『完結』ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~   作:やーなん

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その女は気高く美しい。
彼女の盾は人々は守り、脅威への刃となる。
部下達も慕われ、公明正大。
誰もが目指す、まさに騎士の鑑である。

だが、彼女は分かっていなかった。


五の目

 

 

 逆行し10歳になった俺は、父上の許可を得て冒険者に混じるようになった。

 

 俺は伯爵の息子である身分を隠し、平民と同じように様々な依頼をこなした。

 冒険者と言う職業は一般的に最底辺の存在として扱われる。

 町の人間からすれば煙たがられるような存在ではあるが、需要は決して減らなかった。

 

 彼らは確実とは言えなくとも依頼をすれば、大抵のことは引き受けてくれるし、ある程度の融通もきくからだ。

 毎日のように誰かが死に、毎日のように補充される。

 その門は自己責任さえ果たせれば、ものすごく広く開かれている。

 

 世間一般でいう冒険者とは、彼らのことではない。

 実績と実力を積み重ね、信用を得た存在こそ冒険者であると依頼主に歓迎される。

 

 それ以外は遺跡荒しの無頼漢、都市周辺の魔物を狩る掃除屋。そんなところだ。

 自分もかつてはそれらであった。

 

 冒険者と言う職業は夢はある。ロマンもある。

 ただ、それが掴めるのは当然のように成功した一握りのみであると言うだけのことなのだ。

 

 自分は彼らに混じり、騎士志望だと周囲に吹聴しながら実績を重ねた。

 そうした得た報酬の殆どをつぎ込み、そして二年を掛けて見つけた。

 

 イリーナ殿の出身地を。

 

 

 俺は衝撃を受けた。

 彼女の故郷は、あの時、三度目の逆行で初任務で訪れ焼かれた村だったのだ。

 

 依頼を終え、即席のパーティに用事があるからと一足早く抜け、彼女の姿を探し後を追った。

 イリーナ殿は何の変哲もない宿屋の娘だった。

 

 即席の仲間達は今日はそこに泊まるらしいが、自分は今彼女に顔を合わせるわけにはいかなかった。

 冒険者ギルドの支部にも格安の雑魚寝だが宿泊施設ぐらいはあり、そこで夜を明かし彼女について調べることにした。

 

 そこで丸一日観察した結果、俺は更なる衝撃を受けた。

 あの時、イリーナ殿が抱いていた骸の少女が、何度も彼女の宿屋に出入りしていることに気づいたからだ。

 あの年頃の丁稚は珍しくはない。俺は嫌な予感がした。

 

「おい、お前ずっと宿屋の方見てるけど、あれか、気になるのか?」

 先日パーティを組んだ冒険者仲間がにやにやとこちらに気づいて話し掛けて来た。

 やはり物陰から観察していると傍目から見ると怪しいのだろう。

 

「ああ、一目惚れだ。顔を合わせるのも恥ずかしい」

「堅物のお前にもそんなところがあるとはなぁ」

 人間というのは信じたいことばかり信じる生き物なのか、俺がそう言うと彼は何度も頷いてイヤらしい笑みを浮かべた。

 

「ところで一つ聞きたいんだが、あの女の子は何て言うんだ? 

 実に親しげだが、そこから会話の糸口を得たいと思う」

「なるほどな、いや、名前は知らねぇけどよ? 

 どうにも姉妹らしいぞ。あんまり似てないが」

「やはり、か……」

 それは最悪の予想が的中したことを意味した。

 通りであの二人は親しげなわけである。

 

 そして、あのイリーナ殿が憎悪をこの上なく見せたのも納得がいく。

 だが、そこで俺は疑問に思った。

 

 彼女が報復の女神に祈りを捧げていたのは、この村が焼かれる前である。

 ということは、彼女の復讐の対象はこれから現われるということだ。

 

 俺は一旦この村を離れて、資金繰りに専念した。

 とにかく金が必要になると判断したからだ。

 

 そうして王都周辺の魔物退治に精力的に活動していると、信じられない噂を耳にして俺は実家へと駆け込んだ。

 

 

