シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ   作:ダス・ライヒ

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黒のガンダム

 先の殴り合い騒動後、シルヴィアはNVAの憲兵隊によって連行されて独房に入れられたが、物の数十分で牢が開けられた。

 

「なに、銃殺刑?」

 

「違う、釈放だ。西の将校がさっきの事を不問にするそうだ」

 

「不問?」

 

「良いから出ろ! お前の中隊の政治将校がお呼びだ!」

 

 シルヴィアは西の将校と聞いて、直ぐに連邦陸軍の大尉であるマリと分かり、あれほど顔を殴り付けたのに、なぜ不問にして釈放したのかを問う。これに憲兵は答えることなく、早く出すために無理に独房から叩き出した。

 独房から叩き出されたシルヴィアは、待合室にいるアイリスディーナと今は会いたくない政治将校のグレーテル、それに中尉達とテオドールを初めとした隊員等が待っていた。直ぐに上官らに向けて無言で感謝の意を表する敬礼すれば、グレーテルが近付いてくる。

 西側と一悶着を起こしたシルヴィアに当然ながらグレーテルは怒っており、しかも東側の彼女の方から殴り掛かったのだ。当然ながら外交的に西側に自国の弱みを握られたと思っており、無言で敬礼して直立不動状態のシルヴィアの頬を叩いた。

 

「馬鹿者! 何を言われたか知らんが、そんな挑発に乗って西側の将校に殴り掛かるとは! 貴様の行いの所為で、どれくらい外交的に不利になるか…! 分かっているのか!?」

 

「あ、あの…」

 

「止めとけ。お前も巻き込まれるぞ」

 

 カティアを除く中隊の誰もが予想していたことだ。カティアは止めようとしたが、テオドールに肩を掴まれて止められる。グレーテルの説教はそこから小一時間も続いた。

 

「向こうに挑発されても乗ってはならん。侮辱されようともだ。我ら社会主義者は、低俗な資本主義者と同等になってはならん! 分かったか!?」

 

「…はいっ!」

 

「よろしい! 今は人手不足だ、お前にまで戦列を離れられると困る! 鉄剣制裁で済ました党に感謝しろ!!」

 

 説教が終わった後、グレーテルは少しふら付きながらこの場を後にした。

 政治将校として、衛士としてこの厳しい戦術方針の中隊に属し、いつ死ぬか分からない前線で戦い終え、基地に帰還すれば本部に報告している。グレーテルもかなりの疲労を抱えているようだ。党からかなり無茶なノルマを課せられているのだろう。

 そんな彼女の中半八つ当たり染みた説教が終われば、シルヴィアは近くの椅子に倒れ込むような形で座る。

 

「まぁ、向こう側が許してくれて助かったな。普通なら銃殺物だが」

 

「大尉が何か持ち掛けたんじゃ?」

 

「いや、そんなことはしていない。あちらが言ったんだな」

 

 そんなシルヴィアに、アイリスディーナが近付いて軽い罰で済んだことを感謝するように告げる。西側の将校、と言うかマリが不問にしたのは、アイリスディーナが何か持ち掛けたと思ったが、当の彼女は何もしてないと答える。

 

「何の話ですか?」

 

「お前にはまだ関係の無い話だ」

 

 何の話をしているのかとカティアが問えば、アイリスディーナはまだ早いと答えた。

 

 

 

 目下ポーランドで西側と東側の合同反攻作戦であるネプチューン作戦が進む中、地球の上空にて、先行して地球の衛星軌道上に接近していた連邦軍の艦隊があった。

 統合連邦傘下の一つのコロニー連合(UCA)軍であり、既存装備の艦艇である巡洋艦を旗艦としたレンドリースされたアイリッシュ級戦艦やアレキサンドリア級巡洋艦、ネルソン級巡洋艦、ドレイク級護衛艦数隻の艦隊だ。

 あとから来るガイアセイバーズの露払いの為か、艦艇と同じくレンドリースされたMSであるジェガンJ型やストライクダガー、スコープドックを展開している。

 

『機動兵器部隊、直ちに展開! 戦闘機隊は偵察機と随伴!』

 

 旗艦からの指令で部隊の展開が進む中、その様子をワルキューレの艦隊が撃破した同盟軍の艦艇の残骸から見る一機のMSの姿があった。MSはF90ガンダムであり、乗っているのはジュリエッタだ。

 

「数は十一隻、MSの数は五十機…またこんなに」

 

 球体状のコックピットの中で、UCAの艦隊を見たジュリエッタは、先の戦闘で交戦した同盟軍と同じくまたこの数を相手にしなければならないと愚痴をこぼす。衛星軌道上に浮かぶ同盟軍艦隊の残骸は、ジュリエッタ率いる待ち伏せ部隊が奇襲して壊滅させた物だ。もっとも、何隻かには逃げられたが。

