シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
マリがまだグルビーと交戦中の最中、キリングは無断で核を準備していた。流石に副官から核の無断使用を咎められる。
「中将、これは軍規違反です! エルラン元帥の許可を得ずに、核を使用するなど!」
「落ち着け、これは保険だ。万が一、ガレムソン大佐率いる第1MS連隊が対象の捕縛に失敗した場合、核が次の切り札なのだ。無論、不老不死ならば核を受けて生きているだろう。放射能がついているが、こちらには除去装置がある。それで洗い流せばよかろう」
核の使用を咎める副官に、キリングは保険であると答える。
万が一、ガレムソンがやられても、核をBETAに侵略を受けている地球へ撃てば済む話だ。それに除去装置もあるので、防護服を着て標的を回収し、除染するだけで任務は終わる。キリングは核を使わずに生け捕ろうとする上層部の方針に、疑問を抱く。
「最初から核を使えばよかったものを。敵は正規軍では無いのだ。そんな敵を相手に、軍事条約を適用してどうするのだ?」
「は、はぁ…ですが…」
「煩いぞ。貴様はそれでも士官学校を出ているのか? エルラン元帥ももしもの場合に備え、核攻撃部隊を待機させている。備えあれば憂いなしだ」
キリングの言葉に、副官は自身の保身を考えて核攻撃を止めるように告げるが、強く言い返されて食い下がる。止める者が居ないキリングは、核の搭載がどれだけ進んでいるかを問う。
「核攻撃部隊、ピースメーカー隊の準備はどうか?」
「はっ、既に八割が核ミサイルを搭載。全機は推進剤の注入を終え、核ミサイルが搭載を終えれば直ぐにでも出撃は可能です」
「よろしい。直ぐにでも、あの忌々しい化け物共に汚染された地球を消さねばな。あんなものが、我らの領域内にでも現れたら厄介だ」
攻撃部隊の指揮を担当する士官は、核ミサイルを搭載すれば、直ぐに出撃が可能であると答えた。これにキリングは本心を漏らす。
どうやら、BETAを見て危険と判断したようだ。自分等の領域にBETAが現れる前に、地球ごと消してしまおうと考えたようだが、あの世界の地球は違う別次元なので、キリングのやっていることは無意味である。
そんなキリングに天誅を与えるためか、この数十分後にマリの元に現れた四機のガンダムが来る。
「ん? 所属不明機接近! 数7!」
「所属不明機? 哨戒機は何をしていた!? 直ちにスクランブルを出せ!」
レーダー手がその接近を報告すれば、艦長は直ちにスクランブルの発進を命じる。これにキリングは、直ぐに全滅するだろうと思って核攻撃部隊の準備が整うまで待っていたが、その予想を大きく上回った。
「巡洋艦パウル轟沈! 所属不明機の攻撃です! スクランブルの反応途絶!」
「なんだと!?」
「一体どこの馬鹿だ!? 総員、直ちに迎撃態勢! 核攻撃部隊は準備を続行しろ! 艦載機は直ちに発進せよ!」
所属不明機、複数のガンダムによる攻撃でスクランブルと巡洋艦一隻を失ったことの報告で、キリングは即座に迎撃態勢を取るように指示を出した。
直ぐに迎撃態勢を取る艦隊であるが、ガンダム単体の戦闘力は高く、迎撃に向かった艦載機は次々と撃ち落とされ、護衛艦も沈められていく。正規軍とは違って自分たちの艦隊は精強であるはずだが、襲って来るガンダムのパイロットたちにとっては的同然であった。
『な、なんだこいつ等は!? うわぁぁぁ!!』
「防空隊、六十パーセント損失!」
「な、何だと言うのだ…!? たかが七機のMS如きに…!」
時間が経つごとに味方がやられていく報告を聞いたキリングは、血の気が引いて真っ青になる。それもそのはず、敵はたったの七機だ。対する自分等は数十隻の艦隊と数百機以上の艦載機。どちらが勝つかは後者の方に決まっている。なのに、勝っているのは前者の方だ。
「艦隊の半数がやられました! 攻撃を中断して撤退した方が良いのでは!?」
「馬鹿者! たかが七機のMSを相手に大損害を被って撤退など出来るか! 核だ! あの忌々しい七機のガンダムに核を撃ち込むのだ!!」
「そ、それでは味方が巻き込まれます!」
「構わん!」
秒単位で自軍がやられていく報告が出される中、副官は撤退を進言したが、キリングはたかが数機の敵を相手に撤退するなど、今後のキャリアどころか上層部から無能の烙印を押されることを恐れており、血迷って核を敵に撃つように告げる。
これに何としても反対する副官であるが、キリングは撃つ気の様だ。発射管を担当する管制官を押し退け、核攻撃隊に命令を出す。
「ルビコンからピースメーカーリーダーへ! 直ちに核を発射せよ! 目標は七機のガンダムタイプ!」
『爆破範囲に味方が居ります! 撃てませんよ!』
