シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
ヴロツワフ。
1979年当時の共産主義政権下にあったポーランド人民共和国の南東のシロンスク地方の都市の一つだ。現在はドルヌィ・シロンスク県の県都となっている。
しかし、この地球はBETAと言う異星人の攻撃を受け、人類は目下苦戦中だ。
ヴロツワフに逃げ込んだポーランド軍と難民らがBETAに包囲され、第二のスターリングラードの悲劇に見舞われている。
ワルシャワ条約機構軍の主戦線まで手が届く距離にあり、
無茶な突撃で更なる出血を強いられ、いたずらに損害を出すばかりである。
そんな彼らを、更に追い込む形で新たな脅威が迫る。
それは、この地球に墜落した惑星同盟軍の艦隊の機動兵器部隊が、戦術機MiG-21バラライカを中心としたワルシャワ条約機構軍に襲い掛かったのだ。
『くそっ、何なんだこいつ等!? いきなり出て来て俺たちを!』
『戦術機か!? 何て不気味な!』
正体不明の戦術機、ではなくMSやゾイド、ATで襲い掛かる同盟軍に、条約機構軍の戦術機を駆る衛士たちは困惑する。
いきなり周囲のBETAを自分らより遥かに勝る科学力と装備で一掃すれば、突然こちらに攻撃を仕掛けて来たのだ。
もっとも、同盟軍はワイルドキャット、ワルキューレと勘違いして攻撃しているからだが。ビームやレーザーを放ってくる敵機やホバー走行する陸戦兵器群に対し、条約機構軍は再び窮地に立たされる。
『だ、駄目だ! レーザーヤークトどころじゃねぇ! このままじゃインベーダー相手に全滅するぞ!!』
情け容赦なく襲い掛かる同盟軍機に対し、NVA所属機のMiG-21は全滅すると叫ぶ中、編隊を組んで飛行する十二機の同型機が現れる。
『っ!? シュヴァルツェ・マルケンか!?』
『おいおい、相手はレーザーを撃ちまくる戦術機みたいなもんだぞ! 死ぬつもりか!?』
同じ国の軍に属する者達は、編隊を組んで吶喊する彼らの事を知っていた。
その名はドイツ人民地上軍所属第666戦術機中隊、またの名を
損耗率は高く、戦術機中隊の基本である十二機編成の定数は足りない。補充があった際は定数の十二機となるが、戦闘後は八機しか残らず、激戦時には残存が二機と言う事もある。
友軍からは救援要請に応じず、レーザーヤークトを優先するので嫌われており、選抜中隊や死神中隊と揶揄されている。
今回は補充を受けて十二機編成であるが、果たして圧倒的な性能差を持つ同盟軍機を相手に何機が残る事か。流石に忌み嫌う味方も、同盟軍機相手では無謀だと判断してか、止めに入るがシュヴァルツェ・マルケンは敵部隊への突撃は止めない。
『全く、いつものレーザーヤークトだと思いきや、まさかのエイリアン共の戦術機とはな! 二十年も軍に居るわしでさえ、戦術機同士の戦闘は初めてじゃぞ!』
『シュヴァルツェ
『シュヴァルツェ
シュヴァルツェ・マルケンの二番機の老人の衛士が同盟軍機を見て悪態を付けば、部隊長である厳つい顔立ちで大柄の女性衛士が、自分等の監視役である政治将校が怒ると告げる。
彼女の予想通り、監視役である政治将校は二番機の老人に対して警告を行う。次に政治将校は、新兵らが乗る機に向け、逃亡すれば爆破すると老人と同様に警告する。
『アイリスディーナ・ベルンハルト中尉ならび補充兵三名の第三小隊! 貴様らは逃亡すればどうなるか分かっているな!? 敵前逃亡罪は即時死刑だ! 学校で何度も習っていて身に染みているようだからもう一度告げるぞ!』
『は、はい!』
「分かっています、同志政治将校殿…!」
補充兵らで編成された左翼の第三小隊に向け、政治将校が警告すれば、初の実戦で手は震えている彼女らは返事をする。
『分かっているならよろしい! しっかりと我らのケツに張り付き、シュヴァルツェ・マルケンの戦い方を頭に叩き込め!』
