シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
初体験にしては激し過ぎる行為を終えたアイリスディーナはベッドに横たわり、行為を終えてティーカップに紅茶を注ぐマリの綺麗な背中を眺める。
ベッドのシーツは二人の体液で濡れきっており、別の物に替えないと体を冷やして風邪をひいてしまうだろう。自分の処女を奪った女の眺めているアイリスディーナに、その相手であるマリは紅茶を啜りながら初体験の感想を問う。
「気持ち良かった?」
「あぁ、今までにない体験だった…あれがセックスなのか…」
「同性同士のだけど。普通のもしちゃう?」
「遠慮しておく。今は忙しいんだ」
初体験の感想は人生において今までにない体験だったと答えるアイリスディーナに対し、マリは通常の男女同士の性行為もしてみるかと問えば、彼女は忙しいから遠慮すると告げてベッドから立ち上がった。
それからマリが用意した濡れたタオルを取り、自分と相手との体液を洗い落とし、バスタオルで濡れた箇所を拭く。
左手の指が切れていることに気付き、それをタオルで拭き取ろうとした瞬間、いつの間にかカップを机に置き、自分の隣に来ていたマリが、切れている左手の指を取って舐め始めた。
「何をする?」
「治療」
自分の指を舐め回すマリに対し、舐めている彼女は治療だと答える。だが、その舐め方は官能的であり、舌をいやらしく動かしてこちらを誘っているように見える。そんなマリに対し、アイリスディーナは二回戦をしないことを改めて伝えた。
「今夜は終わりだ。続きは状況が落ち着いてからだ」
「そう。せっかく貴重な体験なのに。まぁ、したくなったら呼んでね」
今宵は終わり。
そう宣言するアイリスディーナに、マリは舐めるのを止めて衣服を身に着け始める。
一方で左手を唾液塗れにされたアイリスディーナはそれをタオルで拭き取り、消灯時間と部下を集めるために急いで衣服を身に着け、マリと共に外へ出た。外へと出る途中、自分等を襲って来る敵達はどうなっているかを問う。
「そっちはどうなっている? また襲って来る気配はないか?」
「無いと思うけど。あれだけの損害を出したし。グルビーとかそんな連中もコテンパンにしたから、大丈夫かも」
「そうか。なら、私の革命を手伝ってくれるか?」
海王星作戦で連邦と同盟、グルビー旅団は大損害を被ったので、暫くは襲ってこないと予想するマリに対し、アイリスディーナは自分の革命の同志になるように誘う。
これ程の力を持つ女であるマリを、自分の陣営に誘えば、東ドイツの人々を逃がすための口実である東西統一など一瞬にして出来る。
神に等しい力を持つマリの前では、シュタージなど一瞬で粉砕できる。そう見込んだアイリスディーナは、茫然とするマリに向けて手を差し伸べたが、彼女がその手を取るわけが無かった。差し出された手を振り払い、更には雪原の上に押し倒して馬乗りになる。
「何をする!?」
「なに、面倒臭くなってチートでも使いたくなった? 言っとくけど、あんたに手を貸せなんて言われてないし、貸す気も無いから。あんたが革命? それと統一とかを自力でやるまで守れって言われてるだけだから。出来ないならクレンツでも待てば? 壁でも壊してくれるかもよ。居ればの話だけど」
参加する義理も人情も無いので、マリはそう告げて立ち上がる。
何を言っているのか分からず、放心状態のアイリスディーナに向け、マリは立ち止まり、言い忘れてことを告げてから去る。
