シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
マリがリィズ救出にストレスが溜まったので、二つ目の課題であるBETA教団を討伐すると言った。
そのストレス発散代わりに討伐されようとしているBETA教団では、異世界の機動兵器でいつの日か実行する欧州戦線とアフリカ戦線の後方を襲撃する訓練が行われていた。
教団の装備は活動拠点が紅海に位置した辺りであるのか、砂漠戦用のMSであるディザート・ザク、水中戦を想定してザク・マリナーがかなり配備されている。他は旧ザクやザクタンク、リーオー、アンフ、安価で火力があるATのスコープドックやマシィードック、ASのサページなどがある。
それら全てを合わせれば、教団が保有する機動兵器の数は約三個師団相当にもなる。この世界の各国の軍隊からすれば、十分に脅威と言えよう。
だが、教団が保有している機動兵器はそれらの安価な兵器ばかりでは無い。奥には巨大な兵器が組み立て中である。教団の幹部と思われる者達が、その巨大な兵器を見上げながら会話を交わしていた。
「ジェイコブ・ダニックさん、パトゥーリアの完成は後一時間ほどに迫っております。これが完成すれば、世界は貴方がたの物同然だ。世界最強の軍を持つ米ソも、赤子の手をひねるより楽に潰せるでしょう」
眼鏡を掛けた男は、教団の武闘派と思われるサングラスを掛けた男に巨大兵器の完成は一時間後であると告げた。これにジェイコブ・ダニックなる男は感謝の言葉を述べる。
「感謝するぞ、J・J・セクストン博士。これで神聖たるBETAを駆逐せんとする米ソを粉砕できる。して、操縦方法だが、貴様らが持ち込んだやはり阿頼耶識システムが無難か?」
「これほどの巨体を操作するにはかなりのデータが必要です。一人ではその情報量に脳が耐え切れなくなり、破裂することでしょう。手足があれば、私のリユース・P・サイコデバイスで手足のように操作できますが、パトゥーリアには手も足も無い。オリジナルの阿頼耶識が必要です。それも五人分、最低でも三名以上を」
「ふむ、つまり三名以上、私のようなオリジナルの阿頼耶識システムを埋め込む必要があるのか…」
ジェイコブはセクストンからパトゥーリアの運用法を問えば、眼鏡の科学者は阿頼耶識と呼ばれる人体に機械を埋め込んで、機械を操作訓練しなくとも操作できるようにするシステムを持つ人間が五人、最低でも三人以上が必要だと答える。それもオリジナルと呼ばれる本物のタイプでないと駄目らしい。
現在、教団の機動兵器搭乗要員は操作が簡単なAT搭乗要員を除いて全員が阿頼耶識の移植手術をしている。だが、本物のタイプは移植手術に時間が掛かるようで、搭乗要員は別の世界で簡単に移植手術ができるタイプの物が埋め込まれている。
「ふむ、教祖のサイランティウスとその幹部たちに与えれば良いのでは? 幹部全員を私がオリジナルの阿頼耶識手術を施した。パトゥーリアの運用は可能な筈だ」
「幹部の数は六人、十分な運用が可能だ」
そんな二人の元へ眼鏡を掛けた黒い短髪の男が現れ、教祖と幹部らにパトゥーリアの運用を任せれば良いと伝えれば、セクストンはジェイコブを見た。
「貴様たちの提案、さっそくサイランティウス殿に提言してみよう。きっと受け入れられるだろう。あの御方はパトゥーリアを偉く気に入っているようだからな。では、直ぐに伝えてに行こう」
割って入って来た医者の言葉を、ジェイコブは教祖のサイランティウスに提言すると言えば、その教祖が居る場所へと向かった。
二人もこの場を去って自分等専用のテントへ向かい、そこで映像通信を点けて自分のボスへ報告する。
「ジブリール様、数日足らずで彼らは正規軍ほどの戦力になります。大量に余っていた機動兵器が約に立ちましたね」
『倉庫に眠っていた無用の長物が利益を生み出すとは、私も驚きだ。それに使い道が無かったパトゥーリアも阿頼耶識のおかげで運用が容易になった。このシステムを開発した開発者に、多大な報酬を払いたいくらいだ。生きているならな』
映像に見えるのは銀髪で身なりの良い服を着た男、ジブリールはBETA教団に渡した装備が倉庫に大量に眠っていた物であり、教団を嘲笑う。パトゥーリアも同様であったが、阿頼耶識のおかげで運用できるようになったと聞けば、そのシステムの開発者に敬意を表す。
次にBETA教団はどれくらい持ち堪えられるかを問う。
『で、カルト共はどれくらい耐えられる? 私としては、その世界の各国に兵器を売り込もうと考えているが』
「アメリカに送ったスパイの情報によれば、既に米海軍の艦隊がこちらに向かっております。教団はパトゥーリアがあるとは言え、核攻撃を受ければ一溜りも無いでしょう。その前に我々は脱出しますが」
『核か。無限の如く湧き出るBETAには役に立つまいが、あれほどの巨体のモビルアーマーには効果的だな。案ずるな、ノンダス人どもに貴様たちを先に脱出させるように手配している。必ずや傷一つ付かずに脱出できるだろう。全く、ネオ・ムガルと言う連中は、こうも優秀な戦闘民族を滅ぼそうとするのかが理解できん』
「ありがとうございます。ジブリール様のおっしゃる通り、彼らは優秀な戦闘民族です。私のPデバイスを知れば、例え四肢が無くなろうが戦えると喜んでおりました」
