シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
マリが機体を放棄して施設内へと突入した頃、連邦軍とワルキューレの追跡隊との三つ巴の戦いを繰り広げるシュヴァルツェ・マルケンとジグムントらは、永遠とも思える戦いに疲弊していた。
「こいつら、一体どれだけ出て来るんだ!?」
戦術機のMiG-21やMiG-23の部品を組み込んだ現地改修機に乗るテオドールは、破壊しても次から次へとBETAの如く出て来る連邦軍機を相手に、息を切らしていた。二つ目の敵であるワルキューレの追跡隊のジンクスⅣやグレイズ、VF-31Aイカロスなどが参戦しているが、焼け石に水の状態だ。圧倒的物量の連邦軍に押されつつある。
高性能機に乗るジグムントやジークフリート、ジークリンデまでもが、連邦軍の圧倒的な物量に押されている。そこに通常兵器部隊や歩兵部隊も加われば、BETAよりもタチの悪い包囲網の完成だ。
「おい、あんた等! 俺たちよりも良いのに乗ってるだろ!? なんでこんな雑魚相手に苦戦してんだ!?」
『うるせぇぞ! 赤毛のスケベが!! こっちとら囲まれて袋叩きの状態なんだぞ!』
『こちらも包囲されて身動きができん! うわっ! そっちで何とかしろ!』
『こちらは集中砲火を受けて、向かえない! 他の機体も同様にね!』
自分らよりも高性能な機動兵器に乗るジグムントやジークフリート、ジークリンデに救援を請うが、向かえるはずもなく、そっちで何とかしろと言われるばかりだ。
第二世代のMiG-27に乗る自分らより対人戦に慣れたベアトリクスでさえ、無数の連邦軍機相手に苦戦している。そればかりか、もう一個中隊しか残ってないと言う前に告げる。
『こっちに頼ろうとしても無駄よ。もう私の中隊しか残ってないわ。はぁ、相手は戦術機が湧く壺でも持っているのかしら?』
「こんな時に、笑えない冗談を」
敵は機動兵器が湧く壺を持っていると、ベアトリクスは冗談交じりに言えば、テオドールは笑えないと答え、得意の短刀を持って、上空から仕掛けてきたジェムズガンの胴体に突き刺して無力化させる。直ぐに引き抜き、突撃砲に持ち替えて敵機の掃討を続ける。
敵ガンダムタイプは、カルタのガンダムベレトが引き付けているが、いつガンダムタイプが全滅して、ベレトの注意がこちらに向くか分かったことではない。
先に脱落したイングヒルトとアネットは、マリが派遣した救出部隊が回収しているようだが、敵に包囲されて墜落現場から動けないでいる。もう八方塞がりだ。例えマリがアイリスディーナを救出しても、連邦軍の物量の前では無意味だろう。
『畜生が! あんとき降りれば良かったぜ!』
数十機のMSやゾイドを一気に仕留め、圧倒的強さを見せるジークフリードであるが、敵は仕留めた二倍以上の数で再び攻撃してくる。無数の出て来る敵機に、ジークフリードはマリについて来たことを後悔する。今さら後悔したところで、もう遅いのだが。
ジグムント、ジークリンデもこの無数の連邦軍機に苦戦する中、この場で唯一コクピットを外しながら敵機と交戦しているカティア機が、遂に敵機の攻撃を受けて地面に墜落していった。やったのは、海兵隊のジェガンD型である。
『きゃぁぁぁ!!』
『へっ、お高く気取るからよ!』
「カティア!? この野郎!」
墜落していくカティア機にとどめを刺そうとする海兵隊のパイロットの声を無線で聞いたテオドールは、怒り任せにその敵機に突っ込む。
『なんだぁ? お仲間をやられて怒ったか?』
『へへっ、ぶっ殺せ!』
突撃してくるテオドール機に対し、四機のジェガンD型に乗る海兵隊のパイロットたちは連携を取って対処する。
テオドールも実戦経験豊かな衛士であるが、向こうは火消し役として戦線崩壊を防いできたプロだ。カティアを救いたい一心で突撃したテオドールの攻撃を避け、胴体に蹴りを入れてビームライフルで仕留めようとする。だが、彼には義妹が居る。リィズがその援護に回る。
『お義兄ちゃん!』
『っ!? あいつ等、こんなコイン機も抑えられねぇのか!』
リィズの救援により、一気にジェガンD型が撃墜されれば、残る三機はリィズを抑え込めなかった友軍に文句を言いながら対処する。救出されたテオドールは敵機と交戦しつつ、リィズにお礼の言葉を述べる。
「済まない、リィズ。お前が来なかったらやられていた」
『もう、お義兄ちゃん熱くなりすぎ。もうちょっと私に頼ってよ。それと、カティアちゃんが…』
「こいつらをどうにかしないと、助けにも行けない…! 無事でいてくれ、カティア!」
マリが呼べない状況で、カティアの身を案じる二人は、それを邪魔している敵部隊を排除するために奮闘する。
一方で墜落したカティアの方には、ワルキューレの追跡隊の戦車が向かっていた。戦車の車種は西ドイツのレオパルド1主力戦車だ。そんな旧式の戦車の車体に、あの砲兵士官のレイリィ・ミラーが一顧分隊ほど部下たちと共に乗っている。何をする気であろうか?
