無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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時間がかかりました。過去編もこれにてクライマックス、外道の正体、その軌跡をついにあきらかにできます。


イリスレポート4

 セシリアの放ったEMPバースト、その影響は地下だけではなく町全体にも轟いた。

 

 電子パルスが街の情報網をかき乱し、その影響で地上の道路交通は麻痺。また、報道機関は何故かルーブル美術館の方へと集中しており、街は爆心地を中心に賑わい人の視線を集めていた。故に街からの逃走は容易だった。

 

 フランス、パリより北西にある都市アミアン。そこからの伸びる架線でドーバー海峡の大橋があるカレー港へと目指す。選んだ道のりは最短、しかしその道は自然が織りなす複雑な道で足は遅くなる。

 

 ここは、300年前の地殻変動で創られたナショナルジオトラジディ。自然遺産として登録された大渓谷、アミアン自然公園だ。

 

 

 

「……絶景だな」

 

 つい、そんな感想が出てしまう。

 

 見下ろす景色は空高く、地上3000mからのフライトで拝む地上の神秘。山脈が織りなす大地にはところどころ黒ずみのような渓谷がいくつも見られる。没した大地はさながらグランドキャニオンのように雄大な警告をつくっており、それが血管のように幾つも入り混じり大地を形成している。

 

 警告を走る鉄橋。線路を伝いすでにセシリアたちは先を行っている

 

 だが、連絡をしようにも周囲にはすでにジャミングが微尺に走っている。

 

 

「遊ぶ、暇はないわ」

 

「……あぁ、わかっている」

 

 ファットアンクルの登場席、イリスに操縦を任せ、ダリルはしかるべき準備に取り掛かる。

 

 地下から持ち出した平気で突貫工事、用意した翅はいささか武骨だ。だが、贅沢は言ってられない。ことは既に、始まっているのだから

 

 

「……応答がない以上、このまま高高度で目視したのち、奇襲は空から……イリス、操縦は任せた」

 

「ええ、けど速度は出せないから……あと数十分はかかるわ。」

 

「……ッ」

 

「……上手くいったら、この子に謝ってくれないかしら」

 

「」

 

 追っても無く、気づけば暇の時間はまた昔話の続きとなっていた。シャルの手が欠損していた事実に驚くも、更に次にと苛烈な情報が続く。

 

 

 ISの創始者、篠ノ之束の暗躍。なんとも、頭が痛くなる内容だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーブル美術館地下、更には郊外にいくつも、束の用意した研究所は一種のネットワーク上にこの地に散らばめられている。どこにそんな資源や人脈があるのだと聞いたら、彼女にはスポンサーがいるらしい。

 

 しかも、人の名前を勝手に使って、隣国の有力者に資金まで出させて。面識のないあのモーレスという男、やたらと不躾に接して来て、セクハラまがいのコミュニケーションを取ろうとするものだから、つい義手で殴ってしまった。

 

 いや、そのことはどうでもいい。とにかく、この束という人物はまだティーンであるのに奇怪なまでにコネクションを有している。財源も、人も、そしてなにより、有した知識は人類の手に余るものだ。

 

 ISの創造者。奇怪極まりない相手だが、娘のためには力を借りないといけない。今の技術では至らないおのなら、理から離脱した技術を身に付けねばならない。

 

 

……選択肢は無い。手を取る以外、私には

 

 

 彼女の研究にのり、そして私は知った。これが、悪魔の誘いだと知りながら、なおも知りえなかった甘さが悩ましい。

 

 稀代の天才、世界を乱すトリックスター。だが、その実態は

 

 

 

 

―フランス南部―

 

 

 

 

 

 

 無機質な実験室。ただ白いだけの密室で、その中には一人の女がいた。

 

 年は二十代半ばぐらいか、目に見えてわかる特徴は、この被検体には両足が無いことだ。だが、そんな彼女には義肢が与えられている。

 

 

「さあ、実験を始めて頂戴! シンクロ率、神経封殺は5割、キメラ試験開始!」

 

 

「!」

 

 束の異性のいい声が、実験室の中にまで轟く。女はうろたえ、しかし拘束されている故に何もできない。

 

