『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

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ここは神の卓上。
これは試練と徒労の物語。

誰もが何も得ず、何も成しえない。



探偵不在、犯人の犯行自白

 

 

「さて、と。

 彼女が悩んでいる間の時間も無駄なので、さっさと次へ行きましょう」

 クリスティーンへの裁定が終わり、アンズ様は俺にそう言った。

 

「最後は、アリサ殿ですか」

 当然ながら、俺はクリスティーン同様アリサ殿をよく知らない。

 活動している国もこれまでずっと俺の行動範囲と重ならなかったからである。

 

「彼女はいったいどういう人物なんだ?」

 俺はとりあえず知り合いに尋ねてみた。

 

「研究趣味の、変人ってほどではないか」

「クリス程は性格が尖がってないわね」

「おい、聞こえてるぞ」

 イリーナ殿とリリウムはそのように最後の仲間を評した。

 

「私としては、もう十分あなた達で楽しんだんで彼女にはあまり期待をしていないんですよねー。

 構成的にはスタンダードな性格の人間が最後になるのはいただけないと思いますけど」

 そしてアンズ様は相変わらず歯に衣着せぬ物言いをなさった。

 

「彼女の場合、探偵小説の解決編とかそういうのになりそうで──」

「それならば、私もそろそろ意趣返しの一つでもさせてもらおうか」

 俺たちはギョッとした。

 

 まるでそこに当然のように暗がりが存在するように、黒い靄がヒト型を模っていた。

 邪悪と悪逆の女神リェーサセッタ。

 

「ではこういうのはどうだ。

 探偵役不在のまま、犯人が勝手にすべての犯行動機を自白するというのは」

「リューちゃん、そういうの白けるからやめてくれません?」

「私はお前と違って暇ではない。仕事を済ませよう」

 赤い瞳が、こちらを一瞥した。

 たったそれだけで、ただの人類に過ぎない俺たちは硬直するほかなかった。

 

「これでは話もしずらかろう」

 私たちが慄いているのを見て、彼女はスッと手を振った。

 黒いヒト型にしか見えない濃密な闇が、晴れた。

 

 昏い闇を纏っていたのは、──どこにでも居そうな女性だった。

 美人ではないが、愛嬌のある顔立ち。

 アンズ様のように顔は平たくないし、髪の色も珍しくない茶髪だ。

 その辺の人混みに紛れれば見失うような平凡な容姿。

 

 だが、その瞳だけは深淵に繋がるような底なしの赤い奈落だった。

 美しい瞳の女性を、吸い込まれそうな、と表現することが有る。

 その眼の奥は、文字通り果てしない最果てだった。

 

「まず、クリスティーン・オルデン」

「は、はいッ!?」

 まさか名指しで呼ばれるとは思わず、クリスティーンが上ずった声を漏らす。

 

「我が盟友には話を付けておいた。

 お前の借金は私が帳消しにしておいた。

 “次回”からは我が息子の右腕として、相応しい地位を与えるので励め」

「え……あの、お言葉ですが、私は失敗したのでは?」

 クリスティーンがおずおずと尋ねた。

 その表情には都合がよすぎて微塵も信用できないと書いてあった。

 

「客観的に見てそうだろうな。だが決めるのは私だ。

 私はお前にたかだか10兆程度のはした金より価値が有ると判断した。

 お前は我が使徒として召し上げ、これから先の“伐採”にも役立ってもらう」

 ハッキリ言って、これは大躍進である。

 この世界は滅ぼすが、彼女は直属の部下にすると宣言したのだ。

 この女神様はこの世界一つよりも、クリスティーンの方が価値が有ると判断したのである。

 

「はい、これであなたの『絶対に食いっぱぐれない地位に成りたい』という願いは完遂ですね。ぱちぱち」

 アンズ様は自分で手を叩いてつまらなそうにそう言った。

 

「あの、何故にクリスティーンをお気に召したのですか?」

 俺は納得がいっていなさそうだったので、邪悪の女神に尋ねた。

 