「良いから黙って撃て! 撃たなければ貴様を敵前逃亡罪で…」
「あっ!!」
核攻撃部隊の隊長は、味方を巻き込むキリングの命令に不服従を訴えるが、彼は脅して命令を実行させようとした。だが、既に死神の釜はキリングの乗艦であるルビコンにまで迫っていた。
「が、ガンダムが!?」
「直ぐに撃ち落とせ!!」
「間に合いません!!」
「そ、そんな…! こんな所でこの俺が…! し、死にたくな…!」
迫り来る死の恐怖を感じつつ、キリングは生にしがみ付こうとしたが、既に凶弾は放たれた後であり、乗艦諸とも消え去った。残っていた核攻撃部隊と艦艇、その他諸々は、旗艦がやられれば直ぐに撤退した。
『敵残存艦隊撤退を確認! だが、まだ終わりでは無い!』
旗艦がやられて撤退していく残存艦隊を追跡しなかった七機のガンダムは、地球へと目指す。
そのガンダムタイプの中には、数十分後にマリの救援のために地上へ降りたガンダムグリープ、ノワールガンダム、ガンダムアストレア、ガンダムアスタロトの姿があった。
他の三機は大きな肩を持つガンダムアスクレプオス、ガンダムアストレイブルーフレームD、ガルムガンダムだ。
『次は二手に分かれる! 一方は衛星軌道上に居る艦隊の排除に回り、もう一方は地上の救援だ!』
アスクレプオスに乗るパイロットは、二手に分かれて救援に向かう。もう一方は衛星軌道上の連邦艦隊の排除に回り、もう一つは地上への救援に向かう。
『空間戦闘に優れるブルーフレームが宇宙(そら)に適任だ』
『僕はそれにするよ』
『よし、俺も艦隊の排除に向かおう。アディン。お前たちは地上へ向かってくれ』
『了解したよ、兄さん。地上でのガンダムグリープの初陣、キメるぜ!』
ブルーフレームDに乗るパイロットが宇宙の方が良いと言えば、ガルムガンダムのパイロットも宇宙が良いと言い出し、アスクレプオスのパイロットが宇宙に行くと言った。
自身の弟が乗るグリープに地上の救援を任せれば、弟は意気揚々と不気味な笑い声を上げるアストレアF2に乗るパイロットと、ノワール、アストレアと共に地上へと降下した。
今に至り、フォン・スパークのガンダムアストレアF2とバズ・ガレムソンのネオガンダムとの交戦が行われる中、フォンは散開した三機のガンダムに向けて命令を出す。
「このハゲの相手は俺がやる。お前らはこの世界の軍隊を襲っている奴らを消して来い!」
『言われなくても分かっている。アディン、アルジ、そちらの救援に向かうぞ』
『応よ!』
『了解したぜ!』
指揮官機を務めるノワールが、残り二機を連れて別の救援に向かえば、フォンはガレムソンのネオガンダムのビーム攻撃を避けて反撃する。敵であるネオガンダムにはビームコーティングが施されている所為か、アストレアのビームライフルは全く通じない。
『ふん、その程度のビームで、わしのネオガンダムを倒そうと言うのか!?』
「ちっ、随分と金を掛けたガンダムだなぁ。気に入らねぇ!」
ビームが効かなければ、次は実弾を撃ち込むが、ネオガンダムの装甲は実弾ですら弾いてしまう。
『フハハハ! このネオガンダムは無敵よ!』
「ダインスレイブでもぶち込まねぇと、潰せねぇな…! おい、女ァ!」
強力な実弾兵器の名を口にしつつ、フォンは敵の攻撃を回避しながらこの戦いを見ているマリに指示を出す。どうやらマリが邪魔であるらしく、戦いに集中できないようだ。直ぐに何処かへ行けと怒鳴る。
「何?」
「邪魔だァ! テメェは守りたい奴のところに行け!」
「はぁ? 頼んでも無いのに勝手にやって来て…」
「いいから行け! 敵は連邦だけじゃねぇ…!」
このフォンの命令にマリは反攻するが、敵は連邦だけでは無いと言えば、同盟軍の影があることを思い出し、直ぐにシュヴァルツェ・マルケンの救援に向かうために、魔法でライガー・ゼロを召喚した。
連邦軍の大部隊が強引にやって来たので、同盟軍が指をくわえて見ているはずが無いので、必ず大規模な部隊を送り込んで来るだろう。
そう思ったマリは何の返事もせず、ビーコンを頼りにアイリスディーナ達の元へ急ぐ。ユリアナの方は、回収部隊の可変系MSである二機のムラサメに乗っているガンダムエクシアごと抱えられ、後方まで回収される。
「そうだ、それで良い!」
ライガー・ゼロに乗って救援に向かうマリを見て、フォンはようやく本気でガレムソンの戦う気になる。
「今までのは手加減だ。これからはもっと本気で行かせて貰うぜぇ…! あぎゃぎゃぎゃ!」
『フン! 手加減だと? 笑わせおって! その耳障りな笑い声、聞き飽きたわ! ここで死ぬが良い!!』
「上等だァ…! ぶっ殺す!!」
今まではマリが邪魔で本気を出せなかったとフォンが言えば、ガレムソンは鼻で笑ってビームサーベルで斬り掛かる。