「あぁ、それとセックスさせてあげるから手伝えなんて言っても無駄だから。解消のためにやるけど」
改めてアイリスディーナに革命は手伝わないと返したマリは、母艦のフランケンシュタイン号に帰って行った。
「おっ、戻ったようだな。どうよ、666の奴らは?」
母艦に戻って来たマリに、無神経にジークフリートは問い掛けて来る。無論、マリは無視して自室へと戻って行く。
「なんだよ、また無視か? 俺、抜けようかなー?」
無視して戻って行くマリに、ジークフリートはやる気を失いつつあった。自分からすれば意味の分からない黒目男から、シュヴァルツェ・マルケンを守れと言われて数週間も経っている。
何か良いことがあると思って我慢してやってきたが、何も起きることが無い。そればかりかマスターであるマリばかりが護衛対象に手を出しても、あの黒目からは何の御咎めも無い上、自分が手を出そうとすれば、周りが止めるかマリが殴って来る。
「けっ、弱い者いじめで粋がってる奴の気持ちが嫌でも分かるぜ。俺も一歩間違えれば、あぁなっちまうかもな。嫌になるぜ」
自分の扱いの酷さに、自分が嫌っている人から持った圧倒的な力を自分の物と思って、好き勝手にやる者達の気持ちが理解できたことに、ジークフリートは自己嫌悪に陥る。
その気持ちを紛らわす為、ジークフリートは煙草を取り出して船内にも関わらず一服する。一方で艦橋に居るジグムントたちは、新しく現れたワルキューレの追跡艦隊や、連邦軍と同盟軍の追跡艦隊の動向を探っていた。
「どの勢力もまだ動きがありません」
「連邦と同盟は直ぐにでも出るかと思ったが、ここ数日は大人しくしているな。気味が悪い」
報告でジグムントは連邦と同盟辺りがまた攻撃でもすると思ったが、気味が悪い事に攻撃を仕掛けて来ない。敵対同士で対峙したまま全く動かないのだ。
強力な軍事力を誇る二勢力は普通なら形振り構わず、蛮族の如く武力で捻じ伏せるはずだが、予想ならやるのに、それをやらないのだ。この二つの野蛮な勢力を知っている者達は、仕掛けないことは何らかの作戦を立てていると判断する。
「まさか核攻撃でも始めるんじゃないだろうな? 全く、我がマスターは厄介な依頼を引き受けてくれたものだ」
自分の主に対する悪態を付きつつ、ジグムントは頭を悩ませた。
連邦のみならず、海王星作戦で壊滅的被害を被ったグルビー旅団が未だに姿を見せていない。厄介な援軍を引き連れて、戻ってこないことをジグムントは祈った。
数日後、地球の東ドイツではBETAの攻勢が開始された。
真っ直ぐとベルリンに向かっており、もう少しでゼーロウ高地に到達するだろう。異世界の勢力が手を出してこない上、アイリスディーナがベルを押さないので、マリ達は静観を決め込み、BETAの津波に押し潰されるNVAの様子を眺める。
「おいおい、誰か死ぬんじゃねぇのか。これ」
戦況は圧倒的にNVA側に不利であり、その軍に属するシュヴァルツェ・マルケンの誰かが戦死するのではとジークフリートは見て呟く。
NVAの被害は刻一刻と拡大しつつあり、このままではシュヴァルツェ・マルケンの誰かが戦死することは間違いない。そればかりかNVAの上層部は先日のシュタージによるクーデターで幹部将校を多数逮捕されて弱体化しており、ゼーロウ高地の防衛線が落ちるのは時間の問題だ。
だが、ベルは依然押されていないので、秩序の為に勝手に自分たちが出て行くわけにはいかない。
アイリスディーナがベルを押せば行けば別の話だが、果たして行って良いのだろうか?
「まさかここまで脆いとは…!
