シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ   作:ダス・ライヒ

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正念場

 第666戦術機中隊ことシュヴァルツェ・マルケンと共に、基地へ帰投したマリは、襲撃の事を伝えず、アイリスディーナの戦術機であるMig-21指揮官仕様のコックピット内でその時を待つ。

 格納庫に着けば、アイリスディーナはハッチを開けて出ようとする。その際、マリに基地に来ないかと誘う。

 

「どうする? そこにずっと居たって、何にも持ってこられないぞ」

 

 強化装備姿のアイリスディーナの動く度に揺れる胸を見て、マリはやや嫉妬心を抱いて首を横に振って誘いを断る。一体何に不満を抱いているのか理解できないアイリスディーナは少し悩んだが、どうしてそのような行動を取る理由を問う。

 

「一体何の用でそんな所に居座るのかが理解できんが、話せないのか?」

 

「…話せない」

 

「はぁ。なら、そこに居ろ」

 

 話せないと答えるマリに、ため息をついたアイリスディーナは機体から降りた。

 全機が格納庫に入り、数機が電源を落として整備が始まろうとする中、予想した通りに基地に潜伏していたシュタージは、シュヴァルツェ・マルケンの確保に出る。一発の銃声が響けば、マリは事前に用意していたMP5A3短機関銃を取り、機体から出てアイリスディーナを捕らえようとする整備兵に扮したスパイを射殺する。

 

「このためか!?」

 

 正確な射撃で数名を撃ち殺したマリに、物陰に隠れていたアイリスディーナが問えば、彼女は無言で頷く。

 このシュタージの行動はシュヴァルツェ・マルケンの面々には予想外であったのか、テオドールとカティアを除く数名が一気に捕まった。

 

「お前たちは行け!」

 

 捕まらなかったテオドールは、アイリスディーナの指示で漠然としているカティアを引っ張って自分の機体に叩き込む。

 彼らが出るまで援護しなければならないと思ったのか、護身用の拳銃を取り出して、テオドール機を狙おうとするRPG-7対戦車発射器を持ったシュタージの工作員を撃ち始める。マリはそんなアイリスディーナを守るべく、捕らえようと近付いてくる工作員らを手にしている短機関銃で撃つ。

 ドイツの銃器会社のヘッケラー&コッホ社で開発されたMP5の精度は高く、弾をばら撒くフルオート射撃をしなくとも、単発で普通に狙えば当たる。三十発分を撃ち切れば、直ぐにボルトを留め具まで引いて弾倉を抜き、新しい弾倉を差し込んでからボルトを左手で叩いて初弾を薬室に送り込む。MP5はG3ライフルが元なので、同様の再装填方法である。再装填が終われば、今度はフルオートにして敵を牽制する。

 マリがそこに留まるのは、アイリスディーナが自分の機体に乗って逃げるための援護である。もはや部下の救出は不可能と判断したのか、彼女は自分の機体まで走って来た。

 

「まさかこれを予想して籠っていたのか? 部下全員が救えたはずだが」

 

 辿り着いた後、短機関銃を再装填するマリに、事前に分かっていたなら部下全員を捕らわれずに済んだと言うアイリスディーナであるが、彼女は答えずに早く乗るように告げる。

 

「うるさい、早く乗れ」

 

「ちっ、一体何を考えているのか! なら、早く貴様も乗れ! まだ動かせる!」

 

 ただ乗れと告げるマリに、アイリスディーナは苛立ちなら乗るように告げたが、そこには予想もしなかった敵が出て来た。

 

「こいつは!?」

 

「えっ!? なんであいつ等が…!」

 

 それは統合連邦の所有するMS、ダークダガーLであった。ダークダガーLは二人が乗ろうとしたMig-21を押し倒し、もう一機は二人にビームカービンの砲口を向ける。連邦軍が介入して来たのだ。

 

「ちっ、ここまでか…!」

 

