シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ   作:ダス・ライヒ

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仇討ち傭兵団

 イオクの支援を受けたグルビーの傭兵団がマリの居る1983年の世界に迫る中、同じくマリを追跡しているワルキューレ内においても、偽物事件が発生していた。

 

「違う! 死刑!!」

 

「えっ!? ちょっ! やめておねが!!」

 

 マリの捕縛に失敗し、苛立つアガサ騎士団の追跡隊は、賞金欲しさに偽物を連れて来た賞金首やごろつきに中半八つ当たりのように処刑する。

 偽物の女性は、随伴していた女性のみで構成された歩兵大隊に保護される。その歳若い女大隊長は、賞金稼ぎやごろつき達に連れて来られた全ての女性は偽物であると、オドオドしながら追跡隊の隊長に伝える。

 

「あ、あの…苛立っているところ失礼なんですが…みんな偽物だと思います…」

 

「分かっておるわ! そんな事! あんなド素人共が捕まえるなら我々なんぞ必要ないわ! 全員死刑だ! 死刑にしろ!! お前たちも加われ!!」

 

 これにもう本物は居ないと判断した中年騎士は、部下や随伴の大隊に賞金稼ぎ等の処刑命令を出した。

 

「な、何をするんでい! この女を見付けるのにどれくらい…」

 

「喧しい! 似ていると言うだけで賞金欲しさに連れて来る奴の言う事が信用できるか!!」

 

「こんなとこで死にたくねぇ! 逃げろ!!」

 

「逃がすな! 皆殺しにしろ!!」

 

 偽物を連れて来て言い訳する賞金稼ぎやごろつき達に対し、騎士と歩兵大隊は偽物の女性を保護してから処刑を始める。

 これに連れて来た女性や女装させた男性を棄てて逃げるごろつき達であったが、三十秒も経たないうちに剣や機関銃で皆殺しにされた。

 

「たくっ、これで何度目だ」

 

 隊長の様子からして、幾度も無く騙されていたようだ。そんな隊長の元へ、通信兵より新しい命令を聞いた大隊長が、即席で写された命令書を片手に知らせに向かう。

 

「あの隊長、司令部より新たなる命令です」

 

「なんだ? 読み上げてみせい」

 

「貴殿の追跡任務は終了。直ちに原隊の六番隊に復帰されたし。追記の任はユリアナ・エーベルハルト師団が引き継ぐ」

 

「な、何ィィィッ!?」

 

 新しい命令書は原隊への復帰命令であった。つまり交代命令である。これを聞いた隊長は、与えられた任務をこなせない物と判断されたことに怒りを感じ、命令書を呼んだ大隊長の胸倉を掴んで怒鳴り散らす。

 

「き、貴様ぁ! この私が! たかが女一人を捕まえられぬ無能者だと言うのか!?」

 

「事実そうではないか」

 

「何奴!?」

 

 大隊長に向けて騎士が怒鳴り付ける中、背後より聞こえた女の声に反応し、胸倉を掴みながら振り返る。

 そこに居たのは、桃色の髪を持つ女が立っていた。その背後には側近と思われる男女が立っている。殆どが女と同じく若者ばかりだ。一人貫禄のある中年が混じっているが。

 

「私はユリアナ・エーベルハルトだ。この追跡の任は私が受け継ぐ。貴様は原隊に復帰し、最前線へと向かって失態の埋め合わせでもするのだな」

 

「貴様、言わせておけば…!」

 

 大隊長の胸倉を離し、次にユリアナに掴み掛かろうとした隊長であるが、彼女の言う通り、マリの痕跡を掴めていない。目の前の新参者の女に掴み掛かるのはそれを証明しているような物と言っているような物なので、冷静になって隊長は命令に従った。

 

「ふん! 精々、失敗するが良いわ!」

 

「さて、少佐。貴様はどうする? 原隊へ戻るか?」

 

