無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
今回は準備フェイズですので、戦闘はありませんが結構陰謀やらなんやら楽しく執筆しています。楽しんでいただければ幸いです。
「くそっ! くそっ!!」
深夜の枯れた大地に鈍い音が響き渡る。何度も蹴りつけられた装甲車の扉がひしゃげていくのを、周りの部下たちは黙って見届けているしかない。
「あのダルマ野郎、お嬢様守ってナイト気取りかっつうの!!あああぁぁあああぁあああッ!!!!!!」
「……た、隊長」
「あ“あ”ッ!!!」
「ひっ!?……あの、後続の部隊ですが…」
「……ちっ」
ダリルたちを襲撃した敵勢力、彼らは鉱山内から撤退し、鉱山の出口である町側の道を封鎖するように陣を構えている。
地形としては切り立った岩山に囲まれた地帯で、その中央にはまるで闘技場のように平坦に掘り広げられた地上プラントの名残がある。
彼らは待機させた部隊の招集を待ち、更に敵の逃亡をふさぐ検問を敷いている。鉱山の出口は二つ。この地上プラントを抜け、後ろの渓谷に挟まれた狭い道を抜けるか、もしくは裏側の搬入ゲートから抜け出るかだ。
だが、彼らは周到に部隊の半数を裏側に配置している。仮に突破しようにも、広大な荒れ地が広がるのみのその先では、まともに逃げる先もない。
「まあ、いいわ。どのみちあいつらには逃げ道はない。こっちは両面挟んで後続の部隊からガスを受け取るだけ。」
作戦はあくまで殲滅、であれば無理に戦う必要はない。
だが
…どうせなら、戦いで決着をつけたい。オルコットもあの男も、私が
〇
君は今どこにいるのだろうか
あの日、あの戦いを最後に、雷鳴轟く死の舞台から一人だけ逃れてしまった。だから、結末は知らない。共に出撃したフィッシャーたちはどうなったか、ドライフィッシュの皆は…
…カーラ、君は……生きているのだろうか。
彼女の作ったリユース・サイコデバイスを搭載したMS,サイコザクを駆り俺は敵の艦隊を殲滅した。
そして奴と、あの悪名高いガンダムを相手に……俺は
「………カーラ」
負けるのはいい。もし、俺がここに居るのは第二の生だというのなら、おれはきっと無事に勝利したとは言えないはずだ。だが、そうだとしても、君の命だけは
「……カーラ、カーラッ!!」
「!」
飛び上がるように体を起こす。視界に広がる映像、パイプベッドに横たわる見知った男たちの光景からここが医務室であると理解する。そして
「うっ…!」
全身を襲う疲労感と鈍い痛み、思考が嫌でも現状を理解させる。
「そうだ。俺はあの女に……」
「おっ、ダリル!」
「フィッシャー?」
「おう、ようやく目覚めやがったか。お前さん、IS相手に大活躍だったってな。けど、ずいぶん無理したみてえだな。」
「……ああ。」
敵に一撃を返したのは良いが、結局あのまま戦闘が続けばどうなっていたことか。やはり、EOSとISでは生身の脆弱性があまりにも不利だ。
……奴らはまた攻めてくるのだろうか。なら、もう同じ手は通じないはずだ。
ISを倒すにはISをぶつけるしかない。だから、俺はまた彼女に
「……なあ、フィッシャー。彼女は、セシリアはどこに」
「……嬢ちゃんならそこだ。ほれ」
フィッシャーが指さす先、金髪の麗人が額を抑え、ぷるぷるとうずくまっているではないか。
「セシリア、なんでそこに」
「じゃあ、おれはこれで」
「ちょ、待ってくれフィッシャー!」
手を伸ばすも、フィッシャーは素知らぬ顔でその場を去っていく。そして、むくむくと体を起こし、額を抑えて涙目で睨む彼女の視線が…
「……おはよう、セシリア」
「……。」
「あの、もしかしてさっき起きた時」
うっすらだが、自分の額にも鈍い痛みがある。もしかすると彼女は介抱してくれてただけで、なのに俺は
「…ごめんよ、セシリア。そんなに痛いなら、医者を」
義手で彼女の頭をそっと撫でる。なんとなく、今だけ彼女の姿に妹の姿を重ねてしまった。
「……うぅ」
義手故に感覚はないが、その柔かな質感だけは理解できる。煤やほこりで汚れも目立つが、それがむしろ宝石の原石のように奥ゆかしい美麗さを放っている。
「……髪、綺麗だな」
「……ええ。そんなの当然です。」
「そうか、そうだよな。」
「……でも、今はシャワーを浴びたくて仕方ないですわ。」
恥ずかしそうに、ぼそっと本音が出る。それもそうだ、やっぱりこの子は女の子だ。
「ああ、全部終わったら俺もひとっ風呂浴びたいな。けど、それは」
「!……ええ、まだですわ。まだ、敵は」
ダリルの一言で気を張りなおす。そうだ、まだ終わっていない。あの女は、ミラと名乗ったIS乗りは
「……ダリルさん、私は」
ズダン!!
