シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ   作:ダス・ライヒ

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ジュリエッタ登場回となります


ネプチューンに向けて

 マリを捕らえきれず、あまつさえ母艦に被害を受けたグルビーは、随伴して来たキリングの艦に呼び出され、彼からの叱責を受けていた。

 

「やはり傭兵とやらは信用ならん。私の艦隊が同盟軍の艦隊を足止めしているにも関わらず、捕らえ損ねた挙句、同盟軍の別動隊に先を越されてしまった。幸い、同盟軍は捕らえることは出来ず、ワイルドキャットの乱入で撤退したようだが、貴様があの時、私念に駆られず、母艦の救援に帰らなければ捕らえられたであろう」

 

「何を言うか! わしのゴルドン無くして旅団の維持は出来んのだぞ! それより貴様らクジャン公配下の第9艦隊では無いのか!? あの程度の敵を容易く撃退できんとは!」

 

 キリングからの叱責に対し、グルビーは母艦無くして自分の旅団の維持が出来ないと返して精鋭であるはずの第9艦隊が敵艦隊を撃退できなかったことを責めた。

 少しキリングは自分の実力の無さを指摘されたことに腹を立てたが、捕縛対象のマリに関する対策を考え直す必要があると説く。

 

「それとこれとは話が違う。それより同盟軍がたかが女一人に蜘蛛の子散らすように逃げたのが気になる。偵察艦がワイルドキャット軍の要塞を監視したところ、同盟軍が二個軍団もの兵力を投入したにもかかわらず、十分で一個歩兵師団相当の兵力があの女一人に壊滅させられた。次に機動兵器だ。増援にやって来た三機と持って来た一気に乗り込んだ女は、たった四機で一個軍団ほどの同盟軍の機動兵器部隊を壊滅状態に追い込んだ。ワイルドキャットの増援も入り、四機は同盟軍が撤退する前に何処かへ消えた」

 

「それがどうした? 同盟軍の奴らが情けないだけであろう」

 

 マリの強さはおかしいと言うキリングに対し、信じられないグルビーは同盟軍が情けないだけだと返す。

 

「ふん、やはり戦うしか能が無い傭兵か。私はこの女一人に同盟軍があれほどの戦力を投入したことに疑問を抱いているのだ。送るとすれば一個小隊程度で済む。やはりあの女は圧倒的だ。そうでなければ、貴様の同業者が殺されるはずが無かろう」

 

「むっ、確かにそうだ。ギゾンの奴がこんな女に負けるはずが無い! どうやら奴は魔女だったらしいな…!」

 

「ようやく気付いたか。これはガイアセイバーズを要請するしかあるまい。我が軍もあの女にかなりの損害を与えられている。いたずらに大部隊を投入していては、損害を増やすばかりだ。精鋭での制圧に限る」

 

 キリングが女如きにギゾンがやられるのがおかしいと言えば、グルビーはようやくマリが強敵であるとことを認めた。

 これまでマリは同盟軍を含め、連邦軍にも多大な損害を与えて来た。これにキリングは通常の兵力、精鋭でも敵わないと判断し、能力者狩りを専門とするサイキックハンター、能力者対抗部隊であるガイアセイバーズの投入を要請しようと考える。

 

「早い方が良い。早速、艦隊本部にガイアセイバーズの要請を促そう」

 

「わしは残るぞ。修理と補給が済み次第、攻撃を仕掛ける予定だ。そちらも早く頼むぞ」

 

「言われなくともすぐやる」

 

 投入した方が良いと判断したキリングは、再編も兼ねて艦隊本部に戻ると言えば、グルビーは残って再びマリに挑むことにした。

 

 

 

 フランケンシュタイン号に戻ったマリ達は、そこで補給と修理を受けていた。

 会議室でグルビーや同盟軍の件もあって、この世界の政府機関に目を付けられないように性能が低い古い機体ばかりを使うのは止め、これからVF-31のような高性能機で行くしかないと思った。だが、未だにジグムントは高性能機の投入を絞る。敵がこれ以上増やさないようにする考えであるが。

 

「おいおい、そんなんだから俺たちが後手に回るんだろ? この際だからヒーローになろうぜ、ヒーローによ」

 

「駄目だ、最低でもジェスタ程度でなければならない。向こう側に目を付けられる」

 

