『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

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あくまで客人

 

 

 

「はあ、困ったな……」

 

 俺はギルドに張り出されているメンバー募集の張り紙を見て溜息を吐いた。

 

 ここは迷宮都市。

 ダンジョンでの資源を主産業に発展し、成長してきた。

 

 探索ギルドはダンジョンに潜る冒険者を統括し、同時にダンジョンへとけしかける。

 具体的には、ランキングがあるのだ。

 ダンジョンの資源を換金し、その額に応じて知名度を得られる寸法である。

 

 勿論、ランキング上位の冒険者パーティはギルドに優遇されるし、町の人達からも覚えも良くなる。

 周囲からおだてられるのは気分が良いモノである。

 

 そしてランキング首位は、この街の全ての冒険者の羨望の的である。

 それくらいの目標があった方が、モチベーションが上がると言うものだ。

 

 ただ、俺はそこまでランキングなどに興味は無かった。

 この街のカラクリ、いやこの世界の構造について知ってしまっているからである。

 

 この世界もまた、女神メアリース様の箱庭。

 ダンジョンとはかの御方が用意したアトラクションであり、適度な緊張感と達成感を得る為の大掛かりな体験型のゲームコーナーに過ぎない。

 

 別にそれに不満があるわけではない。

 ダークエルフの長老がかつて言っていたように、それを言い出したら、こうして息を吸うことすら神々の掌の上のことなのだから。

 

 俺が悩んでいるのは、周囲の期待である。

 

 考えても見て欲しい。

 俺たちのパーティは、俺以外三人はあの魔王様に真正面から戦いを挑めるような連中なのだ。

 

 ダンジョンの階層ボスの合同攻略などには必ず呼ばれるし、頼りにもされている。

 なのに、ランキングは56位。これは全体から見れば真ん中より少し上の順位だ。

 

 お前らボスアタックだけじゃなくもっとダンジョン探索に力を入れろ、とギルド上層部にお叱りを受けたわけである。

 そりゃあ、あんたらは利益が欲しいから、そんな他人事のように言えるわけである。

 

 俺たちのパーティのメンバーは、名声やお金にはあまり興味の無い連中ばかりだ。

 いや、正確に言うならもう名声やお金に付随する面倒ごとがこりごりだって奴らばかりである。

 その日の糧と少々の貯金があれば、あとは何もいらないと悟る羽目になった枯れた面子なのである。

 

「アラン、メンバーは見つかった?」

 

 俺はその声に首を振った。

 すると、そっと俺に近づいていたアリサが俺の腕を自身に絡め取る。

 

「別にランキングやギルドの評価なんて気にしなくていいのよ。

 私はあなたと一緒に居られればそれで」

「あ、アリサ!!」

 

 その時である、ステラの声が聞こえたのは。

 彼女はずんずんとギルドの入り口から歩いてくると、俺の空いている腕を引っ張った。

 

「抜け駆けするなって、言ったよね!!」

「別に、こんなのスキンシップじゃない」

 

 ぷい、とアリサはそっぽを向いた。

 ステラはその態度に頬を引きつらせていた。

 訂正。こいつらはちっとも枯れてなどいない。

 

 周囲から舌打ちの声が聞こえる。

 ギルドホールは酒場も兼ねている。なんでギルドの仕事の斡旋場が酒場も兼ねているのかと言えば、それが伝統だからとしか言えない。

 いくつかのテーブルにはむさい男たちが昼間から酒を呷り、こっちを見ては憎悪を込めて睨んでくる。

 代わって欲しいなら代わってやるよ。

 

 俺は二人が喧嘩をおっぱじめたので、するりと逃げ出しギルドから出た。

 もう慣れたものである。

 

「やっぱり俺じゃなくてイリーナ殿がリーダーをやればよかったんだ……」

 

 俺はそんな心境を吐露し、町中を歩く。

 

 俺たちのパーティ編成を見てみよう。

 

 俺、アタッカー。

 イリーナ殿、タンク。

 ステラ、アタッカー。

 アリサ、ソーサラー。

 

 圧倒的に、戦闘特化なのである。

 スカウトとか、シーフが居ないのだ。

 

 アリサはヒーラーを兼ねているので、物理攻撃でダメージを稼ぐ編成なのだが、殲滅力はともかく索敵はどうしても苦手になってしまう。

 クリスティーンが居ないのが本当に痛い。

 

 優秀なスカウトやシーフはパーティの生命線。

 どこも人手不足でギルドで募集を掛けても全くマッチングできない。

 

 さて、どうしたものかと考えていると。

 

「さあ、今ならパンが焼きたてだよ!! 