 苛立ちながら命令に従う隊長を見て、ユリアナは大隊長に原隊へ戻るのかと問えば、彼女は首を縦に振る。直ぐに戻る理由を述べた。

 

「はい、連隊に帰るつもりです。私たちだけ抜けた連隊が前線に居るので…」

 

「良い心掛けだ。連隊長に原隊復帰を望み、休んだ分、役立つと良い」

 

「サー! ありがとうございます閣下! 直ちに原隊へ復帰します!」

 

「よろしい。貴様の武勲を期待しているぞ!」

 

 戻る理由を聞けば、ユリアナは暗い表情を浮かべる大隊長を元気付ければ、勇気付いた彼女は敬礼した。これにユリアナが笑みを浮かべて更に声を掛ければ、彼女は元気よく自分の隊に撤収の指示を出すために大隊本部へと戻って行く。

 

「さて、どうします? 手がかりも何にも無いし、連中の相手方であるメイソン騎士団は何の情報も送ってこない。無いない尽くしですよ」

 

 副官にマリに対する痕跡が、派閥争いの為に出されていないことを中年の副官が告げるも、これにユリアナは中年に軍歴を問う。

 

「貴様、軍に勤めて何年になる?」

 

「はぁ、小官は今年三十年目で、六年以上も大佐のままです」

 

「昇進できん理由は分かっているな? それとこんな若い娘に出し抜かれても悔しくないのか?」

 

 中年が大佐のまま六年が過ぎたと答えれば、ユリアナは次に軍歴の短い自分に先を越されて悔しくないのかを問う。

 

「さぁ、自分では分かりませんし。それに悔しいなんて微塵も思っておりません」

 

「なんとなく昇進が止まった理由が分かって来た気がするな。こういう時は、ハッキングと言うのを使うのだ」

 

「あぁ、ハッキング。なんとも現代的な。ファシズム時代の人とは思えない」

 

「クッ…! そうだ。既にアガサ騎士団やメイソン騎士団の情報端末にハッキングを仕掛け、マリ・ヴァセレートなる女の情報を集めている所だ。連邦軍や同盟軍にも仕掛けている。直ぐに居場所が分かるだろう」

 

「やれやれ、一々人を尋問室に連れ込んで、そこで拳骨でぶっ叩いて情報集めていた時代の人間が良くここまで進化したもんだ」

 

 これに中年は安い挑発と捉え、適当に答えれば、ユリアナは目前の中年の大佐は昇進する気が微塵も無いと判断し、ハッキングで情報を集めると答えれば、彼は思い付かないと思って驚いた。

 ユリアナはこの反応に少々苛立ったが、気にせずに情報はハッキングで随時集まっていると答えた。

 つい数十カ月前に生き返らされ、再訓練を受けるまでコンピューターのコの字も知らなかったユリアナであるが、再訓練先の士官学校でコンピューター戦術を知った時は技術の革新に驚かされてばかり、どころか何もかもが驚きの連続であった。

 生前の才能でそれ等を全て理解し、物にして実戦で試した時は最高に気持ちが良かった。

 

「とにかく、情報が集まり、居場所が判明すれば直ぐにあの女を捕らえる! 二度とあのような失敗はせん!」

 

「あぁ、あれは予想外だった。いきなり大穴が空いて、大剣使いの大馬鹿が消えて…あっ、ちょっと!」

 

 成功の連続を断ち切らせたシュンの追跡時の事を思い出しつつ、ユリアナは自分と年齢が変わらない若い士官たちと共に、中年を置いて師団本部へと戻った。

 

 

 

「諸君、これよりブリーフィングを行う」

 

「呑気に状況説明何てしてる場合か? 一刻も早く行かねぇと、俺の美しい女たちが…」

 

「安心しろ、手短に済ませる」

 

