『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
彼女の盾は人々は守り、脅威への刃となる。
俺は再び、父ギルバードに引取られるところから始まった。
「せぇや!!」
「はッ!!」
俺と父上との関係は、親子だけではなく師弟としての側面も強い。
だから使用人を連れて遠出に行ったりしたことなど数えるほどもない。
父は俺を引取ったころには三十歳になっており、結婚して子供の二人はいてもおかしくない年齢だった。
しかし父上は武人として、己を高めることに全力を注いだ。
今にして、二度も父上の息子となって何となく分かった。
この人は誰かに自分の剣を受け継いで欲しいのだ、と。
本来ならそれは適わなかったはずだ。
弟子というなら剣術指南役として姫様もそうだろうが、あのお方は強すぎてそういう風に思えないのかもしれない。
そして、俺は理解したのだ。
前回は父上に甘えていたのである。
今回、父上は家を空けることが多くなった。
「お前は筋が良い。いずれ私と同じところまでこれるだろう」
そう笑う父上はとても嬉しそうだった。
自分の後継者として、俺は成長していたお陰か、俺に留守を任せることが多くなった。
それはつまり、前回は俺の未熟ゆえに無理して帰ってきてくれていたのだろう
本当に父上には敵わない。
「父上、父上、今日もバルハルト様とのお話をお聞かせください!!」
「おお、そんなにききたいか?」
俺は無邪気な子供を装い、バルハルト卿と父の武勇伝をせがんだ。
そう言う話に目のない子供として振る舞い、12歳の頃に漸く核心を突いた。
「そういえば、バルハルト卿はご子息はいらっしゃるのですか?」
「うむ? なぜそんなことを知りたい?」
夕食時、俺はワインを嗜む父上に問う。
「いえ、もしいらっしゃるのなら、手合わせ願いたいと思いまして」
「ふむ、それは残念だな」
父上はゆっくりと目を細めた。
「奴に息子がいれば、お互いに競わせたものだが」
「この際ご息女でも構いません、あの方なら娘だろうと剣を仕込むでしょうから」
「確かにそうだな。だが、それも敵うまい」
父上は首を振った。
「『バルハルト卿に子供は居らんからな』」
「そうですか」
俺は意気消沈したような仕草をした。
何となく、そうではないかとは思っていた。
バルハルト卿とイリーナ殿は、顔立ちが似ていないのだ。
つまり、イリーナ殿は養女だった。
しかもごく最近、これから三年以内に迎えられる子供なのだ。
考えられる可能性は二つだろう。
まず一つ目は、身寄りのないイリーナ殿をバルハルト卿が引き取った。
だがそれなら女をわざわざ騎士にする理由が分からない。
彼は一代限りの騎士卿なのだから。
もうひとつの可能性は、逆に騎士にするために引取った可能性だ。
貴族の子息の推薦ならばほぼ確実に騎士になることは出来る。
彼が彼女の才能を目に付け、イリーナ殿が親元から離れたという線である。
後者の方が濃厚で、恐らくそうなのだろう。
「であれば、いずれ姫様とお手合わせ願いたいですね」
「ははは、こやつめ」
本心だった。俺は父上から授かった剣術がどこまで通用するか見てみたい気持ちもある。
「本気ですよ。私は姫様のように成りたい」
「うむ、お前も励むといい。まあ、あそこまで剣術に打ち込まれても困るが」
父上は苦笑しながらそう言った。
俺は何の問題もなく十五歳になり、選抜試合の最終戦へと駒を進めた。
また姫様がこちらを見てくださるのかと思い、様子を窺っていると。
「選考試合の最終戦を始める!!
