無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
銀色の光が弧を描く。振るう刃が刻む美しい曲線、そこからほとばしるは命の全て
モニターの光は消え、ただ感覚だけが現状を理解させる。セバスは、己が血管を通じる熱が冷え切っていくのを感じ取った。
「……ッ」
任務は果たせず、仕えるべき主も守れず。
ただ、狭い鉄の棺桶でことを終える。無念でならない。自分達には駆け引きの猶予もなく、ただ力の差で圧倒されるだけでしかないということ、だがそれこそが
……ISの、定説
「これが……今の、世界の…………あぁ、ビリー少尉の言う通りだ」
軍属であるセバスとビリーは、よくその手の議題を話題にあげていた。
ISという絶対的な汎用兵器、そして超越した兵器。そんなものがあって、しかも操縦は女性だけに
自分たちの居場所は、存在意義とはいかに、そんなわかり切った馬鹿らしい解答にすら、気がめいれば悩んでしまう。軍人は必要、男も女も関係ない。女尊男卑はくだらない
自分たちは世間のカルトたちに言われるいわれなく、必要としてここにいる。軍人として、力を行使できる立場として存在意義を声高に示せる。
だが、現実は
……ISには、敵わない……覆らない、世界は
「歪んで、いる……我々は、軍人は……この世界に、必要なのですか?」
〇
空を行く。高く高く、蒼穹とまでも行かなくとも、自分は今帰るべきあの宇宙へと近づいている。
空の彼方はどこまでも広く、落ちていく夕日はなんとも耽美だ。
「……イリス」
だが、そんな美しき視界全て、この俺自身が存在している限りそこは戦場だ。
引き金は依然重く、空気はどこまでも冷えついている。暑さ冷たさを感じるのではなく、脳裏が余計な熱を拒み、感情の炉を落として温度を下げる。
「ダリル、これで……」
「あぁ、さよならだ……そして、ありがとう。あなたは」
クールヘッドウォームハート。冷えた思考で、熱い心を御する。
身に纏う鎧に使命を宿し、超えるべき運命を見定める。
「あなたは、良い母親だ。シャルには……そう、伝えておく」
「ありがとう、私は私を許せないけど、あなたが言うのなら、受け止めるわ」
「あぁ、できればそうしてくれ。……じゃあ、秒読みだ。手はず通り……」
……ドアを、開けてくれ
× × ×
「!」
断末魔、味方の無洗が混在して、その感情の色が入り混じり混沌と化している。
ぞろぞろとせまる敵EOSと歩兵、眼前に迫る敵を前に自分たちは銃を下ろしている。
「……うそ、あれは」
『お嬢様、絶対に……そのEOSから降りないでくださいッ』
「……ッ」
怯え混じりのチェルシーの声、そこにはいつもの落ち着きはない。
無線で情報を知って、そして眼前に現実を知らしめられた。忘れもしない、夕闇の翼を纏う彼女のIS
……そんな、また……あれを、ダリルさんもいないのに
「……くッ、チェルシー。私が、せめて時間を『お逃げください』
「「「―――――――――――ッ!!!」」」
「なッ!?」
『お逃げください、音速で飛び去ってイギリスへ向かいなさいッ!!』
一斉に、チェルシーが沈黙を破り持てる火力で一斉に斉射。
重火力型のスプレーミサイルを放つ。対戦車程度の火力、ISはただ黙してその場から動かず
……意味が、ない……効いていない
「なのに、どうして……チェルシー」
『私たちを捨てなさいッ!!』
「!」
『捨てなさい、でなければ…………貴方が死んでは、全て』
……ええ、そうね
『グシャァ……ッ』
「ヘッ?」
『――――ッ!!』
飛び散る鮮血、一瞬の加速で距離を詰め、ミラージュはセシリアの前に現れた。
数十メートルも離れた距離、イグニッションブーストを使用したと理解した。理解した、その一方で
「ちぇ……るしぃ」
「あら、女の子なのね……道理で」
ミラージュが右手を引いた。その手に握るブレッドスライサーは、アッガイの胴体を深々と貫いていた。
「柔らかいはずよね……あら、どうかされましたセシリア・オルコット様、キャハハ」
「あぁ――――アアァアアアアッッ!?!?」
叫び、心が壊れる音のように、その口から出ずる叫びはあまりにも悲壮だ。
