『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

18 / 36
 命題『聖女クリスティーンは聖女であることを証明せよ』



第六階層

 

 

 俺は指令室から出ると、壊滅したリーパー隊の生き残りの元へと赴いた。

 

「生き残りはこれだけか」

 既に魔造将旗下の救護部隊によって治療を受けていた彼らを見渡し、俺はそう呟いた。

 百名は優に超えていた彼らは、三十ほどに数を減らしていた。

 戦略的に壊滅と称しても十分な被害だろう。

 

「リリウム、被害状況を報告しろ」

「はいはーい」

 俺は先にここに遣わせておいた副官に明確な被害状況を尋ねた。

 

「リーパー隊所属の108名の内、生き残りは32名だよ」

「そうか、既に増援は要請済みだ。

 お前はそれと合流して部隊の再編成に努めろ」

「はーい、りょーかーい!!」

 と、元気よく俺に返事しながら彼女は俺にしだれ掛かってくる。

 

「仕事中だ。離れろ」

「別にいいじゃん。どうせ大した仕事は無いんだし」

「偉大なるかの御方に課された任務だぞ」

「適当に相手に味方をぶつけるだけじゃない」

 リリウムは熱っぽい視線を向けてくる。

 彼女の体臭から放たれる甘い香りが情欲を誘ってくる。

 

 リリウムは俺の副官にして、サキュバス族の王族に産まれたかつてのレナスティ姫だった。

 王族と言ってもサキュバス族は生殖活動が活発なので、序列は千番以降という末端の末席に過ぎないが。

 彼女は異種族に転生しても、お姫様に成りたいと言う願いに縛られている。

 

「それでも、だ」

 俺は変わり果てた彼女を押しのけて念を押す。

 彼女の末路に思うところもあるし、剣を捨てたことを残念にも思っている。

 だからと言って、彼女の感情をやすやすと受け入れるわけにはいかなかった。

 

「攻略に失敗した都市の詳細な情報を教えてくれ」

「はーい」

 リリウムは俺の言葉に、頭上の花びらを弄りながら頷いた。

 

 ちなみに、彼女の種族はサキュバスだが、人間にも人種があるように、サキュバスにも人種がある。

 悪魔としての性質が強い種や、人間と大差ない種、そして彼女のようにドリアードのような植物の性質が強い種族も居る。

 彼女の頭上に髪飾りのように咲いている白い百合の花は、彼女の体の一部なのだ。

 

「……なるほど、わかった。

 適度に消耗を繰り返させた後、次の進路を定めるとしようか」

 俺はこのまま波状攻撃で彼らが壊滅した都市を落とせると踏んだ。そしてそのように命令を下す。

 これが俺の仕事だ。リリウムの言ったように、大した仕事ではない。

 彼女がやる気を出せないのも当然と言うものだ。……かつての自分の故郷を攻めていると言うのに、どうでも良さそうだった。

 

「ちょっと将軍閣下に具申申し上げる」

 俺が彼女の態度に感傷を抱いていると、負傷者のリーパー隊の中から手を上げて俺に話しかける者がいた。

 

「なんだ、言ってみろ」

 俺は彼に発言を許した。

 二足歩行の犬のような種族、コボルトの男だった。

 

「将軍閣下は、ゲームセンターに行ったことはありますか?」

「下らない雑談なら後にしろ」

「真面目な話ですよ。教えてください」

 俺は彼の妙な威圧感に思わず、いいや、と答えてしまった。

 

「では格闘ゲームのアーケード版とかご存じではない? 

 あれって相手に負けると、コインを入れてコンテニュー出来るんですよ。

 俺なんてついつい熱中しちまって、気づけば沢山コインを使っちまうんですわ」

「……何が言いたい?」

「おや、お分かりになりません? 

 最終的に勝てるからと言って、無意味にコインを投入するのは馬鹿馬鹿しいと言ってるんですよ」

 そのコボルトは、俺に対して笑みを浮かべているがその下にある侮蔑の感情を隠そうともしていなかった。

 

「貴様ッ、不敬よ」

 俺を遠回しに侮辱した彼を、リリウムが殺意を向けた。

 

「へぇ、不敬ねぇ。将軍閣下は至高なるかの女神様の恩寵の元で生れ育っておいでなのに、出来て当たり前のことをなさらないって相手に敬意を向けろって言うのがおかしいのでは? 

