『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

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命題『聖女クリスティーンは聖女であることを証明せよ』
命題≠『聖女クリスティーンは存在しない』
証明1『満場一致でクリスティーンは聖女である』



第四階層

 

 

 俺は、前回魔導将殿に弟子入りしていたクリスティーンについて考えを巡らせていた。

 俺の知る彼女の名声は聖女としてのモノだった。

 そんな彼女がなぜ、魔王軍の幹部の弟子になったのだろうか。

 

「魔人将アーランド」

 俺は名を呼ばれて顔を上げる。

 

「はッ、何でございますか?」

 他の魔将達との会議の席で、彼らの視線が集まる中、魔王様は俺にこう言った。

 

「個人的な話がある。会議が終わったら、ここに残れ」

「了解しました」

 俺は彼に頭を下げた。

 はて、俺に話とは何であろうか。

 

 取り留めのない会議が終わり、俺は一人玉座に退屈そうに座っている魔王様の前に残った。

 

「この世界は、無味乾燥である」

 跪く俺に、魔王様はお声を投げかける。

 

「会議中に上の空とは、そこまでこの世界の攻略は退屈か?」

「恐縮です」

 どうやら、会議中に考え事をしていたことはバレていたらしい。

 普通にお叱りの言葉を貰ってしまった。

 

「別に咎めているわけではない」

 しかし、次に頂いた言葉は意外な言葉だった。

 

「所詮お前も、我が母の遊戯に付き合わされている一人だ」

「遊戯などと。偉大なるかの御方は勤めを果たしているだけでしょう?」

「その勤めの意義を知らぬ身でよく言える」

 俺は魔王様の言葉に口を噤んだ。

 それを知っているのは、この魔王様ぐらいであろうに。

 

「火が燃え移ることに、理由など必要有りますまい」

「その火に意思があり、その所業に納得していないくせによく言えたものだ。

 我が母は人間の意思や可能性を愛しておられる。

 一息にこの世界を滅ぼさない理由はそれだ。だが、結局のところその可能性とやらを示せるのはほんの一握りに限られるだろう。

 そんな少数の為に、我らは多大なコストと時間を割いている」

 魔王様は、リェーサセッタ様が偉大であるが故に、その偉大過ぎる愛に嘆いていた。

 

「こんな塵芥の如き世界など、さっさと滅ぼしてテーマパークなり保護区画なりにすれば良いのだ」

「テーマパークは流石にちょっと……」

 俺も思わず本音が漏れてしまった。

 だが、俺より先に本音を零した魔王様は溜息を吐いた。

 

「魔王などと言う、ただ椅子に座るだけの職務も流石に飽いた」

 それは、愚痴だった。

 絶対強者たる魔王様の本音だった。

 

「所詮この職務も、お前たち部下も、我らが母に与えられた物に過ぎない。

 この私に対する崇敬などお前たちには無いのは分かりきっている。私などただの案山子で十分なのだ」

「そのようなことは……。

 魔王様の御力は偉大ではありませんか」

「それすらも、所詮は与えられた物に過ぎない」

 彼は目を閉じて、退屈そうに言った。

 

「全ての栄光が約束され、成功だけの人生と言うのも退屈なだけだ」

 何を贅沢な、と俺は思わず口に出そうになった。

 魔王様は数多の人間以外の異種族の頂点、龍人だ。

 

 しかも彼は、リェーサセッタ様が使役した巨龍と交わって産まれた子供の子孫、神の直系を脈々と受け継ぐ特別な一族なのである。

 故に魔王。半神半龍の神の依り代。女神の血族。

 

 産まれた時から全てにおいて成功している勝ち組の中の勝ち組であり、俺が愛読しているニュースサイトの成りたい来世の種族ランキングでは殿堂入りして投票すらできないほど文句無しの最強種族だ。

 龍人を主人公とした創作物は定番であり、彼らが主人公でなくてもその仲間には誰か一人は居るのが定番である。

 物語で敵で登場すると、如何なるチート能力を以ってしても勝負に成らないくらい最強無敵。それが魔王様の一族なのだ。

 

 故に我らにとって、魔王様は肉を持って生きる神そのものである。

 リェーサセッタ様がその御力を振るうのに必要な依り代に最も適した自分の子孫であり、かの御方の代行者なのだから。

 

