シアトルアイショット   作:CanI_01

17 / 90
デイリーインタビュー

フォードアメリカーの運転をグリッドコントロールに委ねると風景を眺めながらARディスプレーにメールボックスを展開する。

VRの方が作業効率は良いのだが、周囲の風景を見ながら作業するのがあたしは好きだ。

静かに5号線を南下していく。遥か遠方では雪化粧のレーニア山が噴煙をあげ幻想的な雰囲気を醸し出している。近くに目を向ければ視界の隅をアズテクピラミッドやエイク、シータック空港が流れていく。

そして、ビルの谷間を抜けていくと急激に周囲の建物の高さが低くなる。

ダウンタウンを抜けてタコマに入ったのだ。

 

タコマは元々周辺の潤沢な木材を伐採し加工する事に端を発する都市だ。それだけに加工業の街としての色合いが強かった。加工業にとって今の世の中は逆風ばかり吹き荒れている。ナノテクによるホームファシリティや安い海外製品など理由を上げれば際限ない。必然的にタコマの景気は落ち込む一方だった。そんな街が変化をしたのはここ10年ほどのことだ。

ウイリアムの前の区長であるフランチェスカ・シッブル女史は加工業に頼るタコマからの脱却を計った。

撤退した工場の跡地を住宅地として再開発を行い人口増を進めたのだ。確かにダウンタウンと隣接する立地であり潜在的なニーズはかなりのものだった。

また、ショッピングセンターの誘致や大気汚染などの公害対策やヤクザ対策にも力を入れ住みやすく訪問しやすい都市を目指し精力的に活動した。

その効果はそれなりにあったものの急増した住民と元からの住人の軋轢や犯罪率抑制の圧力によりタコマのナイトエラントへの隠蔽体質の強化など歪みが現れ前回の選挙で現職に敗北した。

ところが現職の親メタヒューマンスタンスがシアトル市長ブラックヘイブンと対立し経済状態は悪化。

半端な犯罪者対策とナイトエラントの隠蔽体質により見かけ上の治安の良さと実際の急激な治安悪化の影響は市民生活に様々な影響が現れている。

 

頭の中で状況を整理してみたが今日のウイリアムへのインタビューはあまり楽しいものにはならないだろう。

できれば、リメンバーデイの話を中心にきな臭い政治の話は少なめにと行きたいところだ。

 

そんなことを考えているとフォードアメリカーは目的地のタコマ区庁舎に到着する。

区庁舎は昔ながらのレンガ風の建造物で落ち着いた雰囲気を纏っている。

近くのパーキングに車を入れ徒歩で区庁舎へ向かう。

快適な温度の車から降りると身を切る寒さが堪える。春はまだ遠い。

受付で名乗れば慣れた物ですんなり会議室に通される。

 

会議室はタコマ産の木材で作られたデスクを中心に落ち着いた設えになっている。

 

「待たせたね、ダニー」

 

壮年のヒューマン男性が穏やかな微笑みを浮かべながら入ってきた。

この微笑みにやられた女性有権も多いらしい。

ウイリアムだ。

彼も今日はヴァッションブランドのスーツに見を包んでいる。

昔はモーティマーオブロンドンを好んでいたが政治家となると色々なシガラミがあるのだろう。

 

「あたしが早く着すぎただけよ。昔からお祭りの前の日は寝付けないのに朝は早く目が覚めちゃうのよね。」

 

ウイリアムは苦笑いを浮かべる。今日に限らずイベント事の度にあたしが早く来ていた事を思い出したのかもしれない。

そして、ウイリアムに続いてオークの女性が入ってくる。

カスリーン・シャードだ。

オークアンダーグラウンドを公的に認めさせる為の活動のなか亡くなった女性ヘレン・シャードの娘で今はシアトルアンダーグラウンドの区長を務めている。彼女もウイリアム同様様々な活動を通して面識がある相手だ。

カスリーンことキャシーは日本帝国の新鋭デザイナー中村のロックブラッドラインのスーツを身に着けている。

オークの身体特徴を活かすを売り文句にしたブランドであり、彼女が身につけるとマニッシュな魅力が際立たせる。

 

「あたしも参加させてもらって良いかしら?」

 