『だろう。奴らは戦う事しか出来ない連中だ。農作業や炭鉱、その他諸々の肉体労働をやっているようだが、覇気がない。連中が一番輝く時は戦場だ、戦場でしか居場所が無いのだ。私はそんな戦う事しか出来ん連中に、戦場を提供してやっている。私は慈善家であるのだよ』
耐えられるのは三日かそこらであると答えれば、ジブリールは自慢げに自分は慈善家であると話す。
『生き返って同じく生き返った殺人鬼共に追い回されていた君たちを救ったのも私だ。君たちは私の指示通りに動いてくれれば良い。その知識は重要だからな』
「ありがとうございます、ジブリール様!」
改めて助けたのは自分であって従うのは当然であるとセクストンと医者に告げれば、二人は頭を下げて例の言葉を述べた。この様子を映像越しで見たジブリールは、教団が壊滅後に行うプランを告げる。
『カルト共が米軍の核攻撃で壊滅した後、先ほど言った通りにその世界の各国にBETAなどと言う宇宙の化け物共を容易く一掃できる兵器を売り込む。数十年か早くとも数年か数十カ月ほどでBETA共が地球上から一掃されるだろう。月の奪還が叶えば、利権争いで再び人類同士の戦争、即ち西側と東側による第三次世界大戦が発生する。その時こそ儲け時だ。各陣営に兵器を売り込んで戦争を長期化させ、骨の髄までしゃぶり尽す。そこまで来れば、再生不可能なまで地球は汚染されるが、我々の知った事では無い。他の世界で同じことをやれば良い話だ』
そのプランは身の毛もよだつ恐ろしい物であった。BETA教団が壊滅し、米海軍の討伐艦隊が大損害、もしくは全滅して核攻撃でパトゥーリアを撃破した際には、BETAを容易く一掃する兵器を各国政府に売り込む。それを手に入れた人類はBETAの脅威から解放されるが、生前は裏から世界情勢を操り、戦争で儲けていたジブリールは国同士での利権争いが必ず発生することを知っていた。
彼が目に付けた世界は異星人による侵略を受けているにも関わらず、東西冷戦の真っただ中だ。西と東の思想は違う、BETAと言う脅威を退けても、必ずや何かしらの争いが発生し、行く行くは自分の思った通りに戦争にまで発展する。ここが儲け時だ。
戦争で利益を上げるジブリールは良心的な欠片も無く、BETAの脅威に晒されている世界がどうなろうが知った事では無かった。
セクストンはジブリールの思想にやや嫌悪感を覚えたが、この男は自分の研究を有意義に使い、尚且つ実用できる状況を作り出してくれるので、従うことにする。隣のロシア人の医者も似たような理由で従っている。ジブリールに付いた者達も殆ど似たような理由だ。
『さて、そろそろ米海軍の討伐艦隊によるミサイル攻撃が行われる頃合いだろう。予定通り、君たちは…』
「うわっ!? な、なんだ!?」
近くで寝ている飼い猫を撫でつつ、腕時計を見たジブリールはアメリカ海軍の艦隊による砲撃が行われる時間帯が近付いたと思い、カルト教団に送った人員に脱出命令を出そうとした瞬間、本拠地にて爆発が起こった。
この爆発でセクストンは身の危険を感じ、慌しく行動する教団の戦闘員に何事かを問う。
「き、君! 一体この爆発は何だ!?」
「異教徒の襲撃だ! 遂に攻撃を仕掛けて来たんだ!!」
「こ、攻撃…まだ米海軍の艦隊はこちらを射程距離に捉えている筈が…!?」
『何事だ!? 攻撃にしては早過ぎるぞ!?』
戦闘員から知らされたのは、この本拠地の攻撃であった。
余りにも早過ぎる攻撃にセクストンは混乱し、まだ状況を掴めていないジブリールは何が起こっているのかを画面越しに問うてくる。
周りを見れば、教団の武器を持った信者たちが慌しく動き回り、それぞれの部署へ着こうとしている。数秒後には、壁に設置された各所にある拡声器から教祖のサイランティウスの声が響いて来た。
『皆の者よ! 遂に神の使いであるBETAを殺す異教徒共の攻撃が始まった! 戦闘員は直ちに所定の部署に就き、異教徒共を迎え撃つのだ! 他の者達も武器を取り、異教徒共に応戦するのだ! アーメン!!』
拡声器からサイランティウスの声が響き渡る中、ジブリールに雇われている2mを越える巨体を持つ男がテントに滑り込んで来る。理由は敵襲と報告である。
「ジブリールの旦那! 敵の攻撃だ!!」
『そんな物は見れば分かる! 状況を知らせろ!』
「あぁ! 攻撃を仕掛けたのは米海軍の艦隊じゃない! ミサイルの雨じゃ無く重巡洋艦の砲撃だ! それも一隻分で狙いは正確! 対空施設と機動兵器発進口が狙われている!」
『馬鹿な! ミサイルでは無く重巡一隻の砲撃だと!? 米軍でも無ければなんだ! 日本帝国海軍か!?』
報告した大男はノンダス人でジブリールの配下に着いている。BETA教団の軍事顧問を務めており、攻撃を仕掛けたのは重巡洋艦一隻だと伝えた。
その報告にジブリールは驚愕し、この世界で未だに艦隊決戦主義を持っている日本帝国海軍ではないかと言ったが、ノンダス人はそれを否定する。
「いや、部下の報告によれば、空から砲撃された。どうやら俺たちと同じ異世界の者だ!」
『くっ、殺人鬼共に感付かれたか! お前たちは直ちにセクストン等を回収し、この世界から逃げ出せ! 時間稼ぎはカルト共がやってくれる!』
「分かった旦那。直ぐに逃げる準備をする!」
ノンダス人が同じ異世界の者による襲撃だと言えば、ジブリールは敵わないと判断して退却を命じた。これに応じ、ノンダス人の男はセクストンと医者を連れて逃げ出す準備を始めた。
BETA教団の本拠地を襲撃する三十分前、アウトサイダーが予め用意されていた船、アーガマ級に乗ったジグムントらは、米海軍の攻撃前に先に攻撃しようと位置に着いていた。