「アカに毒された国防軍擬きじゃどうにもならねぇよ。それに敵はソ連赤軍じゃねぇしな」
ジークリンデは秒ごとにやられていくNVAを見て、ドイツ国防軍なら一週間は持ち堪えたと言う中、ジグムントは守るのは国防軍を真似たNVAであって、攻めるのはソ連赤軍じゃないと口にする。
戦況が刻一刻と悪化していく中、ワルキューレの追跡艦隊を関していたノエルは、直ぐにジグムントに知らせる。何故マリに知らせないかと言えば、戦略よりも自分の感情を優先する彼女じゃ判断を見誤るからである。
「報告! ワルキューレの追跡艦隊から複数の降下艇を確認!」
「何? こちらと同じく秩序を気にするのに動いただと?」
「おそらく罠だな」
その報告で、自分等と同じくルールを守っているワルキューレが動いたことに、ジグムントが驚く中、ミカルはこれが自分等を誘い出すための罠であると見抜く。全員が納得する中、まだ罠だとは分からないので、ジークフリートは異議を唱える。
「なんで罠だって分かるんだ? 助けたくて降りたんじゃねぇのか?」
「それなら大規模な部隊で降下するさ。数が中途半端過ぎる。これは明らかに僕たちを誘うための罠だね」
このジークフリートの意義に、ミカルは数が中途半端だから罠であると答える。
「向こうはこっちの意図が分かっているようだな。どうする、罠に飛び込むか?」
「向こうだって殺しはしないはず。放っておいても良い感じじゃない?」
ジグムントとジークリンデに問われたマリは暫く無表情のまま、降下した部隊がBETAを殲滅しつつシュヴァルツェ・マルケンに接近する中、救援に向かう事に決めた。
「罠ならぶち破る。降りるわ」
「やれやれ。結局こうなるか」
「このBETAの殲滅速度、最新鋭機を使ってやがるぜ。俺たちもそれなりの歓迎をしねぇと」
「ウィンダムでもやれるかしら?」
マリが救援に向かうと決めれば、一同はその準備に入った。
マリ達がゼーロウ高地へ降下する中、首都ベルリンの最終防衛ラインであるゼーロウ要塞は地獄と化していた。
要である戦術機六十機が重光線級の光線掃射により消滅してNVAの戦力はズタズタとなり、BETAの猛攻を受ければ陥落は必然であった。ドイツ民主共和国の最後の希望は、自国が誇る最強戦術機部隊、第666戦術機中隊ことシュヴァルツェ・マルケンのみである。
彼女らが祖国の命運を賭けた決死のレーザーヤークトを敢行し、地獄のような惨状に晒される中、奇跡と言うべきか、マリが守っているおかげなのか、ワルキューレの追跡隊が中隊を包囲していたBETAを一掃した。
『あの女か!?』
圧倒的な性能を誇る機動兵器を使ってBETAを一掃した追跡隊の機体を見て、自分と部下を含め、死を覚悟したレーザーヤークトを行っていたアイリスディーナは、マリの助けが来たと思ってしまう。
だが、彼女はマリを呼び出すためのベルを押していない。それに目前のMSはガンダムと言え、違うガンダムであるF90だ。F90ガンダムをマリ達は持っていない。これに乗っているのは、ジュリエッタ・ジュリスである。
専用の装備を付けたF90は、BETAの返り血が付いたジュリアンソードの刃先をアイリスディーナが乗る中隊長機仕様のMig-21に向ける。
「おや? そんな博物館行きの戦術機に乗って怪物退治とは…舐めプですか?」
『な、舐めプ…? 何を言っている? 声が幼過ぎる…? まさか…!』
「ん? あっ、色々と大きいですね。失礼しました、私はジュリエッタ・ジュリス。貴方を守っている方、マリ・ヴァセレートと勝負をしに来ました。おびき出すために人質になってください」
『人質だと!? こいつ、いきなり出て来てふざけて!』
ジュリエッタがアイリスディーナに向け、マリを誘き寄せるための人質になれと告げたことに腹を立てたアネットは、自機が持つ長刀でF90に斬り掛かるが、あっさりと避けられて背中を蹴られて雪原の上に倒れる。
『今の見た!?』
『早過ぎて何が何だか…!』