これにフォンはアストレアの性能をフルに生かし、自機も接近戦用の実体剣であるGNソードでサーベルを受け止めた。そこからはサーベル同士による鍔迫り合いに突入する。機体のパワー比べだ。
『幾ら無限のエネルギーを生み出すエンジンとは言え、パワーはこちらの方が上だ!』
「あぎゃ! パワーが上だァ? だったらこいつはどうだァ!?」
『むっ! 煙幕!? 正攻法では勝てぬと踏んだか!』
パワー比べが大きなネオガンダムが勝ると豪語するガレムソンに対し、フォンは煙幕を張って行方をくらました。レーダーを見て探すが、煙幕にチャフでも混ぜていたのか、レーダーは機能していない。直ぐにレーザー通信を使い、付近の自分傘下のMSとの連絡を取る。
『聞こえるか? 付近に赤いガンダムが飛び回っている筈だ。探せ』
『了解! 各機、散開して索敵だ!』
付近に居たのは、ジェットストライカーを着けた四機のウィンダムだ。連隊長のガレムソンの命令通りに、フォンのガンダムアストレアを探し始める。
「部下を使って来たか…! なら、皆殺しにするまでだ!」
敵が四機増えたことに動揺せず、フォンは目視で探しているウィンダムの背後に近付き、GNソードで突き刺して撃破した。
『っ!? フォーメーションD!』
一機僚機が撃墜したところで、直ぐに互いの背後を守るために固まる三機のウィンダムだが、それはフォンの誘導であり、光学カメラで見ていた彼は、機体の携帯型のビーム砲であるGNバズーカを撃って一気に蹴散した。
三機分の爆発が起こる中、同時に煙幕も晴れてチャフも切れる。
『わしの兵が乗るMSを一気に四機も落とすとは! 油断ならん奴!』
「雑魚を差し向けるなんてな…! お前、対したことねぇだろォ!? あぎゃ!」
『そんな安い挑発に乗るか! 今度こそ血祭りに上げてくれる!』
「それはこっちの台詞だァ! ハゲッ!!」
煙幕が晴れたところで、赤いガンダムと黒いガンダムによる激戦は再会した。果たしてどちらが勝つかは、まだ分からないが、フォンは奥の手を隠していた。それを使うのは、敵を完全にトドメを差せる時か、追い詰められた時である。
『へっ! これがワイルドキャットってか? まるで的だな!』
マリと三機のガンダムが救援に向かっている前線では、突如となく乱入して来た連邦軍の機動兵器部隊による一方的な虐殺が行われていた。
連邦軍はヘビーガンやGキャノン、大気圏内用のジェムズガンを初め、バリエント、ジェットストライカー装備ダガーLにウィンダム、PTの量産型ヒュッケバインMkⅡに量産型ビルドシュバイン、ATのスコープドック、スタンディングトータスを投入し、国連軍やワルシャワ機構軍を圧倒している。
更にゾイドのコマンドウルフ、アロザウラー、シールドライガー、レイノス、バッファロー型ゾイドのディバイソンまで投入している。これらに乗っているのは、海兵隊やISAを初めとしたエリート部隊のパイロット達であり、自分等からすれば的である戦術機を撃破しては嘲笑う。BETAも絶えず来ているが、この時代の戦術機を遥かに上回るこれらの高性能な機動兵器の前では一方的に駆除されるばかりだ。
『と、投降する! 撃たないでくれ!』
『はっ! いるかよ!』
突撃砲を棄てて投降する戦術機のF4ファントムに対し、エリート兵は無慈悲に携帯兵装を撃ち込んで撃破した。これを見た国連軍機は直ぐに逃亡しようとするが、連邦軍のエリート兵たちは背中を見せて逃げる敵機を何の躊躇いも無しに攻撃する。
『けっ、少しは骨のある奴が居ると思ったら的かよ』
『宇宙には居るらしいぜ? そこに配置して貰いたかったな』
『ここには本命が居るんだ。そいつに期待しよう』
自分等かすれば旧型機ばかりなので、エリート兵等は的同然だとがっかりする。
彼らの本命はマリとその護衛のジグムント等であり、ガレムソンの連隊の支援として降下して近付いてくるBETAの始末を担当していたようだが、飽きたのか国連軍の部隊を襲っていた。当然、第一世代の戦術機は最新鋭機の連邦軍の部隊の前では的同然であり、一方的に撃破されるばかりだ。
『っ? こっちに近付いてくる奴がいるぞ!』
『中々ガッツのある奴だな。どれ…』
そんな最新鋭機の連邦軍に対し、単機で果敢に挑む戦術機が居た。左肩にジークフリートと独語で書かれたエンブレムを付けたF4ファントムだ。その一機は気付いていない上空を飛んでいたダガーLを滑走砲で撃墜すれば、突撃砲を地上に居る連邦軍機に向けて連射する。
『ちっ、油断しやがって! 何所の馬鹿だか知らねぇが、俺らに気付かれた時点でアウトなんだよ!!』
放たれる砲弾を躱しつつ、連邦軍のエリート部隊は反撃を開始した。