「あいつ等、何をする気だ?」
戦闘中でも気付いたテオドールは、カティア機に向かっている旧式の戦車に気付いたが、敵機が多すぎて向かえない。
そんな仲間の救出に向かおうとするテオドールの気持ちを他所に、レオパルド1はカティア機に到着。衝撃で落ちそうになった部下の首根っこを掴んで落ちるのを阻止し、レイリィは部下らと共に飛び降りる。
「急いで配置して! この戦術機の残骸はいい盾になるわ!」
どうやら迫撃砲を設置するようだ。墜落したカティア機は、さぞ良い盾になるだろう。レイリィの指示で、直ぐにHK33自動小銃を持つ砲兵らが迫撃砲を組み立て始める。更に三両ほど兵員用の雪上車が来れば、そこから同様の装備と分解された迫撃砲とその弾薬箱を持った残り三個分隊が来る。
僅か数秒で、カティアの墜落したMiG-21は迫撃砲陣地へと変わった。間抜けにも直ぐに降りてきたカティアは、さっそくレイリィらの捕虜にされる。
「あら、まだ生きてたの? 邪魔にならないよう、そこに居て」
「えっ? は、はい…」
言う通りに捕虜になったカティアは、毛布を掛けられて機体の脇に座らせていた。見張りは居ないので、逃げることなど容易だろうが、単にいう通りにしているか、逃げれば死ぬことが分かっていて大人しくしている。これにはレイリィの部下の一人が、見張りを付けなくていいのかを問う。
「あの子に見張りは必要なんでは?」
「馬鹿ね。こんな広い戦場で徒歩なんかで逃げ切れるなんて、よほど運が良くないと駄目よ。それよりあの敵の砲兵陣地に向けて砲撃よ! 装填を手伝いなさい!」
「えぇ、イエッサー!」
どうやらレイリィはカティアがこの場で、捕虜になるのが正解と分かっているつもりであるらしい。そうと思っている彼女は、敵の砲兵陣地に迫撃砲弾を浴びせられるここから、砲撃すると言って指示を出す。
指示通りに迫撃砲小隊は迫撃砲を組み立てて設置し、砲撃の指示を待つ。レイリィが迫撃砲弾の射程距離を考えながら地図を見れば、直ぐに砲身の角度にするように指示を出した。砲身を指示された通りにして報告すると、砲撃命令が出される。
「角度良し!」
「効力射、撃て!」
命令が出た後、直ぐに砲弾を砲身に入れ込み、砲撃を始める。決められた場所に命中するかどうかの試し撃ちである。少し着弾点からずれると、双眼鏡で見ていたレイリィから修正するように言われる。
「ずれた! 三度修正後に修正射!」
言われた通りにハンドルを回して修正を行い、直ぐに修正射を発射する。砲身に入れられ、下の信管を突かれた砲弾は砲身から飛び出し、放物線を描きながら目標である敵砲撃陣地に命中する。
弾薬箱にも命中でもしたのか、派手に花火を上げて近くに置いてあるロケット砲の担架が宙を舞う。数秒後には連邦軍の砲兵陣地は派手な爆発音を響かせながら吹き飛んだ。
「やった! 派手な花火ですよ!」
「ちょっと感心しないで! 次、行くわよ!」
敵の砲撃陣地を潰したが、連邦軍の砲撃陣地はまだあるので、レイリィは次をやると言って別の砲撃陣地に対する照準を始める。この様子を、カティアはただ見ていた。
シュヴァルツェ・マルケンかワルキューレが優勢に思えるが、依然として連邦軍の物量は圧倒的だ。あのカルタが駆るガンダムベレトでさえ疲れてきたのか、疲弊している。
このままでは押し切られる。
そう思ったテオドールは、早くマリにアイリスディーナを確保するように、聞こえぬ願いを口にする。
「早く大尉を、アイリスディーナを助けろよ! あの女!」
自分勝手なマリに対する悪態を吐きながら、テオドールは目の前の敵機を短刀で切り裂いて撃墜した。
単独で基地に突入し、アイリスディーナ救出を担当するマリは、向かってくる海兵隊員を殺しながら内部へと進んでいた。
植民地海兵隊が持つパルスライフルなどの火器は強力であり、受ければ防弾仕様の衛士強化装備でも紙切れのように切り裂かれる。物の数秒で、マリは殆ど裸に近い状態にされた。
「最悪!」
直ぐに強化装備を魔法で剥ぎ、動き易い弾帯付きベストの戦闘スーツに着替えれば、少しの間、時間を止めて敵の中心に飛び込み、その場に居る全員に二丁拳銃の銃弾を弾切れになるまで撃ち込む。弾切れになったところで時間を元に戻し、全員が銃弾を受けて倒れこんだところで奥へと進む。
