武偵少女志摩子   作:名も無き二次創作家

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なにかを得るには代償が必要

俺の一日は体臭消しスプレーから始まる。

フルーツやらなんやらの香りで無理矢理上書きする安物ではなく、しっかりとしたお高めのスプレーだ。

 

同居人のキンジは鼻がきく。

女の子の匂いを勝手に嗅ぎ取って「……女の匂いはヒスルから嫌だ」とか文句たれる様は、まるで車道に飛び出して自ら引かれる当たり屋のごとし。

面倒くさいことこの上ないが一応体臭を消すことには武偵的メリットがあるため問題無い。

人は五感のすべてで無意識レベルに感じ取った情報を元に周囲の人間の「存在感」を察知する。

 

普段から体臭を消しておくことは強襲科生としてもよいことなのだ。

やってるヤツ俺以外にいないけど。

 

今日は春休みだがいつ戦闘に巻き込まれるかわからない物騒な職業柄、防刃防弾仕様の制服は手放せない。

本来膝上である(あか)のスカートの丈を膝下にまで伸ばした改造制服。

毎回アイロンをかけてきっちりと整えたプリーツが美しい。

これを見る度に、このプリーツを乱すなんてとんでもない!という気分にさせてくれる。

なんちゃってとはいえ志摩子さんロープレにも欠かせない必須アイテムだ。

 

そんなスカートに足を通し制服に腕を通し、セーラーカラーとスカーフを整えれば今日も完璧美麗な武偵少女志摩子さんの完成だ。

この間わずか8秒。

ラッキースケベを防ぐために着替え時間はなるべく短くしなければならない。

 

女の子特有の良い匂いを消し、身だしなみを整えつつ肌を隠し、ラッキースケベにこれでもかと警戒する。

これらの努力が実りキンジに同居を許された。

まあ一番の理由は志摩子さんの容姿が「女の子」ではなく「女神」だからなんだけど。

 

志摩子さんを見て劣情をもよおせる者は、例えサルの中にもいないだろう。

 

 

「ごきげんよう、遠山さん」

「おはよ、藤堂」

 

おや珍しい。

学校もないのに早起きですね。

 

「まだ6時だけれど。なにか用事があるの?」

「今日はちょっと教務科(マスターズ)に用事があってな。言い忘れてて悪いけど、急ぎだから勝手にパン食った。朝飯はいらん。じゃあな」

 

……やはりお兄さんの事件でそうとうまいっているようだ。

原作ではルームメイトもおらず誰にも相談できずに精神的にあっさり折れてしまい探偵科(インケスタ)に光速転科したキンジ。

しかし、この世界では俺がいた。

それが心の支えになっていたかはわからないけれど、まだぎりぎり転科には至っていない。

しかし、先生に相談してるあたり転科も時間の問題かもしれない。

キンジが転科するのが先か、アリアが来るのが先か。

 

まあなるようになるでしょ。

例え武偵を辞めても、最終的にはまた武偵高の強襲科に戻ってくるってわかってるからな。

原作主人公として、非日常からは逃げられないのだ。かわいそうに。

でもだからこそ一緒にいて意味がある。

彼の周囲で巻き起こる騒動は、緋弾のアリアの一ファンとして見逃せないよ。

 

ぴんぽーん

 

午後になると白雪が来た。

どうやらアポも取らずにキンジに会いに来たようだ。

まあ、アイツに「今日会いに行く」と言うと「来るな」と言われてしまうからアポ取りづらいのはわかるけど。

こんどからは俺に聞いてくれればいいよ。

 

「おじゃまします」

「お邪魔されます」

 

相変わらずパイオツカイデー。

なんだこれ。

しかも太ももまでムチムチでえっろいのなんの。

 

こりゃヒス持ちのキンジが嫌がりそうだ。

ただ「ヒスる=性的興奮の対象=女としてみている」とも取れるわけで。

キンジととくっつきたい彼女にとって、そこら辺を隠すことが正解なのか不正解なのかがわからない。

俺は彼と一緒に住むためにけっして女として見られるわけにいかないから極力肌を隠したり匂いを消したりしている。

だが白雪が同じ事をしたところで、キンジからの印象はよくなるだろうがそこ止まりになりかねない。

協力するといった手前どうにかしたいところなんだが……。

 

この諸刃の剣、扱いが難しすぎる。

 

 

