『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
どんなに言い繕うとも、結局人は見た目で判断する。
多くの場合、見た目と中身が違わないと言うだけの事である。
女神フェイズ:魔王軍
魔王軍には四人の将が居り、四つの軍団によって構成されている。
魔獣将率いる、魔獣軍団。
魔人将率いる、人類種部隊。
魔導将率いる、魔法部隊。
魔造将率いる、後方支援部隊。
魔王軍の戦略は、実にシンプルだ。
攻撃目標を決めて、あとは各々好き勝手に攻撃する。以上だ。
だから魔王軍内での連携なんてほぼ無いに等しい。
将が率いる部隊の中でさえ、統率が取れていない場合さえあるのだ。
仮にも軍隊を名乗っておいて、それがなぜ許されるのか?
理由の一つとして、最終的に全てを滅ぼすから細かいことは問題にすらならない。
そして、もう一つは魔王軍の戦力の消耗が度外視されているからだ。
なぜなら、この世界を侵略(もはや侵略とさえ呼べないかもしれないが)する際の戦闘で命を落としても、彼らは別の世界で再び復活して戦うことが出来るからである。
基本的に女神の尖兵は寿命以外では来世が来ない。
戦闘員の育成はコストが掛かるので、資産を再利用しようと言う女神様の粋な計らいである。
彼らは思う存分、まさに果てるまで好き勝手殺し合いを堪能できると言うわけである。
そして俺、魔人将としての仕事はと言うと、そんな彼らを率いて前線で戦うことではなかった。
人間の将軍がそうであるように、彼らは前線で自ら剣を取ることなどまず無い。
俺の仕事は中間管理職。将と呼ばれてもやることは所詮他の誰かでも良い仕事だった。
「総員、整列!!」
俺の号令に、百を超える魔の軍勢が並び立つ。
俺の前に並ぶのは、人間とは似ても似つかないヒト型の悪夢どもだ。
ゴブリン、コボルト、リザードマン、トロール、オーガ、ミノタウロス、サイクロプス、獣人、有翼種、エルフ各種族、鬼人、等々。
と、まさに亜人の見本市だった。
この世界にも彼らは存在するが、人類が覇権を握っているために少数民族である。
いやそもそも、魔物扱いされている種族も少なくない。
「おい、そこのお前」
俺は彼らの装備の最終確認の為に見回って、有ってはならない物を手にしている人狼がそこに居た。
「へい、大将。何か問題でも?」
「お前は従軍は初めてか?
その手に持っている銃はレギュレーション違反だ」
俺の言葉に、えっ、と驚いたようにその人狼は手元のライフル銃に視線を落とした。
「これ、ダメなんですかい?」
「ダメだ。この世界の文明レベルでは銃器の持ち込みは禁止されている」
「……そりゃあ、参りましたなぁ」
俺の注意を受けた人狼はポリポリと毛深い頬を掻いた。
「こいつでこの世界の人間どもを的にしたかったんですがねぇ」
「これは一時没収だ。従軍が終わり次第、担当の部署にて回収するように」
「分かりやした、代わりの武器は支給されるので?」
「ああ、クロスボウぐらいならあったはずだ」
「じゃあそれでお願いしやす。それで女神様に人間の首のトロフィーを捧げやす」
彼からライフル銃を受け取り、俺の説明に納得した人狼はにっこりと笑って頭を下げた。
「……お前は、なぜこの部隊に?」
「そりゃあ、普通の獲物で満足できなくなったからでさぁ。
二十人ばかり森に迷い込んだ人間を追いかけまわして撃ち殺しやしたかねぇ」
べろり、と舌で口を舐めて、その時の甘美な感覚を思い出しているのか人狼は恍惚の笑みでそう言った。
この部隊は、リーパー隊。
俺の管理する部隊の中でも、特に快楽殺人鬼ばかりが集められた外道の中の外道どもである。
「てっきり地獄に墜とされるもんかと思ってたら、流石はかの偉大なる邪悪の女神様!!