通路へ入れば、配置してある銃座が火を噴き、大口径弾がマリの身体を切り裂かんと大量に迫る。これをマリは時間と少しの間だけ止めて遮蔽物に飛び込み、動いたところで手榴弾を取り出して投げ込んだ。
「グレネード!」
「雑魚のくせして!」
投げるのが速かったのか、直ぐに手榴弾は返って来る。これを魔法障壁で守れば、倍返しに大量の州榴弾を投げ込んで銃座を破壊する。だが、それでも海兵隊は怯まず、自費購入の物か、ポンプアクション式の散弾銃を撃ち込んで来た。
「このドールが! ハチの巣になりな!」
女の海兵隊員の怒号と共に、他の海兵隊員らも手にしている銃をマリに向けて撃ちまくる。それをマリは魔法障壁で守りつつ、二丁拳銃から異次元より取り出したSG551自動小銃で、目前の全員分撃ち込んで全滅させた。
「エネミーコンタクト!」
全滅させても海兵隊員はまだ来る。直ぐに背後を向き、背後から襲い掛かろうとする海兵隊員を一掃する。弾切れになれば直ぐに空の弾倉を弾き、異次元より取り出した満タンの弾倉に付け替え、薬室に弾丸を込めて移動する。
通路を何の警戒もせず、ただ走っていれば、真下に地雷があるのが見えた。対人用地雷だ。こちらから見えない場所にはおそらく海兵隊員が隠れているだろう。これにマリは時間を止め、一気に地雷原と化したその通路を駆け抜け、いつの間にか自分の背後に回られて驚く海兵隊員らを容赦なく魔法で殲滅する。
「なっ!? いつの間に!」
「撃て…ぐえ!?」
「後どのくらい?」
追尾式の魔弾を放ち、待ち受けていた海兵隊員らと対人地雷を殲滅すれば、アイリスディーナのいる奥へと急ぐ。
映像で要請した海兵隊員らが全くマリを止められないことに、エルランは顔を青ざめさせ、恐怖して失禁までする。無理もない、あれほどの戦力を汗一つかかずに殲滅しながらこちらに迫っているのだ。流石のアクスマンも額に汗を浸らせ、機動歩兵に出撃を命じる。
『
このアクスマンの指令に、機動歩兵二個中隊がマリ一人を殺すために出動する。直ぐに現場に到着し、多彩な火器で海兵隊と交戦中のマリを攻撃するが、彼女の魔法に塞がれ、爆炎より来た魔法の刃で数名が惨殺される。
「ひっ!?」
「わっ、わぁぁぁ!!」
数名が両断されれば、機動歩兵らは怯えて手にしているライフルを乱射するが、時間を止めて懐まで迫ったマリは、自分の愛刀であるバスタードソードを抜き、自分に立ち向かった海兵隊員共々、機動歩兵全てを斬り捨てる。
悲鳴が響き渡り、辺り一面が血で真っ赤になる中、返り血塗れのマリは、こちらの見ているカメラの先に居るアクスマン等に恐ろしい目付きで睨み付け、無言で今から殺しに行くと宣言した。
「ひっ!? な、なんなのだ、あの女は!?」
「た、助けて…助けてください…アナ様…!」
蛇に睨まれたカエルの如く、怯えたアクスマンは余裕を失って思わず尻もちをつき、エルランに至っては主君であるアナに助けを求めている。そのアナことコンスタンティナ・アナ・カポディストリアスは、専用端末の映像の向こう側で、ずっとことの様子を見ているだけだが。
それからマリは移動を再開し、遭遇する海兵隊員や機動歩兵を殺しながら奥へ向かう。ルリへと繋がるカギであるアイリスディーナを救出しに。
「着いた」
数分もしない内に奥部へと辿り着いたマリは、顔に着いた返り血をハンカチで拭い、真っ赤に染まったハンカチを捨てた。
ここまでに至るまで、植民地海兵隊一個大隊は全滅し、機動歩兵二個中隊は待ち受けて恐れ戦いている小隊を除いて全滅している。マリも撃たれて血塗れで、返り血と合わさって顔以外が真っ赤になっている。
彼女の心情なら今すぐシャワーを浴びたい気分であろうが、今はアイリスディーナを救出してからである。
「う、うっ、撃てぇ!!」
少し息を整えてこちらを見据えるマリに対し、機動歩兵の小隊は小隊長の命令と共に発砲を開始したが、弾は彼女に到着する前に全て止まった。