 美味しいパンが早い者勝ちだよ!!」

 

 知り合いのパン屋で呼び込みをしているソフィア殿を見つけた。

 

「おや、アランか、お前も買っていくか? 焼きたてだぞ」

「ああ。貰うよ」

 

 知り合いことレナスティ元姫のパン屋はそれなりに繁盛していた。

 かつての親父さん達と一緒に頑張っているようだった。

 それにこのソフィア殿が気づいたらしれっと合流していた。

 

「なあ、ソフィア殿」

「なんだ? 知り合いだからと値引きはせんぞ」

「違うよ。うちのパーティに入ってくれないか?」

 

 ソフィア殿のジョブは闇騎士。

 シーフとタンクの技能を併せ持つ、今の俺たちには喉から手の出るほど欲しい人材だった。

 

 俺がそう言うと、彼女は露骨に嫌そうな顔になった。

 

「冗談も大概にしろ。

 最近はレナが孤児院の経営も始めたのだ。

 人手はまったく足りていない。むしろお前たちが手伝え」

「そうだよなぁ」

 

 レナスティ元姫はその経営手腕をいかんなく発揮し、このパン屋も二店舗目も計画してるとかなんとか。

 

「ソフィアを引き抜いちゃダメだよ、アランくん」

 

 そんな話をしていると、店内でパンの品出しをしていたレナスティが寄ってきた。

 

「仕方ないだろ、こっちは優秀なシーフが必要なんだ」

「うふふ、なら私が仲間になってあげよっか? 

 昔から冒険者には興味があったんだ」

 

 彼女はそんな茶目っ気たっぷりな笑みでウインクしてきた。

 流石は看板娘である。元上流階級とは思えない。

 

「馬鹿なことを言わないでくれ、レナ!! 

 冒険者なんて危ない仕事、させられるか!!」

 

 当然、この過保護なソフィアは顔を真っ赤にして彼女の肩を掴んだ。

 

「あはは、冗談だよ。冗談」

 

 彼女は小さく舌を出して太陽のように笑った。

 この仕草には並んでいる常連客達もメロメロである。

 

「でもアラン君たちなら、すぐに良い人が見つかるよ。

 だって、孤児院設立の援助をしてくれたんだもの。神様は見ているわ」

 

 生憎だけど、その神様はいろいろと雑なんですわ。

 なんて、言えるはずも無く俺は苦笑いするほかなかった。

 

 優秀なスカウトやシーフなんて、そうかんたんには見つからない。

 

 そう思っていたのだが、意外なところから巡り合わせと言うのはやってくるもので。

 

「アラン、お前に会いたいって人が来てるよ」

 

 拠点にしてる宿屋の女将さんが、そんなことを言ったのだ。

 ギルドを通さない依頼はままあるので、俺はその類かと思ったら。

 

「やあ、アラン」

 

 そこに居たのは予想外の人物だった。

 

「あなたは、──赤錆さん!?」

 

 何と、現れたのは赤錆さん。あの『悪魔』の眷属だった。

 

「あんた、何しに来たんだ?」

「それには深く難しい理由があってだな」

 

 彼女は腕を組んで、難しそうに唸った。

 

 ともかく、俺達は近くのカフェに移動し、彼女の事情を聴いてみた。

 そして、要約すると。

 

「つまり、家出ってことか?」

「失礼な!!」

 

 しかし、どう聞いてもそれ以外には聞こえなかった。

 

「我が主は、この私を軽んじすぎている!! 

 

 だん、とテーブルを両手で叩いて怒気を占める赤錆さん。

 

「この間も、我が主は戦場で私を盾にして弾避けにしたのだ!! 

 後から文句を言ったら、『お前はそれくらいしかできないじゃん』って!!」

「それは、気の毒に……」

 

 俺の脳裏には、楽しそうに赤錆さんを盾にするクソガキ悪魔の顔が浮かび上がった。

 

「私は我が主の役に立てるのだ!! 