アッガイを纏ったまま、さなぎから羽化する腸のごとく、セシリアはおのが翼を羽ばたかせた。
「ブルーッ!!ティアァアア―――ズッッ!!!!!?!?」
『そうよ、それを待っていたッ!!!』
飛び立つ二機の天使。片や過去の恐怖をそのままに表れた悪夢、しかし対するはむなしき翼
ナイトストリクスを排して、ビットを一機も搭載しない、ライフルと非常用近接装備のみの姿。ブルーティアーズ初期型、アウトフレーム。
勝ち目もない、ただ感情のままに狙いを定める。ルーティンと化したその挙動は正確に、しかし
「許しません、あなただけは……絶対にッ」
……勝てない、倒せないッ
……盾を、どうやって……こんな正面から、起動戦をするにしても
『――――ッ』
「!!」
迫る、真正面から堂々と、シールドチャージで特攻。だが、その盾を打ち抜くことはできない。
BT兵器のビームを、あの盾は拒絶する。兵器であることすら叶わない、許されない
…………ぁ、あぁ
誰か、誰でもいい、そんな祈りが、刹那の時間を何倍にも希釈し、時間をスローにゆがめる。
奇跡を、祈りを、理不尽を払う救いの戦士が現れんことを。
……ダリル、さん
『私の戦歴の汚点……お前の血で、私は私の敗北を濯ぐッ』
「!!…………ッ」
引いた。引き金は銃口に火を灯す。撃鉄はなく、高出力の粒子プラズマが収束、放射された。
心臓を狙う位置、左肩の縦でコースを遮断された。光の速さに対し、呼び動作の予測で防御は事足りる。
秒間の刹那、一対一で集中しあう故に、ISの高精度なセンサー類も意味を成さない。
弾丸は放たれた。
蒼穹より放たれた、晴天を焼き焦がす雷撃の一矢
『……またせたな、セシリア』
……ズダンッ!!
「な!?」
構えた盾が、わずか数センチずれた。傾く姿勢、ほんの、ほんのわずかに点をずれる。
射撃、セシリアの放つ光は、またもミラージュを撃ち抜いた。
「……ダリル、さん」
奇しくも、それはかつて見せた神業の再現。
ステップをとった。その手は独りではなく、握る相手はすぐそばにいた。
「!!…………おそ、すぎですッ」
涙にぬれ、天を仰ぎセシリアは見る。
歪な鎧をまとい、顔こそ見えないが、硝煙を残したライフルを構えるベルサーガに、セシリアは彼の顔を見た。
「ダリルさん、よくぞ……よくぞ生きて…………きゃッ!?」
『――――ッ』
スラスターの点火、速度と高度を急速に上げてミラージュは
「ダリルさんッ!」
『はは、アハハッ!!』
射撃を躱す。セシリアの射撃に身をかすめながらも、ミラージュは一心不乱に新たな獲物、ダリルの喉元へと食いつかんとする。
たかが一発、その一発はSEをほんの僅か減らしたかすらわからない、歯牙にもかけることもない一撃。だが、そんな道理で彼女は図れない。
EOSで、手足すらも足りず、なのに自分に勝ち星を得た、それだけで理由は足りる。高々IS乗りの少女にはない、本当の意味での強者。最高の舞台で倒すべきと夢見た主賓を前に、彼女ははしたなく潤いを得ている。
『いいわ、最高よ!!ファッキングッドにもほどがあるわッ!!』
上空から舞い降りたダリルへ、その手に持つ刃を引き絞り、一閃を放つ。対して、ダリルもまた斧を手に、ISの一撃を真っ向から受け止めた。
『また会えたわね……ダリル、ローレンツッ! いいわ、たまらないわあなたッ!!』
『あぁ、リターンマッチだ……ミラージュッ!!』
銃を捨て、刃を構え敵を討つ。距離がゼロになると同時に、ダリルの翼は炎を纏った
「!」
「決着をつけよう、だが……その前に付き合ってもらうぞッ」
ベルサーガのバックパック、本来の簡素なランドセルとは違いその背には翼があった。
突貫で備え付けた飛行ユニット。先に地上で見せたカスタム機が背負うプロペラ機関とはわけが違う。
音速を超えることを前提に作られたジェット機関、それを強引にEOSに背負わせ、本来不可能な飛行能力を再現せんとしたマッド兵器
『いかれてるわね、あなた……ッ』
「!」
振り放つ刃、しかしダリルは逃がさない。サブアームも絡め、強引にミラージュの機体を抑える。
同時に、背部ジェットエンジンを最大にて点火
……二連V1式飛行滑走翼、飛べッ!!