 拘束台に立たされた女には機械の手足、ISの脚部が付けられている。女は自らの足に違和感を感じ、恐怖から声を荒げて訴え続ける。

 

 

 

『いや、なにこれ……入ってくる、私の中に、だめ……止めて!止めてよ!! とめ、ガッ……あぁぐxがgyくうbcづbくdbpcbvじぇvに「b@うvべ』

 

 

 

「!!」

 

 女が壊れた。言語とは思えない、不可解な叫びをあげた。それは、まるでコンピューター上に在る複雑な機械言語をそのままに叫ぶような

 

 何故なら今、彼女の中にはISの情報が入っている。ISコアという莫大なブラックボックスの情報量が、神経を通じて生の大脳に注ぎ込まれているのだ。

 

「……ッ」

 

 コンソール上に見える生体情報、そこには生命機器を示す反応と並行して、この女性のIS適合率が異常な値に上昇していることが見られた。

 

 ISの研究は自分もある程度は熟知している。だが、これほどまでの異常な指数は、あまりにも荒唐無稽だ。

 

 他の研究員たちも皆、実験部屋の彼女に視線を奪われて計測もままならない。脚部だけのISが、気づけば全身に手足や羽と歪に纏っていき、やがてそれはむごたらしく悪魔のような形状と化した。

 

 

『■■■■■■■■■■ッ!?』

 

 鉛のような、重く響く轟音。それは人ではなく、獣の叫びだった。

 

 秘検体の女性は姿を変えた。歪な複眼の黒い人形。体よりも大きい剛腕を振るい、拘束を砕き壁面に飛びついた。

 

「逃げなさい!!」

 

 とっさに叫んだ。目の前の怪物がするであろう所業を察して、私は職員たちに退避を促した。

 

 するとすぐに、黒い粘度で覆われたような巨人が光の粒子を顔面に宿し咆哮を放つ。吹き荒れる粉塵、機材が火花を拭き研究員も逃げ惑う。

 

 だが、その中で唯一、束だけは戦火の渦中に居座っている。

 

「あ~あ、自己進化が完全に暴走してる。これじゃあ癌細胞だね、醜く大きくなっちゃって……うん、失敗個体だけど、戦闘能力は高そうだし、名前をあげようか」 

 

 平然と、束は気楽に独り言をつぶやきながら、散歩のような気軽さで目の前のそれに近づく。

 

 ISだった黒い人形に、束はその手で触れてみせた。すると、人形は嘘のように、その怒号を沈め、朽ちていった。

 

 

 

「ゴゥレム。色々遊べそうだね、これは」

 

 

 

 手元に残ったのは、禍々しい光放つコアのみ、それを束はどこかに消し去った。

 

 

「さあ、別の部屋を使おうか……ね、次の秘検体の用意、お願いね」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

「あれ、ねえイリス博士。何か、言いたいのかな?」 

 

 

 

 

 笑っている。

 

 

 命を歪め、狂気に浸りながらこの女は笑っている。

 

 

 狂人、それ以外に当てはまらない。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 一年が過ぎた。多くの犠牲を出してなお、彼女は愚行を止めようとはしない。そして、そんな彼女の下から誰も逃げることはできない。

 

 研究員たちは全て見なくなった。顔も、声も、漂う血の芳香も、何も関心を覚えないまま彼らは言いなりに日々を送る。

 

 そんな中、私は独り愚かであろうと決意した。

 

 かの機体が完成し、彼女が基地を離れた間に私は動いた。

 

 彼女の自室に侵入し、そのロックを破ってデータバンクを覗いた。いくつものダミーと警戒センサ―を掻き分け、飛び越え、そして私は知りえた。

 

 

「!」

 

 

 彼女、篠ノ之束が何故、私を担ぎ上げてまで協力を抱いたか。リユースサイコデバイスという未知のプログラムを解明し、それをどのように使うつもりか。

 

 全て、全て記してあった。

 

 だが、それはあまりにも都合がいい。何故か、理由は明解だった

 

 

 

 

 

