シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
「やっと着いた」
ルリとその仲間が居ると言う確率が低いにも関わらず、ようやくヴロツワフへ着いたマリは、現地の女性に化けて街の中へと入ろうとした。
入ろうとした瞬間に、周囲を見張っていた兵士らは気付いて大声を上げる。
「難民か!? おーい! 生存者だぞ!!」
「生き残りだ!」
「一人か!?」
BETAが居る方から人が来たので、警戒を行っていた兵士たちは大慌てであった。それもそのはず、向こうにはもう生存者なんて居ないと思っていたからだ。来れば当然のように大慌てになる。
「あんた一人か? 他には!?」
「居ない」
まだ他に生存者がいるかどうかを兵士が問えば、彼女は一人だと答えてヴロツワフへと入った。
街は宇宙から来た怪物に包囲されている所為か、活気は無く、ただ難民たちが絶望的な表情を浮かべてうつむいていた。それもそのはず、いつ脱出できるかどうか分かる状況では無いのだ。
ルリが居そうな場所、子供が集まりそうな場所を探す中、一人の憲兵に呼び止められる。
「おい、あんた。見張りの連中が言ってた例の生存者だな? 随分と顔色が良さそうだが…宇宙から落っこちて来た宇宙船の食料でも食ったか?」
顔色の良さで呼び止められたらしい。良く見れば、この街に居る者の殆どは余り食料の配給が良くないのか、顔色が悪い。
「まぁ、俺たちもその神様の贈り物にあやかって墜落して来た宇宙船の食料を食べているがな。乗っていたのは人間だが、墜落のショックで全員くたばっちまったようだが。まぁ、それが良いがな。おかげで一か月は生き残れる。でっ、人探しかな?」
聞いてもいないのに街の状況を喋る憲兵は、マリが写真を持っているのを見て人探しをしていると判断した。丁度良かったので、マリはルリの写真を憲兵に見せて何所に居るか無言で問う。
「あんたの妹かなんかか? あんたと似て美人だね。こんな娘、一度見れば忘れられないが、残念だが今日見るのが初めてだよ。他に聞こうにも、もう子供たちは、優秀な兵隊たちと一緒に先に脱出しちまったよ。一時間前だ、ワルシャワ条約機構軍が何とか包囲網に穴を開けてな。でっ、最初は子供と優秀な将兵のみが脱出。俺たち平凡なのは、二度目の奇跡を待てだとさ」
ルリのような十代前半の子供は既に、包囲下にあった優秀な将兵らと共に脱出した後であった。直ぐに追おうと思うマリであるが、取り残されていると思って最後まで憲兵の話を聞いてみる。
「その所為か、アルマゲドンが来たと思って残った連中は落ちて来た宇宙船からかっぱらった酒やら麻薬なんぞでドンちゃん騒ぎだ。乱交までやってる。レニングラードやスターリングラードじゃなくて、前大戦の末期戦のドイツみたいな状況になってる。自殺してるのもいる始末だ。まぁ、探しているお嬢ちゃんは取り残されている可能性があるだろうが…居ない方があんたの為だろう。それじゃあ、精々探してみるんだな。それと、憲兵以外の兵隊には近付かん事だ」
状況と警告までした憲兵は、自分の任務を全うするためにこの場を去った。
憲兵の言う通り、ヴロツワフにルリは居ないかもしれないが、確率がわずかでもある限り、マリは彼女を探そうと、包囲下の街の中を探索する。
子供が隠れそうな場所を探すが、一行にルリの姿は見えない。
目に見える物とすれば、酒を浴びるように飲んで騒ぐ市民や将兵、乱交する男女の姿だ。それか食料が不足していた頃か、積み上げられた老若男女の死体の山。何所へ行ってもルリの姿はおろか、子供の影も形も無かった。
一時間も探し回る中、先の憲兵よりマリの情報を聞いた別の憲兵が近付き、もう子供は居ないことを知らせる。
「あんた、お嬢ちゃんを探してるんだってな。そいつは無駄だぞ。難民も含め、子供はみーんな俺たちが脱出部隊の方へ連れて行った。赤ん坊は母親ごとな。あんまりうろつかないことだ。それとあんた、徴兵されてもおかしくない年齢だな。秘密警察に見付からんうちに、民兵にでも志願しておけ。敵前逃亡罪で捕まるぞ」
子供が居ないことを告げた後、憲兵は早く民兵に志願するように警告して来た。街中にはほとんど若い男女の姿は無かった。どうやらBETAに攻められた際に殆どが徴兵され、前線に向かった様子だ。マリのような若い外見の女性が歩き回っていれば、嫌でも目立つ。
「その無言は、行くってことだな? よし、早く行けよ。女は輪姦されるって噂だからな」
ただ無言で頷けば、憲兵は巡回に忙しいのか、この場を後にした。
とんだ無駄足だった。もうルリはここには居ない。あるいはこの世界自体に居ないのか?