発砲を終える頃には、全ての弾がそこで止まったようにそこに浮いていた。これを見た機動歩兵らは恐怖し、動けないでいる。まだ戦う意思があると判断したマリは、機動歩兵らが放った銃弾を返した。返された弾丸は機動歩兵の切り裂き、物言わぬ肉塊へと変えた。
一瞬のうちで三十人以上を惨殺したマリに、アクスマンとエルランは恐怖を覚える。警備や護衛を担当する兵士らは、死の恐怖でその役目から逃げ出し始める。アイリスディーナは勝ったと思い、微笑んだ。
海兵隊一個大隊を全滅させ、増援として投入した機動歩兵を皆殺しにして、こちらを見ているマリに対し、アクスマンは最後のカードであるスパルタンを投入するしかないと判断して受話器を握って叫ぶ。
「スパルタンⅤ! あの女を殺せ!!」
このアクスマンの指示に応じ、かの有名なマスターチーフと同じくも、最新鋭のミニョルアーマーを身に着けた数名の兵士、その名もスパルタンが現れ、マリを包囲する。
彼らはマスターチーフよりも三つ後輩のスパルタンⅤだ。前の安定した強化兵士計画であるⅣや、使い捨ての英雄であるⅢを合わせた五番目の強化兵士計画である。
人員はⅣと同じく志願した者たちであるが、強化には成否があり、失敗した場合はⅡやⅢとは違い確実に死亡する。軍を問わず一般からも志願者を募ったため、その数はⅢを上回る。
そんな闇を漂わせる強化兵士の集団に包囲されたマリは、動じることなくナイフを抜いて斬りかかってきたスパルタンⅤの斬撃を躱して剣で切り込むが、シールドで防がれる。
「ちっ、面倒!」
魔法の衝撃波で周囲のスパルタンⅤを吹き飛ばし、マリはアーマーのシールドすら粉砕するほどの魔法攻撃を行い、一人のスパルタンⅤを爆殺する。
一人がバラバラにされたが、残り十五名のスパルタンⅤは死すら恐れることなく、マリを殺そうと手にしている火器を撃ってくる。レーザーにロケットランチャーが遠慮なしに離れるが、マリの魔法障壁を破ることは出来なさそうだ。
攻撃が止んだところで、マリは反撃に転じて一人を異次元より取り出した神聖なる槍で貫くが、槍を突き刺されたスパルタンⅤは痛みを感じていない様子で、彼女を抑え込もうと掴み掛って来る。これにマリは嫌気を感じ、振り払おうとする。
「っ!? 離してよ!」
死を恐れず、標的を殺そうとしてくるスパルタンⅤに向け、マリは左手に召還した自動拳銃を至近距離から撃つが、アーマーはシールドが無い状態でも防弾性能を有しており、弾かれるばかりだ。頭部のヘルメットも同様である。
物ともせずに手を伸ばしてくるスパルタンⅤに、今度は自分のバスタードソードをヘルメットに突き刺して完全に息の根を止める。これで後十四名。その瞬間に三名が飛び掛かり、二名がマリの身体を抑えてから両足の骨を蹴り折り、一人が首を掴み、握り殺そうとしてくる。
気付いた瞬間に時間を止めようとしたが、スパルタンⅤが速過ぎて間に合わなかったようだ。
「くっ、かっ…!」
両手両足を二名に抑えられ、更に首を絞められる中、二名が加わって引き抜いたナイフを何度も突き刺してくる。これで何度もマリは殺され、再生を繰り返す。
幾百もの精鋭を殺してきた女を、二名の損害だけで手を封じたスパルタンⅤの戦闘力に、アクスマンは勝利を確信して、彼らにマリを殺し続けるように告げる。
「ははは! いいぞ! その調子だ! その女を殺し続けろっ!! 我々に許しを請うまでな!!」
狂気染みた笑みを浮かべ、殺し続けろと叫ぶアクスマンの指示に応じ、スパルタンⅤ等はマリを殺し続ける。床一面が彼女の血で真っ赤になり、マリが死のうが生き返ろうが関係なしにスパルタンⅤは殺し続ける。アーマーが返り血で真っ赤になっても、標的が完全に屈服するまで殺し続けていた。
殺され続けているマリは、何か言いたそうに自分の首を絞める黒いアーマーのスパルタンⅤを睨み付けるが、ヘルメットで素顔の見えないスパルタンはずっと彼女の華奢な首を絞め続けるだけだ。
この光景を見たエルランは余りにもおぞましい光景であるのか、床に向けて嘔吐していた。縛られているアイリスディーナの方は、何も動じていない。
疲弊したのか、マリを殺していたスパルタンⅤのチームは、まだ血で汚れていないチームが代わり、そのチームが代わりに虚ろな表情を浮かべる血塗れな彼女を抑え、殺し始める。
