『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
彼女は黒幕の都合も、物語の構成すらもどうでもいいのだ。
だって彼女は、ダイスの女神なのだから。
その実、彼女は一方的に話しかけてくる相手は好みではなく、いつの間にか自分がそうなっていることを内心自己嫌悪している。
誰かがずっと、自分を見ている。
そう感じたのはいつのことだっただろうか。
暗闇の中に何もすることなく立ち尽くす俺を、彼女は見ていた。
それは赤い瞳が二つ。
それ以外に何かを判別する物はなかったが、不思議とその視線の主は女性であると理解できた。
俺はそれを、恐ろしいと感じていた。
この暗闇はまるで暖かな深海の如く俺の体を浮かばせている。
その中に、その赤い双眸は存在していた。
ゆっくりと、その視線が、両目が、近づいてくる。
逃げることは出来ない。
否、そもそもが勘違いであることが気づいた。
この暗闇そのものこそが、彼女の腕の中であることに。
この恐ろしくも暖かな波間のような暗黒は、しかし母親の腕の中で眠る赤子がする無条件の安らぎと安心感を備えていた。
俺は、この暗闇の中で眼を閉じた。
それが正しいのだと本能で理解したからだ。
俺は夢見の中で、更なる眠りに就く。
二度と覚めないかもしれない、深い眠りへと。
そして理解する。
これが、この安らぎこそが、死であると。
「戯れは止しなさい」
その時、ふと、声が聞こえた。
声など響くはずもないこの場所で、その声は全てに浸透する。
その直後、俺は全身を鷲掴みされたかのように暗闇から引っ張り上げられた。
「起きたか」
眼を開けると、イリーナ殿の顔があった。
その間にある胸部の膨らみからして、自分の顔は彼女の膝の上にあるようだった。
「死んだように眠っていたぞ、よほど疲れていたのだな」
「ええ……そうかもしれません」
俺は恥ずかしさを感じる暇もなく、起き上がった。
「助けて頂きありがとうございます」
俺はアンズ様に頭を下げた。
「あの程度、ただの悪ふざけでしょう。
彼女も本気で連れて行くつもりは無かったはずです」
「……何の話だ?」
俺とアンズ様の会話は、当事者にも分からないものだ。
イリーナ殿の困惑をよそに、俺は言った。
「アンズ様、あれは、あの黒い靄のような存在は、何なのですか?」
それに包まれた直後に、魔王は恐ろしい変貌を遂げて全てを蹂躙したのだ。
「彼女は、“邪悪と悪逆の女神”」
アンズ様は相手の正体を、特に引っ張ったり隠したりもせずに明示した。
「あらゆる邪悪と悪逆を司る、偉大なる女神です」
「偉大……? その女神は邪神ではないのですか?」
イリーナ殿の疑問は尤もだった。
邪悪と悪逆を司る女神が、悪逆で邪悪な存在でないはずがないのだから。
「偉大ですよ、少なくとも真面目で厳格です。
あなた達は神々が、享楽の限りを尽くし楽園に住むだけの存在だと思いますか?」
「流石にそんな風には思っていませんよ……」
「ええ、今のは極端な例でしたね」
アンズ様はくすくすと笑う。
「神々が神として存在するには、維持費が必要なんですよ。
世界の法則として根ざす神と言う存在が居座るには、何かしらの方法によって得た力を世界そのものに還元しなければなりません。
つまり、世界っていうアパートに住むには家賃が必要ってことですね」
急に所帯じみた話になってきた。
威厳には拘らないアンズ様の物言いに、どう反応すればいいかわからず俺とイリーナ殿は顔を見合わせた。
「さて、その家賃を払うにはどうするか。
無論、神々には出来ることは限られますね。各々の権能の許す限りを使用し、アパートの設備などを維持することが大半でしょう。
彼女も、邪悪と悪逆の女神もその例から逃れることは出来ません」
「つまり、その女神は存在するためには邪悪と悪逆の限りを尽くす必要がある為、そうしているに過ぎない、ということですか?」
「全く違います」
イリーナ殿の言葉を、アンズ様は全否定した。
「言ったでしょう、彼女は真面目で厳格であると。
その性質は、むしろ死神に近い。
彼女の権能はこの世に蔓延る邪悪と悪逆の管理と選別。
この世に混乱や破壊を齎すのではなく、逆に秩序を守る側ですよ」
