『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
その女は、白百合のようだと例えられる。
その右手を振れば人々は希望を見出し、左手の剣を振れば敵は絶望する。
清く美しい姫君は、華のように地獄に咲く。
たとえそれが造花であろうとも、美しさに変わりはない。
だが、彼女は学ばなかった。
造花に水を差しても、造花は決して生花には成れないと言うことを。
「それでは、審判を始めましょうか」
アンズ様は天秤の支柱を手にして掲げ、そう宣言した。
俺は三度、彼女の元へと戻って来た。
姫様に関する全てを知って。
「起きなさい、レナスティ姫」
女神の呼びかけに、骸となって青ざめていた姫様に生気が蘇る。
やがて、うっすらと彼女は目を開け、ハッとしてから起き上がり周囲を見渡す。
「め、女神様。これはいったいどういうことですか?」
姫様は状況を確認する。
イリーナ殿と、かつて仲間だった残り二人の遺骸。
「アラン、どうして貴方まで!?」
彼女は困惑の極みに有った。
それもそうだろう。命を落としたと思ったら、生き返ってこの場に居ないはずの俺が居るのだから。
「それに、ここはッ!?」
「あ、ここですか?
いい加減、あの薄暗い遺跡の奥というのもあれですので、ここの管理人に言って場所を移させてもらいました」
アンズ様の言う通り、俺たちは彼女の御力である場所に移動していた。
「見覚えがあるでしょう?
それとも、幾度もの繰り返しで忘れてしまいましたか?」
にやにや、と意地悪くアンズ様がそう言った。
「姫様、お初に御目に掛かります」
俺は姫様に向けて、頭を下げた。
それもそうだろう。だってこの世界では、俺と彼女は初対面なのだから。
「あ……」
それに気づいた彼女は硬直してしまった。
「いえ、久しぶりと言った方が正しいでしょうか?」
そして俺は、彼女の偽りの全てを剥ぎ取る言葉を口にした。
────なあ、
§§§
随分と懐かしい場所に、戻ってきてしまった。
実際にその目で見るまで、俺は記憶の底からこの場所の事を思い出せなかった。
「都立孤児院……」
昔、俺が冒険者になる前に世話になっていた場所だった。
両親を事故で亡くした俺は、年齢もあって遺産の手続きが終わるまでこの孤児院に居たのだ。
その期間は短かったが、親戚にたかられて減っていく遺産を院長先生は可能な限り守ってくれた覚えがあった。
もはや、その院長先生の顔すらも覚えていない。
「よく来たねぇ、辛かっただろう?」
そうだった、この年老いた老婆が院長先生だった。
「お世話になります」
救貧院を始めとした、貧困救済を目的とした施設は王都には幾つもあるが、まともに機能しているという噂は聞かない。
この院長先生が一人で切り盛りしている孤児院は、それに比べればまだまともな所だった。
「みんな、今日から新しい仲間が入るよ。
ほら、アラン。ご挨拶しな」
院長先生に連れられ、孤児院に住む孤児たちに俺を紹介し始めた。
「よろしくお願いします」
俺が頭を下げて一礼し、顔を上げると何人もの子供たちに交じって見知った顔があった。
「なん、で……」
俺の顔を見て驚く、ステラの顔がそこにあった。
十歳と言うのは、孤児たちの中でも年長の部類だ。
だから必然的に俺はステラと一緒に年少の子供たちの面倒を見る羽目になる。
「ステラ、どうかしたの?」
「……ううん、何でもない」
有り余る元気を使い果たした子供たちを寝かし付けた後、洗濯物をする為に彼女と一緒に外でタライに溜めた水で衣服の汚れを洗っていると、俺は視線に気づいて彼女に視線を向けた。
ステラは何かを言いたげにしていたが、首を横に振った。
「二人とも、ちょっといいかい」
二人で洗濯をしていると、院長先生がやってきた。
「ちょっと買い物を頼まれてくれないかい?
