無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
狂気の表情、ミラージュだけでなくダリルですら戦場の異常に精神が染まり、殺すための技を惜しげもなく披露し続ける。
MSで得た空間戦闘の術、上も下も無い宇宙において敵の上や下は視覚にあらず。手足の動きでアンバックを再現し、見事に姿勢制御をモノとした。初のIS戦。ISの経験年数は勝敗に左右しない。接近戦の応酬、交わす拳と刃でどちらが勝るのか
「!」
理解はしている。技量は互角、性能も互角、だが、ただ一つ、ダリルには一手が足りない。それは、使用する武器のスペック。それだけが両者を分ける決定的なポイントだ
……折れた武器じゃ、いや……違う、これは距離の
「はあぁああッ!!」
「!」
受け止める。だが右の拳はいなせたが、もう一方までは止めきれない
首を引いて住んでのところで左フックを交わす。ミラージュの両手に握られた二撃のナックル。先端にスタンガンのような二つの突起があり、それが膨大な電力を保有して拳の先に乗せている。
……スタンロッド、それと同系統か……あの、ナックル
手数の差、先ほどまでは気にもならなかったが、今ミラージュの目に灯る赤色、それが輝くようになってから格段に動きが良くなっている。
機体の性能に差はない。繰り返すが、現状の僅差は全て
「……ッ!!
……武器が、足りないッ
刃を交え、ダリルは何度もミラージュの拳をいなす。空中で躱すインファイト、憑かず離れずで何度も拳を叩き込んでくる。リーチは短いとはいえ、拳と獲物ではその距離は大いに違う
……こいつ、離れない。それに、動きが、さっきよりも
「――――ッ!?」
「はっは!! 痺れなさいよ、ぶっ飛んじゃいなさいな!! あたしの電撃で、グレイトフルデッドさせえてやるからッ、キャハハハハッ!!!」
「くっ……品のない、趣味が悪いぞミラージュ」
負けじと悪態で返す。しかし、現実には厳しい。あれだけ圧倒していた近接戦で、ダリルは押され気味なのだ。
「……システム、なんらかのパイロット補助の類……そうだ、確か」
記憶に思い出す、あれは基地に滞在していたフラナガン機関の関係者、ニュータイプ研究の連中たちの会話をたまたま聞いた時のことだ
ニュータイプでなくても、ニュータイプと同等の戦闘技術を発揮させる。それを可能にする機械の援助、ジオンで発明されたそれが連邦の手に、そしてまたジオンの元へと戻った。
知らぬ者はいない。ジオンのエースパイロットの一人、ニムバス。彼の男が乗る機体にはゴーストが付いていると
……根拠は無い、ただの噂だ。ただ、パイロットの技術を劇的に変えるシステムは、すでに俺たちが実証済み
「それが隠し玉か……」
「死ね!死ね! ひゃっはぁあ!!?」
「……くッ」
会話もままならない。気を逸らすこともできない、意味はない。目の前の女は間違いなく戦闘狂、今はその狂気がさらに磨きを入れてしまっている。
均衡は続く、だがそれもいつまで
「……」
「どうした、ダリル!」
二撃のナックルがダリルの機体を弾く。距離を離さず、インファイトにもちこむべくミラージュは突貫をつづける。ごり押しともいえるその戦術は、確かにダリルを追い詰める最善の手だ
それは、ダリル自身が一番理解している。このまま放置しては好転しない、理解して、理解しきった上で
「…………はは」
「!」
不思議と、そこにはマイナスの感情はなく、ただ平坦な心持でその表情を緩めた。
足りない、手数の差を埋める策、それが思いついたわけでもない。
「足りない、今の俺に足りないのは……武器だ」
回避、スラスターを吹かし、縦に回って背後を取る。天に足を向けた逆さの態勢、ダリルの空拳が、ミラージュを捉える。
足りない、それに気づいた時から、何かが沸き起こる。
記憶を通じて、自分の背中に頼りがいのある重みを感じ取るのだ。
……サイコザク、俺のイメージする最強の機体
「なら……この手には」
「!」
背後を取られたことに驚きつつも、ミラージュは素早く方向を転換。その手にはスパークナックルではなく、マガジン式のブルパップマシンガンが握られている。
拡張領域から瞬時に取り出した武器、ミラージュは悪い笑みと共に引き金を引いた。
……あぁ、そうか
マズルフラッシュが瞬いた。その刹那、ダリルの手は覚えのある形を取った。
迫る弾丸、それに臆面もくれず、ただイメージした。
真っ向からぶつかり合うために、ただ近接武器をそのまま流用していた自分を恥じる。これでは、意味がない。サイコザクらしからぬ戦い方だ
やはり、自分にはまだISは慣れていない。故に学ぶことはまだ多い
……だから、感謝をする。ミラージュ、おかげで俺は
『―――――――ッ!!?!?!』
「なッ!?」