「そんな馬鹿な、現に彼女は魔王を遣わし、この世界に破壊と混乱を齎しているではないですか!!」
「神(ひと)の話は最後まで聞きなさい」
睨まれ、イリーナ殿は口を噤んだ。
アンズ様は普段の見た目相応の態度ではなく、神として話をしているのだ。
「例えば、五歳にも満たない少年が居たとしましょう。
彼はテロリストに命じられ、爆弾を抱えて大勢の人間を殺傷せしめました。
さて、この少年は邪悪か否か?」
問われて、俺とイリーナ殿は再び視線を合わせた。
「それが諭されただけなら、否でしょう。少年に罪はない」
俺は答えた。
「ええ、そうでしょうね。
ですが、その少年は自分の行いで多くの人間が死ぬことをちゃんと説明されていました。
その上で実行したのです。これは邪悪と言えますか?」
「五歳の子供が、死を理解できるはずがない……」
イリーナ殿が首を振って答えた。
「ええ、そうした無垢なる悪行を働いた者の魂の罪過を選別するのも彼女の仕事です。
他にも無自覚な悪意や、無意識の行動で結果的に誰かを傷つけた場合、それを死後に裁く権限を持っているのですよ」
それだけ聞けば、それは偉大なる神の所業だった。
人間では決め切れない罪悪を選別する、究極の審判なのだから。
「ただ、ひとつだけ問題があるのです」
「問題?」
アンズ様は妙に勿体つけてそう言った。
その正体についてあっさり語ったくせに、妙に躊躇っていた。
「彼女……邪悪と悪逆の女神はそれ自体が邪悪と言うわけでは有りません。
ただ、彼女の性根というか性格そのものが、その……邪悪なんです」
俺とイリーナ殿は、その意味を理解するのに数秒を要した。
「つまり、彼女と言う神自体は邪悪ではないが、その意思や個性が邪悪と言うことですか?」
「はい。そうです」
そう言って頷くと、アンズ様は目を逸らした。
「……」
「…………」
「………………」
絶句とはこの事だった。
「武器を売る武器商人自体は悪でもなんでもないが、その武器商人は戦争を煽り儲けを得ている、そんな感じでしょうか?」
「まさにそんな感じなんです」
「結局クソ野郎ってことじゃないですか!!」
俺は思わず叫んだ。
「ただまあ、彼女は少なくとも私なんかよりはずっと確実に多くの人間を救っています。
無数の次元に渡って人間人外問わずの大規模な彼女の教団が存在するくらいですから」
「信じられませぬ」
「曖昧な救いや言葉より、ハッキリとした死やそれに纏わる概念は人間にとって明確なものですから。
それに、彼女の裁きに該当する人間だけが彼女を信仰している訳では有りません。
裁きを待つ人間の家族や友人、親しい人間も彼らの救済を願い彼女を崇める。
とても需要の大きい上に、当人はそんじょそこらの権威や威厳だけの神々よりずっと精力的ですから。
もし、彼女を根本的に消し去って欲しい、なんて私に願われても慎んで拒否せざるを得ませんしね」
「「……」」
極めて活動的で信者によく慕われている神。
なるほど、偉大に違いなかった。
その結果、自分達の世界が滅ぼされようとしているわけだが。
「ちょっと待ってください。
彼女の権能はあくまで悪の管理や死者に対してだけなのですか?」
「…………」
アンズ様は答えなかった。
「おかしいですよね。
それだけではどう考えても我らの世界を滅ぼす理由がわからない。
性格が悪いから、それが神々にとって世界を滅ぼす理由になるのですか?」
言われて見れば、イリーナ殿の言うとおりだった。
「さて、気を取り直して次にいきましょうか」
「し、質問に答えてください!!」
「次はどういう感じにしましょうか?」
アンズ様はあくまでその質問に答えるつもりは無いようだった。
「アンズ様──ー」
「答えてやればいいだろう。二代目」
え、と俺は振り返った。
そこには、黒い靄が人の形を模っていた何かが有った。
「リェーサセッタ……」
何かを憂うような視線で、アンズ様はそれを見た。
それがその存在の名前であるのは、それを口に出来ないことですぐに分かった。
邪悪と悪逆の女神、リェーサセッタ。
その化身こそがその黒い靄の正体なのだと。
「生前の私の名前を知るお前がその名を言うのはいささか滑稽だね。
さて、どうした、教えてやればいいだろう?