余った分は二人のお小遣いにしていいからさ」
「はい」
俺はこの孤児院に来てすぐにしっかり者だと印象付けられ、このような雑用を手伝わせてもらっている。
それにしても、お小遣いをくれるとは。孤児院の経営はあまり良くないであろうに。
それでも、独りで子供がお金を持って出歩くのは危ないからステラも一緒に行かせるのは妥当な判断だろう。
「ステラ、行こう」
「う、うん」
買い物の品を院長先生から確認すると、俺は彼女を促して一緒に町中へと繰り出す。
「…………」
目的の品を買い終えると、ある場所の前にてステラが足を止めた。
俺はその視線を追う。
そこは、パン屋だった。
丁度焼き立てのパンが焼きあがる時間で、中年のオバサンが店頭に立って客の呼び込みをしている。
「お腹空いたの?」
俺はステラに尋ねた。
「……ううん、違うの」
彼女は悲しそうな表情をしていた。
今にも泣きだしそうで、肩は小さく震えていた。
「アラン君」
そして彼女は、俺に向かい合って何かを決意したように俺を呼んだ。
「なんでしょうか、──レナスティ姫」
俺は機先を制するために、彼女の
俺とステラの間が、時が止まったかのように固まる。
王都の喧騒が、どこか遠くにあるような錯覚に陥る。
「なんだ、全部知ってたんだ。
道理で、どこか変だと思ってたんだ」
ステラは年相応の子供の仮面を脱ぎ捨て、諦めたようにそう言った。
「あなたも、私と同じなんだね。アラン君」
「事情は大分異なるでしょうがね」
俺も子供らしさの擬態を捨て、彼女にそう言った。
「酷いことをするなぁ、あの女神様。
お義父さんの奥さんを生き返らせられるなら、最初からそうしてくれれば良かったのに」
それは自分の居場所を失ったことに対する悲しみと、愛する義父に不幸が起こらずに済んだことに対する安堵が入り混じった複雑な感情だった。
「場所、変えようか」
俺は彼女の提案に頷いた。
そして背を向け歩き出す彼女に、付いて行く。
「ここならいっか」
そう言って、路地の端へと歩み寄って、塀の縁に座って彼女は俺に向き直る。
「どうして、私がレナスティだってわかったの?」
「帳簿ですよ」
俺の答えに、ああ、と彼女は納得の溜息を吐いた。
「あなたの付ける帳簿には、宮廷で使用される筆記が使われていました。
多少の読み書き程度しか教わらない孤児院で、しかも周回が始まってすぐにパン屋の親父さんに引き取られるあなたに、庶民の文字を学ぶ時間は無い」
「……一つだけ言い訳させてもらうと、私はとっくに普通の書体を書けるよ?
でもついつい書きなれた書体で書いちゃうんだ。お義父さんも、あんまり文字を読める人じゃないし」
ステラは肩を竦めてそう言った。
「それで、貴女が貴族階級の教育を受けた者だと理解しました。
では、それはいつでしょう? 俺はその時、思い当たったのです。
かつて、我が天秤の女神が仰っていたのです」
『私がこの世界で出来ることは、この世界の限りあるリソースをやり繰りして物事を釣り合うようにすることぐらいですかね』、と。
「つまり、初めから存在しない席を創ることはできない。
お姫様に成りたい、という願いを我が神が叶えるには、別の誰かからその席を譲ってもらうほかないのです」
俺の推理を聞いて、ステラは溜息を吐いて、正解、と呟いた。
「そう。私が、かつてこの国の第一王女であったレナスティ・マリーナ・ヒルデンです」
彼女は胸に手を当て、孤児とは思えない気品のある仕草で一礼をした。
それが、本当の彼女の正体だった。
ソフィア殿の、本来の忠誠が向けられる先の御方だった。
「尤も、その肩書は今なんの意味も持ちませんけれどね」
それもそうであろう。
今の彼女は正真正銘の、雑種犬だ。
「アラン君、それを暴いたところで、あなたに何の益があるのですか?」
彼女は俺の両目に視線を合わせて真意を問うた。
「……今の姫様が、世界を救う為に魔王軍と戦っているのは知っていますね?」
「ええ、最初の方はともかく、今の彼女は武芸に秀でているわけではない私に代わり立派に戦っていると聞きます」