そんな考えがマリの頭の中を支配する中、耳に付けている超小型無線機よりジグムントからの無線連絡が入る。
『ヴァセレート、気が済んだか? この世界にルリが居るなら、その仲間たちも居るはずだ。居れば圧倒的な勇者と超人たちの力でBETAの包囲網を破り、今頃は東西の陣営に狙われている筈だ。スパイ衛星を使って米ソの動きを探ったが、その兆候は見られない。分かったなら、今すぐに降下艇に戻れ。連邦や同盟の残存部隊がそこに向かっている。もう分かっているならな』
ジグムントが言いたいことだけ言えば、無線は切れた。
どれだけ探してもヴロツワフにはルリの姿は無いので、マリは降下艇へと戻ることにした。それにこの世界に居る連邦や同盟の残存兵力の全てが、降下艇に近付いていると言っていた。襲われるのは時間の問題だろう。
直ぐにマリは、魔法の力を使って降下艇まで移動しようとした。
『イヤァァァ!!』
その直後に女性の悲鳴が聞こえた。
悲鳴が気になったマリは、聞こえた方へ視線を向け、誰が叫んだのか見に行こうとしたが、降下艇を守っていたジークリンデから催促の連絡が掛かって来る。
『こちらコウノトリ! 一個師団相当の敵兵力の接近を確認! 攻撃と思われる! 偵察員は直ちに帰投せよ! 繰り返す、一個師団相当の敵がこちらに接近中! 直ちに帰投せよ!』
どうやら連邦か同盟、あるいは双方からの部隊が降下艇を奪おうと近付いてきているようだ。
流石のマリでも大気圏突破能力は無いので、帰るために直ちに降下艇に戻ることにした。魔法の詠唱を行えば、マリの姿はヴロツワフより一瞬のうちに消えた。
降下艇の天井に描かれた魔方陣の上に、魔法で転移して来たマリは着地した。
魔法で転移に要した時間は約五分、既に連邦か同盟の攻撃が始まっていたのか、地球降下の志願者たちが押し寄せる敵歩兵に対し銃撃を行っていた。
三機のジム・コマンドとVF-1Sバルキリーは敵機動兵器と交戦を行い、降下艇上部に搭載されている二連装機関砲も掃射されており、敵の数が多い事だと分かる。ジークリンデの姿は何所にもなかった。向こうで爆発が連鎖しているので、おそらく敵の機動兵器部隊と交戦しているのだろう。
レーダーを見て逐一敵の位置を一機のバルキリーと三機のMS、ジークリンデにユウキと共に報告していたノエルは、帰って来たマリにこれまでの経緯を簡単に伝える。
「二分前から敵の攻撃は開始されました! ジークリンデさんは敵機動兵器と交戦中です! 貴方は敵の歩兵隊と交戦を!」
そうマリに伝え、L85A3突撃銃と予備弾倉が入った袋を渡し、元の配置に戻った。
英国軍の主力ライフルであるL85A3を受け取ったマリは、安全装置を外して敵歩兵が押し寄せる東方へ向かう。機動兵器を操縦できない志願者らが、手にしている銃で押し寄せる敵歩兵部隊を迎撃していた。
コムサイ改は放棄したのか、爆破されている。その残骸から続々と敵兵が出て来て、降下艇に突撃して来る。迎撃に加わったマリは、セレクターを単発に合わせてから突っ込んで来る兵士に向けて撃ち始める。
三発撃って三名の兵士が雪原の上に倒れた。撃ったのは連邦軍の兵士だ。服装からして宇宙軍の兵士のようで、他にもアーマーを付けた保安員も見える。総力を挙げてこの降下艇を奪いに来ているようだ。何が何でも奪いに来るだろう。
「もう、一体どれくらいの敵が出てきますの!?」
撃っても、撃っても敵が出て来るためか、イーディは持っているM1A1トンプソン短機関銃を撃ちながら悪態を付く。
それもそのはず、向こうからはソ連赤軍の人海戦術の如く敵兵が押し寄せて来る。残りは同盟軍の残兵たちと交戦しているのだろう。
コムサイを使って降りて来た増援の者達は、運び出したM2ブローニング重機関銃を見渡せる場所へ設置し、押し寄せる敵兵たちに向けて撃っている。五十口径と言う強力な弾頭なために、撃たれた敵兵達は挽き肉と化している。
