『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
いつも強者にヘリ下り、都合の良い方に付くコウモリだ。
彼女の口八丁に、誰もが騙される。
そのジレンマは、彼女さえも苦しめる。
「やってくれたな、あの女」
俺は会議の席での報告を聞いてそうぼやいた。
クリスティーンが宝物庫を荒らして逃げたのだと言うのだ。
「更に、資料室の方もやられました。
正直ここまでやるとは驚きです」
魔造将殿が被害をまとめた資料を魔将たちに配る。
その被害状況に、各々顔を顰めた。
侵攻に影響を及ぼすのは確実だった。
「で、これを成したのが貴様の弟子とのことだが。
これはどう落とし前を付けるつもりだ?」
魔獣将殿が鋭い視線を魔導将殿に向ける。
彼女は将と言うより、看守や調教師と言った風情のデーモン種だ。
魔獣の使役に長けており、その任を請け負っている。
「落とし前、ですか。
悪逆は我らが女神様がお認めになっておられること。
彼女は自らの責任において、それを実行したまでです」
「そうだな。
だが監督責任ってものは生じるだろう?
ヒトの味を覚えた獣は殺すしかない。それと同じだ」
魔獣将殿の指摘に、彼は分かっていますと頷いた。
「弟子の不始末は我が不始末。
必ず彼女は私が討ち果たしましょう」
「魔導将殿……」
俺は彼が不憫で仕方がなかった。
「そう責めてやるな」
「魔王様……」
魔王様の発言に、視線が集中する。
「勝って当然のゲームに面白みなどない。
ちょうど暇潰しに指し手が欲しいと思っていたところだ。
それに、我らが母はこの世界の全力をお望みだ。
事実クリスティーンは我が期待に応えている」
そうなのである。
俺はクリスティーンの足跡を部下に探らせた。
すると彼女は、この世界には存在しないはずの大砲や金属加工技術、農耕や食料事情の改善などを提案し、実行。
その功績を以って、“聖女”の称号を得ていたのである。
開いた口が塞がらないとはこのことだった。
あの女は、寄りにもよって以前の世界で魔王軍がやっていた施策をそっくりそのまま運用し、その功績を掠め取ってやがったのである。
勿論、このことはこの場で報告済みだ。
魔導将殿の心境はその表情からは推し量れない。
「わかりました。全ては魔王様のご随意に。
必要ならば、我らの部隊も戦力に計上して構いません」
魔造将殿の対応はいつも通り淡々としていた。
「破壊工作に対する復旧もすでに完了しています。
焼失した資料もすべて私の頭にインプットされています。全てが問題ありません」
魔王軍を本当に機能不全にしたいのなら、魔造将殿をどうにかしなければならない。
それをしなかったのは、あの女の甘さなのか、油断なのか。
「では、各々励めよ」
魔王様の御言葉に、俺たちは頭を下げるほかなかった。
「魔導将殿、よろしいですか」
会議が終わり、各々が持ち場に戻ろうとした時だった。
魔造将殿が彼を引き留めたのだ。
「この書類を、彼女に渡してくれませんか?」
そう言って、茶封筒を彼に渡した。
「……中を改めても?」
「どうぞ、あなたにはその権利がある」
彼女に確認を取り、魔導将殿は茶封筒の中の書類を取り出した。
そして、すぐに目を見開いた。
「これは、なッ、なんということだッ!?」
それまでずっと平静を保っていた魔導将殿が、動揺しておられた。
「大いなる御二柱よ!! これも我が方に与えられた試練だと仰るのですか!!」
その上で嘆き、悲しんでいた。
魔王城の床に膝を突いて、涙を流していた。
「どちらかと言うと、彼女がひねくれていたのが原因かと。
身から出た錆、というには少々酷な話ですが」
「おいおい、察するにあいつを本当に殺せるのか?」
魔獣将殿が腕を組んで彼に尋ねた。
「逆だッ!!」
だが、魔導将殿は声を張り上げこう宣言した。
「何が何でも、一刻も早く我が弟子を殺さなければ!!