あっしの腕を買ってくださって、未開の地の人間どもを好きなだけ撃ち殺して良いと仰ってくれたんでさぁ!!」
げはげは、と興奮して醜悪な笑い声を上げる人を食うオオカミ。
それに釣られたのか、周囲の面々も呼応するように笑いだした。
ここに居るのはどいつもこいつも、誰かの命を踏みにじらなければ満足できない狂人どもである。
こんな連中でも、何とかとハサミは使いようと言うわけだ。
「静まれッ」
だが俺がそう告げると、彼らは一斉に黙り込んだ。
「お前たちがそういう性質なのは理解している。
だが、この魔王軍の規律を預かる者として、これだけは言っておく。
軍務規定違反者には、この魔剣にて処断が許されている。
そうなれば、貴様らに次は無い。魂ごと引き裂かれ、消滅する」
俺は剣の柄に手を掛け、この殺人鬼部隊の面々に告げる。
「忘れるなよ、お前たちのような破綻者が許されるのは女神の慈悲があってこそ。
全ての邪悪はかの御方の元に管理されていなければならない。
例えばお前たちの刃が味方に向けられた時、その慈悲も失われると知れ」
彼らは黙りこくって、一様に頷いた。
こいつらだって、これより後が無いことぐらい分かっているのだ。
偉大なる二柱の女神の統治は、徹底的な住み分けによって成り立っている。
思想が違う者、人種が違う者、文化が違う者、それらを何十段階にも分けて管理され、争いごとを排除しているのだ。
この部隊は、その中でも最底辺よりやや上と言う位置づけだ。
こいつらは地獄に墜とされる価値も無い、更生の余地なしと判断されたクズどもなのである。
「我らが神がお前たちに期待しているのは、その攻撃性のみだ。
お前たちを罪人として殺すのは容易いが、それでは投資分が回収できない。せいぜい来世でも同じように殺しの限りを尽くせる程度には、戦場で活躍することだ」
俺はそれだけ釘を刺して置く。
「さて、堅苦しい話はここまでにしようか。
この世界は大体が人間なので間違って味方を攻撃することもあるまい。
では、皆の衆!! 存分に、邪悪の限りを尽くすのだ」
彼らは俺の切り替えの早さに若干戸惑ったが、すぐにでも欲望を滾らせて事前に通達していた攻撃目標へと殺到する。
彼らは楽々と攻撃目標の村を制圧した。
その後は、彼らの“お楽しみ”の時間である。
「げひゃ、げひゃ、げひゃ!!」
抵抗できない女子供の両手両足を順番に踏みつぶして、うめき声を上げる彼女らを笑いながら殺すサイクロプスが目に入る。
「俺とゲームしようや、今からお前たちを逃がしてやる。
俺が100数えたら追いかけるから、それで逃げきれたら見逃してやる」
先ほどの人狼が村の男たちを集めて、楽しそうにゲームのルールを告げている。
「ぐちゃぐちゃ、あははは!! べちゃってなった!!」
上空数百メートルから人間を落として遊んでいるハーピーが無邪気な声を上げている。
「てめぇ笑ったよな、俺を見てゴブリンだと馬鹿にしたよなぁ!!
どうだ雑魚だと確信した奴に嬲られてる気分はよぉ!!」
冒険者らしき女性が首を絞められながらゴブリンに凌辱の限りを尽くされている。
「おーい、こっちに妊婦がいるぞ」
「あ、ずりぃな」
「ははは、俺の獲物だぜ」
鬼達が妊婦から胎児を生きたまま引きずり出して喰らっている。
「あ、将軍じゃないすか。
将軍もエルフ種なんですから弓の腕を見せてくださいよ」
見目麗しいエルフの弓兵たちが村人をハリネズミのように矢の的にしてオモチャにしている。
この有様を見れば、俺が初戦にてわざわざこいつらの戦いぶりを視察にきた理由も分かろうものだろう。
彼らが正真正銘の人間だったとしても、魔の軍勢であると称されるであろう悪逆非道ぶりであった。
「生憎と、俺は弓の腕がからっきしでな」
「はー、そんなんで同族にモテるんすか?」
俺は彼女の横を過ぎ去って、他の連中を見回って行く。
少々遊びが過ぎるが、こいつらが戦力としては使い物になることは分かった。
俺が命令して村にたどり着くまでの短時間で、こいつらは制圧まで終えていたのだから。
流石は数多の世界から選りすぐられたクズどもだった。
並大抵のクズでは地獄に墜とされるが、流石は地獄でさえ受け取り拒否されたクズの中のクズ達である。
自分たちがどう思われようかなんて、まるで気にしてさえいない。
「まったく、この連中を処分するより有効活用しようとする御方たちの気が知れない」
俺は溜息を吐きつつ、懐中時計で時刻を確認する。
「“戦闘行為”は規定時刻までに終わらせ、次の攻撃目標の攻略に移れ」
俺はそれだけ命令を下すと、魔王城へと帰還することにした。
「…………」
と、まあこんな連中だから、壊滅したという報告が来ても全く心が痛まなかった。
「リーパー隊の穴埋めは増援部隊を申請しておくか」
そして連中程度、幾らでも補充が利く。
