シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ   作:ダス・ライヒ

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1979年のポーランドへ 後編

 原因は不明だが、何の前触れも無く発生した次元震による災害でマリ一行を含め、殆どの者達が何処かの次元へと飛ばされた。

 飛ばされなかった者達は様々な特異災害で死亡するか、重傷を負っていた。

 同盟軍の大艦隊は特に被害が大きかったようで、まだ健在の艦艇は沈みゆく宇宙戦闘艦より乗員や負傷者の救助で手一杯だ。

 敵対する連邦軍やメイソン騎士団も同様であり、まだ生きている者の救助ほかに術は無かった。

 

「隊長、本艦の損害は中破程度。戦闘は可能ですが、撃沈は覚悟を…!」

 

 小さな火災が発生し、負傷者がうめき声を上げる戦艦モーリックの艦橋にて、艦長より報告を受けたレバンテスは、額より溢れ出る血を抑えながら周りの状況を見て戦えないと判断した。

 自分の知恵袋とも言える副官は、自分を庇った所為で重傷で担架に載せられて医務室へ運ばれており、屈強なる騎士たちの中に戦える者は数えるばかり。それに発進した機動兵器部隊に搭乗した騎士たちの半数以上が帰ってきていない。

 次々と来る報告でそれを知っていたレバンテスは、自分の身と部下たちの為、まだ健在な四隻のうちの二隻のハーフビーク級戦艦だけを残して後は撤退との指示を出す。

 

「ふん、貴様の希望通り、ここは退いてやろう。だが、まだ健在なロドリゲス、アコースはここに残れ。交戦は向こうが仕掛けてこぬ限りしなくて良い。先行して降ろした捕縛隊の回収の為だ。我がモーリック号は、他の艦艇と共に本部へ撤退だ。航行不能な船は放棄せよ。残る二隻はその護衛だ。致し方ないが、救援は出来る限り頼め…! ぐっ…!」

 

「はっ、ロドリゲスとアコースにはそう伝えます。隊長殿も医務室へ。出血が激しいでございます」

 

 撤退を決めたレバンテスの指示に従い、軽傷でもまだ動ける部下たちは命令を実行に移した。

 血を流し過ぎたのか、レバンテスは気を失い掛けていた為、彼もまた医務室へと運ばれた。

 マリとルリの捕縛も兼ねた捕縛隊は、まだ戦闘可能で健在である二隻のハーフビーク級戦艦を残して撤退した。

 副官の提案か、既に1979年の地球、ルリ一行が居ると思われるポーランドに十数人の騎士を降下させていたのだ。

 今ごろは彼らが勇者ルリ一行と交戦を始めているのだろうかと、レバンテスは医務室に運ばれながら思った。

 

 

 

「ここは…?」

 

 一方、次元震に巻き込まれ、何処か違う次元と飛ばされたマリは、見覚えのある草原で目を覚ました。どうやらここで横になって眠っていたようだ。

 

「あっ、ルリちゃん!」

 

 横になっていたマリは、自分の隣で寝ていたルリに気付き、無邪気な少女のような表情を浮かべながら抱き起そうとした。

 今までルリを探し回っていたことが、夢であったと思ったのだろう。だが、その愛しい美少女は血だらけの屍へと変貌する。

 

「えっ、なに…これ…!?」

 

 自分に取って愛おしく、全てであった美少女は、絶望的な表情を浮かべながら息絶えていた。身体中は惨たらしく何度も撃たれるか斬り付けられるかして、肉塊とも言うべき程、痛々しい傷が目立っている。

 そんな美少女の遺体を見たマリは、手を震わせ、表情を抱いている少女と同じような絶望的な表情を浮かべて茫然とする。

 更に追い打ちを掛ける様に、マリが寝そべっていた筈の草原は突如となく屍の山へと変貌した。辺り一面が血の海であり、彼女もまた血塗れであった。

 立て続けに起こったおぞましい状況に、マリは普通の女性と同じく悲鳴を上げる。

 

「いやぁぁぁ!? どうなってるの!? 何よこれ!?」

 

 この光景は並の人間、それも普通の女性、男性でも失神してもおかしくない物だ。何度も経験済みなのか、マリは何とか理性を保つことが出来た。だが、混乱はしている。

 恐怖を感じて震えるマリに向け、何所からともなく巨大な顔が現れて声を掛ける。

 

『それは貴様が殺して来た者達だ…!』

 

「っ!?」

 

 動かぬ美少女の死体を抱きつつ震える彼女は、その巨大な顔を見た。

 今度は何が起きるのかと年相応の女性らしく恐怖でマリが震える中、巨大な顔の人物は彼女に語り掛ける。

 

『我はリガン、リガン・ゾア・ペン・ムガル。現ネオ・ムガルの皇帝である。貴様の帝国が焼いた国の一つ、ムガル帝国の皇子だ。もっとも、貴様は覚えては無いようだがな』

 

 その巨大な顔は自然とあのネオ・ムガルの首領、リガンの物へと変わる。だが、全身は無く、真っ赤に光る不気味な顔だけだ。それが余計にマリに恐怖を与える。

 

「ムガル? そんなつまらないのが何の用よ?」

 

『つまらんとは、まぁよい。神殺しの大罪人であり、数千億もの人々を殺したにも関わらず、何も知らぬふりをして能天気に暮らす俗物である貴様如きが、我が崇高なる帝国の偉大さは理解できまい』

 

 リガンの野望をつまらない物と表したマリに対し、彼は激昂することなく、彼女が建国した帝国の蛮行を咎める。

 事実、マリのリガンが咎めた神聖百合帝国の建国者であり、建国地に住んでいた女性だけの種族、イブ人を使って武力を持って世界征服を成し遂げ、世界を自分の思い通りの物へと作り替えた。