 一方でアイリスディーナ達から救援要請を受けたマリ達であるが、ジグムントが慎重に考えてか、出撃する前にブリーフィングを行った。

 このブリーフィングに参加している全員がパイロットスーツを身に着けており、出撃用にバルキリーであるVF-1バルキリー系統の機体が駐機されている。全機にエンジンが掛かっており、直ぐにでも出撃可能だ。

 悠長にブリーフィングを行おうとするジグムントに、ジークフリートは早く出撃しないのかと問えば、彼は手短に済ませると答え、ブリーフィングを始める。

 

「数分前、ベルンハルトが我々に救援を要請した。これより出撃し、直ちに救援に向かうが、要請した場所が激戦区だ。大量のBETAが押し寄せている。その数、歩兵に例えれば一個軍相当。VF-1では反応弾を持ち込まない限りきつ過ぎる。異世界よりの襲撃に備えて何機かを残さねばならない。そこでお前たちを人選した」

 

「人海戦術よりも恐ろしいな…」

 

 救援を要請した場所がBETAの殺到しているノイエハーゲン要塞付近であり、無作為で救援に向かうのは愚の骨頂だ。そこで、ジグムントは生前に大量の敵と交戦した者を選抜した。

 自分を初め、ジークフリート、マウテス、ヴォーレン、ヴィリバルト、ライナー、ツイーテ、柿崎速雄、最後にはマリだ。ジークリンデと他は異世界からの襲撃者に備え、フランケンシュタイン号で待機する。ミカルとリンダは早期警戒機のRVF-25で、超上空から支援する。

 

「次にその激戦区に対しての装備だ。ストライクパックかアーマードパックを装備して降下して貰う。周囲のBETA掃討後は、排除してフランケンシュタイン号に戻って貰う。尚、撃墜された場合は分かっていると思うが助けない。撃墜されたくなければレーザー級に常に気を配り、地上で戦え。以上。では、全員、搭乗せよ!」

 

 手短にブリーフィングを終わらせれば、自分もヘルメットを被って全員に各々の機体に登場するよう号令を掛けた。

 これを合図に、救援に参加する者達はそれぞれの機体に乗り込み、キャノピーを込めて出撃の合図を待つ。

 ジグムントがアーマードパックを装備したVF-1Sに乗り、ジークフリートが同じ装備のVF-1Jに乗る。他は大気圏内様に改造したストライクパックのVF-1Aだ。マリはA型の同じパックを付けたVF-1Sに乗る。

 

『全員の搭乗を確認した! では、発進!』

 

 全員の搭乗が確認されれば、ジグムントは出撃の合図を出し、先にジークフリートと共に発艦する。

 その後からVF-1Aがスラスターを吹かせて続々と発艦していく。最後にマリのVF-1Sが発艦すれば、編隊に合流して地球へと降下した。この時、彼らは自分等を追跡する者達が先に降下したことは知らない。

 

 

 

 ポーランド領のノイエハーゲン要塞付近での戦闘は地獄であった。

 BETAで最大の脅威とされる要塞級の出現により、NVAの守備隊は壊滅状態となり、戦術機部隊であるハンニバル大隊もかなりの損耗を極めていた。

 

『くっ、駄目か…!』

 

 要塞級に敵わないと分かっていたが、ここで止めなければ更なる損害が出る。援軍を待っていたが、当のシュタージは一機もこの戦線に寄越さなかった。つまり自分等をBETAに食わせようとしていたのだ。

 大隊長のハンニバルは自機の左腕を、要塞級の触手の角で破壊されて戦闘能力が落ちていた。

 

『済まない、マライ…!』

 

 死を覚悟したハンニバルであったが、要塞級は正体不明の機動兵器によって一撃で粉砕された。周囲のBETAも同様で、自分等が倒すのに必死だったBETAが容易く殺されていく。

 

『まさか例の…!?』

 

 ハンニバルはアイリスディーナより聞いたマリ達だと思ったが、それはバルキリーでは無く、戦術機よりも一回り大きい大型の人型兵器だ。外見は大振りのハンマーを持った巨漢のようで、山が動いているように見える。