「今日遠山さんは教務科に行ってるの。……お兄さんのことで、ナイーブになってるみたい」

「そう……。この前は志摩子ちゃんと仲直りさせてくれたから、こんどは私がって思ったんだけど」

「ここ最近ずっと悩んでいるみたいだったからね……。なのに私たちの事まで気にかけてくれて。よっぽど貴女のことを大事に思ってるのね。遠山さんは」

 

真っ赤になる白雪。

美少女のテレ顔はやっぱいいっすね。

適当におだてたかいがある。

 

このままキンジを使って白雪ともっと仲良くなろう。

この世界初の女の子の友達相手にテンション上がってるな、俺。

でも許して欲しい。こんな可愛い子と話してたら、男なら誰だってテンション上がる。

 

「遠山さんのことを心配しているのは私も同じなの。今彼はとても悩み、疲れ、押し潰されそうになっている。でも、いくらルームメイトとはいえ私たちの付き合いは僅か1年にも満たない。遠山さんには今、貴女が必要なの……たぶん

「そ……そんな///私とキンちゃんがご近所でも有名なラブラブ夫婦だなんて///」

 

だから言ってねえよ。

脳内でハイスピードな妄想が駆け巡っているのか、色々とトんでやがる。

 

 

コイツ……やべえ。

 

 

まあ、落ち着け俺。

大丈夫だ。

確かに白雪はキンジの事になるとトぶ。

けど、キンジ以外のことに関してなら凄いいい人だ。(粉蜜柑)

例えば、成績は学年トップで友人に頼まれればテスト前に勉強を教えたりノートを見せたりもするらしい。いいなあ……。

生徒会役員であり次期生徒会長としての座も半ば決まっているエリート中のエリート。

超能力捜査研究科(SSR)に所属するAランク武偵で実力も申し分なく人望も篤い。

模範生の代表。絵に描いたような「優等生」。

 

その後、妄想や曲解が7割くらい入ったキンジとの思い出話を夕方まで聞かせられた。

キッツ……。夢女子かよ……。

キツすぎて口元が引きつるのを抑えきれなかった。

幸いトリップしている白雪には気付かれなかったようだが、志摩子さん風ロープレをするに当たって今からこんなことでは先が思いやられる。

これは……精神修行になるな!(錯乱)

ということでこれからもその夢女子トーク聞いてやんよ。

修行と友情upの一石二鳥だ!

 

 

ピロン

 

 

『すまん。武藤のバカにむりやり夕飯誘われた。そのままアイツの部屋に泊まってくる』byキンジ

 

キンジからのメール。

謎の高揚感?のせいで深く考えずに、メールの内容をありのまま白雪に伝える。

 

「そうなの?じゃあもうちょっとお話できるね♡あ、今日泊まってっていい?」

 

嘘……だろ……???

やめてくれよ。(高速手のひら返し)

 

「て、いきなりすぎたかな。ごめんね。図々しくかったよね……。私、こっちにきてからキンちゃんとの思い出話をこんなにできる人が今までいなかったの。だからテンション上がっちゃって……。ゴメンね志摩子ちゃん」

 

しゅんっ、とした顔でそんなこと言われたら断りづらいだろ……。

でもここはノーと言わねば俺の精神がもたない!

 

「そんなことないわ。私もお友達とお泊まり会したことなかったから、少し憧れていたの。よければ泊まっていって」

 

断れなかった!!!

こんな美少女の頼みを断れる男がいるわけないだろ!いい加減にしろ!

 

まあ、美少女と1つ屋根の下でお泊まりだと思えば多少はね?

俺の計算によると、現役きょぬーJKのお風呂上がりの匂いを嗅げば精神の均衡を保てるはずだ。

 

 

午後12時

「それでね、そのときキンちゃんが——」

「なるほどね」

 

 

午前3時

「でもね、そのときキンちゃんがこう言ってくれたの——」

「なるほどね」

 

 

午前6時

「そうしたらキンちゃんが——これって絶対プロポーズだよね——」

「な、なるほどね」

 

 

一睡もさせてもらえない……だと……?

そのまま夢女子トークを朝までノンストップとは流石の俺も想定できなかった。

つ、ツライ……。

寝不足と精神的ダメージのダブルパンチだ。

吐きそう。

 

「あれ、もうこんな時間だ。あっという間だったね♡」

「あ、はい」

 

 

おれとしらゆきのゆうじょうはふかまった。(しろめ)

 




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