 その際、彼女は神をも恐れぬ所業、一つの世界より性別、男性を全て消し去ると言う物を行った。理由は世界を平和にするためだが、取って付けたような物であり、単に自分が思い通りの世界にするためである。

 同時に全ての女性を解放したと言う善意もあった。今もあれは正しかったとマリは思っているが、内心、本当は正しかったかどうか今も悩んでいる。

 当然、父親、夫、息子、恋人をそんな理由で殺された女たちより罵声と石を投げ付けられた。

 自分の考えを理解しなかった女たちに対しマリは感情的に激怒し、人間の血を絶やす為にイブ人に全ての女性に組織的レイプを行わせ、半世紀以上を掛けて世界を完全にイブ人の物とした。

 

 だが、流石に全ての男を消し去ることなど、何らかの病気が無い限り不可能だ。

 残った男達は側近たちが複数の女性らと共に生態観察並び、軍の将兵を怠けさせないためと兵器実験の為に、裏世界と呼ばれる特殊な空間へと送られた。

 流石にこちらがやられては元も子もないため、決して神聖百合帝国軍が負けないように、技術レベルを低めにして、演習気分で彼らを全滅しない程度で殺し続けた。

 

 不老不死なマリが無期限である政務をノイローゼで続けられなくなって完全に身を引いた際は、右腕であり総統であるブラウンシュバイクが帝国の全権を引き継いだ。

 全権を引き継いだブラウンシュバイクは、直ちに密かに進めていた己の野望を果たすべく、異世界への侵攻を始めた。彼女はずっとマリがノイローゼになり、政務から身を引いてお飾りの皇帝になることを待っていたのだ。

 

 その後、神聖百合帝国は崩壊、理由は全く不明である。マリもただ元女帝と言う肩書のみとなった。

 総統であるブラウンシュバイクは、陸軍一個軍集団分と海軍二個艦隊、空軍二個軍、自身の私兵状態の精鋭一個軍団をワルキューレに献上し、将軍の地位を得た。

 

『私は貴様のような己の都合のよいだけの世界は作らん。強者が支配者として君臨し、武力と圧制による恒久平和を実現しようと言うのだ。弱者は強者の庇護の下で支配され、常に従う宿命であり、強者は弱者を常に支配し、庇護せねばならぬ宿命であるのだ。分かるか?』

 

「なんかムカつくわね! 私はあんたみたいな奴らから女の子を守るためにやったの! あんたの理屈は反吐が出るわ!」

 

 話を戻し、リガンは強者こそが世界と弱者を支配する宿命にあると説くが、マリはそのような者達から全女性の解放、本音は復讐であり、殲滅してこその安心する為の物であると反論する。

 しかし弱者を支配し、好き勝手して良いなんて、マリは心にも思ったことは無い。何故ならかつて自分も強者に支配され、屈辱的な日々を送って来たからだ。

 相手の気持ちをある程度は理解できるマリであるから、自分が受けた屈辱を相手にやろうとは思っていない。

 目前のデカい顔の奴は、自分のような目に遭ったことが無く、自分の事を生まれながらの支配者だと思っているとマリは判断し、更に挑発を仕掛ける。

 

「大体なに? 強者は弱者を常に支配する宿命ですって? 笑わせるわ。寄生虫が怖くないのかしら? あぁ、もう崩壊しちゃってたんだ」

 

 このマリの挑発に対し、リガンは乗ることなく、彼女の足元にある大量の死体に見覚えがあるかどうかを問う。

 

『そのようなちゃちな挑発には乗らんわ。それより、貴様の足元にある大量の死体、どれも見覚えがるとは言わせんぞ。その中には、我がムガルの民や兵もおる。そして貴様が死ねと命じた者達も、後悔も…!』

 

「何人殺したか覚えてないわ。絶対に…絶対に…」

 

 リガンに問われたマリは強がって覚えていないと言うが、巨大な顔の言う通り、足元の大量の死体の中に、自分が死ねと命じて死んだ者達や殺したことを後悔した死体があった。

 その中より、もっとも自分が殺したことを後悔した人物や死ねと命じた者達が這い上がり、おぼつかない足でマリに向けて問い掛けて来る。

 

『どうして…どうして君はこんなことを…? 君は、そんなことをする娘じゃなかったのに…本当は心の優しい娘なのに、どうして僕たちを…?』

 

『あんたの、あんたの無茶な命令で俺たちは…! 俺たちは…!!』

 

 近付いてくる身体の一部が欠けた者や顔に生気の無い血塗れの者達に対し、マリは怯えてルリの遺体を抱きながら後退り始める。

 だが、動こうとした瞬間に足元の大量の死体の手に捕らわれ、バランスを崩して転んでしまう。それと同時にルリの遺体まで手放してしまう。

 

『どうやら覚えているようだな。その者達はお前が殺めた者達だ、お前の命で死んだ者達も含まれている。ここから逃げることは出来んぞ』

 

 無数の手で拘束され、身動きが取れない中、マリが殺したことを後悔した人物や自分の無茶な命令で死んだ者達が迫って来る。

 必死に身体を動かすが、無数の手は彼女の身体は何かに固定されたように動かない。

 

「いやぁぁぁ! 来るなぁぁぁ!!」

 

 迫る彼らに対し、マリは悲鳴を上げ、泣きじゃくって拘束を解こうとするが、拘束は全く解けない。

 

『マリ…どうして…? どうして僕たちを…』

 

「いや、いやぁ…! 止めて! 私に触らないでぇ! あぁぁぁ!!」

 

 一人の男がマリに触れようとした瞬間、彼女の視界は真っ暗になった。

 

 

 

「なんだ!? 急に暴れ出したぞ!」

 

「抑えて!」

 

「鎮静剤だ! 直ぐに持って来い!」

 

