千歌の実家の旅館で一晩を過ごした翌日、布団から出た俺は朝の空気を吸おうと旅館を出ていた。東京の騒がしい朝とは違い、物静かで空気も澄んだ朝だったこともあって、俺は新鮮な気持ちに浸っていた。
「朝飯まで時間あるし、軽く散歩でもするか」
現在の時刻は朝の6時。朝食の時間は7時だから約1時間は猶予があった為、せっかくだしと思い、ここら辺を散歩することにした。海辺の近くだったこともあって、海からの潮風が体や顔に当たってくる為、若干塩でベタつくのが少しだけ気持ち悪かったのは否めなかったけどな。
「・・・・・・にしても外れまでくると本当に何もないよなここ・・・・・・。東京とは大違い・・・・・・ん?」
しばらく散歩を堪能していると、前方から誰かがランニングしてくるのが見えた。こんな朝っぱらからランニングしてるやつもいるんだな〜っと感心していると、向こうも俺のことに気がついたようで、俺の近くまで来ると声をかけてきた。
「おはよ。あれ?ここらじゃ見ない顔だね?旅行にでも来てるの?」
「まあそんなもんです。というか、よく俺が見ない顔だってわかりましたね?」
「ここらへんの人の顔は大体知ってるからね。知らない人がいたらすぐに気づくよ?」
どこか人懐っこく、汗を拭いながらそういう彼女は、藍色の髪をポニーテールで縛ってる何とも大人びた女の人だった。
「今はどこに泊まってるの?」
「俺は十千万旅館です。安いし料理も美味しいと評判だったので・・・・・・」
「へ〜?千歌の旅館に泊まってるんだ〜?あたしのおすすめは魚の煮付けかな?」
常連さんみたいなことを言うなこの人・・・・・・。いつも食いに行ってるのか?・・・・・・ん?この人、千歌って言ったよな?
「あれ?千歌の知り合いですか?」
「ん?そう。幼馴染なんだ。・・・・・・君こそ、千歌の知り合いかな?あれ?もしかして〜・・・・・・彼氏さん?」
「何言ってるんです?アホ?」
「いきなりどストレートだね!?キミ!」
朝っぱらから大声を出さんでもらいたい。彼氏なんて、んなわけねーだろーが?出会って1日だぞ?そんな短時間で恋仲になるとかどんな奴らなんだよ・・・・・・。
「昨日知り合っただけです。彼氏なんてことは絶対に無いんで勘違いはしないでください」
「そ、そう?ごめんね?あ、あたしは松浦果南。この近くの浦女に通ってる3年生なんだ〜」
「先輩だったんですね。俺は鈴木隆斗。高2です」
「そっか。隆斗だね。あ、別に年上だからって敬語とか要らないよ?あたしは特に気にしないから」
「それならそうしよっかな?敬語って結構疲れるし・・・・・・」
やっぱりこの人はどこか人懐っこいって言うか・・・・・・話やすい人だな。俺にとってはこう言う人の方が好きだな。
「あ、そうだ。隆斗はこれから旅館に戻るんでしょ?なら、あたしも一緒に行くよ。千歌にちょっと用事もあったからさ?」
「そっか。それならそうするか」
「決まりね!じゃあこっからは走って行こ!隆斗もついて来てね!」
「は!?いや・・・・・・まじかよ・・・・・・」
俺が何か言おうとする前に松浦さんは勢いよく走り出して行った。・・・・・・走るのは別に構わないんだが・・・・・・せめて準備運動くらいさせてくれよ。そんな余裕もないような為、俺は渋々走って追いかけることにするのだった・・・・・・。
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「か、果南ちゃん!?それと・・・・・・隆斗くんまで・・・・・・。こんな朝早くから何でそんなに息切らしてるの!?」
「「この人が悪い!!」」
俺と松浦さんの声が被る。
「どう考えてもあんたのせいだろ!?何で俺があんたに追いつこうとするたびに走るペース上げんだよ!」
「だって、まさか追いついてくるなんて思ってなかったんだもん!抜かれたくないと思ってペース上げれば同じようについてくるし〜・・・・・・だからこんなに疲れたのはキミにも原因があるんだからね!」
「理不尽だ!」
朝から俺と松浦さんの声が響き渡る。久しぶりにマジで走ったこともあって、疲れていた為、朝だとか言う配慮みたいなものは頭からすっ飛んでいた。・・・・・・後々、旅館の女将(千歌のお母さん)に俺と松浦さんは叱られることとなった。