 彼女にとって、私は既に降板ということだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は企みを持っている。それは、区別をつけるならどうしようもなく悪だ。限りなく黒い、極上の悪心だ。

 

 彼女は自己顕示欲にまみれ、そして愉悦に浸り非道を率先して下す。つまり、彼女はシナリオが欲しかったのだ。

 

 後に起こるIS時代の戦争、その引き金となる火種を、ここフランスに仕組んでいたのだ。

 

 

 

……モーレス・ガルディなんて他国の古だぬきを私の名前で呼び出し、そして意図してイリス・ローランの遺産の存在をにおわせた。

 

 

……私が書いた手記、そのコピーを握らせ、意図して外部に流出させた。

 

 

 すべては、シナリオの通りに。筋道をたどり、世界のバランスが崩れ行き混沌に進むように、彼女は時計の針を握っていたのだ。

 

 

 

 

……数年後、イリスローランの娘が存命であることを、時限式で明るみになるように筋書きを書いていた。

 

 

 

 

……イグニッションプランで息詰まるフランスが、リユースサイコデバイスを搭載したISを狙うように、そしてその渦中で

 

 

 

 私の娘、シャルロット・ローランが犠牲になることで、シナリオは最大の見せ場となるように、篠ノ之束は筆を執った。

 

 

 

 ローランの唄は悲劇の唄、史実も王を助けるべく向かった王子は戦に敗れ全てを失くした。

 

 世界の波を止めんと、個人がその意思で轍を刻もうと意味はない。無力なまでに、世界の悪意に潰れていく。消え去る。

 

 世界に悪意を残し、ただ理不尽が蔓延した結果が残る。

 

 リユースサイコデバイスを手にしたフランスは、ISの常識に革命を起こす。だが、束が作り上げた世界は歪な形をすでに気づいている。それは女尊男卑、性別という原始の頃から続く二元論を用いて、世界の騒乱を過激にせんとしている。

 

 白騎士事件、インフィニットストラトス、篠ノ之束が抱いた夢、その答えを私は知った。

 

 

 知ってしまった。故に、この先は末期の記憶。

 

 

 

 

……イリスレポート、私の記録はここで終わる。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 燃え盛る施設、崩れ落ちる天上、鳴りやまないサイレン。

 

 死神の襲来は想像よりも早かった。施設は所かしこで無人機が暴れ、研究員たちは無残に光で焼かれ、マニピュレーターでつぶされている。

 

「……ッ」

 

 そして私の目のまえにも、その死神はそびえ立っている。最初に見た実験で豹変した黒い人形。彼女がゴウレムと称し、好き勝手に使役している忠実な兵器。

 私が開発したEOSとは比べるべくもない、まさに世界の戦争を変える代物。IS、禍々しい暴力の化身である。

 

「……ミス・束。まだ私に用があるのかしら」

 

 誰もいない、自分以外死体しかない場所で私は独りつぶやいた。

 

 モニタールームの画面をバックに、取り囲む三機のゴゥレムを一瞥。これらはただ銃口を構えるだけ。やる気があるならすでに私はチリと化している。

 

「交わす気があるなら、何か言いなさい……じゃなければ、早く殺しなさい」

 

 気丈に振舞って、私はそんな言葉を吐く。

 

 

……もう少し、あと

 

 

『……へぇ、まだ会話する気力があるんだ』

 

「!」

 

 乗った、その機会は天啓であった。

 

 後ろに付いた手でコンソールを操作する。バレないように、慎重に、1フラットでも多くの時間を残すために

 

 

『で、イリス博士……全部あなたには教えたけど、どうかな……シナリオ、もう気づいてるでしょ』

 

「……えぇ、あなたがサイコでクソビッチだってね」

 

『もう、口が悪いなぁ……けどいいや、絶望しかない哀れなヒロインが君だもん。それぐらいはいいよ、許してあげる』

 

「……」

 

『ねえ、どんな気分? 生まれも最悪で、手足も無くて、しかもその不幸が娘までにも及んで』

 

「…………」

 