「世間体を気にしてる場合かよ。このままじゃ誰か死ぬぞ」

 

 ジークフリートがもう加減はしなくて良いと言うも、ジグムントは反対する。

 もう同盟軍の件で身を付けられていると思うが、フランケンシュタイン号に巡航ミサイルが一発も飛んで来ないので、関心は同盟軍に向いていると思われる。煙草の紫煙まみれの会議室の中で、マリも煙草を吹かせながらシュヴァルツェ・マルケンはどうなっているのかを口論が始まろうとした瞬間に聞く。

 

「でっ、黒の宣告はどうしてるの?」

 

「おい、空気読めよ。今は俺たちが…」

 

「いつも通り。ファム中尉が負傷で抜けて、新しい人員を入れるみたい。名前はこの前、あの世界じゃ二年位前に助けたリィズ・ホーエンシュタイン」

 

「リィズちゃんか…」

 

 割って入って来たマリに対し、ジークフリートは注意するが、ジークリンデは遮ってシュヴァルツェ・マルケンの現状を答え、新しい補充員が自分等の助けたリィズであることを告げる。アウトサイダーの予想通りに事が進んでいるようだ。もっとも、必然的にリィズがシュヴァルツェ・マルケンに入るのだが。

 割り込まれたジグムントは、近々西側でBETAに対する大規模な反攻作戦が開始されると伝える。

 

「スパイ衛星で西側を傍受したが、大規模な反攻作戦の準備が行われているようだ。もう既に作戦を始められるほどの数が揃っている。東側でもそれに同調して戦力を集結させている。デカい作戦が始まるな」

 

「そう。その作戦にNVAは?」

 

「もちろん参加する。主力軍が軒並み増員されるようだ。その中にはシュヴァルツェ・マルケンも含まれている。我々も行かなくてはな」

 

「何所に配置されるか調べないと」

 

 大規模な反攻作戦に東側の主力軍も参加し、もちろんシュヴァルツェ・マルケンも含まれていると分かれば、マリは向こうの世界のコンピューターのハッキングを行い、NVAが何所の地区を担当するかを調べ始める。

 

「では、我々も作戦に合わせて機体の調整を行う。ミカル、君は情報収集だ」

 

「それが僕の取り柄だからね。では、行って来る」

 

 マリが仕事を始める中、他の者達もそれぞれ出来る事を始める。ジグムント等は大規模な反攻作戦に備え、機体の調整に向かう中、情報屋のミカルは適材である情報収集に地球へと向かった。

 そんな彼女らに、アウトサイダーは連邦軍や同盟軍の再攻撃を警戒し、宇宙船一隻と複数の機動兵器を増援として送っており、戦力もかなり充実していた。

 

 

 

「クジャン名誉元帥殿、今回の任務、ガイアセイバーズが必要です」

 

「ガイアセイバーズを? 大袈裟すぎるぞ。我らだけでかの魔女を捕らえられる」

 

 補給と再編を兼ねて、連邦軍最強の部隊であるガイアセイバーズ出動の要請しにイオク・クジャン率いる第9艦隊本部へと戻ったキリングであったが、当のイオクは自分等だけでやろうと思っており、大袈裟すぎると言って提案を蹴る。

 要するに他の部隊に手柄を取られたくなく、イオクはマリを捕まえてティナに自分の忠誠心を示し、クジャン家の当主であることを示したいのだ。そんなイオクに対し、同じ第9艦隊の者である将官にガイアセイバーズを要請した方が良いと告げる。

 

「イオク様、キリングの言う通りガイアセイバーズの出動を要請した方が良いのでは? 報告を聞く限り、敵はたった一人で軍集団以上の戦闘力を持つ女。いたずらに兵力を投入し、失敗続きなら戦力を消耗するばかり。化け物には化け物をぶつけるしかありません」

 

「だが、私はどうなる!? これは与えられた名誉なのだ! 伝説では、化け物を倒すのはいつだって人間だ! 人間である我々が倒さねばならん! 化け物は要らんのだ! 良いか、かの女は第9艦隊のみでやる! 他の部隊には決してやらせるな!」

 

 彼は尤もなことを言ったのだが、当のイオクは聞く耳持たないようだ。それを見ていたキリングは、イオクに聞こえないように悪態を付く。

 

