。デュノアは、フランスは決して自分を見逃さないだろう。亡命という危険な旅路で、命を潰える可能性は、安く見積もっても八割強だ。

 

 決断しなければ、二人に対する懺悔を抱き、イリスは研究を記したPCを閉ざそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ストップストップ!!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 シャットダウンのキーをクリックする刹那、その声はけたたましく画面から届いた。

 

 画面はブラックアウト、だが今度は古いブラウン管テレビのようにノイズのモノクロがいくつも点滅している。マルウェア、ランサム、トロイの木馬、ちゃちなウィルスの類なら引っかかるはずがない、これは自作の逸品だ。企業がサイバーテロを防ぐことを前提に利用する、そんな代物を使っているのに、こうも容易くとは

 

 

「……暇な人もいるのね」

 

 

 思わずぼやいてs待ったつぶやき。強がりとしか受け取られないだろう言葉、だが

 

『暇人扱いか、さすがにそれはないわよ』

 

 

 

「!」

 

 甲高い声と共に、デフォルメされたウサギがゴミ箱から飛び出た。子供の落書きのようなそれは私のPCで好き勝手飛び跳ね、甲高い声でけたたましく叫ぶ。それにはもちろん驚いたが、だがそれ以前に

 

「……どうして、このPCにはマイクなんて」

 

「付いていない? そんなの、こっちが付けて上げたんだよ。ハッキングしたパソコンを物理的に作り変える技術、おばさんには難しくても束さんには余裕のヨシコさんでした!」

 

「――――ッ!!」

 

 聞いた。聞き逃せなかった。今確かに名乗ったのだ、タバネ、と

 

「……ただの、愉快犯じゃないみたいね」

 

 返答、短い疑問文でお前は誰だと、この幼い悪戯に、自分は付き合ってしまった。

 

『あら、随分落ち着いてるみたいだけど……なんで焦ったりして無いの? あなたの研究をばらまいたら、世界は面白おかしくなるはずだよ!』

 

「……好きになさい」 

 

『ふーん、面白くないね。でもしないよ、それだと、あなたの娘さん助かっちゃうじゃない。それじゃあ、ダメ。束さんはね、あなたの娘の命を対価に、交渉をしたいのだ!』

 

「!」

 

 

 

 

 

「あっ、やっと驚いたね」

 

「!!……後ろ」

 

 生の声、とっさに振り向き見た。そして、そこには

 

「……ッ!!!?」

 

「驚いた、でもよかったじゃん。あなたが夢に見た、本物のIS 。触りたいなら触ってどうぞ」

 

 どうぞ、そう言われてもイリスは動けない。

 

 いつの間に在ったのか、背後に立つ武骨な騎士。フレームだけの機体、人が収まる場所は空洞で、しかしその機体は独りでに立って、その手に握る刃の切っ先を自分に向けている。

 

「……あなたは、いったい」

 

 イリスの視線、それは向けられた切っ先ではなく、機体の陰に隠れた人影。

 

 アジアスクールの制服を着た、長い髪の若い娘。ふざけたうさ耳を付けて、顔色は薄暗いが極東の顔立ちとだけ理解できた。肯定する条件は十分に揃い過ぎている。この娘は、今世界で最も顔の知れたジャパニーズ。世界をかき乱した風雲児、その名は

 

 

 

「Dr・タバネ」

 

「正解。初めまして、ミセス・イリス。お初にお目にかかります……なんてね」

 

 ふざけた態度、だがここまでしておいてただの悪戯とはもう断定できない。

 

「……何の用かしら、あなたほどの天才、いや天災が私なんかに」

 

「共同研究、そのお誘い……って知ったら」

 

「お断りよ、今の私にそんな余裕は「助かるよ、あなたの娘さん」……ッ!?」

 

 

 

 

「シャルロット・ローラン、あなたの娘を助けてあげる。」

 

 

 

 

「!!」

 

 身構えた、当然だ。相手は、信用ならない世界の異端児だ。

 

 相手は、ISという存在を世界に流布し、均衡を崩さんとするマッドサイエンティスト。そして、自分はとうに理解している。ISコアの持つ、本来の意味。もとい、その恐ろしい根幹の機構を

 

 

「イリス、条件は簡単。あなたは、これから行う私の研究に協力すること。そうすれば、あなたにはこのISをあげるわ。好きに使いなさいな」

 

「……ッ」

 

 嫌な予感がする。こんなにも無害な年下の少女が、妙に不気味で、そこの知れなさに震えが止まらない。

 

 だが、ここまで来た以上、自分に拒否権は無いのだろう。この世の底辺を生きたイリスには、それが察せられてしまう。この女は、今まで出会ったどんな人間よりも、闇が深く、恐ろしい。

 

「……Dr.タバネッ」

 

 眼前にいるのは間違いなく悪魔。だが、悪魔は契約を順守する。たとえどんな不都合があろうと

 

「……ッ」

 

 告げた、告げざるを得ない。リスクは承知だが、もう取れる選択はこれだけだ。

 

 イリスは束の手を取る。シャルを救うため、ISの研究を許されるために、稀代の天才が企む悪行に、私は手を差し伸べてしまうのだ

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 




ついに原作の重要キャラの登場。当然、束さんも魔改造キャラになります。

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