「父上!!」

「どうしたアラン、血相を変えて。

 まさか冒険者や依頼主との間でトラブルにでもなったか?」

 武具の手入れをしていた父上は心配そうに俺を迎えた。

 

「なにを……なさっているのですか?」

「見ての通りだ、武器は己の手足も同然。手入れは怠ってはいかんからな」

「そうではありません。父上は姫様の剣術指南役でしょう。

 まだ暫くは王城に詰めると仰っていたじゃないですか」

「ああ、それか」

 父上は武器と布を置いて、溜め息を吐いた。

 

「『解任されたよ、御役御免だ』」

 それは到底信じられない言葉だった。

 今までそんなこと、決してなかったからである。

 

「そんな馬鹿な。父上以上の適任など居ないはず……!!」

「確かにな。だが、剣術以外のところがお気に召さなかったらしい。

 従者に対する態度を改めるよう諌めたら、この通りだ」

 絶句した。

 

 俺は両目を見開き、口は魚のように無意味に開閉していることだろう。

 

「陛下から内々に謝罪まで頂いたよ。

 あんなに甘やかし、わがまま放題に育ててしまったのは自分の不徳が招いた結果だと」

「そんな、そんな!! 

 私は姫様は高潔で才気溢れる御方だと聞き、ずっと憧れていたのですよ!!」

「ああ、幼い頃はそうであった。

 彼女は私の誇りであったよ」

 父上の目はもう取り戻せない過去を見る目だった。

 

 俺は、この日から暫く何事も身に入らなかった。

 修行は身に入らず、合同教会で祈りを捧げる日々だった。

 

 なぜ、なぜなのか。なぜ姫様は父上を裏切ったのか。

 その問いの答えを、アンズ様の神像は答えてくれるはずもなかった。

 

 そのまま半年近く塞ぎ込んだ俺は、己のすべきことを思い出して冒険者生活に戻った。

 皆は俺がやつれているのを見て、想い人に振られたと想ったらしく、散々からかわれた。

 俺は言い返す気力もなかった。

 

 

 俺はそれから暫くさり気なくイリーナ殿の様子を観察しつつ、その時を待った。

 そして14歳のある日、イリーナ殿が養子に出されたのだ。

 

 その時は村に人たちが大勢で彼女の門出を祝った。

 その姿を遠くから確認し、少し日数を開けた後に俺は王都のギルドに内々に依頼を出した。

 

 内容はこうだ。

 さる人物の調査を依頼したい。

 彼女はある時期からバルハルト卿の養女となり、その目的は騎士になることであろう。

 自分はライバルとして彼女を危険視している為、その弱点を探りたい。

 経歴などからどのような技能を持っているか探ってくれ、といった感じだ。

 

 こんな下らない内容の依頼でも、冒険者というのは報酬があれば受けてくれる。

 俺は信頼の出来るパーティを名指しし、半月掛けて徹底的に調べさせた。

 

 そして、分かった。

 

『イリーナ殿に、復讐対象など存在しないことが』

 

 

 

 明らかに矛盾していた。

 イリーナ殿は今日まで親類を誰かに殺された訳でもなければ、親しい人間が特に不幸に見舞われたこともない。

 

 アンズ様がこちらに嘘を吐く理由などない。

 だが、彼女は言った。『イリーナ殿の真の目的は復讐にある』と。

 

 

 そこで俺は気づいた。

 この明らかな矛盾を成立させない方法が、ひとつだけ存在していた。

 

 しかし、それはつまり……。

 

 

「確かめるしかないか」

 今回の行動方針が決まった。

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 選抜試合はもう既に語るべき所も見るべき所もないので省略する。

 程ほどにイリーナ殿と戦い、そして負けたくらいだ。

 

 話はそれから一週間後の叙任式の話になる。

 この式典により、俺達は初めて騎士としての資格を得るのだ。

 

 騎士になる度に毎回繰り返していることだが、面倒だなんて思ったことはなかった。

 それは参加者全員同じようで、誇らしさが顔に出ている。

 

 のだが、式典の開始は遅れに遅れていた。

 こんなことは初めてだった。

 