「「!!」」
突然鳴り響く銃声の音、聞こえた位置はどうやら近いようだ。
「……!」
「ダリルさん!」
ベッドから立ち上がろうとしたがうまく力が入らず倒れそうになる。セシリアが支えになり、なんとかだがふらふらと立ち歩ける。
「安静にしていてください。まだけが人なのですよ」
「わかっている、けど」
今は情報が必要だ。だから、無益な憂さ晴らしは止めさせないと
「……わかりました。ですが、無理はしないでください」
セシリアに肩をかつがれ、何とか足を進める。医務室を出て、外に出るとそこは鉱員達が群がり、今もその中央では鈍い音が響く
「お前たち!そこで何をしてるんだ!!」
皆が一斉に振り向く。ダリルの一声に気おされ次々に人込みがはけていく。
「!!……っ」
セシリアが思わず目を背ける。無理もない、そこには敵兵と思しき男が見る当てもなく集団でリンチに遭っていた。足を撃たれた出血もそうだが、殴打でつけられた生々しい傷跡が周囲の恨みの深さを物語っている。
「……誰か、ドクターを。彼を死なせてはいけない」
周囲がざわつく。仲間を殺されたのだから、敵を生かそうとするこの考えには反感を抱いても仕方ない。だが
「みんなの思いはわかる!俺だって、仲間がやられたのは胸糞悪い。けど、それはいまするべきことじゃない!!」
「…だ、だけど。そいつは…」
頭では理解できても感情は違う。敵を倒したエースの一言とはいえ、周囲の意見が傾けばすぐにリンチは再開されるだろう。
…時間がない。せめて、少しでも
いつ爆発するかわからない。ダリルはセシリアの手から離れ、危うい足取りで敵兵のもとに近づく。
「…あんた。まだ死にたくないだろ、協力してくれるなら、これ以上ひどい目には合わさない。」
「……」
「……捕虜として、正しい扱いを約束する。俺の目が届く間は、きっとこんな目には合わさない。皆にも説得する。だから…」
「……」
少し、男の口が動く。何かしゃべろうとしているのか、ダリルは男の口に水を含ませ、中の血だまりを吐かせる
「けほっ、ごほっ……くくく、捕虜ねえ」
張れた顔で表情は読めないが、どこか饒舌な口調で言葉を紡ぐ。
「なあ、あんたら。俺たちが何でここを襲ったか教えてやろうか。」
「……聞かせてくれ」
「俺たちは雇われの傭兵だ。任務は、暗殺……わかっていると思うが、俺たちの狙いはそこの嬢ちゃんだ。」
「!……やはり、なら」
さらに質問を問いただそうとするが、それよりも周囲のざわつきが嫌に気に障る。
…この子が、確かこの子って
…セシリア・オルコットだよな
…じゃあ、なんで俺たちは…巻き添えかよ
セシリアを囲むように、黒い感情の靄が沸き立つ。この状況はマズイ、この男に、これ以上喋らせるのは
男のホルスターからナイフを抜く、喉元に突き立て脅すように言葉を言い放つ。だが
「もういい、必要な情報だけ話すんだ!!さもな「セシリア・オルコットを差し出せ!さもなければ、お前たちは巻き添えになって死ぬぞ!!!」
「!!?」
…マズイ、この状況でこの言葉だけはマズイ……!!