────でなければ、『彼女が余りにも救われない』!!」
その決意に満ちた言葉に、俺だけでなく魔獣将殿も面を食らった。
「頼む、皆さん。私に力を貸してくれ……」
その上で彼は俺たちに頭を下げた。
魔王城の廊下に、静寂が訪れる。
「我が主上に、ミスリルゴーレム兵五百体を要請しましょう」
真っ先に助け舟を出したのは、魔造将殿だった。
ミスリルゴーレムなど、一体だけでもこの世界の通常戦力ではまともに破壊することは困難な兵力である。それを五百。
「承認完了。要請は受諾されました。
あとは適時召喚術にて用兵してください」
「かたじけない」
「この件は我が主上も憐れんでおられますから」
更に頭を深く下げる魔導将殿に、魔造将殿はそう言った。
「はぁ、じゃあこっちも中級竜種を十体にワイバーン部隊を貸してやるよ」
形振り構わず頼られて、極まりが悪いのか魔獣将殿もそう約束した。
「事情は分かりませんが、そこまで仰るのなら私が前線にて直接指揮を執って戦いましょう。
用兵術に長けた我が部下と合わせて、十の部隊と共に」
俺はいったい何が彼をそこまでさせるのか、探る意味合いを含めてそのように申し出た。
「……皆さん、本当にありがとう」
俺たちに感謝の言葉を口にする彼には悪いが、俺の視線は彼の持つ茶封筒に向けられていた。
そして、俺は尋ねた。
いったいそれが、あのクリスティーンにいったいどんな関係があるのか、と。
§§§
二柱の治める数多の世界の内、比較的に文明水準が高いとある世界。
その大都市のひとつに、古風なコロッセオのような建物が存在していた。
内部はドーム状の空間になっており、その中は外見からは想像ができないほどハイテクな機械によって施設が稼働している。
この施設で行われているのは、剣闘士による殺し合いとかではなかった。
そんな文明水準が低い野蛮な行為ではない。
だがある意味では、そこで行われているのはそれよりもずっと悪趣味な代物だった。
「ポップコーンを一つ」
「はいよ」
その施設の売店でお菓子を買っているのは、天秤の女神だった。
それを受け取ると、彼女は熱狂している観客席の方へと赴く。
数千もの多くの観客が、オンラインではその何十倍にもなる人数が、その中心にある巨大な立体モニターを凝視している。
「さあ、今回のカードはこちら!!
魔王一族が率いる魔将が一人、魔人将アーランドとその配下のリーパー隊!!
リーパー隊はどいつもこいつもイカレたネームド連中ばかりだ!!
対するは、現地人の勇者一行!! その編成は盾職、剣士、魔法使い、僧侶とバランスがいい編成だぁ!!」
モニターの中では、今まさにアーランド達とあの四人が戦場で出会い、激突する寸前だった。
「相変わらず悪趣味だなぁ」
文明の女神メアリースは正直邪悪の女神リェーサセッタの回りくどい世界侵攻を非効率的だと思っている。
だがそれでも、彼女の管轄は管轄。非効率なりに最大限有効活用しようということだ。
どうせだから生の殺し合いを見世物にしよう、と娯楽の多様性を求める彼女は遠い辺境の異世界で行われている戦争を生中継しているのである。
こんなことをやってるから支持率が低いんだ、と天秤の女神は思っている。
「戦力比から算出されるオッズはこれだ!!
皆さん、お手元の端末から掛け金をご入力ください!!
受付時間はもうすぐ終了ですよ!!」
実況席の司会が、観客たちに呼びかける。
「偶数なら魔王軍、奇数なら勇者一行」
天秤の女神は親指でダイスを頭上に弾いた。
地面に落ちる前にそれを手に取ると、手のひらには四の目が。
「よし、魔王軍に300口!!」
ギャンブルに興じる彼女は、何の他意も無く掛け金を入力した。
ちなみに、6:4の割合で魔王軍が人気だった。
「いけ、我が元使徒アーランド!!
勝って私のお小遣いを増やすのです!!」
遥か遠い悪趣味な饗宴の会場にて、彼女は有難迷惑な声援を送っていた。
……
…………
…………
魔王軍と各国連合軍の戦いは、熾烈を極めた。
今回、連合軍の動きが異様に速かった。
俺たち魔王軍はいつも通り聖光法国に攻め入った。
俺たちはその時点で激しい抵抗を予想されたが、思いのほか制圧はあっさりと行けた。
各都市の防備が増えた程度で、歩く攻城兵器と言える巨大なミスリルゴーレムを止めることは適わない。
だが、半分ほど都市を制圧した頃、既に聖女としての名声を得ていたクリスティーンの仕込みが発動した。
即ち、この世界を滅ぼそうとする邪悪な魔王の到来、という予言をあらかじめ発していたのだ。
彼女は自分の出身国を半ば生贄にするような形で、各国の団結を呼びかけた。
それには姫様やイリーナ殿たちも協力していたのだろう、今までよりずっと早い抵抗がなされた。
だが、それだけだった。
戦火はどんどんと広がっていく。
魔王軍にこの世界に対する配慮は無い。
守りの薄い都市や村々を襲わせ、とにかく国力にダメージを与えるように広く薄く散発的に攻撃を繰り返す。
このままでは真綿で首を絞めるように、削り殺されるだけと悟った連合軍は全ての戦力を結集し、魔王城に強行進軍し決戦を挑むことになる。
そして、彼女たちが現れた。
「どうやら、もう逃げ回るのは止めたらしいな」
俺は自分が率いる軍団の前線にて、勇者たちを待ち受けていた。
背後に付き従う各国連合軍の軍勢たちの先頭に、彼女たちは居た。
「魔人将アーランド!!