 共食い整備や別の兵器の部品が付けられたジャンク品とも見え、周囲の数十機の機動兵器も、元の形が分からないほど改造されている。中には戦術機の部品を付けている物もあった。

 要塞級を一撃で粉砕した大型機動兵器に乗るパイロットは、拡声器でマリが何所に居るのかを問い始める。

 

『わしはグルビー・アボン! グルビー旅団の大将よ! ギゾン旅団の大将、ギゾンの仇討ちに参った!! マリ・ヴァセレートよ、出てこい!!』

 

『な、なんだこいつ等は…!?』

 

 あの大型機動兵器に乗るのは、あのグルビー・アボンだ。ギゾンの仇討ちをするべく、部下たちを引き連れてこの世界へやって来たのだ。

 周囲のBETAは瞬く間に掃討され、後はハンニバル大隊の戦術機と旅団の傭兵たちが乗る機動兵器のみとなる。そんな所へ、アイリスディーナ率いるシュヴァルツェ・マルケンがやって来た。

 

『隊長! あの女です! あの女が来ました!!』

 

『ほぅ、わしに気付いてやって来た…違う! あの女より肉付きが良過ぎるではないか!? 見分けがつかんのか! このボケ!!』

 

 部下からの知らせで、マリが来たと思ったグルビーであったが、アイリスディーナであった為に見間違えた部下を叱責する。

 当然、コックピットの映像をハッキングして調べ上げている。グルビーの大型機動兵器を見たシュヴァルツェ・マルケンの面々は、当然の如く驚きの声を上げる。

 

「なんだこのデカいのは!?」

 

『ふぉ、要塞(フォートレス)級か!?』

 

 グルビーの巨大機動兵器を見て驚く中、それに乗っている大男は生き残ったギゾンの部下たちが持ち帰ったデータを見て、マリが乗っているフリーダムガンダムが、アイリスディーナを守りながら戦っていると見抜く。彼女を捕らえ、マリを誘き寄せる餌にしようと考えたわけだ。

 

『あの女が守っている女だな! 誘き寄せる餌には丁度いい!』

 

「何を言って…!? 何故こちらの周波数を!?」

 

『どうでも良い! 我が隊長の為に捕まえろ!!』

 

 それより何故こちらの周波数を使って問い掛けているのかをグルビーに問うアイリスディーナであったが、彼の部下たちは無視してマリを誘き寄せる餌にするべく、捕まえに向かって来る。

 即座に迎撃するシュヴァルツェ・マルケンであるが、ノンダス人の乗る改造機動兵器は全機増加装甲を施しており、突撃砲の弾頭では貫けなかった。そればかりか、滑走砲すら弾くほどの重装甲だ。Mig-21の装備では太刀打ちできない。

 

『射撃兵装は使うな! 全員を餌にするからな!』

 

『餌だと!? 何だって言うんだ!』

 

 聞こえて来るグルビーの指示に、テオドールは怒りを覚えて得意の接近戦を挑むが、敵は百戦錬磨の戦士ばかりの旅団だ。一瞬で動きを見抜かれ、短刀を握った左手が取られる。

 

『なに!?』

 

「離れろ!」

 

『踏み込みが甘いわ!』

 

 アイリスディーナの声が聞こえる中、テオドールは目前の敵機に撃破されるかと思った。

 だが、その敵機は上空から来たミサイル攻撃で損傷し、テオドール機から距離を取る。

 

『上空より接近する飛行物体!』

 

『きおったか! わざわざ餌の用意をするまでも無かったな!!』

 

「やっと来たか!」

 

 上空から来たのがマリ達だと、アイリスディーナは分かったが、救援に来た彼女らが乗っているのがVF-1系統であった。

 わざわざアイリスディーナ達を捕らえるまでも無いと判断したグルビーは、こちらに向けて降下して来るマリ達にスラスターを吹かせて上昇する。

 

 

 