 ゾロゾロとやってくる連邦軍の将兵らに、アイリスディーナは素直に手を挙げた。マリも護衛対象を殺させないために、悔しながらも手を挙げて投降した。

 

 

 

 シュタージや連邦軍に占領された基地から逃げたテオドールとカティアであったが、連邦軍のジェットストライカーを装備したダガーLの追撃を受けていた。

 上空から複数が追撃してきており、テオドールのMig-21は地面をすれすれに飛んでいる状況だ。背面にある予備の突撃砲を撃つが、ダガーLには当たらない。

 

「クソッ、なんでこいつ等がシュタージと一緒に!?」

 

 なぜ連邦軍がシュタージと協力しているのかを理解できないテオドールは、背後を気にしながら攻撃を避ける。

 補給もせずに飛び出したため、推進剤も心持たない。こんな状態で振り切れるかどうか分からない。だが、逃げなければやられるだろう。そんなテオドールであったが、ここで当てになる味方が助けに来てくれた。

 

『荷電粒子砲、行くぜ!』

 

 聞き慣れたお調子者の声が聞こえれば、上空から追撃して来たダガーLの部隊が、強力なビーム砲で消し飛んだ。

 まだ残っていたが、強力な敵部隊が来ると思ってか、直ぐに撤退し始める。

 

『シュヴァルツェ8だな? こちらに指定するポイントへ来い。ナビゲートを送る』

 

「待て。あんた等は何者なんだ?」

 

『良いから来い。推進剤が持たないんだろう?』

 

 次に何度か聞いた事のある声、ジグムントの声が聞こえれば、殆ど認識の無いテオドールは何者かと問うたが、彼らは答えることなく指示に従えと告げる。

 これに応じてテオドールは、送られて来たポイントへと機体へ進めた。そこに着けば、事前に待機していたジグムント等が雪原の中から続々と現れ、テオドールの戦術機を調べ始める。

 

「よし、異常無しだ! 降りてこい!」

 

 発信機が付いていないことを確認すれば、言われた通りに戦術機のコックピットを空けて姿を出せば、地上へと降りて行く。

 

「あの、ありがとうございます」

 

「ふむ、追跡装置は働いていないようだな」

 

「付いてないぞ」

 

「分かっている」

 

 最初にカティアが礼を言えば、ジグムントは端末を向けて、衛士強化装備にも発信機が無いかどうか調べ、無いと分かれば解放する。テオドールにも付いていないと確認が取れれば、付近に用意していた自分等の秘密基地に案内した。

 

「すげぇな。あんた等、あの女の部下なのか?」

 

「似たような物だ」

 

 秘密基地内に入ったテオドールとカティアが驚く中、ジグムントにマリの部下なのかを問えば、彼は似たような物と答える。ジグムントからの返答を聞いて少し納得したテオドールとカティアは、待機室に案内されれば、そこで呼ぶまで待っている様に告げる。

 

「ここで呼ぶまで待っていろ。自販機の使い方は、そこの西側の亡命者が知ってるだろう。それかそこに居るお調子者に聞け」

 

「えっ、何故それを?」

 

 ジグムントが自販機の使い方はカティアに聞けと言えば、当の彼女は何故それを知っているのか疑問を抱いたが、答えることなく何処かへと去って行く。

 戦闘後で油断していた時に襲撃され、疲れ切っていた二人は、直ぐに自販機のボタンを押してサンドイッチを取る。近くの席でサンドイッチを頬張っているジークフリートに気付いたテオドールは、海王星作戦の時に自分に突っ掛かって来たドイツ連邦軍の衛士であると思い出し、何故ここに居るのかを問い詰める。

 

「あんた、海王星作戦で俺に突っ掛かって来た西ドイツの奴だな? なんでここに居る?」

 

「あぁん? なんのことだかさっぱりだな? 今はんな小せぇことを気にしてる場合じゃねぇはずだが?」

 

「そうだな。でっ、どれを貸してくれるんだ?」

 

