白黒斑のヒーローソサエティ   作:Wandering2020

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EP.3 手辺押出:スタンディング その2

起こった事件に時間を取られ、今は正午を少し過ぎたところ。僕は新居に到着した。

 

「……ここか、宛無荘(あてなしそう)

 

……なんとも先行きの不安を感じる名前だ。

引っ越し手続きの際に聞いたところによると、この年季を感じるアパートの一階一号室が大家さんの家を兼ねているらしい。

ドアの前に立ち、大家さんに挨拶するために呼び鈴を鳴らしてみた。

しかし、返答がない。何度か鳴らしてみても、変わりはなかった。

「ごめんくださーい。先週連絡した手辺ですー」

 

不躾だが、ドアの前から呼びかけてみても返事がないあたり、大家さんは留守ということか。

困ったな、とりあえず荷物を置いて、腰を落ち着けたかったのだが……。

そうしてドアの前で困っている僕に、背後から声がかかった。

 

「そこのあんちゃん、大家のばーさんに用事かい?」

「へ?」

 

振り返ると、一人の女性が立っていた。

切れ長の目と、土にまみれていても美しい黒髪が印象的な美人さんだ。ややもすればきつく見える顔立ちに、人懐こい笑みを浮かべている。

服装は首に巻いたタオルと土汚れの目立つシャツ、ニッカボッカを履いた足元には無骨な作業靴。土建業系の方だろうか。全身が土ですすけているが、不思議とくすんだ感じはしない。むしろ、その恰好であってなお輝くようなバイタリティを放つひとだ。

 

「宛無(あてなし)のばーさんに用事があるときは、呼び鈴を鳴らすだけじゃ駄目さ。ばーさんは()()が悪いからね」

「はあ、()()ですか。()が悪いんじゃなくて?」

 

 そういいながら、女性は僕を押しのけてドアの前に立つ。すごい力だ、こともなげに割と大柄な僕をどけたぞ、この人。

 

「ばーさんは地獄耳だよ。でも性悪ババアだから、普通に呼んでも居留守を使うのさ。用事があるんなら……」

 

 そこまで言うと、女性がおもむろに拳を振るった。かなり打ち慣れているらしく、構えから打拳までに躊躇が無い。おかげで止める間もなかったが、女性の拳が一瞬、黒く変色するのだけはかろうじて見えた。

 

 があん、とかなり大きな音を鳴らし、拳がドアに衝突する。

 

「な、何してるんですか!?」

 

 響き渡る暴力的な音に、青くなってドアをのぞき込むが、年代物に見えるドアは全く傷つきも凹みもしていなかった。

 女性が黒く硬質化した拳を掲げて言った。

 

「大丈夫だよ。このアパートに限らず、この町の家の玄関はみんな頑丈だから。敵にぶん殴られてもへっちゃらさ」

 

 むしろこっちの手が痛いくらい、と笑う女性の拳からは黒い甲殻のようなものの残滓がぱらぱらとこぼれていた。硬化の個性だろうか。

 そうこうしていると、いつの間にか手荒に過ぎるノックを受けたドアが開かれ、半開きになっていた。防犯対策にしては、やけにごついチェーンがかかっている。

 

「……なにかご用でも?」

 

 ドアの隙間から、シミの目立つ年配のご婦人がじっとりとした目線と声を投げる。

 僕は慌てて挨拶を返した。

 

「先日、引っ越しの連絡をした手辺です。部屋の鍵を受け取りたいんですけど」

「どちら様です? 引っ越しなんてあったかしらねえ」

「ええっ!?」

 

 あれ!? 先日確かに電話口でOKって言ってたのに!

