『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~ 作:やーなん
これにて、終幕
徒労の終わり
「解せんな」
世界の最果ての城にて、魔王は呟いた。
この世界を滅ぼす為に派遣された彼は、いくつかの世界を破壊すれば連鎖的に全てが崩壊すると聞いていた。
彼は己の仕事は完璧にこなしたはずだった。
彼を遣わした神々もとっくに人々を見放している。
この世界の存続の必要は無いに等しい。
だと言うのに、彼の上司は“泣きの一回”を受け入れた。
これ以上見定めることなど無いのに。これ以上人類の不甲斐なさに失望する必要はないのに。
だが、もう一度あの勇者たちが自分たちに挑みに来ると言うのなら、それは悪くない。
魔王の望みは、神々の望み。
ヒトの可能性を信じる二柱に創造された彼は、人類を試さずにはいられない。
「いずれにせよ、これで最期だ」
そうして眼を閉じ、微睡んでいた魔王に報告が入ったのはすぐだった。
魔王城に侵入者が来た、と。
§§§
「私はもう、魔王とは戦わないわよ……」
「その必要はない。安心しろ。
いや、より正確に言うなら
最期のチャンスとしてまだ無事な世界に移動させられた彼女たちは、すぐに連絡を取り合って集結した。
弱気な学徒に、ただの宿屋の娘は安心するようにそう述べた。
「そう言えば、アリサには詳細をちゃんと説明してなかったな」
「私達だってリスクの高い賭けはしないわ」
神官の娘と、パン屋の娘はそう確認し合った。
「ああ、我らは失敗出来ないからな。
勝算の高い賭けしかしない」
「それが、魔王城に乗り込むって話なの?」
「今なら警戒されていないからな、そしてそのチャンスは二度とないだろう」
「ところでさ」
パン屋の娘──ステラは二人の会話を遮ってクリスティーンの方を見やった。
「何で私達の立場が元に戻ってるのに、ちゃっかりあんただけ前のままなの?」
「そりゃあ、オレの願いが叶った結果だろ」
クリスティーンはみすぼらしい一般庶民に戻った三人を見渡し意地悪く笑った。
「……まあ、一人だけズルいなんて言わないわ」
「我らも流石に懲りたしな……」
「結局は高望みしないのが一番だよ」
すっかり後悔している元姫と元騎士の娘は、最後まで庶民だったアリサに溜息を吐かれていた。
「とにかく、城内のマップは頭に入っている。
例の“お宝”はちゃんとあるんだろうな? ──アラン」
クリスティーンはこの場の最後の一人、花屋の息子に声を掛けた。
「ああ、ブツは備品の保管庫にあるはずだ」
「良し。じゃあ行くか、アリサ頼んだ」
「うん」
段取りの最終確認を行い、お互いに顔を見合わせた五人は顔を見合わせ頷いた。
そして、アリサが魔法を発動させた。
その直後、彼女達の姿が掻き消えた。
「敵襲、敵襲!!」
そして魔王城は襲撃に遭い、大騒ぎとなった。
「クリスティーン、任せた」
「おうよ。そっちも死ぬなよ」
五人は二手に分かれた。
「フレアブラスト!!」
アリサが爆発魔法を放った。
魔王城の二階部分が丸ごと吹き飛んだ。
焼け焦げた敵が悲鳴を上げているのが聞こえた。
「これ以上好きにさせるな!!」
隊列を組んだ魔物の軍勢が、彼らに押し寄せて来た。
魔法や弓矢の遠距離攻撃が雨のように降り注いだ。
「任せろ、この程度なら問題ない」
イリーナが前に立ち、タワーシールドで地面を鳴らすと防御範囲が拡張し見えない壁のようになって攻撃を防いだ。
「アラン!! 合わせて」
「ああッ、いくぞステラ!!」
攻撃をやり過ごすと敵の前に剣士二人が躍り出た。
「鉄斬一閃!!」
「斬魔ノ太刀!!」
敵に有無を言わせぬ剣舞の嵐。
ステラが前衛を切り崩し、後衛をアランが撫で斬りにした。
「魔力感知発動!! 敵影確認、数五十ッ、第二陣来るよ」
アリサが魔法のソナーを発動させると、新手の接近を察知した。
「姫、ブランクがあるにしては技の冴えは衰えませんな」
「姫はもうやめて、アラン」
彼の軽口にステラは頬を赤らめて睨み返した。
その直後、光弾が降って来た。敵の攻撃だ!!