 数時間後、次元震に呑まれたマリ一行は、1979年の地球の衛星軌道上を漂っていた。

 だが、この地球は少しおかしい。ところどころに草木が一本も生えていない荒野が点々としている。その地域の中央に位置する場所には、何か不気味な物が立っている。

 それはさておき、老人のプラント機能を有する大型宇宙船「フランケンシュタイン」号の船内の医務室にて、回収されて寝台に寝かされていたマリは、悪夢に魘されて暴れていた。

 隣で次元震の影響を受けて頭をぶつけてたん瘤を冷やしていたジークフリートは驚き、近くに居る女性の医師にそのことを知らせる。

 直ぐに医師は抑えるように言えば、左腕を骨折して固定していたジグムントは、鎮静剤を持ってくるように近くに居る者に伝える。

 

「いやぁぁぁ! 来ないでぇ!」

 

「こう魘されるなんて、一体どんな悪夢を見てんだ!?」

 

「そんな物は知らん! とにかく魔法なんぞを使う前に落ち着かせなきゃならん!」

 

 暴れるマリを抑えながら、ジークフリートが一体どんな悪夢を見ているんだと言えば、片腕で彼女を抑えているジグムントは、悪夢に魘される余り船を沈ませかねない魔法を使う前に、鎮静剤を打つ必要があると答える。

 ようやく鎮静剤を持った医師が来れば、左腕の中央に鎮静剤を打ち込み、マリを落ち着かせた。

 

「ふぅ~、ようやく落ち着いたぜ。起きたら、どんな夢を見たかみんなで聞こうぜ」

 

「デリカシーの無い奴だ」

 

 マリが落ち着いて静かになったのを確認すれば、ジークフリートは彼女がどんな悪夢を見たのかを聞こうと、信じられないことを口にした。

 流石に悪い冗談なので、ジグムントは医務室から出て行く。

 十分に瘤が退いたのを確認したジークフリートが医務室から出た後で、マリは悪夢から目覚めた。

 

「ここは…?」

 

「気が付いたか?」

 

「人を辞めても、悪夢は見るのね」

 

 目覚める頃合いだと思ったミカルとリンダは、マリに向けて何気ない言葉を掛ける。

 何所だと思って周囲を見渡すマリに対し、ミカルはフランケンシュタイン号の医務室であると答える。

 

「医務室だ。次元震に巻き込まれた君は、VF-31のコックピット内で気を失っていた。奇跡と言っても過言じゃないね、普通なら、行方不明か二度と戻ってこられないかもしれない」

 

「本当にそうだわ。運が良いのか悪いのか、私、死んじゃったかと思ってドキドキしちゃった」

 

 場所を答えた後、あの不老不死でも死ぬような状況で生き延びたマリの運の良さに、二人は驚きの声を上げる。リンダは本気でマリが死んだと思って心配したと語る。

 そんな二人にマリは、不老不死になれたのは持ち前の運の良さであったと語り始める。

 

「えぇ。自慢じゃないけど、私、この運の良さで不老不死になれたの。確率なんて凄く低くて、怪物になっちゃうかと思ったけど。この美しい姿になった挙句に、不老不死になれるなんて、本当に運を使い果たしたと思った。でも、結構な目に遭ったけど、運は私を見放さなかった」

 

 自慢げに語るマリに対し、ミカルは彼女が気付かない失った物を告げる。

 

「外面は美しく、永遠の若さと不死を得た。だが、気付いていないことがあるね。それは人の心だよ。周りから言われてないかい?」

 

「…」

 

「図星の様だね。外面は良いが、中身は怪物さ」

 

 人の心を失ったとミカルが言えば、マリは黙り込んだ。

 実際、彼女は不老不死と永遠の美しさを得た後、肩が外れて性格も次第に残忍になっていった。

 自分も怖いほどに欲望に忠実と化し、気が付けば自分が憎んで皆殺しにした者達と同様な物となっていた。それをミカルに指摘されたマリは殺意が湧いたが、ここで彼を殺せば、自分が怪物であることを証明するので、黙ったまま彼を見る。

 

「鏡は心までは映さない。他人から見れば絶世の美女と見えるだろうが、本心を見ればどうなるか…がっ、怪物の君でもわずかながらの良心は残っている。残っているそれを忘れないことさ。忘れれば、君は本物の怪物、いや、悪魔となる」

 

 そんなマリに対し、ミカルは良心が残っていることも見抜き、それを忘れないようにと彼女に告げてから医務室を後にした。

 

「全く、あれで良くファンだなんて言えたもんね…ごめんね、あんな性格で」

 

「良いよ、全部あったってるし…それより、地球を見に行くわ」

 

 言いたいことだけ言って出て行ったミカルの代わりにリンダが謝る中、全て合っているマリは気にしなくて良いと答え、寝台から起き上がって医務室を出た。

 廊下に出て窓を覗けば、自分が目指していた1979年の地球とは違う所々が荒れた地球が見える。それに共に次元震に巻き込また衝撃で、地球へと落下していく連邦や同盟双方の艦艇の残骸が見える。中には、まだ健在の物まであったが、今のマリには関係無かった。

 

「マリ、直ぐに格納庫まで来て。ジグムントが呼んでいる」

 

「っ?」

 

 地球へ落ちて行く軍艦を眺める中、ジークリンデにジグムントが呼んでいると言われ、気になったマリは格納庫へと向かった。

 フランケンシュタイン号の格納庫は広く、様々な機動兵器が組み立てられ、組み立てられた機動兵器は別の場所に駐機されていた。マリが乗っていたVFー31Fジークフリートは、次元震でダメージを受けたのか、ロボットやコヴナントで整備として使われているエンジニアの手で整備作業が行われている。

 向こうの1979年の地球へ降下するつもりなのか、降下艇の前に自分が従えた数十名の英霊と、主翼の上に立っているジグムントの姿が見えた。

 

「よし、来たな。では、我々が降りようとしている地球の状況を説明する」

 

