シュヴァルツェスマーケン もう一人のアイリスディーナ 作:ダス・ライヒ
シュヴァルツェスマーケン
不気味な戦闘形態へと変形したパトゥーリアは、目前や地上にある物全てに攻撃を始めた。搭載されている無数の有線ビーム砲を展開し、手当たり次第に撃つ。敵味方に関係無くだ。
マリ達は並外れた反射神経で避けるが、並大抵の人間は避けられず、柿崎機は被弾して離脱する。
『こちら柿崎! 被弾しました!!』
『ならアーガマに飛び込め! クソッ、なんだあのデカいのは!? 聞いてないぞ!』
内部に突入していたジグムントは外で起きている状況を知り、パトゥーリアの存在を知らなせなかったアウトサイダーに対し悪態を付く。
空でビーム弾幕に晒されているギャンプランに乗るジークフリードも同様で、ビームを避けながら叫ぶ。
『俺も聞いてねぇよォッ! こんな化け物が出るなんてよォ!!』
そう叫びながらも、彼は一発も被弾することなくビームを避け続けていた。だが、スカイラーや他のパイロット、アメリカ海軍と海兵隊の衛士たちは避け切れずに被弾したり、撃墜されたりしている。残っているBETA教団の機動兵器も同様であり、これで完全に教団の部隊は全滅する。
『くっ、被弾した! 脱出するわ!』
『お、お止め下さい! 教祖様! まだ我々…』
『こちらレッド中隊! 被害甚大! 繰り返す! 被害甚大!!』
『駆逐艦ジェームス・パターソンが大破! 戦闘不能です!』
『米海軍並び海兵隊の戦術機部隊の損害が拡大しています! 早く対処してください!』
『無理だわ! あんなの、フランケンシュタインに残してある物を使うしか…!』
『駆逐艦の一隻が荷粒子砲により轟沈! 尚も艦隊の被害が拡大中!』
無線機からパトゥーリアの戦闘力の高さに恐れおののく声が次々と聞こえる中、マリは単機でそのパトゥーリアに挑んだ。
『っ!? その機体ではMAには敵いません! 一度撤退を…』
「あんなの、放っておくわけにはいかないでしょ!」
ノエルからの静止の声に、マリは無視してパトゥーリアに挑む。たった一機のジムⅢが近付いてくることに気付いたパトゥーリアに乗るサイランティウスは、狂気染みた笑い声を上げながら有線ビームによる弾幕を浴びせる。
『ブワハハハッ! 悪魔め、この無敵の私にそんなちゃちな物で挑もうと言うのか!? 嬲り殺してくれるわァ!!』
雨あられとビームを乱射するサイランティウスであるが、マリはそれらをまるで見えているかの如く避けて近付いてくる。高威力の荷粒子砲も躱し、人間が乗っているとは思えない機動力で近付いてくる。
『ひっ、ヒィィィ!? 弾幕をすり抜けたァ!?』
『恐れるなァ! これは神からの試練だァ!! あの悪魔を撃ち落とせぇ!!』
同乗している狂信者がマリに恐怖する中、薬物でも投与されているのか、サイランティウスは戦意を失わずに接近して来るジムⅢの迎撃に集中する。
『今なら…!』
注意が完全にジムⅢに向けば、ミカルのジム・スナイパーⅡはパトゥーリアを狙撃できる位置に到着し、そこから荷粒子砲の発射口に狙いを定め、引き金を引く。発射された長距離ビームは発射口を見事に撃ち抜き、パトゥーリアの戦闘力を落とした。
『ぬぉ!? 何事だァ!?』
『荷粒子砲の一門を破壊されましたァ!!』
『おのれ! その悪魔は何所だッ!?』
一門が破壊されたことで、サイランティウスは狙撃したミカルのジムを探したが、彼は別の狙撃地点に移動し、そこから一つの有線ビーム砲を狙撃して破壊する。
『反応が遅くて助かる!』
敵の反応が遅い事に感謝しつつ、続け様に有線ビームを狙撃して破壊するミカルであったが、遂に感付かれて荷粒子砲を撃ち込まれてしまう。幸い、彼は死なずに軽傷だけで済んだが、機体は完全に戦闘不能状態となる。
『済まない、もう少し頑張ろうと思ったが、ここまでの様だ』
『十分だ! アーガマ級、俺とジークフリートが囮になる! ジークリンデ、援護しろ!!』
ミカルがジグムントに後を頼めば、彼は空中のジークフリートと共に囮になると言って、海中に居るジークリンデに援護を要請する。
これに応じてギャンプランに乗るジークフリートはメガ粒子砲を撃ち、フォビドゥンブルーに乗るジークリンデは海中から援護射撃を行う。ジグムントもバズーカで攻撃を始める。マリを敵の懐に接近させるためだ。
