『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
最後の最後の悪あがきをする為に。
「おい、とりあえず酒と出せるメニュー全部出してくれ」
王都の酒場はがらんとしていた。
客はというと、オレたちぐらい。
そうして出て来た料理は、乾いた肉詰めと野菜の酢漬け、そして蒸かしたジャガイモくらいだった。
「王都の酒場で出てくるメシがこれか。
いよいよ、この世界も終わりに近づいているってわけだ」
オレは酒を呷りながら、この国の現状を推察する。
これで六度目だ。慣れたもんだぜ。
「どうしたよ、二人とも。
カネなんて持っててもしゃーねえし、さっさと使っちまおうぜ」
オレと同じ席には、レナスティとイリーナも居る。
二人はまださっきの女神様の御言葉を引きずっているようだった。
「いつまで落ち込んでんだよお前ら」
オレはフォークで肉詰めを齧りながら二人に言った。
「……お前はいつも切り替えが早すぎる。
この世界に神は居ないと聞いて、何とも思わないのか」
じろり、と恨めし気にこちらを睨むイリーナ。
「何言ってるんだよ、神ならいるじゃねえか。最初から。
ごく単純に、その事実を知らなかっただけだろ」
オレは鼻で笑った。くだらない感傷だ。
「笑っちまうようなことじゃねえか。
オレははなっからこの世界はゴミだと思ってた。
それをこの世界を管理する御方が事実だと仰った。
むしろ良かっただろ、こんな世界に守ろうと思えるものなんて無かったんだ」
「クリス、それは言い過ぎよ」
ちまちまと酢漬けを食べているレナスティがボソッと言った。
「お前は嬉しそうだな。
仮にも光の神の神官だったくせに。
邪悪の女神の元に行くのがそんなに誇らしいか」
「だってこの世界がゴミだって証明されたんだぜ。
私達が何をしようとも、何もかもが上手くいかなかったのも、全部が全部このクソみてえな世界の所為だ。
それが今度こそ跡形も無く消えるんだ。私の手でやれなかったことが悔しいぐらいだぜ!!」
「キ、サ、マッ!!」
「なんだ、もう一回殺し合うかい?」
殺気をむき出しにするイリーナと、テーブル越しに顔を突き合わせオレは煽り続けた。
「あの女神様がどうやってオレらを生き返らせたと思う?
たぶん別の誰かが変わりに死んでくれたからだろうぜ。
この世界はそういう辻褄合わせで出来ている」
世界の仕組みは複雑で、難解にできているものだと思っていた。
だが、所詮は足し引きの問題に過ぎなかったんだ。
素晴らしいじゃないか!! 所詮は程度の低いオモチャだったわけだ!!
「あーあ、最初から御二柱がこの世界で信仰されてればよかったのに。
そうでなきゃ、居もしない連中を崇めることもなかったのによ」
無駄な時間を過ごしたもんだぜ、とオレは本音を漏らした。
この世界のどいつもこいつも馬鹿ばかりだ。オレがスラムに居た時からずっと、あの坊主どもは石ころをありがたがっていたわけだ。
イリーナは拳を握り締めたまま、だけどすぐに力無く椅子に腰を下ろした。
「……お前などに、親しい誰かを守りたいという気持ちなど分かるわけなどなかったか」
「今更でしょ、そんなこと」
失望を滲ませたままの彼女に、レナスティが言った。
「こうして、ゆっくりみんなで食事を取るなんていつ以来だったかしら」
そしてそんなことを言うような空気でもないのに、こいつは気だるげにそう呟く。
「アリサが居ないぜ」
「あの子は一人が好きだったでしょ」
その言葉に、オレは思わず笑ってしまった。
「何がおかしいの」
「お前、よくそれであいつの仲間面出来てたな」
なんて馬鹿馬鹿しい。
この世は滅ぶべくして滅ぶんだ。女神様や、魔王様の所為でもなく。
そんな事実が最高に愉しい。
「それで、勝算はあるのかよ」
オレは酒を注文し終えると、二人に尋ねた。
「まあ尤も、これ以上やる気が起きるならな」
「……お前はどうするつもりだ」
「最後のバカ騒ぎだ。内容によっちゃ付き合ってやってもいい」
「もうあなたにとっては何の意味の無い行動になると思うけど」
イリーナが思案するように黙り、レナスティが代わりにオレに問う。
「なあ、オレたち四人はこうなっちまう前は冒険者をしてたよな。
だが、冒険者なんてのは盗賊よりマシ程度の荒くれ者。
その違いは、その差はなんだ?」
オレは二人に問いかけた。
イリーナは宿屋の娘、レナスティはパン屋の家出娘、オレはスラム産まれで、アリサは落ちこぼれの学徒だった。
そんなオレたちが、なぜ冒険者をしていたのか?