アラン・クリファ、そしてイリーナ・バルハルト。前に出よ」
だが、俺は名前を呼ばれて反射的に佇まいを正した。
俺はイリーナ殿と対峙し、お互いに礼をする。
「バルハルト卿のご息女と手合わせ願えるとは光栄です。
かの御仁の勇名は父からかねがね窺っています」
自然とその言葉が口から出た。
「……」
イリーナ殿は答えない。
もしかしたら、養父の武勇伝がぴんと来ないのかもしれない。
「失礼、言葉は剣で語りましょう」
俺はそう締めるが。
「私は、お前に負けるつもりはない」
前回と同じように、敵意と共にイリーナ殿は言った。
それに応じるように、俺は剣を構える。
ちなみに、試合は前回と同じような運びで終わった。
違いといえば、少しばかり試合が長引いたくらいか。
ほんの少し違和感を覚えたが、恐らく前回より俺の腕が上がったためであろうか
試合が終わり、イリーナ殿の手を取り立ち上がる。
彼女を礼を言って、立ち去ろうとすると。
「二人とも、しばしそこで待て」
試合の審判をしていた騎士が、俺達を呼び止めた。
何事かと思っておれはイリーナ殿を見たが、彼女は何の動揺もしていないようだった。
まあ、彼女は優勝したのだから、この後の展開は予想がつくのだろう。
そして、周囲で待っていた騎士候補達がざわめく程度の時間を待たされると。
「特例として、イリーナ・バルハルト、並びにアラン・クリファの二名を赤鷲騎士団へと配属を決定する!!」
審判をしていた騎士がそう宣言し、周囲から喝采を浴びた。
彼はこの試合を見ていた騎士団長たちからそう要請されたのだろう。
この選抜試合の優勝者は、代々赤鷲騎士団に入団する慣わしなのだ。
それが準優勝者も含めて二名というのは前代未聞なのだろう。
「貴殿が同僚ならば、これほど心強いことはない」
「貴方にそう言っていただけるのなら、これほど嬉しいことはない」
俺は一礼して彼女にそう返すが、顔を上げる頃には彼女はすたすたと向こうへ行ってしまっていた。
ガードが硬いと、苦笑しながら俺も元の位置へと戻った。
同じ赤鷲騎士団に配属された俺とイリーナ殿だが、新人は別々の部隊に分かれて配属されることになる。
そのため、あの試合以降は滅多に顔を合わせることがなくなってしまったのだ。
同じ騎士団に所属することを、同じ部隊に所属したことになるかどうかはいずれ女神と論議することにして、俺は僅かな訓練と共に最前線へと送られることになる。
父上が赤鷲騎士団に配属されることを我が事のように喜んでくださったが、どこかそれを望んでいないように見えたのはこの為だろう。
この騎士団はこの国で最も伝統ある騎士団で、所属する団員は最精鋭の存在なのだ。
最も危険な位置で人民の盾となる希望の象徴でもあった。
例え意図された運命であったとしても、そこの一員として働けることは騎士として無上の誇りだった。
俺はそれに恥じない戦い振りをするつもりだった。
……
…………
…………
魔王軍が侵攻を開始し、三年目に突入した。
連中との戦いは凄惨を窮めた。
魔王軍は神出鬼没であり、背後から攻撃されることなど日常茶飯事であった。
奴らをただの蛮族や野獣の群と侮るなかれ。
魔物たちは歩兵階級のゴブリンやオークなどを、闇夜に紛れ飛行する鳥型の魔物で大量に輸送して攻撃するなど、高度に組織化されている。
戦術・戦略を司るという魔王の配下たる魔人・魔族の存在もあいまって、人類は泥沼の消耗戦を強いられることになる。
各国はこれを連携して戦い、それでなお人類は魔王軍と互角の戦いを演じなければならなくなった。
この頃になって、王国軍は傭兵や冒険者たちを即席の兵隊として登用し、前線に投入。
ちょうど、かつての俺がそうだった様に使い潰されていく。
この頃になると、俺は赤鷲騎士団の小隊長として部隊を率いていた。
俺のような若造が部隊を預かるに至ったのは、単に有能な先人達が死んでいったからに他ならない。
俺の部下は半数以上が同年代で、他の小隊でも同じような状況だった。
その中でも目覚しい活躍を遂げるイリーナ殿は次期団長と目される存在となっていた。
「皆、今日はここで夜営しよう」
俺の部隊は遊撃として魔物を索敵及び強襲の役割を担っていた。
魔王軍との戦いは防衛線を敷くより、各所に部隊を配置し、連携を取り合って戦うという方が効率が良かったため、自然とこのような闘い方と成った。