御二柱が管理する世界は、千や二千程度では無いのだから。
常に侵略する相手の全力と同等の数をぶつけ続ける。
そうやって息切れした相手を殺し尽くす。
死に絶えたくなければ、自分たちの価値を死力で示すしかない。
それが邪悪の女神の一握りの慈悲なのだ。
俺は追加の増援を申請すべく、書類を魔王城内にある部署へと運ぶ。
書類運びくらい部下に任せても良いが、俺は確認しなければならないことがあるのだ。
「魔造将殿に取次願いたい」
俺は担当部署にて働いている人型ゴーレムに告げた。
「ご用件は何でしょうか?」
「機密性の高い案件である為、この場では申し伝えられない」
「かしこまりました。では奥へとどうぞ」
俺はスタンプで押したように同じ顔のゴーレム人形が業務を遂行している脇を通り抜け、彼女らの責任者の元へと向かった。
「魔人将殿、それで機密性の高い用件とは何でしょうか」
かくして、奥の部屋で俺を待ち受けていたのもゴーレムと同じ顔をした女性だった。
これぐらいで驚いていては文明の女神の管理する世界では生きていけない。
彼女こそ、魔造将。文明の女神の化身にして現身であるホムンクルスだ。かの女神の管理世界では、この顔を見れば一発で役人と分かるようになっている。
「■■■■■様にお話ししたき儀がございます」
「分かりました。本体へと繋ぎます」
彼女は事務的な言葉で俺に答えると、目を閉じた。
「……何かしら、我らが眷属アーランドよ」
そして恐れ多いことに、極めて簡単に我が目の前に至高なる文明の女神が降霊なされた。
かの女神も、その使徒たる役人たちと同じ顔をしていると言う。
いや、容姿や体重までもが魔術的に同一であり、無数に同一個体として一つの法則と化している。
彼女ら全てが女神の化身であり、女神と魔術的に同一の存在なのである。
それこそ文明という呼び名より、管理外世界の神々の間では“無限”の女神として悪名が通っているほどだと言う。
だから至高なる文明の女神メアリースは、非常にフットワークが軽い。
近所の役所で他愛もない相談にも乗ってくれるくらいである。
「わざわざ貴女様に申し伝える我が身の愚かさをお許しください。
私の経歴はご存じのとおりであると存じますが」
「当然よ、私は全てを把握している。
あの忌々しい
「はい……」
メアリース様とアンズ様の確執はそれはもう有名で、アンズ様がちょっかいを出したら全世界でニュースになる。
そして、今朝の新聞によると両者の諍いで資源世界が一つ爆散したらしい。
「今更私が申しあげるのもどうかと思いますが、貴女様はかの天秤の女神の影響を排除なさらないので?」
「あれの運命操作は私の管轄外だから」
「ああ、左様で」
この御方に管轄外、と口に出されれば融通が利かないことは常識である。
「それをいいことに、好き勝手されている自覚はあるけどね」
端正な顔立ちを歪めて、女神様は不愉快を示す。
「あちらが女神としての領分を超えない限り、必要な経費よ。
私としても、ボードゲームで妨害マスが無いのはゲームの単調性を招くから」
我らの生活をボードゲーム呼ばわりされては顔も顰めたくなるが、この御方は大体がこんな調子である。
「それにアレにやり返しでもして、アレの伴侶を刺激したくない」
「■■■様の伴侶ですか?」
それは俺も初耳だった。あの
「そう、神と言う枠組みを超えた三柱の中でも主権を有するあの方。
あの方が人間だった頃から、その異名は暴君として知られていたから」
「暴君……考えたくはありませんね」
「今は腑抜けになったけどね。信者も一人も居ないし。
まあそれも神としての正しい在り方なのかもしれないけど」
万能にして無限を体現するこの御方にして、決して敵対したくない相手と言うのがその暴君であるらしい。
そんなのが伴侶であるとすれば、それはもう好き勝手できるだろう。
なにせ、この傍若無人で傲岸不遜のトラブルメーカーで通っているこの御方にさえ恐れられているのだから。
「であれば、我が既知の出来事については」
「好きにすればいい。それくらいの融通が利かないほど、世界は脆くは無いわ」
何なら試してみればいいわ、と挑発的な笑みさえ浮かべられた。
「分かりました。全ては貴女様の御心のままに」
「貴方も、楽しみなさい。それが文明を謳歌するということよ」
俺が頭を下げるとそのようなお言葉を下さり、急速にかの御方の気配が遠ざかっていく。
「ハーイ!!」
そして顔を上げると、事務机の上に天秤と神賽を持つ女神が座っていた。
「……お久しぶりですね、■■■様」
「おや、恨み言の一つでも言われると思ったのですけど、普通に未だ敬意を向けてくれるんですね」
ちょっと意外そうに、前世ぶりの再会をしたアンズ様はそう言った。
俺は魔造将殿を見やる。
氷のように動かない。時間が止まっている。