「一体どうしたんだ……」

「なんでも、王族の到着が遅れているから、らしい」

「マジか、道理でいつまでたっても始まらないわけだ」

「でも遅れているって、王城はすぐそこだぜ?」

「ほら、あれだろ、参加予定の王族ってあのワガママ姫……」

「あッ……」

 ぼそぼそと呟き合う同僚達は、その結論だけで大体の事情を把握してしまったようだ。

 

 そう、毎回この式典に参加する王族は、レナスティ姫だった。

 騎士の叙任は王族の仕事なので、彼女らが居なければ始められないのだ。

 

 結局、叙任式の開始は遅れに遅れ、三時間は遅れたことだろう。

 このことに関しても、いい加減明らかにしなければならない。

 

 

 騎士となれば、王城へと行く機会も度々ある。

 例えば事務方に給料を貰いに行く時とか、報告書を届けに行くとか。

 俺はそのあたりの雑務を積極的に引き受けて、王城に入る機会を増やしていった。

 

 すると、何度目かの登城でその光景に出くわした。

 どうやら、彼女の従者がなにやら失態をしたらしい。

 

 

「遅い、遅すぎる、この程度の雑務にどれだけ時間を掛けているのよッ!!」

 その怒声に、俺だけでなく周囲の誰もがそちらに目を向けた。

 

 いつもならもう既に戦場で頭角を現している姫様だったが、今回はなぜかそんなことはなかった為、そのお姿を見ることが出来るとは思っていたが、その予想は見事的中していた。

 あまり嬉しくない方向だったが。

 

 その後も姫様は公衆の面前で従者を何度も怒鳴りつけていた。

 俺は姫様に対するイメージがガラガラと崩れ去るのを感じていた。

 

 戦場で遠くから見る彼女は、いつも凛々しく気高かったからだ。

 それだけに悲しくて、悔しかった。

 

 

「お止めください!!」

 気づけば、俺は従者と思わしい女騎士の前に出ていた。

 

「人前で無遠慮に誰かを罵るのが、高貴な人間の為さる事ですか!!」

 俺のその行動に、手や足を止めていた周囲は度肝を抜かれたように目を見張っていた。

 

「貴方は誰ですか?」

 不機嫌そうに、彼女は俺を睨んだ。

 俺は躊躇うことなく名乗った。

 

「私はアラン・クリファ。

 父ギルバートのことは姫様もよくご存じでしょう」

 俺が名乗りに、姫様も面を喰らった様子だった。

 

「……わかりました、今回のことは彼に免じて許します」

 彼女はそう言って、くるりと踵を返した。

 去り際の彼女の表情は、どこか負い目から来るようなものに見えたのは、俺の妄想でないと信じたい。

 

 周囲も、また首が飛ぶのかとはらはらしていたようだが、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとうございます」

 俺に助けられた女騎士は、どこか複雑そうな表情で俺に礼を言うと去って行った。

 

 

 

 

 いかに過去に戻ろうとも、魔物の活性化ばかりは止められない。

 

 俺はイリーナ殿の副官に任命され、同僚と初任務の準備に追われていた。

 部隊の編成、行程の確認、食料の有無など等など。

 

 さあ、あとは出発するだけだ!! 

 

「中止だ!!」

 意気揚々と初任務に燃えていた俺と部下達は冷や水をぶっ掛けられる思いだったことだろう。

 

「隊長、なぜですか?」

「下らなすぎて言う気にも成れん!!」

 初任務の出立を邪魔されたからか、イリーナ殿は前以上に激怒していた。

 

「各自解散し、今日は休暇とする」

 その言葉の端々に、憎憎しさを滲ませるイリーナ殿の姿に、俺だけでなく皆も寒気がしたに違いない。

 

 俺は確信した。

 彼女の表情は、獲物を見定めた復讐者のそれだったからだ。

 

 

 結局、再出動の命令は掛からなかった。

 彼女の故郷がどうなったか、想像もしたくもないし言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 

 

 俺達に再び任務が下るのは、それからひと月の後だった。

 

 最前線で魔物と戦う部隊の為に慰問に向かう姫様の護衛という大抜擢だった。

 誰もがその拝命に大喜びで今日は酒場で無礼講だったが、イリーナ殿一人だけは鉄面のごとき無表情だった。

 

「暢気なものだ。

 今この時ですら魔物の手によって人々は苦しんでいるというのに」

 そしてその両目は据わっていた。

 正気と狂気の狭間を行ったりきたりしているようで、俺は恐ろしかった。

 

「イリーナ殿、すこし酔っているのではないのですか? 