 マリが来たのを確認すれば、ジグムントはこれから降下艇で降りようとする1979年の地球の状況を説明した。

 その地球は忠実とは違う別の1979年の地球であり、異星人による攻撃を受け続けている状況だ。しかもこの時代の地球の科学力は、冷戦期の二十世紀代にしてはやや高過ぎる。

 五十年代にして宇宙にまで進出し、挙句の果てに月に基地を構える程の科学力だ。

だが、それも1967年の月面で行われた人類初の敵性異星人による会戦で終わりを告げる。

 敵性異星人は人類に敵対的な地球外起源生命体、それぞれの頭文字を取って略称はBETAだ。物量で勝り、無限とも思える繁殖力で人類軍を圧倒。人類軍は苦戦を強いられる。

 月面で人類軍が決死の抵抗を行う中、最初のBETAとの会戦から六年後にBETAの降下ユニットが地球の中国へ落下。地球上でBETAとの戦闘が始まる中、人類軍は地球防衛のために月面基地を放棄し、地球へと完全撤退した。月は完全にBETAの支配下となる。

 しかし、東西冷戦により人類の足並みは揃わず、地球でも人類は苦戦を強いられる。

 この時、BETAに光線級と呼ばれる亜種が出現し、従来の航空機は無力化され、密かに開発していた人型機動兵器、戦術歩行戦闘機、略称「戦術機」を代わりに投入。以降、戦術機が主力となる。

 それでも、BETAの猛威は抑えられず、各地で撤退戦が行われる。遅滞戦闘のおかげか、辛うじて持ち堪えていた。

 マリ一行が目指している1979年のポーランドも、一年前に行われたNATO軍とワルシャワ条約機構軍の連合軍による大規模反攻作戦の失敗後にも関わらず持ち堪えているが、既にBETAの大規模侵攻を受け、西部地方は完全に沈黙し、残る東部地方もいつ陥落してもおかしくない状況だ。

 事前に飛ばした無人偵察機が盗聴した情報によれば、前線での弾薬供給は殆ど間に合っていないらしい。西側も追加の派兵を行っているようだが、焼け石に水のような状況だ。

 

「西と東の両軍による二方面からの大規模反攻作戦は、BETAと呼ばれるインベーダーの階級構成、ならびハイブと呼称される巣の構造を知った程度の成果で終わっている。損害は我がドイツ陸軍の第6軍の三倍かそれ以上だ。かなり消耗の所為か、ポーランド軍は瓦解寸前だ。急いでいるか居ないかの標的を探さねばならん。目玉の化け物による高速対空レーザーに怯えながらな」

 

 状況を目前の一同に説明した後、ジグムントはマリに視線を向けながら危険な場所で、居るかどうか分からないルリ探しをしなくてはならないと皮肉を漏らす。

 更にジグムントは、ポーランドの状況を説明する。

 

「言っておくが、原住民とは接触するな。彼らは飢えている。訳は疎開と食料供給が満足に出来てない。ポーランド軍も頼みのソ連軍に見捨てられた挙句、物資不足に悩まされ、BETAのスチームロラーが起こる度に戦線が縮小している。軍の将兵も食料不足で飢えているぞ。一部では住人から食料の略奪が発生している。兵士とも接触するな。それと連邦軍か同盟軍の船が何隻かあの地球へ落ちている。これも出来る限り接触するな。やもえない場合は交戦を許可する。このルールが守れる奴は、志願していい」

 

 ジグムントが住人とポーランド軍の将兵とは接触しないように告げれば、数名が集まりから離れた。それに連邦軍と同盟軍の存在をチラつかせると、装備の関係上で叶わないと判断して離れる。

 離れなかった者達が志願者と言う訳だ。マリはルリが居る可能性がある限り、地球へと降りるつもりだ。

 

「ふむ、残ったのは、イーディ・ネルソン、ホーマー・ピエローニ、ヤン・ウォーカー、リィン、スージー・エヴァンス、マリーナ・ウルフスタイン…自称イーディ分隊の面々か」

 

「ずっと宇宙に浮かぶ鉄の船の中に居るなんて、お肌に悪いですから志願してあげたのですわ。それに自称は余計ですわ。わたくし、これでも彼らを率いて大多数の敵を相手に奮戦しましてよ」

 

「目を見れば嘘ではないと分かるが、除隊時の階級は上等兵だが…まぁ、臨時の分隊長としては上出来な戦果だな」

 

「ふふ、褒めても何も出ませんわよ」

 

 イーディと呼ばれた少女に対し、ジグムントは軽く褒めれば、彼女は満更でもない様子を見せた。自意識過剰なのがネックと言った所だろう。

 

「他にレンプランド三姉妹、カリサ・コンツェン、ノエル・アンダーソン、ユウキ・ナカサト、カミーユ・デニス…あぁ、今更だが、こうも何で女子供ばかりなんだ。ヴァセレート、男手は必要なことは分かっている筈だ。なぜこうも感情を優先する? 前の鉄華団を再び使役すれば良い物を。それでは、見付かる物も見付からんぞ」

 

「何を選ぼうが私の勝手じゃない」

 

「ジグムント、俺たちのボスに意見しても、決めるのはボスだぜ?」

 

「分かっている。次回からは、我々が苦労しないように頼む」

 

 残っている面々、つまり地上へ降りる志願者たちの名前を読み上げて行く中、ジグムントは危険地帯の調査に置いて必要な男手が少ない事を嘆いたが、マリは自分の感情を優先して聞き入れなかった。

 ジークフリートも選ぶのは自分のマスター次第と言えば、ジグムントは諦め、次からは頼むと言って今は我慢した。

 

「さて、我らのマスターがリーダーではいささか不安だ。ジークリンデにリーダーになってもらう。左腕を骨折した私とジークフリートは居残りだ」

 