『識別反応不能で更に正体不明機、そちらに接近中!』

 

『な、なんだあのデケェのは!?』

 

 アイリスディーナの救援要請を受け、現場に駆け付けたマリ達であったが、予想に反するグルビーの旅団の存在に少々の動揺を覚える。

 遥か上空に控える早期警戒機のミカルからの知らせで、グルビーの大型機動兵器を映像に見たジークフリートは驚きの声を上げた。

 最初に第一射を放ったアーマードバルキリーに乗るジグムントは、接近して来るグルビー機よりも、シュヴァルツェ・マルケンの誰かが死んでいないかどうかをミカルに問う。

 

『それより、誰も死んでいないな?』

 

『あぁ、死んでいない。要塞へ向かった二人もだ。でも、こっちはどうかな。あの機体、母体が何なのか分からない』

 

『そう、原型を留めないくらいに改造されてる。地上に居る正体不明機も全部よ。気を付けて』

 

 巻き込まれたテオドールも含め、誰一人死んでいないと答えれば、ミカルは向かって来るグルビーの大型機動兵器が判別できないと答えた。メカに詳しいリンダでさえ、改造され過ぎて原型が何なのか分からない。

 注意するように言えば、ジグムントは各機に警戒するように無線連絡を送る。

 

『ブリッツより各機へ通達。我々と同じ異界の来訪者だ。装備に関しては不明、各員、警戒して当たれ。以上』

 

『了解!』

 

「あ~ぁ、フリーダムに乗れば良かった」

 

 ジグムントからの警戒通達に、マリは悪態を付きながらスティックを握る。

 VF-1のS型はエース専用の高性能機であるが、この世界においては第二世代戦術機並みである。しかし性能は向こうの方が上であり、異世界から来る連邦や同盟、賞金稼ぎ等の搭乗機と戦うのは限界がある。

 パイロットの腕次第と言うが、この旧式機では流石に限度がある。幾らマリでも、グルビーの大型機動兵器には敵わないだろう。

 だが、このままの状態で戦うしかない。

 そう決めてマリは、こちらに向かって来るグルビーの大型機動兵器に向けてビームキャノンを撃ち込む。

 

『ブハッハッハッ! 効かんわ!!』

 

 一番火力のあるビームキャノンを撃ち込んだが、敵機の重装甲には効かなかった。次に十二発の内、突撃級を一撃で粉砕可能な対戦車ミサイルを撃ち込んだが、これも効かなかった。

 

『な、なんて装甲だ!』

 

『こちらも加勢したいが、生憎とこちらは地上戦用装備だ。そのデカいのは任せる。シュヴァルツェ・マルケンは任せろ』

 

「はいはい」

 

 ジグムントよりグルビーを任されたマリは二回返事で適当に答え、グルビー機より放たれる雨あられの弾幕を躱しながら交戦を開始した。操縦桿を巧みに動かし、時折ガウォーク形態になりつつミサイルやビームキャノンを撃ち込むが、敵機には全く通じない。

 

『貴様の攻撃など、蚊ほどに効かんわ!』

 

「どんだけ改造してるのよ!」

 

 グルビーの声が無線機より聞こえる中、マリは敵機より放たれる攻撃を避けた。

 地上の方をキャノピー越しで見れば、ジグムント等が地上でグルビーの部下とギゾン旅団の残党と交戦しているのが見える。

 

『マリ、付近に母艦の反応がある。恐らく連中のだろう。ジークリンデが撃沈の許可を求めている』

 

「そう。なら撃沈しちゃってよ。あいつ等、そのうち干上がるから」

 

『えぇ、位置を掴めたらね』

 

 グルビーと交戦中、ミカルからジークリンデがグルビー旅団の母艦の反応をあったので、見付け次第、撃沈したいとので許可を求める連絡が来たと言われれば、マリはそれを許可した。

