『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
命題≠『聖女クリスティーンは存在しない』
一度目の終末を目にした俺は、二度目の世界へと魔人将として戻って来た。
「では、各々の将は以前と同じようにこの世界を攻略すると言うことでよろしいですか、魔王様」
一度目の記憶を持ちこせるのは、魔王様と俺たち四人の将のみだ。
ちなみに俺たちの総称は“魔将”である。
その魔将四人が今回の方針についての会議を行い、代表して俺が魔王様の意向を尋ねた。
「うん、ああ、よきに計らえ」
魔王様は退屈そうに玉座に座したまま頷いた。
それを確認すると、俺たちは各々の仕事へと戻った。
会議が終わり、俺が最初にしたことはと言うと。
「リーパー隊諸君、お前たちに伝えたいことが有る」
まずリーパー隊を招集することだった。
こいつらの認識は、この世界で戦うことは初めてのことだ。
俺は見知らぬ上司であり、何を言われるか不安そうにしていた。
「まずは、これを見ろ」
俺はペン状の機械を掲げた。
彼らは釣られるようにそれを見上げた。
その直後、ペン先からフラッシュが発生し、彼らを照らした。
これが何を意味するのか、それは単純だった。
「諸君、おかえり。よく前の世界では最期まで戦い抜いた」
俺の言葉に困惑しつつも、彼らの胸中には納得が生まれていることだろう。
このペン状の装置は彼らの魂に作用し、失われた記憶を蘇らせる効果があるらしいのだ。
俺は使ったことが無いのでそれがどういうものなのかわからないが。
「本来、記憶の持越しは我ら魔将四人と魔王様のみである。
だが、魔王様を始めとした各魔将の方々はお前たちの活躍を評価しておいでだ。
このような格別の配慮を賜ったからには、此度も戦いにて自分たちの価値を示せ」
俺は必要なことを述べると、一人のコボルトに視線を向ける。
「アップルマン」
「はッ、ここに」
「再びお前にはリーパー隊の隊長を任ずる。
更に俺の受け持つ部隊から、三つの隊をお前の指揮下に加える」
「ご過分な期待に沿えるよう、粉骨砕身の限りを尽くさせていただきます」
こいつの場合、本当に骨が粉になり身が砕けても戦いそうだから困るのだ。
「隊長、流石ですね!! また人間どもが苦痛に歪む姿が見れるなんて!!」
「お、俺、いたぶりたかった女の子がいたんだ!!」
「俺も俺も!! あの時のいい具合のガキをまたぐちゃぐちゃにできるとはな!!」
俺は彼らに背を向け、立ち去ることにした。
俺の背後では、アップルマンを慕うリーパー隊の面々が彼を祝福していた。
「ありがとう、俺の無限に続く闘争に付き従ってくれる同胞たちよ!!
地獄の果てにしか居場所のない我が家族たちよ!!
此度の戦争も、邪知暴虐の限りを尽くして蹂躙しようではないか!!」
彼らのいる部屋の扉を閉める。
分厚い扉越しにも、彼らの歓声が聞こえてくる。
俺はこのような滅びに向かう世界だからこそ救われる彼らのことを、もしかしたらどこかで羨んでいるのかもしれなかった。
§§§
「リリウム、居るのか?」
俺は先ほどのリーパー隊の召集の場に居なかったリリウムが気になって彼女に割り当てられた兵舎の一室を訪ねていた。
「……アーランド?」
部屋から顔を出した彼女は、どこか憔悴していた。
「リリウム、どうした。体調が優れないのか?」
「だって当然じゃないの。またあんなものを見たんだから……」
「あんなもの?」
俺は彼女が何を指してそれを言っているのか、まるで分らなかった。
「貴方も見たでしょう?
魔王様が、この世界を滅ぼすあの瞬間を」
それを聞いて、俺は目を見開き驚いた。
「なぜだ、リリウム。
前回の記憶を引き継げるのは魔王様と四人の魔将のみのはずだが!?」
驚くことに、リリウムは前回のあの最期の光景を覚えていたのだ。
「──それはなぜか?