パトゥーリアは未だ健在であり、有線ビームや荷粒子砲を撃ちながら四人に対処する。
『鬱陶しい悪魔め! まずは貴様からだァ!!』
『畜生! 避け切れねぇ! うわぁぁぁ!!』
サイランティウスの狂気により更に稼働力を増したパトゥーリアのビーム弾幕を避け切れず、ジークフリートのギャンプランは被弾して墜落した。次に海中にもビームの雨を降らせ、ジークリンデのフォビドゥンブルーを戦闘不能に追い込んだ。
『操縦不能! 脱出する!!』
『まだ取り付けないのか!? うわっ!?』
ジークリンデの無事を確認したジグムントは、マリにまだパトゥーリアに取り付けないのかと問うが、彼のディジェにも荷粒子砲が撃ち込まれて戦闘不能となる。
最後に残ったのはマリのジムⅢとアーガマ級だけだ。アーガマ級はメガ粒子砲を加えようと船体を正面に向けるも、荷粒子砲を受けて被弾する。
『左舷に大破! 次を受けたら持ちません!』
『退避する! 後は頼んだぞ!』
アーガマ級が左舷に甚大な損傷を負って退避する中、マリはようやくパトゥーリアに接近することに成功した。
『お前で最後だ!』
接近したが、囮はもういない。マリに攻撃が集中して来る。有線ビームが飛んでくる中、マリは機体のビームサーベルを抜いて次々と切り裂き、本体に接近しようとスラスターを吹かせる。
無茶な奮戦をしながらパトゥーリアに近付こうとするマリであるが、機体性能が限界に達し、複数の有線ビームに捕らわれた。
『ブハハハ! 両手両足を縛ったぞ! 嬲殺しにしてくれるわァ!!』
有線ビームでジムⅢの両手両足を縛り、嬲殺しにしようとするサイランティウスであったが、マリには奥の手があった。
「動かない…! ならっ!」
機体が縛られて動かないと判断すれば、マリはコックピットのハッチを魔法の波動で破壊して外に飛び出した。それをカメラ越しの映像で見ていたサイランティウスは、気でも狂ったと思って大声で笑い始める。
『ハハハ! 気でも狂ったか!? 勝手に死ぬが良いわ!!』
追い詰められた挙句、マリが自殺しようとしたと思ったサイランティウスであったが、彼女はポケットからある物を取り出す。それは、手のひらサイズのライガー・ゼロの模型だ。だが、その模型は動いている。マリが手を翳して詠唱すれば、ライガー・ゼロは元のサイズへ戻る。
どうやらマリは、ライガー・ゼロを魔法で小さくして所持していたようだ。突然、何所からともなく現れ、飛び掛かって来る大型のライオン型ゾイドのライガー・ゼロに、サイランティウスは驚愕の声を上げる。
『し、白い巨大なライオンだとォ!? ほ、本当に悪魔、いや、魔女だァ!!』
相手が見たことも無い現象を見て驚愕している内に、マリは空かさずパトゥーリアの操縦室がある部分に向かって右前足のレーザークローを振りかざす。
「ストライクレザークロー!!」
マリが技名を叫び、ライガー・ゼロがレーザークローを横へ振るえば、パトゥーリアの操縦室は抉られ、そこに居た者達の物と思われる肉片が、破片と共に空へ撒き散らされる。
「う、うわぁぁぁ!? た、助けてぇ!!」
何の奇跡か、それともご都合主義なのか、同乗していた六名の狂信者は肉片になっているにも関わらず、サイランティウスだけは無傷で生きていた。
一人生き残った血塗れのサイランティウスはマリのライガー・ゼロを前にして恐怖し、失禁までして命乞いを始める。
ライガー・ゼロの全ての足の爪をパトゥーリアに突き刺して踏ん張っていたマリは、先ほどの威勢が消えて見っとも無く命乞いをするサイランティウスに対し、顔を動かす操縦桿を動かして容赦なく噛み砕こうとする。
「わぁぁぁ!! よ、止せぇ! 止めろぉ!! 食べないでお願い!!」
涙を流しながら必死で命乞いをするサイランティウスを、マリが駆るライガー・ゼロは鋭利な牙で噛み砕いた。
真っ白な頭はBETA教団の教祖の返り血で赤く染まり、恐ろしさを増させる。操縦者を失ったパトゥーリアはそのまま地面へと落下していき、マリのライガー・ゼロは上にあがって巨体をクッションにして墜落の衝撃を免れた。
『終わったか…』
『全く、聞いてねぇぞ。あんなのが出て来るなんて』
パトゥーリアがマリのライガー・ゼロに討たれれば、BETA教団は壊滅した。