貴様の暴虐もこれまでだ!!」
全身に甲冑を纏う騎士イリーナ・バルハルト。
「私たちが受けた苦しみ、今こそ清算してもらいます!!」
剣の切っ先をこちらに向けるレナスティ姫。
「これ以上、あなた達の好きにはさせない!!」
稀代の魔法使いたる、アリサ・クローネン。
「私たちが邪悪を払う光となりましょう!!」
そして、聖女クリスティーン。
あの時、あの遺跡にて、殺し合い、骸を晒した四人が生きたまま俺の前に現れたのだ。
「くくく……」
「何がおかしい!!」
思わず笑いが漏れた俺に、イリーナ殿が激高する。
「いや、失礼した。私もどうしてかわからない。
だが、お前たちを見ていると、なぜか笑いがこみ上げてな……」
それはこの四人の結末を知っているが故の失笑だったのか。
彼女たち四人の為に、徒労を繰り返している己への自嘲だったのか。
「魔王様はこの先でお前たちをお待ちだ。
だが、かの御方が出る幕はない。この私が、この余興に幕を下ろすのだからな!!」
我ながら、堂に入った役者振りだった。
「そう、この魔人将アーランドと、この魔剣エグゼキューターが!!」
俺は魔剣を振り上げ、号令を下した。
ターン1。
「我が軍勢よ、前へ!!」
俺の呼びかけに、屈強な亜人種が前に出る。
トロール、サイクロプス、オーガや鬼人たちが一斉に襲い掛かる!!
それだけでたった四人を轢き殺すのに十分な戦力に思えた。
「ふん!!」
イリーナ殿が盾を剣で打ち鳴らす。
たったそれだけで、彼女の存在感が増し、無視できなくなる。
一瞬だった。その手足の動きや、影すらも認知できないほど素早く、彼らは一刀の下に切り伏せられた。
「弓兵、魔術師、一斉射撃!!」
俺に代わり、アップルマンが指示を飛ばす。
エルフ種たちの精霊の加護が乗った正確な射撃が豪雨のように降り注ぐ。
リーパー隊の数少ない魔法使いたちが、爆炎の魔法を放った。
「プロテクションフィールド!!」
クリスティーンが魔法の防壁を展開する。
いい読みだった。今の攻撃は後方の味方を巻き込むつもりだった。
「ファイヤーボール!!」
アリサの呪文が、こちらの攻撃に紛れて降り注ぐ。
その魔法は基本的な攻撃魔法に過ぎないが、強大な術者が使えば流星群のように連発出来る。
手加減も可能で、汎用性に優れている。
「彼岸より舞い戻れ、我が戦友たち!!」
こちらのネクロマンサーの呪術により、姫様によって殺された前衛たちが起き上がる。
彼らは肉の壁となって火球の流星群を受け止めた。
ターン2。
「魔の花よ、大地に咲き誇れ!!」
リリウムが衣服を脱ぎ捨て、煽情的な刺青が施された肢体を晒す。
精神をかき乱す甘い匂いが、戦場に広がり始めた。
「次弾装填急げ!! よし、撃て!!」
アップルマンの的確な指示により、
「マジックバリア!!」
連続で強力な魔法は連発できない。
今度はアリサが守りにスイッチし、全体攻撃を防いだ。
「光の神の加護ぞあれ!!」
聖女の祈りが、彼女らの前に立ちふさがっていたアンデッドの肉壁を塵へと帰した。
「はああぁぁ!!」
邪魔が居なくなったレナスティ姫が前に飛び出す。
「カースドミスト!!」
ずっと彼女の行動を警戒していた俺が、呪文で妨害を試みる。
「ちッ、見えない!!」
視力を奪う呪われた霧が彼女を包み、攻撃の空振りを誘う。
そんな彼女の隙を守るように、イリーナ殿が前に出た。
ターン3。
「眠りの息吹よ、心を絡めとる根よ!!」
相手の行動力を削ぐ支援をリリウムは続けている。
「陣形は守りを重視!!
護衛は将軍を死守せよ!!」
同じ指示は連続で使えないのはアップルマンも同じ。
彼は俺の周囲の護衛を前に動かした。
「クリスティーン、レナの解呪を!!」
「いえ、支援を!! ここで勝負を決めるわ!!」
「……分かった、光の加護よ!!」
「ああもう、失敗しないでよ。ファイアエンチャット!!」
二つの魔法の加護が、姫様の剣に宿った!!