その理由は分かりきってることでしょう?」
その声が聞こえた瞬間、世界から風が止まる。
音が消え、色は失われ、物事の歩みは停滞する。
「当然、私のサービスでーす!!」
天秤の女神アンズライールが現れたからだった。
「貴女も彼から聞いたでしょう?
転生したぐらいで私の影響から逃れられると思っているのか、って」
そう、彼女の仕業だと、分かりきったことだった。
「な、なんで、私はもう、関係無いじゃない!!」
「関係無い? 確かにそうかもしれません。
もうあなたは同じ魂を持った別人ですし」
アンズ様は悲鳴じみた叫びを上げるリリウムに、一定の理解を示した。
「──でも関係無いかどうかを決めるのは、私ですよね?」
無論それは、示しただけ、だった。
「私は赦さない、と決めました」
女神の怒りは全く以って収まってなどいない。
「これから何十回、何百回転生しようとも、あなたは憧れのお姫様のまま!!
ありとあらゆるお姫様の末路を、何度も何度も何度も何度も記憶を持ったまま狂うことなく延々とずっとずっとずーっとずっと、どれだけ嫌になっても続けさせてあげる」
俺はその威圧感に恐怖し、声すら出せなかった。
彼女は笑顔なのに、魂が凍り付くような気分にさせられる。
「ほら、嬉しいでしょう?」
女神の両手が、震えながら涙を流すリリウムの頬に添えられる。
そしてその細い指で口元を左右に引っ張り、彼女を無理やり笑顔にした。
「次はどんなお姫様が良い?
産まれた時から老いて死ぬまでずっと暗い塔で幽閉されるなんてどう?
あなたが絶対に好きにならない男の人の許嫁に産まれるとか良いじゃない?
それとも革命を起こされて拷問に末に処刑されるとかのが良い?」
アンズ様は本当に、これっぽっちも、ほんの僅かでさえ、彼女を赦すつもりはなかった。
「お……」
「ん~?」
「お許し下さい……」
彼女から辛うじて零れた言葉がそれだった。
神ならぬ俺にも、この先の未来が予測できてしまう。
リリウムが何を言おうとも、アンズ様を激怒させる未来しか見えないのだ。
だが、救いの手とは時に予想外のところから差し伸べられることもあるらしい。
「はぁ……」
時が止まったこの世界に、深いため息が聞こえた。
「そのくらいにしておけ、二代目」
二人の足元に、闇が噴き出る。
アンズ様がその場から離れると、両者の間に入るように邪悪の女神が姿を現した。
「なぜですか、リューちゃん。
それは私を怒らせた。信じがたいぐらいの馬鹿さ加減で」
「それについては同情するがな。
だが、そう言うものだろう人間の愚かさとは」
俺は不思議な物を見るように、彼女らを見ていた。
それはまるで、リェーサセッタ様がリリウムを庇ったように見えたからだ。
いや、真実庇ったのだろう。なぜなら──。
「貴女はその馬鹿を庇うのですか?」
「言っただろう、二代目。
もう『この世界は私の管轄だ』、と」
闇に浮かぶ赤い双眸が、天秤の女神を見据える。
「お前がこの私に二人を預けた時点で、この二人は我が権能の下に私に罰せられ、──そして赦される」
恐怖しか抱かないその恐ろしい手が、リリウムの頬を撫で涙を拭った。
「我が権能が及ぶところは、無自覚の行いによって課される罪に対する処罰と救済にもある。
その罪が何であろうと、その罪を誰が決めようと、我が庇護下にある者を罰するのと赦すのは私の仕事だ」
偉大なる邪悪の女神は淡々と不機嫌そうなアンズ様に告げる。
「お前たちの身内同士での取り決めは、お前たちで好きにすればいい。
だが、それ以上は私が許さない。我が権能によって悪は赦され、悪によって傷ついた者は癒される。
それを邪魔することは、我が盟友とて犯し難い禁忌である」
俺はこの邪悪を司る女神が、なぜ無数の世界にて崇拝されているのかを理解させられた。
俺は今、奇跡を見たのだ。
「うーん……でもでも!!」