「前世の私がどれだけメアリース様に貢献したかは知らないが、せっかく誰もが羨む出生であろうとやっていることが弱い者いじめではな」

 本当に贅沢な悩みだった。

 魔導将殿が彼を若く未熟と言った理由が少しだけ分かった気がした。

 

「……そうだ、魔人将アーランドよ。

 退屈しのぎにお前がこれだと言う勇者を連れてくるのだ。

 古典に習い、それを持って我が無聊の慰めとしよう」

「その、よろしいのですか?」

「ああ。興が乗れば、お前にも褒美を賜す」

 との事であった。

 

 折角なので、俺は早速魔王様の要望に応えることにした。

 

「ねえ、アーランド。なんで私を魔王様の御前に呼んだのよ」

 その辺を歩いていたリリウムを捉まえ、俺は彼女を玉座の間へと連れて来た。

 困惑している彼女は小声でそんなことを言ってくる。

 

「アーランドよ、そやつは我が軍の者ではないか」

「左様です。ですが、この者は私と同じ、かつてはこの世界出身で有った存在です。

 私が覚えている限り、彼女を超える剣の才能を持つ者は居なかったかと」

「ちょっと、アーランド!?」

 俺に連れてこられたリリウムが更に困惑して声を上げる。

 

「ほう」

 魔王様が、玉座から立ち上がる。

 そして異空間にあるアイテムボックスから武骨な剣を取り出すと、それをリリウムの前に放り投げた。

 

「取るがいい」

 魔王様は有無を言わさぬ様子で、そう言った。

 リリウムは俺に抗議することも忘れ、威圧感に耐えるように足元の剣を拾った。

 

「そして、私を楽しませろ」

 

 その日、人類との戦いとは全く関係なく、魔王城は半壊した。

 そしてその日のうちに何事も無く再建された。

 

 ちなみに、なぜか俺はその場に居合わせたからかリリウムと一緒に魔王様と刃を交える羽目になった。

 全ての技能適正がAを超えていると噂される魔王様は本当に強かった。

 

 

 §§§

 

 

「もう、信じられないんだけど!!」

「悪かったってば」

 俺はリリウムの機嫌を取っていた。

 

「今の私のステータス、前世よりも貧弱なのよ!? 

 それで魔王様と戦わせるとか、いったいどういうつもりなの!?」

「だって、魔王様がお暇だと仰るから」

「それで私は死にかけたんだけど!!」

「死ぬとか、それこそ今更じゃないか」

 お互いに何度も死を超え、魔王様の滅びを目にしてきた身である。

 特に最近はそのあたり麻痺してきたように思える。

 

「それよりも、やはりお前は剣を握っている方が美しい。

 魔人将の地位もお前の方がふさわしかったはずだ」

「……それに関しては、もう終わった話でしょう」

 魔王様と言う理不尽の権化との戦いとは言え、俺は彼女と再び肩を並べられて楽しかった。

 そして、その機会が訪れることが殆どないことが悲しかった。

 

 俺と彼女が従軍する際に、どちらが魔人将になるか決めることになった。

 なぜこのような幹部という立場で送り出されたかと言うと、俺たち二人は罪人として御二柱の下へとやってきたが、『それまで私たちは御二柱の庇護を受けていなかった』。

 あの訓練施設で訓練を共にした連中と違い、我らには負債が無かったのだ。

 

 だから実力と経験を加味して、魔王軍の魔将とその副官と言う待遇で従軍できたと言うわけだ。

 

 結局、リリウムが魔人将という立場を拒否し、俺がその地位を引き受けることになった。

 

「本当に勿体無い話だ。剣術適正Sのステータスが泣くぞ」

「だって今生の私も剣士とかじゃないもの」

 つーん、と彼女は不機嫌そうに顔を背けてそう言った。

 

「……あのさ、さっきの話は本当なの?」

「なにがだ?」

 リリウムは半壊し風通しが良くなった魔王城を見やる。

 既に補修工事が魔造将殿の指揮の下、ゴーレム部隊が着々と行っていた。

 

「さっき、魔王様に言った言葉よ」

「……ああ、当然だろう」

 

 

『なかなかに暇は潰せたが、所詮は身内同士の戯れだな。

 もっと精強なる勇者に心当たりは無いのか?』

『……一人、俺の知る限り比類なき英雄に心当たりがあります』

『では、それを連れて参れ。それを倒せば、我が母もこの世界を見限ろう』

『ですが、それだけは出来ませぬ』

『ほう、なぜだ?』

『あの男は、父は、私の獲物だからです』

 

 

「あなた、師匠と本当に殺し合うつもりなの?」

「今生では無関係なくせに、まだあの人を師と呼んでくれるのか?」

 俺が揶揄するようにそう言うと、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。

 

「……未練よ。結局あの人とは喧嘩別ればっかりだったから」

「思い返すに、喧嘩にすら至っていなかったと思うが」

「うるさいわね!! それよりも、私を魔王様に差し出したこと許して無いからね!! 