 女神様に頂いた知恵を無駄にする方が、よっぽど不敬ってもんじゃありませんか?」

 俺は怒るリリウムの前に出て、彼の前に出た。

 

「では、お前なら先ほど攻略に失敗した都市を攻略できると?」

「あの程度の都市、ここにいる面子だけでも十分でしょう?」

 コボルトは自信満々に俺より有能であることを豪語する。

 

「そこまで言うのなら、お前のステータスを開示しろ。

 お前の能力次第では、お前に次の攻略作戦の全権をやってもいい」

「どうぞ、やってください」

 確認を取って、俺は彼にステータスを表示する魔法を行使した。

 

 余り慣れないのだが、世界によってはこのステータス画面とやらは身分証明にも使われる重要な要素であるらしい。

 特に“レベル制”を取っている世界は、鍛錬によって上昇するレベルによって上下するステータスやスキル習得が何よりも重要視されるらしい。

 それによると、この俺のかつての故郷であるこの世界は“スキル制”と分類されるらしいが。

 

 ここで問題になるのは、このステータス画面とやらは当人の個人情報を非常に赤裸々に網羅していることだった。

 表示画面によっては性交渉の回数まで表記されているほどだ。

 これを勝手に盗み見ることはプライバシーの侵害に当たり、裁判沙汰になる。

 

 俺は彼の技能画面だけを確認し、思わず唸った。

 

 “ 指揮官適性:S-”

 

 そう記載されていたのだ。

 ちなみに俺の指揮官適性はC。一般的にどの技能もB判定もあれば十分に仕事を任せられる才覚の持ち主とされる。

 マイナスがついているのは気になるが、S判定はかなりの名将の素質であると言える。その素質を開花できるかどうかは別だが。

 そして適性が低くてもしっかりと仕事をしている者を俺は何人も知っている。

 

「……お前、いったい何をしてこの部隊に来たんだ?」

「将軍閣下は部下の経歴や能力、人格を詳しく把握せずに傘下に置いておられるので?」

 彼のその言葉は、揶揄と言うより不思議な物を見るような物言いだった。

 

「リリウム、彼の資料を」

「はい」

 彼女は手元の部隊員名簿から彼の経歴書を取って俺に渡した。

 そして、その内容を見て俺は目を疑う。

 

 彼の犯罪経歴は、戦争犯罪、大量殺戮、最終的な殺傷人数四桁という常軌を逸したモノだった。

 何よりも恐ろしいのが、彼の前世とは俺と同じ人間と言うことであった。

 

 彼の前世は、この世界と同じように女神の神託を受けた魔王によって滅ぼされた。

 しかし、彼とその部下は最後の最後まで抵抗し、最後の一人になるまで魔王軍と戦い続けた。

 

 この男は、名も無き英雄だった。

 

 尤も、英雄の末期は惨めなものと決まっている。

 彼は過酷すぎる戦いを忘れられず、今生でも傭兵稼業で殺しの限りを尽くした。

 それこそ、負けない為なら*1どんな手段も躊躇わないほどだった。

 

「惨めでしょう? 

 今生が犬畜生の俺に相応しい来歴だ」

 俺と一緒に資料を見ていたリリウムが目を見開いているのを見て、彼は苦笑を浮かべる。

 

「……いいだろう、次回の攻撃はお前に全て任せる。

 リーパー隊の手勢のみで、あの町を攻略せしめよ」

「ははぁ、将軍閣下の御心のままに」

 俺の下知に、コボルトは慇懃に一礼を返した。

 

 

 そして彼は、味方に一人の犠牲も無く町を陥落させた。

 

 その手法は、単純にして残虐だった。

 

「お前たちは観客だ。これから行われるショーを宣伝してくれれば、生きてこの場から逃がしてやる」

 彼は行商人などを襲って、これを捕縛した。

 そして、リーパー隊は彼らを連れて町の前に陣取り、弓などの射程外から捕縛した内の一人を見せつけるように惨殺した。

 