ズガガガガ、鈍い金属の連続音が渓谷をこだました。刹那の応酬、制したのはダリルの側。
ミラージュの装甲を、その手の銃も打ち落とし破壊した。今もダリルの手は硝煙の煙を残している。
「忘れていた。俺は前衛じゃない、狙撃手だ。獲物は、こいつ等だった」
その手に握るはドラムマガジン式のマシンガン。身をひるがえしゆっくりと地上に降り立つ、その背中には双対の羽、ではなく
バックパックのプロペラントタンクに積載された遠距離兵装数々、それら全てがサイコザクの武装である。
× × ×
……メインウェポンはビームバズーカ、サブアームにマシンガン。ジャイアントバズ三丁、そしてシュツルムファウスト
標準はインレンジ、敵は近づくか左右上下に射角を乱す。
積載量が増えた今旋回制度は若干下がっている。渓谷は高さこそあれ横には距離はない。故に、ここから先は銃使いにとって腕の見せ所だ。
「……ッ!!」
迫るミラージュ。飛び道具を得た今、一層に活路はインレンジだ。踏み込みと同時に拳が届くライン、そこに線を切って自身のイメージに結界を作る。
ハイパーセンサーも加わり、ダリルの意識はより繊細で明快になる。ラインに迫る敵、その栓を超えた瞬間
「……そこだ!!」
「!?」
瞬時に撃鉄は火花を浮かせ引き金は絞られる。
身をひるがえし宙がえりを打つ軌道で曲射。サブアーム二本で構えたザクマシンガンがストライカーの装甲に傷をつける。
「くっ……は!?」
弾丸の雨を交わし、逃げた先でミラージュは見た。天に立つダリルの機体。今度は、その両手に二丁のバズーカを握っていた。
「!!」
「落ちろッ」
放たれる榴弾、フルオートで射出された弾頭は直撃こそないが、その爆風はミラージュの体をひるがえし宙に浮かせ程度なら足りすぎていた。
地面に炸裂した衝撃で爆炎が起きる。煙から抜け出るようにミラージュは上空へと目指した。渓谷の内では回避の幅が少ない。射線を切るには、上へ上へと
「ふざ、けんな……そんな実弾いくら食らっても」
……パシュン
「!」
勢いよく空気が抜けるような音がした。それは、ミラージュの視線の先、煙の先で見計らったように待ち伏せていたダリルの手元から放たれた音だった。
「足りないか、なら追加だ……食らえよ、ミラージュ!!」
「く……ッ」
回避せんと背を向けた。だが、迫りくるシュツルムファウスト、その弾頭は素早くミラージュの体を撃ちぬく。
叩き落とされるように川へと墜落した。そのミラージュへと、ダリルは最後に
「!!」
腰だめに構えたビームバズーカ、その砲身を
「ダリルゥウウウウウウッ!!!!?!?!?!」
「ミラァアアアーーーージュッ!!!!?!?!
ラストショット、最大限にチャージされた砲身からは、高出力の黄色い光線が空気を切り裂き大地を穿つ。ミラージュめがけ放たれたビーム、絶対防御はもれなく発動し、その肉体を覆う装甲は見る影もなく融解、破損していく。
こだまするミラージュの叫び、照射を終えた後は生身の肉体だけ、そこへ
『―――――――――――――ッ!!!?!?!?!?』
「!」
地を穿つ雷、神の一撃ともとれるその掃射。ついぞ地形は耐えられず、ダリルが見下ろす先は漆黒の闇へと包まれていく。
地盤の崩壊、地下の空洞へと、水が、岩石が、吸い込まれるように落ちていく。当然、その中にはミラージュの姿も
「――――ッ」
……どうする、さすがにこれは
勝負はついた。なら、するべきことは
思考を片付け、ダリルは直下して速度を上げる。落ちていくミラージュめがけ、その手を伸ばさんとした。しかし
「みら……――ー―ッ!??!?」
伸ばした手、しかし思わずダリルは足を止めた。
落ちていく最中、ふと見たその尊顔、目が合ったのだ。地獄へと落ちる人間の最後、その眼はまるでこの世のものとは思えないおぞましさを込めていた。
善意も、正常な行為も跳ね除ける。間違いなく、その手を掴めば怨嗟の呪いで心を殺す、それほどに、闇を感じて精神が震えた。
「……ッ」
いらぬ行為、そう言い聞かせてようやく、心を落ち着ける。
……そうだ、元から、こうするつもりで、俺は
敵、クソの付く戦場でしかないこの生き地獄で、倒すべきと決意した相手にはこうする以外ない。これで間違いはない、そう、理解しなくては
「……すぅ、ぁ……はぁ、くっ……そうだ、ここは、そうだったはずだ」
世界を変えても、結局は変わらない。ここは、俺のいる場所は総じて、血なまぐさい場所だと
「……終わりだ。これで、全部」
『!』
「は?」
視界に移る警告マーク。周囲のレーダーに、近づく機影を見る。
敵、まだいたのかと、ダリルは残る武器ヒートホークを構えて、そして
「ダリルさん!!!」
「!?」
そして、振るうことなく、武器は手元から地に落ちた。
「ダリルさん……ダリル、さんッ!!」