 予想外の事態に動転していると、まだ後ろにいた女性から声がかかる。

 

「あんちゃん、引っ越し関連の書類は持ってるかい? あと身分証明ができるやつも」

「え、ええ。ありますけど」

「じゃあ見せてやんな」

 

 言われた通り、鞄から引っ越しに関する書類と、運転免許証を取り出す。

 それを受け取ったご婦人は、じっと書面を睨むと、一度ドアを閉めて再度開いた。今度はチェーンがかかっていない。

 そして、さも何事もなかったかのようにこう言った。

 

「お待ちしておりましたよ、手辺サン」

「!?」

 

 道中ご無事でなにより、と悪びれた様子もないご婦人に唖然とする僕。

 背後で女性がからからと笑った。

 

「この婆はきっちりした証明書の類を見せないと、こんな風にしらを切るのさ。おかげでいちいち面倒臭いったら」

「あなたが不用心すぎるだけですよ、石成(いわなり)サン。最近の詐欺はひどく巧妙らしいから、顔を見ただけでは信頼なんて、とてもとても」

 

 ……さすがに用心深すぎるんじゃないかな。

 ところで、宛無のご婦人から名前が出たな。背後の女性を振り返る。

 

「石成さん、でよろしいですか。遅れましたが、こちらに越してきた手辺と申します」

「おやまあ、どうもご丁寧に。あたしは石成、石成(いわなり) 黒曜(くろよ)だ。よろしくね。酒飲むとちょっとうるさくするかもだけど、ま、勘弁しとくれ」

 

 彼女はからからと笑うと、自身の部屋に戻っていった。

 

(美人さんだったなあ)

 

 離れていく石成さんの背を見送っていると、宛無さんから声がかかる。

 

「手辺サン。いろいろとお話がありますから、どうぞ中へ」

「あ、はい。お邪魔します」

 

 

□ □ □

 

 

「お茶をお持ちしますので、そちらに掛けてお待ちください」

「はい」

 

 示された座布団に座る。

 招かれた宛無さんの部屋はなかなかに広かった。間取りを見るに、アパートの2部屋分の広さがある。ただ、その割には物が少ない。最低限の家具と生活用品だけがこじんまりとまとめられており、およそ装飾の類が見当たらない。窓もやけに少なく、なんだか全体的に薄暗い。

 

(まるでシェルターみたいだ)

 

 実際のシェルターを見たことは無いが、何故だかそう感じた。

 そうして部屋を見回していると、宛無さんがお盆を持って戻ってきた。湯気に乗って緑茶の良い香りがする。

 ちゃぶ台を挟んで僕の対面に座った宛無さんは、2つの湯飲みを置くと、既に机に広げられていた引っ越しの書類を手に取った。

 

「手辺サン。先ほど書類は確認しました。あなたの転居手続きについてはこれらの書類で十分です」

 

 役所に提出してください、そう言って僕に書類を突っ返してくる。

 そしてそのままお茶を啜るご婦人。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が場を埋める。

 沈黙に耐えかねた僕は、黙り込む宛無さんに口を開いた。

 

「えーと、ほ、他には何かないんですか。印鑑とか、保険証とか」

「先ほど見せていただいた身分証明書だけで結構ですよ。蓑州は他の市町村に比べて、そこらへんはかなり簡便ですので」

 

 そうなのか。あのニュースを見た勢いで手続きしてたから隅々までは見てなかったが、それって本人証明には全然足りないんじゃないか?

 改めて書類を見ていると、今度は宛無さんから声がかかる。

 

「手辺サン。書類(それ)によると、お仕事は自営業だそうですけど。詳しく聞いてもよろしいかしら」

「ええ。便利屋をしていまして。色々な仕事を請け負っています」

 

 こういう質問をされたとき用のお決まりの言葉を返す。一応間違ってもいない辺りがミソだ。

 さすがにヒーローとは言えない。個人情報が割れるとそこを狙われる危険もあるし。

 宛無さんはそう答える僕をじっと見て、どこか納得したように鼻を鳴らした。

 

「なるほど、ヒーローですか」

 

 あれ? なんでわかったんだ?