「ふん、馬鹿な当主だ。通りで味方殺しなどと陰口を叩かれるわけだ」

 

 マリを捕らえる事を名誉と言っているイオクに、キリングは呆れ返っていた。

 

「では、自分は暫し仮眠を取って来ます」

 

「そうしろ、それで少しは頭が冷えるだろう」

 

「…頭を冷やすのはお前だ、親の七光りめ」

 

 イオクから離れる為、キリングは仮眠を取ると嘘をつけば、彼は頭を冷やせと告げる。これにキリングは聞こえない声量で正論を叩き付け、イオクから離れて通信室へと向かった。

 通信室に着いたキリングは、誰も居ないことを確認すれば、別の将官との連絡を取る。機器を操作して画面に映像通信を出せば、画面に映っている角刈りの初老の男の階級の高い将軍に対し、ガイアセイバーズの出動を要請する。

 

「エルラン元帥殿、クジャン公目は聞く耳を持ちません。どうやら貴方にしか頼る事が出来ません」

 

『ふむ、前当主の父上は優秀であったが、息子であるイオク君はその才能を受け継いでいないようだな。良かろう、私が申請してみる。受け入れられるかどうかは、‟あの方‟次第であるが』

 

「よろしくお願いします。それとあの方とは…?」

 

 エルランはガイアセイバーズの出撃の要請を検討すると言えば、キリングは感謝の意を表して頭を下げる。その時、エルランが言ったあの方と言う人物が気になったのか、それが誰なのかを問う。

 これにエルランは表情を引き付け、まだ知る権利がない事を中将のキリングに伝える。

 

『キリング君、君に知る権利は無い。私のように元帥階級の将軍のみしか存在を知らされない御方だ。大将や大統領も含めてな』

 

「私は中将クラスの将軍。あの七光りの青二才が知りえて私が知らされないのは何故です?」

 

『キリング君、とにかく、生きて昇進したければ必要にあの方の事を嗅ぎ付けないことだ。イオク君に聞いても無駄だぞ。彼は無能だが、狂信と言って良いほどあの方に心酔されている。例え家族を人質に取られようとも決して言わないだろう。元帥に昇進するまで、その好奇心を抑え、キャリアを積みたまえ』

 

 自分はイオクより有能であると言うキリングに対し、エルランは嫌悪な表情を浮かべ、遠回しにあの方、つまり連邦の裏の支配者であるコンスタンティナ・アナ・カポディストリアスの事は元帥になるまで聞くなと告げて通信を切った。

 これにキリングは自分を少し侮辱されたと思い、エルランに嫌悪感を抱いたが、イオクを出し抜いて自分がマリを捕らえれば一気に元帥にまで昇進できると判断して平常を保つ。

 

「まぁ良い。あの七光りの青二才目を出し抜き、俺があの魔女を捕らえれば良い事だ。同盟にも売り込めば、一気に元帥待遇で扱ってくれるだろう。さて、奴を出し抜く算段を考えねばな」

 

 通信室を後にしたキリングは、ガイアセイバーズが来た後に、イオクをどう出し抜くかどうかを考える為、自分の寝室へと向かった。

 一方、艦隊司令部に居るイオクは、執務室でキリングを除く自分の部下たちの集結を待つ中、部下の一人のノヴォトニーが執務室に入り、挨拶の敬礼を交わした。

 

「ノヴォトニー、第13艦隊の救援任務より帰投しました!」

 

「ご苦労。敵は粉砕できたか?」

 

「はっ、敵同盟艦隊を撃滅いたしました! それよりイオク様、貴方のお耳に聞かせたいことがございます」

 

「ん? 申してみよ」

 

 同じく敬礼で返し、戦果報告を記したタブレットを受け取って戦果を確認したイオクであるが、ノヴォトニーが知らせたいことがあると告げる。これにイオクは報告の許可を出し、ノヴォトニーに言わせる。

 

「情報部の同期の者に聞いた話ですが、兼ねてより統合参謀本部より脅威認定されていた地球帝国が異世界侵攻に動き出した模様。我が連邦軍に対して宣戦布告、既に幾つか光線が行われています。彼らと敵対するケイオスや異種族同盟も異世界侵攻を開始。こちらも同じく我が軍と交戦、幾つかは撃退しておりますが、惑星同盟の傘下に加わる可能性は高いと見えます」

