区庁舎を出ると既に人出は増えておりお祭りの様相を呈していた。
車に乗るかはすこし迷ったが、時間もあるし歩くことにした。天気も良いし歩けば身体も暖まるだろう。
区庁舎からパレードの開始点であるチャールズローヤー駅まではだいたい15分程度だ。
取材をしながら歩くには良い時間帯だ。
それにマトリックスセキュリティコンサルタントとして来てる彼の事だ恐らく現場で指揮を取っているだろう。
見つけたら少し話す時間ぐらいは取れると信じよう。
あたしもシアトルではそれなりに顔が売れていることもあり、インタビューは順調に進んでいく。
中には声をかけてくれる人もいて嬉しくなってくる。
さすがに早い時間から参加している人達だけあり比較的リメンバーデイに好意的な人が多い。
後はパレードの撮影をするために鬼気迫る雰囲気でカメラのセッティングをしている人たちが多数。
ドローンの飛行にはどうしても制限を課されるために撮影するのは昔ながらのカメラが主流となっている。
プロ顔負けのカメラを用意している人も多々いる。
パレードの参加者が今回は近隣の学校の学生であるためカメラマンは父兄が多いが、父兄だけではないのが人の業は深い。
そんなことを思いながら歩いているとお目当ての人物を見つけ出せた。
老年のオーク男性で年代物のデッキを背負っている。
スーツの上からトレンチコートを羽織りさながらトリッドの中の私立探偵のような居住まいだ。
短く刈り上げた灰色が混ざり始めた髪とARグラス、鋭い牙と言う外見はなかなかに迫力がある。
とは言え、あたしは彼が紳士的で理知的な人物であると知っているし、何度も命を救われている。
思想的な部分や正義と言う言葉の光と影、そしてハッキングなど様々なものを彼から教わった。
心から尊敬するあたしの師匠、ウイリアム・マカリスターさんだ。仲間内ではその恵まれた体格と目的を達成するまで止まらない力強さからブルと呼ばれているらしい。
「マカリスターさん!」
しかめっ面をしながらマトリックスと物理世界を監視するマカリスターさんに声をかける。
彼はミラーシェード型のARグラスを軽くずらしあたしの方にジロリと視線を向ける。
気の弱い人物ならとりあえず謝って逃げるレベルの迫力だ。
「おう、ダニー嬢ちゃん。仕事か?」
朗らかな、見る人に寄っては凶悪な、笑みを浮かべマカリスターさんは話しかけてくる。
「半々ですかね。メインのインタビューが今終わったところです。」
納得顔のマカリスターさん。
「ああ、キャシーのインタビュー相手は嬢ちゃんだったのか。それで変な顔してインタビューに行ったのか、あいつは。」
肩をすくめる。
「そういう訳です。後はパレードを取材半分遊び半分に眺めてお友達に合流ってとこですかね。」
「良いバランスだな。何事ものめり込み過ぎると良くないからな。」
マカリスターさんは先日のアンダーグラウンド関係のゴタゴタで娘さんを亡くしている。身内としては政治的に負けても生き延びて欲しかっただろう。
ましてや、あんなに魅力的な女性だったのだから。
「ありがとうございます。マカリスターさんは一日中立ちんぼですか?」
「スクラーチャーズの連中は老いぼれオークを休ませるつもりはないらしくてな。
まあ、うまく行けば夕方には終わるさ。」
夕方に終わるなら夕飯を誘えるのでは。
それとも打ち上げでもあるのかな?
「じゃあ・・・」
その時だ。猛スピードでトヨタゴファーが歩行者天国になっている道路に突っ込んでくる。
ナイトエラントも、今来るとは考えていなかったのか完全に突破されている。
マカリスターさんがマークを付けて制圧する時間はない。
ならば時間を作り出す!
あたしは意思の力を総動員し共振力を通しゴファーに命じる。
全力でブレーキを踏め、と。
あたしの共振力に糸に従い凄まじいブレーキ音を立てながらゴファーは停車する。
だが、即座に再加速をしようとする。
この、加減速が明暗を分けた。
魔術師的な手際でゴファーの支配権を掌握したマカリスターさんのおかけで車は止まり、先程突破されたナイトエラントが汚名返上とばかりに車に駆け寄っていく。
こちらはもう問題はないだろう。
「助かったぜ、嬢ちゃん。」
あたしは強い倦怠感に耐えながら笑みを浮かべる。
「間に合って良かったです。それにマカリスターさんの腕があってのものですよ。」
苦笑するマカリスターさん。
「ありがとよ。この借りはいずれ返す。じゃあな。」
そしてマカリスターさんは車に向かう。
あたしはその背中を見送り疲れた身を休める為にお店を探すのだった。
チャールズローヤー駅
現在のタコマドーム駅。
リフォームしてヘリポートやVTOLが離陸できるようにしたときに駅名を1980年代のシアトル市長の名前にであるチャールズ・ローヤーに改名された(らしい)。
"ブル"ウイリアム・マカリスター
今代最高のデッカーの一人。ジャックポインター3人の管理人一人
『スプロールワイルド』より。
トヨタゴファー
日本が誇る自動車会社トヨタの軽トラック。
第六世界ではトヨタはクライスラーニッサンの傘下に入っている。
ダニーの行動
共振力能力でパペッティアを使用しています。