 ジュリエッタ隊は隊長機のF90を含め、十三機で編成されており、十二機はジンクスの最終生産モデルであるジンクスⅣである。他に早期警戒型のVF-31Eジークフリートや、VF-25Aメサイア一個小隊が待機している。

 

『敵無線、傍受開始』

 

 早期警戒機のレーダー士官より、敵の無線を傍受すると連絡が入れば、ジュリエッタはヘルメットを被ってUCA軍の無線連絡を聞く。

 

『クソッタレ、何が精鋭部隊だ。なんで俺たちが奴らの露払いなんてしなくちゃならねぇんだ』

 

『こんな旧式のMSと、棺桶のATだぞ。戦闘機の方がマシだぜ』

 

『俺らがコロニー出身だからか? ガイアセイバーズがやれば良い物を』

 

『貴様ら黙れ、同盟軍のエイリアン共を壊滅させた連中だ。周囲警戒、怠るなよ!』

 

 無線連絡から聞こえて来るのは、露払いを押し付けられた隊の兵士たちの愚痴だ。とにかく愚痴ばかりであるため、早く攻撃を仕掛けないかと、ジュリエッタは部隊長に問う。

 

「あの、攻撃しないんですか? なんか、愚痴しか聞こえてこないし」

 

『まだ敵がキルゾーンに入っていない。それまで待機しろ』

 

「…早くしろ、早くしろ早くしろ早くしろ!」

 

 攻撃は敵艦隊がキルゾーンに入ってから攻撃すると答えが来れば、ジュリエッタは苛々して敵艦隊がキルゾーンに入るように、レーダーに記されている場所に入るように告げる。

 

『こちらホットドック、周辺には同盟軍艦隊の残骸しか見当たらない。まだ熱を持っている。敵が潜んでいるかも』

 

『ベルダーより各機、敵艦隊の最後尾はキルゾーンに入った。攻撃開始!』

 

「来たっ!」

 

 数分後、敵艦隊の最後尾がキルゾーンに入った所で、遂に攻撃開始の合図が出された。

 VF-25から対艦ミサイルが発射される中、F90ガンダムを駆るジュリエッタは身を隠していた残骸から飛び出し、手近に居る敵機に向け、ビームライフルを撃ち込んで撃破する。

 

『み、ミサイル接近!』

 

『クソッ! 待ち伏せかよ!』

 

『っ! ガンダム!?』

 

 まだ無線機から盗聴されている敵軍の兵士たちの声が聞こえる中、友軍機が二機もやられたことで、ジュリエッタが乗るガンダムに気付き、ようやくUCAのパイロット達は反撃に出る。突然の奇襲に反撃はままならず、簡単に避けられて撃破されるばかりだ。

 ジュリエッタは雨のように飛んでくるビームを避け、得意の接近戦を挑んでビームを乱射するジェガンをジュリアンソードで切り裂いて撃破する。

 ミサイル攻撃の後からジンクスⅣ部隊も奇襲に加わり、敵機を続々と撃破していく。有象無象に居る連邦軍のパイロット達の中で、UCAはマシな方であるが、彼女らの技量が高く、的のように撃ち落とされるばかりであった。

 

『くそっ、なんだこの装備は!? 剣が伸びるぞ!』

 

 鞭のように変わるジュリアンソードに、ジェガンに乗るUCAのパイロットは困惑する。一撃目はシールドで防いだが、左手に握られたビームサーベルを胴体に突き刺されて沈黙した。

 

『なんて強いんだ!』

 

『例の手で行くぞ!』

 

 直ぐにジュリエッタは機体から離れ、自分に連携を取って接近戦を挑む三機のジェガンを迎え撃つ。

 ビームサーベルを持って接近するジェガンを援護するために僚機の二機がビームを撃ち、ジュリエッタ機がシールドを構えて防御の姿勢を取る中、接近したジェガンは複数のバルーンでデコイを張り、背後から忍び寄ろうとする。

 援護射撃をしていたジェガンはビームを撃つのを止め、バルーンに混じって攻撃の隙を伺う。

 

「デコイを使うなんて。前の一つ目は使ってこなかったのに。何所に…!?」

 

 目で本物のジェガンを探そうとするが、見分けがつかない。

 だが、自分にMSの操縦技術を教えた今は亡き師がこの手の敵は背後から必ず襲い掛かると伝授してくれたので、直ぐにジュリエッタは背後から斬り込もうとするジェガンに、右足に装着した前に乗っていた機体の足のクローで抉った。

 

『なっ、なに!?』

 