『ヤヴォール!!』
『良い返事だ! 特にアイリスディーナ! 貴様は兄をシュタージなんぞに売って昇進したようだな!? シュタージに気に入られたかと言って調子に乗るなよ!』
しっかりと自分等の戦い方を学ぶように告げた後、金髪碧眼で浮世離れした容姿を持つアイリスディーナと言う女性に対し、いびりを始める。どうやらシュタージの手で中尉まで昇進された彼女を疑い、妬んでいるようだ。
着任して早々、BETAや同盟軍機のみならず、背後の心配をする羽目になったアイリスディーナは額に汗を浮かばせる。そんな彼女に対し、二番機と第二小隊の隊長がフォローを入れる。
『大丈夫か、フロイライン? 余り力みすぎるな。そんな状態では、死の八分間は抜け出せんぞ』
『爺さんの言う通りだ。余計な考えは捨て、目の前に集中するんだ』
この言葉にアイリスディーナの緊張感は解け、今は目の前の敵に集中する。
『総員傾注! まもなく連中の射程距離に入る! 気合を入れなさい!!』
敵の射程距離と思われる地帯に着けば、中隊長からの指示が入る。
そのエリアに着けば、友軍機を攻撃しているMSのセプテムやジンが持っている実弾ライフルを撃ってくる。
『実弾!? 連中は実弾兵装も持っているのか!』
『本当に宇宙人か!?』
『怯むな! 潰せ!!』
ビームと思いきや、実弾を撃って来たことに隊員等が驚く中、政治将校は構わず撃てと言って主兵装である突撃砲を手近な敵機へ向けて撃ちまくる。
同盟軍機は突撃砲の砲弾を弾くほどの装甲が無く、尚且つパイロットが弾幕を躱せるほどの技量が無いため、瞬く間に中隊の標的にされた同盟軍機は一掃される。
『ハッ! なんだこいつ等、カカシじゃないか!』
『各機へ通達、敵は対したことは無い! 全力で叩き潰…ぐわっ!?』
どれほどの強敵かと思いきや、身長を重ねて挑めば全くたいしたことが無かったので、油断してしまった政治将校機に、バララントのATの放ったロケット弾が命中した。
当たったのは右腕であり、撃墜には至らなかったものの、政治将校機の損傷は戦闘不能に近いので、離脱を余儀なくされる。
その際、自機にロケットを撃ち込んだATは、突撃砲で粉微塵となる。
『く、クソ! こんな奴らに! 戦闘継続困難か! 俺は応急処置の為に離脱するが、お前らは逃げるなよ!』
自分が居ないからと言って敵前逃亡はするなと言ってから政治将校は離脱した。お邪魔虫が消えたところで、シュヴァルツェ・マルケンは本領を発揮し始める。
『さて、お邪魔虫は消えたぞ?』
『二番機、盗聴の可能性あり』
『おっと、祖国は社会主義国だったな。では、新米共、離れるなよ!』
本領を発揮すると新米の多い第三小隊へ言えば、装備は勝るが練度は遥かに劣る同盟軍を相手に中隊は高速戦闘を仕掛ける。
トサカ頭のような中隊長機は戦術機用の長刀で高出力のビーム砲を浴びせようとするザク・ウォーリアを切り裂き、二番機は爆発反応装甲付きの盾でもう一機のザクに体当たりを仕掛け、怯んで倒れたところを突撃砲の単発を撃ち込んでとどめを刺す。
四番機の下士官、クリューガーが乗るMiG-21は敵MSのゲイツRのサーベルシールドの刺突を避け、腹に蹴りを入れてから短刀を胴体に突き刺して撃破する。
第二小隊も同じく、ゾイドのレブラプターやイグアン、サイカーチス、レッドホーンを難なく撃破していた。
先ほどは条約機構軍相手に奇襲で優位を持っていた同盟軍であったが、シュヴァルツェ・マルケンの出現でその優位は大幅に崩れ、グラントや低級の異星人が乗る大量生産品や小型ゾイド、ATなどの機動兵器は逃げ始める。
『
「はぁぁぁ!」
戦意が崩れて武器を放り出して逃げる異界の機動兵器群に対し、コンバットハイに陥っているアイリスディーナを初めとした第三小隊が容赦ない追撃を掛け、次々と撃破していく。