「えぇぇぇ!? オレッチも行きてぇよォ~! 地球の空気を吸いてぇよォ~!!」

 

 降りるメンバーはマスターであるマリを初め、ジークリンデを隊長とした降下艇のパイロットを含め十四名と共に地球へ降りることになった。

 地球へ向かう降下するメンバーの中に、自分が含まれていないことをジークフリートが言えば、ジグムントはもっともらしい答えを出して納得させる。

 

「黙れ、俺は左腕が使えん。それにここは宇宙だ。地上ではほぼ無敵同然であるが、宇宙空間では並の人間と変わらない。お前まで行かれては、戦力が大きく低下する」

 

「確かにそうだけどよ、男手が必要なのはお前さんだぜ? 降りるお嬢さん方には、この俺様がついてなくちゃ…」

 

「ジークリンデ一人で十分だ。前世では、戦闘の影響で彼女は満足に行動が出来なくなるくらい疲弊したが、再び蘇った今ではほぼ無敵に近い。それに過剰と言えるが、ジム・コマンド一機をパイロット共に付けた。これ以上の戦力投入は、ここを疎かにする。お前も軍人なら、分かるだろう」

 

「まぁ、ここを疎かにするなんてのは、俺でも分かってることだ。だがよ、なんでジム・コマンドだ? 別に過剰でもねぇし、この地球の戦術機よりも性能は毛が生えた程度じゃねぇか。なんでガンダムタイプじゃねぇんだ? ここにあるガンダムなら、BETAなんて言うブサイクな化け物共なんてイチコロだろう」

 

 自分たちナチスが生み出した最強の超人兵士三人の内、ジークリンデで十分であり、それ以上は過剰であると答えたジグムントであるが、ジークフリートはまだ食い下がらず、なんでガンダムタイプを持って行こうとしないのかを問う。

 

「今度はそれか。良いか? 過剰な性能の機体では、現地の軍の関心を引くことになる。それに我々が力を見せびらかせば、この地球の指導者たちは何が何でも我々の所有する兵器を奪いに来るだろう。鹵獲し、研究すれば、忌まわしきBETAから地球を取り戻す強力な兵器が手に入る。後はお前でも分かるはずだ」

 

 その問いに対し、ジグムントは余計ないざこざを生むと言って使わないと答えた。

 

「うっ、政治とか、国際問題とかの小難しい話はちと理解に苦しむが、俺が指導者なら、その力は欲しいとは思うぜ」

 

「そうだな。例えば、我々がこの地球を英雄気取りの為に救うために来たとしよう。あの星に居る者達は、最初の頃は感謝の意を込めるだろう。だが、あの星は統一などされていない。多数の思想で溢れた国家で満たされている。我々があの地球を救ったとしても、奴らは礼を言うか? いや、奪いに来る。自国の国益を優先してな。そして人間同士の戦争に逆戻りだ。我々が新たな火種になる可能性がある。良く覚えておくことだ」

 

「そっ。馬鹿な妄想は止めなさい。人助けに介入したら、余計にややこしくするだけよ」

 

 ジークフリートはジグムントの最悪の予想を理解すれば、彼は例え話を持ち込んだ。

 善意で強い力を持って地球を救おうとしても、果たして国家間は感謝するだろうか?

 否、その力を自国の物とし、軍事的かつ国際的に優位に立とうとして奪いに来るだろう。例え世界を救ったとしても、力を持つ自分等が新たな世界の火種となりかねないのだ。

 それを理解していたマリが言えば、ジークフリートはどうすれば良いか悩み始めた。ジグムントの方は、高い知性を持ちながらいつも感情を優先させるマリが、もっともらしい事を口にしたことに驚いている。

 

「まさか感情を優先するヴァセレートが、知性を優先するとは…」

 

 そんな驚きの声を上げるジグムントを他所に、マリは降下艇の近くにファイター形態で駐機されていたVF-1Sバルキリーに乗り始めた。

 航空機をほぼ無力化できてしまうレーザー級が居るあの地球へ、バルキリーのような航空兵器を使う事をジグムントは考えていない。直ちに止めようとする。

 

「待て、バルキリーは機動兵器の一種とは言え、戦闘機だ。みすみすレーザー級の的になりに行くのか?」

 

「大丈夫よ。私は落ちない」

 

「そう言う問題では…! くっ、やはり感情を優先させたか」

 

 これにマリはジグムントの忠告は聞かず、先にバルキリーで地球へと降下しようとした。

 発進ゲートへ彼女がバルキリーを進める中、ジグムントは降下艇にジム・コマンドと志願者を乗り込ませるようにジークリンデに指示を飛ばす。

 

「あのじゃじゃ馬の護衛を頼むぞ、ジークリンデ!」

 

「ヤヴォール! 全く、とんでもないマスターだわ。さぁ、みんな乗って!」

 

 指示に応じたジークリンデは皮肉を漏らしつつも、降下艇に志願者等を乗せ、全員が乗り込んだ後から自分も乗り込んだ。

 見送ろうとするジグムントと隣に、フランケンシュタイン号の船長が隣に立つ。

 

「お嬢さん方は、あの化け物共が闊歩する地球へ行くのかね?」

 

「あぁ、ご老体。フロイライン方はピクニックに向かうようで。で、そちらは?」

 

「なに、修理パーツなんぞそこら中に浮いておる。一時間もすれば完璧よ」

 

 マリ達が何所へ行くのかを船長が問う中、ジグムントは冗談を交えて答え、その後にフランケンシュタイン号の修理状況を問う。

 これに船長は、周辺宙域のそこらにある連邦や同盟の宇宙艦艇の残骸を使えば、あっと言う間に直ると答えた。

 確かにスペアパーツになりそうな物は腐るほど宇宙に漂っている。通常なら規格が合わなければならないが、フランケンシュタイン号はそれら全てをスペアパーツとして使える機能を持つ奇怪な宇宙船だ。