あたしは微笑みを浮かべる。

駄目な理由などどこにも無い。

 

「もちろんよ、キャシー。リメンバーデイの来賓として来てるの?」

 

「ええ、そうよ。区長で参加するのはあたしだけみたいね。」

 

三人で顔を見合わせ苦笑。

政治の世界で親メタヒューマン主義はまだまだマイノリティだ。

 

「ま、無いものネダリしても仕方ないし、インタビューさせてもらっても良いかしら。基本的にはリメンバーデイの話をして、少しだけ政策の話もさせて頂戴。」

 

少し困ったような顔のウイリアムと心配そうなキャシー。二人共現状は良くわかっているらしい。

そして、三脚に載せたカメラをセットする。もちろん、コンタクトレンズを使ってあたしの視界も録画中だ。

 

「皆さんおはようございます。ダニー・ウエストです。本日はシアトルのタコマ地区で行われますリメンバーデイに合わせて放送させていただきます。

まずはリメンバーデイの発案者でもあるタコマ区長ウイリアム・ダッフィーさんと、同じく実現に向けて協力されていたシアトルアンダーグラウンド区長カスリン・シャードさんです。

よろしくお願いいたします。」

 

二人共素敵な微笑みを浮かべうなずき返してくる。

もちろん、あたしの微笑みも20%増量だ。

 

「まずはリメンバーデイについて教えていただけますか?」

 

ウイリアムが頷き口を開く。

 

「実はリメンバーデイに類似した激怒の夜の慰霊祭はマザーオブメタヒューマンで昔から実施されていました。

私もシャード区長もそれらの活動には昔から関わってきていました。

ところが慰霊祭と言うイベントの性質上反省であり過去の事件への追悼の色合いが強くなってしまいます。

ですが、タコマ地区では、この狂乱の夜に襲われている人々を助けるために立ち上がった人々が無数にいたのです。

そこで、過去の反省でけではなく、偉大な先人の業績を忘れないためにリメンバーデイと言う名称のイベントと祝日を提唱させていただきました。

また、激怒の夜からすでに40年近く経ち実際に体験された世代の方にも亡くなられていく方も増えています。今この経験を継承し記憶しなければならないと強く考えているのです。」

 

誇りと反省の両立は難しい。特に政治が絡むと特にだ。その難しい舵取りにあえて挑むスタイルはいつも感心している。

 

「素晴らしい理念の行事であるも感心いたしました。シャード区長もこの件には深く携わっているとお伺いしておりますが、どのような経緯なのでしょうか。」

 

「ダッフィー区長のおっしゃる通り私も様々な活動を共に行ってまいりました。

最近とみに感じるのはアンダーグラウンドが行政権を獲得し書類上の平等こそ獲得しましたが心理的な平等はまだまだ先の話です。

それはメタタイプ差別と言うシンプルな話ではなくアンダーグラウンドの住人が地上と地下と二分法的な考え方をしていることも一つの原因と言えます。

このため従来の被害者と加害者の関係に根ざすのではなく共に生きる仲間としての関係を構築できるイベントは大歓迎なのです。

将来的にはアンダーグラウンドも足並みを合わせてイベントに参加させていただきたいところです。」

 

足並みを合わせてと言えば今回参加してる人もいたような。

 

「共にシアトルで生きる仲間としての意識が育っていけば良いですね。

そう言えば、今回のパレードの警備にはアンダーグラウンドの警察機構を担われているスクラーチャーの面々が参加されていると伺いましたが。」

 

苦笑を浮かべたウイリアムが口を開く。

 

「おっしゃる通りタコマ地区が警備スタッフとして雇わせていただきました。

今回に限らずですがメタヘイト組織の妨害を想定しなければならない状況の為、思想的な選別が必要となりました。そこで信頼がおけるスクラーチャーのメンバーをシャード区長に紹介いただいたのです。」

 

「確かに偏った行動をせず的確に動けるスタッフは貴重ですから調整の大変さは想像できますね。」

 

少しいたずらっぽい笑みを浮かべたキャシーが続ける。

 

「今回の警備にはスクラーチャーのメンバーだけめはなく取りまとめ役としてマトリックスセキュリティコンサルタントも入っていただき運用の効率化も計っているのですよ。」

 