 

「わかりますよ。鍛えた身体に、その重そうなアタッシュケース。このタイミングでの急な入居の時点で、どうせまともな職業じゃないと思っていましたとも」

 

 僕の内心の動揺を見透かして、宛無さんは冷めた目でそう言った。

 思わず、ヒーロースーツが入ったアタッシュケースに視線をやる。

 確かに同業者が山ほどいるのは見たし、町の情勢をその目で見ているこの町に住人からしたら十分に推察できることか。

 

「いや、ヒーローはまともな職業でしょう?」

「ここは汚職ヒーローに長年牛耳られてきた町ですが」

 

 とりあえず、ヒーローに対する偏見について突っついてみたら、倍の力でやり返された。

 そのまま二の句が継げなくなった僕に、宛無さんは溜息をついた。

 

「手辺サン。あなたもご存じでしょうが、ここは簑州。敵が造った町です。敵に対して抱いているのは悪感情だけではなく、ヒーローに対しても好意だけではないのですよ」

「敵が、造った町?」

「…………もしや、何も知らなかったのですか?」

 

 ……知りませんでした。

 

 

□ □ □

 

 

 宛無さんは、この町の過去について語ってくれた。

 

「その昔、とある大物敵が、当時まだ未開発だった蓑州の町長に就任しました」

 

 町長となり、蓑州町の開発に関して大きな権限を得た敵は、自身の持つ莫大な金を財源として、蓑州町を裏稼業に最適な町へと作り替えていったという。

 表からは決して見えず、しかしてあらゆる建物を複雑に繋ぐ裏路地、通称“裏通り”や、その裏路地同士を繋ぐ地下道。そういった、後ろ暗い商売を行うに適した施設を形成・隠蔽するように計画的に建物を配置していった。

 

 その結果として、蓑州町は大物敵の汚い金によって急速に発展するに至った。

 同時に太く発達した裏稼業の存在によって、蓑州町の治安は荒れるかと思われたが、意外にもそうはならなかった。

 なぜなら、大物敵は裏通りでの商売を牛耳り、影ではヤクザ稼業を大いに推奨していたが、表通りや住宅街での違法行為については固く禁じていたからだ。

 それは、ヒーローへの発覚や警察からの干渉を避けるための単純なリスク管理によるものだったが、蓑州に住む一般住民としては、およそ町の発達というプラスの結果だけを受け取ることとなった。

 当時の蓑州住民たちは、いかに悪人であろうと町を大きくしてくれた町長のことを敬愛していたし、それから月日の経った今になっても、その大物敵に対する感謝を忘れない住民もいるらしい。

 一方で、蓑州の”産業”を妨げるヒーローに対するイメージは元よりさほど良くなかった。そこに先日逮捕された汚職ヒーローの一件が加わって、蓑州におけるヒーローの印象ははっきり『悪い』という域にまで落ち込んでいるという。

 

「わかっていただけましたか? あなた方ヒーローがこの町で信用を勝ち取るのは簡単ではないのですよ」

「なるほど……」

 

 これは大変なところに来てしまったようだ。ただでさえ薄かった展望がまた遠のいてゆくのを感じる。

 しかしなあ……、もはや退路はないしなあ……。

 腕を組んで呻る僕に、宛無さんが溜息を吐いた。

 

「まったく、何も知らないのに引っ越しまでするなんて。ヒーローというのは皆こうも考え無しなんですかねえ。いくら頭役の不在でごたごたが起きているからって」

 

 うん? 宛無さんの呆れた顔には胸が痛いが、それはそれとして、その言葉には気になるところがあるぞ。

 

「頭役の不在? どういうことです」

「またそんなことも知らずに……、いえ、正式な発表なんてされるわけありませんか」

 

 宛無さんは一瞬またも呆れの表情を浮かべたが、途中でまじめな顔に切り替えた。

 

「先日、汚職が判明したヒーロー、『モンキービズ』ですが。彼はこの町の裏社会を取り仕切るヤクザ、暮田(くれた)組と手を組んでいました。そこはご存じですか?」

「はい。それはさすがに」

 

