『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
優しさは、そんな彼女の孤独を癒す猛毒だった。
「アイオン、今日はいよいよ国立魔法学院への入学の日ですね」
アイオンとなった俺は、前回のように身支度を整えていた。
学院の制服を纏い、俺はアンズ様に言われたことの意味を考えていた。
『俺を送ったこと自体に意味がある』*1、とは何なのだろうか。
「今は考えても無意味なことか。
とりあえず、今回もアリサ殿に気に掛けつつ彼女の同行を探るとしよう」
俺は今度の方針を固めて、鏡の前でネクタイを締めた。
たった数年とは言え、一度経験した貴族というのは堅苦しい。
姫様が全てを投げ出そうとしたのも今なら理解できる。
やれ世間体だの、誇りだの、今生の両親は堅苦しい。
取り巻きも面倒な連中だったから、今度は家の利益以外で選ばねばなるまい。
俺は今生の両親に少しだけ謝りながら、実家を発った。
§§§
魔法学院には通過儀礼のようなものがある。
個々の今の魔法力を図るための試験だ。
その内容とは、約三十メートルほど離れたところにある的に魔法を当てることだった。
正直、こんなことをしても全く当人の資質など図れない。
これがこの世界でも屈指の魔法学院のレベルだった。
はあ、ステータス画面で自分や他人の資質が一目瞭然だった頃に戻りたい。
あまりにも無駄が多くて、ため息が出るほどだ。
そうしているうちに、俺の出番となった。
「ファイヤーボール!!」
手のひらサイズの火球が一直線に的に直撃する。
爆風がこちらまで木片を運んできた。
この程度、ダークエルフ時代に魔法の訓練もしたので造作も無かった。
だが、ここでは周囲からざわめきが立つほどに驚かれた。
今更ながらに思う。
魔王様、やっぱり最初から難易度調整ミスってますよ、と。
彼らが精強な魔王軍に全滅するのは当然すぎる結果なのだろう。
とは言え、今の俺が魔王様に具申することなどできないので、三年後の魔王軍侵略に合わせて彼らが使い物になるようにしなければならない。
俺の試験を終えて待機していると、アリサ殿がやってきた。
俺は前回、彼女の成績を見ている。
「マジックアロー!!」
結果は、魔法の矢が的のやや上を掠って行った。
前よりは多少よくなった、そのような感じだった。
これではいけない。
彼女にはもっと強くなって貰わねばならないのだ。
幸いにも、俺の脳内にはこの世界より進んだ魔法鍛錬の論理があった。
今回を含めてあと五度、前回から今回までの成長率では魔王に挑むなんて夢のまた夢だ。
とは言え、だ。
俺は四度目の世界で、凄まじい強さに成長した彼女を知っている。
彼女がああなることは『確定事項なのだ』。
なぜならば、俺は居ても居なくても構わない立ち位置に存在している。
逆に言えば、俺が何をしようとも彼女の強さは揺るぎないと言える。
俺のやることは無駄かもしれない。
それでも、俺はやらなければいけないのだ。
俺は覚悟を新たに、決意したのだ。
俺は貴族らしい振る舞いをしつつ、前回の経験から取り巻きを厳選し、アリサ殿も庇護下に置くように機会を伺った。
さて、どうしようか。
俺は上級学部。
アリサ殿は通常学部。
同じ学び舎で学んでいても、まるで生きている世界が違うかのようだ。
だから彼女に接近するチャンスは選ばねばならない。
「あ、あのッ」
だから俺は、最初困惑してしまった。
「この間の試験、私も見てました!!
もしよければ、アイオン様に魔法の手ほどきをお願いできませんか!!」
「貴様、いきなり出てきてなんだ!!」
「そうだ、失礼だぞ!!」
俺の取り巻きたちががなり立てる。
まあ、彼らの言うことは尤もである。貴族の立場云々を抜きにしても。
「よさないか、皆」
俺はみんなを宥めた。
「我らは学生なのだ、共に学び高め合うのが本文だ」
「しかし、アイオンさん、こいつは通常学部で……」
「私はそういうしがらみは好まない」
俺はそう言って、アリサ殿に手を差し出した。
「君の名前を教えてほしい」
俺の言葉に彼女の瞳が若干揺れた。
彼女は前回の記憶があるので、当然今回の俺とは初対面だ。
俺も最初は心が痛んだが、もう慣れた。
「アリサ……アリサと言います」
「ではアリサ君、これから魔法詠唱の自主練をするから一緒に行こう」
「は、はい!!」
だが俺はこの時、気づかなかった。
彼女の瞳が異様な輝きを帯びていたことに。
§§§
「アイオン様、大変です!!」
俺の取り巻きにアリサ殿が加わり、皆に魔法の手ほどきをしてやりながら数日経ったある日のことだった。
「どうした、騒がしいぞ」
「それが、アリサの奴が決闘を申し込まれたらしくて……」
「決闘だと!?」
なんでそんなトラブルが起きたんだ!!