普通に聞けば単なる万全のセキュリティのPRだが、コンサルタントはあたしがかつて大変お世話になったデッカーの彼だろう。

後で何か理由をつけて会いに行こう。

キャシーよ、そのニヤニヤ笑いはやめろ。

 

「セキュリティデッカーの存在は運用効率が大きく変わるところなのでシャード区長の調整には頭が下がります。」

 

「せっかく様々な人の協力で実現したパレードだからね。できれば楽しんで欲しいものさ。」

 

そうそうパレードの紹介をしないといけない。

 

「パレード自体は11時からチャールズローヤー駅を出発しクライングウオールモニュメントを目指す予定ですね。」

 

「そう。おおよそ一時間僕が先頭に立ってタコマの学生たちと共に行進させてもらうよ。」

 

例年このパレードはヒューマニストに狙われる傾向にある。事故にならなければ良いのだけど。

 

「マーチングバンドを仕立てた賑やかなものですね。楽しみです。

とは言え、現状の経済が冷え込んでいる状態ですと人気取りのパフォーマンスと、呼ばれるのも否定することはできないのが実情です。

その辺りはどのようにお考えでしようか。」

 

その言葉にウイリアムは自身に満ちた笑みを浮かべる。

 

「簡単な問題ですと申し上げる事ができれば良いのですが、そう言えないのが実情です。今はできることを一つづつ行うしかないと考えています。

経済対策として雇用対策を進めています。昨年をゼロとしてそこからの従業員数の増加に対する補助金の配布を進めています。これのポイントは前年比ではなく昨年がゼロ値であるので継続的な補助金の支出により人件費負担の軽減化行えると考えています。」

 

「これで経済的にも人権的に恵まれたタコマになれば素晴らしいですね。

それでは、本日はインタビューのお時間ありがとうございました。

では、視聴者の皆様もまたリメンバーデイでお会いできると幸いです。」

 

そこであたしは録画を停止する。

そして、二人に声をかける。

 

「二人共ありがとう。なかなかに好意的に受け止めてくれてるようよ。」

 

目に見えて安心する二人。

 

「それは良かった。ダニーもパレードに参加するのかい?」

 

あたしは首を横に振る。

 

「あたしはパレードは見る側に回らせてもらうわ。来てる人たちにインタビューもしたいし。」

 

「そう、じゃああなたも楽しんでね。」

 

「ええ、ありがとう。」

 

そして、あたしは再び寒空の下祭りの賑わいを見せ始める街へと繰り出していくのであった。




レイニー山
下記の写真のイメージですが、道路からは見えないような予感もしますよね。
https://twitter.com/sigmas/status/1359323983678562304

フランチェスカ・シッブル/Francesca Sipple
『seattle2072』より。
前任の区長で重商主義を展開した。
また、マフィアと組んで対ヤクザ戦線を展開していた。

カスリーン・シャード/Kathleen Shaard
『Seattle Sprawl Digital Box』より。

ロックブラッドライン/ROCKBLOOD
『The_Complete_Trog』より。
原宿で流行しているオークトロールファッションのブランド。

マザーオブメタヒューマン/MOTHERS OF METAHUMANS
いわゆるメタヒューマン事件団体。
当然ダニーも関係している。

激怒の夜
2039 年2 月7 日に発生した世界規模のメタヒューマンに対する暴動、あるいは殺戮です。
メタヒューマンが2011 年に始めて世界に現れてからヒューマンとメタヒューマンの間には分かちがたい溝がありました。
そして2021 年にオークやトロールが現れ様々な国家はメタヒューマンの隔離政策へと進みました。
この差別政策が緩和される2023 年にはヒューマニスポリクラフが成立します。彼らは曲がりにも政治結社ですが2036 年にはテロ組織アラモス20000 が犯行声明を出し1000 人以上のメタヒューマンを殺害します。
この流れが最高潮に達したのが激怒の夜なのです。
荒れ狂うヒューマンの暴徒、暴徒から護るために警察に保護され一カ所に集められるメタヒューマン、そして避難所に火を放つテロリストと見殺しにする警察。
そんな地獄絵図が世界中で展開されました。

スクラーチャー
元はアンダーグラウンドのギャングだが現在は警察機能を担っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。