「貴女様を軽んじるとどうなるか、今まさにかの御方にご教授戴いたところですから」
「私はあんまり堅苦しいのは嫌いですけどねー」
手のひらのダイスを弄びながら、気まぐれな女神はそう語る。
「それで、今更私に何の用ですか」
「それは勿論、私の試練の続きですよ。
まさか転生したぐらいで、私の影響から逃れられるとでも?」
その言葉は、まさに暴君の伴侶に相応しい言い方だった。
「勘弁していただきたい。今の私の仕事は、この世界を滅ぼすことですよ」
「そうそう、どうせ最終的に全部滅ぼすんだから、結局あなたの立場は居ても居なくても良いままで変わらないんですよね」
無邪気に棘のあることを仰るアンズ様。
俺はその切れ味の良い言葉に二の句が継げなかった。
「あなたの仕事は、リューちゃんたちの業務の一環。
私にそれを口出す権利はありません」
それが、かの御方の言うところの女神としての領分であるらしかった。
「まあ、それはそれ、これはこれ」
彼女は見えない箱を右から左へと置く仕草を見せた。
「あなただって本当は、この世界に滅んでほしくないんでしょう?」
「……」
図星だった。
「あなたは人間の心を維持したまま亜人種へと転生した。
そして、この世界に派遣された。そうでなければ罰になりませんからね」
これがかの邪悪の女神の悪趣味なところであった。
相手に精神的な苦痛を味わわせることを彼女は好む傾向にあるのだ。
「貴女も、あのクソ女神の相手は大変でしょう?」
ぽんぽん、とアンズ様はかの御方の化身の頭を叩く。
俺は時間が止まって動かない魔造将殿の眼球だけがギョロリと彼女を睨んでいるのを見てしまった。
「まあ、至高なるかの御方は御方で良いところはありますから……」
俺はなるべく本心を言いながら、精一杯のフォローをする。
「えーと、どれどれ。
『本誌の調査によると、今年の偉大なる女神リェーサセッタ様の支持率は83%を記録した。
至高なるメアリース様の支持率がかの御方と比べて二割切るのは実に167期振りであり──』……ぷぷッ」
「止めて差し上げてください」
あの御方はそれをずっと気にしているんだから!!
「やーい、不人気~♪ 万年不人気~♪
ザーコ、ザコザコ、支持率ザーコ♪ やーい敗北者~♪」
そしてこの女神は睨まれているのを分かったうえで煽っている。
今しがた読み上げた新聞をひらひらと手で振っている。
「まあ真面目な話、あなたとこっちの世界のあなたは同じ魂を有するだけの別人。
決して同一人物と判断することはできません。
これが存在の同一性を利用して無限性を獲得したのと真逆でね」
アンズ様は魔造将殿に肘を乗せて頬杖を突きながらそう言った。
「あなたが何をしたところで、こっちのあなたに影響は出ませんよ。
言いませんでしたか? 『過去の改変を前提に世界は進む』と」
「それでは、全部後出しじゃんけんではありませんか」
「『そのルールを決めたのは私じゃないので』」
つまりは管轄外、と言うことだ。それは『神にとってどうしようもない』、と言うことを意味することを俺は重々承知である。
「そう言うわけで、女神チャレンジの続きをレッツゴーです!!」
「やらない、なんて選択肢は無いですか」
「当然でしょう。残り二人のどちらでもいいので、何を私に願い、どのように裁定するか考えておいてください。
これは私のワガママだけではなく、私を怒らせた連中にしかるべき報いを与える為です」
その結果として世界が救われるかもしれない。ただそれだけのことだった。
「……わかりました」
「それに、今のあなたの立場でないと見えてこない物もあるでしょう」
「それはどういう意味ですか?」
「うふふ、何でしょうねぇ?」
アンズ様は小首を可愛らしく傾げて、初めから居なかったかのように消え失せた。
「はぁ、魔造将殿、周辺の地形の詳細を見せて貰ってよろしいか」
「どうぞ。あと、増援は問題なく受理しました」
俺は彼女のその言葉を受けて部屋を出る。
ゴーレム人形から詳細な地図を受け取り、指令室にて地図を広げる。
「一番近い国は、聖光法国か」
そこは光の神を崇める宗教国家だ。
奇しくも、あの四人の内一人である聖女クリスティーンが在籍する国家であった。
とりあえず、細かいプロットは詰めてないですが、三章の触りだけ投稿しました。
今生の主人公がどういう出自なのかとかは、後々描写する予定です。
でも三章は聖女編と言いつつも、魔王軍が中心に話が進むことになるでしょう。
ちなみに、今回もアンケートを実施します。
ズバリ、今回登場しなかったあの子の種族!!
締め切りは十分票が集まったらと判断した時にしますね。
それではまた、次回!!
主人公の副官、あの子の種族は何がいい?
-
ダークエルフ
-
鬼女
-
サキュバス
-
獣人(ウサギ系)