それを聞いて、俺はそこも歪められていたのか、と悟った。
本物のレナスティ姫は、剣技に優れていなかった。
今の姫様に合わせて、その評判が移し変わったのだろう。
よくよく考えてみると、ただの政略結婚の道具であるはずの姫様の評判に武芸の腕があるのがおかしいのだ。
「……諦めるんです」
「え?」
「俺は未来から、女神さまに遣わされて以前の世界を行き来しています。
姫様たちは、試練が難しすぎるからと投げだし、女神さまに文句を言いに行った挙句に仲間割れをして殺し合います」
「……」
ステラは目を見開き両手に手を当て、上品に絶句していた。
「そんな、バカな……」
「我が天秤の女神は、そのことに大層お怒りでおいでです。
その無様の清算の為に、私は遣わされている」
自分で口にして、溜息を禁じ得なかった。
我ながら、よくもまあこんな徒労に奔走しているものである。
「魔王軍より世界を救うには、姫様を始めとした四人の英雄の活躍が必要不可欠だと我が女神は仰いました。
このままでは、世界は滅び去ります」
俺の告げる事実に、彼女は耐えきれなかったのだろう。
「あ、姫様!?」
彼女は青い顔になってふらりと体を傾けた。
俺は慌てて彼女の体を支えた。
「わ、私が、あんな誘惑に乗ったから……」
彼女は何やら後悔の念を口に漏らしていた。
「ありがとう……これは、私の罪でもあるのですね」
「罪だなんて、そんな」
「良いのです。私は貴方に協力いたします。
あのソフィアも、手足のように使って貰って構いません」
何とか態勢を整えた彼女は、改めて俺にそう告げた。
「やはり、ソフィア殿は自力で貴女の事に気づいたのですね」
「ええ、信じられないことでした。
彼女も私の帳簿を見ただけで、私の正体を見破りました。
本当に、本当に驚きました……」
万感を噛み締めるように、彼女はそう口にした。
「あの娘とは、赤ん坊の頃から一緒だったのです。
何をするのも一緒で、本当の姉妹のように育ったのですよ。
そして、今の私となり、彼女を失ったことだけが最大の後悔でした」
「だけど、あの人は気づいた。本当の忠誠を捧げる相手に」
「私に何かにはもったいないほどの、得難い忠臣ですよ。彼女は」
まったくです、と俺もそれには全面的に同意を返した。
道理で、今の姫様に対して辛辣だったくせに、その忠義に欠片も嘘が無かったわけである。
きっとソフィア殿には、この世の真実と虚像がモノクロに見えたに違いない。
「それで、私は何をすればいいでしょうか」
「いえ、今のお話を聞けただけで、必要な情報は出揃いました。
後は時が来れば、審判の時は訪れるでしょう」
俺の言葉に、わかりました、とステラは頷いた。
§§§
「と、言ったことがありまして」
わざわざ俺が説明するまでも無く、アンズ様の魔法により虚空にその時の光景が映像となって映し出されていた。
「我が使徒は、見事私の与えた難題の一つを乗り越えました。
その事実を以って、彼女を裁定なさい」
アンズ様は女神らしい威光を放って、俺にそう告げる。
「姫様」
俺は、彼女の前に立つ。
ひッ、と彼女は後退った。
「あなたは自ら望んで責任のある立場になった。
必要に迫られたとはいえ王宮で実権を得たと言うのに、なぜあんなところで仲間割れした挙句に実際に死んでしまったのですか!?」
俺はボロボロになった仮面を引きはがすように、俺は彼女に訴えた。
「貴女は俺の憧れだったのに!!
俺だけじゃない、あんたは父上や他の人たちの期待をも投げ捨てた!!」
「だって、私は……」
「あんたが望んだことだろう!?」
俺は自分の感情を抑えられなかった。
多くの人々が魔王軍の脅威に脅かされ、各国連合軍も連敗を重ねる中で彼女は国民の希望だった。
絶望の闇の中で、この人は一条の光の元に咲く白百合の花だった。
「……私が、私が悪いって言うの?」
それでも、糾弾を受けた姫様は認められなかったようだった。
「私はちゃんと努力したもの!!