「セシリア!!」
男を突き放し、ダリルはセシリアの前に立って出る。
「……おい、ダリル」
恰幅のいい男が一人前に出る。確か、別プラントで現場責任をしている奴だったか
「本気で、助かると思うのか。女の一人の為に、平気で民間人を虐殺する奴らだぞ!」
「…だが、その娘がここに来なけりゃあ俺たちは…」
男が口に出すや、周囲の皆々もそろえて言葉を並べる。敵意がむき出しになる、セシリアに対して、彼らは行き場のない理不尽への感情を彼女につきつけているのだ。
「なあ、嬢ちゃん。あんたはなんでここにいる。 何故俺たちの鉱山に来やがったんだ」
「……」
背中越しに震えを感じる。どこか、やはりそういった罪悪感を抱いていたのだろうか。後ろを見ずともその表情が理解できる。
…セシリア、君は悪くないんだ。君はただやるべきことを成そうとしただけだ。本当の敵は、こんな理不尽を仕向けたのは今回の裏側にいる誰かだ。だから、君は
「……彼女は悪くない。手引きしたのは俺だ」
「ダリルさん!!「ここの労働環境を変えようとしたんだ。良かれと思って、だから、彼女には手を出すな!!」
こんなところで、仲間割れで終わるわけにはいかない。来る敵に備えなきゃ結果は全滅だ。彼らを説得するには情報を、正確な情報がいる…!!
「頼む、この状況を打開するには彼女は不可欠だ。俺たちが生き延びるには、奴らを倒すしかない。」
「……けどよ」
意見に乗るものはいない。むしろ、今にも後ろの少女に襲いかかりそうな気さえ感じさせる。
だが、そのなかでただ一人
「………俺はダリルに乗るよ。」
「!……ショーン」
人込みの中、一回り背の小さな義手の青年がぬっと顔を出す。ショーン・三田寺、日系のアメリカ人で、元軍人。ダリルのかつての同胞に似たかの男が、ダリルの横に並び伴にセシリアを庇うように前に立つ。
「なあ、お嬢ちゃん。俺はあんたに命を救われたんだ。だからってわけじゃねえが、俺はあんたらに乗るよ」
「ショーン、お前も仲間を殺されたんだろ、なら!「うるせえ、冷静に考えろ!!そこの敵兵が言った言葉にのせられて、お前たちは本気で信じてんのか。この嬢ちゃん一人差し出して、俺たちの命が助かるか?ふざけんな、それぐらい元軍人ならわかれよ!!!」
「!!」
元軍人、その言葉を突き付けられ、皆々が口を閉じる。ここにいる人間の多くが傷痍軍人で、彼らは皆等しく自らの意思に反して軍役を退いたものが多い。故に、彼らの中にはいまだ誇り高い軍人としての矜持がある。市民を守り、国家の為に、背景は違えど、彼らは強い精神をもつ戦士であった。
…そうだ。俺たちは軍人だ。
…このまま、仲間の敵を討たないでどうする
…戦うべきだ。俺たちはまだ戦える
皆が口をそろえて戦意を震わす言葉を並べていく。次第に空気は晴れ広がる、そこにはもはや後ろ向きな陰りなど無い。彼らはたった二文字の言葉で自らの在り方を取り戻していったのだ。
「……皆さん」
セシリアが前に立つ。その顔には悲しみなど無い、彼女も一人の人間として決意を決めたようだ。
「此度の騒動、おそらく陰に居るのは当家に恨みある人間。ですが、皆さまを巻き込んでしまい、頭首として心からお詫び申し上げます。」
深々と頭を下げる。ゆっくりと面を上げ、決意を込めた表情のまま、彼女は堂々と言葉をつなげる。
「此度の処遇、いかなる罪滅ぼしも甘んじて受け入れます。ですが、その前にこの状況を脱するために、どうか協力をしていただけないでしょうか!」
「……皆、今だけでいいんだ。生き残るために、彼女の力も、俺たちの力、どれかが欠けては駄目なんだ。」
「!!……ああ、そうだよな。これじゃあだめだ。俺達らしくねえ」
リーダー格の男も同意の言葉を口にし、ひとまず場がまとまってくれた。だが、ことはまだ解決しきっていない。
戦うにせよ、敵の狙いも規模もわからないんだ。手がかりは…
「なあ、あんた」
先ほどの言動が狙ってのモノなら、この男は相当のプロだ。多少の拷問ぐらいでは簡単に口を割らない。
手詰まりだ。勝利条件が見えないまま、時間が経っては意味が無い。
「……」
「……おい、こんなところで集まって何してんだ?」
「!!…班長、チェルシーさん。それに、社長?」
まるで捕まった家畜のように、いつもの尊大な態度が嘘のようであった。
「……どうやら、もめ事かと思ったがそうでもねえようだな。ダリル、あとお嬢さんのおかげか」
「お嬢様……!」