 城壁に守られた町に、彼らからリリースされた行商人たちが逃げ込んだが、これも彼の計算の内だった。

 彼らには、リーパー隊からメッセージを町の人々に伝える役目があった。

 

『これより毎夜ごとに、町の人間を連れ去る。

 一日ごとに一人づつ数を増やし、その最期を知らしめたあと御返し致す。

 これを止めたくば、町の門全てを解放し我々に降伏せよ』

 

 そして彼らは、それを実行した。

 初日は、子供が門前にて切り刻まれて放置されていた。

 二日目には親子が雑巾のように捩じ切られ、ハーピーとサイクロプスによって町の中へ投げ返された。

 

 三日目になると、町の危機を知らせようと幾人もの伝令が走ったが、その全てをリーパー隊は処理した。

 

 四日目には冒険者や兵士が打って出てきたが、彼らを待ち受けていたのは他の村々で捕まえて来た大勢の捕虜だった。

 それらが彼らに助けを求め、混乱した時に“仕込み”が発動する。

 捕虜たちには、人体を魔獣に変異させる秘薬が投与されており、町の戦力は彼らの腹の中に納まった。

 

 五日目には、町中に侵入し食料や水源などを破壊。

 そのついでとばかりに、町の精神的支柱である教会の中で司祭たちの人間の物とは思えない惨殺死体を作って逃げ帰る。

 

 町を恐怖のどん底に陥れたところで、リーパー隊を率いるコボルトは宣言する。

 降伏するならこれ以上町の人間に危害は加えない、と。

 

 

 意外なことに、彼は俺が要請しておいた増援と共に占領した後、降伏した町に住人に危害を加えなかった。

 それ以上に意外なのは、リーパー隊の面々が彼に従ったことだろう。

 俺は正直、あの根っからの殺人鬼連中が彼に従うとは思えなかったのだが、そう思うのは俺に求心力が無いからであろう。

 

「隊長、こんなことってないよな……」

 俺が占領した町に入って彼を労いに向かうと、彼は既に同僚たちから隊長と認められていた。

 

「見てくれよ、こいつら。まるで野蛮人じゃないか」

「そうだな」

 コボルトの彼とリーパー隊のゴブリンが冒険者ギルドで町の残存戦力について調査しているようなのだが。

 二人はこの世界のゴブリンのスケッチを冒険者に描かせていたらしかった。

 

「俺は今でこそこの部隊でボロみたいな恰好で戦ってるが、こうなる前はスーツを着て会社勤めだったんだぜ? 

 なのにこの差は何なんだ。この世界の同族たちは、ぎゃっぎゃって鳴くぐらいしか出来ない害獣扱いらしいじゃないか!!」

 リーパー隊のゴブリンは心の底から悲しんで涙を流していた。

 こんなことを言っているが、こいつは強姦殺人の常習犯である。

 

「俺たちのご先祖様は、それはもうこの世界の連中と大差なかったらしい。

 だが今の俺たちは、女神様の元で知恵を授かり、寿命も大幅に延びて無駄に数を増やす必要もなくなった!! 

 体も大きくなって、人間種の一員として女神様の名の下に認められたのに!!」

 なお、このゴブリンはその恩恵を与っていながら重犯罪に走っている。

 殺人鬼と言うのは外面がまともに見えると言うのは本当なのかもしれなかった。

 

「分かるよ、悲しいよな。だからこそ、この世界を滅ぼして彼らも救ってやるのだ。

 俺もその為に力を尽くそう」

「ううう、隊長。俺、頑張るよ。

 この世界の同胞の地位向上の為に、至高なる女神様の名の下にこの世界を滅ぼしてやるんだ」

 二人は肩を組み合って、苦しみを分かち合っていた。

 

「おや、将軍閣下。こんなところにご足労いただき……」

「挨拶はいい、此度の働き、大儀であった」

 俺の労いに、彼は頭を下げるばかりであった。

 

「町の住人は殺してはいないようだが?」

「それは前例を作る為ですよ」

 俺の疑問に、彼は当然のように答えた。

 