 少々疲れているようにも見えます」

「そうかもしれないな」

 俺は彼女が心配になってそう言ったが、彼女は今日一滴も酒を飲んでいなかった。

 

「これは酒の席での冗談だが……」

「はい」

「私は後悔しているよ。騎士になったことを」

「なぜですか?」

「誰かを守りたいと言う気持ちに、立場など意味が無いと気づいたのさ」

 イリーナ殿は手に持ったグラスの中で揺れる酒の波紋を食い入るように眺めていた。

 

「ですが、止める訳にはいかないのでしょう?」

「そうだ。全て自分が決めたことだ」

 彼女の語り口調は穏やかだったが、そこらの泥酔者などよりも余程危うげだった。

 

 

「そうだ。一度始めたことを、止められるはずがないんだ」

 彼女は自分に語りかける。

 

「そうだ。諦めるなんて、出来やしないのだ」

 一気に酒を煽る。そして何が可笑しいのか、彼女はけたけたと笑い始めた。

 

 酒場の熱気から、切り離されたかのように彼女の周囲だけこの世界と切り離されているように、俺は思えた。

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 

 さて、姫様の護衛という大任を預かった我が隊だったが、浮かれていたのはあの日だけだった。

 

 なにせ、この世界の姫様は悪名高いワガママ姫であり、事実俺達は使用人というか召使いのようにこき使われることとなった。

 

 やれ喉が渇いた水を持ってこい。

 やれ熱いから扇げ。

 やれ汗をかいたから湯浴みがしたい。

 

 通常なら三日で終わる行程を十日掛かったといえば、俺達の苦労を理解してもらえるだろう。

 俺が諌めようとも、その度に仲間達から必死に止められた。

 

 今は個人ではなく部隊として行動している為、連帯責任で何を言われるか分からないからだろう。

 

 

「……やってらんねぇ」

 ある日の夜営、寝ずの番を担当し同じ焚き火を囲っている同僚が漏らした。

 

「何がお姫様だ。無理難題好き放題言いやがってさ」

「不敬だぞ」

 もう一人の同僚が諌める。

 

「不敬? オーケー、それでこの召使い生活をやめられるのなら構わないね!!」

「やめろって」

 愚痴る同僚に、哀願じみた声音でもう一人の同僚が言った。

 

「俺、騎士を辞めさせられたら、実家から勘当されちまう。

 姫様と問題起こしてみろ、俺の実家なんて跡形も無くなるだろうさ」

「……」

 そこまで言われては、彼も黙らざるを得なかったのだろう。

 だが、暫くして。

 

「俺、何のために騎士になったのかな……」

「女の子にもてたいって言ってなかったか?」

「いやそれも有るさ。

 実際、伝統ある赤鷲騎士団の団員だって言えばちやほやされるしな? 

 だけどさ、改めて思うんだ」

 彼は枝先に括りつけた干し肉を焚き火で炙りながら、少し恥ずかしそうに言った。

 

「俺達は女の子を守るために戦うんだろ? 

 女の子を戦わせない為にさ」

「うちの隊長は女だぞ」

「ありゃ例外だ。ガードが硬すぎる」

 その物言いに、俺達は小さく笑った。

 

「俺は本気でど突かれたことがあるが、ありゃあサイクロプス並だったぞ」

「マジかよ……」

 俺の言葉に二人はドン引きだった。

 

「まさか、突撃したのか?」

「ああ、本気で挑ませてもらった」

「度胸あるな、お前……」

 お互いの微妙な認識の齟齬を楽しんでいると、同僚の一人が気づいた、

 

 気づいてしまった。

 

 

「なあ、隊長といえば遅くないか?」

「ああ、なんだか姫様に御用があるとかで……」

 その二人の言葉に、俺は猛烈な嫌な予感に襲われた。

 