「油断するな、馬鹿者」
二人の前に割り込んで、攻撃を防いだイリーナが二人を叱責する。
「悪い!!」
「借りは戦働きで返すわ」
さあ、もう一戦だ。
「あった、これだ!!」
その頃、四人を陽動としてクリスティーンは魔王城の備品保管庫に侵入していた。
ここは宝物庫のように防備が厳重ではない為、開錠ひとつであっさり入れた。
彼女は目的の物を奪取すると、すぐにその場を後にしたのだが。
「困りますね、備品の持ち出しには申請書類を提出してもらわなければ」
「げッ」
彼女の前に現れたのは、魔造将──即ち、女神メアリースの化身だった。
「あなた方が何をするつもりなのか、何を仕出かすつもりなのか、概ね把握いたしました。
なるほど、妙手かと判断いたします」
「主上に告げ口するかい?」
イリーナが建てた作戦は、結局のところこの世界の管理者たる女神メアリースが否と言えば不成立なのである。
彼女らのやろうとしていることは“可能”なだけで、ルール上はまったく問題ないが、ゲームマスターの神経を逆撫でする行為だった。
「……いえ、私もあなた達の成すことに興味があります。
貴方も知っているでしょう、魔王様が派遣されどれだけの世界が存続を許されたか」
「ああ。……あんたは、見逃してくれるのか?」
「我々は総体なのです。本体が全ての決定権を握っているように見えるだけで、あれはそういう
あの本体の振る舞いはかつての生前の行動に則った表現をしているだけ。
本体と我ら分体に上下はありません」
「それは……」
クリスティーンは実はかなりの衝撃を受けた。
神とは絶対。無限の女神とも称される存在の主人格の振る舞いは全て、“演出”に過ぎないと彼女は語ったのだ。
「……ならもっとマシに出来ないんですかね」
「我らは人類の概念そのもの、人間味が無ければ親しみも湧かないでしょう?」
女神の化身は“お茶目”に笑ってみせた。
その仕草に、クリスティーンは背筋にゾッとした。
「ですが、忘れないことです。
──私は人類の愚かさを熟知している。あなたのすることが安易な道だと思わないことです」
「たしかに、そうかもな。
人間ってのは下らない馬鹿な連中ばっかだ」
だけど、クリスティーンは笑ってみせた。
どこまでも傲岸に、不遜に。
「だが、オレはオレを信じている。
その他ならぬオレが、勝算ありとしてこの賭けに乗ったんだ。
他の有象無象はともかく、このオレを舐めんじゃねえ」
「そうですか、楽しみにしています」
どこまでも無機質な女神の化身に見送られ、クリスティーンは立ち去った。
「勇者たちよ、人類を照らす光となるのです。
あなた達が、人類の可能性を示すのです」
「第五陣、来るよ!!」
「了解!!」
陽動を務める四人は激闘を未だ繰り広げていた。
魔王軍は無尽蔵、無制限の軍勢。終わりなど来ない。
「おいッ、お前ら!! 目的のブツは手に入れた!! ずらかるぞ!!」
「よし来た!!」
だがそこにクリスティーンが合流した。