『クソッ!』

 

「もう見切りました」

 

 背後から迫った友軍機がやられたことで、残り二機は慌てて攻撃を始めた。既に敵機の動きを見切っていたジュリエッタは攻撃を軽やかに避け、残り二機を意図も容易く撃破した。

 

『なんだあのガンダムは!?』

 

『こっちは六機だ! 数で押し切れ!!』

 

 数機ものジェガンを撃破したジュリエッタのF90ガンダムに対し、六機のストライクダガーに乗るパイロット達は、数で掛かれば撃破できると思い、ビームを乱射しながら突っ込んだが、全く彼女のガンダムに当たらず、逆に数十秒で全滅させられた。

 

「全く手応えがありませんね。本当に正規軍ですか?」

 

 余りの呆気なさに、ジュリエッタは敵軍が本当に正規軍なのか疑問に思い始める。

 生前に自分が属していた正規軍に当たるギャラルホルンの中で最も精鋭であるアリアンロッド艦隊は、いま戦っているUCA軍とは比べ物にならないくらいの精強ぶりを誇っていた。

 

「まぁ、これより上が居ると思うけど!」

 

 対空弾幕を持ち前の操縦技術で躱し、ストライクダガーと共に対空弾幕を張るアイリッシュ級戦艦に接近する。

 この場でジュリエッタのガンダムにかなうのは、的撃ちのように連邦軍機を落としているジンクスⅣ隊か、戦闘機やドレイク級フリゲート艦を撃沈しているVF-25メサイア隊くらいだ。

 雨あられと自分に向けて放たれるビームを見えている様に避け、邪魔な敵機をビームライフルで撃破し、一気に敵艦に近付き、右腕に装着されたジュリアンソードを鞭状にして艦橋に向けて振り下ろす。

 艦橋内に居たクルーたちは逃げる間もなく、艦と運命を共にした。アレキサンドリア級やネルソン級、他の艦艇が抵抗していたが、圧倒的性能を誇るジンクスⅣやVF-25Aや長機のF型の前に、ジェガンやストライクダガーと同じようにやられるばかりだ。

 

『て、撤退だ! 露払いなんて出来るか!』

 

『敵旗艦、撤退開始!』

 

「味方を置いて自分だけ逃げるなんて!」

 

 このままでは全滅すると判断してか、艦隊の旗艦である巡洋艦は僚艦を置いて逃げ始めた。

 撃沈された味方艦の乗員すら救出せずに。この自分勝手な行動を取る敵の提督に対し、ジュリエッタは怒りを覚え、対空弾幕をすり抜けながら敵旗艦に接近する。味方に見捨てられたUCAの将兵らは抵抗を止め、続々と白旗を上げる。大破寸前の艦艇も抵抗を止め、降伏を伝える光信号や、乗員が白旗を持って振っている。

 

『ガンダムF90接近!』

 

『う、撃ち落とせ!』

 

『み、味方がまだ居ます!』

 

『構わん!!』

 

 迫るジュリエッタのガンダムに対し、旗艦は対空ミサイルを雨あられと撃つ。射程内に味方が居るにも関わらず。この弾幕に、流石のジュリエッタも慌てた。

 

「味方ごと!? なんてことを!」

 

 止めに入ったストライクダガーが味方のミサイルで撃破される中、ジュリエッタは頭部バルカンでミサイルを破壊しつつ、敵艦に近付く。VF-25の小隊も敵部隊を片付けたのか、旗艦に向かって来た。

 

『デス・ファイター接近!』

 

「防ぎ切れない!」

 

 敵の注意はVF-25小隊に向いたが、多数のミサイルは防ぎ切れなかった。

 

「盾のおかげで助かった」

 

 F90の標準シールドで防ぎ、何とか撃墜は免れた。ここでジュリエッタは反撃に出る。

 旗艦は標的が生きていることに驚き、速度を上げようとしたが、既にジュリエッタのガンダムは艦橋に近付いており、右腕のジュリアンソードは振るわれた後であった。

 

『グワァァァ!!』

 

 旗艦の艦橋を破壊して悲鳴が聞こえた後、敵部隊は完全に抵抗を止めた。

 

『敵旗艦の戦闘停止を確認。敵残存兵力、投降しました』

 

「少し焦りましたが、手応えはありませんでしたね」

 

 オペレーターからの無線連絡で、ジュリエッタはヘルメットを脱いで水分補給してから、ミサイル以外はたいしたことが無かったと呟く。

 他のパイロット達もそうであり、皆が余裕の表情を浮かべていた。帰投命令が出されれば、直ぐに宙域に居た全機は後続に投降したUCA軍の将兵を任せ、その場から帰投した。

 損害は統合連邦傘下の一つのUCA海軍の艦隊が全滅寸前で、ワルキューレ宇宙軍のMS隊とバルキリー隊の連合部隊は軽い損傷だけであった。

 