 俺はそのことを知らなかった。

 寝ずの番は交代制だ。一人ずつ定時に交代して休んでいく。

 俺は今さっき交代してきたばかりだった。

 

「一応、見てこないか?」

 俺は神妙な表情でそう言った。

 俺の鬼気迫る表情に、二人は押されるように頷いた。

 

 

 

「おい、おかしいぞ、護衛が居ない」

 同僚の一人が、姫様の天幕を前にして言った。

 

「……おい、中から気配も息遣いも聞こえないぞ」

 斥候技能を持つ同僚が戦慄した様子で俺達を見る。

 

「……責任は俺が取る。

 姫様、ここに居られますか!! 緊急時ゆえに御免!!」

 俺はそう言って天幕の中へと入り込んだ。

 

 

「なっ……」

「ど、どうした!?」

「こっ、これは……」

 俺の様子から二人の同僚も覚悟を決めて入り込んできた。

 

 そして、惨劇を目の当たりにした。

 

 

 壮絶な表情で息絶えるレナスティ姫。

 彼女を庇うように正面から斬り捨てられている従者の女騎士。

 そして、口から血を吐き倒れ伏せるイリーナ殿だった。

 

「おい、お前は皆を起こしてこい!! 

 もう一人は状況検分を手伝え!!」

「お、おう!!」

 俺の指示に同僚の一人が外へ出た。

 

「見てみろ、吸音石の魔法具だ」

 俺は効力を失った魔法具が落ちているのを見つけた。

 周囲の音を消し去る魔法具だが、これは外に音が漏れないようにするタイプだ。

 

「……これは、嘘だろ」

「どうした?」

「こ、これを見てくれ!!」

 狼狽する同僚から、それを受け取る。

 俺も目を剥き驚愕した。

 

 

「報復の女神の呪印……」

 血塗られた短剣のシンボル。

 それは、その復讐が正当なる物であると、かの女神が証明するため信者に送られる代物だった。

 

「改神していたのか……」

 言うまでもないが、彼女は騎士神を信仰していた。

 信仰する神を変える場合、その神に一週間続けて祈り続けなければならない。

 だが、問題はそうではない。

 

 

「イリーナ殿。貴女は姫様を……」

 問題は、神が彼女の凶行を正当な復讐として認めたことだ。

 無論、俗世でそれが法的に便宜を図るものでは全く無い。

 

 復讐対象やその親類への攻撃材料として、報復の女神が送るのだ。

 その行為が誰に認められずとも、神だけは正当性を保障すると。

 

 そして神々がおわすこの地上で、それを突きつけられて動揺しない者は稀だろう。

 それこそ、自覚が無ければ尚の事だ。

 

 

「それで、死因はどうだ?」

「隊長は服毒して亡くなっている。

 護衛は見ての通りだが、姫様は首を絞められたあと、急所を短剣で刺されている」

 冒険者上がりの同僚はその斥候技能を遺憾なく発揮し、死体の検分を終えた。

 

 状況は明らかだった。

 

「つまりイリーナ殿が剣を抜き、危機を察した護衛を斬り捨て、姫様に呪印を突きつけ動揺したところを首を絞め上げ、気を失った所を胸を短剣で突き刺した」

「そして、自らは毒を飲んだ」

 それは恐ろしい結末だった。

 計画的な犯行であり、そして何より憎悪に満ちていた。

 

 俺は同僚に現場保存を指示し、天幕を出るとイリーナ殿の持ち物を改めた。

 やはり、と言うべきか彼女は遺書を認めていた。

 

 そこには、今回の凶行の動機が記されていた。

 

 俺は全てを理解した。

 

 

「女神■■■■■■■よ。お願いがあります」

 俺は女神に祈りを捧げると、意識が沈んでいく。

 

 女神の元へと行くことなく、俺は過去へと遡る。

 彼女の結末を、見届ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、分かりました。それで良いのですね? 

 はい、では、頑張ってください」

 手中の六面ダイスを弄ぶ女神は、ついにそれを振ることなく、天秤にダイスを置いた。

 

 置かれたダイズの目は一。赤い円が惨劇を予見しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、彼女の真相。
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