前回はそんなこと無かったはずなのに。
アンズ様は何も言っていなかったが、俺が新聞などで調べた限り、『ここは二度目の世界のはず』だ。
「いったいどうしてそんなことになった!?」
「それが、アリサがアイオン様に目を掛けられてるのが気に入らないらしく……」
俺にそのことを報告してくれた取り巻きは、アリサのことを心配そうにしていた。
彼女は努力家なので、その姿勢を見れば平民でも認めているのだろう。そう言う人物のみを前回の経験で選んだ。
「……止めねばなるまい」
「お供します」
俺は彼を伴って、件の現場へと向かった。
「何をしている、お前たち!!」
俺が現場にたどり着くと、中庭ほ広場でアリサと女子生徒が対峙していた。
「アイオン様!!」
「生徒同士の決闘は禁じられてるはずだぞ!!」
俺がなぜそんなことを知っているかというと、決闘騒ぎは学院生活で度々起こるからである。
主な原因は男女の痴情の縺れである。
アリサ殿は俺の登場にびくりと驚き体を震わせたが。
「アイオン様、この平民は我ら貴族を馬鹿にしたのです。
これは身の程を弁えぬ愚か者への躾けなのです」
そんな馬鹿なことを言うのは誰かと思えば、前回で彼女をイジメていた女子生徒だった。
「わ、私は貴族の人たちを馬鹿になんてしてません!!」
「ふん、あなたなんかの言葉を、誰が信じると言うの」
貴族と平民、どちらの言葉が信用に値するかは言うまでもない。
もう既に勝ち誇っているそいつに、俺はこう言った。
「確かに、貴族と平民、どちらの言葉が信用するのかは言うまでもない」
「そうでしょう、アイオン様」
「だが、それ以前に、この私が顔も知らぬ相手の言葉を鵜吞みにする愚か者だと思われたのが業腹だ」
ここで貴族の得意技、論点のすり替え!!
「そ、そんな、アイオン様!?」
「これ以上この私の怒りを買う前に、私の視界から失せろ。
……貴様も、実家に呼び出されたくはあるまい?」
俺がそう言うと、女子生徒は顔を青くして逃げるように走り去った。
「お前たちも、勉学に励むべき学び舎でこのバカ騒ぎの見物とは暇なのだな。
どれ、顔を覚えてやろうか」
俺の言葉に、決闘騒ぎに群がった野次馬どもが蜘蛛の子を散らすように退散した。
「アイオン様、私、私ッ!!」
アリサ殿は、恐怖と混乱からか涙を流してその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か、アリサ君」
「……大丈夫です、大丈夫です、ごめんなさい」
「君が謝る必要は無い。
だが、私が生徒会長に就任したあかつきには、徹底した意識改革が必要だな」
俺はそのように思案する。
生徒だけでなく、教師の方も抱き込む必要があるか。
たとえ、それが意味などなくても、最終的に死人の数は変わらなくても、俺はこうして生きている限り足掻かずにはいられないのだから。
§§§
「何の意味も無かったですね」
「……」
俺は俺の持てる全力を尽くして、そして死んだ。
何一つ変えることなく、当然のように。
孤児院の教壇に腰かけるアンズ様は戻って来た俺に肩を竦めてみせた。
「まあ、試行錯誤するのは良いと思いますよ」
そんな中身のない慰めをする彼女だったが、落ち込んでいるのは俺だけではなかった。
「知らなかった、アリサの奴がこんな孤独な学生時代を送ってたなんて……」
真面目なイリーナ殿がへこんでいた。
前回戻って来た時は外出していたようだが、どうやら全員ここに戻って来たようだ。
「オレは結構新鮮だな、あいつはいつも強がってて弱みを見せないからな」
と、クリスティーンは意地悪く笑っていた。
「レナ、お前は何か言いたそうだな」
「別に何も」
なぜかリリウムの奴は不機嫌そうだった。
「三人は勿論アリサ殿が何を願ったのか、知っているんだよな」
「残念ながら、もう体感時間が何十年も昔なのでな」
「そうか? オレは笑えたから覚えてるぜ」
クリスティーンの物言いに、イリーナ殿がきっと睨んだ。
「そんな言い方はないだろう!!」
「わかってないな、お前が覚えてないからこそ、あんな願いをしたんだアリサは」
急に真面目な表情で責めるようなことを言う彼女に、イリーナ殿は思わず口を噤んだ。