彼らは勝利条件をクリアした。
「待機呪文解放!! 空間転移、発動!!」
アリサがあらかじめ詠唱し待機させていた魔法を解放した。
即座に五人の姿が掻き消える。
こうして、魔王城の内部をかき回すだけかき回した五人は、嵐のように立ち去ったのだった。
§§§
「はあ、はあ、上手く行ったな」
「やっぱり、機動力こそが正義だな」
まんまと鉄火場から逃げおおせた五人は、汗を拭って息を整えた。
「これが、“鍵”か。まさかこんなものだとは……」
クリスティーンが魔王城から奪ってきたのは、小さな棒状の物体だった。
それはこの世界の誰にとっても、データに存在するだけで価値のない代物だった。
そのはずだったモノを、イリーナは全てを逆転する鍵に変えた。変える積りなのだ。
「おい、なに安心してやがる。本番はこれからだろ。
これを手に入れることは、第一条件に過ぎないんだ」
「分かっているさ」
だが、イリーナは不敵に笑った。
「それじゃあ、始めましょうか。
────―私達の、本当の勇者行脚を」
そう口にしたステラは、どこか皮肉っぽく自虐的な笑みを浮かべていた。
一か月後。
「陛下ッ、此度の争乱の原因たる自称勇者一行を捕らえました!!」
「連れて参れ、余が直々に沙汰を言い渡す」
ここはヒルデン王国、その王城。
国王は最近国内を騒がせている危険分子を捕らえたと報告を受け、執務室から謁見の間へと移動した。
危険分子たちの犯した罪は、国家騒乱。
手続きを省いて王が直々にそして速やかに処刑を言い渡す大罪だった。
そうして、罪人たちが連れて来られた。
「若いな。お前たちが自称勇者一行か」
縄に繋がれ、連行されたのは若い男女だった。
「罪状を確認しよう。
お前たちが我が国内にて妄言を流布し、民衆を扇動していた。これに相違ないな?」
「我らの言葉が妄言という言葉以外は、概ね間違いありません」
勇者一行の一人──イリーナが口を開いた。
「たわけたことを。
魔王が現れ、この世界は何度も滅ぼされているなどと、気が狂った邪教の妄言以外何物でもないわ!!」
王のそばに控える宰相が声を荒げた。
「……おや宰相殿、ご息女は息災でしょうか」
「貴様と娘が何の関係がある」
「なあ、イリーナ。さっさとやっちまおうぜ。
この国は結局最後まで魔王軍に攻め滅ぼされたことが無いんだから、説得するだけ無駄だろ」
揺さぶりをかけようとしたイリーナだったが、そんな彼女にじれったく感じたクリスティーンが退屈そうに口を挟んだ。
「……聖光法国と魔法帝国の了承は得られた以上、ここで拘留され無駄に時間を浪費するのは下策か。
────アリサ」
「ウインドカッター」
次の瞬間、アリサの魔法が全員の拘束を切り裂いた。
彼らが自由を取り戻した直後、動いた人物が居た。
「ギルバード・クリファ伯爵!!」
ステラがかつての師にして恩人の名を呟いた。
彼は一太刀にて五人をまとめて斬り捨てるべく動いたのだ!!