この世界では戦術機という機動兵器はあるが、空を飛べる軍艦は存在しない。彼らが乗っているアーガマ級強襲巡洋艦は異世界より持ち込まれた兵器だ。
宇宙でも大気圏内でも運用が可能な軍艦であるが、練習艦であるために火力は正規の軍艦より劣る。一同が揃っているやや狭い艦橋内にて、ジークフリートは米軍に攻撃されないか心配になる。
「なぁ、こんな空飛ぶ軍艦、ヤンキーの海軍に攻撃されねぇか? 俺は心配で食事が喉に通らねぇよ」
「安心しろ、米軍は攻撃してこない。昨日、レールガンの製造レシピを渡して見返りに攻撃しないように約束を取り付けた。我々が攻撃して二時間後に米海軍は攻撃を開始する。その前に、異世界から持ち込まれた物を全て破壊せんとな。その装備類と人員はアウトサイダーが提供してくれた」
ジークフリートの不安に対し、ジグムントはフランケンシュタイン号で見ない面々を手で翳し、米軍とはレールガンの製造レシピを条件に契約したから心配いらないと伝える。
見ない人員はアウトサイダーが提供した者達であり、いま乗っている空飛ぶ船のアーガマもアウトサイダーが用意した物だ。
「気味の悪い奴だと思ったら、まさかこんなに気前が良いとはな」
「これだけ揃ったら、カルトも余裕そうね。ヴァセレートの到着を待たなくとも私たちだけで出来るわ」
アウトサイダーがありとあらゆるものを用意したので、ジークフリートは彼の気前の良さに感心しつつ、ジークリンデは自分らだけでBETA教団の制圧は可能だと自負する。
それもそのはず、格納庫には可変系MSのギャンプランに地上戦用MSディジェ、フォビドゥンガンダムをベースにした水中戦MSフォビドゥンブルーの三機が揃っている。
航空支援には爆装を施したVF-1D、砂漠での随伴機の為に用意されたハイザック、水中での随伴機のカプールが四機ずつ用意されていた。他にミカルがジム・スナイパーⅡで陸路から進んでおり、組み立てた状態の戦術機のF-14も待機している。マリの為に用意された物だ。ちなみに、スカイラーはバルキリーを所望している。
「俺たちを忘れて貰っては困るな」
「おっと、忘れていたウッズ大尉。内部への突入は任せる。こちらも数人を回そう」
「任せておけ。生前は多数のスぺズナズが居る基地に突入したことがある」
ジークリンデが自負する中、忘れて貰っては困ると言うバンダナを撒いた黒髪のアングロサクソン系の男、ウッズが割って入って来る。
彼はアウトサイダーが回して来た人員の一人だ。生前はアメリカ軍の特殊部隊に属しており、任務の最中、一度は死に掛けて行方不明となったが仲間に助けられて復帰。二度目は両脚を散弾銃で撃たれて現役を退いた。それでも歴戦練磨の戦士である。
ウッズの他に、白兵戦に優れた者が幾人か揃っている。マリ等が合流すれば、完璧と言えるだろう。
「そろそろ連装砲の射程距離に入るところです」
「もうそんな距離か。さて、出撃準備を…」
操舵手がアーガマ級の重巡の連装砲の射程距離に、BETA教団のアジトをもう直ぐ捉えたことを知らせれば、ジグムントは出撃の準備を一同に命じようとした。その前に、東ドイツで用事を済ませたマリが気配も感じさせず、いきなり艦橋に入って来る。
「もうパーティの時間?」
「っ! いつの間に!?」
「おい、いつの間に戻っていた!?」
余りにも気配を感じさせず、いつの間にか姿を現した金髪の女に、アウトサイダーからの追加人員たちは慌てふためき、艦長は警備部に問い合わせる。
ジグムント等は慣れているらしく、特に対した反応を見せない。
「あぁ、二十五分後に準備砲撃を開始する。連装砲やメガ粒子砲で対空設備や発進口を破壊した後、部隊を展開させる。敵も全力で迎撃部隊を展開してくるだろうが、我々は真先にアジトを目指す。ゾロゾロと出て来る敵は米海軍と海兵隊の戦術機部隊に任せる」
ウッズが思わず拳銃に手を伸ばす中、ジグムントはマリに対して作戦の概要を伝える。
「へぇ、先にアジト潰すの? それで、敵は降伏するかしら?」
「降伏しないだろう。狂信者は死ぬまで抵抗する。後片付けは米軍に任せれば良い」
「そう、じゃあ私の機体は?」
「地上のギャロップに搭載されている。F-14だ。艦上戦闘機では無く、戦術機のな」
「えぇ、あれ着るの…まぁ、良いけど」
アジトを潰せばBETA教団は投降するのかを問えば、ジグムントは死ぬまで抵抗し続けると答える。次にマリが自分の機体の場所を問うと、地上にあるF-14の場所を教えた。
マリは戦術機に搭乗する際に着る強化装備を着ることに抵抗感を覚えているようだが、憂さ晴らしのために我慢して着ることにした。
「じゃあ、行って来る」
それらをするために、マリは地上へと降りた。
マリが居なくなった艦橋では、彼女が一体何者かをウッズがジグムントに問う。
「でっ、あの魔女は一体なんだ? 黒目野郎から色々と聞いたが、気配がしなかったぞ」
「従っている我々でさえ知らん。分かるのは感情的で我が儘で幼稚なくらいなもんだ」
「ティーンエンジャーみたいなもんか。さて、俺たちも準備するぞ」
これにジグムントが一緒に居て分かったことを伝えれば、ウッズは出撃の準備を行うために艦橋を後にした。
攻撃まで後二十分になった所で、マリは自分の戦術機がある大型陸戦戦闘車両ギャロップに到着し、そこで戦術機に乗るために必要な衛士強化装備を身に纏う。