左肩にジークフリートと描かれた戦術機、F4ファントムに乗る衛士は、あのジークフリートであった。
前方に見える連邦軍のエリート部隊が駆る機動兵器部隊に対し、ジークフリートは無謀にも単機で挑む。なぜ単機で挑むのかは、自分の技量に自信があるからだ。連邦軍のエリート部隊から見れば、博物館行き同然であり、その自信は過剰と言うか、自殺行為とも思える。
「テメェ等なんぞ、このファントムで十分よ! マジ物の方だってテメェを全滅させれるぜェ!」
雨あられと飛んでくる攻撃を躱しつつ、突撃砲の射程内に居る敵機に向けて撃ち続けるが、全く当たらない。
それもそのはず、反応速度が敵機の方が高いのだ。滑走砲も撃つも、これも避けられてしまう。敵軍の無線機を、独自の装置で盗聴しているのか、ジークフリートを煽るような声が次々と聞こえて来る。
『馬鹿が! そんな博物館行きで俺たちに挑むなんぞ!』
『俺たちがISAだと知っててやってんのか? 飛んだ馬鹿野郎だぜ!』
『欠伸が出るぜ!』
『そんな攻撃でやれると思ってんのか!?』
「畜生、馬鹿にしやがって! VF-31さえあれば、こんな奴らを一捻りなのによォ!」
そんなに頭にくるなら、無線機を切れば良いのだが、ジークフリートは切らずに敵の攻撃を避けながら突撃砲を撃ち続ける。
第一世代機で、レーザー級レベルの攻撃を避ける機動を行っているジークフリートも凄いのだが、機体は彼の早過ぎる反応速度で、既に悲鳴を上げていた。そうとは知らずに弾幕を避けながら突撃するジークフリートだが、やがて機体が着いてこられなくなって被弾して地面に墜落してバラバラになる。
「うわっ!?」
『どうだ!? バラバラだぜ!』
『ざまぁみろ!』
バラバラになったF4を見て、自分等が勝ったと思うエリート部隊の面々であるが、残骸から凄まじい電流が放たれ、回避が遅れた数機が餌食となって大破する。
『今度はなんだ!?』
『とにかく撃て! 撃てぇ!!』
一人が叫んだ瞬間に、一斉に残骸へ向けて攻撃が行われた。
『撃ち方止め! もう死んだだろう…』
『いや、残骸から新たなる反応! この熱源は、MSだ!!』
数秒後、攻撃が止んだ瞬間、爆風の中からジェスタが現れる。
多数の敵を相手にするためにカスタマイズされており、それに乗っているのはジークフリートだ。どうやってそのジェスタに瞬時に乗ったのかは、緊急時に備えて持っていた使い捨て式の小型の転移装置である。それで瞬時にジェスタに乗り込むことが出来たのだ。
「俺たちがルールを守ってやってるのによォ! それをお前らはチートなんぞ使いやがってェ! もう我慢ならねぇぜッ! 全員吹き飛ばしてやるぜェ!!」
『いっ、一体何を言っているんだこいつは!?』
自分等が機体を制限しているのに対し、敵側は全く制限も無しに最新鋭機を投入してくるので、それがストレスになっているジークフリートは、全ての兵装を使用した。つまり一斉射である。
凄まじい攻撃に気付いたパイロットは、咄嗟の判断で散会したが、間に合わない者達は怒りの一斉射に飲みこまれた。
『畜生! なんて奴だ!!』
『んっ!? 後方から高速ゾイド!』
『何っ!?』
一斉射から逃れたエリート兵等は恐れ戦く中、背後から来た攻撃で二機のダガーLが被弾して墜落する。背後から来たのは、フォンに言われてアイリスディーナ等の救援にライガー・ゼロで向かったマリだ。
兵装が心持たないのか、外付けの射撃装備をライガー・ゼロに付けている。無論、弾切れになれば即座に排出できる仕様だ。敵に体勢を立て直す時間を与えず、数機を撃ち落とせば、ジークフリートとの連絡を付ける。
『聞こえてる? あの女の部隊何所?』
「おっ、ようやく抜け出したか。ベルンハルトの中隊の場所? それなら、ジグムントの機体の反応を負えばいいだろう。直ぐに見付かるぜ」
『ありがと』
「えっ? 手伝うんじゃねぇのか? お、おい! 待てって! クソ、これだから餓鬼扱いされるんだよ!」
戦闘しながらも、ジークフリートよりアイリスディーナの隊の居場所を聞いたマリは、彼に加勢することなくそちらに向かう。
近付いて来た敵機に、弾切れの装備をぶつけて怯ませ、ビームライフルを三発撃ち込んで撃破したジークフリートは呼び止めるが、彼女は聞く耳持たずに向かう。
「まぁ良い。テメェ等なんぞ、俺様一人で十分よ!」
まだ多数いる敵機に対し、ジークフリートは機体のもう一挺のビームライフルを取り出して二挺構えを取り、向かって来る多数の敵機の迎撃を行った。
「この辺り…」
ジグムント機の反応を頼りに、シュヴァルツェ・マルケンの救援に向かったマリは、周囲を見て一ダース分のMig-21を探す。言ってもいつも定数を満たさない中隊なので、事実上八機である。