『アハハハ! 隊長! こいつ等BETAよりも弱いんじゃないですか! それにほら、本当に宇宙人が乗ってますよ!』
余りの興奮に狂気状態に陥っている少女の衛士は、機体の左手で敵機から抉り取ったコックピットから同盟軍のパイロットの遺体を取り出し、それを見せ日からしながら笑う。そんな彼女の機体に、大型ゾイドであるアイアンコングが持つグラビトンハンマーが迫る。
「っ!? 避けろ!!」
『えっ…?』
気付いたアイリスディーナは、避けるように自分の部下に言ったが、間に合わずに彼女のMiG-21の胴体は粉々に砕けた。
アイアンコングに乗る
『ふざけやがって! この人間風情が! こんな低下学力の鉄屑を相手に逃げるお前らもだ! 纏めて叩き潰してやる!!』
そう怒りを露わにし、ハンマーを振り回して味方諸とも叩き潰して二機目のMiG-21を葬る。
標的にされた少年が乗るMiG-21は戦意を喪失し、この場から無断で逃げようとする。
『い、嫌だ! 死にたくない!! うわぁぁぁ!!』
跳躍ユニットを使って空高く逃げる少年であるが、BETAのレーザー級がまだ健在だったのか、空中を高く飛び過ぎてレーザーを撃たれて撃墜されてしまった。
味方を含め数十機をスクラップに変えたハンマーを持つアイアンコングは、次の標的を振るえているアイリスディーナ機に向ける。
「あ、あぁ…い、いや…!」
『何してる!? 早く逃げろ! 潰されるぞ!!』
一瞬で三人の部下を失い、今度は自分が殺されると分かったアイリスディーナはただ震えて失禁し、こちらに迫るアイアンコングを見て泣きじゃくっていた。
そんな彼女の機に向け、気付いた第二小隊長が無線機で逃げるように告げるが、今の彼女には聞こえていない。
代わりに第二小隊の僚機がアイアンコングに向け、突撃砲や滑走砲を撃って気を自分に引かせる。
『このゴリラ野郎! こっちだ! ぶっ殺してやるぜ!』
『お前が先に死にたいようだな! お望み通り叩き潰してやる!!』
ワザと注目を集めるために、拡声器を使ってまで言えば、ブルートはそちらに向かった。
来たところで二番機か三番機は何発も撃ち込むが、アイアンコングの装甲を貫通することは出来ない。
気を引いた僚機はアイアンコングのハンマーを飛んで回避し、頭に向けて撃とうとしたが、照準を定める前に左手に掴まれてしまう。
『く、クソッ! 離しやがれ! クソッタレめ!!』
『何やってる!? 早く助けろ!!』
暴れて引き離そうとする僚機であるが、アイアンコングの左手はゴリラの何十倍以上の腕力だ。徐々に胴体が拉げて行く。
他の中隊機は助けようとするも、多数の同盟軍機のみならず、更にはBETAが反撃してきたので、助けられない。唯一助けられるのは、アイリスディーナ機のみだ。
そんな彼女は震えて動くことが出来ない。その彼女のMiG-21に手負いのギラ・ドーガが襲い掛かる。
「っ!?」
警告音と共に気付いた彼女は、咄嗟に操縦桿を動かして振るわれたビームアックスを回避した。
二撃目を振るおうと、ギラ・ドーガが近付いてきたが、直ぐにアイリスディーナは突撃砲の照準を向かって来る敵機に向けて何十発も撃ち込む。対BETA用の弾頭である突撃砲の砲弾は、ギラ・ドーガの装甲を容易く貫き、一瞬にして細切れにした。
『ぐわぁぁぁ! こんな所でェ!!』
『ハンス! くそっ、ハンスが潰されちまった!!』
アイアンコングに掴まれている僚機は、先のギラ・ドーガに襲われている間に握り潰されてしまったようだ。
無線機から彼の悲鳴が聞こえた後、同期か仲間なのか、彼の名を叫ぶ衛士の声が響いてくる。
助けられなかったアイリスディーナは彼の仇を討つべく、握り潰した戦術機を握りながら、自分に標的を向けたアイアンコングに立ち向かう勇気を出す。
