レドモントにあるブッチ医院は裏社会や貧困層など普通の病院に掛かれない人間に取っては最後の拠り所だ。
種族差別をしないことからオークやトロールにも大変慕われている。
あたしが彼女と知り合ったのもシアトルアンダーグラウンドの権利向上運動に対する取材をしていた時だ。
ブッチ先生は明晰な頭脳と広範な知識から医療業界でも定評があり、オークでも構わないと様々な医療機関やメガコーポから勧誘を受けている。
しかし、“オークでも”などと言われて彼女が頷く訳もなく、今のところ彼女は自分のプライドを売り渡すつもりは無いようだ。
そんな状態である彼女は常に忙しい。
緊急のオペに診察、最近はCFDと呼ばれる奇病についても研究しているらしい。
このため彼女にすぐ会えるとはあまり期待していなかった。
しかし、意外にも返信がすぐにあり昼過ぎであれば会えるとの連絡があった。
そこであたしはブッチ 医院にすっ飛んで来た訳だ。
もちろん、ナイトエラントから受け取ったナノマシンのサンプルをもってだ。
ブッチ医院につくと野戦病院のように様々な怪我人や病人でごった返していた。
そんな中受付にいるトロールの女性にアポがあると告げ応接室に通される。
診察をうまく切り上げたのか少し待つとブッチ先生がやってきた。
「待たせたね。悪いんだけど余り時間がなくてね、簡単に状況補足を貰えるかい。」
概要はすでにメールで連絡済みだ。
ARゲームのデータも送っている。
「ご意見を戴きたいのは二点です。」
あたしは今回の事件で起きている事がナノマシン由来でCFDと似ているのではないかと言う推測を資料を交えて説明した。
そもそも、CFDについてあたしに教えてくれたのが彼女だ。
「それについてはナノマシンを解析しないと何も言えないね。
ただ、そうなるとCFDは人為的に引き起こされている可能性が出てくるわけか。」
ブッチ先生は少し疲れたような声だ。
もう一点はARゲームの謎のコードだ。
「これは簡単さ。シムセンス信号を出させるコマンドだね。」
「ARゲームでシムセンス信号ですか? 効果があるのですか?」
ブッチ先生は嫌なものに触れるように話す。
「普通のシムセンス信号なら現実との齟齬から違和感を感じる現実的な刺激は与えられないね。
でもBTLグレードなら別さ。
現実の刺激を塗り替えて違和感を押しつぶせる。
ただ、こんなことをすれば対象はあっという間に廃人だ。」
嫌なことに気がつく。
すぐに人を廃人にするARゲーム。
麻薬が裏社会でビジネスになるのは中毒者から長く金を搾り取れるからだ。
それを廃人にしていては仕方ない。
「と、なるとこれは何かの実験でしょうか。」
「だろうね。あたしはこのARゲームのシムセンスのコードと似たコードを見たことがあるよ。
ウインターナイトが使っていた洗脳用BTLアセンションとよく似ているね。」
ウインターナイトはクラッシュ2.0の原因となった終末カルトだ。
C5の捜査により組織は壊滅し生き残りも指名手配されている。
その残党の仕業なのだろうか。
「これを使って実働要員を確保して何か仕掛けようとしているのですかね。」
ブッチ先生は肩をすくめる。
「そこまでは判らないが、この方法で人を集めても実働させられる期間は限られているよ。
すぐに仕掛ける何かの為に人を集めているか、予備実験だろうね。」
どちらにしても平和な話にはならないだろう。
あたしは先生に礼を伝え病院を後にした。
サンプルの解析結果は今日中には貰えるらしい。
情報が揃った時点で動くための準備を進めよう。
どうやら、時間はあまりないようだ。
CFD
資料が多すぎるので詳細は下記サイト参照。
概要
http://shadowrun.html.xdomain.jp/SR5/srhis.htm
詳細資料
http://shadowrun.html.xdomain.jp/SR5/CFD.htm
ウインターナイト/
組織内容は『Threats』より出典。
クラッシュ2.0にまつわる事件は『System Failure』より。