無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
〇
列車の急停止。ビリーの判断はまさしく懸命であった
速度を落とした車両が向かう先、そこは一見すれば何もないように見えた。だが、残り数十メートルとなったところで、運転席からもソレは明確に目視できた。
進路に在ったのは、両側の斜面に固定されたワイヤーネット。それが蜘蛛の巣のように、進路に対して垂直な壁となって張り巡らされているのだ。
……優秀だな、狙いも抜群だ
的確な位置、目視からの減速では決して間に合わないだろうポイントとタイミングで仕掛けられていた。ビリーがいち早く対応したため最悪こそ免れたが、それでも依然状況はマイナスである。先頭より後ろの車両は脱線し、横転こそ免れたが車両は運航不能となってしまった。
そしてなにより、自分もいた先頭車両は
「……ッ」
火花を散らす機材、固定の甘い資材が至る所に転がり散らばる。正面のガラスは蜘蛛の巣を散らしたようにひび割れ、外界の景色は見えない。
「お、おい……生きてるものは、返事をッ」
「……」
「おい、まて……何をするつもりだ、ビリー中尉!」
「……後部車両に向かう。あんたはここで倒れてる奴らを介抱しろ」
……指揮官だからな、勝手にやられたら困るッ
ガラクタを蹴飛ばし、ビリーは側面のドアから車外に出る。警戒しながら辺りを視認、そして列車の正面にあるソレをみた
「……こいつは、軍用の特殊兵器か。デュノアの残党にしては優秀だな」
列車の進路を遮るように張られたワイヤーの蜘蛛の巣。
側面の斜面に打ち込まれたアンカーから伸びるそれは列車に食い込むほどの切断力を有し、且つ靭性と強度にも優れている。つまり、速度を落とさなければ良くて爆砕、生きたまま体がいくつも寸断だってありえたかもしれない、ということだ。
「生きている、今はそれで丸儲けだ」
そうとなれば行動は早く。
敵は何時銃弾を放ってもおかしくない。五キロ程度、敵はすぐに向かってくる
なら
『ビリー少尉、アッガイの整備終わっています。お早く!』
「……あぁ、セバス」
……迷う暇はない。たたき起こすよりも、まずは
走る。時間をかけて、失う痛みも背負って、ようやくここまで来たのだから
任務は果たす。己の信じる正義の為、軍人としての矜持の為
ビリー・ヒッカム。彼の男は戦場の空気をまた大きく吸い込むのだった。
× × ×
「……ッ」
突然、何もかもが急であった。客間の個室で、セシリアは狭い中ISを身にまとっている。
抱きしめて、アンロックユニットで覆うように庇ったのはチェルシー。咄嗟の判断で、セシリアは列車の衝撃からチェルシーを庇った。
そのおかげで、無事チェルシーは怪我を負うことはなかった。だが、そのことで胸を降ろし戯言を並べる暇など無い。
……来ますの、敵が
「……お嬢、さま」
「チェルシー、あなたは中の人を引きいて支持を……私は、ビリー中尉と外に」
「……お待ち、を」
「ビリー少尉、状況をお願いします……外は、敵の攻撃は……」
『……お嬢、あんたは中で待機だ。絶対に、外には出るな!!』
「……へ?」
〇
―渓谷、列車まで500m―
架線が伸びる渓谷、もとからあった凹凸激しい山脈の地形に出来た地盤崩壊の裂け目、線路を築くために平坦な道をたどった結果進路は大きく蛇行した道筋となる。
山脈を踏破するには樹林と傾斜が邪魔でEOSでは足を取られる。故に、戦場は閉鎖的でしかも直線的だ。
戦場を指揮するのはビリー・ヒッカム中尉、そして敵方の大将フェルシア・カフゴ
その差し合いの一手目、フェルシアが仕掛けた一撃の不意打ちに対しビリーは予知とも取れる危機判断でこれを最低限で終息させた。
戦いは二手、次なるは直接の交戦。打ち合いでは決定打にならず。それは、フェルシア側が良く理解していた。
戦いの要点は、ISの有無。最強のエースカードが戦場の法則を決定させる。
長距離砲による殲滅は成立しない。光学兵器を操るISをもってすれば曲射弾頭程度容易く撃ち落とされる。
そして、一方でビリー達の陣営もまた、ISのみに頼る限り勝機は見えない。決定的な問題として、相手側にもISは存在する。
ミラージュ、ダリルと共に相対した宿敵、その存在がここまで姿を現さないことから、彼女もまたエースとして戦局を見極めているのだろう。
状況を整理する。
「敵は、進路をふさいだ。追手は殲滅、ここで片を突けるしかない」
「奴らは逃げない、ここで迎え撃って俺たちを倒す腹積もりだ」
「戦局はISが左右する。だが、お嬢は無暗に出せば……スナイパーの優位を失った状態で、イレギュラーと相対させてしまいかねない。報告に在った、鉱山でやってくれたミラージュとかいう女相手に」
「先にISを出せば、後出しで不意を突かれる。なら、互いにエースを切るわけにはいかない。なればこそ、戦局の主役は寡兵にこそある」
「アッガイ三機、ベルサーガ四機、ファランクス三機……EOSはこれで全部だ!」
「EOSの総力戦だ。エースを切らないなら、切らせるように仕向けるだけだ!!」
互いの首領はそれぞれの味方に鼓舞を送る。現状を理解させ、戦場の空気を吸い込ませる。
実践、戦勝の気分は捨て去らなければならない。追いつめられた絶望の渦中でこそ、戦士は己の在り方を思い出せる。
叫ぶ。僚機のチャンネルに、ビリーはけたたましいほどの熱量で命令を放った。
『絶対、生き延びるッ!! 総員、火薬を灯せッ!!!』
呼応する。敵部隊にも同様に、先陣を切る対象は鬨の声は轟かせた。
『フェルシア部隊、撃鉄を起こせ!! 敵の眠り姫に、戦場のロックを叩き込んでやれッ!!?』
『―――――――――ッッ!!!!?』
戦火の轟音が待機を揺るがした。放たれる4㎜徹甲弾の連射、EOSが駆動音の雄たけびを上げ大地を滑走する金切り音。怒声と罵声が入り混じり、男達は戦いの中で存在を示し続ける。
「……ッ!!」
ビリー駆るアッガイ、そして向かい合うは指揮官機使用のベルサーガ。
S字にカーブした渓谷に道の中央、両者飛び出すように躍り出て、そして鉄器を発見と同時にスラスターとホイールを最大回転。
重装甲のEOS同士、決定打になるのは白兵戦。
右腕部複合兵装より、折り畳み式の大型ナイフを抜刀。跳躍気味な突貫でビリー機は大将首を狙う。
「!?」
つんざくような金属の衝突音。引き抜いた大型ナイフで鍔競り合う。
『焦るなよ、試合は始まったばかりだぜ』
「……ッ」
接触回線で流れる敵の声、相対する敵の声の余裕さに精神が冷つく。
互いにエースを温存するゲーム。賭け事で扱うカードオブスカムをビリーは連想した。スカム、大貧民、カードギャンブルに例えるのは何とも理解しやすい。
自分は絵札、エースではない。スペードのエースは別にいる。そして敵も同様に、この勝負の主導権も自身にある。プレイヤーは己そのもの
……背負っているんだ、なら下手は出来ねえ
「セバス!防衛線を敷け、何人か突破される……段階的に防ぐぞ!!」
次回に続く。
今回はここまで。続きもまた早めにできれば