 この問いに、そんな事を気にしている場合じゃないと答えるジークフリートの言葉に、テオドールは納得してからどの機体を貸してくれるかどうかを問う。

 だが、これにジークフリートは腹を立てたようだ。

 

「なぁにぃ~? 機体を貸してくださいだァ? テメェ、調子に乗ってんじゃねぇぞォ!」

 

「な、なんだよいきなり…! あんなに沢山あるなら、一機くらいは俺たちに…」

 

「おいおい、そんで貰っていいかと言うのかオメェあ? 人類の存続の為にとか言ってよォ。やるわけねぇだろうが、このビチクソが!」

 

 いきなり腹を立てる自分より大き過ぎる男を前に、テオドールは怯まずにあんなにあるなら一機くらいは貸して欲しいと言うが、ジークフリートは絶対に渡さないと告げる。

 これはジークフリートが、テオドールに対して個人的な恨みを持っているからである。この様子を見ていたカティアは止めて入ろうと思ったが、入って来たジークリンデを見てその必要はないと判断する。

 

「何やってるの? 殺す気?」

 

「あぁ? この調子こいてる奴を絞めてんだよ。俺たちの機体を貸せとか抜かしやがるから、つい…」

 

「それはあんたの個人的な恨みでしょ」

 

「っ!? いや、だって…こいつが…」

 

「おいおい、まさか俺が気に入らないからって突っ掛かって来たのか?」

 

 待機室に入って来たジークリンデは、テオドールに突っ掛かるジークフリートに対して個人的な恨みでやるなと注意すれば、超人兵士である彼は何も言い返せずに小さくなる。

 たかが気に入らないと言う理由で、絡まれたことを知ったテオドールは、怒るよりも呆れた。テオドールがジークフリートの理由に呆れる中、ジークリンデはカティアに十分な休息が取れたかどうかを確認する。

 

「カティア・ヴァルトハイム、十分に休めた?」

 

「いえ、まだです」

 

「そう。十分に休めたら、こちらの機体を貸すわ。直ぐに奪還しないとね」

 

 

 まだだと答えれば、ジークリンデはカティアに自分等の機体を貸すつもりであった。

 これにジークフリートが睨み付ける中、カティアなら返すと無言で伝え、ジークリンデは待機室を後にした。

 

 

 

 連邦軍がまさかシュタージュと手を組んで捕獲しに来たことで、アイリスディーナと共に捕まったマリは、ベアトリクス・ブレーメやハインツ・アクスマンから尋問を受けていた。

 尋問室には、シュタージに何故か協力し自分等を捕らえた連邦軍の将校まで居る。おそらくマリがシュヴァルツェ・マルケンを守るような行動を取っていることから、捕らえられる可能性が高いと踏んで協力を申し出たのだろう。

 二人が動けないように壁に両手を拘束すれば、先にアクスマンが口を開く。

 

「こいつは驚いた。まさかベルンハルト大尉に妹君が居たとは。いや、何処かで会ったような気がするぞ? さて、何所だったかな?」

 

 マリがアイリスディーナと似ていることに、余り驚かない様子を見せるアクスマンは、最初に会った時の事を思い出そうとする。

 この間にベアトリクスはマリの顔を掴んで、骨格もアイリスディーナに近い事に驚く。

 

「顔の形もやや似てるわね、まるで貴女の学生時代みたい。影武者にはうってつけ。良く知らない人間が見れば、貴女本人だと勘違いするんじゃない? でも、捕まったら元も子もないわね」

 

「クッ…!」

 

 影武者にはうってつけだが、一緒に捕まっては元も子もないと、アイリスディーナを見ながら告げた。

 アイリスディーナは自分が捕まった場合に備え、自分と容姿が殆ど似ているマリに自分の影武者をさせようと思っていたらしい。だが、一緒に捕まってしまい、状況が不利になってしまった。

 どう打開するかは、逃がしたテオドールとカティアの行動次第である。彼らがマリの仲間たちを連れて助けに来ることを、彼女は期待した。

 