嫌なお勉強もお稽古も頑張って耐えたし、本当は戦いたくなんてなかった!!
お城で優雅な生活をしておいしい食べ物を食べて、それを夢見ちゃダメだって言うの!?
貧しさやひもじい思いをするのが嫌だって言うのはそんなに悪いことなの!?
それなのに、私以外が戦えない状況に何度も陥って、仕方なく私が戦うしかなかったのよ!!
それだけなのにみんなが周りで勝手に持ち上げ始めたんじゃない!!
ねえ、普通に考えてお姫様が前線で指揮を執って自ら戦うわけないじゃない!!
そんなこと私がいつ望んだって言うの!? 誰がこんな延々と戦い続けるしかない地獄を望んだって言うの!?
ねえ、女神様、私がいつそんなことをあなたに頼んだって言うの!!」
それは、“姫様”がずっと隠していた本音だった。
「もう、もうッ、嫌だ!! 嫌だッ!!
私はもう疲れたのッ、十分耐えたのッ!!
なんでみんな私に責任を押し付けるのよ、そんなに生まれが大事だって言うの!?
じゃあ私たちが味わった貧困も押し付けさせてよ、それもできないのに偉そうにふんぞり返らないでよ!!
どうせ、貧しさになんて耐えられないんだからッ!!」
彼女は頭上のティアラを床に叩きつけて叫んだ。
「レナ……」
その姿を見て、痛ましそうにイリーナは目を逸らした。
彼女もまた、姫様の苦しみの全てを理解できてはいなかったのだ。
「こんな地獄から解放されたくて、仲間に剣を向けようとしたのはそりゃあ罪でしょうよ!!
私はもう嫌だからねッ、もう絶対にあんな化け物どもと戦ったりしないから!!」
癇癪に身を任せて泣き叫ぶ姫様に、ついに堪忍袋の緒が切れた方がいた。
「あなたの罪?」
アンズ様だった。
「あなたの罪は、別に仲間を殺したことじゃありませんよ。
あなたの罪は自分を偽った挙句に逃げ出そうとしたこと」
「ッ──!?」
彼女は笑みを浮かべたまま、物理的な圧力が掛かるほどの威圧感を放っていた。
「そして、私に願っておきながら、それを取り消すなんて真似をしたこと。
……あのねぇ、
明らかに、イリーナ殿の時とは対応が違っていた。
自分の身勝手さのままに叫ぶ彼女に比べれば、確かにイリーナ殿は彼女に気に入られていたのだろう。
「我が使徒よ、裁定を」
そしてこれ以上、アンズ様はその見苦しい姿を見るつもりは無いようだった。
「姫様、貴女に罰を申し伝えます」
俺はその神意を代行し、罰を告げる。
「あんたは、俺たちに希望を見せた責任を取ってもらわないといけない。
それが出来ないのなら、最初から王族になりたいなんて言うんじゃねぇッ!!」
散々彼女のワガママに付き合わされた鬱憤も混じっていたのは、流石に否定できない。
それでも俺は、もう一度彼女に立ってほしかった。
「……お願いです、姫様。
俺にとっての姫様は、貴女だけなんです」
床に崩れ落ちて泣き崩れる姫様に、俺は縋りついて懇願するほか無かった。
「なんで、なんでぇ、なんであなたまでそんなこというのぉ」
姫様は子供のように泣きじゃくった。
剣を握らせればどんな敵だって斬り倒せるはずの彼女が、全ての虚飾を投げ捨てて泣いていた。
それから少しこの空間に、ただただ姫様の泣き声だけが鳴り響いていた。
「──女神様」
すると、この施設の管理人がドアを開けて入って来た。
「院長」
俺はその姿を認めて、そう呟いた。
「……え」
そして、泣いていた姫様が顔を上げると、絶句した。
「なんで、あなたが……」
「姫様。王族は貧しさに耐えられるはずがないと仰いましたよね」
俺は立ち上がり、院長を見やった。
「彼女は、見事この孤児院を立て直して見せましたよ」
そこに居たのは、ステラだった。
彼女は自分の周回の出発点に過ぎなかったこの場所を、彼女は自分の居場所にして見せたのだ。