 名前の由来であるフランケンシュタインも、多数の死体を縫い合わせて作られた創造上の怪物だ。

 元々、この宇宙船は多数の船の残骸を組み合わせて造船された。まさに名前の通りの船である。武装も軍艦の残骸の物を使っている。いささか残骸を組み合わせたことに問題はあるが、船長は宇宙船関連の造船業に携わっていたようで、今日も難なく航行し、破損した個所を別の宇宙船の残骸で修繕している。

 

「さぁて、見送りが終わったら修理せんとな」

 

「是非ともそうしてください。我々は敵残党の警戒に当たります」

 

 どうやら船長もマリ達の見送りに来たようだ。

 ジグムントは見送りを船長に任せた後、対空監視を行うためにその場を離れた。

 かくして、マリ達はBETAと目下戦争中の地球へと降り立った。

 

 

 

「対空レーザーの反応…無し」

 

「ふぅ。さて、降りたら早速物資調達ですよ」

 

 降下艇の輸送機の操縦室にて、レーダーを見ながらユウキが対空兵器による攻撃がない事を口にすれば、カリサは着陸した後に物資調達を行うと口にする。

 物が無さそうなこの地球の何所で物資を調達するかと言えば、この辺り一帯に墜落している連邦軍か同盟軍の船の残骸から失敬するハラだ。墜落の際で殆どが損壊しているはずだが、幾つかは残っている。

 マリのVF-1Sを先頭にしながら人気の無い、軍の前線基地も無い場所に降下艇は着陸する。彼女のバルキリーも、バトロイド形態になってから雪原の大地に両足を着け、ガンポッドを周囲に向けて警戒を行う。

 着陸した降下艇からは、この地球の時代からすれば三十年近くは古い小火器を持って白い防寒着を纏った捜索隊が開いたハッチから一斉に飛び出し、同じく周囲警戒を行った。

 

「レーダーに反応なし。BETAの反応もありません」

 

『外も異常は無し』

 

「よし、ジム・コマンド、降ろせ!」

 

 ユウキからの二度目の知らせで周囲に異常がない事が分かれば、ジークリンデは降下艇よりジム・コマンドを降ろした。

 降下艇の付近に拠点を構えれば、ルリとその仲間たちが居るとされる一帯の地図を出し、何所を調査すべきか考える。

 

「確か、この辺り?」

 

「えぇ、ここのはず。でも、この地球のポーランドはおかしい。あんまり寒くないし、東の方に木々が無い上に更地ばかり…」

 

「あぁ、確かに。あの化け物の死骸も幾つか見える」

 

 出された地図に、マリがルリの居る地区を指差す中、彼女は東の方を向いて呟いた。

 たしかにおかしい。西には草木が遠くからでも見えるが、東には草木一本も無く、戦術機と呼ばれる人型兵器の残骸とBETAの死体だけだ。それを見た一同は不安を覚える。

 双眼鏡を持っているスカイラーと言う女性が、遠くの方で連邦軍か同盟軍のどちらかの機動兵器を見付けた。

 ちなみに、マリ達が着陸した場所はポーランド南部のシロンスク地方。民主化後の現在はドルヌィ・シロンスク県と呼ばれている。県都はヴロツワフ。

 

「確か、連邦がバイザーで、同盟が一つ目よね?」

 

「そうね。どちらかの勢力かは、それで見分けがつく。貸してみて」

 

 スカイラーは機動兵器の違いがどうも分からないらしいので、ちゃんと見分けがついているジークリンデが代わりに双眼鏡を持って確認すれば、同盟軍のジン・オーカーであると分かった。

 付近に同盟軍が居ることは、この降下艇を狙って来る可能性がある。

 

「同盟軍のMS、ジン・オーカー。他にATもゾイドも居る」

 

「なら、先に仕掛ける可能性があるわね。でも、私たちの殆どはか弱い女性ばかり。歓迎じゃ駄目かしら?」

 

「いや、殺す。私が一人でいって来る」

 

 攻めて来る可能性があるなら、こちらから仕掛ける必要があると口にするスカイラーであるが、ここに居る面子を見てそれは無理と判断して迎撃した方が良いと提案する。

 だが、マリは自分一人で仕掛けると言い始める。

 

「でも、派手にしちゃうと向こうに気付かれるわよ?」

 

「大丈夫よ。一人で幾つも潰したことあるから。バルキリーは使う必要ないし」

 

「へぇ、ベッド以外に強そうに見えないのに」

 

「ヴァセレートなら大丈夫ね。でも、出来るだけ静かにやって。現地といざこざは起こしたくないわ」

 

 スカイラーはまだマリの恐ろしさを知らないらしい。交戦して強さを知っているジークリンデは、出来るだけ静かにやるように告げた。

 これにマリは頷いて承諾すれば、同盟軍の野営地がある方向へMP5SD6を持って進んだ。背中にはこの地のポーランドの軍隊がかつて装備していた小銃であるWz29が背負われている。

 Wz29小銃の見た目はドイツのkar98系統の小銃と似ている。理由は第一次世界大戦終戦後に、ポーランドを占領していた各国の置き土産であるが、どれも同じ実包を使わないので比較的性能が良いので、ポーランド軍はこの小銃を正式採用に決めた。

 大戦時にドイツ軍に負けてポーランドが地図から消えて以降も、国内の抵抗者達の手に渡り、大戦終結後には自動小銃に取り換えられて正式から外される。

 マリがこの小銃を選んだ理由については単にこの土地だからであるが、小銃に使う弾丸はもう生産されていないし、しかも必要な狙撃スコープも消音器もついていない。

 消音器があるとすれば、先のMP5と腰のホルスターに収めてある自動拳銃くらいだ。

 

「カリサもついてきていいですか? 物資調達のついでに」

 