 そこで私は思った。実績があればあの方も思い直すだろう、とな!!」

「それで、俺のところに?」

「ああ。お前たちはダンジョンの攻略をしているのだろう? 

 ならこの私の力も役に立つと思ってな」

「そうは言ってもなぁ」

 

 赤錆さんは従士であり、役割は騎士などのジョブに代表されるタンク役と思われる。

 俺達のパーティに必要な役割とは掛け離れていた。

 

「赤錆さん、あんた斥候とか鍵開けとかできるのか?」

「そんなことで良いなら、任せろ。

 ピッキングも仲間の怪盗から教わったことがある」

 

 いや怪盗て……。

 

「頼む、あの人を見返したいんだ!!」

 

 両手を合わせて、拝むように頼み込んでくる赤錆さん。

 

「……まあ、試験雇用で良いなら」

「助かる!!」

 

 こうして、彼女が我がパーティに加わったのだが。

 

 

 

 

「大丈夫なのか、あの人は」

 

 イリーナ殿が不安そうに赤錆さんを見ていた。

 

 俺達は翌日、早速赤錆さんをダンジョンの比較的浅い場所へ連れてきた。

 

「さあ、任せろ!!」

 

 ふんすふんす、と気合十分の赤錆。

 そんな彼女をイリーナ殿は心配そうに見ていた。

 

「……相手は悪魔の従僕だ、使えない者を雇わないだろう、普通」

「だと良いがな」

 

 どう見ても素人丸出しの彼女に、イリーナ殿は溜息を吐いた。

 

「実際のところ、どうなの?」

「何で私に聞くの?」

「知り合いだったんでしょ?」

 

 ステラに問われ、アリサはイヤそうな顔になった。

 

「私のアレの上司としか殆ど接してないわよ。

 でもあいつの従者はみんな優秀だったし、大丈夫なんじゃない?」

 

「とにかく、今回の依頼の確認を行うぞ」

 

 雑談もそこそこ、イリーナ殿はみんなを集める。

 

「今回ギルドから受けた依頼の内容は、この階層のマッピングだ。

 可能な限り、安全な道を確保することが目的となる」

 

 なぜ、もう既に攻略済みの階層のマッピングが必要なのか? 

 それはダンジョンは定期的に構造が変化するからだ。

 

 五階層ごとに転移ポータルがあり、途中の階層を無視できたりできるのだが、採取できる資源は階層によって偏りがある。

 なので、ダンジョンの構造は可能な限りすべて把握する必要が出てくるわけだ。

 

 ダンジョンは階層ごとに特徴が違うのだが、この階層は城砦がモチーフになっているのか、石造りでトラップが多い場所となている。

 スカウトやシーフの才能を見るにはもってこいの場所だ。

 

 それらの説明を、イリーナ殿は赤錆さんにした。

 

「つまり、私が先頭に立ってトラップなどを解除すればいいのだな?」

「ああ、頼む」

「わかった、では行こうではないか!!」

 

 そうして、意気揚々と歩き出した赤錆さん。

 

 カチッと彼女の足元のタイルが少し沈んだ。

 風切り音と共に、どこからともなく矢が飛んできた。

 

「ぎゃう!?」

 

 運悪く、矢は赤錆さんの頭部に直撃。

 彼女は倒れこんだ。

 

「おい、大丈夫か!?」

「アリサ、ヒールの準備を!!」

 

 私達はすぐに彼女に駆け寄った。

 この階層で即死する威力のトラップは無いはずだが……。

 

「ふう、びっくりした」

 

 赤錆さんはむくりと起き上がった。

 彼女はぴんぴんしていた。

 

「今の喰らって、無事なのか?」

「あれ、言ってなかったか?」

 

 赤錆さんは頭に刺さった矢を引っこ抜いて捨てた。

 

「我ら悪魔の従者は複数人に見えて、全員彼の一部に過ぎない。

 私は『悪魔』と言う概念の一部に過ぎず、基本的には不死身なのだ」

 

 なにそれ、ズルい。

 

「故にトラップの類は全て任せろ。

 先行して全て踏み抜いて解除してくれる!!」

 

 私達は思った。

 この人、馬鹿だ。

 

 偶にいる、戦士たちだけのパーティで、トラップなど全部踏み抜いて解除してくれる、みたいな漢探知であった。

 

「む、これは……」

 