あの重装甲をどうやって打ち破るかを考える中、コックピットブロックを潰されてまだ握られている戦術機を見て思い付いた。
直ぐにそれを実行し、アイアンコングが持っている戦術機に向けて突撃砲を数発ほど撃ち込む。放たれた弾は突撃砲の予備弾倉に命中したのか、大爆発を起こし、アイアンコングの左手は吹き飛んだ。
ゴリラ型の大型ゾイドが悲鳴を上げる中、彼女はこの隙を逃さず、猿人類の弱点である頭部へ向け、滑走砲を撃ち込んだ。突撃級の正面を打ち破るための徹甲弾を諸に受けたアイアンコングの頭部は吹き飛び、頭部を失ったゴリラ型の大型ゾイドは血塗れの雪原の上に倒れ込む。
『ハハハ! やったぞ! コネの新米がゴリラを倒しおった!』
『喜ぶのはまだ早い! 次はBETAが来る!』
アイリスディーナがアイアンコングを撃破して二番機の老人衛士が喜ぶ中、中隊長は反撃に出たBETAを撃ちながら気を抜かぬように檄を飛ばす。だが、本隊のNVAとポーランド人民軍の連合軍の損害が大きかったのか、先に離脱した政治将校から本隊が後退したとの知らせが入る。
『第666中隊各機に通達! 総司令部から後退命令だ!! 先の訳の分からん一つ目の戦術機や機械恐竜共、チビデブ戦術機の所為で本隊に損害が出ている。更にブサイクなBETAのクソッタレ共の登場で今の状況では前進が不可能となった! 本隊は五km後退して再編する! 我が隊は殿を頼まれた! 我が軍の第34戦術機大隊と共に後衛に徹しろ!』
後退命令では無く、殿を務めろとの命令であった。
これに違反したくなったが、社会主義国家の軍隊での上官からの命令は絶対だ。
『こちら666中隊、了解! 友軍部隊と合流して殿を務める』
『すまんな! 私も他の健在の隊と交代して貰うように上に掛け合ってみる! それまで生きてろよ!』
否応なく中隊長が受け入れれば、全員が軍学校や訓練の過程で学んだ命令を実行した。
ワルシャワ条約機構軍によるヴロツワフの友軍救出作戦が難航する中、マリはバイクで降下艇とは違う方向へ向けて走っていた。
BETAの包囲下にあるヴロツワフへVF-1Sバルキリーで直行しようとしたマリであったが、案の定、そうすると予想していたジグムントが既に手を打っており、後から増援として送り込んだコムサイ級降下艇に乗っていたローラ・ギブソンをバルキリーへ乗せて防止した
これにマリは怒りを覚えたが、怒っても仕方ないので、足を確保するべくバイクで雪原の中を再び走り出す。
「確かこの近くに…」
バイクを走らせつつマリは周囲を見渡し、この付近に墜落した連邦軍の艦艇、サラミス改級軽巡洋艦の残骸を探す。降下艇に戻る途中、墜落した連邦軍に長年にも渡って使い古された軍艦を発見したのだ。
ジェガンかヘビーガン、運が良ければシャベリンかウィンダムを搭載している筈なので、それに乗ってヴロツワフへ行けばよいとマリは考えている。
近くへ行けば双眼鏡を取り出し、生きている乗員が居ないかどうか確認する。
「よし、誰も居ない」
墜落の衝撃で乗員全員が死んだと確認が取れれば、バイクを走らせてサラミス改級に近付き、機動兵器を収納する格納庫が無事であるかどうか確かめる。
幸い、格納庫は無事であったが、追跡戦の時に全機が出撃した可能性がある。それに所属マークが描かれている場所を見れば、
つまり、UCAの軍備拡大の余波でレンドリースされた艦である可能性が高く、搭載している機動兵器もガタ落ち認定されたジェガンタイプである可能性が高い。だが、この世界ではジェガンは高性能な機体であることには変わりないので、外壁を潰して中を覗いてみた。
「ちっ、外れね」
このUCA所属のサラミス改級が搭載していた機動兵器は、攻撃の際に大量投入されるストライクダガーのみであった。
しかも墜落の衝撃で出撃した機を除いて全てがバラバラになっており、乗員共々無残な死体になっている。