「!?」
爆発と見間違うほどの黒煙。機体は歪な軌道で彼方へと行く。
ダリルの機体はまともなカスタム機体ではない。慣性制御のプログラム、衝撃吸収機構、なによりも低酸素と高Gからパイロットを守るシステムもない
平衡感覚は持たず、目まぐるしく加速する周囲の映像に己の居場所もわからなくなる。目指す果ては硬い地面か、それとも遥か空の彼方か
『くっ……はは、ッハハハハ、いいね、イカレ具合が最高よ!!』
「……ッ!!」
点火、姿勢制御と加速のブースターをミラージュも灯した。加速に加速を織り交ぜて、両者轢かずのデッドヒートを続ける。
渓谷を抜け、山脈を割く地面の亀裂へと落ちていく。アミアン自然公園大渓谷、海抜400mを超える地の底へ、そこが最後の舞台だとばかりに
二人は、落ちていく。
『――――――ッ!!!??』
叫ぶ声は喜の声色のまま、恐怖は一切感じず狂人のままに手を取った。
なんど、この女には振り回されたことだろう。機会を与えられたとはいえ、そもそもこの女がいなければイレギュラーは起きなかった。
うんざりだ。顔を見るのも、刃を合わせるのも
……殺すべきだった。あの時点で、最初に決着をつけた時点で
後悔して、そしてようやく巡り至ったこの機会。武装は十分、あの時とは決定的に違うものが俺にはある。
雷鳴走るあの宇宙で、俺は誓いを胸に戦いに挑んだ。繰り返し、結局は戦うことが俺の使命、生きる意味なのだろう。
……敵が、立ちふさがるなら……俺はッ!!
「…………パージ、連結シャフト収納。爆砕ボルト、着火!!」
音声入力、プラグラムを遂行し、バックパックから延びる固定アームが解除
全身を覆う装甲を一枚はがす。フルスキンの機体から、顔を露にした通常のベルサーガへと戻る。
「…………ッ!?」
生の顔で、今一度面を合わせた。狂気で興奮した最悪の獣に、ダリルは殺意をもって言葉を送った。
「ここで堕ちろ、ミラージュ」
「!」
増加装甲の内部火薬が点火。密接に組み合う両者の間に衝撃が走る。アーマーパージ、そして離脱。
脱ぎ捨てるように、ダリルは連装V1飛行滑走翼を脱ぎ捨て、それをミラージュの機体に押しつける。サブアームで拘束されたそれはすぐには払えず。ダリルはミラージュから離れ斜め先の河川へと自由落下。
片やミラージュは岩壁目掛け、慣性をそのままに機体は叩きつけられた。燃料が引火し、高速爆弾の名にふさわしく、V1は盛大な火柱を上げた。
次回に続く
今回はここまで、二章最後の舞台でついに主役の帰還です。次回の決戦をお楽しみに
感想・評価など頂ければ幸いです。次の話はよりもっとサンボルらしく、むせ返るような展開を目指して