「これから、町をまた攻めることもあるでしょう。

 その際に、この町は降伏したから自分たちもそうすれば助かると思わせることができる。

 この町の住人を使って、別の町へと逃げて来たって口実で内部工作だってできる」

 つらつらと彼の口から策略が溢れるように語られる。

 これではっきりしたが、このコボルトは俺などよりずっと将器がある。

 作戦を決行できる判断力や実行力だけでなく、部下に対するカリスマ、そして何より非道な作戦を躊躇わず実行できる冷徹さと戦略眼。

 俺はこの人材を一兵員として使い潰すのは躊躇われた。

 

「お前、名前は?」

「はい。管理番号は──」

「違うぞ、俺はお前の名前を聞いているんだ」

 俺の言葉に、彼は目を見開いて驚いた後、もう一度頭を下げた。

 彼の今世は住人を数字で管理する世界に在籍していたのだから、俺の問いは驚いたことだろう。

 

「前世では恐れ多くも部隊章がリンゴだったもので、“林檎男(アップルマン)”と」

「リンゴか。至高なる御方の象徴の一つだな」

 リンゴに絡みつく尾を噛むヘビが、メアリース様の紋章なのだ。

 

「では、リーパー隊の黒百合の紋章に林檎の花を書き加えて新たな部隊章とし、正式にお前を隊長として任命する。

 その働きを以って、かの御方たちへの恩寵の報いとせよ」

「その任、謹んで請け負わせて頂きます」

 俺は彼に背を向けると、町の責任者を呼ぶように命じて、町の外に待機してある本陣へと戻った。

 

「ねえアーランド。あなたは不思議に思わなかったの?」

 俺が本陣に戻ると、リリウムが頭の花弁をいじくりながら退屈そうに言ってきた。

 

「何がだ?」

「魔王軍の戦略って、正直雑じゃない? 

 でも、私たちの前世が戦った魔王軍ってものすごく近代的な戦術を駆使してたわよね?」

「言われてみれば……」

 俺は記憶の奥底にしまってある前世の記憶を呼び起こした。

 確かに、魔王軍は空挺部隊や兵員輸送などの概念がこの世界の文化レベルとは一線を画していた。

 

「多分、それあのコボルトの所為だと思うわよ」

「……」

 リリウムの指摘に、俺は押し黙った。

 巡り巡って、その指示を出した俺の所為と言うことでもある。

 

「いったいどこまでが、私たちに課された罰なんでしょね?」

 俺は彼女に何も言うことはできなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 最初のあの町を占領したという結果は、魔物の活発化という事象から魔王軍の存在へと認知された。

 

 俺はかつての自分が何をしているかや、年号などを把握して正確に時期を把握すると俺は次の行動に移った。

 そして俺は愕然とした。

 

「『聖女クリスティーンが存在しない』、だと?」

「はい、占領した三つの都市全てから調査した結果、聖女の称号を持つ聖職者は現在存在しないことが判明しました」

 俺は魔造将殿の言葉に耳を疑った。

 彼女は占領した町の管理を受け持っている。

『女神の使徒たる彼女の言葉に間違いは無い』のだ。

 

「それと、クリスティーンと言う名前はこの世界ではかなりポピュラーで、類似を含めてあの三つの都市だけで74名存在します。

 年齢層を二十代前後に絞ると、26名ほどになりますね」

「……」

 俺は混乱のあまり、頭の中の整理が付かなかった。

 

「……何か問題でもありましたか?」

「いや、気にしないでくれ。俺の用事に手間取らせて申し訳ない」

「仕事ですから」

 彼女は事務的にそう返した。

 

「占領した町での抵抗はどうだ?」

「一般人の多くは改宗し従属を誓っています。

 もう既に、こちらと同等の教育も始めています」

 そうか、と俺は頷いた。

 

 最終的に全部この世界を滅ぼす予定だから、別にその過程で捕虜を取らないわけでもないし町を破壊しつくすと言うわけでもない。

 我らの御二柱に従属と忠誠を誓うのなら、生きたまま別の世界で生きることも許されるのだ。

 そう、誰もが死に耐えれるわけではないのだから。

 