「やだ、これ。なんでこんなデザインにしたのかしら?」
それを身に纏ったマリは、このデザインにした人間に対して悪態を付きつつ、更衣室を出て用意されている戦術機、米海軍の主力戦術機であるF-14へ乗り込んだ。
操縦席へ座れば機器を操作して起動させ、操縦桿を握る。その瞬間に視界は機体頭部のメインカメラになる。頭部に付けている装置が連動しているのだ。この世界ではこれを七十年代で実現させている。
宇宙に五十年代で行っているのだから、ロボットも作ることは可能だろう。目前の前部ハッチが開けば、マリは操縦桿を動かして外へ出る。
砂漠の真ん中を発しているため、着陸した瞬間に砂の柔らかさで転倒しそうになったが、ジャンプユニットのスラスターを吹かせてバランスを整わせた。
出て来たギャロップからミカルが乗るジム・スナイパーⅡが出撃する。彼の機体は名前の通りに狙撃仕様なのか、砂漠仕様のカモフラージュが施されている。
一方でマリのF-14は組み立てたままの物であり、何のカモフラージュもされていない。無線機よりジグムントの声が聞こえて来る。上空のアーガマ級を見れば、次々とMSとバルキリーが発艦しているのが見えた。
『作戦開始まで後十分だ。全機出撃後、所定の位置にて待機。砲撃開始後に前進せよ!』
その声が響いた後、レーダーに自分の所定の位置が表示される。予め設定されていたようだ。普段は従わないマリであるが、この時は素直に従い、操縦桿を動かして所定の位置に機体を向かわせた。
砂漠の上で歩いていては時間が掛かるので、スラスターを吹かせて所定の位置まで一機に向かう。
辿り着くのに掛かった時間は一分余り、後九分になった所でマリは、音楽を掛けながら砲撃開始まで待機する。聴いている音楽はクラシックだ。
『アメリカ海軍第5艦隊、BETA教団の拠点を射程に捉えるまで二十分』
『こちらロレンス、配置に着いた。砲撃開始直後に早期警戒機を狙撃する』
『了解した。照準を定め、砲撃が開始された直後に狙撃しろ。アウト』
ギャロップに乗っているユウキが米海軍の艦隊が来る時間を伝えれば、配置に着いたミカルは見張りをしている早期警戒機のMSを狙撃すると伝える。
早期警戒機は強行偵察型ザクだ。数は二機でどちらともF2型をベースにしており、武装も十分に対応できるようにされている。
マリが聴いている音楽が終わりを告げる頃には、砲撃が開始された直後であった。まずは重巡の主砲が火を噴けば、次に両側面のメガ粒子砲が発射される。腕の良い砲手が担当しているのか、主砲は見事に狙った個所を破壊していた。メガ粒子砲を同様である。
強行偵察型ザクは直ぐに索敵を開始したが、ミカルの狙撃で一機目が胴体をビームで撃ち抜かれて沈黙すれば、二機目も同じように撃ち抜かれて撃破される。恐ろしい早撃ちだ。ミカル機が二機の偵察型を撃破したのを確認したジグムントは、全機に作戦開始の合図を送る。
『全機突撃! アーガマは砲撃を続けろ! バルキリーは上空警戒だ!!』
指示を出した後、自身が駆るディジェと共に先頭に立って前進する。その後ろから四機のハイザックが続く。水中戦用機に乗るジークリンデ等は、水中戦をするために海の方へ向かう。ジークフリートが乗るギャンプランは、ジグムントのディジェの地上部隊と共に前進していた。
『対空設備をすべて破壊して制空権を確保しろ! それ以外は無視して構わん! とにかく制空権の確保だ!』
地上を全身の最中に、ジグムントは対空設備の破壊を優先するように指示を出す。アーガマの援護砲撃を受けながら前進する中、敵の迎撃部隊が展開して来る。
『敵MSならびAT、AS部隊、多数が展開中!』
『来るぞ!』
『うぉ! 砲撃で殆ど潰れたんじゃねぇのか!?』
ユウキの知らせで、敵部隊がかなりの数だと分かれば、対空砲火を受けているジークフリートは砲撃で仕留められなかったのかを文句を言う。
そんな彼にお構いなしに、狂信者たちが乗る機動兵器らは容赦なく主兵装を撃って来る。
唯一戦術機に乗るマリは雨あられの弾幕を回避しつつ、目に付いた敵機に突撃砲の照準が合い次第に撃ち込んで撃破する。
ホバー移動しながらこちらに向かって来るディザート・ザクの装甲は、この世界の戦術機の兵装でも容易く撃破が可能であり、一機、二機と続々と被弾して爆発していく。F-14の性能はディザート・ザクの性能を遥かに凌駕しており、それにマリの技量が合わさって恐ろしい物となっている。その所為でマリは世界で最強の衛士となった。
『おい、遊ぶな! 残りは米海軍と海兵隊にやらせれば良い! 先に対空設備を破壊しろ!』
「ちっ、サーヴァントの癖に」
続々と出て来る旧ザクやリーオー、アンフ、スコープドック、サページを撃破していく中、ジグムントから遊ぶなとの注意を受け、苛立ちながら対空戦車代わりになっているザクタンクを攻撃する。
突撃砲を何発も受けたザクタンクは、一瞬のうちに火を噴きながら爆発した。機動兵器の他に大戦期の戦車であるT-34が出て来たが、ジグムントのディジェや随伴のハイザックに撃破されるばかりだ。
敵機の掃討を続けていると、情報に無い航空機が続々と現れた。
『上空に反応! 航空機です!』
『航空機だと!? そんな情報ねぇぞ!』
『良いから叩き落せ!』
ユウキの知らせで気付いたジークフリートは、飛んでくる機銃を交わしながら航空機が出てきたことに驚く。