その途中で、俺はかつて女神と出会った遺跡の近くへとやってきたので、夜営の最中に適当な理由をつけて部隊から離れた。
世界の滅亡が決まるあの日はまだ先であるが、先にあの場所がどういうものなのか確認しなければならないだろう。
ところが。
「無い……」
遺跡があった場所は、どこを探しても見つからなかったのだ。
よくよく考えてみれば、あんな分かりやすい場所にあった強力なマジックアイテムが、今まで発見されていないのは可笑しい話だった。
滅亡のあの日にのみ入り口が開かれるのか、あの四人のうちの誰かが遺跡への道を開くのかは不明だったが、どのみち入れないことは事実だった。
俺は後ろ髪を引かれる思いもあったが、その場を去ることにしたのだ。
そして月日は流れ、滅亡の日が訪れた。
俺は何も出来なかったという後悔を抱きながら、部隊の皆に許せる限りの食事を振る舞い、その日を終えた。
「何も起きなかった、だと……」
そう、滅亡の確定したはずの日は過ぎ去っていた。
俺は困惑しながらも、魔王軍と戦い続けた。
それから二年の月日が流れ、俺はその活躍から中隊長となった。
当初から魔王軍と戦い続けた赤鷲騎士団の殆どが入れ替わるような激戦につぐ激戦だった。
これが人類同士の戦いならば、休戦や停戦も有り得ただろう。
だが、これは人類と魔物の生存競争であり、どちらかが滅びるまで戦いは終わらないのだ。
そしてどの国も疲弊し、多大な犠牲と引き換えに、人類は魔王軍と最終決戦を控えるまでと成った。
俺はその地位から片隅で拝聴するだけだが、最終決戦への軍議にも参加することが出来た。
そこには騎士団長となったイリーナ殿、連合軍の事実上最高指揮官となったレナスティ姫が居た。
遠くから二人を見ることしか出来ない自分だが、参加するだけでも意義はあるだろう。
そうして軍議の開始を待っていると。
「お待たせしました」
俺はその声の主を見て、目を見開いた。
誰もが汚れた鎧を身に纏う中、まるで戦場には場違いと思えるような純白の衣の女性がやってきた。
そして、その女性こそ、『あの場所に居た四人のうちの一人』だった。
「なあ、あの人は……」
「ああ、かの聖女クリスティーン様だ」
隣の中隊長仲間に確認するようにきいたが、予想は的中した。
聖女クリスティーン。
光神教を崇拝する人間以外であろうとも、知らぬ物はいない有名人だ。
幼い頃に神の声を聞いたとされていて、市井の出でありながら強大な神聖術の使い手であるとか。
清廉潔白な人物で、教会の不正を幾度も暴き、人々から絶大な人気がある。
「こっちも今来たわよ」
遅れて入ってきたのは、魔法使いらしい格好をした小柄な少女だった。
彼女も、『あの場所に居た四人の一人』だった。
「彼女って、まさか……」
「ああ、魔導公国の最強の戦術魔法術師、アリサ・クローネンだ」
俺はまたしても隣の同僚に確認するように尋ね、確信した。
アリサ・クローネン。
隣国の魔導公国にある戦術に影響を及ぼすほどの強さを持つ魔術師集団でトップの実力を持つという。
戦いの中で屠った魔物の数は一万を超えるという強大な力を誇る。
ちなみにあんな容姿だが、俺と同い年である。
レナスティ姫。
イリーナ・バルハルト。
聖女クリスティーン。
アリサ・クローネン。
意図せず全員の素性を知ることが出来た俺は、なるほどと納得した。
魔王を倒すのにふさわしい四人であるとも。
それと同時に、なぜこの四人があんな殺し合いを起こしたのか。
それについて悩んでいると、俺はもっと混乱する出来事に遭遇する。
それは、恐るべき魔力を有する魔王に対する対策について論じていたときだった。
「大丈夫、こっちには切り札がある」
そう言ってアリサが指を振るうと、何かがふわふわと浮いて出てきた。
「な……」
それは、あの祭壇に有るべき宝玉であった。
「あたしと、聖女殿、そこの騎士団長と姫君で取りに行った古代の秘宝だよ。
これは『龍魂の宝珠』と言って、膨大な魔力が──」
そこから先は、覚えていない。
その翌日、魔王の居城とされる要塞に攻め入る運びとなった。
激戦の末に四人の率いる部隊が城内に突入した。
俺は部隊と共に場外にて敵兵と戦っていた。
城内からはこの世の物とは思えない轟音が幾度も鳴り響き、大地すら揺らした。
人類も魔物も、死力の末に訪れた結末は。
ぶおおぉぉおおん!!!