諦めてサラミスの艦橋の上を登り、他に墜落している連邦軍の艦艇、あるいは同盟軍の艦艇を双眼鏡で探す。真っ二つに割れたり、無残な形になったマゼラン改級戦艦やアガメムノン級宇宙戦艦、ネルソン級宇宙戦艦を眺める中、艦橋の無線機より生存者に対する集結ポイントの指示する声が聞こえて来る。
『…生存者に通達。ポイント5…』
「そこに行くのは危険ね」
無線に耳を澄ませ、地図で連邦軍の集結ポイントを確認したマリは、このエリアに行かないようにするためにペンで印を付けた。
それが終われば地図を鞄に仕舞い、サラミス改級から降り、高性能機を積んでいそうな軍艦を探す。
雪原の中をバイクで走る中、墜落した空母を発見し、敵に気付かれない場所に止め、バイクを隠してから空母に近付いた。
「…まだ生きてる」
物陰に隠れて様子を窺えば、墜落した宇宙空母に生存者がいたのか、周囲に見張りを立てて警戒していた。
墜落した空母のタイプは機動力に優れた軽空母であったらしく、搭載している機動兵器の数は少ないだろうが、人型兵器の搭載仕様に改装された他の連邦傘下勢力の艦艇より搭載数は多いだろう。
見張りの目を掻い潜りつつ、軽空母まで接近する。
途中で乗員なのか警備兵の銃を持った二名の雑談がマリの耳に入った。集結ポイントについて話しているのだろうか、身を隠せるほどの破片に隠れ、会話の内容に聞いてみる。
「集結ポイント、確かラーカイラム級だったな。何所の所属だ?」
「UNSC海軍かISA海軍のだ。階級は大佐以上だな。艦長が一時間後に出発だそうだ」
「早く準備しねぇとな。所で、あの化け物共は何だ? この世界の原種か?」
「そんなの俺が知るか。硬い奴らを前面に出して、サソリかタコみてぇなのが後から続き、それから赤蜘蛛の大群だ。おまけにレーザー光線を放つ双眼鏡みてぇなのも居る。おまけに多少の知能持ちだ。早く船を直してここから出たいぜ」
「あぁ、俺も出たいな。墜落した直後に襲って来やがったからな。MSやPT、ATが追い払ってくれたが、またいつ襲ってくるか…」
「取り敢えず、脱出の算段を集結要請なんか出している奴が考えていることを祈ろう。さぁ、荷造りしようぜ」
搭載機のことは分かったが、何があるか分からなかった。身を隠している場所から出て、見張りの目を掻い潜りつつ艦内に忍び込む。
艦内の通路の至る所の角に監視カメラが配置されていたが、そのどれもが機能していなかった。
代わりに荷物を背負った乗員が見えたが、何処かに身を隠せば艦内に侵入者が居るとも知らずに外へ出て行く。身支度をする乗員の視線を避けながら通路を進み、軽空母の見取り図を見付ければ、格納庫まで向かう。
「さて、どれを選ぼう?」
格納庫まで辿り着けば、最終整備が行われているMSやPTを見てどれにするか迷う。
一番手前にあるのはウィンダム、背中にいつも見るジェットストライカーがあれば良いのだが、所属は宇宙軍なのでどれも付いてない。
中央はシャベリン。地球上でも飛べる機体だが、空中戦には適してないので、レーザー級にでも狙われたら一溜りもないだろう。
右手には量産型ヒュッケバインMkⅡが並べられている。空中戦も可能なので、選ぶならあれだ。整備兵等が離れて別の機体へ移ったのを確認すれば、直ぐにマリは整備が済んだ機に忍び足で近付き、コックピットがある胴体まで一気に飛ぶ。
「んっ? 何の音だ?」
流石に飛んだ音で気付かれ、一人の整備兵が近付こうとした瞬間に、マリはドライバーを投げナイフのようにその警備兵に向けて投げた。
ドライバーが喉元に突き刺さった整備兵は悶え苦しみながら息絶え、音を立てて倒れ込む。
『なんだ!?』
『どうした!?』
大きな音を聴き付け、他の警備兵らが集まり、彼が死んだことに驚きの声を上げる。
『なんでドライバーが喉元に!? 早く衛生兵を!!』
『畜生、今度は何だ!?』