今度のやり方は残忍であり、呪文や何かをされることを警戒して両手両足をあらぬ方向に折って固定し、更には目にナイフを突き刺したまま、挙句に腹を裂いて内臓を抉り出したが、死なぬように痛覚だけを与え続ける。首は抑えていないので、余りの痛さにマリは絶叫し続ける。
「あぁぁぁ! 痛い! 痛いっ!!」
「おっと、こいつは少しやり過ぎたな。どうだ? これでも我々の負けだと?」
絶叫して泣き始めるマリを見て、少々気が引いたアスクマンであったが、確実に手も足も出ない状態にしたところで勝利を確信し、自分らが負けると言っていたアイリスディーナの髪を掴み、痛がって泣き喚く彼女の姿を見せながら、撤回しろと言わんばかりに告げる。
最大の味方であり、敵にしたくない女があのような状態にされても、アイリスディーナの顔は絶望に染まっていなかった。
「まだだ、まだこんな物ではない…! あれは神その物で不老不死…」
「なに? この期に及んでまだそんな世迷言を! こんなものを付けているから、神様の存在を信じたくなるのだな? そうだろ!」
自分が想像していたのとは違うことを言うので、冷静沈着さが更に欠けたアクスマンはアイリスディーナの頭を床に叩き付け、意識が朦朧としている彼女から、首に掛けている十字架を引き千切り、床に叩き捨てた。
もうマリは戦闘不能どころか、再起不能と断言しても良い状態なので、アクスマンは彼女を抵抗できないようにそのまま固定するように指示を出す。
「まぁ良い、勝ったのは我々だ。もう彼女は我らの手中に入っている。そのまま固定しろ。いささか煩いかもしれんが、この状態がベストだ。これなら抵抗は出来ないはず…なんだ、煩くないぞ。殺したのか?」
あんな状態でどう切り抜けられるわけがない。そう思っているアクスマンはマリの移送をスパルタンⅤに命じたが、彼女が急に静かになったことに気付き、殺したのかと問うた。その直後、マリの腹を掻っ捌いて内臓を引きずり出したスパルタンⅤの様子がおかしくなる。
「うわぁぁぁ!? あの女が! あの女が俺の中に!!」
「どうしたシュヴァルツ13!? 一体何を言っている!?」
シュヴァルツ13と呼ばれたスパルタンⅤに対し、部隊長のスパルタンⅤは何を言っているのかを問うが、そのスパルタンは先と同じ意味の分からないことを言い続ける。
「俺の中に、あの女がいるんだ! 本当に居るんだ! 俺の中に入ってきやがった! 俺を殺そうとしてやがる!!」
「何を言っている? 念のために奴の脈を調べろ。何かの能力かもしれない」
「畜生が! 俺の中から出ていけ! これは俺の身体だぞ!」
「何が起こっている…?」
部隊長が他のスパルタンに動かなくなったマリの脈を調べるように言えば、アクスマンは何が起こっているのか不安になり始める。そんな中、マリに身体を乗っ取られたと喚き散らしているシュヴァルツ13は、ヘルメットを脱いで床に叩き付け、頭を毟りかき始める。
血が出るほどに毟りかくので、止めさせようとするが、シュヴァルツ13は止めない。更にパニックを起こして、ナイフを自分の頭に突き立てて抉ろうとする。
「おい、何をしている!?」
「や、奴を、奴を取り除かないと…! あの女に、そこで死んでいる女に乗っ取られてしまう…!」
「死んでます! また生き返るかも」
「何を言ってる? あの女は死なない。生き返ったって、また苦しむだけだ。おい、生き返ったか?」
「蘇生はまだです」
マリに身体を乗っ取られると喚くシュヴァルツ13のナイフを握る手を抑えつつ、部隊長は生き返ったかどうかを問うが、部下はまだ生き返ってないと答える。
そんな状況が数秒ほど続くと、シュヴァルツ13は突然大人しくなった。ナイフを握る手も緩み、下に垂れ下がる。
「どうした?」
「…こいつの身体でいっか」
「っ!?」
突然しゃべり出したシュヴァルツ13に、部隊長と他のスパルタンⅤは殺気でも感じたのか、直ぐに距離を取って手にしている小火器を撃ち始める。凄まじい弾幕にシュヴァルツ13は原形を留めない挽肉と化し、辺り一面が血で真っ赤に染まった。
「なんだと言うのだ!? 何が起こっている!?」