航空機は改造された宇宙戦闘機であるトリアエーズとジオンの戦闘機であるドップだ。
トリアエーズは武装が25mm機関砲と言うMSには非力な物であったが、武装をビーム機関砲に取り換えており、ドップならいざ知らず、高性能可変MSであるギャンプランには脅威である。
『畜生が! なんで俺ばっかり狙われるんだ!?』
多数の小型戦闘機に攻撃されるジークフリートは、叫びながらも十分に戦っていた。それでも地上への進軍は予定通りに進み、対空設備をある程度の内に破壊していくと、VF-1Jバルキリーに乗ったスカイラーが援軍として現れる。
『大丈夫? 空は随分と苦戦しているみたいだけど』
『おっ!? スカイラーちゃんか! こっちは纏わり着かれてんだよ! 助けてくれねぇか!?』
『OK。ドックファイトは久々で、腕がさびて無ければ良いんだけど』
多数の敵機に囲まれて苦戦しているジークフリートが、スカイラーに助けを求めれば、彼女は直ぐに目前の敵機をガンポッドで撃墜する。それも連続であり、瞬く間に三機も撃墜した。
『おう! 流石は!!』
『まぁ、向こうは飛ばして何十時間って所ね。ルーキーだわ。それより、カルトがどうして航空機を動かせるのかしら? 普通なら二年は掛かるのに』
『なんらかのコンピューターを埋め込んでいるのだろう。それも身体にな』
一気に形勢が逆転し、戦闘爆撃機に改造したVF-1Dが飛べるようになった後、スカイラーは航空機を動かせないはずのBETA教団がどうして動かせるようになったか疑問になった。
この疑問に、地上に居るジグムントはコンピューターを身体に埋め込んでいると言えば、多数が不快に思い、少数が納得する。一方でマリの方は、ジークリンデ等が担当する海上の方まで戦場を広げ、そこでマリンザックやザク・マリナー、マシィードックを撃破していた。
『貴方の担当は地上じゃなくって?』
「良いじゃん、別に」
フォビドゥンブルーで海中の敵機を次々と海の藻屑にしていたジークリンデから文句を言われるが、マリは聴く耳持たずに自分に歯向かって来る敵機を落とし続ける。
『任せた方が…』
『駄目よ。海軍機と言っても海中での戦闘は出来ない。私たちは海中の敵の掃討よ』
海上で撃墜されて沈んで来る残骸を見たカプールのパイロットが、この場をマリに任せようと提案したが、得物を取られてやや不機嫌なジークリンデは却下して恐れをなして逃げようとする敵機を鎌で両断する。空かさず、近くに居る二機目と三機目と続け様に撃墜していく。
上空を飛んでいるマリの方では、未だに敵機が襲い掛かって来るが、実戦経験も無いBETA教団が叶うはずが無く、殺虫剤を浴びた蠅のように落とされるばかりだ。
『アメリカ海軍第5艦隊より発艦した艦載機部隊が戦線に到着! ミサイルによる波状攻撃が開始されます! 注意して!』
向かって来るのは放っておいた敵機だが、やがて米海軍が辿り着いたのか、直ちに攻撃を開始する。
『もうそんな時間か。各機へ通達! 米艦隊のミサイル攻撃に注意! 巻き込まれるなよ!』
アーガマに乗っているノエルからの知らせで、米海軍の艦隊によるミサイル攻撃が来ると分かったジグムントは、巻き込まれないように注意する。攻撃部隊は米軍の標的になりそうな場所を避け、敵と戦闘しつつ前進した。
物の数秒後で後ろから追って来る敵部隊は米海軍の艦隊によるミサイル攻撃で壊滅状態となり、更にやって来たF-14戦術機部隊のフェニックスミサイル攻撃により完全に沈黙する。
マリが居る方にもやって来たためか、彼女は手近な敵機を盾にして退け、自分に当たりそうなミサイルは突撃砲で迎撃すると言う芸当を行った。その光景は直ぐに、前線に到着した同型機で編成される一戦術機部隊に目撃され、自分等もそれが出来るんじゃないかと米海軍の衛士たちは思う。
『おい、あのF-14、俺たちが放ったミサイルを迎撃してなかったか?』
『見間違いだろ。戦術機にそんな機能はない!』
『俺も出来るかな』
このやりとりは、同型機に乗るマリ機にも無線機を通して聞こえて来る。
先行している異世界組とは、事前にアメリカの諜報員が艦隊に知らせてくれたのか、その部隊指揮官から無線連絡が入る。
『こちらアメリカ海軍第5艦隊所属、第113戦術歩行戦闘機隊ブラック・キャッツ! 提督より貴官らと合流せよとの指令を受けている! 以後、データリンクされたし!』
『こちらアントン! 受信した! 性能はそちらの戦術機の方が上だ! 援護に感謝する!』
部隊指揮官の無線連絡に、ジグムントはコードネームを使って返せば、こちらに加わったブラック・キャッツは敵機との交戦を始める。
敵の数はまだ多いようだが、米海軍の戦術機部隊の参入により掃討は更に早まり、次々と砂漠の上にスクラップを増やすばかりだ。空の敵も突撃砲の対空射撃で次々と落とされており、もはや虐殺状態に近い。
『あの世でBETAとファックしてやがれ!』
『敵拠点まであと少しです!』
『こちら羽馬! あと少しで敵拠点を射程距離に捉えます!』
『全く、楽な物だな。向こうは可哀想だが』
ここまで掃討が進めば、後はアジトを残すだけだ。
先行しているジグムントの隊がもう少しの距離にアジトを捕らえようとすれば、思わぬ敵の増援が現れた。
『レーダーに新たな反応! これは!?』
『こちらで捉えました! 十一時の方向からドムタイプのMS部隊が高速で接近中! 注意してください!!』
『ドムだぁ? 連中、ドムなんぞ持ってやがったのか?』