 あれほどの装備を持つ敵は、補給源を叩いて干上がらせるのに限る。そう思っての許可だ。

 自分を執念深く狙って来るグルビーの大型機動兵器に対し、マリはそれらから放たれる攻撃を躱しながら全く貫通しないガンポッドを撃ち込む。

 

『貴様! 真面目に戦う気があるのか!?』

 

 自分の攻撃を避けてばかりで、真面に反撃しないマリに対し、グルビーは怒りの声を上げる。もっともグルビーの襲撃などマリ達にとっては予想外であり、その所為で劣勢を強いられているのだが。

 雨あられとくる弾幕を避けつつ、マリはグルビー機の周りを飛んで弱点を探るのだが、一行に弱点らしい場所が見付からないどころか、弾幕で近付けない。

 

『下の方が弱点だと思うけど。あいつ、そこを予見して機銃やらなんなりを仕掛けてるわ。VF-1じゃパワー不足なのは明らかよ! 頑張って生き残ってちょうだい!』

 

『ジークリンデが出撃した。もう少しで奴は母艦に引き返すだろう。それまでの辛抱だ!』

 

 リンダからグルビーの大型機動兵器の弱点が分からないと言う連絡が来る中、ジークリンデが何に乗って出撃したのかは分からないが、ミカルよりそれが知らされた。

 前も言ったように、グルビーの大型機動兵器が無限に動け続けるわけが無く、弾薬を使い果たせば、母艦からの補給が必要である。

 その母艦が襲われれば、グルビー旅団全戦力の存続が危ぶまれるので、直ぐにグルビー等は撤退するだろう。自分の母艦が襲われていると聞いて、グルビーがここから撤退するまでマリは力不足のVF-1で耐えねばならない。

 そう判断したマリは重い装備のストライクパックをパージし、身軽になって敵の攻撃を避けるのに専念した。ただ歴戦練磨で生粋の戦士のノンダス人であるグルビーは、これを侮辱と捉えた様だ。攻撃は苛烈に極める。

 

『おのれ! このわしを侮辱しているのか!? やはり女は戦場に不要だ! 跡形も無く消し去ってくれるわ!!』

 

「こういう男、ほんと嫌い!」

 

『止めろ! それじゃあ奴の思う壺だ!!』

 

 グルビーの発言に嫌悪感を覚えたマリは、感情に任せて対戦車ミサイルを全弾発射する。

 ミカルからの静止の声が聞こえるが、マリは無視して機体をバトロイド形態に変形させ、ガンポッドを近付いてくるグルビー機に向けて放つが、先ほど発射したミサイル同様に全く通じない。

 

『止せ! その機体じゃ真面に勝てん!!』

 

 地上でミサイルを雨あられと放ち、グルビー旅団の機動兵器やBETAを攻撃していたジグムントも、マリを止めようとするが、彼女は全く聴かずに交戦を続行する。そればかりか、無線が繋がっていることを知って、なぜ戦うのかをグルビーに問う。

 

「あんたさ、そんなに戦って何を求めているの? 名誉? それとも女の子にちやほやされたいの? 周りに迷惑かけて、沢山の人から大切な物を奪って、住む場所まで壊してどうしてそんなに戦うの?」

 

『女ぁ…! わしはノンダス人だぞ! 戦こそ我が人生! 戦無き人生など我らノンダス人に無意味! 以下に周りに蔑まれようが、我らノンダス人は戦い続ける! それが我らの誇りであるからだ! 戦場こそが我らの居場所であり墓標ッ!! 理由はそれ以下よッ! 貴様のような女に分かるまいなッ!!』

 

 この問いに対し、グルビーは戦こそが理由であると答え、大振りのハンマーを振るって来る。これにマリは更に怒りを覚え、機体をファイター形態へ変形させ、周りの事は考えたことが無いのかと問う。

 

「それで、一体どれだけの人に迷惑を掛けて、大事な物も奪って、そんで済む場所まで壊して来たの? 周りの事とか考えたことある?」

 