何ゆえ、この世界が滅びるべきなのかを」
彼女は実に楽しげに、挑発的にアンズ様に言った。
「それを言った所で、神々の視点から理由を語った所で、彼らの理解は得られません」
「もっとハッキリ言ったらどうだ、お前が人間に配慮するような殊勝な女神じゃないことはこの二人も良く知っているだろう?」
「……」
アンズ様は黙って目を伏せた。
「笑える、笑えるな。超越神たるお前は、嘘だろうと何だろうと吐けるだろうに。
その哀れみが返って人々を苦しませると分かっているくせに」
「その超越神って呼び方止めてくれません? 恥ずかしいので」
「これだから遊びで誰かを救っている奴は嫌なんだ。
私の業務を妨害しないで欲しい。もう既に、この系列の世界は五つ滅ぼした。
あとこの世界を滅ぼせば、この枝を切り落とせる。そうすれば並行世界も丸ごと全滅できるのだ。邪魔をするな」
「私はもう少し待つべきだと言いましたよね?」
「言ったな。だがそれで私が手を緩める理由にはならない。
この世界とその系列の平行世界は、私の定めた基準にて滅ぼすことが決定している」
神々のやり取りを、人間に過ぎない俺達は口を挟めなかった。
圧倒されていたのだ、二人の神の存在感に。
「原初の種の世界から芽吹いた無数の平行世界の根幹となる幹から枝分かれした数多の次元と世界の数々。
それを維持し、長く成長させる為には要らない世界は切り落とさなければならない。
その選別すらも私の権能。例え全知全能とは言え、邪魔させることは許さない」
「私の救いを遊びと言いましたね?
ではあなたはどうなのですか。この世界の人間をいたずらに弄び、余計な苦痛を与えている。
滅ぼすなら一思いにすればいいのに。まさか、それが慈悲だとでもいうのですか?」
「そうだとも」
邪悪と悪逆を司る女神は、鼻で笑って肯定した。
「私はこれまで一万の世界に対しておよそ三百の割合で世界を滅ぼすことに失敗した。
これはそれぞれの世界に対して、私からの挑戦に勝ったからだ。
その報酬として、私はその世界を滅ぼさないでいる」
「それをこの世界に強いるというのですか?」
「例外は無い。滅びたくなければ、我が子を倒して見せろ。
それを為しえた時のみ、この世界に未来は訪れる。
出来ないとは、言わせないぞ。この世界より遥かに文明レベルが低い人類で私に勝った者もいるのだからな」
それは、試練であった。
ただしそれは、絶滅かそれ以外の全てを失うことを強いる、一方的な強要に過ぎなかったが。
「それに二代目。お前は分かって居ない。
魔術を窮めた果てに神に至ったお前は死を経験していない。
お前は今人間に試練として何度もやり直しをさせているが、そもそも死に耐えられる人間がどれほど居る?