レーダーを見ていれば、ジグムント機の反応が見えた。近くにはジークリンデ機の反応と、レーザーヤークト中の戦術機数十機分の反応が見える。大部分は米海軍の戦術機F-14のようだ。だが、中隊の数は六機まで減少していた。
まさかやられたのかと思って、レーザー級の対空攻撃を避けながら追撃して来る敵機の迎撃に当たっているジグムントが乗るジェスタに無線連絡を送る。
『ん、マスターか。どうやら突破して来たみたいだな』
「ねぇ、減ってるんだけど!」
『減っている?』
『予備として残した! この状況で出す訳にはいかん!』
中隊の数が減っていることを問えば、ジグムントの代わりにアイリスディーナが答えた。次に何所に残して来たかを問うと、アイリスディーナはBETAの戦車級を数体始末してから返答した。
「何所に?」
『後方だ! そこにはお前たちと似たような戦術機に乗る奴らは来ていない! それよりこいつ等はなんだ!? なぜ私をお前だと思って狙って来る!?』
「あんたが私と被ってるから!」
『はっ!? それが理由かよ! 良く見りゃ分かるだろ! 目ん玉着いてんのか!?』
後方に置いて来たと答えたアイリスディーナは、自分をマリだと思って狙って来る連邦軍に対してなぜ狙うのかを問い詰める。
これにマリは中隊に合流し、飛び掛かろうとしたコマンドウルフを撃破して、続け様に要撃級を撃破してから答えた。この返答に、テオドールは連邦軍に対して怒りの言葉を吐いた。確かに良く見れば、マリとアイリスディーナの違いなど分かるが、良く似ているので、一目では分からない。
『今度はなんだ!? 空を飛び回る戦術機や馬鹿デカい機械のオオカミにライオンやらバッファローの次は白いライオンか!?』
『一々煩いぞ、ヤンキー! 黙って前だけ見て運転しろ!! そいつ等は俺たちが対処する!』
『あぁ、ファック! ナンバーテンだ!』
BETAのみならず、連邦軍の空中を飛び回るMSやPT、ゾイドの襲撃で気が滅入っている海兵は、マリのライガー・ゼロを見て更に混乱する中、テオドールは黙って操縦するように告げた。
これに海兵は汚い言葉を連呼し、上空からレーザー級の対空射撃を物ともせずに飛来して来るレイノスの空襲を避ける。
ここで少し疑問に思う。なぜ連邦軍はレーザー級を仕留めてくれないだろうか?
あれほどの高性能機揃いなら、BETAを一掃してくれてもいいはずだが、標的のレーザー級集団が居る地域は、地獄と言って良い程の状況であった。
『おい、なんだこりゃあ!? 俺たちはあん中に突っ込むのか!? 冗談じゃねぇぞ!』
「えっ、なに?」
『なんだこれ…!? BETAの方がマシに見えるぞ…!』
その地獄を見た一同は、あの中に行くのかと口にする。そこには、無数の同盟軍の機動兵器部隊が無数のBETAと交戦していた。戦闘は膠着状態であり、あの魔女の釜のような戦場に突入でもすれば、飛んでくる流れ弾に引き裂かれることだろう。
おまけに空は同盟軍機で埋め尽くされている。レーザー級の迎撃が間に合わないくらいだ。同盟軍が大量に機動兵器を投入した所為で、ハイブよりBETAが続々と来ている。これ以上、放置していれば、掃討しきれないBETAが増え過ぎて、ヨーロッパを放棄する他なくなる。
『止めようぜ! あの中を突っ切るなんて命が幾つあっても足りねぇや!』
『出てったらハチの巣だぜ!』
数えるのが馬鹿らしい敵を見た海兵らは、直ぐに撤退しようと進言するが、アイリスディーナはあの数が西ヨーロッパに来れば滅亡すると判断して、レーザーヤークトを続行する。
『いや、続行する。あれを放置すれば、必ず西ヨーロッパは滅亡する。このレーザーヤークトは必ず完遂せねばならない。我々がやらねば、人類は滅亡するだろう…!』
アイリスディーナの言葉に、一同は絶句する中、一人の海兵が自棄でも起こしたのか、彼女の続行命令に同意した。
『マジか…!? 畜生、本当にナンバーテンだ! あぁ、やってやるとも! やらなきゃ後が無いんだろ!? 行ってヒーローになってやる!!』
『俺には三歳の子供がいる…! あの中に突っ込めば、命の保証は無いが、あの子の事を考えれば…!』
『全く、とんだ疫病神だよ、あんたは! 良いさ、人類の力を奴らに見せ付けてやる!』
『ふむ、ジェスタでどれくらい進めるか…』
『これは、本気でやるしかないわね』
続けざまに皆が言えば、アイリスディーナは表に出さなかった恐怖が消えた。次にマリの番だが、彼女は皆があの地獄の中を行く決心がついたと言うのに、賛同せずに黙ったままだ。
マリの同意を得るために、アイリスディーナは盗聴機が着いていないプライベート通信でライガー・ゼロに連絡する。
『ノリが悪いぞ。それじゃあ仲間外れにされるぞ。何より、私を守るのがお前の使命だろ? ならばこれにも付き合ってもらうぞ』