「これが私の実力です。私ならここに居る全員、十秒で倒せます。今従わなければ一人、殺しますよ?」
シュヴァルツェ・マルケンの面々に向け、ジュリエッタは自分の実力を分からせた。自分等とは段違い過ぎる程の機体の性能とパイロットの実力を見たアイリスディーナは、脅し付けるジュリエッタの要求に従う。
『分かった、ここは貴様に従おう。周りのBETAはどうする気だ?』
「そうですね。誰か、この人達の監視をお願いします」
要求には従ったアイリスディーナであるが、未だ侵攻して来るBETAをどうするかを問えば、ジュリエッタは自身で排除する構えであった。
後続のムラサメやジンクスⅣ、レギンレイズが到着したのを確認すれば、その部隊にシュヴァルツェ・マルケンの監視を任せ、単独でBETAの排除に向かう。
『えっ? 監視って…?』
「下手な動きをすれば撃ってください。私はこのブサイクな生物の始末に回ります!」
後続の部隊の言う事も聞かず、ジュリエッタは無数の戦車級を、鞭状にしたジュリアンソードで切り裂く。その切れ味は凄まじく、突進して来た突撃級の前面の皮膚ですら切り裂いた。
続け様に要撃級を切り裂き続け、辺り一面の雪原を血で真っ赤に染め上げれば、光線級と重光線級の排除に向かう。これまでに掛かった時間は、僅か三十秒。ジュリエッタと彼女が駆るガンダムは一瞬にして戦況を覆した。
『一機で戦況を…!?』
『どんな化け物だ…!?』
単独で戦況を変えたジュリエッタの実力に、シュヴァルツェ・マルケンの面々は驚きを隠せない。
そんな彼女の目前に、複数の要塞級が立ち塞がり、光線級と共に単独で迫るガンダムの迎撃を行うが、どの攻撃もジュリエッタは全て躱しきる。
「知能は低めか…この前やったゲームの雑魚キャラより弱いですね」
レーザーを避け、軽口を叩きながらビームライフルを撃って要塞級周辺の光線級を全て始末した後、要塞級の足を撃ってバランスを崩させ、腹をジュリアンソードで切り裂いた。
一体目を始末すれば、二体目に向けてシールドのアンカーを打ち込み、一気に接近して切り裂き、続けて三体目、四体目とジュリアンソードで斬り続ける。一分も満たない内に要塞級は全滅し、重光線級に向かったジュリエッタは、同様のBETA虐殺劇を行い、シュヴァルツェ・マルケンが近付けなかった重光線級を三分で全滅させた。
『私たちが出来なかったことを、三分で…!』
『おいおい、あいつだけでBETAを全滅できるぞ!』
自分等が出来ないことを意図も容易く、それも早く済ませたジュリエッタに一同は驚愕する。ここまでは、ジュリエッタの肩慣らしであったらしく、まだマリが来ないことに少々の苛立ちを覚える。
「はぁ、肩慣らしには丁度いいけど…まだ来ないかな? はーやく来ないとやっちゃうぞ」
歌いながらビームライフルの銃口を向けつつ、マリが早く来ないことに苛立つ中、上司であるカルタ・イシューからの無線連絡が入る。
『先遣隊! まだあのマリおバカさんは!?』
「まだ来てないようです。化粧に時間でも掛かってるんじゃないですか?」
『ふん、まだ来ていないのね。では、周囲の醜い生物を始末して時間潰しておきなさい。親衛隊、突撃!』
『面壁九年! 堅牢堅固!!』
カルタからの問いに、ジュリエッタはまだ来てないと返せば、彼女は配下の部隊にBETAに突撃を行わせた。突撃を行うのは、グレイズリッターや装甲を強化したグレイズの改良型であるパンツァーで編成されたカルタ親衛隊である。
突撃に適した隊形を取り、突っ込んで来るBETAを次々と排除する。光線級による攻撃に晒されるが、グレイズ系統の機体にはナノラミネーター装甲であるため、光線級の攻撃は無意味であった。
瞬く間に周囲のBETAは壊滅し、最後の一匹が剣や槍で突き刺されて息絶えれば、掃除は完了する。それと同時に、マリが乗る機動兵器がこの地に舞い降りる。
『カルタ様、来ました! 奴です!!』
『この私たちに掃除をさせるとは、嫌な女!』
「はぁ、来ましたか…」