 個性『テナガザル』を持つ怪腕ヒーロー「モンキービズ」。件の汚職事件を引き起こした人物であり、蓑州町近辺を担当するヒーローであった。現在は、当然ながらヒーロー免許を剥奪されている。

警察による無力化の際に負傷したとかで、警察病院に入院しているが、退院後に裁判が行われることが決定されている。刑務所行きはまず確定だろう。

 「ヒーローによる犯罪」という世間を騒がす事件の犯人であり、ネットニュースなどでは、地元ヤクザと金品のやり取りなどの癒着があったと報道されている。

 しかし、それにしても……。

 

「本当に、ヤクザなんて前時代的なものが生き残ってたんですか」

 

 ネットニュースで見たときは少しばかり驚いたものだ。ヤクザなんてもの、超人社会安定期には大半が廃れたものと聞いているが。

 

「前時代的でも何でも、そのヤクザが昔から私たちの蓑州を守ってくれていたのですよ」

 

 言いながら、宛無さんは懐かしむように微笑みを浮かべていた。

 

「暮田組は義理と人情を重んじる団体で、時々怖いところもあったけど、それでも頼りになる人たちでした」

 

 任侠ヤクザというやつだったのかな。町全体の用心棒、といった感じの。

 しかし、ネットとかで調べた感じだと、その暮田組って……。

 

「でも、つい先日までの蓑州では、暮田組の組員が頻繁に問題を起こして、逮捕者が出てたって聞きましたが……」

「……ええ、若い衆の人たちがね。暴力沙汰を起こしたり、店を荒らしたり。あれは、逮捕されても仕方がない行いでした。でも、最近の暮田組は明らかに様子がおかしかった。暴れていた若い衆の人たちだって、まるで嫌々やらされているようでした」

 

 静かに語っていた宛無さんの纏う空気が、少しだけ色を変えた。

 

「それって……」

 

 宛無さんは僕の目をじっと見つめた。

 

「ええ。全てモンキービズのせいです」

 

 淀んだ声が、しわがれた唇からこぼれ出る。

 

「彼が暮田組に脅しをかけたのです。指示したら組員を暴れさせるように」

「……そんな、こと、ニュースでは何も」

「報じるわけがないでしょう。ヒーローがヤクザと癒着した、という事実だけで波が立つ社会ですもの。ヒーロー自身が犯罪を起こすよう糸を引いていたなんて、とても報道できるわけがありません」

 

 暗い部屋、目の前の老人が嗤う。

 僕は思わず目をそらした。

 

「で、でも。そんなことを、して。モンキービズに、一体、何の得が……」

 

 ……正直に言おう。

 そう口にはしながらも、僕はモンキービズがそのような行動をした理由が既にわかっていた。

 逃避的な問いを口にさせたのは、心の中にある、ヒーローという存在に対する憧れや信頼だった。ヒーローがそんなことして欲しくない、という幼い希望だった。

 

 そして、語る宛無さんの瞳に、そんなものは欠片も無かった。

 

「当然、活躍ですよ。彼は暴れるヤクザを取り押さえるという、わかりやすい成果を欲しがった」

 

 今度は言葉も出なかった。

 それは、宛無さんの発する迫力に呑まれたからか、それとも僕自身が直面する問題を思い出したからなのか。

 とにかく、曲がりなりにも『ヒーロー』である僕は一切の言葉を失くしてしまっていた。

 

 

「……どうして。どうして、暮田組は、モンキービズに従っていたんですか?」

 

僕の舌はそれから数分かけて氷解し、ようやく言葉を吐き出した。

その間、冷めたお茶を啜りながら待ってくれていた宛無さんは、視線一つ寄こさずに答えた。

 

「ずず……。知りませんねえ。私はただの一市民ですから」

 

 ああうん。それもそうだった。

 なんだかこの人なら何でも知ってるように思えて、つい無意味な質問をしてしまった。

 いかんな、さっきのショックを引きずってしまっているぞ。

 自分の動揺を自覚しつつ、冷えたお茶で唇を湿らせる。

 