『化け物の次は侵入者かよ!』
格納庫に居る全員の視線がドライバーを喉に突き刺された整備兵に集まる中、マリはコックピットのハッチをハッキングして開き、乗り込んで起動させる。
交代要員が乗り込んで良いように、起動の際のパスワードは外されており、容易に作動させることに成功した。
量産型ヒュッケバインMkⅡを盗んだマリは、直ぐに動かしてヴロツワフへ向かおうとする。
『なんで起動している!? おい、誰も発進命令も許可も出してないぞ!』
整備兵等が怪我人を抱えて一斉に逃げ出す中、無線機より管制官の静止の声が響いてくる。
無論、マリは止まれと言われて止まる女では無い。管制官の声を無視しつつ、格納庫のハッチを主兵装であるフォトン・ライフルで吹き飛ばして飛び出た。
『クソッ、奴は侵入者だ! 撃ち落としてしまえ!!』
離れたところで管制官は取り戻せないと判断してか、追撃の同じ三機の量産型ヒュッケバインMkⅡに撃墜命令を出した。
撃墜命令が出た途端に、マリの乗っている同型機に向けてフォトン・ライフルが放たれる。
無論、警報音が鳴る前にマリは操縦桿を動かし、飛んでくるエネルギー体の弾を軽やかに避けつつ、ヴロツワフへと向かう。
『畜生、ケツに目ん玉でも付いてんのか!?』
『なんで当たらないんだ!』
「それはあんた等が下手くそだからでしょうが」
攻撃が当たらないことに、無線機から追撃機のパイロット達が苛立ちの声を上げる中、マリは煽るようなことを告げる。
相手は更にムキになってか、グレネードランチャーやミサイルまで撃って来た。
この攻撃もまた、マリには見え見えであったのか、あっさりと避けられてしまう。
「目前に巨大生物。BETAとか言うブサイクな怪物ね」
追撃機の攻撃を避けながらヴロツワフへ向かう中、その都市を包囲しているBETAともう直ぐ会敵する距離まで近付いた。
強引に突破する為、高度を下げてレーザー級からの対空攻撃を避けつつ、手にしているライフルを突っ込んで来る突撃級や要撃級に向けて放つ。
フォトン・ライフルは突撃砲の弾頭とは比較にならない程の威力だ。一撃で突撃級の硬い頭部の甲羅をベニヤ板のように貫き、デカい死体へと変えた。
数秒も経たないうちにマリ機の進路上に居た突撃級は死体に変わり、要撃級も突撃級と同じ末路を辿る。
更に後方には赤蜘蛛こと戦車級がうようよ居たが、あっさりと蹴られるか、機の左手に握られたフォトン・ソードで切り裂かれる。頭部バルカン砲の掃射でも一掃される。
レーザー級も同様に切り裂かれ、あっと言う間に包囲網は食い破られた。
これほどマリが量産型ヒュッケバインMkⅡの性能をフルに生かし、短時間で包囲網に穴を開けたのに対し、元の持ち主で三機の同型機の追撃機と言えば、レーザー級のレーザー光線を受けて一機が撃墜され、二機目は突撃級の突進を受けて中破、地面に倒れたところを踏み潰されていた。
『うわぁぁぁ! た、助けてくれぇぇぇ!!』
三機目はレーザーと突進を避けたが、無数の戦車級に取り付かれ、コックピットまで侵入されて八つ裂きにされようとしていた。
映像には映らなかったが、その惨状を想像させるような金切り声の悲鳴がマリ機の無線機より聞こえて来る。銃声も聞こえているが、おそらくもう助からないだろう。
『い、嫌だぁ! 止めろぉ! 来るなぁ! う、うわぁぁぁ! アァァァ! 痛い! 痛いぃ! あっ、アァァァァ!!』
肉や骨を引き千切るような音も聞こえ、断末魔の叫びすら聞こえて来る。
常人であれば、恐ろしくてぞっとする物であるが、今のマリは一切の関心が無く、ただヴロツワフへと行くことだけを考えている。追撃して来た兵士の断末魔の叫びなど、彼女にとってはただの雑音でしかない。
ヴロツワフまで後数kmと言った所で、向こう側にも連邦軍の生存者がいたのか、ヘビーガン三機とGキャノン二機、ダガーL三機の混成部隊がこちらに接触しようと近付いて来た。