舞い降りて来た機体、インパルスデスティニーガンダムにマリが乗っていると判断し、手にしている射撃兵装の武器を向ける。
カルタは自分等にBETAの掃除をさせたマリに、怒りを見せる。当のカルタが乗っているMSの姿は何所にもない。遠くの方で、マリを見ているのだろう。
『ようやく来てくれたか…!』
やって来た見知らぬガンダムに、アイリスディーナはようやく来てくれたと安堵する。
インパルスデスティニーが雪原の上に降りれば、コックピットハッチが開いてそこからパイロットが出て来る。案の定、乗っているのはマリであった。
「さて、誰から行きますか?」
『イシュー殿! 先手はこの私が!!』
最初にマリと戦うのは、赤いグレイズリッターに乗るパイロット、メイソン騎士団の騎士であった。
赤い機体は腰のナイトブレードを抜き、自分が一番手であると宣言する。乗っている騎士は、この世界に来る前からマリを追跡していた隊に属している者だ。直ぐにマリが乗るインパルスデスティニーの前に立ち、直ぐにコックピットへ戻るように告げる。
『マリ・ヴァセレート! 直ぐに機体に乗り込んでこの私と決闘しろ! あの時の屈辱、ここで晴らしてくれる!』
「はぁ、しつこい…! 良いわ、瞬殺してあげる」
そんなしつこい赤い騎士が駆るグレイズリッターに対し、マリはため息をついてコックピットへ戻り、ハッチを閉めて操縦桿を握る。
『そうだ! このグルンスト・ファルケンダー、貴殿の首を貰いうける! いざ、覚悟!!』
マリが戦う気を見せれば、赤いグレイズリッターは武器を振り下ろさんとスラスターを吹かせ、突っ込んで来る。
一撃目が振り下ろされれば、マリは操縦桿を軽く動かして避け、続けざまに振るわれた二撃目も軽く躱す。グレイズリッターは何度もナイトブレードを振り回してくるが、マリには一太刀も浴びせられていない。ただ避けられるばかりだ。
『ニュータイプですか?』
『違うわ。あの騎士の動きを見ているのよ』
連撃を躱し続けるマリに、ジュリエッタは
単に避けていることに飽きたのか、マリは剣を振り回すグレイズリッターに足払いを食らわせ、左右の腰に収納されている折り畳み式の対装甲ナイフを取り出し、胴体に二本とも突き刺して無力化させた。
一番目のメイソン騎士団の騎士は、僅か四十秒でマリに敗北する。当の騎士は対装甲ナイフをコックピットに突き刺されて絶命していた。
『まぁ、瞬殺ですね。次は私が行きましょう』
最初から赤の騎士がやられることが分かっていたジュリエッタは、次は自分の番だと言ってマリのデスティニーインパルスにビームライフルの砲口を向ける。照準は確実に捉えており、このまま標的が動かなければ直ぐに当たるが、ジュリエッタは直ぐに撃たずに、次は自分が相手になるとマリに告げる。
『次は私の番です。取り敢えず、動いてください』
「へぇ、今度は女の子なんだ。むさ苦しいのに飽きた所なの」
『そうですか。では、始めましょうか。皆さん、巻き込まれないでください』
『えっ? 巻き込まれるんですか?』
『はい、巻き込まれるんで。態勢を低くしてください』
マリを見たジュリエッタは、周囲を巻き込む程の激戦になると周りに告げれば、周辺の味方機は困惑する。
始まってもしないのに、いきなり巻き込まれると言われて直ぐに分かる物ではないだろう。そんな彼女らにジュリエッタは再度告げて、味方機が態勢を低くすれば、直ぐにビームライフルを撃ち込んだ。
『やはり避けた!』
直ぐに当たる距離だったのに、マリはこれを避けて見せた。避けると分かっていたジュリエッタは二射目を撃ち込むが、マリのデスティニーインパルスには全く当たらない。
そればかりか、マリもビームライフルを抜いて撃ち返してくる。彼女の放ったビームの流れ弾に、ワルキューレの機体は当たり掛ける。
『わっ!?』
『巻き込む気か!?』