 

 

「UCA海軍第19艦隊、反応途絶! ワイルドキャットに投降した模様」

 

「やはり一般の部隊では敵わないか」

 

 ワルキューレの艦隊の警戒ライン外の後方で、露払いの為に前に出した味方部隊の壊滅を聞いて、派遣艦隊の旗艦に乗るエルランは味方が僅かな時間で壊滅させられたにも関わらず、涼しい顔で頷いた。

 元々あの艦隊は敵を確かめるために出した捨て駒であり、自身が引き連れて来たガイアセイバーズの部隊の機体を一機たりとも送らなかった。その艦隊から救援要請が何度か出されていたが、エルランはそれに応じず、ただ壊滅させられるのを黙って見ていたのだ。

 

「全くこれだから軍上層部は。戦力の回復では無く、兵の質を高めろと何度言ったことか。幾ら戦力を回復したところで、あれでは敵に餌をやっているだけだよ。そうだろ、ガレムソン大佐」

 

「はい。ド素人を碌な訓練もせず、前線に消耗品の如く投入するなど愚の骨頂。これでは将来有望なパイロットを無駄に殺すだけです。有望な者には相応しい訓練が必要です」

 

 エルランは統合連邦全軍の訓練方針に懐疑的と言うか、従来の訓練方法に戻すべきだと唱えており、隣に立っているスキンヘッドで傷の目立つ巨漢の大佐に賛同を請う。

 この巨漢の軍人、バズ・ガレムソンもエルランの考えに賛同しており、軍上層部の決定に反発的であった。尚、彼は精鋭部隊ガイアセイバーズの一員であり、自身が指揮するMS連隊の長でもある。

 

「まぁ、それはこの任務が終わってからにしよう。ガレムソン、今度の敵は魔女だ。君は捕らえる事が出来るかね?」

 

「魔女ですか? いや、丁度いい獲物です。再編の前に居た前線では、手応えの無い同盟軍機を千機ほどスクラップにしておりましたからな。久方の強敵にウズウズしておりますわい」

 

「はっはっはっ、なんとも好戦的だな。では、頼んだぞ」

 

「はっ! ガレムソン以下、ガイアセイバーズ第1MS連隊一同、任務に邁進します!」

 

 そんなガレムソンに、エルランはマリを倒せるかどうかを問えば、彼は意気揚々と敬礼しながら答えた。

 

「では、自分はエイジャックスに戻り、出撃します。失礼!」

 

 出撃すると言ってから、ガレムソンは艦橋を後にした。ガレムソンが居なくなった後、エルランは艦橋越しから見える地球を見て独り言を呟く。

 

「これで私を不老不死にしてくれませんかね、カポディストリアス様」

 

「閣下、失礼します」

 

「何事かね?」

 

 エルランの元に、副官が端末を片手に報告する。

 

「ノンダス人の傭兵部隊が直ちに退去しろとレーザー通信で申しております」

 

「ふっ、イオク君が雇った傭兵か。報酬が要らないなら、攻撃しても良いと伝えておけ」

 

「はっ!」

 

「全く、戦うしか能が無い種族は害だな」

 

 ノンダス人の傭兵部隊の事、グルビー旅団と分かったエルランは、適当に返しておけと伝えた。

 

 

 

 統合連邦軍の精鋭部隊、ガイアセイバーズが投入されたことにも気付かず、フランケンシュタイン号の居住区にある自室の鏡の前で、マリはシルヴィアに殴られた跡が無いか入念に見ていた。

 不老不死なため、直ぐに跡は無くなったが、マリはナルシストであるため、自分の美しい顔を殴られた事態が彼女に取っては最悪であり、化粧までして殴られた跡を見えないようにしている。偶然にも通りかかったリンダは、連邦軍の部隊の接近に対して対策を考えようと部屋の前に居るミカルに、何をしているのかを問う。

 

「そんなところで何してるの?」

 

「待っているのさ。連邦軍の部隊があの地球に接近している。どう対策するか話し合おうとしたが、昨日の一件の所為で中々出て来てくれない」

 

「昨日?」

 

 リンダはマリがシルヴィアに殴られたことを知らないようだ。知らないリンダにミカルは昨日の一件のことを伝える。

 

「殴られたんだよ、護衛対象にね。それも顔だ。彼女はナルシストなようで、跡が残ってないか入念に調べてる」

 

「あぁ、分かるわ。私が言うのもなんだけど、顔は女の命だもんね」

 