ガレを跳ね除け、早足でセシリアのもとに近づく。全身をくまなく見て心配そうにその顔に触れる。
「戦闘があったと聞きました。お怪我は、ご無事なのですか!?」
「チェルシー。……わたくしは無事です。それより、ここに来たのは何か報告があるのではなくって」
「……ええ。あの男の口を割らせました。ことは、我々が思っている以上に大きい事態です。」
チェルシーとマツナガによるお話し合いの結果、ダリルたちが戦闘の間に彼女らは重要な事実を掴んだのだ。
「今回の事態、裏で動いているのはやはりカンパニーの敵派閥です。彼らの目的はお嬢様の暗殺、そして…」
「この鉱山で働く人間、そのすべての抹殺。それが奴らの目的だとな。まったくふざけた話だぜ。」
周囲がざわめく。無理もない、標的がまさか自分たちにも及ぶとは、それは何の冗談かと疑いたくなる。
「……チェルシーさん、続けてくれ」
「はい。今回の事態、敵側にとっても不測の事態だったそうです。本来は日にちを分けて、まずお嬢様の暗殺を遂行し、最後にここの人員をまとめて手にかける。それが奴らの狙いだそうです。」
「わ、わしは命令されただけだ!!」
視線が下に、チェルシーの視線に気づくや社長は泣き面を掻いて懇願しだす。
「仕方ないだろ!本社の連中ににらまれたら何ができる!!それに、今回だって人死にが出るなんて聞いてない!準備が終わるまで時間を稼げとか、プラントの内部情報を提供しただけで、わしはなにもグヘッ!!?」
「もうそれ以上喋んな。で、その話だがいくらなんでもおかしくねえか。」
ガレを踏みつけたまま話が進む。
「聞いた話、お嬢さんは頭首になりたてで敵が多いのはわかる。けどよ、ここはカンパニーにとっても重要産業だ。よっぽどの差別主義者じゃなけりゃあここを殲滅しようなんて発想はねえ。口封じにしてもやりすぎだ。」
「……それは」
「なら、聞いてみればいいんじゃね」
その時、突然現れ出たようにそこにいたのはフィッシャーと
「フィッシャー、ドクターを連れてどうしたんだ。」
「おう、いやお前さんが連れてこいって。そしたらなんか話が立て込んでるからタイミングがよ。まあだが、こうして適材な人材を連れて来れたみたいじゃねえか。」
フィッシャーが連れてきたご老人、その人こそがこの鉱山に唯一いる医者で、どうやら今は珍しく火星から帰還しているようだ。
「なんじゃい、人がようやく仕事終わりに葉っぱきめようっちゅう時に、ええ、誰を見てほしいんじゃ」
「…………なるほど。ドクターなら、か。……皆、手伝ってくれ」
フィッシャーの言いたい意味、ダリルを含め回りの男たちもようやく理解し、捕虜の男を抱えドクターと一緒に医務室へと入っていく。
「なるほど。そういうことですね。」
「ああ、察してくれるとありがたい。班長、チェルシーさんとセシリアを連れて…………どこか、話し合いの場を用意して待っていてください。」
「……?」
唯一話をいましち理解しきれていないセシリアがふらっとダリルたちの後をついていこうとするが。
「…お嬢様、いけません。」
「ですが、わたくしもお手伝いを」
「駄目です。お嬢様の教育に悪いですから。」
「?」
「お嬢さん、あんたにはまだ刺激が強い。」
二人に連れていかれしぶしぶセシリアはその場をあとにする。ドクターを連れてきた理由、言ってしまえば気持ちよくなる葉っぱやら粉に非常に精通している人材であるからであり。そして、今敵の捕虜は地球から離れた遠い火星へと旅立って気持ちよくなっていることだろう。
それはもう、質問されれば何だってペラペラと答えてしまうぐらいに……
〇
場所を変え、医務室の空き部屋を使い、臨時だが作戦会議を開くことにした。ダリル、フィッシャー、班長、セシリア、チェルシー、後のメンバーは武器弾薬の準備、及び使える物の調達だ。軍人らしく、いざ指示が言い渡されるや彼らはきびきびと動き出している。
そして、今会議室では先程の自白剤……お薬の処方で得た情報を……
「デュノア社!?本当にそう言ったのですか!!」
「ああ、そのデュノア社の工作員だとはっきり言った。」
「……なるほど、よくわかりましたわ。」
「?……何かつながったのか?」
「ええ。わたくしを狙う理由、そこにデュノア社が加わるとするなら…」
「……ISの技術、狙いはお嬢様のブルー・ティアーズです。」
そこからデュノア社について、チェルシーさんは細かく語ってくれた。