「さて、ベルリンに連れ帰って、反体制派の事を聞かなくちゃね。ついでにそこの子のお仲間の事も聞かないと」

 

 ベアトリクスは二人をベルリンへ連れ帰り、情報収集に当たろうとしたが、マリを捕縛するためにシュタージに協力した連邦軍の将校は、約束が違うと抗議する。

 

「なにぃ? 約束が違うぞ。そこの女は、我々が引き取る事を条件で協力したのだぞ!」

 

「そう怒らなくとも良いでは無いですか。このフロイラインが、異世界の貴方たちが全力でなぜ求めるかを調べなければ」

 

「黙れ! 貴様らなどには関係ない!! いらん欲を出すな!!」

 

 連邦軍将校からの抗議に対し、アクスマンは煽り立てるように、マリに拘る理由を知りたいと言えば、将校は知らなくて良いと怒りながら答える。

 このアクスマンの態度は、マリがどれほど連邦軍に取って重要な人物であるかを探る手口であり、将校の反応で彼は直ぐに重要な人物であると悟る。隣に居るベアトリクスも、アクスマンの取った行動でマリに何か秘密があると分かった。

 

「そう怒らないで。高々諜報員としてのただ聞いただけなのに、何故そこまで気を大きくするので?」

 

「貴様らはそこの女の尋問にだけ集中すれば良い! 余計なことを考えるな! 我々は貴様らの国どころか、この地球を一瞬で粉砕する軍隊なんだぞ! どちらの立場が上か、聞けば分かるはずだ!」

 

 どちらの立場が上か。

 怒鳴りながらそれを告げる連邦軍の将校に、アクスマンとベアトリクスは理解していた。

 最初にエルランがこちらに協力を申し出た際、彼が脅しのように見せた艦隊を見て、自分等の軍隊、否、陣営や敵対する西側と結託して挑んでも、連邦軍に勝てないと分かった。

 だが、そんな軍隊でも、若い女一人捕らえられないので、ドイツ民主共和国を裏で支配する国家保安省、通称シュタージに属し、選ばれたエリートである二人は直ぐに連邦軍の弱点を見出した。

 強力なのは武力だけだ。それだけで、内部から攻撃すれば、簡単に倒せる。鎧袖一触と言う奴だと。そんな軍隊に属する横暴な将校に、ベアトリクスは共にベルリンで尋問に参加しないかと誘う。

 

「では、我々に同行してみては? あなた方もあのフロイラインについて、何も知らないんでしょ?」

 

 この提案に、連邦軍の代表者たちは互いに向き合ってどうすべきか悩み始める。

 

「っ!? まぁ…元帥殿があれほどの血相を浮かべていたな。どうする?」

 

「俺に聞かれても。元帥が怒るかもしれんが…」

 

「俺たちにも知る権利があるはずだ。元帥には、ワイルドキャットや同盟軍の妨害を受けたと報告すれば良い」

 

 彼らはエルランの指示で来たが、なぜ彼がマリを捕らえるのに必死になる理由を知らない。軍の最高クラスの階級の者が冷静さを欠く理由が知りたかった連邦軍将校の代表者らは、ベアトリクスの提案に同意する。

 

「まぁ、我々も元帥があの女に必死になっている理由を知りたい。ここは、貴様の意見に賛同しようじゃないか」

 

「ただし、その女の尋問が終わり次第、こちらに引き渡させて貰おう。それと尋問には我々も同行する。これが条件だ」

 

「はい、ありがとうございます。では、さっそく移送を開始しましょう。こちらはクーデターを起こして日も浅いので」

 

 連邦軍の代表者らに、マリの首都ベルリンへの移送を認めさせた二人は、さっそく移送準備を始めるように部下に命じた。移送が決まったことで、連邦軍の代表者らが退室していく中、アクスマンが彼らを追うように出て行くのを、ベアトリクスは見逃さなかった。