「レナ、君は覚えているのか?」
「……まあ、おぼろげにだけど」
「そうか……」
なんだか、彼女らの関係性が見える会話だった。
「アラン、君は頑張ったと思うぞ。
私があんな学院にいたら、片っ端からあの貴族どもの性根を叩きなおしている」
ソフィア殿は腕を組みながらそう言った。
「軍隊からベテランの下士官を教官として誘致し、定期的に訓練できるように取り計らうのは良い案だったと思う。
彼らには将来軍役に就く自覚が無いようだったからな」
「ええ、生徒の立場では限界を感じました」
とにかく俺は生徒たちが死なないように様々な手を尽くした。
並行してアリサ殿も鍛え、強くなった。
だが……。
「次は三度目の世界に行くのですよね、アンズ様」
「そうですよー、ここで意外性を出してもしょうがないですし」
「……だからこそ分からない。
四度目で魔王軍と戦ったアリサ殿は魔法使いとして世界最高レベルだった。
この時点での彼女は、その足元にも及んでない」
ハッキリ言って、アリサ殿は凡人だった。
リリウムやクリスティーンのような天賦の才の持ち主ではなく、イリーナ殿のように優れた資質をハイレベルに磨き上げた才人でもない。
誰もが努力の域でたどり着ける程度の、ありふれた才能でしかなかった。
そんな彼女が、あの戦いでは天才中の天才であるクリスティーンと並ぶほどの魔法の腕を見せた。
俺は全く、今の彼女がその領域に達する道筋が想像が付かないのだ。
「アラン君、ひとつ良いかな」
「なんだ、ステラ」
「私はあの子が何を願ったのかは知らないけれど、あの子がなぜあんなに努力しているか、知るべきだと思うの」
「ステラ!!」
なぜか心苦しそうにしているステラに、リリウムが声を挙げた。
「あなたの気持ちも分かるけど、決着は後にすればいいと思うわ」
「だけど、だけど!!」
「それって、この世界が滅ぶ前にしなければならないの?」
俺は二人の会話に付いて行けず、交互に両者の顔を見る他なかった。
「どうしたんだ、二人とも……」
俺の困惑に、他の女性陣たちもなぜか溜息を吐いた。
「お前には自覚は無いだろうが、アリサにとってお前はよりにもよってな人間なんだよ。
まったく、アンズ様も性格が悪い」
「てへぺろ☆彡」
なぜかクリスティーンの言葉に、アンズ様が愛想笑いした。
「……どういうこと何です?」
「とにかく!! 作戦タイム終了!!
あなたはさっさと次へと行ってください!!」
アンズ様の指が鳴った。
急速に俺の意識が遠のいていく。
「ひとつ助言をするなら、あなたはあなたらしくすればいいと思いますよ。それじゃあ!!」
とにかく、俺は俺の出来ることをやるしかないらしい。
「さて、と」
彼を送り出したアンズは、止まった時の中でパチンと手を叩いた。
「あんな何も変えられない朴念仁の悪あがきなんてもう見飽きたでしょう?
この章は解決編。そろそろ、彼女達がいかにして袋小路に追い込まれたのか見ていくべきでしょう」
彼女が指をくるくる回すと、今回の戦いで骸を晒した彼に縋りついて泣き叫ぶアリサの映像が虚空に映し出された。
「彼女は本当に、見るべきところも無い平凡でスタンダートな性格な人間です。
ですが、人間というのは良くも悪くも変わるもの。それが恋ならばなおのこと。
私のダーリンも、私とラブラブになって変わりましたしね!!」
くねくねと身をよじらせてのろける彼女は、一通り満足すると“あなた”に向き直った。
「まあ我ながら、罪深いことをしていると自覚はありますけれどね」
彼女は天秤を置いて、神賽を皿の上に投げた。
からん、からん、と転がったサイコロの目は“3”。
「ところで、解決編には探偵役が必要ですよね?
探偵役には当然、助手が必要不可欠!!
いったいその役柄は、誰になるんでしょうね」
くすくす、と幼い女神は無邪気に笑い声を漏らすのだった。
お待たせしました、およそ一年半ぶりの更新です!!
正直今連載中の奴が行き詰まってきたので、気分転換にこちらを書きました。
あと四話ぐらいで完結なので、もうこっちを終わらせようかと思ってます。
いい加減こちらも完結させたいので、こちらは残り短いですが、どうぞお付き合いください!!
ではまた次回!!