「良いわよ。大人しくしてれば」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと消音器付きの短機関銃を持ってますから」

 

 そんな大丈夫かと思う装備をしているマリに、物資調達がしたいカリサがついて行きたいと言えば、彼女はあっさりと了承した。

 カリサは隠密行動のために備えており、マリと同じMP5SD6を持っている。古い小銃は装備していない。持っているとすれば、WWⅡや冷戦初期の米軍装備が混在しているイーディ分隊とレンプランド三姉妹くらいで、後はこの時代に合わせた装備をしている。

 

「良い。なるべく交戦しない事」

 

「分かってるわよ」

 

 再度ジークリンデより釘を刺されれば、マリはカリサと共に同盟軍の野営地がある方向へと進んだ。

 雪原地帯を歩く中、遠くの方から爆発音と耳をつんざくような砲声が鳴り響いた。少女のような外見を持つカリサは驚く物だが、何故か彼女は怖がりもしなければ声も上げない。慣れている様子だ。

 

「近くで戦闘が行われているようですね。あのBETAに向けて撃ってるんでしょうか?」

 

「さぁ、そんなこと私は知らないわ。それより向こうに何か見える」

 

 BETAに向けてポーランド軍が迎撃しているか、連邦か同盟がここで争ってるかはマリに取ってはどうでも良かった。

 カリサの問いに答えることなく、マリは同盟軍の先発隊を発見した。

 編成はATのフロッガー二機にホバートラック三台、銃に一人編成の歩兵二個分隊だ。つまり敵である。

 敵部隊は周囲に見張りを立て、五人くらいが何故か木に縛られているポーランド兵を尋問している。その様子を二人は物陰に隠れながら覗う。マイクをそこへ向け、何を喋っているのか聴き取る。

 

『な、なぁ! 俺は脱走兵じゃない。迷子兵なんだ! 原隊に戻ろうとしたが、難民の奴らに勘違いされて縛られちまった! 何所の国の奴らか知らんが、この縄を解いてくれ! 頼むよ!』

 

『どこの国だと? お前はワイルドキャットの兵士では無いのか? それに難民に縛られただと? はっ、お前のライフルは何所なんだ?』

 

『そうだ。どうせ嘘ついてる。その証拠にライフルも拳銃もねぇじゃねぇか。これを脱走兵と呼ばずにしてどうする?』

 

『お、おい! 俺は断じて脱走兵なんかじゃないんだ! BETAのブサイク共に撃ち尽くしちまったんだ! 本当だよ! ポーチの弾倉は一つも無い!』

 

『言い訳し始めたぞ、こいつ。どうする?』

 

『ここで大人しく逃がして俺たちのことを喋られたら面倒だ。殺すか』

 

『ひっ!? や、止めてくれ! 同じ人間じゃないか!』

 

『けっ、ワイルドキャットめ。俺たちを散々遊び半分で殺しやがったくせに、いざ殺され掛けると命乞いか…!』

 

 末端の兵士では余り良い情報が聞けないと判断してか、同盟軍のヘルガスト兵とバララント兵たちは彼を殺すようだ。

 彼らにはどうでも良くても、マリ達からは何か有益な情報が聞き出せるかもしれないので、助けるつもりにする。

 幸い、砲声と爆発が喧しく、銃声がその音で掻き消されそうだ。直ぐにマリは小銃を取り出し、拳銃を縛られた兵士に向けている赤いガスマスクのヘルガスト兵の頭に照準を定めた。

 爆発音か砲声が響いた瞬間に引き金を引けば、銃声はそれらの轟音に掻き消され、放たれた7.92mm口径のライフル弾は標的の頭部のヘルメットを貫通し、脳を破壊して向こう側まで貫通して標的の生命を絶った。

 

『っ! なんだ!?』

 

 轟音と共に味方が目の前でいきなり死んだので、他の兵士たちは警戒態勢を取ったが、轟音が響き渡る限り彼女は次なる標的にボルトで空薬莢を排出しながら狙いを定め、ボルトを押し込んで新しい薬莢を薬室に装填、再び引き金を引いて二人目を始末する。

 続けざまに気付いた三人目を仕留めれば、仲間に火を付けて貰って煙草を吸おうとするバララント兵に標的を定め、轟音が鳴ったと同時に引き金を引き、煙草を吸おうとした敵兵を仕留めた。

 煙草を吸おうとしていた仲間が射殺されたことで、ライターを持っていた敵兵は逃げようとしたが、彼女は逃すことなく背中に銃弾を撃ち込んで射殺した。

 

「す、凄い…!」

 

 隣でその芸当を見ていたカリサは、驚きの声を上げる他なかった。自分の知る限り、こんな芸当が出来る狙撃手は数えるくらいしか知らない。

 そんな彼女を他所にマリはポーチからクリップを取り出し、新しい五発を装填してボルトを押し込んで初弾を薬室へと送る。

 

『な、なんだこりゃあ!? 死んでるぞ!』

 

『警戒態勢を取れ! 敵が居…』

 

 他の兵士が気付いて指示を飛ばす分隊長を見付ければ、一番階級の高い標的に照準を絞り、音が鳴ったと同時に発射。狙いは逸れて首に当たったが、それでも標的への効果は十分である。

 

『なんなんだ!? 畜生!』

 

 分隊長がやられたことで敵兵達は混乱し、周囲に向けて乱射し始めた。ATもまた狙撃手が潜みそうな場所へ向け、闇雲に主兵装を撃ちまくる。兵員輸送車であるホバートラックの機銃手も同様に撃ちまくっていた。

 こちらにも弾が飛んでくるので、マリ達は身を屈んで匍匐前進を行い、次なる狙撃ポイントに着く。

 そこからホバートラックの機銃手を狙撃し、更に敵を混乱させる。

 

「軽機関銃とか持ってる?」

 

