『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

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その女は、白百合のようだと例えられる。
 その右手を振れば人々は希望を見出し、左手の剣を振れば敵は絶望する。
  清く美しい姫君は、華のように地獄に咲く。
 たとえそれが造花であろうとも、美しさに変わりはない。


αの目

 

 

「父上、一つお尋ねしたいことがございます」

「なんだね?」

 姫様に関して四度目となる逆行。

 

 父上の養子となるのはいつもと同じだ。

 俺は姫様の剣術指南役である父上に、尋ねてみた。

 

「姫様はやはり昔から剣術においては才気あふれる御方だったのでしょうか」

「当然であろう、誰でも知っている」

 今日の稽古を終えて気を良くしたのか、父上は深く頷いた。

 

「お前は私の教えをその若さで物にし始めているが、それは日ごろの努力の賜物。

 私が居ない合間にも努力を重ねているが故だ。

 だが、姫様の才能は天性のモノ。残酷だが努力では辿り着けない領域にある」

 そのように断言する父上に、俺は羨望や嫉妬を禁じ得なかった。

 

 父上の元で幼少期を繰り返すこと、既に八十年ほどになる。

 女神の加護か、それとも麻痺か。もはや時間の経過を苦痛に感じるような感性は当の昔に消え去っていた。

 俺が父上の奥義全てを会得するのに四十年。それから更に全盛期の父上の指導を四十年受け続け、その倍近くの年月を戦場にて実戦を経験してなお、俺は姫様に及ばないのだ。

 

 まさに英雄の中の英雄。

 悪の魔王を打ち倒す英雄譚の主人公。

 血筋、才能、勝利を体現した王道を歩むべき存在だった。

 

 たとえそれが、女神アンズ様によって舗装された道筋であろうとも。

 俺はアンズ様の御力によって、父上の養子となる宿命を持って逆行している。

 姫様も、おそらくは同じなのだろう。

 

 この国の姫君として生まれ、英雄として戦う宿命を背負っているのだ。

 そのように、彼女が神に願った(・・・)

 

 では、俺が知るべきこととは何であろうか? 

 

 あの美しく高貴な仮面の裏側を、剥ぎ取ることなのだろうか? 

 アンズ様がそれを望んでいるのなら、俺のすべきことは決まっている。

 

 まずは、もっと情報を集めるべきであろう。

 

 

 

 

 そして、この日がやってきた。

 

「今日は私についてきなさい」

 ついに来た、と四度目になる父上の言葉に素直に従う。

 

 王城に向かい、姫様の私室へと向かっていく。

 

「姫様。私です、よろしいでしょうか」

 父上が以前の周回と同じようにドアをノックする。

 やはり同じように、室内から促す声があり、それを受けて俺と父上は中へと入る。

 

「ギルバート、その子は!?」

 今までと異なったのは、若かりし姫様が思わずと言った様子で広げていた本を放してしまったことだった。

 ぱたん、と独りでに本が閉じでしまう。 

 

「私の息子です。多忙極まる姫様の一時の慰めになれば、と」

「そ、そうですか。よろしくお願いしますね……」

 姫様の様子に違和感を抱きつつも、父上は一礼して踵を返す。

 俺もそれに付いて行く。

 

「アラン、もしや姫様と面識があるのか?」

「まさか。父上の養子になる以前に、祭りの際にお城のバルコニーから拝見した程度ですよ」

 そうか、と父上は一先ずは俺の言い分を呑み込んだ。

 しかし間違いなく、今回は俺と姫様は初対面だった。

 そしてこの時点で、姫様がパン屋のステラを通じて俺の事を知っていたなどと、俺は知らない情報のはずなのだから。

 

「ソフィア。少しよろしいか」

「はい、ギルバート殿」

 そうしていると、いつものようにソフィア殿を父上が呼び出した。

 

「今日から姫様の話し相手になる息子のアランだ。お前の好きに使いなさい」

「ギルバート殿のご子息ですか?」

 そのソフィア殿の反応に、おや、と俺は小首を傾げた。

 彼女は俺を見て、訝しそうにしていたのだ。

 

「失礼ですが、年頃である姫様に異性を側に置くのはどうかと思うのですが」

「陛下には話を通してある。あの方も気難しいお年頃だ。

 愚痴を言える相手ぐらい必要だろう」

「それは自分の役目なのですが」

「その役目をするには、お前は少し堅物すぎる」

 父上の物言いに、俺は少し可笑しくなって笑ってしまった。

 確かにソフィア殿は少々難儀な性格をしているが、根は真面目で堅物だ。

 そして、忠義の士でもある。決して裏切らない護衛としてはうってつけで俺も全幅の信頼を置いているが、愚痴を黙って聞いてくれる相手では無かろう。

 