「女神様」
彼女は改めて、アンズ様に向き直った。
「彼女の罪は、本来は王族の責務から逃げた私のものです。
この子に罪ありき、と仰るのならば、それは私も同罪でしょう」
「……ふーん」
「どうか、罰を与えるのなら私にお与えください」
ステラはそう言って、腰を折って深々と頭を下げた。
「ダメでーす」
しかしアンズ様は両腕を交差させてそれを拒否した。
「私にとって何が罰で罪なのか、私が決めます。
あなたはただ巻き込まれ、それがたまたまあなたの利益に繋がっただけのこと。
飽くまで、私を怒らせたのはそっちの馬鹿者なんですから」
「そんな……」
「じゃあ、こうしましょうか?」
何とか彼女を庇おうとするステラに、アンズ様はにっこりと笑ってこう言った。
「私は彼女を今すぐ赦しても良い。
その代わり私は帰ります。顔も見たくないんで」
「そこまで、貴女様はお怒りなのですね……」
まさにこれが、女神を怒らせると言うことだった。
アンズ様の行う仕打ちは、過酷で地獄のような道筋を与えるものだ。
だが彼女は気分を損ねたのなら、別にすぐに神々の世界へ帰っても良いのだ。
こうして彼女が慈悲を見せているのは、単に人間の感情に理解があると言うだけのことだった。
「なんで、なんでそんなことを言うのぉ……」
お前が罰を受けねばこの世界は滅ぶと言われたに等しい彼女は、全てを拒絶するかのように膝を抱えて顔を埋めた。
「私はもう、世界がどうとか、責任がどうとか、そういうのが疲れただけなのに……」
姫様は完全に心折れていた。
……無理も無い。
あの五度目の、邪悪の女神の加護を受けた魔王の力は絶大だった。世界を滅ぼせると言われても頷けてしまうほどだった。
あの威容を目にして、挫けない方がまともではないだろう。
それを抜きにしても、姫様は十分努力したと言うのは本当だった。
姫様たちが諸侯や各国をまとめなければ、魔王軍に戦いを挑む以前の問題なのだから。
敵は、この世界の戦力の総量を上回る魔の軍勢。
であれば、この世界の総力を結集せねば相手にもなるまい。
「どうしても、嫌だと?」
「これ以上、何もしたくない」
「そうですか、それじゃあ仕方ありません」
マズい、と俺は思った。
今、アンズ様に帰られては『この世界が終わって』しまう。
俺は何とか話題を逸らそうと思考を巡らせたのだが。
やはり、と言うか……。
女神の行いと言うのは、時に人間の想像を遥かに上回るものであった。
「おーい、リューちゃーん!!」
アンズ様は口元に両手を添えて、そんな言葉を発した。
「──そんな軽い口調で呼ばれても困るのだが」
その瞬間、室内に闇が溢れた。
そしてそれが一つに収束し、人の形を模した靄が現れた。
「あ、あ、ああ……」
そのおぞましい姿に、初見のはずのステラは腰を抜かして床に尻もちを着いた。
「そ、その闇は、魔王の……!!」
そして姫様も、その力の根源が何なのか理解してしまった。
「邪悪の女神よ、あなたのところの業務は罪人の罪の清算もやってましたよね?
そこでこの娘の性根を叩きなおしてあげてください♪」
恐らくアンズ様は、この世で想像できる限りのもっとも最悪で残虐な仕打ちを選んでいた。
「……ふん、まあいい。この世界も、もう既に『私の管轄』だ」
闇の手が、姫様に迫る。
逃げることはできない。
嗚呼、この偉大なる邪悪と悪逆の女神から、どうやって逃げると言うのだ。
「ぁ……か……」
だから姫様も、恐怖に駆られたままその魔手が自分に迫るのをただ震えて待つことしかできなかった。
「待ってくれ!!」
逃げることはできない。
だが、その前に躍り出ることぐらいはできた。
「俺が、姫様の代わりに罪を清算する!!