 殴られた所為で長くなってると答えれば、リンダは直ぐにマリの気持ちを理解した。

 確かに顔は女の命だ。マリが不老不死だから殴られた跡は消えるが。そうでは無い女の痣はそう簡単には消えない。下手をすれば一生に消えないだろう。ミカルもその気持ちは分かっていたが、マリを殴ったシルヴィアの気持ちを考え、彼女にとっては良い薬となったと口にする。

 

「それは分かるさ。でも、良い薬さ。これで他人の事を考えてくれれば、見限らずに済む」

 

「まぁ、いつかは殴られると思ってたけど…心配だわ、殴った子。マリちゃん殺したりしないでしょうね」

 

「大丈夫さ、殺す気ならここには居ない」

 

 ミカルの言葉にリンダも薄々とマリの性格上、いつかは誰かに殴られると思っていたらしく、殴った本人であるシルヴィアを殺さないかと心配する。そんなリンダに、ミカルは殺す気なら直ぐに殺していると告げた。

 二人の会話が終われば、少し厚化粧をしたマリが自室から出て来た。

 

「クソ軍がなんて?」

 

「あぁ、そのクソ軍の部隊が地球に接近している。ワルキューレの追跡隊が撃退したが、今度は数を生かしての同時進行だ。一方は確実にポーランドへ降下するだろう」

 

 連邦軍の派遣艦隊がワルキューレの追跡艦隊に向かったことや、数を生かして別動隊を地球に降下させようとしていることをマリに伝えた。これを聞いて、マリは直ぐに出撃準備をするべきだと判断して、パイロットスーツがある更衣室へと向かう。

 

「追跡艦隊は連邦艦隊で手一杯になる。別動隊の対処はおそらく出来ない。おそらくグルビーは別動隊に居るだろう。ここは待ち伏せした方が良いと思うが」

 

 先手を打って、待ち伏せした方が良いと提案すれば、マリは同じく考えてたと答える。

 

「あぁ、私も思ってた所。フリーダム出せる?」

 

「えぇ、ばっちり。やり過ぎないでね」

 

「やり過ぎないと駄目なんだけど」

 

 リンダにフリーダムガンダムの整備は万端だと問えば、彼女は既に完了していると答えた。やり過ぎるなとも釘を刺されれば、マリはやり過ぎないと勝てないと答え、更衣室へ向けて走った。

 

 

 

 マリがフリーダムガンダムに乗り、地球に降下して作戦地域へと向かう中、連邦軍の部隊が現れたとの報告を聞き、遂に待ち切れなくなったのか、ユリアナは第666戦術機中隊ことシュヴァルツェ・マルケンに砲撃するように指示を出す。

 

「連邦軍が接近している。これ以上、待っていれば先を越される可能性がある。砲兵、直ちに例の中隊を砲撃せよ。ただし、当てるな」

 

「了解。まぁ、善処するわ」

 

 砲兵士官であるレイリィに命じれば、彼女は直ちに地図を取り出し、155mm榴弾砲を装備した砲兵隊に指示を出すための電話の受話器を取る。

 中隊の配置は既にハッキングで手に入れてある。何所へ向かっているかも、密かに随伴させている観測隊からも分かっている。後は当てないように砲撃し、マリを誘い出すだけだ。

 なんとも回りくどいやり方だが、上層部から釘を刺されているのでやらねばならない。物の数秒でレイリィは弾速や着弾地点、中隊の先の進路を計算して答えを出し、受話器から指示を出す。

 

「直ちに砲撃!」

 

『了解、榴弾装填、砲撃します!』

 

 彼女が指定した位置を砲撃するように命じれば、155mm榴弾砲は砲声を上げて発射された。少し離れた距離にあるここから砲声が響き渡る中、無線機より着弾点の報告がなされる。

 

『こちらウサギ、着弾した! 目標から逸れている! 黒の宣告は足を止めた! 繰り返す、黒の宣告は足を止めた!』

 

「狙い通りね!」

 

 無線機から聞こえる着弾報告とシュヴァルツェ・マルケンが足を止めたとの報告を聞き、レイリィは狙い通りに行ったと意気込む中、ユリアナに想定外の報告が来る。

 

『ん? グレイズ? それにレギンレイズも?』

 

「えっ、なに? どうしたの?」

 

 最初に観測隊から報告を受けたレイリィが言えば、無線連絡を受けた伝令がユリアナに勝手に友軍部隊が介入したとの報告を出す。

 

「どうした?」

 

「報告します! メイソン騎士団が勝手に戦闘に介入! シュヴァルツェ・マルケンを包囲しました!」

 

「なにぃ!?」

 