状況を理解できないアクスマンは問うが、エルランは子供のようにただ震え、アイリスディーナは笑っている。この中で冷静なのは、スパルタンⅤらのみだ。周囲を警戒していれば、女性のスパルタンⅤがマリの死体が突如となく消えていることを知らせた。
「死体がありません!」
「なんだと!? まさか、誰かに憑依を!? 全員、あの女の幻聴が聞こえるか!?」
標的の死体が無い事に気付いた部隊長は、マリの幻聴が聞こえるかどうかを問えば、全員は首を横に振る。これに部隊長は安心して誰にも憑依されていないことが分かれば、スパルタンではないアクスマンやエルラン、アイリスディーナに銃口を向けた。
銃口を向けられたアクスマンは慌て、自分らを疑っているのかを怒鳴る。
「なんのつもりだ!? 私にはお前たちの言う幻聴など聞こえんぞ! 銃を下せ!!」
「我々はその手の類と交戦した経験がある。我々にもその疑いもある。閣下、貴方には彼女の声が聞こえておりますか?」
アクスマンに銃を下ろせと怒鳴られたが、部隊長はそれを無視してエルランにマリの幻聴が聞こえるかどうかを聞いた。だが、既にマリはスパルタンⅤの中に混じっており。数人を目にも止まらぬ速さで殺害し、殺したナイフで部隊長に切り掛かった。
「クソっ! 演技なんぞしやがって!」
気付いた部隊長は左腕でナイフの刃先を受け止め、素早く抜いた拳銃で元部下だった女性スパルタンⅤの頭部を撃って射殺した。頭を撃たれたスパルタンⅤは倒れたが、再び起き上がり、ヘルメットを脱ぎ捨てる。
「ばれた? なに、このアーマー? 重いんだけど」
射殺されたはずのスパルタンⅤの正体は、マリであった。訓練を受けていない彼女にとってミニョルアーマーは大変重苦しいのか、衝撃波を唱えて吹き飛ばし、動き易い服装に魔法で着替える。
「この魔女が!」
共に辛い適正訓練を合格した仲間を散々殺し、挙句に自分に殺させたマリに対し、残りのスパルタンⅤは一斉に殺しにかかったが、マリの召還した武器による攻撃で三名が串刺しにされる。残りはそれを弾きながら接近するも、マリがいつの間にか持っていたバスタードソードで切り裂かれる。
二人が同時に切り裂かれてバラバラの死体となった後、残りはボロボロな部隊長一人であった。
「どうなっている…! これは夢か!? 俺たちは、俺たちスパルタンⅤは、人類で最強なはずだ!! あの訓練は、適性検査は、一体何だったんだ!?」
自分たちは最強となったはず。
なのに、この剣を持った華奢な金髪の女に殺された。例えるなら、主役を強く見せるために殺される敵役のように。そんな悔しさを叫びながら、道連れにしようと余っている手榴弾の安全ピンを抜き、掴み掛って来る部隊長に対し、マリは慈悲の言葉を掛けながら敬意をもって、高価な剣を放った。
「それは間違ってない。あんた等の努力は何も間違ってないし、最強だった。でも、相手が私だから可哀想な結果になった。だから、ごめん。あんた等より強過ぎて…」
マリが慈悲の言葉を言い終えた後、高価な剣、宝剣は部隊長の胸に突き刺さり、彼の息の根を完全に止めた。
「全滅、だと…!? あ、あの怪物クラスのスパルタンⅤが全滅…!? こ、これは…夢ではない! 現実!? 逃げなければ、逃げなければっ!!」
精鋭部隊を全滅させたマリに恐怖したアクスマンは完全に冷静さを失い、恐慌状態となってアイリスディーナを放って何も持たずに逃走した。エルランはまだ生きていて震えるばかりだが、今は脅威ではない。アナが映っている端末にしがみ付こうとしているが。
そんなアクスマンやエルランを無視して、マリはアイリスディーナを解放した。
「感謝する。だが、奴は逃してはならない。銃はあるか?」
拘束を解除したマリに感謝の言葉を述べたアイリスディーナであるが、機会主義者で日和見主義者であるアクスマンを生かしておけば、後ほど厄介なことになると判断してか、彼女は銃を要求する。
「なんで? あんなの…」
「駄目だ。あの男は機会主義者だ。貴様が居無くなれば、私たちに復讐を始める。ここで憂いは経っておかねばならない」
「そっ。まぁ、これだけやられたら殺したくなる気持ちもあるけど。返り討ちにはならないでね」
「あんなのに殺されるほど、私はか弱くはない」