『ふん、そんな巻き添えを食った者の事など、一切覚えておらんわッ!! 我らの戦場に巻き込まれた方が、悪いのだッ!!』

 

「…あんたみたいなのが居るから戦争が終わらないのよ」

 

 どれほどの人をその誇りで苦しめ、殺して来たのかを問う。この問いにグルビーは覚えていないと答え、挙句に巻き込まれた方が悪いと言い始めた。

 それを聞いたマリは、長年の経験上でこのような人間が居るからこそ戦争が終わらないと判断した。出会った中には戦場でしか己を見出せない自分を蔑む者達も居たが、目前の巨大な兵器に乗る大男は前者の類の様だ。

 ここで殺すべき男であるが、今の装備では太刀打ちできない。

 そう思った矢先、ミカルから敵の母艦を発見して攻撃を開始したとの報告を受けた。同時にグルビーの機動兵器が接近し、大振りのハンマーが回避できない距離まで迫っていた。

 

『マリ、ジークリンデが敵母艦を発見した。護衛機を排除して、地上の敵部隊を撤退させるほどの攻撃を、あと少しで負わせられる』

 

「もう十秒か一秒ほど遅いわよ…」

 

 迫り来るハンマーを見ながら、マリはあと十秒か一秒ほど遅いと返した。

 その後、振るわれたハンマーは機体の胴体に命中し、VF-1は二つに砕かれた。後部は地面に落下して、コックピットがある前部はノイエハーゲン要塞の方へと飛んで行く。マリはハンマーを当てられた衝撃で気を失っており、聞こえて来る警告音や無線機からの声に反応しなった。

 

『ベイルアウトだマリ! 聞こえているか!? マリ、マリィィィ!!』

 

 ミカルの声が聞こえて来るが、マリには聞こえておらず、そのまま彼女を乗せた部分はノイエハーゲン要塞へと飛んで行く。数分後、彼女を乗せた部分はノイエハーゲン要塞に墜落した。

 

 

 

『みんな大変よ! マリがやられたわ!』

 

「そうか。こちらは敵が撤退した。ジークリンデに何かやらせたのか?」

 

 マリの墜落は直ぐにジグムント等に知らされた。が、ジグムントは彼女が不老不死なのを知っているのか、全く動じなかった。そればかりか、敵が撤退したことに対しての理由を問う。

 

『確かにそうだけど、可哀そうよ!』

 

『あぁ? その内戻って来るだろ。だって不死身だし。なんとかするだろう』

 

『そんな猫みたいに…』

 

 ジークフリートも不老不死なのを知っており、リンダの必死の声に、まるで飼い猫みたいに戻って来るとまで答える。

 この発言に随伴者達や無線機よりこれが聞こえていたアイリスディーナ等は困惑を抱くが、ジグムントはミカルよりジークリンデが敵母艦を攻撃していると聞いた後に、彼らに心配ないと告げる。

 無論、アイリスディーナ達には、マリが不老不死なのを隠している。

 

「お前たちは心配するな。何とかする」

 

『あそこにファム中尉とヴァルトハイム少尉を送っている。頼んだぞ』

 

「もちろんだ。では、我々も補給のために撤退させて貰おう。この装備では、先の連中みたいなのは正直キツイ」

 

『了解した。こちらも一度補給へ戻る』

 

 アイリスディーナよりファムとカティアが、マリが落ちたノイエハーゲン要塞へと向かったと告げられれば、ジグムントは一度補給してから助けに行くと答え、アーマードパックを解除して撤退を始めた。

 

『さて、アイリスちゃんよ。また会おうぜ』

 

『アイリス…?』

 

「気にするな、奴が勝手に言ってるだけだ」

 

 最後にジグムントと同じく自機のアーマードをパージしたジークフリートが別れの挨拶をすれば、部隊長であるジグムントは気にしないように告げる。

 彼らの撤退を見送った後、アイリスディーナらの第666戦術機中隊も撤退を始めた。

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