 報告を受けたユリアナは、観測隊に繋がる無線機に向かい、受話器を取って本当かどうか確認する。

 

「ウサギ! メイソン騎士団の介入は本当か!?」

 

『はっ、赤色のグレイズタイプとレギンレイズがシュヴァルツェ・マルケンを囲い、威嚇攻撃を仕掛けています!』

 

「どうしてここに!? 奴らは知らないはず!?」

 

 観測隊からの報告で、この作戦を知らないはずのメイソン騎士団が本当に居たことにユリアナは驚愕した。

 どうやって出し抜いたはずのメイソン騎士団が自分等の居場所を特定したか分からないが、今は考えている暇はないので、直ぐにユリアナは出撃準備を整えるように号令を出す。

 

「直ちに出撃! あの女は私の獲物だぞ! ミラー大尉、連中の頭上から榴弾砲を降らせろ!」

 

「了解! 第二射目発射用意!」

 

 レイリィにまで指示を出せば、ユリアナは自分専用にカスタマイズしたガンダムエクシアに向かった。

 

 

 

 一方、砲撃で足を止められ、メイソン騎士団の赤いグレイズやレギンレイズに包囲されたシュヴァルツェ・マルケンは、円陣を組んで防御態勢を取っていた。包囲するMS隊の指揮官機のグレイズリッターは、剣先をアイリスディーナが乗るMig-21に向け、無線連絡を送る。

 

『黒の宣告者の指揮官に継ぐ! 貴様には、マリ・ヴァセレートをおびき出す餌となって貰う!』

 

『いきなり出て来て何を言ってんだ!?』

 

 メイソン騎士団の騎士に対し、テオドールは何者かと突撃砲の向けながら問い、威嚇のために撃ち込んだ。

 だが、グレイズリッターを初め、メイソン騎士団のMSは全てナノラミネーター装甲だ。この世界の突撃砲の弾頭、もしくは滑走砲を含め、レーザー級の強力なレーザーすら貫通できない。

 

『なっ! 効かない!?』

 

 突撃砲が効かないことに、驚きの声を上げるテオドールに対し、メイソン騎士団のMS隊はマリをおびき出そうと、随伴させている下級兵士が乗るMS隊をぶつける。

 

『フン、貴様の攻撃など、蚊ほどに効かんわ! 間者からの情報によれば、ヴァセレートは貴様らを守っているそうだな。どれ、来るかどうか試してくれよう。下級兵共、女は犯して構わん! 掛かれぃ!!』

 

 どうやらユリアナ隊に自分等のスパイを紛れ込ませたようで、そこからメイソン騎士団は、この世界へ辿り着いたようだ。

 隊長の一声に、下級兵士らが乗るジム寒冷地仕様やリーオー、ティエレン、陸戦型ヘリオン、ゲイレールなどの旧式MS群がシュヴァルツェ・マルケンに襲い掛かる。グレイズタイプやレギンレイズなどに乗る騎士たちは、その場から高みの見物だ。

 

『お、女ぁ! 女ァァァッ!!』

 

『な、なんだこいつ等は!? 一体どうなっている!?』

 

「くっ、救援が来るまで持ち堪えろ!」

 

 無線機から聞こえて来る下級兵士の尋常ならない雄叫びに、グレーテルが恐怖する中、アイリスディーナは冷静に判断して、一直線に突っ込んで来る多数のMSを撃ち始める。

 下級兵士たちは薬物でも投与されているのか、正常な判断が出来ないようで、ただ兵装を撃ちながら突っ込んで来るだけであった。

 数に物を言わせて突っ込んで来る敵に対しては、中隊は対BETA戦で慣れ切っているので、いつものように撃破していく。懸念すべきところは、敵が飛び道具を使って来るところだろう。

 

『アァァァ!!』

 

『この! 気持ち悪い奴!』

 

 中隊内では実戦経験の無いリィズでも、難なく近接兵器を片手に突っ込んで来る敵機の撃破は可能であった。

 カティアは三時間で東側の戦術機であるMig-21の特性を理解したので、一瞬にして三機の敵機を撃破していた。中隊長を含め、中隊の衛士たちも難なく敵機を撃破していた。ゲイレールを除いて。

 ゲイレールはグレイズが採用される前の主力機であり、後継機と同じく汎用性に優れたMSだ。当然ながらナノラミネーターが存在する世界で開発された機体なので、当然の如くナノラミネーター装甲を有している。つまり中隊装備の火力では撃破が困難である。

 

「ちっ、まさかこれ程までとは!」

 

『どうした? それでも最強の戦術機部隊か? この程度は要塞級の足元にも及ばぬぞ!』

 