「私と、我が盟友の統治はトライ&エラーの繰り返しである。

 以前、一つの世界を全て完全に、本当に徹底的に支配し、完璧な平和を齎したことが有るのだが」

 そこで、くすり、とこの邪悪を司る女神は思い出し笑いをした。

 

「思想も完全にコントロールしていたんだがな。

 ──……木っ端みじんになった」

「え?」

「たった一人、自分の生きる世界に疑問を抱いた。

 そしてそいつはこう思った。この世界を台無しにしてやりたいな、と」

 その物言いは、まるで新雪の庭を踏み荒らしたい、とでも言うような軽さだった。

 

「それを実行し、爆弾で一緒になって世界ごと爆散したそいつに私は喝采を送った。

 やはり人間と言う生き物は悪が無ければ生きている輝きが無い」

 その所業を赦した時の奴の表情も見ものだったぞ、と彼女は笑っていた。

 

 ……俺はずっと、この御方の慈悲深い側面も見て来たつもりだった。

 だがアンズ様の言う通り、この御方は仕事面はともかくその性格は邪悪そのものだった。

 

「もしお前が、我が子に宣言した通りこの世界を爆散させていたのなら、来世は我が娘にでもしてやろうと思ったのだがな。

 お前は人間だった頃の私に似ている。この世界における我が同位体かと思ったほどに」

「きょ、恐縮です」

 クリスティーンは思った以上に彼女に気に入られていた。

 

「お前たちも、見所はある。

 その気があるのならついでに我が元に来ることを許そう」

「お断りだッ」

 イリーナ殿が即座に啖呵を切った。

 

「この世界に魔王軍を齎し、我らの平穏を乱した貴女に何故に下ると思うのだ!!」

「くッ」

 彼女の言葉に、昏い瞳の女神は思わず口元に手をやった。

 

「くふふふ、あはははははは!!」

 そしてこらえ切れないと言った風に、邪悪の女神は笑い声を上げた。

 ただそれだけで周囲に不幸を呼び寄せるような、不吉な笑い声だった。

 

「なあ、女騎士よ。──“悪”とはなんだ?」

 唐突に笑いを収めた彼女が、イリーナ殿に問う。

 

「哲学ですか? 

 邪悪を司る貴女が、それを問うのですか?」

「早く答えなさい」

「……一般的に、善なる行いに反することだ。

 規範や秩序にそぐわぬ行為を言うのでしょう」

「実に模範解答だ。素晴らしい」

 イリーナ殿は思わず不安を抱いて、周囲の面々に視線を向ける。

 口を挟む度胸の無い面々も、似たような様子だ。

 

「では、邪悪を司るこの私が真理を告げよう。

 ────“悪”とは人そのものなのだ」

 邪悪の女神の答えとは、ある意味では単純な言葉だった。

 

「それはあまりにも陳腐な答えなのでは?」

 思わず、と言った風にソフィア殿が言葉を漏らした。

 

「そうではない。悪、とは人間が存在し、その価値観から生じるものだ。

 ヒトはその社会性から、それに迎合できない者を排除する生物だ。

 故に、他ならぬ『私が人間出身の神なのはそのため』なのだ」

 彼女は人間ゆえに悪であり、悪ゆえに人間の女神であるのだ。

 だから自然界に悪は存在しない。そこに人間性は介在しない。

 

「ところで」

 それを踏まえた上で、実に楽しそうに邪悪の御方は笑っていた。

 

「悪が人間性なら、秩序もまた人間性であるな。

 この世界の主神と言える光の神もまた、秩序を司っているそうだな」

 俺は彼女が何が言いたいのか一瞬分からなかった。

 

「止めろ!!」

 イリーナ殿が身震いして叫んだ。

 まるでその先を聞きたくないとでも言いたげに。

 

「光という自然現象に、人間性は存在しない。

 ただ眩しいだけの存在に、秩序に干渉する権限など無い。

 ──もう、分かるだろう?」

 母性の籠った慈愛に満ちた言葉を、哀れな子供たちに掛ける。

 この世界の、余りにも残酷な真実を。

 

 

「────この世界の神々は、創作物に過ぎないのだ」

 

 この世界は、神々の卓上。

 

 

 

「ああ……」

 がくッ、とイリーナ殿が膝を突いた。

 俺も、リリウムも、ステラも、ソフィア殿も、クリスティーンも。

 

 その現実を、すぐには受け入れられなかった。

 

「例えば騎士神の逸話など分かりやすい作り話だ。

 大多数が屈強な騎士の偶像が、少女であってなるものか」

「……なら、ならば!! 