「させない!!」
武装解除されないように髪の中に隠していたナイフで、ステラは彼の一撃を弾いた。
「アイテムボックス!! 宝剣をッ」
彼を無力化する為に、アランも虚空から剣を取り出し応戦した。
「その剣は、この世に二振りとない我が家の家宝ッ。
それをどこで手に入れたッ!!」
「貴方からですよ、知らないのも当然ですが」
「戯言を!!」
かつての師、かつての父、その本気の太刀筋にアランも負けじと一合一合と刃を重ねていく。
「おいアラン、目的を間違えるな。
ったく、行くぞ、──全員、こっちを見ろ!!」
その直後、クリスティーンが手にした棒状の物体から光が放たれた。
「ぐッ、これは!?」
それを目にした、ギルバード卿の脳裏に見知らぬ光景がフラッシュバッグする。
『筋が成っていないぞ、アラン!!』
『私の息子です。多忙極まる姫様の一時の慰めになれば、と』
『今まで言わなかったが、お前を養子に取ったのは、夢に出た女神の啓示であった』
『不安かね』
『私も初めはそうだった』
『自分の全てを出し切ればいい。
そうすればお前なら、必ず上手くいく』
『ああ、そうなのか。すまない、後を任せてしまうな……』
『このような……柔らかい姫様の手は、貴女様の幼い頃のことを、思い……出……し』
からん、と、ギルバード卿は剣を取り落とした。
「アラン……お前なのか」
「思い出して、頂けましたか……」
安堵したようにアランは剣を下ろした。
ギルバード卿は周囲を見渡すと、周囲の兵士や貴族たちも自身のうちに生じた未知の記憶に混乱しているようだった。
「あの光は……」
「あれは、別世界同士の同一存在の記憶を統一するための機械なんです」
クリスティーンが魔王城から奪ってきた棒状の物体、それは別世界の自分から記憶を継承する為の装置だった。
アランが魔人将だった時、リーパー隊へ説明を省くために使用した代物だった。
アランの話を聞いたイリーナが、それを使えば人類を説得できると考えたのだ。
それこそが、この詰みの盤面をひっくり返す逆転の一手だった。
「そんな説明じゃわかりにくいだろ。
あれだよあれ、運命の女神様の奇跡でいいだろ」
「雑過ぎ……」
クリスティーンの物言いに思わずアリサがボソッと呟いた。
「さて、宰相殿、お久しぶりです」
「……そ、その方はイリーナ、なのか?」
「魔王との戦いの際には、お世話になりました」
イリーナが恭しく宰相に頭を下げた。
彼女は宰相とは見知った仲だった。この王国が魔王軍と戦うために改革が必要になった際、いつも手を組んでいた。
「此度が最後のチャンス故、人類を守る策を用意して参りました」
「だ、騙されるな!! そやつらは国家の敵だ、魔王に我らを売り渡しにきたのだ!!」
そう叫んだのは、国王だった。
彼は青褪め、震えていた。彼も思い出したのだ、自身を何度も幽閉に追いやった、目の前の鉄の女のことを。
その時だった。
玉座の間の扉が開いたのは。
「レナスティ姫の御なりだ!!」
扉を開け、ソフィアが先導し己の仕えるべき者をエスコートした。
「陛下、見苦しいですわ」
本物の、正真正銘の立場を取り戻したレナスティ姫が現れたのだ。
「ステラ……」
ステラが彼女の登場に思わず目を見開いた。
「お前も、また、余を幽閉するつもりなのか!!」
「私は彼女らと共に、大いなる女神に出会いました。
彼女達の言葉の正当性は、私が保証します」
本来、国王を幽閉したのはレナスティ姫だったステラだったのだが、彼はそれを知る由も無いので大いに恐れていた。
「お父様……」
「来るな、来るな!! 衛兵、衛兵!! こ奴らを退けろ!!」
国王の言葉は、誰にも届かなかった。
なぜなら、ここにいる面々は思い出していた。
彼と、彼女、どちらに治められた方がよかったか。
「誰か、誰かッ」
「お父様」
記憶の混濁で錯乱している国王に、しかしレナスティ姫はその足元に膝を曲げて彼の手を取った。