 突撃砲を撃ち込むが、ゲイレールは怯むだけで何度もピッケルを振り回してくる。

 高みの見物を決め込んでいるメイソン騎士団の騎士たちは、中隊が戦っているゲイレールは、BETAの中で最強とも言える要塞級の足元にも及ばないと嘲笑う。

 して、周囲のBETAは既に騎士団が駆除しており、レーザー級も死体の仲間入りを果たしていた。シュヴァルツェ・マルケンを助けてくれるのは、マリだけである。

 

『中隊長、救援信号は出しましたか!?』

 

「出している! くっ、シルヴィアの一件を根に持っているのか!?」

 

 救難信号を出したのに、一向に来ないマリに対し、アイリスディーナはシルヴィアの件を根に持っているのかと疑い始める。

 そんなマリのことを毒づいた瞬間、彼女が駆るフリーダムガンダムが上空より現れ、周囲のゲイレールや他のMSに一斉射を浴びせた。

 

 

 

『遅いぞ! まさか…』

 

 中隊の誰かが死ぬと覚悟していたアイリスディーナだが、ようやくマリが来たところで、遅れた理由を問おうとした。

 そのアイリスディーナに対し、マリは出掛ける準備で遅れたと冗談を交えて返す。

 

「違うわよ。ちょっと化粧に手間取ってだけ」

 

『またあの女か!? しかも化粧だと!? ふざけおって!』

 

『その声…?』

 

 マリの声は中隊全機に聞こえていたのか、グレーテルは化粧で遅れたことに腹を立てる。

 同じく聞こえていたリィズは、聞き覚えのある声であったので、直ぐに自分を収容所から救ってくれた謎の女であると分かった。アイリスディーナはマリの安い挑発に乗らず、ジョークで返して余裕を見せる。

 

『それだと、厚化粧していたみたいだな』

 

「っ、煩い! 私が居なきゃ、やられてたくせに!」

 

『どっちでも良い! 早くあいつ等を何とかしてくれ!』

 

 こんな状況に関わらず、アイリスディーナと言い争うとするマリに、テオドールはまだ動いているゲイレールを何とかしろと告げる。これに応じ、マリは機体の高機動性を生かし、ゲイレールに向けて攻撃を始める。

 ゲイレールの数は五機、やって来たマリのフリーダムガンダムに対し、持っている実弾ライフルを撃ち込むが、あっさりと避けられる。懐まで近付かれ、コックピットに高出力設定にされたビームサーベルを斬り込まれて撃破される。

 残る四機は、両方の腰に装備されているレールガンを撃ち込まれ、塗装が剥げた箇所にビームライフルを撃ち込まれて二機が撃破された。残り二機は背中の翼に装備されたプラズマ収束ビーム砲を受けて怯んだところを、両機とも胴体にビームサーベルを突き刺されて無力化された。

 二機を無力化したマリのフリーダムは、左右の腰のラックにビームサーベルを戻し、ビームライフルと盾を持つ。

 

『…!』

 

『私念は止せ。気持ちは分かるが、あの女が居なければ、我々はとっくに死んでいる』

 

『分かってる…! それは分かってる…! くそっ、あの女が本気だったら…!』

 

 あの時、マリがフリーダムガンダムに乗ってヴロツワフを守っていれば、自分があんな目に遭わずに済んだのにと思い、思わず突撃砲の照準をフリーダムに向けたシルヴィアであったが、クリューガーに止められる。

 中隊の古株で信頼できる男の言葉に、シルヴィアは悔しながらその言葉を理解し、突撃砲の照準を下げた。

 

『ほぅ、流石は魔女だ。むしろこの程度で倒せれば、我々が出向くはずが無い』

 

 送り込んだ部隊が全滅させられたにも関わらず、騎士たちは怒ることなくマリの技量の高さを褒める。彼女が下級兵士の駆る機動兵器部隊にすり潰されようなら、ライバルであるアガサ騎士団が全力で探すはずが無いのだ。

 そのマリの腕を見込んでか、メイソン騎士団の騎士は更に下級兵士らを動員する。

 

『魔女が狩る自由の翼を持つガンダムに、最強の戦術機部隊。我らが挑めば返り討ちにされるであろう。だが、これなら五分と言える!』

 

『っ!? 反応多数! なんだこの数は!?』

 

「どう見ても、五分じゃないんだけど」

 

『一体どこからこんな数が出て来るんだ!?』

 

 騎士たちが動員した下級兵士が駆る機動兵器、先と同じジム寒冷地仕様やリーオーの数は百機以上であった。何も無い空間から、そのMSが続々と出て来る。次元転移装置が使われている。