 シュタージとは言え、東側陣営の頭目であるソビエト連邦に属するモスクワ派と、西側と通じるベルリン派に分かれている。ベアトリクスは前者のモスクワ派に属しており、アクスマンが後者のベルリン派に属している。ベアトリクスはアクスマンが常に大多数の派閥に回る男であると知っている。おそらくこれを機に、連邦軍に鞍替えする気だろうと彼女は睨んだ。

 

「二人とも、続きはベルリンよ。変な気は起こさないことね」

 

 アクスマンがシュタージとこの世界を裏切ると予想したベアトリクスは、マリとアイリスディーナに向けて警告してから出て行った。

 それに代わるように、中隊を監視するために潜り込んだリィズが入って来る。隣には彼女の後輩なのか、緊張しながら後から入って来た。リィズを怪しんでいたと言うか、最初からシュタージの回し者だと睨んでいたアイリスディーナは、シュタージに従っていて満足なのかと問い始める。

 

「シュタージに従っていて安心か? 私はそうは思わないが」

 

 この問いにリィズは何も答えずに周囲を見渡した後、後輩に部屋の外に居るように告げる。

 

「ファルカ、ちょっと外してくれるかな?」

 

「え? 大尉からは必ず二人で…」

 

「良いから!」

 

「は、はい…!」

 

 上司が命じた事とは違うことをするリィズに対し、ファルカは口答えをするが、普段は見せない顔で言われたので、気迫に押されて部屋を出る。

 三人だけになった後、リィズはマリに近付いて彼女だけの拘束を解こうとする。自分を無視してマリの拘束を解こうとするリィズに、なにをする気なのかと問う。

 

「…何をする気だ?」

 

「天使様を解放するの。この人なら、シュタージなんて一瞬で…!」

 

 マリを解放すれば、シュタージを潰してくれると思っていたが、当の本人である彼女は拘束を解くなと告げる。

 

「待って。いま解放すれば貴方を解放することは出来ない」

 

「えっ…? なんで…?」

 

「良いから。これから話すこと、周囲に聞かれないようにして」

 

 解くなと言われて動揺するリィズに対し、マリはテオドール等に自分等がベルリンへ移送されたことを伝えるように、小声で告げる。

 これにリィズは酷く傷付いたが、マリが笑みを浮かべて頼めば、言う通りにすれば上手く行くと信じて指示通りに拘束を戻した。ここで拘束を解かせてしまえば、更に面倒になると分かっていたアイリスディーナは、マリが行った行為を正しい判断だと褒めた。

 

「良い判断だった。あの場で拘束を解かせても、おそらく碌な事にはならなかった」

 

「まぁ、私も面倒なことは嫌いだし。誰が私を狙っているのか知りたいから」

 

「それが理由か。頭が良いのか悪いのか分からん女だな」

 

「静かに。ファルカを入れますから」

 

 マリが拘束を解くのを止めさせたのは、誰が自分を狙っていると言う理由に、アイリスディーナは彼女の事を良く理解できないでいた。

 リィズが後輩のファルカを入れると告げれば、二人とも何事も無かったかのように拘束された女を演じた。それから移送の準備が整えば、二名は拘束されたまま移送用のヘリへ連行される。二人の移送が行われる中、リィズやファルカは同行しようとしたが、ベアトリクスから残るように指示される。

 

「あんた達は残りなさい。残りの捕虜の奪還のために攻めてくると思うわ」

 

「えっ…はっ!」

 

 この指示に応じ、リィズは基地に残った。

 

 

 

 シュヴァルツェ・マルケンの捕虜奪還の為、ジグムント等と合流したテオドールたちは、直ぐに捕虜奪還のために自分の基地を攻撃に参加した。

 連邦軍がシュタージと協力したことにより、基地はシュタージの戦術機よりも更に強力な機動兵器が揃っている。無論、ジグムント等の技量があれば、連邦軍やシュタージなど物の数では無い。カティアはジグムント等からMSであるジムⅢが渡されていたが、テオドールは戦術機のMig-21のままであった。