それはまさに、勇者の輝きだった。
「消え失せろ、邪魔者ども!!」
姫様の一閃により、視界が業火に染まる。
極まった剣技と魔法の合わせ技により、俺たちの軍勢はこの時点で半壊していた。
俺の護衛達は勿論、リリウムも、アップルマンもたった一撃で倒れた。
「……こうなれば」
彼女たちは、たった四人で俺の軍勢を打ち破った。
剣士としてではなく、将として戦い負けた。
ならば、俺のすべきことはあと一つ。
俺は一瞬で距離を詰めた。
きっと姫様がそれを見えて居れば、驚愕したかもしれない。
敵の筈の俺が、自分と同じ技を使えるはずが無いのだから。
「ん、なッ」
俺の標的は、クリスティーンだった。
「これは魔導将殿からだ」
俺は無駄と分かっていながらも、魔剣の力を解放する。
魂を切り裂き、消滅させる魔剣エグゼキューターの力を。
「我が手向けを受け取れ!!」
俺は渾身の力で、魔剣を振り下ろした。
無論、それは適わなかったが。
「うつ、く……しい」
俺は最期の瞬間、レナスティ姫の一撃をその目に焼き付けて絶命した。
§§§
「あのですねー、なんで負けちゃうんです?」
俺は目を覚まして一番に、アンズ様にそう言われてしまった。
「はあ、大損しちゃった」
そして何やら彼女は不機嫌そうだった。
「あの、あの場で俺が負けることは確定していたのでは?」
「ええまあ、『それはそう』なんですけど」
アンズ様は戦場に不釣り合いな格好で、死体に溢れた戦場を歩き進む。
「ちょうど、見所ですよ。来ますか?」
「……はい」
俺は彼女に付いて行くほかなかった。
次の一歩を踏み出した時、俺は魔王城に居た。
彼女はどんどんと前に進む。その先は、玉座の間だった。
「ほら、ちょうどいいところでしょう?」
女神様に促され、俺が見たのは魔王様がレナスティ姫の一撃で倒れたところだった。
「みご、と……だ」
魔王様はどこか満足げに、玉座に倒れられた。
周囲は殆どがボロボロに壊れ、戦いの激しさを物語っていた。
「みなさん、よく頑張りましたねー!!」
そして四人を横切って、彼女らの前に立ったアンズ様は笑顔でそう言った。
「さあ、私の試練を超えたあなた達に、ご褒美を上げましょう!!」
「あの……女神様、そのことなのですが」
「はい?」
疲れ果てた四人だったが、代表してイリーナ殿が口にした。
「『もう一度、やり直させてもらえませんか?』」
「ええ?」
「魔王軍との戦いで、この世界は疲弊してしまいました。
このまま復興するにしても、その為の資源は限られてしまう」
「では、この世界の復興を願えばいいじゃないですか」
「失ったのはモノだけではありません。ヒトもなのです!!」
イリーナ殿は気づいているだろうか。
笑顔だったアンズ様が、真顔になっていることを。
「もう一度、もう一度機会が有れば、私たちはもっと死者を減らせるはずです!!」
懸命に訴えるイリーナ殿だが、多分本音はこうだろう。
自分の生きた村が滅んだまま終わりたくない、と。
俺は覚えている。今度も彼女の産まれた村を蹂躙したことを。
「……わかりました、良いでしょう。
では、試練を継続とさせてもらいます」
彼女たちは気づいているだろうか、アンズ様はこう言ったのだ。
────試練の達成を取り消す、と
そして、彼女たちの言動に怒りを示したのは彼女だけでは無かった。
「もう一度、やり直したい、だと?」
止まった世界、未来の無いこの世界に、呪詛のような声が震えた。
「この私を下す名誉を与っていながら、それを投げ捨てる、だと?」
その声は、玉座から聞こえた。
「──赦せぬ」
力なく玉座に横たわっていた魔王様の目に、邪悪な光が宿った。
「私だけではない、この世界の人間に与えられた我が母の慈悲さえも、この世界の連中は投げ打ったのだ!!」
止まった世界が震える。
この未来の無い世界が、怯えている。
彼女たちは勘違いしていた。
「もう一度やり直せば、同じようにこの私に勝てると?
ならば、その思い上がりを正さねばなるまい」
ゲームには必ず、
その相手を蔑ろにして、相手の怒りを買わない理由などあろうか。
「では、次からは一切合切容赦なく、この世界を徹底的に滅ぼしてくれよう。
……どうやら我が母も、それをお望みのようだ」
あの四人は、龍の逆鱗に触れたのだ。
かつてイリーナが語った、未来の無い世界。
そして彼は、たったひとつの茶封筒にいったいどんな真実をみたのだろうか?
さあ、次回に乞うご期待!!