『おーい、お前! まさかあの包囲を突破して来たのか!?』
無線機よりマリがこの機を盗んだことを知らないパイロットが問うてきたが、マリは全く耳を貸さない。
『おい、聞いてんのか!? 何かおかしいぞ!』
『PT、応答しろ! 聞こえてるのか!?』
『止まれ! 止まらんと撃つぞ!』
『撃った方が良さそうだな』
全く話を聞かないマリに対し、連邦軍機は発砲しようと手にしているライフルを向けた。
警告射撃のつもりだが、マリは撃たれる前に自機に照準を向けた連邦軍機を先に撃って撃墜した。当然、敵と判断されて攻撃を受ける。
『野郎! 撃ちやがったな!!』
『殺してやる!!』
Gキャノンが両肩の二門のガトリング砲を撃ち込めば、ヘビーガンやダガーLもビームを発砲して来る。
雨あられの弾幕が迫る中、マリはそれらを全て避け切り、更に避けながら反撃を行い、ダガーL一機を撃破した。
『な、なんだこいつは!?』
『あんな動き、一体奴は!?』
こちらが反撃も隙も与えない程の弾幕を浴びせていると言うのに、マリはその全てを避けながら反撃してくる。
自分らでは到底できないような芸当を平然とやってのけるマリの技量の高さに彼らが畏怖する中、包囲網を築いていたBETAが崩されたことに腹でも立てたのか、攻勢を仕掛けて来た。
『くそっ、化け物共が!』
『どうする!?』
『戦うしかないのだろう!』
『あいつはどうする!?』
『ほっとけ! 化け物の始末が先だ!』
BETAの攻撃に対し連邦軍の将兵らは戦うしかないと判断し、マリを放置してBETAと交戦を始めた。
増援のジェガンJ型やウィンダム、量産型ヒュッケバインMkⅡが来るも、マリの機には攻撃を仕掛けて来なかった。連邦軍の注意がBETAに向いたので、マリはこの隙にヴロツワフを目指す。
「後もう少し…」
レーダーを見てポーランド人民軍の防衛線に接触したと分かれば、マリはもう直ぐだと判断したが、所属不明機であるこの機をポーランド軍が通してくれるはずが無かった。
スクランブルのMiG-21三機がマリの量産型ヒュッケバインMkⅡを突撃砲の照準で捉え、直ぐに発砲を開始した。
強引に突破しようとマリは上昇したが、向こうの衛士は連邦のパイロットとは違い、予想進路へ向けて弾幕を張る。それも連携しての物である。
「えっ!? ガス欠!? ここまで来て!」
推進剤のことを考えずに使い切ってしまったのか、量産型ヒュッケバインMkⅡは地面へと落下していく。
三機の戦術機は、落下していく正体不明機に対し容赦なく弾丸を浴びせ、完全に撃墜しようとする。
「もう少しなのに…!」
撃墜される寸前で、マリはサバイバルキットを持ち出してからコックピットのハッチを蹴って開け、外に飛び出した。
彼女が捨てた機は戦術機の集中砲火を受けて爆散する。気付かないうちに連邦の追撃機が居たようだが、戦術機に呆気なく二機ほどが撃破され、残る機は逃げて行った。
飛び出したマリは、落下傘も付けずに飛び出したがために強く地面に叩き付けられ、全身の骨が折れて息絶えた。だが、彼女は不老不死だ。暫くすれば、何事も無かったように復活する。
折れた全身の骨が元通りになるまで雪原の上を横たわりながら待つ中、自分を撃墜した三機の戦術機は近くに止まり、三名の銃を持った衛士が降りて来る。
「(へぇ、ここでもあんなの着るんだ。戦術機に乗らなくて良かった)」
降りてこっちに近付いてくる長い銀髪の女性衛士の強化装備を動いている眼球で見て、マリは戦術機に乗らなくて良かったと心の中で思う。
身体のラインが浮き出ており、下着の類は着けていないように見えるので、マリは戦術機に乗る事も強化装備を着る事をかなり嫌がっている。