「いっぱい来てるね。何人来てるのかしら?」
「さぁ? とにかく、霧が無いことは確かね」
「はぁ、こんなことなら来るんじゃ無かった…」
応戦している間、レンプランド三姉妹は地球への降下に志願したことを後悔していた。
地上に降りれば、その内BETAと交戦するだろうと思っていたが、戦うことになったのは人間の兵士、それも大勢であった。銃を撃ちながら無謀にも突っ込んで来る敵兵士らに対し、三姉妹は遮蔽物に身を隠しつつ撃ち返す。
「あ、あの…もう弾が切れそうだよ! こんな数の敵と戦うなんて予想なんてしてなかったし!」
「もう! 男なら黙って撃ちなさい!!」
これ程の数の敵と交戦することなんて想定などしてなかったのか、降下艇の弾薬はそこを尽きかけていた。
そのことをホーマーがM1918A2 BAR軽機関銃を再装填しながら伝えれば、隣でM1919A4機関銃を撃っていたヤンは黙って戦えと答える。
「これ、ヤバいかも」
他の者達が持つ銃の弾も切れて来たのか、拳銃で応戦する者が続出していた。
殻の弾倉を外し、新しい満載の弾倉を銃に叩き込んでいたマリは、この状況を見て不味いと判断する。
もう少しで降下艇に取り付かれようとした時に、マリは火の魔法を唱えて前列の敵兵等を全て焼き殺す。焼かれた敵兵等が獣のような叫び声を上げて悶え苦しむ中、マリは氷柱を発生させる魔法も唱え、近場に居る敵兵等を串刺しにする。
「それ、最初からやってくださいよ!」
「だって、距離短いもん」
降下艇に取り付こうとした数十人の敵兵を魔法で一掃したマリに対し、イーディは最初から使えと言ったが、彼女は射程距離が短いと伝える。
マリの魔法は距離が短ければ精度が増すが、離れれば落ちて行き、火力も落ちる。その為、マリは一定の距離に敵が来るまで魔法を唱えないのだ。
魔法を唱えたマリに対し、敵兵達は臆して足を止める中、宇宙より増援が現れた。VF-31Jジークフリートに乗る三人の超人兵士の一人、ジークフリートがそれに乗って救援に駆け付けたのだ。
『ようやく完成したぜ! 俺と同じペットネームのバルキリーがな! さぁ、慣らし運転代わりに一掃してやるぜ!!』
ようやく自分が望んでいたバルキリーの組み立てが終わり、ジークフリートはかなり興奮している様子だ。
苛立ちながら待たされた鬱憤を晴らそうと、生身のパワーで十分な敵を含め、連邦や同盟双方の攻撃を始める。
周囲で交戦する双方の機動兵器の性能、もといパイロットの腕では超人兵が駆るVF-31Jに敵うはずが無く、次々と撃破されていく。戦闘と機動兵器の反応を嗅ぎ付けて、BETAの集団も降下艇に接近してきたが、ジークフリートが駆るバトロイド形態のバルキリーに一掃される。
『おい、ジークリンデ! 主もみんなを纏めて降下艇に乗せな! 古いMSは置いてっていいんだとよ! 早くこの化け物共に侵略された地球の世界から抜け出そうぜ! 殿は俺が務める!』
「もう長居は無用ね! 総員、降下艇に搭乗! 機動兵器を初めとする重装備は全て放棄!」
数十機の機動兵器と数十体のBETAを片付け続けるジークフリートが殿を務めると言えば、ジークリンデは全員に降下艇に乗るように指示を出す。
彼女も向かって来る数十体を倒しながら降下艇へ向かう中、マリは最後の弾倉の弾を撃ち尽くすまで全員が降下艇に乗るまで踏ん張る。
自分を除く全員が持ち場を放棄して降下艇に乗ったために、押し寄せてきた敵兵の距離がさらに縮まり、表情が見えるくらいまで接近される。最後の弾倉の弾が切れる頃には、敵兵は目と鼻の先まで近付かれていた。
「死ねぇぇぇ!!」
一人の敵兵が手にしているモリタ式ライフルを撃とうとした瞬間に、イーディは持っているM1A1トンプソンで射殺した。