 この世界に齎されている神々の恩恵はどうなる!! 

 私たちはずっと、神々の恩恵を受けて生きて来たんだぞ!!」

 イリーナ殿の叫びに、無情なる女神は彼女に歩み寄る。

 そしてその懐に手を入れると、それを取り出した。

 

「それは……」

「私は一般的に邪悪と悪逆を司っているが、世界によって解釈の違いが生じ、別のものを司っていることになっている」

 女神はイリーナ殿から引き抜いたそれと、別の手に現れたそれを比べるように彼女に示して置いた。

 

 ここで、ネタばらし。

 

「ある世界では私は呪詛と復讐を司っているとして、これと同じ紋章が使われている」

 優しげに、女神はイリーナ殿の肩を叩いた。

 

「だから私は、貴女の所業を赦しましょう」

 彼女の目の前に置かれた紋章は、寸分違わず同じだった。

 

「管理下って、そう言うことだったんですね」

 全てを悟ったステラが諦念に満ちた溜息を吐いた。

 

 初めから、そう、初めから──。

 この世界は『かの御二柱によって運営されていた』のだ。

 この世界に齎されていた神々の恩恵とは、かの御二柱の御力に過ぎなかったのだ。

 

 だから魔王軍は別世界の侵略者ですらなかったのだ。

 そもそも、この世界は彼女の所有物なのだから。

 ……全ては最初から徒労に過ぎないのだ。

 

「この世界の運営権を委任されたのは、お前たちが生まれるよりずっと前だ。

 私たちにとっては数百年程度前の話だがな」

 それはちょうど、対抗神の制度が出来た頃だろう。

 その時文字通り、世界の法則が変わったのだ。

 

「ははは、なんだそれ。

 私は初めからあんたの神官だったのに、あんたを信仰してないって言われたのかよ!!」

 クリスティーンが渇いた笑いを浮かべながらそう言った。

 他にどんな表情を浮かべればいいかわからないようだった。

 

「委任、されたということは、この世界に居た元々の運営者は……?」

「これ以上傷つきたくないならやめた方がいいですよー」

 ぼそっとアンズ様が声を漏らした。さすがにこれ以上は不憫だと思ったのかもしれない。

 俺も先ほどから言葉が出ない状態が続いていた。

 

「私も、これ以上お前たちの尊厳を汚すつもりは無い。

 だがこれで、二代目よ。お前のお遊びは終わりだ」

 呆然自失状態の俺たち全員を見渡して、邪悪の女神はそう言った。

 

「え、やーです」

 だが、アンズ様は無邪気にそう答えた。

 

「二代目」

「そう、二代目。私はあの人の、“暴君”の二代目。

 ここでゲームを下りるって言うなら」

 諫めるような言葉に対し、アンズ様は笑みを浮かべて続けた。

 

「──全部全部、台無しにしてやります」

 最悪な脅し文句だった。

 その所業、まさしく暴君の如し。

 

「見極めは終了している。

 もはや逆転の目は無い」

「『ルールに沿えば』、ね」

 ここで初めて。

 

 邪悪の女神は心底嫌そうな表情をした。

 

「私はこの卓上に遊びに来た最後の客ですよ。

 運営なら最後の最後まで、持て成してくださいよ」

「……ならば、最後まで足掻いて見せろ」

 闇を纏い風にさらされるようにこの世界の天上へおわす御方は消え去った。

 

 

「それじゃあ、気を取り直していきましょう!!」

「この雰囲気でよく言えますね」

 俺は掠れた声でそう言った。

 今この時ぐらい、アンズ様も空気を読んでほしかった。

 