 

「な、なんと! あの戦乱の世界の狂信者共や化け物共が異世界に!? ただでさえ新興勢力が乱立しているのだぞ! ますます混迷は増すばかりだ…!」

 

 ノヴォトニーからの知らせに、イオクは冷汗を掻き始める。

 その地球帝国と異種族、邪悪なケイオスは連邦軍が警戒するほどの脅威勢力であり、ただでさえ長きに渡る次元戦争で新興勢力が乱立しているのに、更なる脅威が迫れば、混乱は増すばかりだ。これにより、幾つもの世界が崩壊している。

 

「地球帝国の侵攻は休眠状態の皇帝の復活を掲げている模様。戦意向上演説を盗聴した結果、どうやら我々が追っている不老不死の女であることが判明しました。幾つかの世界にスペースマリーンや艦隊を派遣している模様です。異種族は惑星同盟と接触、参謀本部は陣営に加わると予想しております。ケイオスは各新興勢力を交戦しております」

 

 続けて報告するノヴォトニーの言葉に、執務室に居る者達が戦慄を覚える中、イオクは長として、連邦軍の名誉と言えば元帥として威厳を示すべきと判断してか、彼らを鼓舞する。

 

「狼狽えるな! たとえいかなる敵であろうとも我ら連邦軍、否、統合連邦軍は負けやしまい! 何のために我ら人類は連合結成したか!? それは人類存続の為であるッ! 我らはその無敵を誇る軍属! 我ら連邦軍は必ず勝つのだ! 歴史を顧みよ!! 最後に勝つのはいつだって我ら連邦軍だ!!」

 

『オォーッ!!』

 

 イオクは無能な当主であるが、人当たりが良く戦意向上には奴に立つ男だ。

 そんな彼が鼓舞する演説を行えば、クジャン家に忠誠を誓う者達は拳を高く上げて雄叫びを上げる。連邦軍はいつだって勝つ。

 統合連邦となる前、三度目の世界大戦後に創立された連邦政府は、宇宙へと生存圏を広げて以降も幾つもの戦乱を経験した。敗北寸前まで追い詰められたことはあったが、家族や恋人のために戦う者達の手で何とかギリギリの所で勝って来た。

 だからこの次元戦争も勝てる。何故なら勝利に必要な物資も資源、人的も全部そろっているのだから。

 しかし、脇から見れば連邦も脅威認定されている異世界の地球帝国と変わり無い。政治思想や国家体制は違うと言っても、やっていることは、対して変わりないのだ。

 

 

 

「あれね」

 

 数日後、マリは再び第666戦術機中隊の駐屯基地に来ていた。

 現在、中隊は補充員兼交代要員のリィズを自分の隊の戦術に馴染ませるべく、訓練を行っている。多少の遅れは見られるようだが、なんとかついてこられているようだ。

 来た頃には既に訓練は終わっている頃だったのか、中隊のMiG-21戦術機は基地に帰投して格納庫に入って行く。

 この様子を眺めていたマリは、淹れたてのココアを啜りながら双眼鏡で彼女らを監視する。様子を見るために地球へ降りたのではなく、アイリスディーナと接触する為である。寒い外で夜までいつもの廃教会で待っている間、遂にアイリスディーナが護衛を伴っていやって来た。

 

「今回はお前一人か?」

 

「うん」

 

 廃教会へとやって来たアイリスディーナは、マリに護衛は居ないのかと問う。これにマリは一言返事して、温かいココアを啜る。

 

「それじゃあ、数日後に行われる作戦で東側の軍は何所に配置されるの?」

 

「それについてはまだ分からん。聞かされているだけで何所に配置になるのかも分からない。作戦決行日には教えてやるが、教えなくともお前たちなら見付けられるだろう」

 

「まぁ、そうね」

 

 反攻作戦で何所に配置になるのかをアイリスディーナに聞いたが、彼女は聞かされただけで何所の配置になるのかまだ分からないと返答する。

 知らせなくとも、こちらの位置がつかめる事が分かっているマリに、教えずとも分かるだろうと言えば、マリは頷く。シュヴァルツェ・マルケンの機体にビーコンを付けているので、作戦が始まれば少々の時間は掛かるが、確実に見付けられる。

 