「こら、アラン。人を見た目で判断するでない」

 俺が思わず笑ってしまったのを、父上は軽く微笑んで諭した。

 そして俺の態度が気に障ったのか、ソフィア殿は俺を睨みつけて来た。

 

「申し訳ございません、ソフィア殿」

「いえ、既に決まっている命令とあらば従うまでです」

 不承不承と言った様子であったが、ソフィア殿は頷いた。

 

「父上、では私はソフィア殿に城内での作法を教授願おうと思います」

「そうしておくといい」

 そう言って、父上は一人歩き去って行った。

 

「ソフィア殿、合同教会に行きませんか?」

 俺の言葉に、彼女はゆっくりと頷いた。

 

 

 …………

 …………

 ………………

 

 

「お前が、夢に出て来たあの女神が遣わした男か」

 俺がアンズ様の神像の前に立つと、ソフィア殿は目を細めてそう言った。

 

「今回は、やはり一度目か」

 その反応を見て、俺は確信を抱いた。

 つまりこの世界は、姫様たちが願いを叶えて貰って逆行した初めての世界なのだろう。

 

 だからソフィア殿に俺との面識が無いのだ。

 うろ覚えであるが、確かイリーナ殿の時もそうであった気がする。

 

「教えてくれ、お前は何をしたいんだ? 

 あの女神はお前に何をさせようとしている?」

「俺はただ、姫様の全てが知りたいだけです」

 俺は彼女の問いに真面目に答えた。

 

「教えてください、ソフィア殿。

 姫様は本当に貴女の知る姫様なのですか?」

「……お前は何を、言っているんだ?」

 俺の言葉にソフィア殿は困惑を隠し切れない様子だった。

 

「少し長くなりますが、よろしいでしょうか」

「ああ、頼む」

 俺は出来る限りのことをソフィア殿に説明した。

 

「時間を逆行している? お前や、姫様が?」

「今はまだ、信じられないかもしれません。

 ですが、いずれ貴女も思い知ることになりますよ」

 俺はソフィア殿が逆行に巻き込まれることを話していた。

 俺が今のところ若い順番の世界から遡ってきていることも。

 

「姫様には天秤の女神様による試練を課されている。

 それは私たちには想像も絶するような困難と苦痛に満ちた道程なのです。

 私はその助けになるべく、女神様に遣わせられました」

「…………」

「お願いです、幼い頃より姫様に仕えている貴女に聞きたい。

 姫様について教えてくれませんか?」

「……わかった、何が聞きたいんだ?」

 彼女は一度だけアンズ様の神像を見上げた後、俺に視線を戻してそう言った。

 

「姫様は、女神さまに願ったそうです。

 自身がお姫様になりたい、と」

「その結果、あの方がこの城の姫として誕生したという結果が今の世界である、と」

「何か心当たりはありませんか?」

「ひとつ考えられるのは、影武者と言う線だ」

 彼女は顎に手を当てて、そう口にした。

 

「だがそれを私にまで隠す理由はない。

 間違いなく『姫様に替え玉は居ない』はずだ」

「あなたは宰相の娘ですものね」

「ああ、私を影武者にするならともかくな。

 だがそもそもの話だが、この問答に意味なんてあるのか?」

 ソフィア殿は根本的な話に切り込んできた。

 

「あの女神は人々の認識を弄れるのだろう? 

 だったら、姫様が前世で何者であろうが、今生では姫様は姫様だ。

 そこを問うのに、いったい何の意味が有る? 

 誰も異常を異常と認識できないんだからな」

「それは、そうですが……」

「そしてそれを異常と言い張るのは、お前だけだ」

「…………」

「私から見て未来の私は、お前にそのことで何か言ったのか?」

「いいえ」

「だったらそれは重要な事じゃないんだろ」

 彼女の言うことは尤もだった。

 もしこの世界に異常があるのだとしたら、滅びた世界を行き来している俺の方が異常なのだ。

 

「分からない、女神さまは俺に真実を知れと仰った。

 歪められてしまった真実を探せと」

「姫様の、本当の姿か」

 ソフィア殿は腕を組んで考え込み始めた。

 

「いくら考えても、今ここでは答えは出ないだろう。

 どうせ何をしても結果は変わらないのだろう? 