 

「なんで俺はこいつのままなんだ…?」

 

『オメェの機体が、推進剤と弾薬を補給するだけで良いからに決まってんだろ。補給してやっただけありがたいと思え!』

 

『ごめんなさい! 空いている機体が無いか、頼んで…』

 

「いや、もう良い。慣れてない機体で、初の対人戦をやるのは癪だからな」

 

 自分が乗って来た戦術機のままであると言えば、直ぐにジークフリートからの文句が来る。未だにテオドールの事を根に持っているようだ。

 カティアはジグムントに頼もうとしたようだが、初の対人戦なので、乗り慣れた機体なら生き残れると思い、このままで行く。覚悟を決めたテオドールに向け、ジグムントは連邦軍機とは交戦しないように注意する。

 

『エーベルバッハ少尉、連邦軍機はこちらが引き受ける。連中の腕は悪いが、性能差ではレシプロとジェット機の差だ。性能差でやられてしまうだろう。柿崎とスコットにフォローさせる』

 

『イエッサー!』

 

「叶わない相手に、何の策も無しに挑むほど馬鹿じゃねぇよ俺は」

 

 テオドールが身を弁えていることを褒めれば、ジグムントはジムⅢに乗るカティアにも彼のフォローに回るように指示を出した。

 

『それで良い。ついでにヴァルトハイム、君もエーベルバッハのフォローだ。その機体でも連邦軍機との交戦は厳しい。だが敵戦術機のMig-23程度なら、どうと言う事は無いだろう。我々は連邦軍の対処に入る、頼んだぞ』

 

『はい、ジグムントさん! 必ずテオドールさんを守って見せます!』

 

「お前がそれを言うか…」

 

 ジグムントからの指示に、カティアは元気よく答えれば、テオドールはこんな状況下でも不安がらない彼女に勇気づけられ、笑みを浮かべる。全員の準備が完了すれば、直ぐにジグムントは作戦のおさらいをする。

 

『こちらヴァイス、二〇三中隊の全員搭乗完了。機体の方も整備良好で問題なし。いつでも出られます!』

 

『了解した。では、全機出撃! シュヴァルツェ・マルケンと護衛機は、側面より回れ! 連邦軍機とはなるべく交戦するな!』

 

「あぁ! 救出の協力に感謝する!」

 

『仕事だからな。では、全機出撃!』

 

 出撃の前にテオドールが仲間の救出を感謝すれば、ジグムントはアウトサイダーから受け取った仕事だと答えて、出撃命令を出した。

 これに応じてジグムントが乗るライオン型の大型ゾイドであるシールドライガーMkⅡを先頭に、様々な機動兵器が後に続く。ジークリンデは専用カスタマイズのジェスタ、ジークフリートはティラノサウルス型ゾイド、バーサークフューラーである。

 ヴァイスら魔力を使う魔導兵たちはウィンダムに搭乗しており、ジグムントのシールドライガーの前に出る。どうやら、哨戒部隊を偽装するようだ。残念ながら、ジグムントがヴァイス等に送った指示の声は無線機からは聞こえない。チャンネルが違うらしい。

 テオドールの戦術機には、カティアが乗るジムⅢとスコットのジェガンD型、柿崎のVF-11Cサンダーボルトが付いている。後方に視線を向けると、人質を乗せるためのヘリがこちらに随伴していた。

 

「一体どこから支援を受けているんだ? こいつ等は」

 

 ジグムント等の装備を見て、一体どこからの支援を受けているかテオドールは気になる。流石に神と悪魔が混ざり合った存在から受けている等と聞けば、信じないだろう。

 そんなことを知る由も無く、テオドールはカティアにモビルスーツであるジムⅢの乗り心地を問う。

 

「カティア、その変な戦術機の乗り心地は?」

 

『快適です! F4やMigよりも乗り易いですよ!』

 