この要求にマリはCz75自動拳銃を出し、弾も渡してからアイリスディーナは弾倉を本体に装填した。それからマリに死なないように釘を刺されてから、安全装置を解除して、逃げるアクスマンを追跡する。
救出対象がアクスマンを追跡する中、マリは端末に縋り付いて、画面に映る人物に助けを請うエルランを踏み付けて端末を取り上げ、今謝るなら殺さないと告げる。
「あんた、ルリちゃんを殺すとか言ってるけど。もうあんたより先に会えるから、あの時の殺すって話は無しにして謝るなら許すわ。でも、私にこんな目に遭わせた代償は高いわ。全国ネットで裸になってオナニーするなら許してあげるけど?」
要求された屈辱的な謝罪方法に、アナは応じることもなければ怒ることもなく、いつもの無表情を浮かべ、状況を理解しているのかを問う。
『状況を理解しているのか? 不利なのは貴様の方だぞ。海兵隊員や機動歩兵、スパルタンⅤを倒したようだが、そこには四百万余りの兵力がある。圧倒的な力をお前が見せ付ければ兵は怯もうが、そこの地球ごと消滅させられると言うことも忘れているようだな』
確かにまだ連邦軍の方が圧倒的だ。いくらマリとは言え、四百万の大兵力を相手では勝てる見込みはない。物量の波に圧され、こちらが疲弊して捕らわれるのが落ちだろう。
考えれば直ぐに分かる。マリも現状の兵力では、どうにも出来ないと分かっていた。
何も言い返せず、マリは何らかの奇跡を待っていれば、アウトサイダーが見兼ねたのか、あるいは偶然にも連邦軍と敵対する惑星同盟軍やワルキューレか、連邦軍の領内に大規模攻勢でも仕掛けたのか、受話器を取って報告を聞いたアナが、一瞬だけ苛立った表情を見せた。
『運が良いな。たった今、我が軍の領域内に惑星同盟軍の大規模攻勢が開始された。予備戦力は貴様一人に差し向けた戦力が最適だそうだと、連邦一の参謀が参謀本部を辞表で突き付けて脅している。その人材を失うわけにはいかない。よって、貴様のいる世界から我が軍は一兵残らず撤退する。惑星同盟軍に感謝しておけ』
同盟軍が連邦軍を圧倒するほどの攻勢なので、マリを捕えるために動員した四百万が最適だと、アナは敵である彼女に告げた。更に連邦一の参謀が参謀本部を脅しているので、アナは応じる他なく、攻勢を仕掛けた同盟軍に感謝しろと言う。
これにマリは表情を崩すことなく、自分が勝ったと確信した。
「そう、じゃあ私の勝ちね。精々、敵に奪われないように頑張ることね」
『今は勝利を譲ろう。だが、次は貴様の負けだ』
「あ、あの、アナ様。わ、私は…?」
『お前か。忘れていた』
次は負けないと宣言した後、エルランが自分は助かるのかと聞いて来たので、アナは思い出したかのように告げた。
『貴様は同盟軍との大規模な戦闘で戦死した。喜べ、晴れて皆に慕われる英雄だ。同盟軍の攻勢を片付ければ、国葬を行う。感謝せよ』
「そ、そんな…! わ、私は…! 私は貴方様に…!!」
『私の利権に縋り付くためだろう。いい加減くどいぞ。軍人らしく、自らの命を絶つが良い。さすれば、本物の英雄として祭ってやろう』
事実上の首宣言と死ねとの命令に、エルランは怒りを感じて隠していた本音を言おうとしたが、念力でも受けたのか、頭が破裂するような激痛を感じて苦しみ始める。
「ひ、酷い! 酷過ぎる! 俺はお前のような奴…や、や、止めてくれ! 頭が! 頭が爆発しそうだっ!!」
『貴様の言いたいことは分かる。私を利用し、権力を思いのままにしようとしたのだろう。最初から分かり切っていたことだ。それと私はお前に死ねと言った。主の命令を聞くのが、僕としての責務であろう。改めて命ずる。死せよ、エルラン』
「い、嫌だ! 死にたくない!! 嫌だ! 嫌ダァァァ!!」
最初から狙いが分かっていたと明かすアナは、エルランに改めて死ねと命じれば、彼は悶え苦しみ、泣きじゃくりながら頭部が破裂して死亡した。
これを間近で見ていたマリは飛び散って来る血を躱し、不出来な部下を始末する自分に酔ってかと、アナに問う。
「あんた、自分に酔ってる?」
『酔ってなどいない。ただ不純物を始末しただけだ。では、次は貴様が負けた時に』
「あんたの方がね」