 であれば、お前自身が見極めることだ」

「……そうですね」

 これ以上ソフィア殿を問い詰めても、有力な情報は無さそうだった。

 

「本当の姿、か」

 合同教会を出る俺の背後で、ぼそりとソフィア殿が何か呟いた気がした。

 そして俺も、彼女も気づいていなかった。

 

 アンズ様の神像が持つ天秤が、水平から傾いていたと言うことに。

 

 

 

 §§§

 

 

 何かを学ぶために何よりも必要なのは、意欲である。

 学ぶための環境がどれほど揃っていたとしても、当人が学ぼうとしなければザルで水を掬うようなものである。

 

 その点でいえば、姫様の脳みそはザルだった。

 

「姫様、次は礼儀作法のお稽古になります」

 ダンスの稽古を終えた姫様に、ソフィア殿が次のスケジュールを告げる。

 彼女の役割は護衛だけに終わらない。

 姫様の御目付け役であり、秘書のようなものなのだ。

 

「もう、うんざりです……」

 姫様は自室のベッドに身を投げ出した。

 レースとフリルのドレスがふわりと舞い上がり、俺はとっさに目を逸らした。

 

「姫様、はしたないですよ」

 ソフィア殿よりも先に、俺が苦言を呈した。

 

「今日は気分が優れないと、先生に言っておいて」

「またですか?」

 咎めるようなソフィア殿の視線が姫様の背に突き刺さる。

 

「……お腹が空きました」

「厨房に行って何か軽食でも持ってきましょうか?」

 今回は姫様の真実に迫る為に甘やかさないと決めていた俺であったが、つい長いこと側付きとして仕えていた癖でそんなことを言ってしまう。

 

「いいえ、ステラのパンが食べたい」

 そう言うと思った、と俺は胸中で溜息を吐いた。

 姫様がワガママ姫の時もそうであったが、彼女は時折無性にあのパン屋のパンを食べたがるのだ。

 

 ハッキリ言って、ステラの実家は庶民向けのパン屋だ。

 パン一つの値段は法律によって一律決められているので、パン屋はいかに原価を抑えて保存性を追求するか工夫が求められる。

 庶民向けのパンはカビに強くひと月は持つが、実際にひと月経ったパンは釘が打てると揶揄されるような硬さだ。

 それでも出来た当日くらいなら、創意工夫次第で普通に食べれる。

 だが、王宮で出るような貴族向けの柔らかいパンからして、食べやすさだけでも比べ物にならない。

 所詮庶民を飢えさせない為のモノに過ぎないのだから。

 

「では、俺が買ってきましょうか」

「頼む。お前では姫様を甘やかすからな。

 私はここで姫様の説得を続けるよ」

 そう言って、ソフィア殿は手をひらひらを振って俺を送り出した。

 

 城内から出て、俺は城下町へと繰り出した。

 冒険者時代では見慣れた街並みを歩き、かつての実家があった通りへと辿り着いた。

 

 ステラの実家のパン屋はちょうど書き入れ時を逸したらしく、売れ残りのパンが少し棚に陳列されているだけだった。

 

「ステラ、いつもの奴だ」

 俺の声にカウンターで帳簿を付けていたステラが顔を上げた。

 

「ああ、アラン君。いつものやつね」

 彼女は店の奥へと引っ込むと、姫様の為のパンを持ってきた。

 

「いつも悪いな」

 実はこれは最近知ったのだが、このパンは姫様の為の特別製らしいのだ。

 なので店頭に並ぶパンに比べればかなり柔らかく食べやすい。勿論、普通に売ったら大赤字であろう。

 だが、このやり取りに金銭の授受は発生していない。俺はてっきり今まで事前に支払いはしているものだと思っていた。

 

 売り物にするわけではないので、法律違反ではない。考えたものである。

 

「いいの、姫様のおかげで貴族様向けの“ケーキ”の味の好みがわかるし」

 そして、この商魂たくましいステラである。

 ケーキにはパンのように法律で値段が決まっていない。

 あまりお金の無い貴族には、手頃な値段で美味しい“ケーキ”が食べれると言うわけだ。

 

「あまり変な綱渡りをするなよ」

「えへへ、もしもの時はアラン君が守ってよね?」

 ステラは太陽のようににへらと笑う。

 流石人気の看板娘である。無意識に人を引き付ける何かがあった。

 

「アラン」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにはソフィア殿が居た。

 

「ソフィア殿、どうなさいましたか?」

「少し小言を申し上げたら、癇癪を起こされてな。

 顔も見たくないと仰せなので、私もこちらに来た次第だ」

「なるほど……」

 姫様も、そろそろ限界なのかもしれない。

 

「ここが庶民のパン屋か。

 いつもは裏口から伺う故に新鮮だな」

 そう言ってソフィア殿は、店内を見渡し始めた。

 そう言えば、ソフィア殿は姫様の護衛をしているだけあって、名門貴族のお嬢様であった。

 実家の領地に戻れば、それこそ姫様扱いであろう。

 