「教会に立てこもっている神官たちも居ると聞くが?」

「信仰もまた文化、文明の女神たる我が主は恭順を示せばそれすらも許すでしょう。

 その為に住人たちに説得をさせています」

 そこがメアリース様の寛容なところだ。

 敵対者には一切合切容赦しないが、恭順を示せば信仰の保護すらもする。

 ……まあ、メアリース様のその美点が生かされることはあまりないそうだが。

 

 では最初に世界全体に降伏勧告でもすればいいと思うだろうが、如何に文化の違いが隔絶していても人は簡単には頷けない。

 そもそも、この侵攻はリェーサセッタ様の管轄だ。

 メアリース様は物資や人員、後方支援などで手助けをしているに過ぎない。

 

 まあそれに、言いたくは無いがメアリース様が交渉事で成功したと言うニュースは聞いたことが無い。

 交渉のテーブルについた神々を悉く激怒させるその姿は芸術的でさえあるらしい。

 ……あの御方は盟友たるリェーサセッタ様以外のあらゆる神々から嫌われているらしいからなぁ。

 

 メアリース様が交渉事で相手を怒らせる確率は100%、全面戦争になって相手ごと滅ぼす確率は150%だなんて、なんかのスラングになってた覚えがある。

 偉大な女神であることは間違いないはずなのだが……。

 

 

 

 そして、まあ結局、聖光法国を攻め落としてかつての故郷ヒルデン王国に攻め込んでも聖女の姿は影も形も現れなかった。

 

「あの女の事なんて、別にいいじゃない」

 俺がそのことを気にしていると、リリウムが俺の腕に自身の体を絡めながらそう言った。

 彼女は自分のサキュバスとしての性質を毛嫌いしているゆえに普段は厚着をしているが、種族柄その体つきは厚着程度ではむしろ情欲を誘うスパイスにしか見えないだろう。

 

「リリウム、お前はかつての仲間について何か知っているのだろう?」

「はわぁ~~、どうでもいいじゃん、そんなこと」

 俺の問いに、リリウムは欠伸をしながら答えた。

 

「どうせこれから全部、全部なくなっちゃうんだし」

 リリウムは唇の片方を釣り上げて、引きつるように笑っていた。

 その表情に、俺は彼女の胸中も複雑なものがあるのを感じ取った。

 

「私に全部の責任を押し付ける世界なんて、御二柱によって滅ぼされてしまえばいい」

「リリウム……」

「ねえ、そんなにあの酷い女神様の試練が大事? 

 もう私たちには関係の無いことでしょう? 

 このつまらない仕事を終えたら、一緒に裕福な世界に移り住んで一緒にパン屋でもやって暮らしましょうよ」

 彼女は俺にすがるように、訴えてくる。

 

「だが、あの天秤の女神様は転生した程度で自分から逃れられると思うなと仰った。

 これはお前の為でもあるんだぞ、リリウム」

「そんなの知らない!! 

 あなたは私だけを見てればいいのに!! 

 どうしてそんなこと言うの!?」

 彼女がこのように俺に固執するのは、おそらく望郷の念が未だ彼女にあるからだ。

 

 新しい立場、新しい地位、新しい豊かな生活。

 その全て、彼女がかつて欲したモノ全てを得てなお彼女は満たされない。

 それがまるで、かのアンズ様の呪いのように。

 

「それに、ステラはどうする? 

 彼女は最後までお前を心配していた友人だったのだろう?」

「はッ」

 その時初めて、リリウムは嘲笑を浮かべた。

 

「あなたは覚えていないんでしょうね!! 

 かつての私たちがあの女神に願う以前、私はあの孤児院に居た頃にあなたと一緒に過ごしたことを!! 

 短い間だったけど、一緒にチャンバラとかして遊んだわよね!! 

 あなた、男のくせに私に打ちのめされて泣いてたっけ?」

「…………」

 まったく覚えていなかったが、思い出したくも無い記憶だった。

 

「そんなに弱っちいくせに、冒険者になるからって孤児院を一人出ていくんだもの!! 

 私は心配したのよ、ずっと、ずっと!! 