空のアーガマに居るノエルが驚く中、地上のギャロップに居るユウキは複数のドムタイプが接近していることが分かり、それを直ぐに知らせる。上空で楽をしていたジークフリートは、空から襲ってやろうと思ってそちらへ向かう。
そこには発展型のドム・トローペンを初め、ドワッジ、ドムキャノンなどを初めとした各種大隊規模のドムタイプがホバー移動でこちらに接近していた。その背後からは砲撃戦型陸戦MAであるザメルや可変戦車であるヒルドルブも見える。
ドムタイプだけでなく、空からも敵の編隊が迫っていた。
『っ!? 敵航空部隊に新たな増援! 可変MSです!!』
『な、なんだとぉ!? 地上だけでなく空からも来るのかよ!』
『こっちはまだ爆装のままなのに!』
ノエルより空からMA形態がUFOのような外見を持つ可変MSのアッシマーが多数接近していることが知らされれば、多数の敵機を相手にしなければならないジークフリートは嘆く。
その動きからして素人の集団であるBETA教団とは違い、練度も連携も高くかなりの実戦を重ねていると分かる。
『あれが軍事顧問を担当していた奴らと言う事だな』
『こっちにも現れたわ! ズゴックやハイゴック!』
『教え子たちを殺されまくって怒ったか? それにしても下手過ぎねぇか?』
あの集団がBETA教団の軍事顧問を担当している者と、ジグムントは分かった。陸上と空だけでなく、海中からも向かって来たとジークリンデから知らされる。
米海軍の戦術機部隊も新手の集団を見付けてか、交戦しようと接近し始める。
『なんだこのファット共は?』
『UFOまで居るぞ!』
『各機、性能においては俺たちの方が強い! やる…』
先の安物と思ったのか、迂闊に接近した海軍機が撃墜された。友軍機をやられて動揺した海兵たちであるが、直ぐに持ち直して反撃を試みたが、敵は熟練の集団であるのか、逆に押されて苦戦する。
『米海軍戦術機部隊の被害が拡大中!』
『駆逐艦一隻、敵MAの砲撃により大破!』
地上での苦戦模様はユウキから知らされ、海上の被害はノエルから知らされる。
『うわっ!? なんだこいつ等! プロかよ!!』
『最初から出れば良かったのに!』
『こちら柿崎! 被弾しました!』
空も戦闘のプロ集団に押され、苦戦している様子だ。ジークフリートが複数のアッシマーと交戦しながら叫んでいる。水中でも同様に苦戦しており、ジークリンデが連携を取って攻撃して来るズゴックやハイゴックに苦戦している。地上もまた苦戦を強いられ、一機のハイザックが中破して戦線から離脱しようとアーガマまで飛んでいた。
プロの集団は相手を選ばず、マリが乗るF-14にも襲い掛かる。
『中々の操縦技量だな! だが、幾千もの戦場を掛けた我らノンダス人に敵うはずが…』
そのノンダス人が乗るズゴックが海中から飛び出し、三本爪でマリのF-14を串刺しにしようと振りかざしたが、あっさりと避けられ、コックピットに戦術機専用のナイフを突き刺されて沈黙する。
『おのれ! よくも戦友を!!』
引き抜いた後、仲間の仇を取ろうとするハイゴッグに向けて蹴り付ける。
物の見事に蹴り付けたズゴックの残骸はハイゴッグに命中し、マリが温存してあった劣化ウラン弾を使用する滑走砲を撃ち込めば、ズゴックを貫通してハイゴッグをも貫き、二機分の大爆発が起こった。
続けざまに熟練のパイロットである自分等を倒したマリに対し、ノンダス人の傭兵たちは一瞬怯んだが、戦闘民族であるために直ぐに持ち直して襲い掛かる。
今度は水中だけでなく、海上に浮かぶドム・トローペンやドワッジ、上空からはアッシマーによる三方からの攻撃だ。並の人間なら成す術も無くやられるが、マリはそれでは倒せない。先に水中からズゴックが攻撃を仕掛けたが、来るのが分かっていたかのようにマリはそこへ突撃砲を撃ち込んで撃破し、目晦ましの水飛沫を発生させた。
『なっ、なに!?』
味方が倒されたことに驚いてか、足を止めてしまったドムをマリは踏み台にして上空へ飛び上がり、上空のアッシマー一機を滑走砲で撃墜する。撃墜されたアッシマーはバラバラになり、残骸は海へと落下していく。
続け様に横にスラスターを吹かせてビームを避け、MS形態になって殴り掛かるアッシマーのパンチを避けてから頭部を蹴り、更に上空へと飛び上がって別のMA形態のアッシマーに向けて突撃砲を放つ。
『空中戦をやっているのか!?』
『あんなの出来るか!?』
『出来るわきゃねぇぜ!』
蹴られたアッシマーのパイロットは、マリが戦術機で空中戦をやっていることに驚き、同型機に乗る衛士らは自分たちには出来ない芸当であると叫ぶ。
一機、二機とアッシマーを撃墜する中、マリはマシンガンで対空射撃を行うドム・トローペンを滑走砲で撃破した。ドムに滑走砲を放った理由は、突撃砲での弾頭で撃墜が難しいからである。
対突撃級に使われる滑走砲の威力は、ドムの更なる発展型であるドム・トローペンを真っ二つにする威力であり、真っ二つになった敵機は爆発する。
『やり過ぎだ…』
ドムキャノンをビームライフルで撃破したジグムントはマリの加減の無さに呆れつつも、背後からヒートホークを手に迫るドワッジを左手のビームナギナタで突き刺す。素早く抜き取り、上空から強力なビーム砲を浴びせて来るアッシマーを右手のビームライフルで撃墜した。
『この戦闘バカ民族め! 俺様を怒らせるとこうなるぞ!!』