 そう言えば、以前の周回で戦地にて野営をした時、硬いパンが食べなれないと言っていた気がした。

 

「……先に行っていてくれないか、私はここでステラ殿と世間話でもして時間を潰すよ」

「あまり彼女に迷惑を掛けないでくださいね」

「当たり前だ」

 帳簿を書いているステラを一瞥し、俺は彼女に軽口を叩いておく。

 

 そして俺は一足先に、姫様の元へと向かうのであった。

 

 

「…………」

「どうかしましたか?」

 パン屋の帳簿にでも興味があるのか、ソフィアはじっとそこに視線を向けていたのを、ステラは不思議そうに小首を傾げた。

 

 

 

 §§§

 

 

 毎回のごとく俺は十五歳には騎士になり、親衛隊に属することになった。

 

 そんなある時、遂に姫様の我慢の限界が訪れてしまった。

 

「アラン、城を抜け出すので供をしてくれませんか?」

「姫様?」

 俺は迷った。

 姫様に付き合うことぐらい、別に構わない。

 そんなことをすれば俺の人生はオジャンだろうが、そんなことは逆行を繰り返している俺には今更だ。

 

 ここ最近、姫様は荒れ始めていた。

 お稽古をすっぽかす割合は更に増え始め、小言を言うソフィア殿を目に見えて遠ざけ始めた。

 

 お城に住むお姫様と言っても、その生活は華やかな物ではない。

 ここ最近、魔物の勢力が活発化しており、貴族のパーティの回数は激減していると言う。

 姫様は箱にしまわれる宝石のように、王城で稽古の毎日だ。

 そして最近は、お城に勤める宮廷料理人の出す一流の料理さえも喉が通らない有様である。

 

 お姫様と言う、絵本の中の理想と現実のギャップが彼女を苦しめているのだ。

 

「姫様、なぜ急にそんなことを?」

 俺は彼女に尋ねた。すべてを放り出すほど、姫様は無責任では無いはずだった。

 

「……婚約が、決まったのです」

 姫様は、絞り出すように言葉を吐き出した。

 

「なるほど」

 結婚は、王族の義務である。

 言うなれば姫様の教養は付加価値であり、高く相手に売りつける商品なのだ。

 貴族の女性とは、突き詰めれば政略結婚の道具に過ぎない。

 だが、それを拒むことは傲慢だろうか? 

 

 確かに結婚は王侯貴族の義務かもしれない。

 だが、逃げ出したいほど弱っているこの姫様を見て、それを突きつけることは俺にはできなかった。

 

「姫様の為なら、地の果てまでもお供いたしましょう」

「ありがとう、アラン」

 こうして、俺と姫様の逃避行は始まった。

 

 

 

「どうしたんですか、お二人とも」

 俺と姫様の逃避行は数十分も掛からず終わった。

 

「お願い、ステラ。匿って」

 そんなことを口にする姫様に、裏口から顔を出したステラは困惑した様子で俺たちを交互に見た。

 

「とりあえず、中で話をしましょう」

 彼女はそう言って、俺たちを中に招き入れた。

 

 そして姫様の懇願の結果、落ち着いたら王城に戻ると約束して匿うことを彼女は了承してくれた。

 

 

 それから、二日後。

 案の定、王城は大騒ぎになっていた。

 俺は親衛隊として城内の様子を姫様を捜索する振りをして、報告したりすることを繰り返した。

 

 ソフィア殿も何やら忙しいらしく、ここ最近はあまり顔を合わせない。

 

 その日の俺は、夜中にパン屋の裏口から店内に入り、ステラの部屋を訪ねた。

 今回は、姫様への報告ではない。

 

 仕事が忙しい為、あまり話す機会の無いステラに姫様との馴れ初めなどについて尋ねる為だ。

 この話題になると、姫様は言葉を濁す。そして大抵の場合は誤魔化す。

 

 きっとステラは、以前の姫様と知り合いなのだ。

 その縁が、無償の信頼となって二人の絆となっているのだろう。

 

「ステラ、居るかい?」

 俺は彼女の部屋をノックした。

 ……だが、返事は返ってこない。

 

「ステラ? 寝ているのか?」

 彼女はこの時間、経理の仕事をしている筈なのを確認済みだった。

 不審に思った俺は、ドアに耳を当てた。

 

からん、からん

 

 中から、何の音も気配も無かった。

 ドアノブのカギの有無を確認する。冒険者時代の癖だ。

 カギは、掛かっていなかった!! 