 だからパン屋に引き取られた後、その生活が嫌になった後にあなたを探して冒険者になったのよ!!」

「……なんだって?」

 それは、初耳だった。

 

「くすくす、私その後で知ったの。

『あなたの冒険者タグを持ち帰ったパーティが居た』ってギルドの受付が言っていたわ」

「……──ッ」

 俺は言葉が出なかった。

 つまり、前世の俺は……。

 

「『私たちが願わなければ、あなたはどこかで魔物の餌になって死んで終わってたッ!!』」

 

 そう、だったのか……。

 そのこと自体に、不思議は無かった。疑問も抱かなかった。

 所詮三流冒険者なんて、その程度の存在だ。

 

「今度は、私がそうならないように守ってあげる!! 

 もう姫様なんて立場もいらないし、私を必要とする者も居ない!! 

 どうせ願うなら、最初からあの御二方にしておけば良かった!!」

 リリウムはこの世の全てを皮肉るように自虐的に笑っていた。

 その笑い声も、次第に消えていく。

 

「……だからお願い、あなたは私を必要として」

 ぎゅっ、と俺の服の袖をつかんで、彼女は小さく俺に懇願した。

 

 ……俺は黙って彼女を抱きしめた。

 そうでもしなければ、俺はこの残酷な女神の罰を耐えることが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 数年の戦いを経て、滅亡の時は訪れる。

 

「ここが水際だ!! 魔王軍をここで押しとどめるぞ!!」

我がかつての故郷にて、最後の抵抗をする部隊が俺の陣頭指揮を執る部隊の前に現れた。

 

「ソフィア殿……」

……そうか、俺は彼女も殺す羽目になるのか。

そう言えばいつか彼女は言っていたではないか。自分は魔人将と戦ったと。

 

「ひ、めさま……」

俺はなるべく苦痛を与えないように、一撃で彼女を斬り殺した。

これにて、この周辺の制圧は完了した。

 

 他の将たちも、ヒルデン王国を呑み込まんと破竹の勢いで戦いを進めている。

 その過程で、父上も……ギルバード卿も戦死したと言う。

 

 俺がその手に掛けなかったことを残念に思うべきか、喜ぶべきなのかは分からなかった。

 ただ、いつか父を超えるべきだとは思っていた。

 それがこんな機会で、このような形になろうとは思わなかったが。

 

 この世界の主だった戦力を壊滅させ、リェーサセッタ様がもうこの世界に抵抗する勢力は無いと判断したその時。

 

 ──魔王様が、真の姿を以って、この世界を破壊し尽くした。

 

 

 俺はあと五度、これを繰り返さなければならない。

 この戦いの記憶を持って行けるのは、魔王様含めて極少数だ。

 

 俺はこの胸に抱いた疑問を抱えながら、次の並行世界を滅ぼすべく逆行する。

 

 ──即ち、聖女クリスティーンはいったいどこに消えたのか、と。

 

 きぃぃ、と天秤がどこかで傾くような音が聞こえた気がした。

 

 

 

*1
それは決して勝つ為とイコールではない。




皆さん、わかりやすいなぁ。
正直、アンケートでサキュバスを入れた時点でみんなこれを選ぶだろうな、とは思いました。
ちなみに、アンケートの選択肢で変わったのは主人公との関係性と彼への感情で。

ダークエルフ:幼馴染(歪んだ独占欲
鬼女:好敵手(ヤンデレ
サキュバス:恋心(病み依存
獣人(ウサギ系):隷属(共依存
と、なっておりました。どれも病んでるやんけ!!

ダークエルフの票も多かったですが、個人的な趣味ならバニー系獣人も好きです。

ちなみに、今更ですけど、女神メアリースの名前の元ネタはメアリー・ス―だったりします。
これは気づいた人がいるかもしれませんね。

そして聖女編なのに聖女が登場しないというまさかの初回。
大丈夫、次回からはちゃんと登場しますって!!

それではまた、次回をお楽しみください!!

主人公の副官、あの子の種族は何がいい?

  • ダークエルフ
  • 鬼女
  • サキュバス
  • 獣人(ウサギ系)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。