「今まで、ほったらかしにして申し訳ございませんでした。
もう一度、親子をやり直しましょう。もうあなたを遠ざけたりは致しませんから」
その言葉に愕然とした国王だったが、やがてゆっくりと俯いて頷いた。
「もうお父様をのけ者にしたりしません。
これからすることは、人類すべての同意が必要なのですから」
そう言って、彼女はこの場の全員に訴えかけた。
「姫様、助かりました」
「……ふふ、私が出てなくても何とかなったかしらね?」
レナスティ姫は子供っぽくイリーナにウインクした。
「いえ、本当に助かりました。
今度こそ誰も取りこぼしなく、全てを救うつもりだったので」
レナスティ姫はイリーナの目を見て、他の四人の顔も見た。
全員、その言葉が本気だと理解し、彼女は微笑んだ。
「あなた達こそが、本当に勇者と呼ばれるにふさわしいのでしょうね」
こうして、全ての準備は整った。
更にひと月後。
「実に、意外だった」
魔王は地上を見下ろしながらそう呟いた。
彼は今、珍しく魔王城から離れていた。
魔王は城の奥にて待ち受けるべし、そんな美学に反して玉座から腰を上げたのは理由があったからだ。
「魔王様、お加減はいかがでしょうか」
魔王に侍る四将が一人、魔導将が問う。
「悪くない、此度の招待、実に興味深い」
彼らは今、空に居る。
空飛ぶ巨大な黒船に乗り、目的地へ向かっていた。
やがて、空の航海も終わりがやって来た。
彼が招待された会場に到着したのだ。
そこは、毎回派手に破壊したりしなかったりする、聖光法国の聖殿だった。
国際的な会議にも使用されるここに、彼は招かれた。
「魔王様の御前である!!」
魔導将が会場に到着すると同時に宣言した。
そこには、この世界の各国要人、国主が勢揃いしていた。
「魔王様」
代表として、レナスティ姫が片膝を突いて彼の前に跪いた。
「我らこの世界の人類は、全面降伏いたします。
そして我々全て、偉大なる女神メアリース様の庇護を受け入れます」
「そう来たか」
魔王は思わず喜色を浮かべた。
「随分な賭けに出たものだ。
人類の歴史とは、虐殺と迫害の連続だ。
人類の概念そのものたるメアリース様がお前たちを滅ぼすと言ったらその通りになる。全面降伏とはそう言うことだ。それでも構わないな?」
魔王は人類の乾坤一擲の策を瞬時に理解した。
イリーナが提案した逆転の
戦って人が死ぬなら、戦いに持ち込まさなければいい。そんな逆転の発想だった。
その為の最低条件が、魔王城の備品の奪取だった。
「全て、神に委ねます」
レナスティ姫は聖者のように微笑み返した。
「魔造将」
「ここに」
魔王の呼びかけに、女神の化身が影のように現れた。
「メアリース様の判断を伝えます。
我が庇護を求める者を皆殺しにするなんて、そんな
──彼らの提案を受け入れる、だそうです」
しん、と静まり返った。
歓声は無かった。
ただ、誰もがやり切ったと言うことに涙をした。
記憶を取り戻した彼らは皆、疲れていた。全員が、アラン達の味わった地獄の繰り返しをその身に味わったようなモノだったからだ。
「驚いた、メアリース様がそのような判断をなされるとは」
「人類の意思統一は、ハッキリ言って困難を極めます。
思想、文化、立場、性別、その他諸々を含め、人々は常にバラバラです。
──たとえそれが、滅ぼされる直前になっても。
それを一つの意見に統一するのは、文句なしの偉業と言えます」
女神は、彼らの行動を評価した。
彼らは自分たちの価値を示したのだ。
「……此度の一件は、大変勉強になりました」
魔導将はこの稀有な方法で世界を救った人々を見渡した。
「我が最初の仕事が、このような案件だったのは実に興味深かった。
これより先、どれだけ世界を滅ぼそうとも得難い案件であっただろう」
魔王はそのように宣言し、彼らと同じ席に着いた。
「では、子細をまとめようか」
§§§
エピローグ「勇者たちのその後」
「よし、アラン。頼む」
「任された」