それは、『勝ち鬨のほら貝の音だった』。
それが城内から聞こえてきた。
「勝った、勝ったぞ!!!
あの人たちが勝ったんだ!!」
誰からでもなく、皆がそう口にした。
「万歳!! 姫殿下万歳!!」
「万歳!! 騎士団長イリーナ殿万歳!!」
「万歳!! 聖女クリスティーン万歳!!」
「万歳!! 大魔法師アリサ様万歳!!」
誰もが英雄達を称えるように声を上げていた。
「万歳、バンザイ!!!」
俺もわけが分からなかったが、人類の勝利を賛美した。
「万歳、バンザイ!!!」
「ばんざい、ばんざーい」
「万歳、バンザイ!!!」
「ばんざーい、ばんざーい」
そこで、俺は我に返った。
「ばんざーい、ばんざーい」
俺の真横で、一緒になって両手を挙げている女神アンズライールの姿があった。
周囲は音を失ったかのように静まり返り、色を失ったかのように色褪せ、全てが停止していた。
「これは、なぜ、いったい……」
その時の俺の胸中を推し量れる者は居ないだろう。
「『あの四人によって、魔王は倒されたはずなのに!!』」
「うん、分かるわ、その気持ちとっても分かる」
両手を組んで何度も頷くアンズ様。
周囲の風景は、いつの間にかあの祭壇と四つの死体のみである遺跡の奥へとやってきていた。
「教えてください、アンズ様。
あの四方は魔王を倒しました!! なぜ世界は救われないのですか!!」
「『その理由を探すために貴方は過去へ戻っているの』だけれど」
絶望し、涙を流す俺に対して、アンズ様は言葉とは裏腹に優しく背を撫でてくれた。
「理由? 理由があるというのですか?
正しい手順を踏んでなお、この世界が救われない理由が」
「ええ」
「なぜですか、なぜなのですか!!
貴方達はああして四人で宝珠を持ち帰り、魔王と戦い倒しうるのに!!
なぜここでこうして、争いあっていたのですか!!」
俺は女神ではなく、目の前で愚かな死に様を晒す四人に慟哭した。
「些細な歯車の食い違いが、誰も予想できない結末を生み出すのです。
ひとつだけ、ヒントを挙げましょう。
『あの後、魔王が滅びた直後から、未来は存在しないのです』」
「……どういう、意味ですか」
「それこそ、世界が救われない証左でしょう。
さあ、嘆いている暇はありませんよ。あと22回。貴方は私の試練に立ち向かうのです」
アンズ様はにこにこと笑いながら言った。
それは俺が悩んでいる姿を楽しんでいるというより、自分の難題に挑んでいってくれる姿を嬉しがっているように思えた。
「イリーナ殿の副官にして欲しい」
俺はキッと顔を上げ、アンズ様に言った。
「いよいよ踏み込むのですね」
「はい、このままでは埒があきません」
今までのは少しばかり迂遠すぎたのだろう。
だから核心に少しも近づけなかったのだ。
「何なら、彼女の恋人でも構いません」
「流石にそれはちょっと同じ女として嫌だけど……。
手段を選ぶな、とは言わないけど、相手の心に迫るなら間合いの取り方も重要よ」
「なるほど、剣術と同じですね」
「うーん、それはちょっと違うような……」
まあいいか、とアンズ様は苦笑した。
あの光景を見た後で手段を選ぼうと考えられないだろう。
「ここからが本番よ、頑張ってね」
俺はアンズ様に頷くと、過去へと意識が遡っていくのを感じた。
「チュートリアルは終了、と」
女神は掌で弄んでいた六面ダイスを指で弾いた。
例によって天秤に落下したダイスは、皿の中をぐるぐるとせわしなく転がりまわる。
二と三の目が黒く塗りつぶされ、そこだけが接地しないためだ。
やがて、六面ダイスは動きを止める。
出た目は、六だった。
※『 』の中の台詞の内容は全て真実である。
つまり、『女神はナチュラルに鬼畜である。』
つまり、『一回の逆行につき、一話とする。』
つまり、『どんなに長くなっても短くなってもそうする。』
つまり、『こうすれば大体三十話以内で終わる。』
――――
とりあえず、一章のはしりまで。
残りは向こうで書き終わっているところまで順次再投稿予定です。