上空で複数のアッシマーに囲まれ、MS形態の一機に取り付かれたジークフリートは、同じ可変機である機体をMS形態にして吹き飛ばし、両手にビームサーベルを抜いて取り付いていたアッシマーを切り刻む。
続けて連携を取って攻撃して来る三機のアッシマーに向けて両腕のメガ粒子砲を撃ち込んで一機を撃墜に成功した。残る二機はスカイラーのVF-1Jが強力な空対空ミサイルで撃墜する。
『サンキュー、スカイラーちゃん!』
『お礼言ってないので! 後ろから来るわよ!』
『うわっ!?』
礼を言うジークフリートだが、背後からまたもやアッシマーが来てビームを撃たれる。これを寸での所で躱し、自由落下しながらメガ粒子砲での反撃を行う。
水中ではジークリンデが活躍しており、水中戦でもプロのはずのノンダス人が乗るズゴックやゴック、ハイゴックを圧倒していた。
『ど、どういう事だ!? エースクラスが討伐に出てくるなど!』
『ぬぅ、これ以上は全滅する! 撤退するしかあるまい!』
魚のように自由に動き回り、複数の敵機を海の藻屑に変えて行くジークリンデのフォビドゥンブルーに対し、歴戦練磨のノンダス人たちは恐れおののき、これ以上戦っていては全滅すると判断して撤退し始めた。
地上や海上、空でも戦術機で空中戦を演じていたマリに全滅させられることを恐れてか、ノンダス人の傭兵部隊は撤退する。
『敵増援部隊、撤退します!』
『ふぅ、助かるな。木馬二世、敵拠点に強行着陸できたか?』
『こちら木馬Ⅱ! 敵基地に強行着陸完了! ウッズ大尉が率いる歩兵小隊が突入中!』
『我々も残りの掃討を米海軍や海兵隊に任せて合流する! その中にも機動兵器があるかもしれんからな!』
『はっ!』
『全機、木馬Ⅱが敵拠点に着陸した! 直ちに合流されたし!』
ユウキの知らせで敵の増援部隊が撤退したことを知れば、ジグムントはアーガマ級に無線を繋いで問えば、予定通りに敵拠点に強行着陸していると知る。敵残存兵器の掃討を米海軍に任せ、出撃している全員にBETA教団の拠点に集まるように指示を出す。
指示を受けた一同はそれに従い、アーガマ級へと集結する。マリのF-14もそれに従い、アーガマ級へと集結した。
「な、なんてことだ…! 三個師団が居る防衛ラインを突破してくるなんて…!」
「あ、ありえん! 性能は低いが、数ではこちらが上のはず! 一体奴らは何なんだ!?」
防衛線を突破され、遂にBETA教団の拠点に突入したマリ達に対し、セクストンと医者は恐怖した。あれほどの数の機動兵器を、僅かながらの戦力で粉砕しながら一時間でここまで突破して更に突入して来たのだ。
数で押し潰そうと必死にやったが、その後から米海軍の討伐艦隊が参戦で状況は悪くなるばかりで、ノンダス人の傭兵部隊を投入しても、マリの圧倒的な技量を前に大損害を被って撤退した。まだこちらの数は多いが、士気低下で米海軍に虐殺されつつある。全滅するのは時間の問題だろう。
それに突入したマリ達の歩兵も強かった。世界中から追われたBETA教団全員がここに集まっており、武装させればこちらの数が圧倒的な筈だが、敵はそれを覆す程に強かった。
特に二十年くらいも前の装備の黒髪のアングロサクソン系アメリカ人だ。ベトナム戦争で特殊部隊が使用したM16系のカービン銃で、次々と信徒たちを撃ち殺している。他も強くて信徒らは的にしかならない。
「旦那方! 奴らは強い! まるで武神だ!! 俺たちの戦友達が迎えに行ったが、返り討ちにされちまった! 直ぐに避難だ!!」
「まさかあの程度の戦力で突破されるとは! 分かった! 護衛してくれ!」
加勢に入ったノンダス人でさえ敵わないと分かれば、セクストン等は予め脱出の用意をしていた者達の誘導に従い、脱出用の船が用意されている区画まで走る。
救出対象に入っていない教団と幹部、教祖らは既に技術提供者や軍事顧問らが逃げ出していることに気付かず、自分等を倒しに来たマリに無謀にも立ち向かおうとする。
『悪魔だ! 奴らは悪魔だ!! 神聖たる神の使いであるBETAを殺すだけでなく、守ろうとする我々を殺す悪魔だ!! 必ず奴を討伐せよ! 絶対に!!』
廊下では教祖の戦意向上演説が拡声器からずっと垂れ流されている。これは録音であり、発信源が破壊されるか電流が無くなるまで続くだろう。この演説を聞いた教徒たちは狂信者となり、マリ達に向けて死を恐れずに突っ込む。
「なんですの!? こいつ等! 死を恐れずに突っ込んで来ますわ!」
「お姉さま! 左に敵!!」
拠点内に突入し、一気にハンガー内まで来たマリ達であったが、命知らずの狂信者たちによって足止めを受けていた。
イーディが死を恐れずに突っ込んで来る狂信者たちに恐れをなす中、妹のリコリスに左手から敵が来ると知らされ、そこへ向けてM1A1トンプソン短機関銃で銃撃する。リコリスはM3A1短機関銃、工具みたいな形をした機関銃だ。
連射力の高い二挺の短機関銃の弾を受けた狂信者たちは倒れて行く。だが、彼女らが幾ら強かろうが、敵はそれでも怯まずに突っ込んで来る。
「くそっ、これじゃ突破できん! ロボットに乗ってる奴! あの狂信者共に向けて機銃掃射だ!」
『了解! こちらバーミリオン3、機銃掃射開始します!』
そんな狂信者らに対し、ウッズは機動兵器による支援を要請する。この支援に応じたのは、柿崎が乗るVF-1Dであり、バトロイド形態が手にしているバルカン砲で機銃掃射を始める。