「無いです」

 

「これ使って援護して」

 

 カリサに機関銃の類を持っていないか問うが、小柄な彼女が持っているはずが無いので、マリは何所からともなくポーランド軍仕様のブローニングM1918軽機関銃を渡し、消音器付きのMP5SD6のセレクターを単発にして敵兵等の排除に向かった。

 全員の位置は既に魔法の目で把握しているので、先に目に入った敵兵の頭へ向け、9mmパラベラム弾を撃ち込んで無力化した。

 ドイツで開発された短機関銃であるMP5はライフル以上の精度を誇っており、連発でもある程度は狙った個所に銃弾が集中する。単発で中距離以内なら必ず当たる。それに最初から消音器が着いているモデルであり、さほど音が鳴らない。敵兵達は次々と敵に気付かぬまま死んでいく。

 

「あっ! あいつ…」

 

 気付いた敵兵は直ぐに手にしているライフルを撃とうとしたが、カリサが撃った軽機関銃の掃射を受けて倒れた。

 

『そこに居たか!』

 

 銃声が全員に聞こえるぐらいに響いたので、気付いた二機のATはカリサの方へ右肩のミサイルを撃ち込もうとした。

 だが、ATの存在を忘れて飛び出したマリでは無い。右手に突っ込んだ使い捨ての対戦車無反動砲であるパンツァーファウストを一本取り出し、素早く安全装置を外して狙いを定め、背中を向けたファッティーに向けて放った。

 火器を搭載している背中を撃ったことでファッティーは大爆発を起こし、それに気付いた同型機はマリの方へ視線を向けたが、既に彼女が自分の剣を取り出して近付いた後であり、そのまま一刀両断された。

 

「ひぃぃぃ! ほ、本部! 増援を! 増援…」

 

 残った敵兵等は撤退するか、本部から増援を呼び出そうとしていたが、マリは彼らを逃すことなく彼らを短機関銃で射殺するか、左手に持った剣で全て斬り捨てた。兵員輸送車も同様にすべて破壊し、二個分隊の敵先遣隊を全滅させる。

 掛かった時間は三分余り。このマリの圧倒的な強さに、縛られていたポーランド兵とカリサは恐怖を覚える。

 

「あ、あんた…悪魔か何かか…!?」

 

「この娘、何所?」

 

「そ、その前に…縄を解いてください…」

 

 縛られていた兵士は怯えつつ、マリに何者かを問うが、彼女は聞き入れずにルリの写真を取り出し、何所に居るのかを問う。

 その問いに兵士はまずは縄を解いてくれるように頼めば、彼女は左手に持っている剣で縄を切り裂き、彼を解放した。

 解放された兵士は、ルリの事は分からないが、ヴロツワフでBETAに包囲されている自軍が保護している難民の集団か、ポーランドから脱出しようとする難民の集団が居るグダニスク東部のどちらかであると答える。

 

「あ、ありがとう。その子のことは全く知らんが、おそらくBETAに包囲されたヴロツワフ方か、俺の原隊が合流しようとしているグダニスクの脱出部隊の一団に居るはずだ。助けて貰ったのに、こんな情報くらいしか出せなくて済まない」

 

 助けて貰ったのに、余り有益な情報を出せなかったことを謝罪する兵士であったが、マリは終始無言であった。

 立ち去ろうとするマリであるが、物資調達をしようとするカリサは、助けた兵士に物資がありそうな場所を問う。

 

「あの、物資とかそう言うのがある場所は何所ですか?」

 

「物資だって? 精確な位置は分からんが、撤退の際に大分放棄しちまったからな。今ごろは、BETAにペシャンコにされているだろう。だが、宇宙から様々な宇宙船が墜落して来た。BETAに襲われているだろうが、包囲されているヴロツワフの個所やこの近くに墜落したのもある。探せば、なんかあるだろうさ」

 

「ありがとうございます!」

 

 おおよその位置を答えた兵士の情報をもとに、カリサは礼を言ってから持って来た地図に投棄物資がありそうな場所や、連邦か同盟の艦艇の墜落位置を描き込んだ。

 

「んじゃ、お前らも無事でな。それとヴロツワフは諦めた方が良いかもしれんぞ! お偉い方は救出作戦を考えているようだが、スターリングラードの二の舞になりかねん。成功すれば、良いと思うがな!」

 

 何も無いと分かれば、兵士はヴロツワフを諦めるように言ってから自分の原隊が居るとされるグダニスク方面へと去って行った。

 物資がありそうな位置を確認したカリサは、自分だけ物資調達を行うために離れると告げ、何所へ向かうかマリに確認する。

 

「私は物資調達に出掛けますが、ヴァセレートさんはどうしますか?」

 

「ヴロツワフに行ってみようかと思う。もしあそこにルリちゃんが居るなら…」

 

「…期待はしない方が良いですよ。下手にバルキリーで突っ込めば、いざこざが起きるかもしれないし。それに対空レーザーがワンサカ居るじゃないですか。無謀ですよ?」

 

「それでも私は行くわ…! そこに可能性がある限り」

 

 彼女が敢えて危険な包囲下にあるヴロツワフに行くと答えれば、カリサは無謀過ぎると言って止める。

 だが、マリは行くつもりだ。そこにルリが居る可能性がゼロで無い限り。

 目を見て止めても無駄と判断したカリサは、諦めて予め掘り出していたバイクに乗って物資調達に向かった。

 

「はぁ、勝手にしてください。まぁ、貴方なら大丈夫かと思いますけど。精々無駄足を踏むことですよ」

 

 言いたいことを言ったカリサはバイクのエンジンを吹かせ、そのまま単独での物資調達へと向かう。

 一人残ったマリは、包囲を破るために必要なバルキリーを取って来るべく、降下艇がある場所までカリサが掘り起こしたもう一台のバイクで帰った。

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