そう言うアイリスディーナに対し、マリはある条件を呑めば同意すると答える。
「じゃあ、条件出して良い?」
『あぁ、なんだ?』
マリの条件を聞くために、アイリスディーナはヘッドセットの無線機に耳を傾ける。周りに聞かれるのが嫌なのか、マリはライガー・ゼロの無線機を操作して、周りに聞こえないようにしてから、その条件を彼女に告げた。
「セックスさせてくれたら、前衛やってあげるけど?」
この衝撃的な条件にアイリスディーナは絶句したが、自身の悲願達成の為なら、良く分からない女に身体を許すくらい安い物だと判断して条件を呑んだ。
表情には決して出さないようにしたが、内心はとても恥ずかしく、出せば人望を失う可能性があった。おそらく、自分が恥ずかしがっていることを、あの女は想像して喜んでいるだろう。アイリスディーナは必死に我慢しつつ、声を震わせながら承諾したことを伝える。
『い、良いだろう…! 前衛を頼む』
「うん、隠し玉見せるから、口外しちゃ駄目よ」
アイリスディーナの震えた声で、マリは初めて彼女に一泡吹かせたことで悪戯が成功した少女のような笑みを浮かべれば、仲間にも明かしていない隠し玉を使い始めた。これにジグムントは驚き、自分等をサポートしているミカルに問う。
『天の使者、マスターの精神年齢が低いのは分かったが、隠し玉について聞いているか?』
『済まないが、本当に明かしていない。碌でもないのは確かだ』
『あぁ、いま確認した。この世界では碌なことにならない代物だ』
この問いに対しジグムントは、飛んでくる青い鳥、それも鳥類のゾイドを見て碌な事にはならない代物であると確信した。
無論、ジグムントとジークリンデ以外の者達は驚愕している。その青い鳥のゾイドは分解して、ライガー・ゼロの外装へと張り付いて行く。俗に言う合体だ。大きな翼を持ったライガー・ゼロは、羽ばたいてBETAと同盟軍の大軍へ向けて飛んで行く。
『ライオンって飛べたか?』
『さぁ?』
飛んで行くライガー・ゼロを見て、海兵らはライオンが飛べたかどうか疑問に思い始める。
鳥型のゾイド、フェニックスと合体してライガー・ゼロ、名付けてライガー・ゼロフェニックスは、無数に飛んでいるザバットやシュトリヒを撃破しまくり、レーザー級の対空射撃まで避け、背部の強力なエネルギー弾を発射して進路上に居た敵部隊とBETAの集団を共に吹き飛ばす。
「何やってるの? 進んで!」
『あっ、行くぞ!』
圧倒的な火力を前にして呆然とする一同に対し、マリが一言掛けてやれば、直ぐにレーザーヤークトを続行した。引き続き向かって来る無数の敵を掃討し続ける中、ジグムントから注意の言葉を受ける。
『マスター、これはやり過ぎだ。次は控えて貰うぞ』
「この数で縛りプレイなんてしてたら、クリアできないでしょ」
『それは一理ある。だが、我々は関心を引くわけにはいかんのだ。敵が増えたら、マスターの目的も果たせないだろう?』
「…分かってるわよ」
ジグムントのルリに対しての言葉に、マリは理解して目に見える敵を倒し続けた。
進路上の敵を倒しながら進む中、マリが進路上の敵の掃討に手こずっている間に、シュヴァルツェ・マルケンの側面から連隊規模の同盟軍の機動兵器が突っ込んで来た。
BETAの突撃級以上の突進力だ。あれを止めなければ、中隊とアメリカ海軍の戦術機部隊は一溜りも無いだろう。
ジグムントとジークリンデのジェスタが何とかしてくれると思ったが、向こうの数えるのが馬鹿らしい敵の数の対処で忙しく、救援に向かえない。
やれるかと思ったが、地球に降下した四機の内、三機のガンダムが救援に駆け付けた。ガンダムグリープにストライクノワールガンダム、ガンダムアスタロトだ。
『敵機多数確認』
『全く、数えるのが馬鹿らしいぜ!』
『またウジャウジャと!』
長機を務めるノワールのパイロット、スウェン・カル・バヤンがレーダーを埋め尽くすほどの敵が居る事を伝えれば、グリープのパイロットであるアディン・バーネットは数えるのが馬鹿らしいと文句を言い、アスタロトのパイロット、アルジ・ミラーもまた文句を言う。
ここに来るまで、大軍を相手にしていたようだ。立ち塞がる敵を蹴散らしながら、中隊を踏み潰そうとする大軍の掃討を始める。
『俺たちの道を開けろ! この雑魚共が!!』
アスタロトは巨大な刀を振るい、複数の敵を薙ぎ払った。
『この程度の大群、俺とグリープなら余裕だぜ!』
グリープは機体を変形させ、メガ粒子砲を発射して同盟軍機とBETA諸とも吹き飛ばす。
ノワールは無数の敵の攻撃をアクロバティックに裂け、ワイヤーを上空のディンに突き刺して突撃級の突進を躱して、上に乗り込み、二挺のビームピストルを撃ち込んで倒してから、突き刺していたディンを、同じく突進して来るエレファンダーに向けて叩き落とした。
