あたしはとりあえずその辺のコーヒーショップに腰を落ち着けることにした。
人通りが増えているとは言え、この時間だ、比較的空いた店内は静かにコーヒーの香りが漂っている。
シアトル系のコーヒーショップも時代の変化と無縁ではいられない。
誰でもコーヒーを楽しめるるようにソイカフェで本物の味を目指すショップと昔以上に高級になったコーヒーを出すかだ。
あたしが入ったのはソイカフェに舵を切りながらも本物も扱う店だ。
少し迷ってからソイカフェを頼み休憩がてらレポートをまとめる。
一時間程度コーヒーを楽しみのんびりレポートを作る。
その間にマカリスターさんから連絡があるかと思ったが、それもなくあたしは諦めて当初の目的地であるチャールズローヤ駅を目指して歩くことにした。
人通りも増えており、チャールズローヤ駅に近づけばその人々は更に増えていく。パレードの出発点である以上当然だろう。
チャールズローヤ駅はかつてタコマ駅と呼ばれていた場所だ。
タコマ駅はタコマ地区のハブ駅として機能こそしていたものの特筆すべきことはさほど無い駅だった。
ところがデンバー条約に伴うシアトル特別区編成に伴いこの駅を大幅改築したのがチャールズローヤ駅の始まりだ。
元から南北に走る弾丸特急の停車駅でもあり、これにヘリポートやVTOL機の離着陸ポートを増設。
更に近隣にあるシアトルの玄関口たるシータック空港との関係強化。
これらの改革によりタコマの玄関口からシアトルの、いや、北米の玄関口として生まれ変わったのだ。
合わせて駅名も地区名であるタコマから1980年代のシアトル市長の名前であるチャールズローヤに変わった経緯がある。
建物は1930年代の駅舎を模して作られており重厚な石造り風の外観に内部は大理石の床、アーチ状の天井もシアトルの玄関口としての存在感を主張している。
と、言う辺りが観光雑誌の受け売りだ。
確かに印象的な建物だけど、他に力を入れることはあったのではないたろうか。
すでに駅の前の広場にはパレードの参加者かすでに集まり隊列を整え最後の確認を行っている。
その中には当然ウイリアムとキャシーの姿もある。
その近辺には他の地区の代理人が参加者として手持ち無沙汰にしている。
屋台を冷やかしながら雰囲気を楽しむ。
楽しそうに屋台で買い物をしている家族もいれば、少し迷惑そうに群衆を避けるビジネスマンもいる。
皆に喜ばれるようなイベントは難しいが、概ね楽しそうにしている。
参加者の中にはあたしを知っている人もいて声をかけてくれる。
もちろん、あたしの番組のリスナーはこのイベントにも好意的だ。
軽くそんな相手にインタビューをしているとパレード開始の時間になった。
ウイリアムが簡単にスピーチをしてパレードは動き出す。
タコマ地区各所の学校のマーチングバンドが音を高らかに鳴り響かせ観衆、その多くは参加者の家族だろう、は拍手やカンセイデそれに応じる。
ここからおおよそ一時間に渡るパレードの始まりだ。チャールズローヤ駅から出発し、区庁舎の前を抜け南のクライングウォールまでを賑やかに練り歩くのだ。
マーチング曲は有名な曲が中心だが今日の趣旨も踏まえてオークロックやレクイエムなどあまりマーチングでは耳にしない曲も演奏されている。
演奏している学生達は練習が大変だったことだろう。
このまま何事もなく終われば素敵な一日だったと締めくくれるのだけど、恐らくそうはならないだろう。
複数のヒューマニスト系政治結社からの犯行声明が出ている。
もちろん、そこまで踏まえてのナイトエラントとスクラーチャーの合同警備だ。
取りまとめ役にマカリスターさんがいることもあり大きなトラブルも出るとは考えにくい。
だけと、世の中はそこまで甘く無いらしい。ちょうど区庁舎を過ぎた辺りで違和感を感じる。
今までパレード全体を囲むように安心感のある通信の行き来があったが急にそれが遠のいた。
電子戦を仕掛けられているといった印象もない。
何かの段取りミスだろうか。
同刻 タコマ区庁舎前
「ナイトエラントの配置がおかしいな。」
区庁舎前でマトリックス防御と総合指揮を取っているブルがボソリと呟く。
「こちらナイトリーダー。ナイト3よりパレードのルートがおかしいと報告があった至急確認対応されたし。」
ブルは忌々しげに舌打ちをすると静かに恫喝するように回答する。
「こちらブル。パレードは予定のルートを進行している。ルートと合わないならおかしいのはそちらの配置データだ。
正式データを送る。至急配置の確認及び対策を頼む。
こっちも動かせる人員を動かす。」
マイクの向こうでは慌ただしくナイトエラントが動く音がする。
初動の出遅れをリカバーすることはできまい。
「お散歩騎士団め。配備情報を書き換えられたな。
舐めて仕事してるからハッキングされるんだ。
わざわざ、パレードのこのポイントの警備を剥いできた以上何かの仕掛けがあるのか。」
お散歩騎士団ことナイトエラントは定期間隔で屋上に配置し上空のカバーと広域の不審者対応に当てていた。
地上にはスクラーチャー含めて相応の人員がおり今の所問題には対処できている。
「なら上からか。
こちらブル。かぎ裂き遊撃隊はポイント7に急行。
周辺警備と共に上空に警戒。現在ポイント7の頭上警備は存在しない。」
スピーカーからは勇ましい了承の掛け声。
どうやら、騒動が起きなくて退屈していたようだ。
電子戦に備え現場に向かうべきか。
陽動であればさらなる警備の穴になる。
一瞬の逡巡。
ブルは即座に先程出逢ったパワフルなレポーターにコールした。
チャールズローヤ駅
『Seattle2072』
内装などの詳細は創作。