「以前に、ヒトを救いたいと私を頼ってきたお前が今の己の姿を見ればどう映るか、わからないわけでもあるまい。
それとも、その駄々っ子の如き無様な喚き声を以って、“あの御方”に泣き付き失望でも買うか?」
その言葉が決定打となった。
両手をばたばたさせていたアンズ様は、しゅんと肩を落とした。
「いやだ、あの人には嫌われたくない」
「ならば、いい加減に弁えるがいい。
今のお前は我らが共に嫌う自然神の振る舞いそのもの。
……だが運命を司るお前に、その性質に寄るなと言うのは酷だと思うがな」
「むぅ」
ここに至って完全に、アンズ様は矛を収めていた。
俺もリリウムも、彼女の威圧感から解放されてへたりと床に座り込んでいた。
「わかった、今回はリューちゃんに免じて彼女の件
でも私を怒らせた事実は変わらない。私に願った事実は消えない。
それをよく理解した上で、三人目の裁定を楽しみにしてますね」
それだけを俺たちに告げて、アンズ様はフッと消え去った。
「あ、あ、ありがとうございます……ありがとうございます!!」
リリウムは跪いて、何度もリェーサセッタ様に感謝を捧げていた。
「こんなことを言うのは変であろうが、あまり彼女を嫌ってやらないでくれ。
あれがお前たちを私の下に差し出したのも、振り上げたこぶしの落としどころを見つける為であろう。
これでも仲裁には慣れているからな」
それはそうだろうな、と俺は思った。
メアリース様が交渉相手を激怒させ、リェーサセッタ様がヒートアップする両者を宥めるまでが様式美と化しているのだから。
なお、その努力が実ることは滅多にない模様。
「あれは私が人間だった頃から知っている。
信じられないかもしれないが、あれはどこにでもいる普通の感性を持った心優しい少女だったのだ。
偉業を成し、神域へ至る資格さえ無ければあの虚しい姿を見ずに済んだのだが」
「偉業ですか。ただの普通の少女が」
「ああ偉業だとも。人の身にして魔導を窮め、誰もが平伏するしかない全能の神の如き“暴君”を鎮めることが出来たのは彼女だけだったのだからな」
メアリース様だけでなく、リェーサセッタ様さえ実感を籠った口調で語られる知る者も居ないアンズ様の逸話。
「お前たちは知る由もないだろうが、我が盟友があれを攫って“あの御方”の逆鱗に触れた時はこの世の終わりを悟ったものだ」
それと共に語られる、“暴君”の恐ろしさ。
この世に終わりを齎そうとしているこの方がそれを言うのは皮肉なのだろうか。
「あれの知り合いとして、あれの遊びに付き合ってやっているお前たちのゲームに助言をしてやろう。
どうしても糸口が掴めぬなら、我が神官を頼ることだ」
リェーサセッタ様は俺たちに神託を齎すと、虚空へと霧散し消えてしまった。
§§§
「さて、この魔王軍でかの御方の神官と言えばあの人しかいないが」
幸い、俺には当てがある。
恐らく協力もしてくれるだろう。
「それでリリウム、お前はどうする?」
「……行くしかないじゃない」
流石のリリウムも、アンズ様の
彼女は赤くなった目元を拭うと、立ち上がった。
「でも、私にできることなんて何もないと思うけどね」
「やはり聖女様について、教えてくれないのか?」
「はッ、あいつが聖女様ねぇ」
リリウムはどこか嘲笑うように吐き捨てた。
「私はあいつが何を願ったか知ってるけど、正直『私と大差ないくだらない願い』よ。
でも具体的には、あなたが自分で探すんでしょ?」
どうやら、俺が彼女に聞く限り聖女様の人物像は俺の想像とは大分違いそうだった。
「それもそうか」
仮にこの場で彼女からその願いを聞き出したとして、それですべて解決とはいかない。
それだけでは不十分だからだ。
「ハッキリ言って、『私があいつと協力し出したのは四度目ぐらいから』よ。
それまで活動する国も違ったし、何をしていたかもどんな立場かも知らないわ」