ワルキューレのレギンレイズが驚いて雪原の上に倒れ込む中、流れ弾に当たり掛けたテオドールは、こちらを巻き込む気なのかと叫ぶ。そんなテオドールの叫びを無視して、マリとジュリエッタは互いにビームを撃ち合って交戦を始める。二人は味方とこの世界の住人を巻き込む危険性があると分かっているのか、味方が居ない場所へと戦いながら移動する。移動した場所とはBETAとの交戦が続いている区画だ。
そこへ一分もしないうちに到着すれば、自分等を知らないNVAの戦術機のMig-21が、手にしている突撃砲を発砲して来る。特に地上に居るジュリエッタのF90は集中砲火を受けているが、弾頭はF90の装甲を貫くことは出来ず、弾かれるばかりだ。マリと交戦しているジュリエッタは、自分に向けて撃ってくるMig-21を撃破していいかを問う。
『こいつ等やっていいですか? いい加減ウザイです』
『止めなさい!』
『ちっ、面倒臭い!』
直ぐにやるなとの命令を受け、ジュリエッタは舌打ちしながらマリとの交戦を続ける。当のマリは器用にNVAと避けており、ジュリエッタはこれを避けながら交戦している。やがてBETAの方へと突っ込めば、二人は遠慮無しにBETAを派手に巻き込みながら交戦を続行する。
上空を飛んでいるマリのデスティニーインパルスが両腕のビームのブーメランを展開し、二つとも投げ込めば、ジュリエッタのF90はホバー移動しながらブーメランの追撃を躱して、ビームライフルで撃ち返す。
周りのBETAを殺戮しただけで帰って来たブーメランを元の位置に戻し、再びビームライフルによる攻撃を始めようとしたが、邪魔をされる。
「っ!? まだ残ってたの?」
邪魔をしてきたのは、BETAの光線級だ。背後より光線級からレーザーを撃たれ、これを紙一重で躱したマリは、直ぐに背中の縮小式ビームキャノンで撃ち返して自分にむけて撃ってくる光線級を全滅させる。
この間にジュリエッタは、シールドのアンカーをマリのデスティニーインパルスに向けて打ち込む。左腕に巻き付き、十分に巻き付いたのを確認したジュリエッタは、敵機を引き摺り下ろそうとしたが、マリは抵抗して逆に空中へ連れて行こうとした。
核融合炉をメインエンジンとするMSと、バッテリーエンジンのMSとの綱引きだ。どちらのパワーが上かと言えば、搭乗者の技量次第である。ジュリエッタが必死に操縦桿を引いてデスティニーインパルスを地上へ引き摺り下ろそうとする中、流石のマリでもやや焦ったのか、操縦桿を握る手を強め、空中に引き上げようとする。
『邪魔!』
地上に居るジュリエッタの方には、BETAの戦車級が殺到しており、乗っている人間を殺そうと張り付こうとするが、反応が早過ぎる彼女の抵抗で惨殺されるばかりだ。
「つき合ってらんない」
同じく攻撃を受けているマリも、ジュリエッタの相手しきれないのか、アンカーを切って引き剥がし、低空飛行を行って鬱陶しい光線級からエクスカリバーと言う対艦用ビーム剣で仕留める。護衛を務めている要撃級もその大きなビームの剣で切り裂き、辺り一面を血で真っ赤に染め上げる。
ジュリエッタ方もアンカーを切られて自由に動けるようになったのか、ジュリアンソードを鞭状にして周囲のBETAを切り裂き、マリのデスティニーインパルスに振るう。飛んでくる刃の鞭に、マリは直ぐに気付いて躱し、背中の縮小式ビームキャノンを撃ち込むも、ジュリエッタの反応も早くて当たらない。
決着の着かぬ戦いは、周囲のBETAを全滅させるほどであり、双方のエネルギーは底を尽きかけていた。これ以上の戦いは、互いを損耗させるだけの消耗戦だ。早急に決着をつける必要があると双方は思っている。
「早く決着付けないと…」
マリはエネルギー残量を見ながら、決着をつける必要性があると口にすれば、操縦桿を強く握った。
二つのエクスカリバーを二つに合わせて長剣にし、スラスターを全開にしてジュリエッタのF90に向けて突っ込む。対するジュリエッタはジュリアンソードを構え、カウンターを狙う。
デスティニーインパルスのエクスカリバーの尖端が胴体に迫る中、ジュリエッタは盾を構えて突き刺させ、相手が手放して二撃目に移る前に、ジュリアンソードをマリが乗るガンダムの胴体に叩き込んだ。