「そうか。なら、頼りになるな」

 

 カティアの技量の高さを知っているテオドールは、彼女の元気が良い返答を聞いて、頼りになると口にする。もう先頭の五機のウィンダムが連邦軍の防空網に入ったのか、動きを止めた。これに合わせ、ジグムントから停止命令が出る。

 

『先頭以外は停止。エーベルバッハ、作戦通りに基地の側面に回れ』

 

「了解」

 

 指示通り、テオドールは三機を伴って自分の基地の側面へと回った。暫くして、先頭のヴァイスたちが乗るウィンダムの所在がばれたのか、戦闘が開始された。

 直ぐに基地は警戒態勢となり、待機していた連邦軍機が次々と出撃していく。おそらくジグムント等の迎撃に向かったのだろう。残っている連邦軍機は少数で、後はシュタージの戦術機部隊だ。ヘリはテオドールの方へ随伴してきている。先に基地へ突入すると見越しての事だろう。

 

「よし、突入するぞ!」

 

『はい!』

 

『イエッサー!』

 

 完全に連邦軍の注意がジグムント等に向けば、テオドール等は基地への突入を開始した。

 機動兵器での突入なので、直ぐに監視とレーダーに見付かり、ミサイルが飛んでくる。これに合わせ、シュタージの戦術機部隊のスクランブルが掛かる。

 

『敵戦術機部隊接近! 戦術機部隊は直ちに迎撃せよ!』

 

 基地の拡声器から管制官の声が響けば、格納庫より続々とシュタージの戦術機部隊の装備であるMig-23が出て来る。

 ワルシャワ条約機構軍において、ソ連軍のみしか配備されていない戦術機だ。NVAでは無く、シュタージの武装部隊に輸出された理由は、ドイツ民主共和国を完全に傀儡国家とする為だろう。

 

「ちっ、新型だからって!」

 

 自分の戦術機よりも性能が高い戦術機を前に、テオドールは臆することなく突撃砲の射程距離に居る敵機に向けて先制攻撃を行う。

 シュタージの戦術機部隊は実戦経験が無いのか、一機が撃破されれば、迎撃に出た他のMig-23が明らかに動揺したかのような動きを見せる。そんな敵に容赦なく、スコットのジェガンと柿崎のVF-11Cは攻撃を浴びせる。

 

「こっちは毎回地獄に送られてるんだ! 後方で脱走兵や亡命者狩りばかりしてる奴らなんかに負けるかよ!」

 

 テオドールもまた容赦なく攻撃し、一機、また一機と落としていく。

 

『死んでない…よね?』

 

 カティアの方は初めての対人戦に恐怖を抱いているのか、コックピットがある胴体を避けている。ジムⅢなら出来る芸当であり、戦闘不能となったMig-23から衛士が飛び出してくるのが、テオドールの機体からも見えた。

 敵は戦術機ばかりでは無く、対物用火器を持った歩兵も居る。戦術機のレーダーには映らないので、直ぐに見えれば突撃砲を掃射する。

 無論、対BETA用の弾頭は人間には強力過ぎ、一瞬にして対物火器を持った敵歩兵は肉塊と化す。カティアのジムⅢを狙うミサイルを持った歩兵を見付けたテオドールは、直ぐに彼女の機体に向けて狙われていると知らせる。

 

「カティア! 狙われてるぞ!」

 

「は、はい…!」

 

 これに反応してカティアは携帯式ミサイルを持った敵兵に照準を向けるが、生身の人間など撃ったことが無い彼女は躊躇する。

 

「何やってる!? 早く撃て! お前が死ぬぞ!!」

 

『で、でも…!』

 

「ちっ! 一体どういう訓練を受けてるんだ!」

 

 人を殺すことを躊躇うカティアに、苛立ったテオドールは彼女の代わりにミサイルを発射しようとする敵兵を突撃砲で吹き飛ばした。

 敵兵を吹き飛ばし、敵機をある程度までに掃討すれば、救出部隊を乗せたヘリが滑走路へと着陸する。これを気に、テオドールはカティアらに基地の掃討を任せ、機体を降りて救出に向かうと告げる。