現在、世界ではどこの国でも次世代のIS開発に躍起になっており、特にデュノア社は未だに開発が難航しているのは有名な話だ。第二世代機のシェアこそ確立してはいるが、ヨーロッパ圏内ではその立ち位置が密かに、だが確実に危ぶまれている。
故に、今回の事態に彼の国の大会社、ラファールを作り出したデュノア社が関わっているというのなら…
「……敵がBT兵器の技術を狙っているのは当然です。そして、国家が絡んでいるとするなら、恐らく考えられる最悪の絵図は」
「技術を、第三世代の技術を搭載したIS、及びそのコアを手土産にした交渉、つまりは亡命ですわ」
「……亡命」
セシリアの語った敵の派閥、黒幕がそこにいる誰かだとしても、まさか自分の利益のために会社どころか国家までも敵に回すとは
「で、でもよ。それはわかったけどよ。なんでわざわざここまで潰す必要がある。まさか、この鉱山まで売りに出すって話なのか?で、いらない人員はリストラの前に殺しちまおうって」
「………」
「嘘だろ、胸くそ悪いにもほどがあるだろ。」
沈黙は肯定と受け取る。改めてことの重さを理解し、皆が言葉を失う。
「つまりは、そう言うことですわ。わたくしが命を落とせば、ここの所有権は親族の誰か、つまりはカンパニーに巣くう汚い上役の誰かに……!」
「……なるほど。これが俺たちの置かれた現状か」
敵の狙いはわかった。逃亡の手段はなく、敵は情け容赦なくこちらを皆殺しにするつもりである。
……狙いがわかっても、依然状況は好転せずか。
戦うにせよ、こちらにある戦力はISを除けばEOSが三基ほど、一つはほぼ大破しかけ、だが、歩兵の装備は十分にある。
「?…結局、あの格納庫にあった武器って」
「!!……お前たち、わしのコレクションを勝手に、きさまら!!あれがいくらしたとぶるぅああっ!!!」
「いちいちわめくな。ありゃあお前さんが横領した金で買い集めたもんだろ。だから遠慮なく使わせてもらっただけだ。」
「くっ、ぐぬぬぬぬ!!!」
「班長、もうそのへんで。…とにかく、尋問で吐かせた情報だが、敵は分隊規模、歩兵だけならここの鉱員でも十分に対抗できるはずだ。」
「けどよ、敵のアイエスはどうすんだよ。なんでも、すんげえ苦戦したみてえじゃねえか」
「……。」
そうだ、依然敵のISは健在だ。ロクな物資が無いこっちとは違い、奴らはISの整備だって十分済ましたうえで挑んでくるはずだ。
「……セシリア、ISは使えるのか」
「……コアのエナジーは待機さえしていれば回復します。ですが、傷ついた装甲、破損したスラスターなど、ポテンシャルは6割がいい所だと思います。それに、敵は…」
敵ISの特殊装備、完全にビーム兵器を無力化する四枚羽の盾、そして
「……敵のISには何らかのジャミング装置が付いています。それもBT兵器の使用を封じる、かなり厄介な代物です。」
セシリアが捨て身の特攻を仕掛けた時、ビットはまるで命令そのものを受信していないかのようにただ静止していた。そして、それは今でも
「動作確認をしました。ですが、敵のジャミングから離れたにもかかわらずBT兵器の火器管制が正常に機能しません。BT兵器の無効化、そんなものどこで……いえ、一つだけございますね」
「ええ。おそらく今回の黒幕がわざわざ用意したのでしょう。ビームの無効化も、BT兵器のジャミングも、ティアーズの製造について踏み込める人間でないと作れません。」
「……」
改めて理解する。敵は本気で、セシリアのブルーティアーズを攻略しにかかっているのだと。
「…そこまで徹底した裏切りとは。つまり、空中戦闘でも勝ち目は薄いと。」
「ええ、そうですわダリルさん。私たちが勝つにはあのラファールを倒さなくてはなりません。それも、正面から堂々と、です。」
どこか自嘲気味に語る。だが、そうでもしないとやってられないのだろう。
「おいおい、厳しいんじゃあねえか。ISを相手にするなんざやっぱ無理だぜ」
「いや、そう考えるのはまだ早いはずだ。」
確かに、敵に対して分の悪い装備だ。けど
「ビットは使えないが、ライフルの砲撃は効いたはずだ。問題はあの盾をどうにかすることだ。あれさえなければセシリアの狙撃で片が付く。」
先の戦い、セシリアの狙撃は確かに敵に届いた。敵の焦り様から、恐らくあれ本体の防御性能はそこまで高くはないのではないか、であれば
「EOSをつかって援護、射撃の隙を作ると言うのですか?