「お姉さま、これを使ってくださいまし!」
イーディがその機関銃を渡した後、降下艇に乗り込んだ。ついでに予備弾倉はホーマーが渡してくれた。
古い米国製軍用短機関銃を持ったマリは、強い反動を抑えながら押し寄せる敵を射殺し続ける。
再装填の合間の援護は、レンプランド三姉妹がやってくれた。ジークリンデが来るまで敵兵を殺し続ける中、当の彼女が電流のエネルギーで群がっていた敵兵を一掃して肉塊に変え、マリ達の目の前に現れた。
「私が来るまで待っててくれたの? 良い主ね」
『早く乗ってください! 発進します!』
意外なマリの一面にジークリンデが感心する中、ノエルから早く乗れと言われたので、彼女と共に降下艇へと乗った。
離陸する降下艇に無数の敵兵が生にすがる思いで必死に取り付いていたが、乗り込めるはずが無く振るい落とされ、押し寄せて来たBETAの戦車級に乗り切れなかった者達と共に殺され始める。
必死で抵抗する者が居るが、戦車級の数が多過ぎてその波に呑み込まれ、絶望の余り持っていた拳銃で自殺する者が続出していた。
『さぁて、俺もずらかるか!』
降下艇の脅威となるレーザー級をミサイルなどであらかた片付けたジークフリートも、降下艇が十分な高度まで上昇すれば、機体をガウォーク形態へ変形させ、十分な高度まで達した後にファイター形態に変形させ、この地球を脱出した。
「で、何か収穫は?」
フランケンシュタイン号に戻ったマリに、ジグムントは何かあったのかを問うた。当然、マリはこの問いに答えず、無言で自分の部屋がある居住区まで向かう。代わりにジークリンデが答えた。
「何も無いわ。収穫があるとすれば、カリサだけね」
「色々とありましたよ。まぁ、連邦や同盟とかのが殆どですけど」
「まぁ、重装備の類は処分するのが当たり前だが、BETAはそれを必要としないからな。後の始末は、侵略者の化け物共がしてくれるだろう」
後から来たカリサが言えば、ジグムントは自分等の痕跡はBETAが消してくれると言って艦橋へ向かおうとする。その前にヤンが、ジグムントに増援を送ってくれた礼を告げに喋り掛けて来る。
「あ~ん、ジグムント様! この私と仲間たちの事を考えて援軍を送ってくださったのね! 感謝してるわ! 偉大な筋肉を持って頭を切れるハンサムで、もう完璧すぎるわ!」
「あぁ、そうだとも。ここで大事な戦力を失う訳にはいかんからな。送らなければ、我々の主に殺される」
「もう、嘘おっしゃい! きっと私の事を思って…」
ジグムントはこのヤンにつきまとわれて鬱陶しく思っているようだ。
ヤン・ウォーカーは同性愛者であり、筋肉質の男が好きだ。生前も筋肉質の男を愛していた。ジグムントはドストライクだったのだろう。そんな彼を振り払おうと、ジグムントはスカイラーを口説こうとするジークフリートを見て、ヤンを彼に押し付けようと嘘をつく。
「いや、お前の事を思っているのはジークフリードだ。一目散に駆け付けただろう? ほら、あそこ居るぞ」
「えっ、ジークちゃんが私を!? なら、感謝のハグをしなくちゃね! ジークちゃーん!」
嘘を信じてヤンはジークフリートの方へと向かった。
「慣らし運転だが、VF-31のJ型は傑作機さ。複葉機しか操縦した事しか無い俺でも、説明書を読んだだけで操縦が出来た。きっと才能があるんだな。さて、俺と戦闘機講座でも…」
「ジークちゃーん! この私を助けに…」
「うげっ!? や、ヤンの野郎か! 畜生!」
ヤンに迫られたジークフリートは、スカイラーを口説くのを止めて逃げた。厄介者を同胞に押し付けたジグムントは、そのまま艦橋へと向かう。
「さぁ、この世界からさっさっとおさらばするぞ。総員に通達、五分後にワープを行う。船外へ出ている者は直ちに戻れ。船長、ワープ先を計算して元の世界へ戻るんだ」