 

「カティア、俺は救出に向かう。後は頼むぞ」

 

『了解しました!』

 

 拳銃を持って彼女の返答を聞けば、テオドールは護身用の拳銃を持って機体を降りる。

 基地内は熟知しているので、仲間たちを捕らえている区画の場所も当然ながら知っている。そこへ警備兵らを避けながら向かい、留置所まで走る。

 

「ん? グェ…!?」

 

 留置所を警備している警備兵に向け、テオドールは付近の身を隠す場所から投げナイフを仕掛けた。投げナイフはテオドールの十八番だ。飛んで行ったナイフは警備兵の首に突き刺さり、警備兵は悶え苦しみながら息絶える。

 初めての殺人に対し、何名もの人間を殺めて来たテオドールは少し罪悪感を抱いたが、相手はBETAと戦わずに亡命者や脱走兵、党に反発する人間を幾度となく殺して来たシュタージなので、そう自分に言い聞かせて殺人に対する罪悪感を振り払った。

 それとは別に自分が躊躇すれば、殺されるのは自分だとも言い聞かせ、震える手で無理に引き金を引いている。

 

「おい、同志!? 大丈夫…敵…」

 

 外の警備兵が無線連絡に返答しないことに、様子を見に来た警備兵を、テオドールは拳銃を構え、震える手で引き金を引いて射殺した。

 胴体に四発もの拳銃弾を受けた警備兵は倒れ、テオドールは警備兵より奪った突撃銃を持ち、留置所内へと駆け込んでいく。既に救出部隊が敵の歩哨や警備兵と交戦状態にあるのか、あちらこちらから銃声が聞こえて来た。救出部隊は別の方から投入したので、おそらく制御室の制圧に乗り込んでいる物だろう。テオドールはそんな留置所内の通路を、突撃銃を抱えながら駆け抜ける。

 

「っ! リィズ…!?」

 

「お義兄ちゃん…!」

 

 留置所内を熟知しているテオドールは、仲間が監禁されている地下へと降りようと階段に滑り込もうとしたが、何の因果か、シュタージの手先だった自分の義妹リィズと遭遇した。

 自分を見て呆然とするリィズに、テオドールは手にしている突撃銃を向けることが出来ず、銃口を下に下げてしまう。リィズの手にはPM-63RAKと言う短機関銃が握られていたが、彼女もまたテオドールに向けることは無かった。

 互いが見つめ合ったまま固まる中、リィズの後輩であるファルカとシュタージの職員らが、二人が居る通路へと駆け付けて来る。テオドールの背後からも銃を持った職員や工作員が駆け付け、彼に向けて手にしている銃の銃口を向ける。

 

「動くな! 先輩、なんで撃たないんです!?」

 

 黙ったままのリィズに、後輩のファルカはなんで撃たないのかと問い詰めるが、彼女は答えない。

 

「リィズ…お前…」

 

 内心ではシュタージのスパイだと思っていたが、リィズが生きていたことで頑なに否定していた。だが事実は残酷であり、リィズはシュタージのスパイであった。これにテオドールはショックを受け、突撃銃を持つ手を離して床に落とし、両膝までついてしまう。

 かつての義兄にリィズは何も言わず、ただ罪悪感で満ち溢れた表情で見ているだけだ。そんな様子のおかしいリィズにファルカは動揺し、他の職員らは舌打ちして代わりに射殺しようとする。

 

「ちっ。テオドール・エーベルバッハ少尉、貴様を国家に対する反逆罪で銃殺刑に処す」

 

 職員は自分が手にしているPMマカロフ自動拳銃の銃口を、テオドールに向けて引き金を引こうとする。そんな時にリィズは、テオドールに拳銃で撃とうとする職員に向け、短機関銃の銃口を向けた。

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