お前こそ人間達に惨いことをしているのだ。
生きながら死の果てを歩んだ私に、そもそも根本的に死を体験していないお前が私にとやかく言うこと自体が間違いなのだ」
彼女の正論に、アンズ様は押し黙った。
完全に言い負かしたことを悟ると、彼女は俺達を見た。
「さて、小娘。なぜこの世界が滅びるべきか、知りたがっていたな?」
その女神の化身は人の形を模していながら、人の特徴は赤い瞳だけだった。
その瞳が、イリーナ殿を射抜いた。
それだけで絶大な恐怖に襲われているだろうことは、隣にいる俺がよくわかってしまっていた。
「それは、──-」
「ねぇ、それはもっと後に言った方がより彼らを絶望させられると思いませんか?」
ぴたり、とアンズ様の言葉に彼女は口を止めた。
「……良いだろう。
いずれにせよ、結果が出るまで私がこの世界ですべきことは何も無い。
私は今、お前と違って他にも五件の滅びと三千の無垢なる魂の裁可があるのでね、ここで失礼させてもらおうか」
黒い靄が霧散していく。
その右手に見える靄が、アリサ殿を指差した。
「この世界が滅ぶべき理由は、彼女に問えばいい。
この世界の人間で唯一、それを知りえたのはそいつだけだからな」
それは置き土産とでも言うように、そう言って彼女の化身は姿を消した。
『もう一度、取りこぼした希望を手に出来るかどうか、楽しみに見ているぞ』
彼女の声が反響して残り、その気配そのものも漸く消え去った。
それと同時に、俺達は腰を抜かしたみたいに崩れ落ちた。
「一万に対して三百、か……。
まあ、彼女にしては良心的な数字か。
とは言え、あの難易度は私の全面協力を前提としている所が心憎い」
アンズ様は帽子のつばを弄びながら笑った。
「それで、次はどうしますか?」
あれほどの出来事があった後なのに、彼女は無遠慮に問うてくる。
「……少し考えさせてください」
とにかく今は、整理する時間が欲しかった。
……
…………
…………
「アリサ、お前はやはりこの世の真理に迫っていたのだな」
イリーナ殿は物言わぬ彼女を抱き起こし、その髪の乱れを手櫛で直した。
「もっと真面目にあの時、お前の話しをきいて居ればよかった。
私は本当は得がたい仲間を持っていたのだな」
そう独白する彼女は、後悔に満ちているようだった。
「四度目、魔王を倒した後あなた達に何が有ったのですか?
邪悪と悪逆の女神の言葉が正しければ、我が子とは魔王のことでしょう。
その魔王を倒したはずのあなた達は、なぜ滅びを回避できなかったのですか?」
俺は何となくその答えを悟っていたが、問わずにはいられなかった。
「愚かな私達を許して欲しい」
まず、彼女はそう前置きした。
「魔王を滅ぼしたあの時、周囲の時間が止まり、彼女が現われた」
イリーナ殿は顔を上げ、アンズ様を見た。
「彼女は言ったよ、良くぞ偉業を成し遂げた。
もう一度、ひとつだけあなた達の願いを聞き届けましょう、と。
今思えばそれこそが、彼女の語った三位一体の究極の救いが為されることが許される瞬間だったのだろう」
そして、彼女は自嘲の笑みを浮かべた。
「我々は話し合いの末に、もう一度のやり直しを願った。
お前も知っているだろう。魔王との血みどろの消耗戦の後、この世界は大きく荒廃した。
魔王を倒した私達は、次はもっとやれる、と思ってしまったのだ」
「……あぁ……」
彼女の懺悔に、俺は思わず呻いた。
ぽた、ぽた、とイリーナ殿の両目から涙が滴り落ち、アリサの顔の上に弾けた。
「愚かだった、余りにも愚かだった!!
私達に誰かの命を左右する権利など無いというのに!!
あの戦いで生き残った者が、次の戦いで命を落としていたかもしれないのに!!
そんなこと、私達は考えもしなかった!!」
深い後悔と悲しみが、彼女を満たしていた。
「なあ、アラン。仮に次にもっと上手くやれたとして、じゃあそれで満足したらそれは傲慢だと思わないか?
更に上手く、更に犠牲を少なく!!
どこかで妥協するとして、妥協されて失われた命は私達を許しはしないはずだ!!!