「話はそれだけか? こうやってお前と接触する事態、それなりの危険が伴う。それでは帰らせてもら…」

 

「あぁ、待って。強化装備のことなんだけど」

 

「強化装備? 何か気になる事でもあるのか?」

 

 話は作戦の配置だけと判断したアイリスディーナは、この密会がそれなりの危険が伴う事を伝え、基地へと戻ろうとしたが、マリはカティアに聞きそびれたことを彼女に聞いた。

 

「生理の時とかどうしてるの? あれ」

 

「…はっ?」

 

「あれ薄いし、股の辺りに垂れたら…ナプキンとかひいてる?」

 

 強化装備に対するマリへの疑問に対し、アイリスディーナと護衛の者たちは一瞬固まった。特にアイリスディーナには効いたらしく、顔を赤らめている。暫くの沈黙の内、いつもの冷静とは思えない声でアイリスディーナは、何故そんなことを聞くのかをマリに問う。

 

「ど、どうしてそんなことを聞くんだ…?」

 

「ほら、だってあれって肌の上から直接着るでしょ? 下着とかナプキンとか着けてるのか気になっちゃって」

 

「それについては…答えん! 例え尋問されようともな!」

 

「あぁ、経験あるんだ。じゃあ、会う時は知らせるから!」

 

 そんなアイリスディーナに、マリは弱点を見付けたと思ってニヤニヤしながら畳みかければ、彼女は経験でもあったのか拒否する。

 自分より美貌が勝る女の弱点を見付けたマリは、十分な戦果が取れたので、フランケンシュタイン号へと帰投した。

 

 

 

 フランケンシュタイン号とは違う別の衛星軌道上にて、連邦や同盟と同じくマリの追跡をしているワルキューレの艦隊も、人類の反攻作戦を掴んでいた。

 艦隊の構成はマクロス級一隻に駆逐艦六隻、その他軽空母に輸送艦や揚陸艦を合わせて十隻と言う艦隊戦には不向きな編成だ。艦隊旗艦にされているマクロス級の艦内のハンガーにおいて、地上へ降下させる部隊の編成を行っていた。

 ワルキューレも地球の各国政府に目を付けられることを警戒して制限を掛けているのか、連邦軍や同盟軍と戦うには厳し過ぎる機体ばかりである。

 

「こんな機体ばかり整備して、連邦や同盟軍が来た時はどうしろって言うんだ? 自殺行為だぜ」

 

「廃棄処分予定だとよ。全く、気にせずに現行機を使えば良いってのに」

 

 用意されたのはエゥーゴやティターンズ系統のMSだ。ネモにリックディアス、ハイザックにマラサイ、バーザムと連邦軍の現行機と戦うには荷が重すぎる物ばかりだ。倉庫に余っている物を持って来たようで、使えなくなった部品は排除し、まだ使える部品だけを使って動かせるようにしている。いわゆる共食い整備である。

 無論、地球に降下して任務を終えた後はパイロットだけ母艦に戻り、現地で処分する予定だ。向こうに異界の技術が渡る可能性はあるが、性能的には第二世代の戦術機とは変わりないので、むしろゴミになるだろう。降下艇も埃を被っていた物で、これも処分される。

 地球からどうやって帰ると言えば、緊急帰還用の転移装置で母艦に帰る手はずになっている。これに乗るパイロット達は、地上戦を行うので全員が陸軍所属である。そんな廃棄予定の機体の整備をやらされている整備兵等は文句を言いつつ、黙々と仕事を行う。

 

「あの、私のガンダムは何所ですか?」

 

「ガンダム? あぁ、あっちに置いてある。もう整備し終えたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 整備兵等が機体の整備を進める中、一人の金髪の少女が自分の機体は何所にあるのかを問う。

 これに整備兵等はガンダムがある方向へ指差せば、少女はそちらの方へ向かう。その少女のガンダムは、F90ガンダムに新換装装備である両腕に特徴的な剣を着け、両足にはクローを着けた物だ。

 F90ガンダムは様々な状況に応じて装備の換装を想定して開発されたガンダムであり、その換装装備の種類は二十六種類もある。これに乗る彼女のために、わざわざ専用の換装装備を作って装備させたのだ。

 この換装装備の名はジュリエッタであり、乗っている本人の名前を付けた。

 