 でも私は優しいから、適当な町を占領した後デートしてくれるなら許してあげる」

「はいはい」

 俺はその後、しばらく彼女の機嫌が回復するまで付き合ってやった。

 

 ……昔読んだ童話に、天上の神の化身が地上で怪我をして、優しくしてくれた狩人の青年にお礼として嫁ごうとする話を思い出した。

 結局狩人の青年はそれを断った。怒った神の化身は天上へと帰ってしまったという話だ。

 

 俺はその青年がなぜ世にも美しい神の化身と夫婦になる機会を断ったのか、今ならなんとなく理解できた。

 俺にとって神像も同然だった姫様が、俺の近くで侍って媚びてくる有様はいかんともし難かった。

 長寿故に性的欲求の少ないダークエルフでなかったら、とっくに彼女の色香に負けていたかもしれない。そう考える自分が嫌だった。

 

 そして、あらかた城内の修復がその日のうちに終了し、未だ俺にしだれ掛かってくるリリウムに辟易していた頃だった。

 

「魔人将殿、外部からの使い魔が魔将のいずれかに面会の許可を求めてやってまいりました。

 あの、いかがいたしましょうか?」

「なに?」

 俺は魔王城の門番がやってきて伝えに来た要件に、眉を顰めた。

 

 今現在、魔王軍は魔王城で準備段階にある。

 つまり外部、人類側が我々を認知しているはずが無いのである。

 

「俺が対応しよう、そやつにも直接門前へ来るように伝えるがいい」

「はッ、了解しました」

 門番は俺に敬礼すると、速足で持ち場に戻って行った。

 

「この時期に外部からの接触だと? 

 一体どういうことだ?」

「そう? 私は何となく想像ついちゃったなぁ」

 俺の腕を両腕で絡めとり、肩口に頬を当てるリリウムがそんなことを言う。

 

「なんだって?」

「まあ、行けば分かるでしょ」

「ならば、せめて副官らしい体裁は保て。

 今のところは、客人が相手なのだからな」

「はいはーい」

 そして俺が門へと出向き、現れた人物に目を見開いた。

 

「あら、魔人将様ですか。

 わざわざ私めの為に呼びつけてしまって申し訳ありません」

 門の外から現れたのは、クリスティーンだったのだ。

 彼女はたった独りで、この世界の最果てへとやってきていた。

 

「私は忙しそうなら他の方と申したのですが、やはり我が師は今ご多忙なのでしょうか?」

「いや、偶々近くに居て連絡を受け取ったのが私と言うだけの事だ」

「あ、そうだったんですか。

 では、我が師にお目通りを願いたく存じます。

 問題ありますでしょうか?」

「いや、問題などあるわけがない。すぐに案内する」

 俺は思考がまとまらない中で、とりあえず事務的な対応をすることになった。

 

 

「お久しぶりです、我が師よ。私の事は覚えておいででしょうか」

「勿論だとも、我が愛弟子よ。

 此度は自ら魔王城の門を叩くとは、殊勝な心掛けです」

 魔導将殿の下に彼女を案内すると、彼は満面の笑みでクリスティーンを受け入れた。

 

「あの、魔導将殿、よろしいのですか?」

 俺は具体的に何が悪いとかどうとか考える余裕も無かったが、彼は大きく頷いた。

 

「自ら学びたいと言う者に、至高の御方は平等に機会をお与え下さります。

 そして向上心が有るのならより高度な教育が施されるべきでしょう」

 魔導将殿は実に嬉しそうにそう仰った。

 

「案内して下さりありがとうございます、魔人将殿」

「ああ、気にするな」

 俺はクリスティーンにそう言って、その場を後にした。

 

 

「……」

「……どういうことだ」

「どういうことも何もないでしょ」

 俺の中で、一つの答えが出ている。

 だが、それをどうしようもなく認めたくなかったのだ。

 

「これではまるで、自分から売り込みに来ているようではないか!!」

「それ以外に何に見えたの?」

 俺は自分の口から、その決定的な事実を言い出せなかった。

 