……余りにも馬鹿げていた。神でもない私達に、それを背負うなんて出来ないのに」
「……」
俺は彼女に掛ける言葉が見つからなかった。
俺が彼女のときに三度目を経験し、未来が無いと女神が言った時の気持ちを思い出したからだ。
なぜ、どうして、と。
その気持ちが分かるといったアンズ様の胸中も推し量れるというものだ。
「それを知った彼女は、試練の難易度を上げました。
せっかく慈悲で与えたチャンスを掴み取ったのに、むざむざとそれを捨てた馬鹿者どもに思い知らせるために」
ある意味で、その時に人間は神の思惑を超えたのだ。
その予想外に突き抜けた方向ではあったようだが。
「そうさ、私達は馬鹿者どもだ!!」
「落ち着きましょう、もう終わったことです」
正直な所、俺は複雑な気分だった。
自分も曲がりなりにもあの地獄を経験し、そこで何人もの同胞や戦友を失った。
彼らを助ける機会が有るとすれば、俺だってそうしただろう。
たとえそれが、彼らの覚悟を無為にするとしても。
だが彼女らに呆れている自分もいるが、同時にその正しさを羨んでも居た。
だって、今度こそ自分達のために願いを使えばよかったのに。
他人にためにそれをふいにしたのだ。
だからだろうか。
「アラン……」
「他の誰があなた達を責めても、自分だけはそれを責めたりはしませんよ。
私はあなた達の努力を、ずっと傍で見てきたんですから」
俺はそんな彼女達が誇らしかったのだ。
イリーナ殿は泣き崩れて、友の亡骸に縋り付いた。
俺はそんな彼女の肩を抱いて、慰めることしか出来なかった。
「アンズ様は、あの女神と人間だった頃からの知り合いだったのですか?」
彼女の感情の発露が収まりつつあり、手持ち無沙汰になった俺はアンズ様に気になっていたことを尋ねた。
「ええ、まあ。正直、意外でしたよ。
生前の彼女はそれはもう、邪悪と悪逆の限りを尽くし、大勢の人間を殺し辱めてきましたから。
私も彼女は邪神となり邪悪と悪逆を撒き散らし、増長させる存在になると確信していたほどです。
私は魔術によって神域に至りましたが、彼女の場合はその行いによってが大きいでしょう。
彼女自身も神を嫌っていたので、神格を得たときは驚いたんじゃないでしょうか」
「そんな人間が、邪悪と悪逆を管理する側になった、と」
「そうですね、彼女は生来から真面目だったのでしょう。
ただ、人の世には彼女には許せない物が多すぎたのだと思いますよ。
ですが、実を言うと納得をしている自分もいるのです」
そう語るアンズ様には、憐憫の情が見て取れた。
「余りにも周囲を憎んでいた彼女は、痛みを与えられる側から与える側になり、そして今は痛みを知り慰撫する側へとなった。
彼女以上に、適任は居ないでしょう。元もとの素質も神に祭り上げられるのに不足は無かったですし」
「彼女が優れた神であることは、何となく分かります。
そして公平な審判であり、冷酷な管理者であることも。
ですがどうにも、アンズ様からはかの女神に対する言い様のない感情を感じられます」
「ええ、まあ」
アンズ様の答えは歯切れが悪かった。
「とりあえず、誤解なく彼女のことを伝えられたようで安心しました。
彼女は称えられる以上に、嫌悪されてもいるので」
アンズ様はそう言い終えると、この話はこれで終わりにしましょう、と言った。
「……予想以上に長くなってしまいましたね。
試練の続きを行いましょう。貴方が出来ることなど、それだけなのだから。
レナスティ姫の願い、分かりましたか?」
「……この世界を救いたい、とかでは無いですよね?」
「ええ、全く違います。
流石に一語一句正確に当てろなんて鬼畜なことは言いませんが、貴方は発想力以前に本質が見えていませんね」
強烈なダメだしを受けてしまった。
「見方を変えれば簡単に分かりますよ。
いいですか、『この時点で彼女の願いを推理することは可能』です」
人差し指を立てて、アンズ様は言う。
「……ううむ」
「これ以上のヒントは控えましょうか。
次の世界へと貴方を送ります」
「今回はこちらの希望はきいていただけないのですか?」
「王族に干渉するのですよ。
それに近づく手段は限られるので仕方がないでしょう」
確かにそうだった。
そして急速に俺の意識は遠のいていく、
俺は次の世界へと旅立っていくのだ、
「それにしても、相変わらず可哀相な神性(ヒト)でしたね……」
その憐憫の意味は、女神にしか分からない。
女神は賽を振るう。
出た目を確認した直後に、それを拾い上げた。
「ええ、はい、分かっていますよ。
彼女を変に刺激したりはしません……はい、ええ、わかっていますって、師匠」
どことなくウンザリした様子で、女神はサイコロを弄ぶ。
「『こんな偶々寄っただけの世界の為に、本気で肩入れするわけないじゃないですか』」
それが慈悲深く人間らしい女神の、嘘偽り無い残酷で酷薄な本音だった。
実の所女神フェイズで一話使用するつもりはありませんでした。
思いのほか筆が乗ってしまいました。私にはよくあることです。
三十話以内完結を目標にしていますが、べつにちょっとくらいオーバーするのは視野にいれているのです。