祭りの朝
空はまるで万華鏡のように様々な色の光が乱舞している。
よく見るとその光はそれぞれが0と1の文字である。
その空を覆い尽くすような巨大な水晶の樹がそびえ立ち存在感を放っている。
突然水晶の樹は砕け散り乱舞する光に紛れ込んでゆく。
そのうち大きな欠片が空を舞うみつ首の竜に当たり竜までもが砕け散る。
そして、欠片は混ざり合い溶け合い視界すべてが万色に支配されていく。
その色彩は混ざり合い整い天高く飛ぶ戦乙女達の姿に集積していく。
耳には勇壮なるワルキューレの騎行が響き渡る。
ワーグナーのワルキューレの騎行。あたしが目覚ましとして設定している音楽だ。
そこで目が覚めた。
「おはようございます。ミスダニー。ただいまの時刻は2075年2月7日。7時です。」
あたしの目覚めに同期して立ち上がった生体ペルソナの指示で室内システムが挨拶を述べる。
何か変な夢を見た気がする。
「天気は晴れ。昨日の雪の影響で足元が悪い可能性がございますので、お召し物にご注意ください。」
そう言えば昨日は珍しく雪がふった。
温暖なシアトルでは珍しいことだが皆無ではない。
それに積もらずやんでしまった。
せっかく雪が降ったのだから積もれば良かったのだけど。
「本日は9時からタコマ区長ウイリアム・ダッフィー様にリメンバーデイについてのインタビューです」
リメンバーデイは激怒の夜を忘れないようにと昨年ウイリアムの就任と共に設定されたタコマ地区の祝日だ。
元々ウイリアムはメタヒューマン人権活動家であり、あたしも様々な活動で一緒に仕事をしたことがある。
良く言えば真面目な活動家であり、悪く言えば融通の効かない理想主義者だ。
彼は親メタヒューマン組織とシアトルのメガコーポであるフェデリットボーイングの支援により、現在の地位を得た人物だ。
この為親メタヒューマン政策を期待され期待通りの対応をしている。
あたしとしては明るい未来に乾杯と行きたいところだけど、厄介なのがシアトル市長ブラックヘイブンだ。
ヒューマニストポリクラブの幹部である彼は親メタヒューマン政策が面白い訳もなく前任のタコマ区長の頃に行政府として投下した資金の引き上げや優遇政策の撤廃を行いタコマ経済に寒風を吹き込ませている。
人は自分が飢えていても構わないから皆の幸せをとはなかなか言えない生き物だ。
すると必然的に効率的な重商主義となり現状ではブラックヘイブンへの迎合となりかねない。
特に前職が経済政策には成功し人口の増大を起こした結果、住人間のトラブルが増え重商主義に嫌気が指していた面も否定できない。すべての問題が片付く魔法のスイッチが本当に欲しくなる。
「12時よりご友人のミーシャ・ケリー様とお食事の予定です。」
あたしはインガソル&バークレーのシアトル工場で生産された新鮮な合成ハムエッグとパンの温めをクッキングマシーンに指示しシャワーを浴びる。
ジェレミーとは旧知の仲とは言え礼儀は守らねばならない。
今年の最新モデルのヴァッションアイランドブランドのエーシズ・オブ・コインだ。
ブラチナの糸で黒のジャガーノートを現し、ゴールドをアクセントに入れている。
可愛すぎず渋すぎない良いバランスだ。
あたしは鏡に映した自分の姿に満足しちょうど出来上がった朝食に向かった。
ジューシーなベーコンにふわとろの卵焼き、サクッと焼けたトーストができている。
これがオキアミタンパク質から作られてるとはとても面白い。
天然素材にこだわる人はいるが個人的に栄養価と味が変わらなければ、簡単に手に入る方が良いのではとつい考えてしまう。
そんなことを考えながら食事をすまし愛車フォードアメリカーを一路タコマ地区へと走らせた。
ウイリアム・ダッフィー/William Duffy
『Seattle Sprawl Digital Box』より。
『Seattle 2072』ではフランチェスカ・シップル(Francesca Sipple)が区長を務めていたため、作中のような設定をでっちあげました。
サプリにも詳細はありません。
ミーシャ・ケリー
オリジナルキャラ。
インガソル&バークレー/Inersoll Andより。 Berkley
『Seattle 2072』より。
世界的な大豆生産企業。
ヴァッションアイランドブランド/VASHON ISLAND
『アーセナル』『ラン&ガン』より。
シアトル発祥のファッションブランドで現在はシアワセの傘下にある。
ちなみにシアワセの北米本社はシアトルのタコマ地区にある辺りが色々なシガラミ。
ジャガーノート/JUGGERNAUT
『Howling_Shadows』より。
体長16.5mの巨大なアルマジロ。
衛星から追跡して人里に近寄らないようにしているとか。