 切り替えていくぞ。次だ、次。

 

「ええと、失礼しました。それで、暮田組は先日の捕り物でモンキービズもろともに壊滅した、と」

「ええ」

「そうして頭役がいなくなったことで、抑えがなくなって、町にトラブルが頻発するようになった?」

「そういうことですねえ」

 

 やりとりの間も、宛無さんは顔色一つ変えない。

 いやまあ、尋問してるわけじゃないんだし、何の問題もないけども。

 しかし、なんとなく、ここまで話をしてもらっていても、まだ核心部分を聞けていないと直感が告げている。それを聞き出すためにも、もう少し粘らねば。

 

「やっぱり、こうしてヒーローがたくさん来たわけですし、これから町も落ち着いていくのでは?」

「先ほども言いましたが、この町はヒーローに荒らされた町ですよ」

「うぐ」

 

 むむ。

 

「でも、さっきも敵がヒーローに鎮圧されてるのを見ましたよ。ケルベロスとかいうやつらで、この町を貰うとかなんとか」

「それも、暮田組の人たちがいれば起きなかったかもしれませんねえ」

「むぐ」

 

 むむむむ。

 

「そうは言っても、たくさんのヒーローが居れば、手分けして裏路地の警備もできるし、敵の予防についても安心なんじゃないかなあ」

「手辺サン、あなた裏路地のことを知らなかったでしょう。あの裏路地は蓑州の部外秘ですから、まともに調べても出てきません。後ろ暗い連中でも知っているのは一握り。知らないものをどうやって荒らせますか。そしてあなたがたは知りもしない場所をどうやって警備するのです」

「ぐぐ」

 

むむむむむむ。

 

「裏路地について、教えてもらえたらなあって……」

「今更、ヒーロー(あなたがた)に、蓑州(わたしたち)が?」

「…………すいません」

 

 心が折れそうだ。

 しょぼくれる僕に、宛無さんが湯飲みを置いて溜息をついた。

 

「手辺サン。あなたはさっきから何を聞きたいのですか」

 

 そう言われて、言葉に窮した。

 それが、僕自身にもわからないんだよなあ……。

 ただ、宛無さんから、まだ何かを聞けていない感じがするのだ。聞いた話の中の何かが、頭の奥に引っかかっているというか。

 

「何か住居のことで質問がないのであれば、この辺でお帰りください」

 

 湯飲みを片付けようとする宛名さんの言葉に、必死で脳内をひっくり返す。

 何か、何かないか。この蓑州における現状について、核心を突く“何か”だ。

 裏路地についてまで知っている簑州の生き字引に出会えたのはこれ以上ないチャンスなんだ。ここで勝負を駆けなければ、何もできないままだ。

 これまであったことを思い出せ。この町のことを少しでも多く。

 何か、何か……っ!

 

「では、何も無いようですので、これで」

「っ、あの! 先ほど部屋の前で会った、石成さんって、その、独身、なん、デスカ」

 

 つい頭に浮かび、口をついて出たのは、先ほど出会った美人さんのことだった。

 いやマジで何を聞いてるんだ僕は。

 言い訳するように慌てて言葉を続ける。

 

「いやあ、はは、とてもお美しかったもんで、ははは」

「……、既婚者ですから諦めなさい」

「あ、あははー。そうでしたか、いや残念」

 

 うん、残念っちゃ残念だけども。

 結局、ひっかかりは消えずじまいか。とほほ、だ。

 

 湯飲みを回収した宛無さんが、僕に背を向けて言う。

 

「あと、若作りですが彼女はあなたより十歳以上年上ですよ」

「え」

 

 割とでかいショックが僕を襲う。

 あの下手すりゃ二十歳に見えるほど元気で若々しい人が、26の僕より年上って。

 衝撃的な事実に脳を揺らされながら、僕は部屋を追い出されたのだった。

 

 

 石成さんのことを訊いた時、変わった宛無さんの表情に、気づかないまま。

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