「冒険者の仕事なんて、雑用か盗掘なもんだ。
だが上手いことすれば名を上げられる。
──そう、夢があったんだよ」
例えば太古のドラゴンが蘇りそれを討伐したり、封印された大悪魔を倒したり。
遺跡からとんでもないお宝を見つけたりできれば、産まれなんて関係無く羨ましがられるわけだ。
「お前らのことは仕事仲間としては認めてたぜ。
くだらねぇことで笑い合ったり、バカ騒ぎしたりな、悪くはなかった。
……ああ、お前らとつるむのは楽しかったんだよ」
本当なら適当なところで切り捨てるつもりだった。
いい感じのお宝を手に入れた時、難しい討伐依頼をこなした時。
こいつらを踏み台にすることなんて、いつだってできた。
だが気づいたら、最低ランクの冒険者の頃からいつも同じメンツだった。
「オレは誰も信じないし、信用しない。
だがお前らの仕事の腕は頼りになった。それで、最後の仕事はどうするよ」
オレはこいつらのことを仲間だなんて慣れ合いをするつもりはない。
仕事の報酬はいつだって等分だった。
「最後に分け合う報酬は、オレらを舐めてる女神様の悔し顔でどうだ?」
オレは、誰かに与えられる御身分なんてまっぴらだ。
「あの女神様に、配下にしてやる、じゃなくて、配下にさせてくださいって言わせてやるのよ」
オレは、誰にも依存なんてしない。
オレが欲しい物は俺が自分で手にする。
オレの意思は最後まで、オレのものなのだ。
「オレはいつだって、自分の力で道を切り開いてきた。私はその才能が有った。
そしてポケットに一枚金貨が残ってた。もう一度博打で遊ぶくらい許されるだろ」
「きっとあなたはその才覚なんて無くても、あの邪悪の女神様から認められていたわよ」
どこか呆れたようにレナスティはそう言った。
「……私は考えたんだ」
ずっと強張ったままの表情のイリーナが言った。
「世界を救いたいと考えた。でもそれは間違いだった。
私達が世界を救うことなどできない。私達には世界を救うことなど、傲慢だった」
そう答えるイリーナは、だが少しも諦めるなんて顔には書いていなかった。
「どうする、私達のブレイン」
いつだって物事の道筋を考えるのはイリーナだった。
女神様は、少しばかり目が無いらしい。こいつが、見所があるなんて程度ではないのだから。
「──────」
そして彼女は答えた。実にシンプルな、盤面をひっくり返す逆転の一手を。
「……そりゃあまあ、可能か?」
可能か不可能かで言うなら、言葉の上なら可能だった。
「理屈の上ではね。でも実質不可能じゃない」
レナスティの言葉は尤もだった。
イリーナの策は理想論だった。綺麗ごとをそのまま実現するような方法だった。
だが実現するなら、『この世界の人間すべてを丸ごと死なせずに済むかもしれない』極論染みた方法でもあった。
だからこそ、不可能に近いのだ。
「出来るさ、私達なら」
しかし、イリーナは不敵に笑った。
「レナの言っていたことが本当なら、あるモノが必要となる」
「私の?」
「ああ、そのためには魔王城にもう一度乗り込む必要がある」
オレはレナスティと顔を見合わせた。
「アリサが目覚めた後、魔王城に乗り込む。
そして例のモノを奪い取り、各国で仕込みを行う」
言葉にすればシンプルだ。
オレたちはともすれば、一度も戦わず全てを終えられる。
まさに
詰みの盤面を、盤面ごとひっくり返して滅茶苦茶にしてしまう、ある意味最悪のやり口だった。
「お前は、どれだけがその賭けに乗ると思う?」
「乗るさ。誰もが。なぜなら、誰しもが死に耐えられるわけじゃない」
イリーナは確信を得ているようだった。
オレも、レナスティも、その意見には賛成だった。
「その後、ダメ押しに私たちが各国の首脳陣に働きかければ終わりだ」
イリーナによる、世界を救う浅知恵だった。
いや、逆だ。
「どうです、女神様。サイコロを投げるのにふさわしい賭けでしょう?」
オレたちの席にいつの間にか座っていた女神様に、イリーナが目を向けた。
「いやぁ、まさかそう来るとは……」
これには天秤の女神も、唸っていた。
「そうなっちゃうと、私があなた達に与える報酬も必要なくなりますかね?」
「女神様」
イリーナは居住まいを正してこう言った。
「それでよかったんです。初めから、そうするべきでした。
私達に、貴女様が齎す救いは分不相応でした」
「それは違うでしょう」
指でサイコロを弄る女神は、小さく首を振った。
「あなた達がこの手段を取ることが出来たのは、あなた達がこの瞬間まで生き足掻いた結果です。
そうでなければ、ここまで必要な情報は出揃わなかった」
それは一種の慰めに近かった。
オレたちを散々振り回した女神が、慈愛の笑みを浮かべていた。
「私としては、それを実行させること自体がリューちゃんへの不義理みたいなものなんですよねー。
まあ結果が出て、何かしら不都合が有ったらその時は私達がその権能を以て修正しましょうか」
「そのサイコロを振らないんですか?」
「まさか、私にサイコロを振らせない方法を選んだのは貴女でしょう?」
イリーナの挑発染みた言葉に、くすり、と天秤の女神は笑った。
「でもまだ、私は何度もサイコロを振らないといけないんですよ。
時間を超越しているというのは、少々ややこしいものでして」
スッと彼女は神賽をテーブルの中心に置いた。
「あとは我が使徒の働き次第と言ったところでしょうね」
オレたちは、テーブルの上に置かれた賽の目を覗き込む。
サイコロは、六の目を示していた。
次回からいよいよ四章に突入します。
四章の六話目を以て、イリーナの最後の一手が何なのか明かされます。
ぶっちゃけ、この時点で彼女が何をするかは推察可能ではあります。
この小説にこの時点で出た情報で、一発逆転することが可能なのです。
ですがこれを読める人は出ないと思います(ドヤ顔
正直これをやってしまうと読者の皆様から顰蹙を買うかもしれませんが、この小説の数少ないTRPG風要素と言うことで。
さて、ここで突然の告知。
この小説も終わりが見えたところで、近々新作でも書こうかなと思っています。
ある程度は構想が練れたので、書きながら設定を保管していく感じで行きたいです。
新作の舞台は現代の魔法少女モノで、ギャグ路線で行こうかな、と。ギャグが不得意な作者が申しています。
世界観はこの小説と共通しており、拙作の過去作から登場するキャラが出るかもしれません。
とりあえず、次話までに一話は書いて、その後にこちらや活動報告で報告したいと思います。
作者の突然の新作書きたい病の発作に付き合ってくださるなら幸いです。