『っ! 分裂した!?』
ジュリアンソードが叩き込まれる前に、マリはデスティニーインパルスの分離機能を使い、機体を上半身と下半身、コックピットの部分になるコアスプレンダーと言う戦闘機に別れさせた。
コアスプレンダーで攻撃するのもありだが、搭載火器は貧弱なので、マリは直ぐに乗り捨てて奥の手であるライガー・ゼロを召還し、それに乗り込んでF90に飛び掛かる。
突然、現れたライガー・ゼロに、ジュリエッタは対応しきれず、胴体にレーザークローを叩き込まれそうになる。
『っ! 止めた?』
「これ、私が勝ったって事で良い?」
マリはジュリエッタにトドメを刺さず、自分が勝ったことで良いかどうかを問う。
無論、これでカルタはマリを見逃すはずが無く、遂に自機の姿を晒して次は自分の番であると宣告する。
『これで勝ったことにしろと…? そんな事、このカルタ・イシューが認めるはずが無いでしょう! このイシュー家の家宝、ガンダムベレトで捻り潰してあげるわ!』
空より二機のジンクスⅣに抱えられたガンダムタイプのMSが、マリのライガー・ゼロの前に降りて来る。
あれがカルタの乗るガンダムであろうか。ガンダムバルバトスやガンダムグシオン、ガンダムフラウロスと同じガンダムフレームであり、レーダーにエイハブ粒子の反応が見える。
ソロモン72柱の十三番目のベレトの名を持つガンダムで、カルタの戦闘スタイルに合わせてか、腰に差している一本の大太刀に面壁九年と堅牢堅固を現す重装甲と言った形だ。他にも内蔵武器が幾つか見られる。おそらくビームかレールガンの類だろう。二つ目の近接兵装である薙刀が付いている。
そんなカルタの駆るガンダムベレトは、ジュリエッタのF90が友軍機に引き摺られて回収される中、腰に差し込んである大太刀を抜き、マリのライガー・ゼロに向けて構えた。
『さぁ、あのフェニックスと[[rb:合体 > ユニゾン]]してライガー・ゼロフェニックスになりなさい。そうでもなければ、このベレトには役不足よ』
映像通信まで掛けてフェニックスを呼んでライガー・ゼロフェニックスにしろと言って来るカルタに対し、マリはノーマルのままで十分であると答える。
「厚化粧おばさんにはこれで十分よ」
『っ!? 言ったわね…! さぁ、覚悟なさい! マリおバカさん!』
厚化粧と罵られたカルタは、怒りを燃やして大太刀を振り下ろした。
振るわれた大太刀をマリは躱し、ライガー・ゼロのクローで反撃しようとするが、空かさずに大太刀を振るわれて近付けない。腹の衝撃砲を撃ち込むも、分厚い装甲とナノラミネーターの所為で全く効かなかった。
フォニックスと合体すればガンダムベレトに対処できるだろうが、今は魔力を使い過ぎたのか、今は呼べない。通常形態で対処する他ないのだ。
『そらそら! どうしたの!? こっちが大人気ないじゃないの!』
そんな万全じゃないマリに、カルタは容赦なく大太刀を振るい続け、彼女が駆るライガー・ゼロは避けるしかない。
対抗策が無いマリが避け続ける中、カルタは業を煮やしたのか、内臓兵装を使って来る。レールガンによる攻撃だ。マリはこれを避けるが、レールガンの発射口は四門あり、それに連射力は高い上、カルタの進路予想射撃もあって、被弾してしまう。
「キャッ!」
『フッ、やはりそのライガー・ゼロノーマルでは、役不足のようね。フリーダムでも呼べば? それなら幾らでも勝てるんじゃないの?』
ライガー・ゼロが被弾して動きが止まった所で、カルタは一気に距離を詰めて腹をけり上げ、マリにフリーダムガンダムを持ってくるように告げる。
それならガンダムベレトと渡り合うことが出来るが、今は修理中で出すことは出来ない。もう一機の切り札であるVF-31Fジークフリートなら行けるが、今のマリは頑なに持って来ようともしない。それに封印されており、解く前にマリがやられてしまう。
蹴り飛ばされたライガー・ゼロに乗るマリは、直ぐに体勢を立て直し、ガンダムベレトの左腕に噛み付いたが、振り解かれて雪原の上に叩き込まれる。