『お前の仲間か?』
「知らない」
自分等の側面の敵を物の数秒で片付けた三機のガンダムに対し、アイリスディーナはマリにあれも仲間なのかと問うが、彼女は知らないと答えて単独で同盟軍機とBETAの乱戦に突っ込み、目に見える敵を倒し続ける。
そんなアイリスディーナに、アスタロトに乗るアルジが無線連絡を行う。
『ん、お前…!? なんでそんなのに乗ってんだ?』
『何を言っている?』
『人違いだ。良く見ろ』
『あっ? おっ、なんかデカいな。済まねぇ!』
『何なんだ、一体』
どうやらアルジは、アイリスディーナの事をマリと勘違いしたようだ。直ぐにスウェンより人違いだと言われ、アルジは元の戦場へ戻り、敵の掃討を続ける。これにアイリスディーナが疑問に思う中、レーザー級の集団、重光線級も含めている標的が見えた。
上空へ向けて対空射撃をしており、同盟軍の航空兵器や空中戦艦が蠅のように次々と落ちている。同盟軍はこの対空射撃に晒されることを、予期して投入しているのだろうかと言うくらいの密集隊形だ。おかげで空から降って来る残骸にも注意しなければならない。
マリのライガー・ゼロフェニックスも、雨あられの光線による対空射撃に晒されたが、持ち前の異常な反射神経で躱し、中隊に襲い掛かる敵機を落としている。
『よし、フェニックスミサイルを』
射程内にレーザー級の集団を捉えたので、直ぐに発射命令を出したが、BETA最強の個体である要塞級が現れた。
『このデカ物は…!』
『ふぉ、要塞級!?』
一同が驚く中、現れた要塞級は周囲に居た無数の同盟軍機を、先端に強力な刃がついた尻尾を勢い良く振って薙ぎ払う。
小型から大型、巨大機も含め、一瞬にしてスクラップと化した。そればかりか要塞級は更に触手で、周囲に居る同盟軍機を破壊し続ける。更には強酸性の高い液体まで撒き散らして、一瞬にして同盟軍機を溶かしてしまう。
『あっ、あぁんなのに勝てるのかっ!?』
パイロットがお粗末揃いとは言え、遥かに性能が勝る同盟軍の機動兵器を大量に破壊した要塞級に対し、海兵らは畏怖する。要塞級は目前の一体だけでなく、少なくとも七体以上は現れ、同盟軍機をガンダムより多く撃破している。自分たちが要塞級に敵う戦力は、マリのライガー・ゼロフェニックスに三機のガンダムのみだ。
『映画に出て来る敵の兵器みたいな奴だな』
『気色の悪い化け物だな、早いとこ倒すか』
『足がヤバそうだな』
三名のガンダムのパイロットは要塞級を見ても何の動揺も持たず、ただ気持ちの悪いのが増えた程度の感覚だ。マリも同様で、近付かないように距離を取っている。ジェスタも対応できるが、中隊を守らねばならないので、対処をマリと三機のガンダムに頼む。
『要塞級の対処を頼めるか? こちらは中隊の護衛に着かねばならん』
『弱点は関節部だ。そこを重点的に狙えば、可及的速やかに倒せる』
『関節部か。感謝する』
『なら、PXシステムでキメるぜ!』
『ありがとよ!』
ミカルから要塞級の弱点を知らされれば、三名は分散して要塞級の討伐に向かった。
マリも雨あられのレーザーを避けながら要塞級に接近し、一撃離脱戦法で正確に関節部を狙い、二度目の攻撃で一体を倒す。二体目に掛かろうとした時、テオドールが要塞級と交戦しているのが見えた。
「馬鹿?」
第一世代の戦術機では絶対に敵わない要塞級に、無謀にも挑んだテオドールに対し、直ぐに助けようとしたが、ミカルのサポートでも聞いていたのか、関節部に向けて攻撃していた。
おそらく、ジグムントかジークリンデが伝えたのだろう。当たれば即死の攻撃を紙一重で躱しつつ、テオドール機は重い盾を胴体に投げ付け、身軽になってから短刀を弱点に突き刺して要塞級を無力化した。
二体目を処理し終えたマリは、助ける手間を省かせたテオドールを珍しく褒める。
「へぇ、やるじゃない」
褒めた後に、背後から斬りかかって来たグフユナイデッドの斬撃を避け、背後を引っ掻いて撃破する。要塞級をある程度掃討すれば、フェニックスミサイルを迎撃される恐れが無くなった為、アイリスディーナは直ぐに随伴の海兵らに発射指示を出す。
『あの三機と空飛ぶライオンもだが、あの赤毛の餓鬼もすげぇな…!』
『ヤンキー、仕事だ! 早く撃て!』
『おっ、応! 各機セーフティー解除! ファイヤー!!』
この指示に、海兵らは直ぐにレーザー級の集団に向け、フェニックスミサイルを発射し、光線級の集団を殲滅した。一体残っていたが、ジークリンデが乗るジェスタのビームライフルで始末される。
もう一方のレーザー級の集団にもミサイルが放たれたが、殲滅には行かなかった。