俺は10フィート棒を取り出し、迷宮の通路の先を探った。
プチッ
「あッ」
がらん、ゴロゴロゴロゴロ。
「大岩だあぁぁ!!」
俺たちは逃げ帰った。
「はあはあ、糸が切れて大岩が来るとか殺意高すぎだろ!!」
「このタイプのトラップは棒で感知前に別の方法で調べる他ないな」
逃げ帰った俺たちは、拠点の町で一息吐いた。
「やっぱり魔法で感知する?」
「魔法にも限りがある。魔法でしかできないことに魔法を使うべきだ」
アリサの提案に、イリーナは首を横に振った。
「逃げなくても、あれくらいの大岩なら私が斬り捨てたのに」
「あんな大質量では切ったところで止まるわけないだろう」
脳筋なステラの物言いに突っ込みつつ、酒場へと入った。
俺たちは席に着くと。
「イリーナ、なんで普通にアランの横に座ってるの」
「うん?」
「今日は私の順番なのに!!」
テーブルの俺の横に何げなく座ったイリーナは俺の顔を見てフッと笑った。
「彼は私の相棒だ、隣に居て当然だろ」
「はあ!?」
彼女の発言に俺は思わず声を上げた。
「もう一回殺し合う?」
「構わないけど、勝つのは私だよ」
「落ち着け、二人とも!!」
何とか殺気を漲らせる二人を落ち着かせると、俺たちはウエイトレスに料理を注文した。
「やはりシーフは専門が居ないとダメだな。
こんな時にクリスティーンが居ればな」
「あいつ、今頃神官として働いてるのかな」
イリーナとアリサが、かつての戦友に想いを馳せていた。
俺たちは人類を救った。
だが、俺たちの故郷は元々撤去予定だったらしく、人類だけが助かった形だ。
住人たちはそれぞれ要望をだして、別の世界へ旅立っていった。
俺とイリーナ、ステラとアリサは冒険者の活動が主産業の世界へと身を置くことにした。
今日も俺たちはダンジョンに潜り、そこから資源を持ち帰る日々だ。
「アラン、やっぱり冒険者なんて辞めましょ。
一緒にスロゥラに帰ってパン屋でもしましょう」
「ステラだけ抜け駆けなんて許さないから!!」
二人の言い争いも、慣れたものだった。
さっさと食事を終えると、露店を見回ることになった。
「なあ、アリサ」
「なんですか、アランさん」
順番なので俺の片腕に抱き着くアリサに、俺は胸の蟠りを口にした。
「今にして思うと、お前がアンズ様に願って現れたのは、俺じゃなくてあの悪魔だったんじゃないのかって思うんだ」
「だったら、何ですか?
運命の相手じゃなかったら、一緒に成っちゃダメだと?」
「そうじゃないけど……」
アリサは胸元に手をやった。
かつてそこに有ったブローチを撫でるように。
「あんな他人を馬鹿にしたような奴、私の理解者なわけないじゃない。
私はもう諦めない。ずっとあなたの側に居る」
こうなったら彼女は頑固で、俺は流されるままになってしまう。
いつか答えを出さなければならないのだろう。
何者でもない、誰でも良い誰かだった俺は、いつか掛け替えのない誰かに成れるのだろうか。
それはまだ、分からない。
「あああぁぁ!!」
その時、別の露店を見ていたステラの声が聞こえた。
どうした、とそちらを見に行くと、俺は目を見開いた。
「あら、アラン君。久しぶり」
そこに居たのは、レナスティ姫だった。
と言っても、その格好は庶民そのものだったが。
「姫様、どうしてここに!?」
「どうしてもなにも、政治経験を生かして父上がこの町の議員に立候補しているのよ。
私も、ステラのお父さんと一緒にこっちでパン屋をすることになってね」
ソフィアや孤児院の子たちも手伝ってくれるのよ、と彼女は生き生きと笑っていた。
「いつでもうちの店に寄ってね、サービスして上げるから」
俺の手を取って、可愛らしくウインクする姫様。
「いやはや、お前の周りは退屈しないな。アラン」
彼女に嫉妬心を燃やす二人を、横からイリーナが楽しそうに笑って見守っていた。
「お前たちの行いは、私も驚かされた」
クリスティーンはその師たる魔導将と共に、邪悪の女神リェーサセッタから言葉を貰っていた。