『もうこれまでね。さぁ、観念してお縄につきなさい!』
もはや敵わないと判断したカルタは、頭部に刀身を向けてマリに投降を促した。完全に勝利したと思っているカルタであったが、この場にジグムント等は居なかった。何か仕出かすかと思って常に監視している三名であったが、カルタのガンダムベレトに向けた無線連絡で、三名の居場所は直ぐに分かる。
『追跡艦隊司令官カルタ・イシュー殿に告げる。貴官の艦隊は現在、連邦軍の第9艦隊の強襲を受け、交戦中。優勢は連邦軍艦隊だ。このままでは貴官の艦隊は物量に呑まれ、いずれは壊滅するだろう。早く帰投しなければ貴官の帰るところが無くなるぞ?』
『もう少しと言う所で。何者なの? まずはその証拠を見せなさい!』
『試しに艦隊に連絡を取ってみると良い。連絡は繋がりにくいだろう』
突然掛かって来た連絡に、カルタは当然の如く疑いの言葉を掛ける。掛けて来た正体であるジグムントは、試しに艦隊に連絡を取ってみるように告げれば、彼女は言われた通りに艦隊に連絡を取る。
『こちら面壁九年。堅牢堅固、応答せよ』
『こちら堅牢…現在…敵艦隊の強襲を受け…交戦…弾幕…薄い…』
『なんと!? 本当だったなんて…! 全機、帰投せよ! 今すぐ!!』
艦隊に無線連絡を取れば、通信状態の悪さから通信が何度か途切れ、その音に混じって戦闘音が聞こえて来る。もしもの時に備え、ジグムントは策を打っていた。
喧嘩っ早いジークフリートに、VF-31Jに乗せて連邦軍の追跡艦隊、それもイオクの第9艦隊を嗾けさせ、カルタの艦隊を襲わせたのだ。
クジャン家の当主で、艦隊の提督であるイオクの能力は高くないが、第9艦隊はそれでも連邦宇宙軍が誇る精鋭艦隊だ。数も多く、寄せ集めの兵力で編成されたばかりのカルタ艦隊では、余り持たないだろう。
本当に自分の艦隊が襲われている事を知ったカルタは、マリのライガー・ゼロを抱えて宇宙の艦隊へ帰投しようとしたが、何処かに潜んでいたのか、ジークリンデが駆るウィンダムが現れ、ミサイル全弾をガンダムベレトに撃ち込む。
『ぐっ!? しまった! だが、取りに戻る時間は無い! ぐぬぬ…!』
ミサイルを撃ち込まれ、マリのライガー・ゼロを手放してしまったカルタであったが、取りに戻るほど時間は無く、慌てて戻る全機と共に宇宙へ飛んで行く。
カルタの部隊が慌てて戻った所で、ジークリンデはマリのライガー・ゼロに近付き、アイリスディーナの所へ行くように告げる。
「そろそろ彼女に張り付いた方が良いわ。シュタージが来る」
「なんでそこまで知ってるの?」
「聞いてなかった? まぁ良いわ。機体はこちらで回収する。早く」
倒れ込んだライガー・ゼロからマリを引っ張り出したジークリンデは、早くシュヴァルツェ・マルケンと共に基地へ帰投し、そこで現れるシュタージから守るように言えば、彼女はなんで知っているのかを問う。
これにアウトサイダーから聞いていなかったのかと言って、早く行くように告げた。
マリが言われた通りにシュヴァルツェ・マルケンの方へ行く中、ジークリンデはシュタージが基地を襲撃することを知らせることなく、マリを回収してから基地に帰投するように指示する。
「シュヴァルツェ・マルケン、聞こえるか? 影武者に使える女を回収してから基地へ帰投せよ」
『そうさせて貰う。でっ、なぜ彼女を回収してから?』
「保険の為」
ジークリンデからの指示に、アイリスディーナは訳を問う中、元ナチスの超人兵士である彼女は、保険の為に回収しろと答える。
『保険か。確かにクーデターが起きたばかりだからな。良かろう、回収する』
保険の為と聞いてか、アイリスディーナは強力になるマリが居れば、シュタージに基地を襲われても対処できると踏まえ、ジークリンデの指示通りに彼女を回収してから基地へと帰投した。
「さて、ここからが正念場よ」
シュタージの襲撃からは正念場と言ったジークリンデは、ウィンダムに戻り、母艦であるフランケンシュタイン号へ帰投した。