 更に進んでいくと、石造りの通路を横切るように大きな水路が道を塞いでいた。

 跳ね橋があるにはあるが、それは向こう側からしか下ろせない構造になっている。

 

「面倒な構造に出くわしたな」

 

 イリーナがぼやく。

 恐らく、水中にはサハギンなどの水中系の魔物が潜んでいる。

 跳ね橋を下ろす為にパーティを分断して進むか、全員で足場の悪い所を進むか、という二択を迫られるのである。

 

「察するに、あの橋を下ろせればいいのか?」

「流石にあなた一人で行かせるのも気が引ける」

 

 なんか水路で転んで流されそうだし、とはイリーナは言わなかった。

 

「いいや、これくらいなら大丈夫だ。

 いざ、──変身!!」

 

 すると、赤錆さんの姿が変化した。

 頭部からは左右に赤毛をかき分けるようにヤギの角が生え、背中から一対のコウモリの翼が出現した。

 そしておまけとばかりに悪魔みたいな尻尾が生えてきた。

 

「……ああ、先生が自分たちはエーテル体だって言ってたけど、そう言う事なのね」

 

 アリサはそれを見て納得したように頷いた。

 

「あれ、どういうことなの?」

「イメージで姿とか自由自在ってこと」

 

 困惑しているステラに、アリサが説明してみせた。

 

「なんと言うか、本当に悪魔だったんだな……」

 

 正直彼女の言動は悪魔のイメージとはかけ離れている為、ようやくイリーナ殿は実感したようだった。

 俺達がそういて衝撃を受けている間に、赤錆殿はふわふわぱたぱたと空を飛んで向こう側へたどり着き、跳ね橋を下ろした。

 

「よし、次に行くぞ!!」

 

 彼女の笑顔がまぶしい。

 俺達はその後、彼女の犠牲で幾つもの罠を踏破した。

 

 

 マッピングは数日掛けて終了した。

 己を顧みないしその必要が無い赤錆さんのお陰で、俺達は気疲れはしつつも何とか依頼を完了した。

 なお、赤錆さんは魔物との戦いでは殆ど役に立たなかった。

 俺達が強いと言うのもあるが、彼女はちょっと、うん、言及は控える。

 

 依頼完了をギルドに報告し、俺達は宿に戻ろうとその道中で。

 

「おい」

 

 あの『悪魔』が、待ち構えていたのだ。

 

「げ、我が主……」

「お前は僕の従者、僕のモノだ。

 勝手にいなくなるとかどういう了見なの?」

 

 赤錆さんは一瞬しゅんとなったが、ハッとなって胸を張った。

 

「彼らは私を必要としてくれているのだ。我が主と違ってな!! なあ、そうだろ!?」

「なにいってんの、お前」

 

 胡乱な彼の視線がこちらに向いた。

 

「正直、見ていてひやひやするんで、お引き取り下さい」

「友人として付き合うのなら楽しいけど、背中を預ける仲間としてはちょっと」

 

 アリサとステラはそんな無情なことを言った。

 

「わざわざ迎えに来ているんだ。戻って話し合いなさい」

 

 と、イリーナ殿は大人の対応をした。

 

「じゃあ、とりあえず不採用ってことで皆良いな?」

 

 俺の言葉に、皆が頷いた。

 

「そ、そんな……」

 

 赤錆さんはショックを受けたようで、不機嫌そうな自分の主と俺たちを何度も交互にみやる。

 

「わ、わかった……」

 

 赤錆さんはうな垂れると、彼女の手を『悪魔』は引っ張って歩き出す。

 数歩目には、彼らの姿は消えていた。

 

「あの彼が心配するのもよくわかる……」

 

 イリーナ殿の言葉に、私たちは頷くのだった。

 

 

 それからしばらく、俺達は変わらぬ日々を過ごしたのだが。

 

「アラン、聞いてくれ!!」

 

 赤錆さんはまた家出してきたのだ。

 俺は面倒に思いつつも、彼女の話をきいてやることにした。

 

 俺は、彼女は自分がいかに苦労しているのか、身の上話を聞いてやることから始めたのだった。

 

 

 

 

 

 





この小説だけの読者の皆様はお久しぶりです。
第四章に登場する、『悪魔』達の物語を連載始めました。

詳しくは、本編最後の“身の上話”のリンクから、是非どうぞ!!

それではまた!! 新連載で!!
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