『よし、総員撤収だ。破壊しておく物はまだ残っているか?』
『いや、無い。あちらさんがご丁寧に全てぶっ壊してくれたよ』
『手間が省けたな。では、後は米軍に任せて我々は撤収だ』
戦闘が終わって安堵するマリ達は、証拠隠滅は敵がやってくれたことに感謝しつつ、その場を撤収し始めた。
簡単に終わると思われたBETA教団殲滅戦であったが、思わぬ伏兵により、多数の負傷者と保有兵器の殆どが戦闘不能と言う結果に終わった。死者が出なかったことが幸いだろうか。
しかし、アメリカ海軍の第5艦隊と海兵隊の戦術機部隊の損害が酷く、所有する艦艇三隻が轟沈、二隻が大破、死傷者多数と手酷い被害を受けた。
「おい、黒目野郎! あんなグロイ兵器が出て来るなんて聞いてねぇぞ!!」
地上での後始末を終えた一同は、一度フランケンシュタイン号に戻った。
艦橋内にて、ジークフリートはアウトサイダーに対し、パトゥーリアの存在を知らせなかったことに激怒する。それもそのはず、何の知らせも無く、アメリカ軍が核弾頭を持ち込もうとする兵器が出て来たのだ。これもジグムントもジークリンデも同意見だ。
この中で出撃しなかった者やマリを除き、全員が負傷して包帯を巻き、中には手足を骨折している者や車いすの者も居る。
「確かにあれは予想外だ。おまけにウッズ大尉も文句を言っているぞ」
「お前の所為で、左足が折れちまった。保険は出るんだろうな?」
「済まなかった。諸君等なら、乗り越える事が出来ると思っていた」
ジグムントやウッズからのクレームに対し、アウトサイダーは謝意も無い言葉で返す。
これが癪に障ったのか、ジークフリートは殴ろうとするが、ジークリンデに止められる。次に船長はこれで、元の次元に帰れると思い、皆を落ち着かせるために口を開いた。
「これで、わし等は元の次元に帰れるのだな。では、さっそく帰ろうじゃないか。そこからお嬢さん探しを…」
「その前に、新しい取引がある。条件付きだが、マリ、お前に取って大変重要な物だ」
「えぇ? また無茶なことを言うんじゃないだろうな…」
アウトサイダーが余計なことを言ったので、マリが黒目の青年に視線を向けた。どうやら食い付いたらしい、アウトサイダーが出した見返りは、ルリに関する物の様だ。船長はまた何かに巻き込まれると思い、頭を抱える。
「勇者の正確な居場所を教えよう。もちろん、条件がある。自分で探すのも手だが、悪い話では無い」
「聞かせて。条件次第ならやっても良い」
マリが条件次第ならやると言えば、アウトサイダーはその条件を明かした。
「良かろう。やって貰うのは、この世界では二年後余り、場所はドイツ東部地方で第666戦術機中隊、通称シュヴァルツェ・マルケンの全員を誰一人欠けることなく春まで守って貰いたい」
条件はこの世界の二年後、ドイツ民主共和国人民地上軍の戦術機部隊、第666戦術機中隊、シュヴァルツェ・マルケンの面々を誰一人欠けることなく、春の到来まで守れとの事だった。
一月半ばの出撃で最初の犠牲者が発生し、そこから春の三月で現部隊長のアイリスディーナを含め、ほぼ隊員が全滅して部隊は解散した。マリが向かう時期は、最初の犠牲者が発生した直後の出撃である。
当然、普通に考えれば無茶な話だ。何処かで全員を監禁すれば話は早いが、それではその世界の秩序を乱してしまう。この課題に対する文句が、アウトサイダーに浴びせられる。
「春までに誰一人欠けることなく守れだぁ? なに無茶なことを抜かしてやがる! この黒目野郎! テメェがやりやがれ!!」
ジークフリートが皆を代表して文句を言うが、リーダーであるマリはやる気であった。
「こいつは無視して、やるわ。リストちょうだい」
「てっ、やるのかよ! 二カ月も共産主義者共の懐に居なくちゃならねぇんだぞ! 我慢できるかっての!」
「ジークフリート、決めるのは彼女だ」
「けっ、俺たちの自己主義のマスターが、我慢できるかどうかの問題だな」
そんなマリに同じドイツと言えば、社会主義国に潜伏したくないジークフリートは反対するが、決めるのは自分らのマスターであるマリなので、従うしかないとジグムントが告げる。これに泣く泣くジークフリートが従う中、マリはアウトサイダーから渡されたシュヴァルツェ・マルケンの面々のリストを確認する。