『ねえ、答えてよ……あと数年後、あなたの娘は国のおもちゃになって、そして戦争の駒になる。束さんはね、退屈が嫌いなの! だから、ISをつくって世界を壊した! でも、それだけじゃ未来は平凡……だから、もっとひどい理不尽が世界には必要だからさ、あの世界の技術を頑張って解明して、そしてシナリオも作ったんだ!! それはね、束さんだけじゃ成立しない、ゴミよりもみじめにくたばる可哀そうなお姫様、そんなあなたがいないと味はつまらない……ねえ、だから自信をもってくたばってね! イリス・ローランは、世界を狂わした狂気の発明者!! そして、その娘は狂気の被害に遭って、さらに世界を混沌に陥れる!!』

 

 

『世界はもっと、楽しい理不尽でいっぱいになる!! でも、その理不尽は倒される運命にあるんだ!!』

 

 

 

「……まるで、預言者ね」

 

 息を途切れさせず吐き続けた束に、イリスは平然と返した。改めて知って、相手は理解する価値もない、世界のはみ出し者、異常者でしかない。

 

「なるほど、だから……貴方の作ったISは未完成、不出来な代物なのね」

 

 IS、この施設で触れる機会を経て、私も十分にその知識を深めた。欠陥の在る代物、だがそれも全て前提が違う。

 

 人は、ISが宇宙を探索するために在るものと称した。そして、今普遍的な見識ではISは国家の武力の根底としている。

 

 だが、真に、この束がISを乱した理由は、ただのどうしようもない私情だ。エゴよりも質が悪い

 

「……貴方の望み、ISを作って成し遂げたい、あなたの夢……くだらないし、興味はない。でも、その助けるってこと、一体どういう意味かしら」

 

『事実だよ。シャルロット・ローランが将来、シャルロット・デュノアになる未来、遠くないうちにあの子が助ける予定だから』

 

「……また予言かしら」

 

『はは、だからそう言ってるじゃん。いっくんは貴方の娘を助けるけど、でもその未来はつまらない。だから、私は最悪の、どうしようもなく救いの無いシナリオを描いた。これも全部……あの子主人公になるため! 束さんが大好きな、いっくんがヒーローになる為!!』

 

「……誰よ、そいつ」

 

 呆れ混じり、狂人の声をイリスは流した。

 

 

……もう、十分かしら

 

 

 引き延ばした会話。すでに手を打ち終えた。

 

 

……これでいい、私は全て、やり終えた

 

 

 

「……終わりにしましょう、ミス・束」

 

『言われなくてもね。じゃあ、これでさようなら……永遠にね』

 

 

 切れた。アナログの回線を切ったように、その切断音が妙に耳障りに響いた。

 

 

「……終わり、ね」

 

 静かに呟く。同時に、エンターキーを力強く叩いた。

 

 既に映像も何も向こうは拾っていない。あとは、ただこのIS達が処刑するだけ、その光景にあの女は興味を持っていない。

 

 

……甘いのよ、天才!

 

 

 備えていた。私は研究に協力する裏で、密かにあるモノへ細工を施していた。

 

 あの女、束が約束を違え、シャルを救うための方法が手に入らないときの為、いざという時にこの地を逃げるため。手足の不自由な私だからこそ、この手段を仕組んでいた。

 

 施設の奥深く、封印を施された彼の機体。束は知っていないのだ。

 

 

 

「Viens ! Lumière la Durandal!!」(来なさい、リュミアーレ・ラ・デュランダル)

 

 

 

 聖剣はすでに、私の手で汚されていることを

 

 本来の未来を歪め、創り上げた彼女のシナリオ。訂正は叶わなくともまだできることが私にはある。

 残された命、その残照に至るすべてを利用して

 

 

 これからの物語に、一石の異物が混じらんことを

 

 

 

 

 私は、世界に祈ろう。

  

 

 




今回はここまで、まだ開示していない部分もありますが、これにてシャルロット編の全容、誰が最も打つべき敵であるか、明確にすることができました。

次回、前半でイリスの最後、レポートを終えたラストメモリーを開示。その後、物語は今の時代へと回帰


世界を嗤う兎を刈るはこれまた世界の異物、まずはその手先から屠るとしましょう。





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