この方はこの世界に必要な人なんだ、お願いです。偉大なる女神よ!!」
それでも俺が出来たことと言えば、彼女の前に跪いて、懇願することぐらいだったが。
「──うぬぼれるな。お前が誰かの罪を肩代わりするだと?」
闇の手が、俺の体を包む。
「お前はこの者の罪を暴くために、何をした?
自らの目的の為に他者を陥れ、心に傷を負わせた。
それを棚に上げて、その傲慢。赦し難し!!」
全てを見抜くような赤い双眸が、俺の罪を暴き立てる。
「これも連れて行く。良いな、二代目?」
「うーん、……面白そうだから、オッケー!!」
俺のアンズ様に向けた縋るような視線は、彼女の許可の前には無意味だった。
「ああ、全部で六回でお願いしますね。
こちらも話の都合と言うものがありますから」
「……はぁ、承知した」
そして、邪悪の女神の化身は俺と姫様を掴んで霧散した。
その後には、俺も、姫様も、そこには存在しなかった。
────────
「最後にチャンスを与えるつもりですか?
意外ですね、いい加減愛想が尽きたものかと」
「ああ、姉さん」
全ての時間が止まったその場所で、天秤の女神の前に更なる超常の存在が舞い降りた。
「これがチャンスを与えたように思えるんですか?
リューちゃんの浄罪は私の与える試練なんかよりもずっと酷いですよ。
もしそれを乗り越えられたのなら、まあ赦してあげてもいいかな、って程度です」
「あの
天秤の女神の前に降り立った、もう一柱の女神は自身の権能を用いてその結果を見通した。
「あ、結果は教えないでくださいよ、姉さん!!
先にどうなるか分っちゃったらダイスを振る意味が無いですからね!!」
「まったく、この娘は」
でもまあ、とあらゆる結果を見通す観測の女神はこれで良かったのだと思った。
「彼女の業務に支障がきたす方が問題でしょう。
貴方にオモチャにされるより、彼女の管理下の方がよほどまともだ」
あの邪悪の女神にとって一番迷惑なのは、この幼い女神にこの盤上を叩き壊されることなのである。
もしこの
そして彼女はそれを度々やらかしている。
ハッキリ言って、現地人にとって『邪悪の女神などよりよほどこの幼い女神の方が危険』なのである。
「彼女の業務を邪魔して、“文明”の方からクレームが来ても知りませんからね」
「私、あの人キラーイ」
「まあそうでしょうけど」
両者の因縁を把握しているこの女神は溜息を吐いた。
「あまり師匠を困らせないでくださいね。とばっちりを食らうのはいつだって私なんですから」
そう言って、もう一人の女神はこの世界から退散した。
「わかってますよーだ、ぶーぶー!!」
天秤の女神は、遠ざかっていく姉貴分の気配にそんな非難の声を挙げるのだった。
「…………じゃあ、そう言うわけで、これからしばらくはあっちに茶々入れる感じにするから、私の出番は無くならないよ!!」
自由気ままな女神は、“あなた”に満面の笑みでそう言った。
どこかで、邪悪の女神の溜息が聞こえた気がした。
これにて、姫様編の真相編は終了いたします。
ようやくこのお話も折り返し地点。
次回は今回の周回で何があったのかや、なぜお姫様が交換に応じたのか、そのあたりの心情について描写します。それが終わり、二章も終了します。
五百件を超えるお気に入り、昨日だけで4000PVと、こちらに移動させ、この小説を書いて初めてよかったと思えました。
この数字で、当時の雪辱を果たせたと思います。
数年前の連載当時のプロットは二章までなので、これから先は短期間での更新は難しいと思います。
邪悪の女神に囚われになった主人公とお姫様。
次章からは、聖女様編。
彼女には今まで描写が薄かった魔王軍の視点から話が進みます。
そしてここで、アンケートと言う名のキャラメイク!!
下の奴にご協力下さると幸いです。
主人公の二枚目のキャラシートのキャラメイク!! みんなはどのタイプが良い?
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文武両道、魔法剣士タイプ
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火力型純魔法使いタイプ
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サポート系付与術師タイプ
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召喚獣を使役、召喚士タイプ