この挑発的な問いに、前々から鬱陶しい奴を排除しただけだと答えれば、アナは通信を切った。最後に言ったアナの言葉に、負けるのはお前だと言う返しを言った後、緊張が解れたのか、思わず床に尻もちをつく。
ここで連邦軍が退いてくれなければ、マリは完全に積みであった。運よく勝てたことに、マリは全く信じていない運命の女神に感謝する。
「はぁ、運命の女神さまに感謝しないと。さて、カギを追わないと」
何処からともなく出した熱いコーヒーを一口飲み、アクスマンの追跡を行うアイリスディーナの後を追った。
「ま、待て! 私も君の同志となろう! 私には西側とのコネがある! 私が居れば、君たちは西側に有利になれるぞ!!」
アイリスディーナはそんなに遠くへは行っておらず、外に居て両足を撃って倒れているアクスマンを追い詰めていた。アクスマンは自分が価値のある人間で、ベルリン派としての西側とのコネを駆使し、自分を生かして仲間にすれば役に立つと訴えているが、彼女が握る拳銃の銃口をずっと彼を狙ったままだ。
いつでも撃てるように引き金に指を掛けており、いつ撃ってもおかしくはない。それを遠目で見ていたマリは、もう自分が助けることもないと思い、その様子を座ってコーヒーを啜りながら眺めていた。
「どうだね、私の有効価値は? 生かしておく価値はあるだろう? さぁ、銃口を下ろして私を君の同志にしたまえ」
改めて自分は価値のある人間だと言うアクスマンに、アイリスディーナは向けている銃口を離した。
「そうだ、君は正しい選択をした。そうだと思っていたよ、あの時に兄を撃った時と同じように。君は優秀な人間だ」
銃口を下げたアイリスディーナにアクスマンは感謝したが、彼女は端から生かすつもりはなかった。身内殺しを褒める彼に怒りを覚え、生かしておいては危険な男に殺意は更に増し、これ以上喋られる前に、眉間に狙いをつけて引き金を引いた。
「何を!?」
「影響のある危険な人間は、生かしておいては、後に禍根を残し、厄介なことになる。そう言っていたのは貴方だ、同志アクスマン」
銃口を向けられて驚いた表情を見せるアクスマンであったが、既に引き金は引かれた後であり、銃声が響いて数秒後に彼の眉間に穴が開いていた。眉間を打ち抜かれたアクスマンはその表情のまま即死し、冷たい雪原の上に倒れた。
物言わぬ死体となったアクスマンに対し、アイリスディーナは兄を撃つ前に彼から聞いた言葉を告げる。アクスマンは自らが危険な人間でなったことに、気付かなかったようだ。
それと同時に、この世界に展開していた連邦軍の大部隊が一斉に撤退を開始したのが見える。凄まじい数だ。空を埋め尽くすくらいの軍艦が、一斉に宇宙へと飛び立っているのだから。あんな物量と真正面からぶつかった自分らに、マリは撤退してくれて良かったと思う。
「凄い物量だ、欲しいな」
上空を埋め尽くすくらいの物量に、軍人であるアイリスディーナは欲しいと口にする。
あれほどの物量があれば、BETAの大攻勢を退けられ、それに奪還にもお釣りがくるほどで、ハイブの攻撃も可能になる。
「私はいらないけど」
「士官学校に通っていれば、喉から手が出るほど欲しいと思うはずだが」
「もう軍人じゃないし」
あの物量をいらないと切り捨てるマリに、アイリスディーナは圧倒的な物量は軍人、それも将校なら欲しい物であると言うが、彼女は理解せず、コーヒーの入ったカップを渡す。
これを手に取ったアイリスディーナは飲んで冷えた身体を温める中、マリは疲れ切ったのか、彼女の身体に抱き着いた。
「なんだ?」
「疲れた。あんた一人助けるために、どんだけ私が苦労したと思ってるのよ?」
「お前一人だけじゃないはずだが。では、みんなの元に帰ろうか」
「うん」
抱き着いて疲れたと言うマリに、自分の身体に抱き着かれているアイリスディーナはみんなも疲れているはずだと告げる。確かに皆はアイリスディーナ救出をマリに任せ、あの撤退している連邦軍の大部隊を引き付けてくれた。その疲労は不老不死のマリの比ではないだろう。
そんな彼らに自分が生きていることを知らせるために帰ろうと言えば、マリは同意してアイリスディーナと共に仲間たちの元へ帰った。