「せし……おわッ!?」
ティアーズを纏い、飛びつくセシリアをダリルは受け止める。空中で受け止めて、互いに静止したまま、強く、強く
「よくぞ、よくぞ生きて……勝ったのですね」
「!……あぁ、そうだ」
勝った、そう言われてようやく実感する。戦いをこの手で終わらせたこと、そして、この戦いが何のためにあったのか
守ると決めた。セシリアは無事、今この手に。
「……あぁ、そうだ……そうだった」
「!」
返すように、ダリルは強くセシリアを抱く。少女は顔を赤らめ、必死に言葉をとりなそうとするが、それも上手くいかない。
黄昏時は終わり、周囲は次第に夜の帳が落ちていく。星の無い夜、紫雲の空の果てにかすかに残る夕日が頬を染める。
「終わった、全部終わったんだ……俺は、救ったんだ」
「……ダリルさん」
「…………ッ」
「あの、ダリルさん……抱擁が、いささか強すぎでは」
「いいんだ、今は……こうさせてくれ」
「!…………もう」
仕方ないと割って、ダリルの熱意をそのままに受け止める。セシリアは、返すようにその手を首に回した
見たことのない機体、剥き出しのフレームが目立つ歪な鎧。破壊されきって、大破した機体を無理やり使えるようにしたような見栄え、だが、説明はなくともセシリアは感じ取ってしまった。
この歪な鎧こそが、自分の想い人が何よりも求め続けていたもの
「よくぞ……成し遂げました。ダリルさん、あなたは……勇ましいお方です」
「あぁ……ありがとう、セシリア」
賞賛は卑下せず、ダリルはただ受け止めた。
感傷に浸りすぎて心は張り裂けそうだ。情けない姿この上ないが、今自分は年下の彼女に甘えてしまっている。
辛酸の果てに至ったこの結末。理不尽に打ち勝ち、全てを守り切って、そして取り戻して見せたこのエンディング。それが何よりも嬉しくて、胸がいっぱいで、ただ、そんな顔だけは見られたくなかった。
「……すま、ない……セシリア」
「えぇ、構いません……セシリアは、ここで、支えています」
「あぁ、ぐす……ちょっと、感傷に浸っているだけだ。すぐに、行かないとな……シャルのことも、大事だ」
「……」
「あの……セシリア?」
急に黙した。首に巻きつく腕の感触も、どこか強張っているようで
……かぷ
「ぎッ!?」
首元に刺さるような感触。それは、いつかに受けたものと似た痛み
……なんで、セシリア……ていうか、シャルと同じところ
「んん、ふぬぬ……ぷはッ!!」
「……な、あの……セシリアさん?」
不思議と敬語が出てしまう。体から離れ、宙に浮いたまま向かい合うセシリアは
「ふん……」
「……えぇ」
わかりやすく、まるでジャパンコミックのヒロインのように、ツンと不機嫌の振る舞いを見せだした。
「……行きますわよ。皆さんが待っていますので」
「あ、あぁ……そうだな」
「ダリル様の言う……大事な、シャ・ル・ロ・ッ・ト……も、待っていますものね、オホホホホ」
「……あ、あぁ……そう、デスネ」
急な不機嫌、わかるようであまり言及しづらい。だが、例えるのであれば
ペットを飼っていて、あとから更にペットを飼う際に起こる、そう、先輩の嫉妬
「……ぷふ、くはは、はぁ」
「?」
ダリルの笑いに思わず振り向く、そして不機嫌そうにまたそっぽを向いた。
一連のセシリアの振る舞い、それを見て一層にダリルの表情は緩んで締まらない。
……終わったんだ、ほんとうに、もうこれで、全部
戦いは終結した、その意味を強く理解した。シャルと過ごした平穏な日々、それも満たされたことだが、やはり自分は足りていなかった。
まだ一人、自分には共いいるべき相手がいた。セシリアと過ごす日常、戦場の先に在るまばゆいほどの報酬、短いやり取りの中に、俺の欲しいものはもう十分詰まっていた。
……そうだ、俺は君の手を握って、そして行くと決めたんだ。イギリスに、新しい道へ
「……帰ろう、セシリア」
「!」
みんなで、大手を振って帰るんだ。俺は、まだ忘れていない。君が、俺と共に歩んでくれると、道を示してくれたことを
寄り道はようやく終わる。忘れ物は取り戻して、この両手に大切な人を掴んで
「帰ろう、俺たちの居場所に……セシリア」
「!!」
涙は溢れかえる。いっぱいん感情で声は出せずとも、セシリアは何度もうなずいた。
日は落ちて、いつしか空は星空に満たされている。荒れ狂う嵐のような激動を沈め、星夜の静謐が二人を包み込む。
次回に続く。
読了、お疲れ様です。次回、エピローグ
サイコザク完全武装で最強ムーブ、少し強引だったかもしれませんが、やはりサンボルならフル武装がロマン。IS世界では地上でも宇宙的に戦えるから自然とフル武装、フルアーマー許容できるからいいよね、いつかフルアーマーガンダムtbも描写してみたい。
感想・評価などあれば幸いです。次話もなるはやで仕上げていきます