 

「ステラ、入るぞ!!」

 自分を納得させる為だけの台詞を言いながら、俺は部屋の中へと押し入った。

 中は真っ暗で、誰も居なかった。

 

「ステラ、居ないのか?」

 

からん、からん

 

 俺は、その気配に気づけなかった。

 

「──ッ!?」

 俺が対応できたのは、寸前だった。

 俺の右腕が、白刃が過ぎ去る。俺が動かなかったら心臓を貫いていた位置だ。

 

「刺客だと、何者だ!!」

 咄嗟に剣を抜いて反撃するも、態勢が悪く力が入らない。

 刺客の不意打ちに対応できずに、俺の反撃はあっさり弾かれた。

 

 そして剣の間合いの内側に入り込まれ、闇に紛れた短刀が俺の腹部を狙う!! 

 

「させ、るか!!」

 俺は相手の刺突の腕を掴み、その勢いを利用して一緒に倒れこみ抑え込むことに成功した。

 偶然にもその先にはベッドがあり、気が軋む音が二人分の重さを示していた。

 

「武器を放せ!!」

 刺客を抑え込み、俺は声を荒げ言った。

 

「く、くく、そんなに私と寝屋を共にしたいのか、アラン?」

 その声に、俺は思わず驚いて拘束を緩めてしまった。

 

「──悪いな」

 刺客の、ソフィア殿の体が反転し、その勢いのまま俺の首を掻っ切った。

 

 血を浴び、同じベッドに俺たちは寝転がる。

 そして俺は意識を失う直前に、誰かの悲鳴を聞いた気がした。

 

 

 

 §§§

 

 

「ソフィア殿、なんで……」

 女神さまの目の前に戻って来た俺は、呻くようにその言葉を吐き出した。

 

「あの女、影騎士か。護衛にはうってつけの職種(ジョブ)だな」

 俺の惨状を見ていたのか、イリーナ殿がそう呟いた。

 

 影騎士とは、盾職(ガードナー)暗殺者(アサシン)の両方の技能を複合して用いる者を言う。

 

「所謂、回避盾ってやつですね。護衛の為に敵のヘイトを集め、その身軽さで敵の攻撃を避ける。暗殺への知識があるのも、護衛向きなんでしょうね」

 何やらあくびをしながら、アンズ様がそう言った。

 

「ああ、同じスピードタイプの剣士として相性が良かったから、彼女は戦場では背中を預けられる相棒だった」

 そんな彼女に殺された俺は、想像以上にショックを受けていた。

 

「まさか忘れてたんですか、彼女が自己申告してたじゃないですか。

 自分はあなたを殺したことが有るって」

「……」

「まあ、イジメるのは止めましょうか。

 私も何だか数年ぐらいぼーっとしてたような気分で眠いですし」

 俺は顔を上げることが出来ずにアンズ様の言葉を受け止めることしかできなかった。

 

「これ以上、続けますか?」

「はい、何もわからず止めるなんてできませんから」

 そうですか、と俺の答えにアンズ様は眠そうに答えた。

 

「実を言いますと、前回、あなたが審判を始めると言ったら少し面倒なことになっていたんです」

「え、どういうことですか?」

「彼女を巻き込む羽目になったのは、あなたが原因なんですよ」

 理解が出来なかった。

 

 ソフィア殿を巻き込んだのは、俺の所為だって? 

 

「まあ、一概にあなたの所為とも言えないのが時間の概念の面倒なところなんですけれどね。

 私はその辺を超越しちゃってるんですけど、あなた達にそれを適用しちゃうと越権行為になっちゃうんで」

「あの、仰っている意味が分からないのですが……」

「説明してもわからないでしょうから、気にしないでください。

 ハイッ、アンズちゃんのスーパーヒントタイム終了!!」

 軽い口調でパンッと手を叩いて、この話題を終わらせるアンズ様。

 

「それじゃあ、お次にレッツゴー!!」

 女神の神賽が振るわれる。

 

からん、からん

 

 視界が歪み、感覚が海に沈むように落ちていく。

 そうして、俺は次なる世界へと旅立っていく。

 

 今度こそ、真実を探して。

 

 

 

 




数年ぶりの更新……当時の作中の雰囲気が再現できているでしょうか?
この話を投稿時点で、某所での倍の数のお気に入りの登録をしていただき、感謝の極みであります。

本当なら、今回で謎が解決し、次回で解決編にしようと思ったのですが、思いのほか字数が伸びたので予定通り六話体制で行きます。
昔に張った伏線がちゃんと回収できているのか、矛盾が生じていないのか、いまでも戦々恐々していますが、どうぞ、数年越しの『ラウンドテーブル』の最新話をお楽しみください!!
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