リストは軍事用の紙であり、そこにはこれから編入される者の名や、見覚えのある名前、リィズ・ホーフェンシュタインまである。
「じゃあ、さっそく準備に…」
「待て」
名前を読み上げたマリは、直ぐに出撃の準備をしようとしたが、ジグムントに止められる。
どうやら人選についてらしく、前のように女子供ばかり起用すると思って、自分が人選を決めたいようだ。
「人選については、私に一任して貰おう。拒否するなら、我々は抜ける」
そう脅し付けるようにジグムントが言えば、マリは無言で頷いて承認した。
それから数時間後、ドイツ民主共和国こと東ドイツ、ポーランドとの国境線付近の上空にて、戦術機では無い異界の機動兵器が数機ほど、目的地へ向けて降下していた。
先頭はもちろんマリで、乗っている機体はこの世界を各国政府の注目を集めるようなMS、それもガンダムタイプ、フリーダムガンダムだ。
まるで天使のようで、名前の通り支配者を駆逐し、自由を与えてくれそうなガンダムである。宇宙世紀の性能で例えるなら、U.C120年代並と言えよう。
性能に伴い、操縦性は劣悪で優れた者しか乗れないが、マリはその優れた者であり、一瞬にしてフリーダムを手足のように扱っていた。当然、世界の反応を考慮して量産機に乗るジグムント等は難色を示す。
当のジグムント等は、異世界からの乱入者を予想して高性能量産機であるジェスタだ。
これも興味を引いてしまうほどの性能であるが、異世界から乱入してくる連中が蹂躙しかねない性能を持った兵器を持ってくる可能性があるので、妥当とも言える。無論、空戦に備え、専用のサブ・フライトシステムに乗っての参戦である。
パイロットはジグムントとジークフリート、ジークリンデを初め、五名のドイツ系の男で、合計八機だ。
『現在、第666戦術機中隊はレーザーヤークト中だ。終わるまでそう時間は掛からないだろう』
『了解した。マスター、余り派手にやり過ぎるな。共産主義者や国連軍に見られたら厄介だ』
「…分かってる」
『ずるいぜ、そんなチート級の機体に乗りやがって。そいつに乗るなら俺は…』
『黙ってろ。あれも駄目だ』
VF-25メサイアの早期警戒機型であるRVF-25に乗るミカルより、シュヴァルツェ・マルケンの座標を得たジグムントがマリを注意したが、フリーダムガンダムに乗る彼女に苛立つジークフリートは、VF-31ジークフリートに乗ろうと口にする。
無論、そのバルキリーはフリーダムガンダムよりも高性能であり、使えば完全に注意を引いてしまう。
ちなみに、RVF-25は二人乗りで操縦はリンダがしており、ミカルはレーダー手を務めている。高度はレーザー級のレーザーを避けるため、遥か上空を飛行中。
そんな空からの支援を受けつつ、マリ達はシュヴァルツェ・マルケンの座標へと降下していく。
『レーザーヤークトは終わったようだが、一機暴走している。不味いな、誰か死ぬぞ』
シュヴァルツェ・マルケンの八機の内、一機が暴走していた。長刀を持ったMig-21であり、向かって来るBETAの突撃級を斬り続けている。止めようと一機が近付くが、振り回し続けて近付けない。
そんな長刀を持った戦術機の背後から突撃級が突っ込んで来る。錯乱状態の振り回し続ける戦術機は気付いていない。それに気付いた友軍機は、間に合わないと判断して突き飛ばそうとする。
『突き飛ばした方が死にそうだ』
「大丈夫」
長刀の戦術機を守った友軍機は、突撃級の体当たりを受けそうになったが、マリは正確にその突撃級をビームライフルで狙撃して殺した。
続けざまに周囲に居るBETAの突撃級や要撃級、戦車級を搭載されている全ての火器を駆使して打ち倒していく。
この間にシュヴァルツェ・マルケンの面々の声が無線機より聞こえて来るが、マリは無視して操縦桿を動かし、フリーダムの翼を羽ばたかせながら上空へ飛翔させ、フルバーストシステムを起動、目に見えるBETAを全て照準する。
出来る限りのBETAを照準に収めれば、直ぐに引き金を引いて一度に十体ものBETAを始末した。続け様にフルバーストを行い、周囲のBETAを次々と始末していく。フルバーストを終え、地面に着地する頃には、周辺に居たBETAは焼死体と化していた。