「そう言えば、俺は聖女様について何も知らないな」
俺がうろ覚えなのもあるが、あの四人が各国連合軍の旗印となり、俺がその連合軍に編成されて以降しか聖女様の話を知らないのだ。
ただ、戦場で広域に影響を及ぼす治癒魔法を扱えるとか、そう言う戦力的なことしかわからない。
「とりあえず、せっかくのあの御方のご厚意だ。
あの人に尋ねてみるとするか」
と言うわけで、俺たちは件の神官の下へと向かった。
「私にご用とは、いったい何事でしょうか魔人将殿。
もしや先ほどの会議では話せない内容でしょうか?」
俺が尋ねたのは、魔王城に勤務する四人の魔将の一人。
御二柱の大神官にして、強大な魔法使いたる魔導将殿だった。
「実は──」
俺は彼に包み隠さず事情を説明した。
御二柱の神官は、女神様に認められた者にしか成れない栄誉ある職業だ。
神職は政治には関われないと言う大原則があるが、社会的信用は辺境世界の下手な管理者よりもある。
その中でも大神官は、徳の有る者しか成れない多くの尊敬を受ける地位である。
そんな彼がなぜ魔王軍の魔将として働いているのかは、俺は知らない。
「……なるほど、それはお辛かったでしょうね」
そして彼は俺たちの苦難に同情を示した。
「この世界を救う女神と、我らの御二柱との間で板挟みになるというのは複雑なものがあるでしょう」
「ええ、正直この世界には滅んでほしくないとは思います」
それが職務上許されないことだとしても、俺は懺悔するかのように彼に己の心境を告白していた。
「現実的な話をするなら、この世界に滅ぼすには惜しい文化や観光資源があるのならば偉大なる御方が滅亡を思い止まって下さることもあります」
「それは、ですが……」
「ええ、正直数多の世界を見て来た私の目から見て、この世界に滅亡を躊躇う文化や観光資源があるようには見えませんね」
魔導将殿の言葉に、俺は落胆すらできなかった。
この世界に希少価値なんてものがあるのなら、前回である一度目の時点で考慮されているはずなのだ。
「そしてもう一つ、現地の住人が魔王様に打ち勝ち、その成果を以って彼ら自身の価値を証明すること。
私は魔王軍に従軍すること二十回ほどですが、それを成しえた世界には遭遇できませんでしたね」
「二十回ですか……」
その事実に、俺は戦慄した。
恐らく、彼の従軍にこの世界においての前回は“一回”にカウントされないだろう。
俺たちで言うところの六種類のこの世界を滅ぼして、ようやく彼は“一回”なのだ。
俺は信じられない物を見るような目で、この
「ですがまあ、言いにくいのですが、実のところ“今回”はこの世界の住人にとってチャンスでしょうな」
彼はこほんと咳払いをして、こう続けた。
「なにせ、今回の魔王様は大変お若く未熟であらせられるので……」
「そうなんですか……」
正直俺はあまり魔王様の事はよく知らない。
だが、魔導将殿曰く、あれで若く未熟なのだと言う。
「ええ、魔王としての責務は、今回が初めてとのことです」
「なるほど」
実際、この世界の住人は四度目に魔王に打ち勝った。
薄氷の上の勝利だったが、絶対に不可能と言う試練ではなかったのだ。
「あれで、若くて未熟……」
そして実際に間近で斬り合っただろうリリウムはショックを受けていた。
世界を滅ぼせるだけの力を持ちながら、魔導将殿の評価は低い。
「まあ、魔王様の能力を含めて試練には丁度いい塩梅なのでしょう。
かの御方の慈悲とは言え、個人的にこの遊び心には賛同しかねますな」
得の高い神官である彼でさえ、現地人の苦痛を長引かせることは快く思っていないようだった。
「大神官たる貴方様が、御二柱の方針に反対なのですか?」
「当たり前でしょう。いくらやらなければならないとは言え、どれだけの人間が恐怖と苦痛のまま命を落とすとお思いで?