「なんかそのままくっ付けたような感じがする…」

 

 ジュリエッタと言う名の少女は、単に既存のF90に自分専用の装備を換装されただけで落胆する。それでも高性能機なので、十分過ぎるほど恵まれているだろう。

 なぜジュリエッタだけ現行機と同等な高性能機のMSかと言えば、連邦軍や同盟軍に対する保険や、マリに敵うパイロットだからである。F90に乗るジュリエッタ・ジュリスもまたユリアナと同じくヴァルハラより呼び出された英霊であり、生前は鉄華団と激戦を繰り広げた。

 他にも数名の英霊が参加しているが、この場に姿を見せていない。一機では荷が重いのか、レギンレイズ二個中隊とバルキリーのVF-31Aカイロス一個中隊が待機している。

 

「まぁ、ガンダムだし。良いか」

 

 乗っているのがガンダムだからと言う事なのか、これ以上の高望みはせず、機体に乗るため、コックピットがある胴体まで上がった。

 ジュリエッタのF90の横では、マリを捕らえるために地球へと降下する部隊のパイロット達や、支援部隊の者達が集まってミーティングを行っている。その中にはユリアナも含まれていた。

 彼女らもまた事前に人類側の作戦を察知しており、地図を広げて東側が配置される場所でマリ達が現れそうな個所を予想し、何所に部隊を配置するかの議論が行われている。

 

「あの女が現れる個所に記しを付けよう。ここをAポイントに、そしてこれがBポイント、残りは…」

 

 ユリアナはマリが現れそうな場所を次々と地図に、赤いペンで記していく。

 生前のユリアナは士官学校で優秀な成績を収めており、在籍中に戦争が起こった際は一度だけ実戦を経験した事がある。戦後二年余りに発生した内戦で戦死したが、死ぬまでに少なからずの功績を立てている。

 マリが第666戦術機中隊のピンチの際に出てきそうな場所を赤いペンで記していく中、横で見ている副官は現行機で捕らえた方が速いと告げる。

 

「ほぅほぅ、流石は士官学校を繰り上がりで卒業したことはある。ですが、周りなんて気にせず、F90を主力にして捕らえれば良い話じゃないですか? おまけにレギンレイズも揃ってる。そいつを連邦軍や同盟軍の警戒用に当てるなんて…」

 

「貴様、それでも軍人か? 軍人は命令された通りにやる物だ。お前が昇進できない理由が分かって来た気がするぞ」

 

 装備制限はワルキューレの上層部から命令されていたようで、ユリアナは従うしかないと告げた後、中年の副官が昇進できない理由を理解した。

 

「おいおい、マウント取りかよ…小官は手段など選ばず、迅速にかつ少ない損害で捕らえた方がよろしいかと提言しているのですが」

 

「それは分かっている。だが、あの世界の人類に目をつけられてはならん。敵を増やすような真似は出来んと言っているのだ」

 

「前の時は気にしなかったくせに、今度は気にするのかよ…」

 

 聞こえないように小言で文句を言った後、手段を選ばずに強引な方法で捕らえれば良いと副官は告げたが、ユリアナは敵を増やさないことを優先して却下する。

 これに副官は生き返った後の初陣の時の事を持ち出したが、言えば殴られるかもしれないので止めた。

 

「では、捕縛作戦は対象がやたらと守っているこの戦術機中隊が、何らかの危機的状況に陥った際に決行する。各員は人類の反攻作戦開始後に降下し、所定の位置に待機せよ。何か質問は?」

 

 それから作戦の概要を伝えた後、ブリーフィングを終わらせようとして最後の質問に入る。

 

「無いな。では、私はこの場に不参加な砲兵士官と、あのF90ガンダムと言うのに乗ってる奴の為にもう一度ブリーフィングを行う。では、解散!」

 

 誰も質問が無いと分かれば、ユリアナはブリーフィングを終了した。不参加な者達の為にもう一度やるようで、不参加な支援部隊の砲兵士官やジュリエッタを呼ぶようだ。陸軍のパイロット達と共に換算した副官は、ユリアナの搭乗機を見て毒づく。

 

「あんたも十分に高性能機じゃねぇか。それもチート級の」

 

 副官が毒づくほどのユリアナの搭乗機とは、騎兵用のランスを装備したガンダムエクシアであった。

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