「我が身可愛さに、あの女は魔王軍に媚を売ってるんでしょ。

『あの女は、この世界の裏切者だってことでしょうね』」

 リリウムはかつての仲間を辛辣に評価した。

 

「こんなことをしてたなんて、知らなかったわ」

 そして彼女の言葉には、若干の失望が混じった複雑そうな感情が見え隠れしていた。

 

 クリスティーンは姫様やステラ達同様、記憶の引継ぎをしている人間の筈だ。

 故に一度目の蹂躙を見て、二度目で戦力差を理解しこちらに服従し、三度目は自ら売り込みに来た。

 そう考えるのが妥当で、自然だった。

 

「だが、『彼女は次回以降この世界の側として戦っている』」

 それはなぜだろうか? 

 

「こちら側の戦力を把握する為のスパイをしていると言うのはどうだろうか?」

「それなら前回で既に結果は出てるはずでしょう? 

 こちらの戦力は無尽蔵。偵察するのも馬鹿らしい数の暴力による波状攻撃だって」

 俺の思考の逃げ道を、リリウムが塞いでいく。

 

「では逆に問うが、なぜ彼女は次回以降魔王軍と全面戦争をするんだ?」

「私が知るわけないじゃない。

 そう言えば、前回も今回も、イリーナがあいつを探してたけど見つからなかったみたいなこと言ってた覚えがあるけど、こういうことだったのね」

 俺よりずっと面識のあるリリウムは、ある種の納得をしているようだった。

 

「ああ、そう言えば……」

「どうした?」

「四度目以降のクリスは『何だかすごく必死だった』ような……」

「必死だった?」

 なぜ魔王軍から離れ、必死になって戦う理由が出来たのだろうか。

 

 いずれにしても、三度目である今回でそれが明らかになるのであろう。

 そしてそれを知る機会は思いのほか、すぐに訪れることになった。

 

 

からん、からん

 

 どこかで、サイコロが転がる音が聞こえた気がした。

 

 

 

 §§§

 

 

「魔人将殿」

 いよいよ魔王軍の進撃準備が始まった頃、魔導将殿がクリスティーンを引きつれ俺に話しかけて来た。

 

「はい、何でしょう」

「私の仕事は前回で見せたので、此度は魔人将殿の仕事ぶりを彼女に見せてほしいのです」

「それは構わないのですが」

「よろしくお願いします」

 俺としては、彼女の事を知るまたと無い機会だった。

 礼儀正しく頭を下げる彼女を見て、俺はあることを思いついた。

 

「聞けば、彼女は魔導将殿の自慢の弟子であるとか」

「ははは。目を掛けているのは事実ですが、そちらで特別扱いする必要はありませんよ」

「恐縮です」

 それぞれの反応を示す師弟に、俺はこう言った。

 

「実は、魔王様にこの世界の優れた才覚を持つ勇者を探し連れて来いという命令を拝命致しまして」

「えッ」

 俺の言葉に、クリスティーンが思わずと言った様子で顔を上げる。

 

「ははぁ、あの気難しい魔王様がですか」

「彼女なら、魔王様の御眼鏡に叶うかもしれません」

 いずれ聖女としてこの世界で名を轟かす彼女には、その資格があるように思えた。

 俺は単なる仕事としてそれを思いついたに過ぎなかったが、リリウムは俺の横で口元を抑えて笑っている。

 

「素晴らしい。是非とも魔王様との拝謁を済ませておくといい。

 この間のような事も、流石に彼女相手にはするまいであろうし」

 と、魔導将殿の快諾を得て俺は彼女を魔王様へ謁見させることにした。

 

「あ、あの、本当に、私如きが魔王様に謁見などしても、よろしいのでしょうか?」

 魔導将殿から別れ、俺たちに付いてくるクリスティーンが怯えた様子のままそう言った。

 その表情には、全力でお断りしたいと雄弁に記されていた。

 

「必要ならば物乞いに扮した賢者の下にも足を運ぶのが王の器であろう。

 ならば、この世界で有数の才能を持つお前に会うことに魔王様が躊躇うことなどあるまい」

 俺は当然のようにそう答える。隣でリリウムが声を押し殺して笑っている。

 クリスティーンが恨めしそうに彼女を見ていた。

 

 

「魔人将アーランドよ。

 私は勇者を連れて来いと言ったはずだ」

 そしてクリスティーンを玉座の間に連れて行くと、魔王様は溜息と共にこう言った。

 