偉大なるかの御方が慰めてくださるとは言え、その事実は消えないのです。
いったい何の為に人権が存在すると言うのか」
魔導将殿は心底現状を嘆かれていた。
そのことに、俺は驚愕を隠し切れない。
「どうかしましたか?」
「いえ、大神官とあろう御方が、そのように仰るとは」
「私たちは御二柱に全てを与えられて生きています。
その中には、私たちの自由意思さえも存在します。
与えられた範囲とは言え、こればかりは御二柱にも犯し難い最後の自己を証明する領域。
どのような思想や環境を選び、自分の物とするかは自分で決めるのです」
魔導将殿は、確固たる意志を持った人間だった。
これまでの会話だけで、思わず尊敬の念を抱いてしまえる程に。
「あの、じゃあ、質問なんですけど。
あのリーパー隊のようなクズ連中をどうしてさっさと元の世界で処罰しないんですか?」
こんな機会でもないと大神官様に話を伺うことなんて無いだろうからか、リリウムも彼に尋ねた。
「それに関しては、魔造将殿あたりに尋ねれば、かの至高なる御方が直接教授下さるだろうが……あの方は物事をオブラートに包んで話すと言うことをなさらないからな」
御二柱に仕える大神官にもこの言われようであった。
「知っておられるか?
人間には全体で2%ほどの割合で、殺人に対して忌避感を抱かない者が生まれるそうです。
では彼らが仮に殺人を犯し、偶然捜査の手から逃れ、罪悪感を抱かず生きることは赦されないことでしょうか?
ある世界の法律では、殺人事件にも時効が存在し、時効まで罪悪感に苛まれるのは実刑を受けるのと同じくらいの苦しみであるとされていました。
そうなると、罪悪感を抱かない殺人者は罰を受けていないことになりますね」
彼のお話に、俺はリーパー隊の面々の顔を思い浮かべる。
あいつらが今更罪悪感を抱くなんて、微塵も想像できない。
「殺人と言う犯罪は別として、罪悪感を持たないのは悪でしょうか?
罪の意識が無いのは邪悪でしょうか?
一般的に我々の常識と比べて、特異に産まれただけの彼らがそのままで差別されるのは野蛮です。
区別されるべきかもしれませんが、それを望まない者もいる」
それは当然の話かもしれなかった。
そういう区別を受けると住居が移動になり、生活のランクが下がり不便が増えたりもする。
本当の自分を隠して生きることなど、誰でもしていることだ。
「リーパー隊の面々は、犯罪を犯したという一点では擁護するつもりも起こりませんが、殺人に悦楽を感じると言う生来の性根を持って産まれたということだけは同情に値します。
そして彼らに居場所を与え、曲がりなりにも赦しを与えるのも邪悪の女神たるかの御方の権能にして、慈愛であるのです」
それはまさしく、俺たちが先ほど受けたリェーサセッタ様の偉大なる慈悲の心であった。
「さて、かの御方は私がお二人の御力になれると仰ったそうですが、今のところ協力できそうなことはありませんね」
「そうですか」
折角の神託も、今はあまり意味をなさないようだった。
「そう言えば、あなたのところのリーパー隊の隊長殿から協力要請が来ました。
前の世界で活用した戦略を取りたいと、私の方は全然かまいませんよとお伝えください」
「え、ああ、そうですか。分かりました」
とりあえず、言われた通り俺は今の仕事をこなすことにした。
§§§
戦況は進み、魔導将殿率いる魔法部隊は聖光法国の主要都市のひとつを前に敵軍と睨み合っていた。
この時点で魔王軍の脅威は人類に知れ渡り、我らの快進撃に法国も大部隊で迎え撃つ。
この国での決戦が始まろうとしていた。
「──まず初めに、天より一条の雷火がありけり」
魔導将殿の詠唱がにらみ合いを続ける戦場に響き渡る。
「我らヒトは洞窟に隠れ住み、夜の暗闇を恐れ、他の獣に怯える矮小な存在に過ぎなかった」
大軍の目の前で堂々と詠唱をしている彼の邪魔をしようと、敵国の兵団が歩を進める。
無数の矢が降り注ぐが、こちらは魔法によって防壁が展開されており、全てが地に落ちる。
「我ら、天より与えられた雷火を手に取り、夜の暗闇を暴き、獣の脅威を払い、知恵を手にした。
この炎こそ、文明の起こり。この炎こそ、我らへの恩寵!!」
魔導将殿が、彼の旗下である魔法使いたちが、たいまつに火を付け、掲げた。
彼らの足元の魔法陣が、輝き始めた。
「今こそ、我らに与えられし恩寵を運び、文明の光無き人々を照らさんとする!!