艦橋へとついたジグムントは船外に出ている者に直ちに戻るように無線機に出告げれば、船長に元の世界へ転移するように指示を出した。指示に応じた老人の船長は計算を初め、元の世界へ転移する座標を二分遅れて掴めば、レバーに手を掛ける。
「あいよ。計算開始…座標は…特定。準備ができたぞ」
「全員船に居るな?」
『全員、居るぞ。外は死体だけだ』
「よし、ワープ開始!」
「ワープ開始!」
全員が乗ったのを確認すれば、ジグムントは元の世界へワープするように指示を出した。これに応じ、船長はワープ航法を行うレバーを引いて船を元の世界へと転移させる。
「さて、勇者探しの旅はまだ続くな」
「俺には、彼女から勇者を遠ざけているように見えるが…」
「遠ざける? 一歩遅れているだけじゃないかな?」
元の世界へと転移した直後、いつの間にか艦橋へ来ていたミカルが口を開けば、ジグムントは彼がマリからルリをわざと遠ざけている様に見えると告げる。
少しその言葉に反応してか、ミカルは自分達が一歩遅れているだけだと答える。たしかにいつも一歩足りず、探している間に居場所を見付けても、また何処かへと彼女は行ってしまう。
発信機でも付ければ、直ぐにでも居場所は分かるのだが、付ける以前にルリの姿を捕らえることが出来ずに見失った後だ。
ルリを見付けることが出来ないのは、ミカルの所為だとジグムントは睨む。たしかに彼は優秀な情報屋であるが、どうもマリからルリを遠ざけようと、あらゆる可能性を告げ、調査を長期化させていた。
いつも過ぎ去った場所の痕跡を探させられているマリは、ミカルを信用しなくなり、自力でルリを探そうと、単独で行動しようとする。きっと誰かの指示を受け、マリからルリを遠ざけているかもしれないと睨み、ジグムントはミカルにその件を直接告げようとした。
「何かどうも怪しい。頼んでも無いのに近付いたと聞いた。調査は進んだが、いつも一歩遅かった状況だ。誰に頼まれている?」
「人聞きが悪いな。僕は誰にも頼まれていない。ただ彼女のファンだから近付いた、助けようと思って協力している。シンプルな答えさ。それ以外に何が…なんだ!?」
「どうした!? 何があった!?」
頭に思い浮かんだ疑問をぶつければ、ミカルは動じずに誰にも頼まれていないし、ただ助けようと思って協力していると答える。
最後まで言おうとした瞬間に、転移中の船が何かにぶつかり、衝撃で船体が揺れた。直ぐにジグムントは船長に問い質す。
「いや、正常に転移している筈じゃが、この世界の二年ほど未来に行っただけじゃ。元の世界に戻れておらん!」
「なんだと!? この世界の1981年の地球に来たと言うのか!? 一体どうなっている…?」
元の世界へ戻れず、BETAの居る地球の二年先の1981年に来ただけだと船長が答えれば、ジグムントは困惑した。
もしかすればミカルがと思い、彼に問い質そうとするが、当のミカルはこれが出来ればとっくにやっていると答える。
「こんなことが出来るなら、最初からやってるさ!」
「それもそのはずだな。でっ、誰の仕業だ…?」
「悪魔か神の仕業ね」
「おっ!? いつの間に!?」
誰の仕業か考えている最中に、艦橋へ入って来たマリが、神か悪魔の仕業だとその場にいる者達に伝える。他にもジークフリートやジークリンデ、ノエル、ユウキが入ってきている。
船長が気付かぬ間に入って来た彼女に驚く中、マリが言ったことを証明するように、自分たちをこの世界に閉じ込めた正体が姿を現す。
「左様、神殺しの言う通り、君たちをこの世界へ閉じ込めたのは私だ」
「な、なんだこの黒目野郎は!?」
突然の如く現れた古めかしい衣装をまとった黒目で黒髪の青年に対し、ジークフリートは驚きの声を上げる。驚きながらも臨戦態勢を取る一同に対し、人の姿をしたその不気味な存在は名乗り始める。
「私はアウトサイダー、神と悪魔の入り混じった存在だ」