『すまねぇ、アカ。ミサイルは品切れだ』
『各機、残弾は?』
『いや、その必要はないわ』
『えっ?』
ミサイルが無いと海兵が答えれば、アイリスディーナは中隊各機に残弾が無いか確認する。だが、その必要はなく、残っているレーザー級は重光線級も含めて何者かの攻撃で殲滅された。
あの集団を殲滅したのは、マリに連邦軍のエリート部隊を押し付けられたジークフリートのジェスタであった。流石にエリート相手では無傷とは行かず、ボロボロの状態で今にも爆発しそうだ。
『見たか!? 金玉野郎共! 俺様が来れば、こんな奴らなんぞ…』
『感謝するぞ、ジークフリート。さて、後は国連軍の大規模砲撃か爆撃に期待しよう』
ジークフリートに感謝したジグムントは、直ぐに撤収すると伝えた。
砲撃の妨害となるレーザー級を全て始末したので、後は国連軍の砲撃か爆撃に任せておけば、戦局は安定するだろう。同盟軍や連邦軍はBETA相手に必死なので、砲撃に巻き込めば勝手に全滅してくれるはずだ。
『ちっ、後は譲るか。でっ、連邦や同盟はどうするよ?』
『砲撃で十分だ。連中はBETA相手に必死だ』
『もう十分って事よ。それに、これ以上は晒したくないしね』
「やっと終わった」
砲撃で十分と分かれば、一同は撤退の用意を始める。そんな時に迎えの隊が来たのか、ドイツ連邦軍の戦術機部隊がやって来る。
『退路は確保した! 取り敢えずお前ら急げ! 総司令部が五分後に飽和攻撃を始めるとか言ってる!』
戦術機の隊は大隊単位、あのキルケも居る事からフッケバインだ。その大隊長が、飽和攻撃が来るから直ぐにその場から離脱しろと告げる。
『早いな。何故そんなに早く?』
『さぁ? うちの連隊本部にも訳を聞いたが、とにかく離れろと煩い。取り敢えず、巻き込まれる可能性はある。急げよ!』
『聞いたな? 撤退だ!』
フッケバインの大隊長の言葉に従い、彼らが作った退路を使ってシュヴァルツェ・マルケンはアメリカ海軍の戦術機部隊と共に撤退を始めた。マリ達も直ぐに撤退を始める。何が来るか分からないが、とにかく連邦軍と同盟軍を纏めて始末してくれるのだから、ここは彼らに甘えよう。
『決まりだ。撤退する』
『ガンダム共はどうすんだ?』
『もう居ないわ。フッケバインが来る前からね』
『そうかい。ここは楽ちんな次元転送でフランケンシュタイン号に行こうぜ』
ジークフリートから三機のガンダムはどうしたと聞かれれば、ジークリンデはもう居なくなったと答える。おそらくフォンのガンダムアストレアを撤退しているだろう。撤退用に備えて装備していた次元転送装置を使い、マリ達も撤退を始めた。
レーザーヤークト成功をガレムソンと戦いながら知ったフォンは、不気味な笑い声を上げ、撤退の準備を始める。
「あぎゃ! レーザーヤークトは成功したようだな! もう長居は無用だァ!」
『なにっ!? 貴様、逃げる気か!?』
「逃げる? はっ! 精々生き延びる事だなァ…! あぎゃぎゃぎゃ!」
これ以上の戦闘は不要と判断したフォンは、ガンダムアストレアのトランザムを使い、不気味な笑い声を上げながらこの場を離脱した。フォンはここに飽和攻撃と言う名の後始末が始まる事を、レーザーヤークトの成功で見抜いたのだ。
赤くなって高速で離脱するフォンのガンダムアストレアを追うガレムソンであるが、彼のネオガンダムでも追い付けぬ速度であり、結局は逃してしまう。
『ちっ、逃げ足の速い奴め! なぜ撤退したのだ?』
撤退した意味を分かっていないガレムソンは首を傾げたが、部下からの報告でその意味を理解する。
『連隊長! 我が連隊の損害が甚大です! これ以上の戦闘は!』
『ちっ、潮時か。奴が逃げた理由は分からんが、おそらく掃除でも始まるのだろう。よし、撤退だ。他の隊にも伝えてやれ』
『はっ!』
自分の隊の損害を知ったガレムソンも、この世界に長居は不要と判断して撤退を始めた。五分後、フォンの読み通りに飽和攻撃と言う名の‟掃除‟が始まった。掃除をするのは、援軍としてやって来たワルキューレ宇宙軍の艦隊である。
異世界の兵器の残骸をこの世界の国家機関に渡さぬため、最初にダインスレイブと呼ばれる特殊徹甲弾による飽和攻撃が行われる。無数のダインスレイブが、連邦と同盟、BETAの乱戦場に向けて一斉に放たれた。その威力は地形を変える程の火力だ。数カ月の砲撃が必要な程の事を、数千発のダインスレイブは僅か数分で達成する。
次に金属を溶解させるほどの火力を秘めたナパーム弾を一斉発射して、回収不可能なほどに残った連邦や同盟の残骸を溶かし始める。BETAの死骸も溶けてしまうが、ワルキューレ宇宙軍の艦隊にとってはどうでも良い事だ。
仕事を終えれば、直ぐにワルキューレの掃討艦隊は撤退を始めた。