ですが、まともな打ち合いとなると空中のISとEOSでは全く歯が立ちません。向こうは一発、こちらは何十発という条件です。そんな作戦、捨て石も同じです。」
EOSに頼る。それは生身の人間で戦車に挑めというものだ。ISにはISを、やはりその原則はどうあがいても覆らない。
「………」
「あの、ダリルさん?」
…敵は絶対の盾、ビームさえ当たれば、まともに相手をしても歯が立たない、
「………社長」
「!!」
縛られ、床にのたうち回っている社長にダリルは視線を下ろす。
「倉庫の武器、あそこにあった一番大きな武器、あれはEOSでも使えますよね?」
「あ、ああ。もちろんそうだが、嫌待て!あれは試作品で超希少な代物だぞ!!お前さんが一生働いても払えぶるぅぁあああ!!!!」
「豚が、さえずらないでください。お嬢様の教育に悪うございます。」
じゃあそうやって大の男の顔面をヒールで踏みつけるのは果たして正しいのか、少し聞いてみたくもあるが、今はそんなことは置いとくとして
ダリルの思考の中で一つ、考えが浮かぶ。ただ、それを妙案というにはあまりにも荒唐無稽で、前提にあるのが超が付くほどの高等技術だ。だが
「……どのみち、勝つ見込みは薄いんだ。なら、やるだけやってみるしかないな」
「!!…ダリルさん、何か策が」
「ああ。次の戦い、こっちから打って出る。そして」
端末を取り出す。ホログラムの機能を使い、周辺の地形を映し出す。
「セシリア、これは俺と君にしかできない荒業だ。正直、妙案というにはあまりにもギャンブルだ。」
「……ですが、やるしかないんですのね。構いません、わたくしはダリルさんを信じます。」
「……なあ、結局俺たちは何をすればいいんだ。」
「ああ。フィッシャーにはEOSで暴れて欲しい。倉庫に予備の一機があったから搭乗者は適当に決めてくれ。なるべく腕が立って根性が据わっている奴を頼む。班長はEOSの整備を、前線のローテーションを維持したい。ビットインを円滑にしてください。それと、チェルシーさんは……」
次々に指示が動く。ダリルは現場での一兵卒だが、自分でも不思議なほどに指揮官のようにふるまっている。一方、肝心のセシリアはというと、そんなダリルの姿に関心して、というかなにか別の感情で視線を向けていた。
「………」
「で、セシリア。肝心の決め手だが……セシリア?」
「……あっ、はい!…えっと、すみません、なんでしょうか」
「……疲れているのか。今からでも仮眠ぐらいは「い、いえ!本当に大丈夫ですから、ちょっと考えごとで、その……オホホ、オホホホホ……!」
「……まあ、いいか。とにかくだが、今回の主目的、敵ISの無力化、それを可能にする作戦だが」
立体でアップされた地形を操作し、指先でとある地点を指差す。
「やることはシンプルだ。敵のISを誘いだし………
あの女を、毒蛇の巣に放り込む……!!!
今回はここまでです。次回から決戦、一章のラストも近いです。