「やはりお前は私が見込んだだけはある。
これからのお前の働きに期待するぞ」
「勿体無きお言葉です」
二人は頭を下げると、女神の気配は消え去った。
「さーて、これでオレは晴れて未来の大神官か。
神サマに気に入られるとか、これでオレの将来は安泰だな」
「さて、どうでしょうな」
不遜な態度だが、師である魔導将はこの場は指摘しなかった。
「この業界にいるとよく言われることですが、神に好かれるのと嫌われるのは同じことである、と。
そううまくいくのでしょうかね」
「師匠は心配症だな。
安心しろって、いつかオレの師匠だって、周りに自慢させてやるよ」
クリスティーンは彼女の知り合いが見れば目を疑うような屈託のない笑みを浮かべた。
彼としても、彼女の才能は知っているので大丈夫かと思い直した。
しかしながら、彼の心配は現実となるのはもうすぐ先だった。
クリスティーンがフリー素材さながらにいろいろな世界に派遣されまくると知るのは、もう間もなくの事である。
「はい、これにて今回のセッションは終了いたしまーす」
「お疲れ様でしたー」
「おつかれー」
「お疲れです!!」
「いやー楽しかった」
女神アンズライールがルールブックを閉じると、卓を囲んでいた神々が拍手をしました。
「次はどんなシナリオで楽しもうか?」
「また同じ駒で遊ぼうかな」
「私も私も、今回のシナリオで愛着が湧いちゃった」
「賛成、でも次は別のゲームで遊びたいな」
神々は口々に此度のセッションの感想を言い合いました。
楽しそうに、笑い合いながら。
なぜなら、彼らは人間の営みを愛しているのですから。
今日も、明日も、これからもずっと、人間たちの生き死にに一喜一憂することでしょう。
「残念だけど、それも終わりだよ」
そんな中に、空気の読めない奴が現れました。
黒いローブの、子供のような外見をしたちっぽけな悪魔でした。
「誰かと思えば、下級悪魔が何の用だ」
「我々の遊びを邪魔するか」
「失せろ、さもなくば消えるか?」
「貴様など、我らのシナリオには不要だ」
神々が彼に敵意を向けた時でした。
タダの人間と変わりないほど弱々しい『悪魔』が、虚空から一振りの魔剣を取り出しました。
「ば、馬鹿なッ、なんで貴様のような木っ端悪魔がそれを!!」
「まさか実在していたのか!?」
「い、いや、たすけ──」
ざしゅ、ばさッ、ずしゃ
「か、神殺しの、魔剣────なぜ、お前のような悪魔がッ」
ぐしゃ
「…………私達神々は不滅の存在。
火を消しても、“火”と言う現象は消えません。
相変わらず、無駄なことをしているんですね」
「お前に言われたくないよ」
神々の血糊のように纏わりついた魔力を刀身から振り払い、『悪魔』はその切っ先を彼女に向けました。
「人間の意思は、人間だけのものだよ」
「試してみますか、それを」
「ああ。お前もずっと、それを望んでたんだろう?」
女神は微笑み、悪魔は大上段から刃を振り下ろしました。
ああ、そして、幕が下りた────。
これにて、拙作『ラウンドテーブル』は完結いたしました。
某所で、これを完結しなければ筆を折ると宣言して、ここまで長い時間が掛かりました。
本当は夏の間に終わりたかったのですが、先月勤め先が倒産で無いなってしまし、失意のまま、ようやく続きを書けるようになりました。
こちらで続きを書くも、二年越しの完結と相成りました。
無事完結に至り、安堵の極みでございます。
普段プロットなど書かない私ですが、この作品は初めてプロットを作成して書いた小説で、こっちでは順当な評価を受けて個人的に満足であります。
某所でお気に入り23人だったこの作品が、こっちでは1,000人近くにお気に入り登録してもらい、恐悦至極です。
次回作の構想もありますが、長くなりますので今日はこの辺りでお別れとしましょう。
読者の皆様。これまで拙作を読んでいただき、ありがとうございました。
では、作者の別の作品でまた!!