理由は強化装備を身に付けないと、戦術機を操縦できないからだ。マリも一度くらいはあの強化装備を身に付けて戦術機に乗った経験があるが、強化装備は羞恥心で恥ずかしくなった。更にあれを着る同性は、露出狂と言う偏見も抱くようになる。
近付いてくる女性衛士に対し、マリは死んだフリをしてやり過ごす。案の定、彼女はマリが生きていることも気付かず、近くに落ちてあるサバイバルキットに近付き、ナイフを使って開いて中の物を物色し始める。
「…食べ物だ!」
乾パン類の非常食を見付ければ、直ぐにそれに頬張り始める。
その顔色は悪く、包囲下で長らく真面な食事を食べていない様子だ。マシな食事にありつけた彼女は、あっと言う間に三日ほどはあるはずの乾パンを食べつくした。更には栄養剤が入った水にまで手を出し、それを飲み干す。
「はぁ…乾パンだけど、久しぶりに真面なのを食べた気がする。こいつも何か持ってないかな?」
水を飲みながら彼女は、まだ息のあるマリに近付いて物色し始める。
直ぐにでも動こうとするが、まだ全身の骨は戻り切っていない。マリがこんな状態でも生きていることに気付かない女性衛士は、白い冬季装備をナイフで切り裂きながら中に食料が無いかどうか探る。
「(こいつ…私が動けないことを良い事に…!)」
見知らぬ女に許しもしてないのに触られているマリは、動けるようになったらどうしてやろうか考えたが、探っている彼女はレーションを入れている鞄を見付け、その中身を取り出して口に含みながら、もっと他にないかまだ物色して来る。
この間に一分間、マリは携帯していたレーションの殆どを彼女に食い尽くされ、更には温かい珈琲まで飲みつくされた。
直ぐに食べられない缶詰を持っていた鞄ごと奪われる中、女性衛士は他にもないかと物色し、見付けたチョコレートにキャンディまで奪い取る。
「(えっ!? そこまで…!?)」
全ての食料を奪い尽くした女性衛士であったが、もっと他にはないかと下着まで物色して来た。ブラまで切って中に何か隠してないかどうか探るが、何も無い。更にはパンツの中にも手を入れて来る。
触られているマリは、声を上げずに顔を赤らめたが、弄っている彼女は全く気付いてない。
もう限界だと思って動こうとするも、骨にまだ神経は通っていないようだ。
「これで全部…ありがと、天使さん」
食べきれないものを除き、全ての食料を奪い尽くした銀髪の女性衛士は、近くに駐機させている自分の戦術機の方へ戻った。
途中、僚機の衛士、それも同じ年頃の女性と合流し、どれくらい食料を調達したか報告し合う。
「シルヴィア、そっちは?」
「あぁ、あそこで死んでる女から缶詰を少々。チョコレートやキャンディ、煙草と粉末ジュースもあるよ。ピゴスとジュレック、スパは無いけど。イレナは?」
「こっちは撃墜した戦術機からサバイバルキットも。それと乗ってた奴が一週間の食料も持ち出そうとしたみたいだけど…息絶えたわ」
「なんなんだろうねあの戦術機。とにかく、食料を運んできてくれたことには感謝だわ。イエス様に感謝しないとね」
「それ、私の前で言う? 私は政治将校なのよ。まぁ、どっちでも良いけど」
「カーヤの方はどうかな。私のようにあんまり食べて無ければいいけど」
「まぁ、みんな腹を空かせてるしね。つまんでおこうかしら」
軽く雑談を交わし、カーヤなる他の衛士が合流すれば、マリを含める撃墜した機より奪った飲食類を持って戦術機に乗り込み、この場を後にした。
「治った…」
三機の戦術機が立ち去った後、マリの全身の骨は元の位置へ戻り、神経も通って完全に動けるようになった。
立ち上がってアモポーチを全て棄て、ナイフで切り裂かれた冬季装備や戦闘服を脱ぎ捨て、魔法で80年代当時のポーランド女性の冬服を纏う。ポーランドの主食のパンであるフレブや牛乳が入った鞄まで魔法で出して肩に掛ければ、目と鼻の先にあるヴロツワフへと歩いて向かった。