 付近のBETAが釣られて攻撃に出たが、空中の空戦用MSであるエリアーズ部隊の空襲で撃破されている。無論、レーザー級が居るので、エリアーズ部隊は損耗しているが。攻勢に出るBETA以上の数の相手をさせられたマリとシュヴァルツェ・マルケンの面々は、思わず戦意を喪失し掛ける。

 

『ふん、貴様は不死身だ。この数でも生きていられるだろう。では、攻撃…』

 

『上空より榴弾!』

 

『なにぃ!?』

 

 無数の下級兵士たちが乗る機動兵器部隊と共に、騎士団のグレイズやレギンレイズは攻撃を始めようとしたが、メイソン騎士団の介入に気付いたユリアナの横やりが入った。

 最初にレイリィが放った榴弾が、確実に下級兵士たちが駆るジムやリーオーを吹き飛ばしていく中、砲撃が終わったと同時にユリアナのMS隊と彼女が駆るガンダムエクシアが迫る。挟撃されるかと思ったマリであったが、ユリアナは勝手に介入して来たメイソン騎士団に標的を定め、下級兵士が乗るMSを撃破しながら近付いてくる。

 

『むっ!? 貴様、味方を攻撃するとは!!』

 

『黙れ! 貴様たちが勝手に乱入して来たんだろう!?』

 

 味方であるはずの自分等を攻撃するユリアナに対し、騎士たちは陣形を組みながら反撃に出る。

 ランスで先頭のグレイズシルトを突き刺して潰せば、使えなくなったランスを棄て、腰の長剣状にしたGNソードを抜き、律儀に近接戦闘を仕掛けて来るメイソン騎士団のグレイズやレギンレイズを相手に大立ち回りを始める。

 

『仲間割れか?』

 

「どっちにしろ、抜け出すチャンスじゃないの。中隊長殿?」

 

『確かにな』

 

 味方同士で戦闘を始めるワルキューレに対し、マリは逃げ出すチャンスだとアイリスディーナに提案すれば、直ぐに彼女は逃げ道を探した。

 直ぐにその穴は見付かり、即座にそれを選んだアイリスディーナは、邪魔な敵機を片付けながら中隊機に続くように指示を出す。

 

『中隊各機、六時方向ががら空きだ! 我に続け!』

 

 敵機を破壊しながら突き進むアイリスディーナに、中隊各機も次々と襲い掛かる敵機を破壊しながら彼女の後へ続く。テオドール機は近接戦闘を挑むジム寒冷地仕様のビームの斬撃を躱し、コックピットに近接戦闘用の担当を突き刺して無力化した。アネット機は、自機のみが持っている長刀でリーオーを叩き切っている。

 マリのフリーダムガンダムは上空を飛び、中隊の邪魔となるエリアーズやレーザー級を、機体の一斉射で片付ける。

 

『おのれ! 貴様が邪魔をしなければ!!』

 

 赤いグレイズリッターに乗る隊長は、中型のシールドでエクシアのGNソードを防ぎつつ剣の突きで反撃するが、ユリアナが乗る機体は高性能機だ。直ぐに距離を取られて二撃目を許してしまう。

 

『邪魔をしたのは貴様だ!』

 

 先の隊長の言葉に答える形で突きを繰り出したが、また盾で防がれ、GNソードは中々本体には届かない。更に背後から数機のジム寒冷地仕様とリーオーが迫って来る。

 味方がいるにも関わらず、手持ちの兵装でガンダムエクシアを攻撃する数機であるが、GNドライブと機体本体の機動性、操縦者の技量の高さに避けられ、逆に切り刻まれて返り討ちに遭う。

 

「あっちは凄いわね」

 

 下級兵士のMSとBETAを撃破しながらマリは、ユリアナの操縦技術の高さに舌を巻く中、連携を取ってこちらに攻撃を仕掛けて来るハイザック数機の攻撃を避け、ビームライフルを早撃ちして無力化する。

 ジグムントからこれ以上敵を増やすような真似をするなと言われているので、マリはワルキューレだけを生かした。戦闘力を失った機体から、ワルキューレのパイロットが飛び出して脱出して来る。

 

「さぁ、これで逃げ出した…」

 

 シュヴァルツェ・マルケンが脱出したのを確認する為、彼女らが逃げた方向を見たが、BETA集団が居る方向から全長30mはあるガンダムが降り立ち、周辺に居た要塞級を含めるBETAを、右手に持つ大型ビーム砲で一掃する。

 BETAをビーム砲で一掃したガンダムは全身の塗装が真黒であり、赤いディアルアイが不気味に光っている。まるで悪魔の様だ。燃え盛る炎が、余計に黒いガンダムを悪魔に見立てている。

 

「なに…あれ…!?」

 

 悪魔のようなガンダムの出現に、マリは戦慄した。

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