アメリカ空軍のA-10攻撃機に搭載されている物と同じであり、凄まじい銃声が鳴り響いた後、大挙して押し寄せた狂信者たちは肉塊と化した。同時に随伴して突っ込もうとしたスコープドックやサページも、バラバラになって大破する。
「よし、上出来だ! 敵が怯んでいる隙に突撃するぞ!」
敵の抵抗が緩んだところで、ウッズ達は突撃を始めた。
ギャロップも到達し、拠点の掃討が進む中、マリのF-14は遅れてアーガマ級に到着、カタパルトの上に着地してから彼女は戦術機のコックピットから飛び出して予備の機体が無いかどうか問う。
「ねぇ、代わりの機体とか無い?」
「機体? あるにはありますが、あれは…」
問われた整備兵はジムⅢを見ながら言うが、その機体はジグムントの予備の機体だ。当のジグムント本人はまだディジェで戦えるのか、内部に残っている敵の掃討に当たっている。
使うタイミングは完全に失っていると思われるので、マリは強化装備のままジムⅢに向かう。
「あるのね! それじゃ」
「えっ!? その機体は!」
整備兵の静止の声も聞かず、マリはジムⅢに乗り込んだ。整備兵等は損傷した機体の整備に忙しく、誰も止めようともしなかった。そればかりか、誰か代わりを寄越したと思って、管制官はジムⅢの発進を許可する。
『ん、代わりの者か? よし、発進しろ! ライフルを忘れるな!』
許可が出れば直ぐにマリはジムⅢで発進した。無論、ライフルを忘れずに発進し、拠点を守ろうと戻って来る敵機を続け様に撃破して。
『あぁ? なんだぁ? あれはジグムントの…』
いきなり飛び出して来て、次々と敵機を落としていくジムⅢを見て、外で拠点に戻って来る敵機を迎撃していたジークフリードは、ジグムントが乗り換えたと思ったが、アーガマ級のカタパルトで放置されているF-14を見て、マリが乗っていると分かる。
『あぁ、マリか』
あの動きでマリだと判断して、自分は向かって来る敵を落とし続けた。
マリのジムⅢが両肩のミサイルを撃って鬱陶しいT-34/85中戦車を数量纏めて撃破する中、怒り心頭のジェイコブが乗るMSが迫る。その機種はデザートゲルググだ。背中のビームキャノンを撃ちながらドムのようにホバー移動で接近して来る。
『おのれ! よくも私の教団を!!』
拡声器でも使って喋っているのか、ジェイコブの声が聞こえて来た。動きはオリジナルの阿頼耶識のおかげでベテランが乗っているかのような物である。もっとも、ジェイコブの実験経験は皆無であるが。
移動しながらの射撃をマリは避けつつ、手にしているビームライフルで撃ち返すが、ジェイコブは背中に付けている阿頼耶識システムのおかげで避けながら接近して来る。そんな奴に射撃戦では避けられると思ってか、ビームライフルを腰のラックに付けてから背中のビームサーベルを抜く。
『この阿頼耶識を付けた私と接近戦をするつもりか!? ぶった切ってくれるわ!!』
敵もこちらが接近戦をすると分かれば、自信満々に左手にビームナギナタを抜いて近付いて来た。ただし、ビームライフルやビームキャノンを撃ちながら。
『死ねぇ!!』
雨のように放たれるビームをシールドで防ぎつつ、敵がビームナギナタを振るった瞬間に、マリはビームサーベルを砂塵に向けて振り、土煙を巻き起こす。
『うっ!? ど、何所だ!?』
マリが直ぐに移動すれば、ジェイコブはジムⅢを見失って機体のあらゆるカメラで探し始める。そのジェイコブのデザートゲルググに向け、マリは瞬時に接近してビームサーベルを振るう。
敵は気付いたが、マリの方が早く、ジェイコブのデザートゲルググは胴体を切り裂かれる。直ぐにマリは爆発に巻き込まれる前に離れる。
『こ、こんな所でぇ! この私がァァァ!!』
ジェイコブが断末魔の叫びを上げた後、デザートゲルググは爆発した。
『狂信者共の巣の崩壊は近い! これなら海兵隊が突っ込んで来る前に終わるな!』
武闘派のリーダーであるジェイコブが戦死すれば、拠点の制圧もあと少しと終わるとウッズから無線で知らされる。
戦闘がもう直ぐ終わるとマリも思い、ビームの刃を仕舞ってバックパックの専用ラックに戻す。彼女の予想通り、砂漠に居るBETA教団の機動兵器部隊は、アメリカ海軍と海兵隊の戦術機部隊に制圧されつつある。
「戻ろうかしら?」
メインカメラに映るアーガマ級の方を見て、マリは戦闘が終わるまで待っていようとしたが、BETA教団は諦めていなかったようだ。
拠点内部で大爆発が起き、ウッズから退避を叫ぶ声が無線より聞こえて来る。
『どうした!?』
『退避だ! 教祖の豚野郎め、宇宙戦艦を持ち出した!!』
『な、なんだあのデカいのは!? 戦艦かッ!?』
最後に上空を警戒していたジークフリートの驚きの声が無線機から響けば、拠点から巨大な物体が飛び出て来る。
その巨大な物体の名はパトゥーリア。ニュータイプ専用の巨大モビルアーマーであり、地上での運用を目的とされていた。
本来はニュータイプが乗ってこそ実力を発揮する物であるが、そんな便利な人間は殆ど居ないので、代用として阿頼耶識システム、それもオリジナルを移植した人間七名が搭乗している。それでも十分に能力を発揮できる。
『神の使いであるBETAを抹殺せんとする異教徒に悪魔どもめ! 我らの出資者らが寄付したこの巨大兵器で根絶やしにしてくれるッ!!』
BETA教団の教祖であるサイランティウスが拡声器から叫べば、パトゥーリアは戦艦のような外見から不気味な戦闘形態へと変形した。