さあ、光無き人々よ、獣に怯え、夜の闇と寒さに震える人々よ!!
────今こそ、文明開化の時である!!」
魔導将殿たちがゆっくりと、浮かび上がる。
否、彼らは地面から出て来た“何か”によってせりあがっているのだ。
地面から、魔法陣から現れたそれは、やがて地面から離れて空へと浮かび上がる。
“それ”は、文化を伝えるという巨大な黒い船だった。
伝承曰く、邪悪の女神は人間だった頃に召喚魔術を極め、巨大な龍を召喚し使役したと言う。
故にかの女神を信仰する者は、召喚魔法に関する知識と才能のボーナスを受けられるのだ。
大神官たる魔導将殿ほどにもなると、数百人を輸送できる空飛ぶ船を召喚することぐらい難しくはないのである。
巨大な黒い船は敵軍を悠々と飛び越し、敵の主要都市の真上へと陣取った。
そして、あらかじめ搭載されていたリーパー隊を始めとした俺の部隊たちが町中へと降下していく。
都市は黒い船に威圧され、兵員が侵入されたことで投降した。
それは賢明な判断だったであろう。船には無数の砲台が搭載され、眼下に向けられていたのだから。
このように最小限の被害で、魔導将殿はこの世界最大の宗教国家を陥落させた。
俺が思うに、俺が聖女様の話をあまり知らなかったのは、魔王軍がいつも最初に聖光法国に進軍するからなのでは、と思い至った。
多分次回も最初にこの国に攻めるだろう。
そして一国を落とせば、常にこの世界の全戦力を少し上回り続ける魔王軍にとって残りは消化試合である。
女神様の指示で敢えて残りの国の連合軍の結成を待ったりもするので、最終的にはこの世界を滅ぼすのは数年を要することになる。
その間、この国を拠点として整備する仕事も出てくる。
そこで俺はようやく、待ちに待った存在と出会うことになる。
「魔人将殿、あなたがこの世界を惜しむ理由が私にもわかる。
この世界は信仰に対して柔軟で、私たちの齎す文化にももう既に適応し始めている」
そのように魔導将殿に言われたのは、聖光法国を落としてすぐだった。
「彼らの教育を担当するのは、魔造将殿でしたか?」
「ええ、ですが特に熱心な者たちには私から直接指導しようかと思います」
「すごい力の入れようですね」
「それだけの才覚の持ち主が私の下で修業したいと申し出て来たのです」
魔導将殿はとても嬉しそうに、彼女を紹介してくれた。
「どうも、ご紹介に預かりました私はクリスティーン・オルデンと申します。
師匠の下で偉大な女神様から齎される恩寵を他のこの世界の皆さんにも伝えられるように頑張りたいと思います!!」
そう、彼女こそが俺が探し求めていた聖女だったのだ。
俺は訳が分からないまま仕事をこなし続け、無事この世界も魔王様の手によって滅び去る光景を最期に見るのであった。
折角のハロウィンだったので、転生魔女さんでハロウィンネタでもやろうかと思ったのですが、創作意欲とインスピレーションが沸かなかったので見送りました。
その代わり、こちらを投稿。
ようやく章の重要人物が出たと思ったら、最後の最期でこの周回は終わってしまいました。
一話で一周の縛りだからね、是非もないよね!!
でも次回からいよいよ、聖女についてアーランド君が迫っていくよ!!
仕事は主に副官とか部下に丸投げしてね!!
あとは今回話題に出た、魔王様とかについて掘り下げるよ!!
それじゃあまた、次回!!