「でも時間は刻一刻と過ぎていきますよ。

 こうしてボーっとしている時間なんてありませんけど、いいんですか?」

 そう言われても、俺以外の全員が言葉を失っているのだ。

 

「分かっていたけど、あの御方があれほどの神だったとはね」

 リリウムもショックを受けて部屋の隅に座り込んでいた。

 

「まあ、一つの世界は樹木に例えられるんですよね。この世界にも世界樹とかありますし。

 その樹木がある庭を管理するアパートの住人をあなた達の信じていた神々とするなら、リューちゃんは領主とかそういうレベルですから」

 アパートの管理人や町長を通り越して、領主。

 かの御二柱は我々の想像を遥かに超えた次元の存在らしかった。

 

「まあ、その例えで言うなら私は王女様ですけどね!!」

「それを言うなら王妃では?」

「女の子はいつでもプリンセスに憧れるから良いんです!!」

 リリウムにあんな試練を課した当人がこんな物言いであった。

 

「だからもっとちやほやしてもいいんですよ? よ?」

 でも確かにリェーサセッタ様が気に掛けるだけの御方ではあるようだった。

 尤も、単純に偉いとかそういう話ではなさそうだったが。

 

「それより、今更私の試練から降りるなんて許しませんよ」

「……その試練の果てに、意味はあるのですか?」

 イリーナ殿がすがるように顔を上げた。

 

「この世界に、私たちが信じていたモノ全てに価値が無いと教えられてなお……」

「でもあなた達は生きているじゃないですか」

 アンズ様は何を言っているんだとでも言いたげに、そう言った。

 

「生きているんですから、最期まで生き足掻きなさい。

 それが私の知る人間なのですよ」

 実に女神らしい、アンズ様の叱咤だった。

 とても正しく、こちらの事情を全く考慮していないが。

 

「……わかりました。

 俺をアリサ殿のところへ送ってください」

 俺の言葉に、他の面々が力なく顔を上げる。

 

「この世界の何もかもが嘘だとしても、俺は生きています。

 ここまで来たら意地です。今更諦めるなんてできない」

 俺は理解した。

 

 この戦いは初めから、世界の命運を掛けた戦いなどではなかった。

 これはゲーム。

 

 神々の卓上で行われる、お遊戯に過ぎなかった。

 あの御二柱はこの世界のルールブックそのもので、魔王様がゲームマスターだというのなら。

 ここまでコケにされ、簡単に勝てると思われるのは癪に障る。

 

「では、彼女と共に最後の勝ち筋を探して見せなさい」

 アンズ様はとても無邪気に笑って、頷いた。

 

 その言葉と共に、俺の意識は薄れていく。

 さあ、行こうか。詰みの盤面をひっくり返し、あの御二柱に目に物を見せてやるのだ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラクターシート

 

 

 

 名前:クリスティーン・オルデン

 種族:人間  性別:女性 年齢:19歳

 出身:

 クラス:プリースト

 信仰・対抗:光の神・魔術神

 

 

 

 経歴

 ・スラム育ちである。

 ・あなたは天才である。スキル【天才】を獲得。

 ・自己中心的である。

 

 

 




何でこの世界の神様は何もしないのか、みたいな感想を貰いましたが、これがすべての真相になります。

二人は言葉を濁しましたが、この世界は神々の遊び場。
私たちにとっての、ただの卓上。彼らは所詮、生きた遊びの駒。

人気の無くなったゲームのサーバーを、運営は終了しなければなりません。そこに住んでいる住人が何を言おうとも。
これはただそれだけの話。終わりが決まっている徒労の物語。
これは彼らが生き足掻き、自らの価値を証明する戦いの話なのです。

長くなりそうなので、前回のアンケートの掘り下げの話は次回になります。
次章以降はどちらかというと、ミステリーと言うより解決編に近いかもしれません。
まだ構想が練れていないので、時間が掛かるかもしれませんが。ご了承ください。

結末はもう決まっているので、あとはそこにどう辿り着くか。
では、また次回!!

あなたが掘り下げてほしい女神は?

  • 天秤の女神アンズライール
  • 邪悪の女神リェーサセッタ
  • 文明の女神メアリース
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