「誰が私の好みの相手を連れて来いと言った?」

「……はい?」

 龍人の表情は、正直分かりにくい。

 だが、そんな俺でも魔王様が実に愉悦の混じった笑みを浮かべているのが分かってしまった。

 

「そこの女よ、名は何という?」

「は、はい、クリスティーン・オルデンと申します!!」

「ほう、クリスティーンか。

 面白い、苦しゅうないぞ。近くによるがいい」

 突然の展開に、俺とリリウムも顔を見合わせる。

 

 ガチガチに緊張しているクリスティーンが、足を縺れさせながらも魔王様の下へと招かれ近づいていく。

 それはまるで、龍に捧げられる生贄か何かに見えた。

 そしてそれは実のところ、割と正しかった。

 

「クリスティーンよ、我が妃となるがよい。

 さすれば、この世界の半分をお前にやろう」

 

 この時俺は、クリスティーンを魔王様に差し出すのが一番穏便に丸く収まる手段なのでは、と思案してしまった。

 

 魔王様はこの世界を滅ぼし尽くした後、この世界の管理人になることになっている。

 それはうちの村の長老のような一区画の管理者などではない、世界の王としての最上位の支配者として、だ。

 その魔王様の妃ならば、世界の半分の管理を任すことなど別に不思議な事ではない。

 

 それどころか、この世界をこの世界のまま維持したいと希望すればそれが通るかもしれなかった。

 クリスティーンは今まさに、この世界を救うかもしれない聖女に成ろうとしていた。

 それも俺たちが予想もしない形で。

 

 だが、当のクリスティーンは涙目のまま後退った。

 魔王様に恐怖し、震え、怯えていた。

 

 まあ無理も無い話だ。魔王様はその気になれば、この世界を木っ端微塵にすることなど容易いのだから。

 その光景を二度も目にした記憶にある彼女からすれば、魔王様は恐怖の対象でしか無いはずであった。

 

「どうした、なぜ怯える。なぜ恐れる。

 これは、『お前が望んだこと』であろう?」

 その魔王様の言葉に、俺はハッとした。

 この状況が、彼女の望んだことだと? 

 

 ──どこかで、天秤の女神の無邪気な笑い声が聞こえた気がした。

 

 

「そ、そんな、とんでもありません!! 

 私如きが魔王様になどと吊り合おうはずがありませんわ!! 

 魔王様もお戯れが過ぎますです!!」

「そうか。だが私は全ての成功が約束されている神の依り代にして、女神の代行者。

 その私が妃にすると決めたことは、どのような過程を経ようとそうなるのだ」

 魔王様は嗤う。

 まるで目の前に、水面で溺れまいともがく虫を見つけたかのように。

 

「──お前はもう、私の物なのだ」

 すう、と魔王様の鱗に覆われた手が伸び、クリスティーンの顎に触れる。

 

「し、失礼します!!」

 クリスティーンは逃げ出すように、いやただ本当に逃げ出して玉座の間から退出していった。

 

「……まさか、こんな辺境の無味乾燥な世界で、欲しい物が見つかるとはな」

 玉座に頬杖を突いて、魔王様はくつくつと笑う。

 

「これは面白い余興になりそうだ。

 我が将よ、褒美を取らそうぞ」

 そう言って、魔王様は虚空からアイテムボックスを開いて、“それ”を俺に差し出した。

 

 俺は、“それ”に目を見開いて驚いた。リリウムも同じだった。

 

「これは龍魂の宝珠と言う。

 使い方次第では、大抵の物事をどうにかしてしまえる力が有る。

 お前の好きに使えばいい」

 

 それは、あの天秤の女神をこの世界に呼び寄せた、全ての元凶たるマジックアイテムであった。

 

 

 

 

 

 

 





必要な事だけを描写しているつもりですが、それだけだと本当に必要なことだけになってしまうジレンマ。
ですがテンポは最も大事なことのひとつ。三十話前後で終わらせると決めた身。

よし、悩んだらアンケート取ろう!!
そう言うわけで、今回もアンケートを取ります!!
協力して下されば幸いです。

感想などもお待ちしています。
裏話や裏設定の話なども感想欄ならできますし。

テンポ重視か、ストーリー重視か?

  • テンポ重視でサクサクストーリー進行!!
  • ストーリー重視でキャラの掘り下げを!!
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